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発達臨床-人間関係の領野から-

NO.11

第8章 人間関係発展の臨床技法

1.発達臨床における関係技法

 発達臨床は、子どもだけを対象とした治療技法を展開するのみでは、その目的は達成されない。それは、子どもが、被治療者(患者)としての自覚がもてず、治療関係への自主的に動機づけられた参加をなし得ないという意味ではない。関係的存在である子どもの治療においては、子どもをつつむもの、子どもと関係のあるもの、特に子どもの両親や家族など身近な人、あるいは、子どもの生活を支える物との諸関係へ働きかけ、それを発展させる技術が確立されなければならない。
関係を重視してすすめる発達臨床の立場からは、基本的には、個人における性質(たとえば障害別など)にまず焦点を当て、そこから治療を展開することはしない。どの子どもも、その存在において‘関係を結ぶ’という基本的条件を満たしているのだから、“関係の発展に参加して、その発展を促進するのに必要な個人への要求にこたえて新しく機能を発揮していくことの可能性”を見とおしてそこに働きかけることから指導を展開するという考え方に根ざしている。そのために“関係の発展に必要な条件が関係自体に用意されることをめざし、そのためにどのような条件を整えることが必要なのかを洞察して、その発展が可能な状況の設定”が、治療関係とか療育の充実というかたちで行われるのでなければならない(松村、1969)。たとえば、身体的に医学的な治療や訓練が必要な場合においても、それは、関係の発展に参加して、その発展を促進するのに必要な個人への要求であり、関係からの離脱や疎外が、やむをえず意図的になされているようにみえる治療状況においても、そのことは考慮されなければならない。子どもの問題や障害は‘関係における問題や障害’であり、関係の発展に必要な条件は、個人の側にではなく、関係自体に用意されることが求められる。そのために整えることが必要な条件とか、その発展が可能な状況の意図的設定が、関係技法と呼ばれるものであり、状況におけるかかわり方の形成・発展をもたらそうとするものである。
本章で述べる関係技法は、関係学を基礎理論として発展した心理劇的方法によって意味づけられ、用いられている諸技法のことである。松村は、“心理技術は、自己(Self)・人(Person)・物(Object)の関連体系としての人間の、活動が、成立・展開・発展する場面状況を意図的に設定する活動である”と述べ(1977)、治療場面において、その子どもの必要とされる関係(自己との関係・人との関係・物との関係)が意図的に用意され、関係の変化、発展が体験的に把握されていくことがめざされているとしている。
第6章、第7章でも、大きな体系においては、「心理劇法」「行為描画法」という治療技法をあきらかにしながら、そのなかで多くの関係技法が紹介されている。関係技法は、臨床の領域のみならず、教育、看護、集団活動などの領域において、臨床技法、教育技法、看護技法、集団技法として、それぞれの領域の特色を際だたせながら発見、活用されてきた。もともと人間関係技法とは、太吉の昔より営々と築かれてきた人間関係の至福の状況は何かを洞察し、それを、いま、ここに、新しく創出することをめざすとも言える。その意味では、人間関係に関する技法には、広汎な人間関係の改善と変革に通ずる原理が求められると考える。

2.関係技法の実際

~臨床者養成の途上にて~

(1)心理劇的臨床者養成法(スーパービジョン)

