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精神薄弱者更生施設の「食」に関する全国調査報告書

-知的障害者のQOLの向上をめざして-

第2部 施設の食事全般について

質問項目:2-1
居住者の1日の食費は、実質平均おいくら位ですか? また、理想的にはおいくら位が適当だと思われますか?

 実質の食費は851円~900円が最も多く、その前後100円以内(751円~1000円)に全体の8割が含まれていました(図4)。
平均すると900円、最も高かったのは1300円で首都圏近郊の施設でした。但し調査者の曖昧な問い方に不備があり、オヤツ代や外食代を含めて回答していただいた場合とそうでない場合があったようです(一部、電話で確認をさせていただきました)。これは、一応、厨房関係にまかされている予算というふうに解釈していただければ良いかと思います。

表4 1日あたりの食費(実質)

回答
700円以下
701~750円 19
751~800円 68
801~850円 62
851~900円 104
901~950円 72
951~1000円 76
1001~1050円 33
1051~1100円 15
1101~1150円
1151~1200円
1200円以上
無回答 12

 理想の食費は、951円~1000円が最も多く(表5)、中でも「1000円」という回答が目立ちました。
実質と理想の値段の差額を見ると、50円前後のアップを望む回答が最も多く(161件)、次いで現行と同じ額を記した答えが60件ありました。平均すると+108円で、最大幅は+1100円、逆に現行の値段よりも安くとも良いという回答も14件ありました。全体的に無回答も多く、また「決められた額でどのようにでもやっていける」、「多ければ多いほど良い」といった回答もあり、具体的な数値では答えにくい設問であったかもしれません。一部、訪問調査をさせていただいた施設からは、もし値段がアップすれば、「米のランクを上げたい」、「フルーツを多く付けることができる」等の回答を得ました。

表5 1日あたりの食費(理想)

回答
700円以下
701~750円
751~800円 23
801~850円 18
851~900円 68
901~950円 34
951~1000円 132
1001~1050円 10
1051~1100円 18
1101~1150円
1151~1200円 28
1200円以上 24
その他
無回答 113

質問項目:2-2
食事の献立は、誰がどのように決めますか?

 献立を決定するのは、ほとんどが栄養士であり、調理員が関与するところ、あるいは調理員が決定するところが若干ありました(表6)。
 どのように決めるかについては、さまざまなレベルでの回答(方針、具体的手法、手続き等)をいただきましたが、決定の要因を右の図6のようにまとめました。100件以上回答のあった要因は、「栄養所要量」、「季節感」(旬の材料を用いる、行事食や郷土料理を取り入れるといった回答も含む)、「利用者の嗜好を考えて」(年齢の考慮等も含む)で、いずれも献立を作成する立場からのポピュラーな要素と言えるでしょう。「利用者の嗜好を考えて」とは、ここでは漠然とした言い方のものすべてを含んでいますが、これは次の設問項で詳しく紹介します。以下、順次列挙すると、「他の職員の意見を聞いて」(上司の決裁、指導職員や看護婦の意見も含む)97件、「給食委員会の意見を聞いて」73件、「栄養バランスを考える」54件、「嗜好調査の結果を参考にする」37件、「バラエティを持たせる」36件、「予算を考慮する」34件、「検食簿の記述を参考にする」31件、「残食状況を見て」22件、「調理員の状況を考慮する」16件、「サイクルメニューに従う」13件、「手作りを心がける」(添加物等の安全面を考慮する等含む)11件、「成人病予防を考慮する」11件、「喫食状況を見て」7件となっています。

表6 誰が決定するか

栄養士
栄養士+調理員等
調理員
その他
無回答
449(94.1%)
11( 2.3%)
9( 1.9%)
1( 0.2%)
7( 1.5%)

表6-2 献立決定の要因

回答
栄養所要量 137
季節感 119
寮生の嗜好を考えて 115
他職員の意見 97
給食委員会の意見 73
栄養バランス 54
嗜好調査の結果 37
バラエティ 36
予算 34
検食簿の記述 31
残食状況を見て 22
調理員の状況 16
サイクルメニュー 13
手作り 11
成人病予防 11
喫食状況を見て
その他 13
記述なし 78

質問項目:2-3
食事の献立に、居住者の意見をどのような形で取り入れていますか?