 さて、どの立場でもそうであるが、ある方法を把握し活用することができるには、そのための養成が必要である。ここにあげる関係技法の実際は、大学に付設している臨床施設において、臨床者を志す大学院生がある臨床事例に参加してスーパーバイズを受けながら、その事例の展開過程を分析・考察を行う過程で「関係技法」として意味づけたものである。
つまり、臨床事例の経過とスーパービジョンの過程が同時に進行しながら経験されたものである。スーバービジョンとは、いうまでもなく、初心者の臨床者が、経験の豊かな臨床者から援助や指導を受けることであり、それぞれの臨床法のオリエンテーションによって、その扱い方を異にするが、ここで述べるのは、心理劇法をべースにした臨床とスーパービションの1ケースである。ただし、すべての心理劇的臨床者の養成がこのように行われるというわけではない。いくつかの点でこのケースに独自の条件をもつ。ひとつは、主セラピストとクライエントたる子どもの両親との間に、すでに深い信頼関係が結ばれていて、大学における臨床者の教育に理解があり、両親特に父親が、子どもの治療および養育の基本的な方法として心理劇的なかかわり方を選択していること。ふたつは、学生が、臨床心理学の理論学習を含め、個人セラピー、グループセラピーの実習も積んできていることとあわせて、心理劇の専門的なトレーニングの途上にあることなどである。
心理劇的な状況においては、そこにスーパービジョンの目的があったとしても、「スーバーバイズする」「される」という関係はない。心理劇的な状況の発展が機能的な役割の分化をもたらす。心理劇の役割については、第6章に述べられているので参照されたい。この事例においては、主セラピストは、監督的役割をとり、スーパービジョンを意識して、どちらかというと状況の構造的枠組みが、参加している人に意識化されるような配慮がめだってとらえられるかもしれない。子どもは演者的役割、そして父親あるいは母親、ときには兄弟や他の学生も同席して、演者的役割や、観客的役割を必要に応じて随時とりながら参加していた。この学生の課題は、演者としての子どもの自発的な活動や気持ちに即しながら、しかも監督の設定する場面の意図する方向を察知して、行為として体現するという補助自我的役割の責任遂行であり、臨床者としても養成の大切な時期にあった。
実は、この学生とは私自身のことであり、スーパーバイザーは松村康平先生である。引用する事例としては、人間科学において理論も技法も著しく進歩している時代にあって、いささか古いのではと思われるかもしれないが、次の理由により、本章を設けることにした。
事例に登場してくるL夫は、当時(1960年代)5歳であり、父親の「重い情緒障害……医師も珍しい子ども、始めてみた。と……」という言葉が残っている。私は臨床者としては2年ほどのかかわりであったが、現在は成人して社会人となっていて、ある時期より10数年以上の長期にわたり、本人も父親も、それぞれの動機と関心を持続させて心理劇の会合(日本心理劇協会:松村康平会長)へ参加しその造詣を深くしていっている。そのことに心からの敬意の念を覚えるのである。土屋明美は、その間ずっと、臨床者としてあるいは心理劇の補助自我としてかかわり続けてきているが、L夫とのかかわりの経過を「事例」と呼ばず、研究における「課題提供者」と呼ぶ姿勢を固持しながら、L夫が参加している心理劇・集団心理療法の過程および実生活における行為の変容を考察し、研究発表をしている(1991)。私も、年に1~2度、心理劇の会で一緒に学び、「武藤さん、今日は面白かったですね」などと呼びとめられることもあり、共に育つという事実を実感するものである。臨床者としてのエリクソンが、臨床の場にあらわになる“人間性の歴史は個人の人生周期(ライフサイクル)の巨大な新陳代謝である”と述べている(1982)ことは、臨床者とクライエントと呼ばれる立場にある人、あるいはスーパーバイザー、スーパーバイジーとの関係自体の時間の流れに置き換えて言うこともできる。第6章、第7章は、縁があって私がスーパーバイズをさせていただいたケースであるが、見ようによっては、本章を加えて、この‘関係のライフサイクル’が巨大でなくとも、発達臨床の領域における‘新陳代謝’の役割を果たしているだろうかと自問するところでもある。ともあれ、本章では、とかく人間の発達のある一時期にしか焦点を当ててみることしかできない発達臨床の臨床者に、土屋の論文とあわせて、長期的な視点に立った人間理解のあり方の出発点が提供できればという意図もあるが、心理劇的臨床者の養成と関係技法の修得に関しては、現在にも通じる重要な骨格としてあるので、発表された論文(武藤、1971)のうち、技法の記載はそのままに、他は修正を加えて次に紹介をする。
なお、文中で、T1は、スーパーバイザー(主セラピスト、監督的役割)、T2は、スーパーバイジー(副セラピスト、補助自我的役割)を指す。T3…は他のセラピストあるいは学生である。

(2)技法と実践

1)対人関係形成技法 -物の機能を生かして-
ある子どもL(5歳、男児)は、対人関係では、たとえば治療者が手をつなごうとするとふりほどく。このことは、父母との関係でもしばしぱみられる。ふりほどきながら、大声で叫んですわり込んで手をつなぐことをいやがる。対物関係では、ある特定の物とのつながりが強く、新しい物とのつながりの成立が困難である。このように、対自己関係は発達していても、対人関係・対物関係の発展がもたらされにくい状況で、対人関係・対物関係の発展可能性に焦点をあててどのような技法を展開することができるだろうか。

技法1
(定義)子どもが、対人関係から離脱する傾向にあり、対人関係的基盤がつくりにくい状況にあるとき、治療者が子どもの対物自発活動を認め、それと同じ活動を治療者が併立させて治療者と子どもの対人関係的同一状況をつくりだし、のちに治療者の自発活動をそこに交差させることにより、対人関係発展のきっかけを生む技法。
(特性)子どもの対物活動を促進するなかで対人関係の発展をはかる技法である。この場合、用意される物は、分有可能な事物で、しかも、おのおのの事物相互の関連づけを可能にするものがのぞましい。次にあげる例では、4つの連続的技法が用いられている。

(環境設定) 被治療者:L
治療者:T1
用具:木製積木

(内容)