 意見の反映方法について、回答を表7のように分類しました。最も多かったのは、「嗜好調査を通して」(234件)というものです。しかし、残念ながら嗜好調査がどのような方法で実施されているのか、詳しいことは(設問にもないので当然のことですが)ほとんどわかりません。わずかに方法について言及されていた回答(42件)をまとめると、指導員を通してアンケート調査を行う、親を通してアンケート調査を行う、絵や写真を用いて行う、利用者によるグループ別の話し合い、観察により行う等が挙げられます。
 次いで、日常的な献立に意見を反映する方法として、「利用者の意見を聞く」という回答が多く見られました。では、どのようにして利用者の意見を聞くのか、具体的にシステムとして確立しているタイプと、そうでないタイプに分けてみました。随時意見を聞くといった未確立のタイプ163件に対し、「自治会等を通じ食事に対して意見を申し入れる」システムが確立しているタイプが28件ありました。同様に、「給食委員会を通して」意見を反映する場合では、指導職員が代弁するもの59件、利用者の代表が出席するもの14件、また「検食簿の記載」を参考にする場合では、職員によるもの51件、利用者自身の記述欄が設けられているものが2件となっています。その他、「指導職員を通じて」反映するという回答が43件ありました。また、間接的に献立に対する意見を知る方法としては、「残食状況を見る」(97件)、「喫食状況を見る」(60件、うち、「栄養士も必ず一緒に食べる」というもの16件)が挙げられます。
 次に、日常的な献立においてではなく、特別の方法あるいは特別の日に施設利用者の希望に応えるという回答もありました。例えば、月に1回、居室単位で希望(鍋物等のメニュー)を出したり、誕生会のごちそうをその月の誕生者たちが決める等、グループ単位での希望を聞くというタイプが30件、さらに利用者個人個人の誕生日にその誕生者の希望メニューを聞いて作るというタイプが11件ありました。その他には、希望メニューを調理実習で作ったり、外食や選択メニューの日に反映させるという方法(20件)が挙げられます。

表7 意見の反映方法

回答 件数
嗜好調査を通して 234
利用者の意見を聞く 163
利用者の意見を聞く(システム確立) 28
給食委員会を通して 59
給食委員会を通して(利用者の出席) 14
検食簿の記載を通して 51
検食簿の記載を通して(利用者の欄あり)
職員を通して 43
残食状況を見る 97
喫食状況を見る 44
喫食状況を見る(一緒に食べる) 16
希望メニューを聞く 30
希望メニューを聞く(個人単位) 11
調理実習・外食または選択メニューに反映する 20
意見の反映は困難 14
記述なし 23