1 (Lはなんとなく円筒を持ちあげる)
(T1も他の円筒を持ちあげる)
(L、円筒をすぐ横にぽとりと落とすようにおく)
T1:ここにおくか
2 T1:よし、これはここにおくか(自分も手に持った円筒をLのおいた円筒の横にならべておく)
(L、足元にあった積木をその横にいそいでおく)
3 T1:よし、今度はあれだ、あれ持ってきてくれ
(他の円筒を持ってくる)
(Lはその円筒を持ってくる)4 T1:今度はこれだ
(自分で積木をとりあげならべる)
(Lは最初の円筒をとりあげ、T1のならべた積木の横におく)
(L、スッと離れてほかのほうへいく)
〈事物定位容認による自己離脱転換の技法〉
事物の定位に関して、それが自分の行為の結果であることが容認されることにより、自己離脱の意味、あるいは機能の転換がもたらされる技法。自己がそこからはやく離脱しようとする状況において、治療者のすでに関係しているものをその場所に位置づけることで、それを経てから子どもの自己離脱の行われるようにする技法である。この場合には、置き場所を指定してそれとの関係を強化する〈特定場所規定関係強化による自己参加促進の技法〉を展開することもできる。
〈類似物併存による対人関係状況同一化促進の技法>
共通性のある物と物との関係を強化することにより、対人関係の状況の同一化を促進する技法。この技法の効果により、Lの物併置活動が促進されている。
〈物関係自発活動容認による対物・対人関係発展の技法〉
Lの対物関係自発活動を認めて、対物・対人関係の発展をはかる技法である。
〈治療者による自発活動交差・自己参加物移動定着による対人関係自発活動階段上昇の技法>
Lの対物自発活動の持続する状態において、他者自発活動をそこに交差させる技法。関係技法においては、関係の発展をもたらす重要な技法である。

技法2
(定義)対人関係遅滞がみられる場合、治療者が子どもの対物自発活動を認め、それと同種類でやや発展した治療者の自発活動を課題志向的に介在させ、問題の解決により子どもの対物自発活動が促され、対人関係発展の基盤がつくられるようにする技法。
(特性)技法1と同様、対物活動が促進するなかで、対人関係の発展をはかる技法であるが、子どもの対物活動が少しずつ高められていく状態において、治療者の設定した課題をのりこえることによって、治療者との関係が結ばれる技法である。この場合、用意されるものは、事物相互の関連づけによって機能的な発展の可能なものであることが望ましい。次の例では2つの連続的技法が用いられている。

(環境設定) 被治療者:L
治療者:T1
用具:すべり台、円筒、ボーリングの玉

(内容)

1 L,3段舞台の上でボーリングの玉2個をうちあわせている。おとす。玉が下へころがる。拾って上からまたころがす)
(T1、すべり台を舞台の上からたてかけ、上から玉をころがす)
(Lもすべり台の上からころがす)

2 (T1、すべり台の下に円筒をお<)
(L、自分のころがした玉が円筒を通りぬけるのを見てにっこり笑い、まわりを見わたす)
〈自発的類似活動併存による対人・対物関係発展の技法〉
く他者設定課題解決による自発活動促進・対人関係発展の技法〉

技法3
(定義)子どもに対人関係自己離脱がみられる場合、固定的連結関係、あるいは領域制限関係を用意してそれを操作することにより、対人関係発展の基盤をつくる技法。
(特性)物の性質を利用し、それに規定されて対人関係的連結をめざす技法である。この場合、用意される物は、固定的連結物、領域制限物であることが必要である。次の例では、2つの連続技法が用いられている。

(環境設定) 被治療者:L
治療者:T1、T2
用具:藤でできている輪

(内容)

1 (T2がLの手をつなごうとすると、にげる)
(T1は、T2とLに輪を持たせ、自分も持つ)
(Lはいやがってにげようとする)
(T1は3者に支えられた輪を強く上下に動かす)
2 (T1は輪をLとT2にかぶせる)T2:いっしょね
(L、まもなく輪をふりほどいてはなれる)
〈物関係共有操作による対人関係連結の技法〉
固定的連結物としての藤の輪を用意して3者に固定的連結物関係を成立させ、その輪を共有・操作し、その関係を維持することにより、対人関係発展の基盤をつくる技法。
〈物関係領域制限による対人関係連結の技法〉
藤の輪が領域制限物としての意味をもち、拡大自己領域を物理的に制限し、他者と同一領域を占めることによって対人関係連結強化のもたらされる技法。その後自己離脱があるが、この場合、対人関係離脱の方向を直接とらず、物関係離脱のかたちをとっていることで、対人関係維持、移動のなされることがめざされている。

技法4
(定義)治療者と子どもの対人関係が停滞していたり、子どもが対人関係の基盤から離脱するおそれのあるとき、その関係を動かしたり、目標を設定してその方向に移動させることにより、対人関係連結強化をはかる技法。
(特性)領域制限物関係から、子どもが離脱しようとする場合などに、ある目標を設定して領域を移動させ、ともにその目標に近づくことのなかで対人関係の発展がもたらされる技法である。この場合、用意される物は、領域制限物などで、目標となるものは、子どもにとって情緒的に近いもの、好ましいものが効果的である。次の例では2つの連続技法が用いられている。

(環境設定) 被治療者:L〔父(F)、母(M)〕
治療者:T1、T2
用具:輪にしたなわ

(内容)

1 (T1、なわとびのなわをとりあげ、LとT2にかぶせる)
(L、いやがってぬけようとする。その動きでなわがひっぱられT2も一緒に動く)
T2:汽車だ。シュッシュッシュ、ぐるっとまわって

2 T1:お父さんお母さん、そっちのほうでトンネルをつくってください
(F、M、立って両手をさしあげトンネルをつくる)
F:ほらL、トンネルだぞ
T2:シュッシュ、トンネルだ
(L、T2の輪がすすみ、トンネルをくぐる)
(L、輪からぬける)
〈領域制限物関係・共通体験による対人関係連結促進の技法>
Lの物関係離脱の動きが物の性質によりそのまま頷域制限物関係移動の動きとなり、それによって同一領域内他者との共通体験が生まれる。
〈領域制限・目標移動・共通課題解決による対人関係連結強化〉

技法5
(定義)子どもに、他者との対人関係発展の基盤が用意されやすくなった状態において、その関係を密接にし、さらに他者との対人関係を結合・操作することによって、対人関係体験を次々につみかさねていく技法。
(特性)他者と関係を結ぶことをいやがらないが、“ただ居る”という状態から、自己と他者との関係を段階的に気づく方向へ変化をもたらす技法である。次の例では、5つの連続技法が用いられている。これは、上述の技法3,4の原理のより複雑、高度化されている技法であり、ある段階までの総合技法の機能を果たしている。

(環境設定) 被治療者:L〔母(M)〕
治療者:T1、T2、T3
用具:藤でできた輪2つ

(内容)

1 T1:T2さん、Lくんと手をつないでぐるっと歩いてください
L:トランプ、トランプ
T1:はい歩いて。お母さんはT2さんと手をつないで歩いてください
L:トランプ、トランプ
T1:さあ歩いてみようか
(T1、L手をつなぐ、2組は舞台の上下を歩きまわる)

2 T1:お母さんたち、Lくんのあとから、うしろからくるのがLくんに感じられるように歩いてください
T2:ヨイショ、高いところにきたね。またのぼるか
(M-T2の組はL-T1の組のあとから行動を言葉であらわしたり、足音を大きくしながらついていく)

3 T1今度は手を代えて歩いて。T2さんたちが前をあるいてください
T2:ヨイショ、今度は、広いところへいきましょうか、お母さん

4 T1はT2-Mのうしろから歩いているL-T1にたいして輪をかぶせる
T1:そのままで、お母さんとLくん、T2さんとT1さんと手をつないで歩いてください
(4者はそのまま歩きまわる)

5 (T1は毛布を使って、トンネル、橋などを設定して4者をわたらせる)
〈技法4の連続技法〉
対人関係が用意されやすい状態にある。技法としては、2人1組にすることの効果および他者自発活動併立の効果がみられる。
ここでは、主として2者関係体験がめざされている。
〈技法4の連続技法〉
2者と他のものという3者体験の行われることがめざされている。
〈2者関係変化・移動体験成立の技法〉
2者関係を固定的にせず、体験の変化をさそう。
〈対人関係交差・対人関係意識化の技法〉
4者関係体験の網の目を明確にすることによって、対人関係の意識化・構造化をはかる。

2)対人関係発展の技法-役割を交差させて-
Lの人間関係の結ばれ方からみると、1者・2者・3者のうち、1者関係的結ばれ方において特にすすんでいるといえよう。自己が、自己自身を発展させることにおいてのみ成長し、他者をとり入れての、他者における自分の成長はみられにくい。自分だけに意味のある言葉を発し、他者の話しかける言葉はくり返しとなる。このような子どもの場合は治療場面に自己(被治療者)と他者(治療者その他)がいて、自己と他者の関係が発展することのなかで、被治療者における自己の役割と他者の役割の分化がなされ、自己の成長のもたらされることが望ましい。そこに人間関係の2者関係的結ばれ方を可能にする役割操作技法が必要となる。

技法6
(定義)子どもの自発性が低い場合や、働きかけられてもそれを受けとめての活動のできにくい場合、子どもの自発性がのびる可能性のあらわれやすいように、直接的にでなく、働きかける技法。
(特性)関係技法において重要な技法である。なにか言わせようとして2者対立的関係を結ぼうとするのではなく、子どもに関して私は知りたい、話してくれるかな、こういうことかしらなどと可能性を示しながら、その関係にかかわっている治療者の気持ち、態度を子どもにあきらかにして、自発性の発動を待つ技法である。

(環境設定) 被治療者:L、母(M)
治療者:T1

(内容)

 (Lはブロック積木をとりあげてつなげている)
(M、近づいて)
M:なあにそれ、ねぇ、なにができたの? え?
(Lだまってすわりこむ)
T1:あまり無理にしゃべらせなくてもいい。なにができたのかなって。なにができたのかな、なにしているのかな
(L、つながったものを高くさしあげながらウーウーという)
T1:なにかな、ひこうきかな
〈関係間接操作による自発活動促進の技法〉

技法7
(定義)子どもにおいて、自己の役割と他者の役割が分化されずにふるまわれている場合、働きかけ手と受け手の役割を明確にし、分化のさそわれるようにする技法。
(特性)補助自我的治療者が、子どもの補助自我としてうしろにつき、2人がひとりの人として他からの働きかけを受けとめる活動の進行過程で、子どもと補助自我との役割の分化がもたらされることにより、子どもの自己の役割があきらかになるところに特色がある。

 (環境設定) 被治療者:L
治療者:T1、T2

(内容)