質問項目:2-4
特別な献立があれば、どんな時にどんな献立があるのか、3つ教えて下さい

 いろいろ工夫を凝らした最高のご馳走を書いていただきました。
以下、調査者の独断と偏見で、各行事時のメニューを1つずつ紹介させていただきます。

  • 正月:雑煮、おせち料理(八幡巻き、酢かぶ、刺身、照り焼き、きんとん)
  • 新年会:餅、けんちん汁、果物
  • 成人式:赤飯、鯛の塩焼き、清汁、紅白饅頭、
  • 節分:豆ご飯、いわし
  • ひなまつり:桜寿司、若竹汁、海老団子の鹿の子揚げ、ゼリー
  • 彼岸:三色おはぎ、みそ汁、お浸し、果物
  • 花見:花見弁当(桜寿司、ヒレカツ、煮しめ、三色だんご)
  • 春のつどい:かしわご飯のおにぎり、山菜福祉鍋
  • 端午の節句:赤飯、にしめ、ひとくちかつ、野菜サラダ
  • 七夕:枝豆ごはん、刺身、フライ物、酢の物、煮物、だし巻き玉子、すまし汁
  • ビアガーデン:焼きそば、おにぎり、焼き鳥、焼きいか、おでん
  • 土用の丑:うなぎ丼、きゅうりもみ、すいか、豚汁
  • 旧盆:旧盆盛り合わせ(昆布、三枚肉、かまぼこ、チキン、田芋)
  • 月見:栗ご飯、焼き魚、白和え、衣かつぎ、枝豆、月見団子
  • 観楓会:ジンギスカン、焼きそば、おにぎり、
  • もちつき:あんこ餅、きなこ餅、おろし餅、納豆餅、けんちん汁
  • 忘年会:盛り合わせ、から揚げ、巻き寿司、フルーツポンチ、ジュース
  • クリスマス:きのこピラフ、ローストチキン、サラダ、スープ、シャンパン
  • 大晦日:そば、天ぷら、刺身、金ぴら
  • 開園記念日:ばら寿司、野菜の甘煮、豚の角煮、果物盛り合わせ
  • 誕生会:寿司、ステーキ、バイキング
  • 生活労働発表祭:中華バイキング(チャーハン、バンバンジー、八方菜、ミートボール、コーンスープ、キムチ、杏仁豆腐)
  • 行事の後:お茶漬け

質問項目:2-5
複数献立(外食を含みます)を実施しておられますか?

質問項目:2-6a
1.複数献立はどのくらいの割合で実施されていますか?
2.複数献立はどのような方式を採用していますか? 実施しているもの全てに丸を付け、その献立例を教えて下さい。

 選択肢:ア.外食時にレストランのメニューから選ぶことがある
      イ.主食を2種類以上用意する
      ウ.副食を2種類以上用意する
      エ.ドレッシング゙やソース、ジャムなどを2種類以上用意する
      オ.その他

 複数献立の実施の有無とその実施方式をまとめて、表8に示しました。
外食を含めると、65.2%の施設が何らかの形で複数献立を実施していました。

表8 複数献立の実施の有無

回答
外食型 15.5
バイキング型 4.2
施設内択一型 9.6
外食+施設内択一型 32.1
外食+バイキング型 3.8
実施してない 33.5
無回答 1.3

 実施方式の内訳では、最も多かったのが「外食と施設内複数献立」の両方を取り入れているタイプで、全体の35.9%となっています。次いで、「外食のみ」のタイプが15.5%、「施設内のみ」のタイプが13.8%です。施設内の複数献立には、2種類以上のメニューの中から1つを選択する択一型と、バイキング・スタイルのものがあります。
 実施方式の延べ件数(表8-2)は、外食245件、バイキング100件、施設内での主食あるいは副食の選択247件、デザートや飲物、ドレッシング等の選択が138件となっています。外食、施設内の択一メニュー、バイキングとすべて取り入れているところが52施設ありました。

表8-2 複数献立実施の延べ件数

外食
施設内 バイキング
     主食の選択
     副食の選択
     その他
245
100
137
110
138

 頻度は、外食については年に数回のところから最も多いところで週に1回、バイキングについても同様で、年に数回から、多いところでは週に1回(昼食)、さらに週に5回(朝食)と幅がありました。施設内の択一型複数メニューの実施頻度は、月に1回が31件、月に2回が19件、月に3回が11件で、週に1回以上実施しているところが35件ありました。最も多いところで週に10回です。ドレッシングやジャム等については、メニューによって「随時」という回答がほとんどでした。

 次に、施設内の択一型選択メニューの例を紹介します。メニューは、2種類を用意するところが全体の68.7%で、3種類以上用意するところが20.3%ありました。表8-3に、メニューの組み合わせ例を示しました。下線になっているのは、2施設以上で行われていた組み合わせです。組み合わせの中で、多かったのは、「うどんかそば」「ご飯かパン」「カツ丼かカツカレー」です。組み合わせの方針として、「材料が同じで調理法を変える」、逆に「調理法は同じで材料を変える」、あるいは「好き嫌いのはっきりしたもの」、例えば、肉と魚の組み合わせや、年齢層を考慮した洋風と和風の組み合わせ等が挙げられます。ユニークな組み合わせとして、全く同じ材料で盛りつけ方を変える「中華丼か八方菜定食」というのがありました。これは、「2種類以上用意するのはたいへんだから選択メニューの実施は難しい」という考えに風穴をあけるようなアイデアかと思われます。

表8-3 選択メニューの組み合わせ例

*同種、同型、類似メニューからの選択
うどんvsそば(五目うどんvs五目そば、肉うどんvsなめこそば)、ご飯vsパンごはんvs麺類(天丼vs天ぷらうどん、牛丼vs肉うどん、カレーライスvsカレーうどん)、うどん(カレーvsきつね、天ぷらvsわかめ、きつねvsたぬき、丸天vsえび天vs月見)、スパゲッティ(ミートvsボンゴレ、ミートvsナポリタン、トマトvsホワイト等)、ラーメン2種(しょうゆvsみそ)、オムレツ2種、カレー(甘口vs辛口シーフードvsビーフ、カツカレーvsバーグカレー)、カレーvsハヤシ、カレーvsクリームシチュー、かつ丼vsかつカレー、丼物(カツ丼vs天丼鉄火丼vsカツ丼鰻丼vs天丼、きじ焼き丼vsかき揚げ丼)、ご飯物(赤飯vs五目おこわ、栗ご飯vsきのこご飯、チキンライスvsチャーハン)、揚げ物(海老フライvsとんかつ、とんかつvsチキンかつ、コロッケvs魚フライ)
*和風か洋風、肉か魚メニューからの選択
肉のソテーvs焼き魚魚フライvs焼き魚魚フライvs煮魚、ムニエルvs塩焼き、ハンバーグvs焼き魚、ミートローフvs和風バーグ、刺身vsコロッケ、海老フライ定食vsすきやき定食
*その他
コロッケvsハンバーグ、、天ぷらvs刺身、豚肉のロール巻きvsスコッチエッグ、鮭弁当vs春巻き弁当、豚汁vsさつま汁、ポテトサラダvsフルーツサラダ、サラダvs酢の物、いなり寿司vs茶そば、海苔vs納豆、ひじきvsおから等
*盛りつけのバリエーションが異なるメニューからの選択
八宝菜vs中華どん

質問項目:2-6a
3.居住者はどのようにして献立を選びますか?
また、言葉のない重度あるいは重複の障害者の場合は、どのようにして選ばせていますか?その方法を教えて下さい。