 T1:T2さんはLくんと2人でひとりです。T2さんの左手とLくんの右手はつながっている。はなしてはいけない。ピタッとうしろにつけて。Lくんが右手を使いたくて出すときはT2さんの左手も出るように
(T2はLの動くのにつれていっしょに動く。L、椅子をはこぼうとして左手でつかみ右手もだそうとする。T2の右手が出てLの左手といっしょに椅子をはこぶ。Lが左手をはなす。T2も右手をはなす。椅子はおちる)
T2:ひろおうかな
(Lの左手が出る。同時にT2の右手も出ていっしょに椅子をおこす。L、すわろうとする。T2もはなれず、ひとつの椅子にいっしょにすわる)
T1:これをあげよう(トランプをさし出す)
(Lの左手は出ない。T2は出そうかどうしようかというふうに、少しもちあげる)
T1:これあげましょう
(Lの左手、T2の右手が同時に出てうける)
〈補助自我回転による自他の役割分化・統一の技法〉
補助自我は、子どもにとって内的世界をあらわす役割であり、もうひとりの自分でもある。補助自我は、子どもの情緒および行為面で一体となって動くことで、子どもの自己(役割のとり方)の拡大がもたらされる。子どもにおいて、自己の役割と他者の役割のとり方が未分化のままであるとき、補助自我がつくことによって、はじめ、子どもの自己の役割が拡大し、他者の役割をとってふるまう司能性は縮小している。その状況で他者と出会うとき、縮小してはいるが、残されている他者の役割をとることの可能性が拡大して、自己の役割と他者の役割の分化がもたらされる。この場合、補助自我は拡大された自己の残されている他者の役割との、子どもにおける自己内統一がもたらされるように、補助自我回転の技法を用いている。

技法8
(定義)働きかけに対して、情緒的には受けとめられる段階から、言語的に受けとめることができ、自己が他者に向かう感情をあらわすことのなかで、自己の役割と他者の役割の分化がもたらされるように、自発的に他者との関係を動かせるようになる技法。
(特性)“受けとめて出る”活動、つまり、ほかの人と自分がいることのなかで自分が自発的にふるまえるようになることをねらいとする。この場合、補助自我的治療者が子どもの両側について、他者に向かう感情を強める役割をとり、次第に子どもおよび2人の補助自我の役割を分化させて、ついには、子どもがひとりで自発的に他者との関係を動かすことができるようにする技法である。

(環境設定) 被治療者:L
治療者:T1、T2、T3

(内容)

1 T1:(母との話をうけて)幼稚園へいったの
L:(ひとりごとのように)ようちえんへいったの
T1:なんていう幼稚園かな、名前は?
L:なまえは? ようちえんいったの(ひとりごとのように)Mようちえん
T1:あ、えっ? なんていうの?
L:(はっきりと)Mようちえん
2 (T1、L手をつないで3段舞台の下に立つ。舞台の上にT2が立つ)
T2:M幼稚園のLくーん
Tl:はーい(といいながらLの手をひっぱって舞台の上のT2のところまでかけあがる)
T2:(Lを両手でうけとめて)MようちえんのLくんがきた。はい、よくきたね(以上をくり返す)
3 T1:今度は、はいっていってから
T2:MようちえんのLくーん
L:Mようちえんの……
T1:あ、ちがう。T2さん、そっち側の手を持って
(Lをはさんで両側にT1、T:3さんが手をつなぐ)
T2:MようちえんのLくーん
T1:はい(といいながら両側でひっぱって、いきおいよくかけあがる)
4 T1:今度は、はいっといってから
T2:MようちえんのLくーん
(T1だまっている)
L:ウフフフフ(しばらくして)はい
(T1、L、T3いそいでかけあがる。Lはひっぱられながらも楽しそうに、次第に自分からもいそいでかけあがる)
(T2のいうことをくり返したときはかけあがらず、「はい」といったときのみ、かけあがることをくり返す)
T2:いいですか、MようちえんのLくーん
L:MようちえんのLくん、はい、いいですか
T2:まだですよ。MようちえんのLくーん
L:はーい(3人かけあがる)
(大きな声で返事ができるようになる)
5 T1:今度はゆっくりやってください
T2:じゃあね、今度はおなまえをよびますからゆっくりきてください。MようちえんのLくーん
(ゆっくり、はっきりいう)
L:(ゆっくり小さい声で)はーい
(3人はゆっくりあがる)
(はやくしたりゆっくりしたりして、くり返す)
〈2者媒介・1者誘導の技法〉
行為しながら自分の役割をあきらかにし、言葉をつけてふるまえるようになることで、相手に向かう感情の高揚が体験されていく技法。
〈3者共動・2者媒介・1者誘導の技法〉
補助自我がひとりの場合は、子どもとの2人の役割のとり方や力関係が一定の傾斜をなして、子どもがとり残されることがある。そして子どもの自分のなかだけでのくり返しが、起こりやすくなってくる。3人が組になって動くと、その動きにひっぱられること、3人が同時に動くことから、向こうへ向かう感情のカが増す。
はじめは、3人が同時に動く同じ役割をとっていたが、そのうちT1は言葉で受けとめてすすむ補助自我となり、T2は動きを促進する補助自我となるというように役割の分化が行われ、個として位置づけられて、次第にL自身も分化した役割をとることが可能になって、相手に向かう感情の高揚と、近づく行為ができるようになる。