 外食の場合は、その場で写真つきのメニューやショウケースのサンプルを指して選ぶ、という回答がほとんどでした。それでも選べないような場合は、職員が代わって選ぶようです(但し、日頃食べないようなものを敢えて頼む場合と、日頃の好みを考慮して頼むという場合の2つのタイプがありました)。事前に選択する場合では、「ファミリーレストランよりメニューを借りてきて選ぶ」という施設がありました。当日、一人ひとりが時間をかけて選択できないような場合、選択を重視するという点で一つのアイデアかと思います。また、食べたい外食の種類によって、予め店を選んでグループ毎に出かける「嗜好別外食」を行っている施設が4件ありました。
 バイキングの場合は、全種類を食べても良いというところと、全部に箸をつけるよりも料理の中のいく皿かを見せてそこから選ばせる、というところに分かれました。択一型への移行を検討している施設も2件ありました。また、色分けしたテーブルクロスの上に皿を並べ(主食:黄色、副食:赤、野菜:緑)、その中からそれぞれ選ぶように、栄養指導を行っている施設もありました。
 択一型選択メニューの場合は、事前に希望を聞いておく方法、当日にその場で見て選ぶ方法、あるいは事前に一応希望を聞いておいて概数を把握し当日もう一度見て選ぶという3つに分かれます。事前選択では数は把握できるけれども、その場で見て選べない、特に障害の重い人には理解しにくいという欠点があります。逆に、当日選択の場合には、数の関係で最後の方では選べない人が出てきたり、ロスが出たりします。しかし、実際には材料の発注の関係で事前選択を採用しているところでも、「見て選ばせたい」、「見て選ぶことに意義がある」という意見がありました。事前選択の場合、その欠点を補うために、「写真、絵入りメニュー、図解を貼りだし、その下に名記する」、「事前に見本(試作品)を作って、選んでもらう」、「絵入り食券を発行する」「事前に写真を見せて、説明・学習する」等の工夫が見られました。また、当日その場で選択する場合では、カウンターで選ぶ以外に、混雑を避けるために、「配膳テーブルを2つ分け、好みのテーブルへ行く」、「お盆に2種類載せて、各テーブルを回る」、「食堂の入り口に見本を置いておく」等の工夫が見られました。

 表9に、言葉のない重度重複の障害を持つ施設利用者とそうでない一般の利用者に分けて、実施されている選択方法示しました。前者の場合は、一般の利用者に比べ事前選択よりもその場で実物を見て選ばせる割合が多く、またその時に、「職員が付き添って指さしをさせる」、「表情で判断する」、「2つを見せて手を出した方を食べたい物とみなす」、「2つテーブルに置き食べた方をよしとする」、さらに「本当にそれが食べたいか位置を変えて選ばせてみる」等の試みが行われていました。しかし、実物を見ても自分で選べない人がいるという回答が約3割あり、「重度者が本当に選択できているか?」、意思表示のできない重度者の要求をどう把握するかは、いくつかの施設で課題として挙げられていました。一方、重度者でも「選べない人はいない」という施設では、「同じ内容で、日を置かず実施することで選択できるようになる」、「(いきなり食事を選択するのではなく)ジャムや果物の2選択を経て、次に2種類のメニューを並べて声掛けし」選択の経験を積ませた、という秀れた援助方法が展開されていました。

表9 選択の方法

一般的施設利用者 重度の知的障害を持つ施設利用者
回答
その場で選ぶ
   ★自分で選べない
52 39
★20
事前に選ぶ
   ★自分で選べない
39 10
★24
2回選ぶ
   ★自分で選べない

★4
その他

質問項目:2-6a
4.複数献立を実施するに当たって、問題になっていることがあれば教えて下さい。

 回答には問題点だけでなく、その意義等の記述も見られました。問題点を表10に示しました(記述全数99件)。先ず挙げられるのは「選択」そのものの問題で、その内訳としては、事前に選択したものと違う物を要求したりするといった「選択の信頼性」、「重度の人の選択の問題」、また、きざみ食や制限食等の「特別食との関係」(事前に「きざみ」ができない等)が挙げられます。「選択」の問題の次に多いのが、供給する側の「手間や設備の限界」、さらに「食数の把握の困難さ」が続きます。

 同時に、そうした問題の打破のために、「事前選択の方式から当日(その場)選択へ切り替えた」、「何種類かの選択方法を試しそれを比較検討している」、「選ぶという楽しみを強調するためにメニューの組み合わせを工夫している」、「メニュー写真の撮影方法に留意している」、「時間がかかっても選択の重要性が優先する」等、積極的に取りくんでいる施設が多く見られました。

表10 複数献立の問題

回答
選択の信頼性 11.1
重度者の選択の問題 7.1
特別食との関係 4.0
その他 11.1
手間や設備の限界 18.2
食数把握の困難性 16.2
その他 32.3

質問項目:2-6b
1.今後、複数献立を実施したいと思われますか?

選択肢:ア.実施する予定である
     イ.実施したいが、さまざまな問題がある(具体的にどのような問題がありますか?)
     ウ.施設の方針から、実施するつもりはない

 結果を表11に示しました。複数献立を実施していない160施設のうち、今後実施する予定のところが14%、実施したいが問題があるというところが71%、実施するつもりはないというのが9%となっています。実施したいが問題があるという場合の具体的理由は、ほぼ2点に絞られました。一つは調理員の不足や調理設備が整っていない等の問題、もう一つは「選べないのではないか」(選択の意味がわからない、すべて欲しがる、人のを欲しがる等)というような利用者の問題です。前者を挙げたところが最も多く(51%)、後者が25%、両方挙げたところが12%となっています。「実施しないのはすべて職員側の問題」と言い切る施設と、「選択能力が乏しく意義が薄い」と考える施設と対照的な意見が印象的でした。

表11 複数献立を実施していない施設の意見

回答
実施する予定である 14
実施したいが問題あり
  具体的理由
   a.人手不足・設備の問題
   b.対象者の問題
   c.a+b
   d.その他
   e.無記入
71

51
25
12

実施するつもりなし
無回答

質問項目:2-7
間食のシステムはどのようになっていますか?

 選択肢:1.購入も食べる時間も、個々の居住者にまかされている
      2.おやつの時間帯に、用意されたものを皆で食べる
      3.障害の軽重で異なる
      4.その他(具体的に)

 結果を表12に示しました。一斉に食べるというところが、半数以上(58。3%)を占めていました。まったく利用者個人にまかされているところが2.1%、障害の軽重で異なる場合が8.6%となっています。その他は、決められたオヤツ(例えば栄養上組み込まれた牛乳等)の他に自分で購入したもの等を食べる場合、自分で購入したオヤツを決められた時間帯に食べる場合、作業班などに裁量がまかされている場合等がありました。また、オヤツは毎日というわけでもなく、いただき物や収穫した農産物等を随時オヤツにして食べる場合や、週に4回でそのうちの1回は市販のものではなく素朴な手作りオヤツ(よもぎもち、蒸し饅頭等)を作っているというところもありました。

表12 オヤツのシステム

回答
一斉に食べる 58.3
一斉+アルファ 16.1
障害の軽重で異なる 8.6
すべて本人まかせ 2.1
その他 11.3
無回答 3.6

質問項目:2-8
飲酒の機会はだいたいどのくらいですか?
また、飲酒する人は全体の何パーセントくらいですか?

 表13に示したように、飲酒の機会は、「毎日」というところから「なし」(施設内では一切酒を出さない)という施設までありました。年に2~5回という施設が最も多く(174施設)、いわゆる行事などの機会に限って飲むようです。順位的には、次に「なし」(61施設)がきます。毎日あるいは週に2~3回と頻繁に機会があると答えたところでは、飲酒する人の割合は低いところが多く(0.2%~15%)、これは施設の中でお酒の好きな人に対しては毎日でも飲めるようにしているということでしょう。「人により異なる」という回答も同様の状況かと思われます。また、毎週末に飲酒の機会を設けているところもありました。ちなみに全施設での平均飲酒率は約36%でした。

表13 飲酒の頻度

回答
毎日
週2~3回
週1回 21
月2~3回 13
年13~23回
月1回 36
年6~12回 52
年2~5回 174
年1回 25
人により異なる 13
なし 61
無回答 71