技法9
(定義)子どもにとり、自己の役割および他者の役割が2方向において定立され、そのおのおのからの子どもへの焦点化が行われるようにして、子どもにおける自己内分化をさそい、自己の役割が言葉と対応してとれるようにする技法。
(特性)子どもとふたりでひとりになって動く補助自我的治療者は、子どもにおける自己の役割を明確にし、他の補助自我的治療者は、他者の役割が明確になるように働きかける。

(環境設定) 被治療者:L
治療者:T1、T2、T3

(内容)

1 (T2は舞台の上の一段高い所にあるバルコニーにのぼる)
T2:私はバスにのろう
(T3とLは2人でひとりになり、舞台の下にいる)
T3:いってらっしゃい(手をふる)
L:いってらっしゃい(手をふる)
T2:いってきます
L:いってきます
T3:どこにいくんですか
L:どこにいくんですか
T2:動物園です
L:どうぶつえんです
2 T1:T2さんは、どうぶつえんですとくり返す。先にちがうことをいわなければ。ああそうですか、とか
T3:どこにいくんですか
L:どこにいくんですか
T2:遊園地へいきます
T3:ああそうですか(Lはだまっている)
(T2は場所を、お山、海などに変えてやりとりをくり返す)
3 T2:バスでますよ。のりますか
T3:のりたいな
L:のりたいな
(T3、Lバルコニーへはいる。Lねころぶ。T3も同様にする。L立ち上がり、おりようとする)

T2:(おさえて)おりるんですか
L:おりるんですか
T2:おりますか
T3:おりたいな
T2:おりるんですか
L:(大きな声で)おりるよー
〈2人ひと組による心理劇の技法の応用〉
〈補助自我による2方向・局所焦点確立・焦点同時操作による自己(被治療者)内分化の技法〉
被治療者にとって働きかけてくる焦点が、1方向ずつ2方向に存在すると、それへの反応は、それぞれのくり返しとなりやすい。1方向からの働きかけをうけてその言葉のくり返しとなりそうなとき、他方向からの働きかけを成立、焦点化させることによって、1方向のくり返しが内語化して自己内分化がもたらされるようにする技法。
Lの場合、2 において2方向からの働きかけの言葉が内語化し、3 で自己(焦点)内分化がおこなわれて、2方向のうちT3の方と自己の役割が拡大して、自己と働きかけ手(T2)が分化してとらえられ、自己からの新しい言葉が出てきている。

技法10
(定義)子どもが、2方向に展開している関係の自己内統一ができない場合、1方向の関係を一時的に切断、他方向の関係を強化することにより、自己統一のもたらされるようにする技法。
(特性)監督的治療者が、子どもに課題を与えて関係を切断、その課題を補助自我的治療者が子どもと一緒に受けとめて、子どもの自発性が高まるように働き、それに続く監督的治療者の出会いによって、自己統一のもたらされるようにする技法である。

 (環境設定) 被治療者:L
治療者:T1、T2

(内容)

1 T1:T2さんとLさんはしっかり手をつないでこの部屋をぐるっと歩いてなにか見つけてください。そしてなにがあったか先生に話してください、はい
(T2とLは手をつないで歩きだす。T2ははなれて他のほうへ行き遊びだす。T2は手をひき「……があるわね」と話す)
T1:おかえりなさい。なにが見つかりましたか
L:(だまっている)
2 T1:今度は、T2さんとLさんは手をはなさないで。なにが見つかった、Lくんにはっきりその場でわかるように話しながらまた見つけてきてください
(T2は「あ、……があった」「……がみつかったわね」とLとの共通体験をはっきり言葉であらわしながら歩く)
T1:はい、なにがみつかったかな
L:自転車、かぎがかかっていた
T1:だれといってきましたか
L:おかあさん
T2:だれといってきたの手をつないで
L:あのー、いってきたの
T1:おねえさんととか先生ととか、ひとりでかな
L:ひとりで
3 T1:ひとりでいったつもりかもしれない。またいってきてください。2人でいったのがわかるように
T1:おかえりなさい。なにがありましたか
L:自動車が、いすが
T1:だれと……
L:おねえさんといったの
〈関係切断・他方向関係強化による2方向関係自己内統一の技法〉
子どもにおいて、2方向に関係が展開する場合、1方向ずつ関係づけはできるが、2方向の展開がそれぞれ切れて自己内では統一できない場合、1方向の関係を一時的に切断、他方向の他方向の関係を強化し、その関係を担って、前の関係との結合が成立し、自己内統一のもたらされる技法。
この場合、補助自我は、監督的治療者との関係を維持しながら、子どもとの関係は強化し、子どもの自発性が高まるようにする。その過程で、監督的治療者と、子どもとの関係づけの可能なように道を敷く役割を果たす。

3)対物関係発展の技法 -物の所有の仕方を操作して-
Lはある特定の物とのつながりが強く、新しい物とのつながりの成立が困難である。物を、客観的世界に位置づけられた「物」として、それとの関係で自己がふるまうというより、自己内における絶対的判断から特定の物とのつながりがもたれ、まわり(他の人あるいは一般的法則)との関係で物が意味をもちにくい場合が多い。
このことから、Lにおける対人関係発展の方向として、自己内にいて、自己と物との分化がなされ、物を「物」としてその物に即した判断がなされ、自己内定位がもたらされるようにすることが望ましいと考えられる。
Lの場合には、数字に興味をもち、読むことができる状況で、トランプを使用して治療活動が展開した。ここでは、トランプを使っての一連の技法を中心にのべる。トランプは、その物の使用に固有の法則性があること、そこに参加する人々に分有可能な関係的道具であること、それを使っての遊びが、対人関係を規定する性質などから、対人・対物関係発展活動に有効な「物」である。

技法11
(定義)子どもにおいて、物に関する自己の絶対的判断がなされ、その物との関係で自己がのびようとしている場合(自己と物とが未分化の場合)、その物を拡散・焦点化したり、あるいは一時的にその物との関係を切断したりすることにより、自己と物との自己内分化をもたらす技法。
(特性)治療活動における対人活動を、物の動きに即して操作・発展させることで、子どもの対人関係発展をはかる技法である。

(環境設定) 被治療者:L〔母(M)〕
治療者:T1、T2、T3、T4
用具:トランプ、かご

(内容)

〈その1〉
全員、机のまわりにすわっている。T2はトランプを出す。L“トランプ”と言って取ろうとする
T1:T2さん、皆に1枚ずつ配ってください
T2:はいお母さん(1枚わたす)
T1:ありがとうと行ってもらってください
T2:はいT3先生
T3:ありがとう
(Lは全部ほしがって、机の上にのったり他の人の分を取ろうとする)
T2:はいLくん
T4:8(Lと2人1組でいて)ありがとう
T1:自分の分がわかるように机の上に出して置いてください
(T2は1枚ずつ全部配る)
(真中にかごを置き、皆、もっているトランブを1枚、または数枚ずつ順番にかごの中に入れる。Lは自分のを離すのをいやがったり、他の人のものを取ろうとする。T4はLをだいて、皆と同じことを一緒にする。全部かごの中に入れてから、かごをLに近づける)

〈その2〉
L:てじな、てじな(とひとりごとを言いながら、トランプをバラバラしている)
T1:手品しようか
(トランブを服の中にかくす)
L:ない。ない(机の上を見渡す。歩きまわる)
T1:(Mに手渡して)、あそこらしい
Lトランプ。トランブ。バイバイバイバイ(泣き声を出す)
T1:あそこだ。ママんとこだ。(L、MのT1の中から見つける。にこにこするする)
T4:あった、あった
〈物拡散・分有・焦点化・専有による対物関係自己内分化の技法〉
自己とつながりの強い物(トランプ)が拡散、そこに参加している人に分有されることで、自己がその物をおおいきれなくなくなり、自己所有、他者所有が明確にされる。そののち、物が1か所に焦点化され、自己内統一がもたらされる時点で自己と物とが出会うことにより、自己と物との分化がもたらされる技法である。
〈対物関係一時的切断・統合による自己内分化の技法〉
自己とのつながりの強い物がかくされていることは、伸長している自己が切断されることを意味する。切断された自己が、以前つながりのあった物をさがし、自己が伸長する先でつながりをつけようとしてその物と出会うことにより、自己と物との分化がもたらされる技法である。

技法12
(定義)物の拡散・焦点化のくり返しにより物の質的・量的分化のもたらされる技法。
(特性)技法1と同様、対人活動を物の動きに即して操作・発展させることで、子どもの対人関係発展をはかる技法である。この場合、子どもと、そこに参加している人が、異質あるいは同質の役割を分担・明確にすることで、子どもの自己内分化が促進される。

(環境設定) 被治療者:L、M
治療者:T1、T2、T3
用具:トランプ

(内容)

〈その1〉
(T1、トランプを持つ)
T1:ひとつずつあげますから、はい
T2:どうもありがとう
(T1は皆に順番に1枚ずつ配る)
T1:はい全部出そう。Lちゃんも出そう。みんな絵のほう出しましょう
(机にトランブをひろげる。Lはトランプを1人でほしがる)
T1:黒いのだけあつめましょう
:T3さんは赤いのとって  :はい、Lくん、黒いのはどれだ
:これもそうだ、これはちがう
:これは赤いからあっちの先生
:これもそうだ
(黒いのは金部Lのものになる。)


〈その2〉
(黒カードはLが持ち、赤カードはT3が持つ)
T1:1・2の3でひとつずつめくってください、1・2の3
(LはT3の出したのをほしがったり、2,3枚投げ出したりする)
T2:(Lと2人1組になって)ひとつずつ、1・2の3
T1:1・2の3。ちゃんとあわせなくちゃ
(L、T2出すのを見て1枚ずつだす)
T1:1・2の3、あ、よくできた(あたまをなでる)
(L、次第に興味がのり、自分からどんどん出す)
T1:そろえて。はやかった。はい。1・2の3
(1枚ずつ、T2とあわせて出す)
〈局所焦点確立・役割分担による対物関係分化の技法〉
物を拡散、そののち焦点化する場合、焦点を2か所に確立、子どもと他の人がおのおの異質の焦点(赤カードと黒カード)において活動する役割を分担することで、物の質的分化が行われている。











〈自己拡散・対人関係-致体験による対物自発活動促進の技法〉
技法の効果により、自分とのつながりの強いものを拡散させることで自己が拡がるのを喜ぶ体験が生まれている。
この場合、時相をそろえて、皆が同質の役割をとることで、対人関係一致体験が生まれ、Lの対物自発活動が促進されている。

技法13
(定義)多くの物のなかから類似物をさがし出すことにより、物の自己内定位をもたらす技法。
(特性)同質のもののなかから類似物をさがし出す方法と、異質のもののなかから類似物をさがし出す方法がある。

(環境設定) 被治療者:L、M
治療者:T1、T2、T3
用具:トランプ、模造紙、マジック

(内容)

〈その1〉
T1:みんな、こうしてひろげてごらんなさい
L:(ひとりごとのように)ニンテンドウトランプ、ニンテンドウトランブ
T1:これと同じのをさがしてください。これ(グラフの7を示す)
(L、顔をふせる。T1はトランプを黒だけにする)
T1:T2さん、Lくんに、これくださいって言ってください
T2:(グラフの7をLに示して)これと同じの、この中からください
(L、他のものをわたす)
T1:ポーン(とはねのけて)、これはポーンだ(調子つけていう)
L:ウフフ
T2:これと同じの私にください
(L、ちがうものをわたす)
T1:ポーン。これもポーンだ
L:ウフフフ(よろこぶ)
T2:はい、これと同じのね、ちょうだい
(L、スペードの7をT2にわたす)
T1:はい。よーし(頭をなでる)
(同じ方法で他のカードもくり返す)

〈その2〉
(T3は模造紙に赤マジックで、ハート1~13まで、トランブと同形に書いてあるものを取り出す)
T3:ここにトランプがいっぱい書いてあります。(手元のトランプハート1~13を示し)この中から、ここに書いてあるのをさがしてください
T1:むずかしいな、わかるかな
(L、トランプのAを取りあげる、もっていこうとする)
T1:はい、それはAでしょ、それは、ここにおくのかな。こうかな。こういうふうにするのかな
(と、紙のAにかさねる)
L:イヤー、イヤー(にげようとする、ねころがる)
T1:はい、他の人たち、おもしろそうにやってください
T2:これはどこかな(M、T1と3人で大声を出してやっている)
(L、おきあがる。ハート5をおる)
T1:あ、おもしろくなってきたぞ。あ、それはポーンだ。ポーン。そうそうよくできた
(L、ハート6を取り、T1の顔を見て笑いながら他の所におく)
T1:知っているのに、おいたぞ。これはポーン
(Lはキャーキャー笑う。残りの全部をやり終える)
〈類似物選択・選別による対物関係自己内定位の技法〉
トランプを、“これください”という他者の要求に対して渡すとか、あるいは、まちがうとポーンといってカードをとばされるのをよろこぶように、対人関係における親密関係、否定的関係の中に位置づけられたものとして物が把握され、物の自己内定位がすすめられている。

















技法の効果により、異質なもののなかから類似物をさがし出すことが可能になる。






〈関係間接操作による自発活動促進の技法〉
(〈対人関係発展の技法2〉の技法1の応用例)

技法14
(定義)類似物における差異を明確にすることにより、物の自己内定位をもたらす技法。

(環境設定) 被治療者:L、M
治療者:T1
用具:トランプ

(内容)

 T1:(スペードのA~Kまでならべて)Aはどれですか
(L、2、3のカードにふれる)
T1:じゃあ、お母さんにAをあげて

M:Aをちょうだい
(L、Aをとってわたす)
(T1:机の上にA,2のカードを置く)

T1:どっちがAですか
(L、うつむく)
T1:お母さん、どっちがAですかってきいてください
M:どっちがAですか
T1:こっちがAです(Aのカードにさわる)
(T1はLをひざにだきとって、上記をくり返す)
T1:今度はぼくがやってくれるかな
M:どっちがAですか
(L、Aの力ードにさわる)
T1:(同時に)こっちがAです
(上記、くり返す)
T1:今度はこっちがAですっていってから
M:どっちがAですか
T1:(Lがすぐ指そうとするのをおさえて)こっちがAです
(L,Aのカードを指す)
M:(A、2つのカードの位置を代えて)どっちがAですか
(L、Aのカードを指す)
〈類似物内差異明確化による対物関係自己内定位の技法〉
物に対して自己の絶対的判断がなされる段階から、対人関係に位置づけられたものとしての把握がなされ、次に、物を“もの”として理解する段階に来ていると考えられる。〈対人関係発展の技法2〉の技法2、3応用して子どもと一緒になって動き、自己・他者の役割を分化、言語と動作の一致をはかるなかで、物の自己内定位がすすめられている。

主題(副題):発達臨床-人間関係の領野から-
第3部 第8章 163頁~187頁