質問項目:2-9
そのほか、食事に関して何か工夫していることがありましたら、教えて下さい
(例:食事する場所、雰囲気、時間帯、食事の温度)。

 工夫内容を、「食品・献立」、「盛りつけ」、「食事形態」、「食堂」、「喫食時間」の5群に分類しました(表14)。突出して多かったのは、「適温食を提供」するための工夫で、262件に上りました。具体的には、麺類などのときには作った順番に食べてもらう、あるいは利用者の顔を見てから作る、食べる直前まで冷蔵庫や温蔵庫に格納する、テーブル毎にこんろを置いて汁物の鍋をかける等の工夫が行われていました。同じ群の「テーブル毎に鍋やおひつ」を置く(49件)というのは、どちらかと言えば家庭的雰囲気の方を重視した回答です。次いで、食堂に関するもので、「音楽を流す」(74件)、「花やテーブル・クロスによる装飾」(絵等も含む、66件)、喫食時間の遅延化(夕食に関して)(63件)、食事形態の工夫として「食堂外での喫食」が挙げられます。

 夕食時間の遅延化については、理想と考える時間帯や努力の可能な範囲は施設によって異なると思われますが、回答の中で最も遅い時間帯は「7時から」というところがありました。また、喫食時間を自由化したという回答が21件ありました。これは、次の設問の回答からわかるように「ゆっくり落ちついて食べてもらいたい」ということが理由になっているようです。さらに、喫食時間の自由化から、「日課」というものも全部取り払った、という回答がありました。これは、理想的なあり方を追求した一つの結果であろうかと思います。

 食堂外の喫食というのは、別の和室や居室で少人数で食べたり、好きなグループで好きな場所で食べる、というものです。これも、「静かな環境でゆっくり食べてもらいたい」ということが一つの理由になっているようです。その他、天気の良い日には戸外で喫食したり、お弁当を持って出かけるという回答も多く見られました(45件)。その他、変化をもたせるための工夫として、バイキングや鍋物の実施(31件)、また、食品・献立の工夫として「高齢者・病者等への特別食」の提供(34件)が多く見られました。

表14 食事に関する工夫

回答
食品・献立の工夫 自然食・健康食の取り入れ
旬の材料の取り入れ
手作りを心がける
高齢者・病者等の特別食
その他

21
11
34
14
盛りつけの工夫 きれいな盛りつけ
食器の個別化・高級化
適温食の提供
テーブル毎の鍋やおひつ
その他
12
48
262
49
食事形態の工夫 外食・選択メニューの実施
バイキング・鍋物の実施
セルフサービスの実施
自分で調理する
戸外(弁当等)での喫食
食堂外での喫食
その他
17
31
29
23
45
58
28
食堂について 音楽を流す
調度品の高級化
花やテーブルクロスによる装飾
冷暖房の完備
その他
74
21
66

喫食時間について 喫食時間の遅延化
喫食時間の自由化
その他
63
21
23
その他
無回答 35

質問項目:2-10
居住施設の食事に関して、理想的にはどうあればいいとお考えですか? ご意見をお聞かせ下さい。

 さまざまな角度からの意見がありました。表15は、理想の食事に対する意見を20の項目に分類し、上位から並べたものです。多くの施設で、二つ以上の要素が併記されていました。一番多い意見は、「家庭的な雰囲気で食事が食べられる」というものです。そして、二番目には「選択できる」が挙がっています。「家庭的雰囲気」と「選択」というのは、理想の二大要素と言えそうです。表中の濃く塗りわけた棒は、「選択」をはじめとして、個人が自分の食事の内容決定や調理に参加するといった意見のものです。表からわかるように、そうした利用者参加のシステムを理想とする意見は上位から下位に至るまで、他の項目にはさまれるように挙げられています。もちろん、これらの要素もより小数の単位やあるいは家庭であれば実現の可能性がより高くなるということもあり、「家庭的である」ことと「選択できる」ことが相反するものではないと言えるでしょう。

 具体的な意見を紹介します。「成人施設の場合、家族的グループで自分たちの食事は自分たちで作るのが理想的であり、栄養士や指導員は栄養的な知識や調理技術を教えるという役にまわるべき。重度重複者については、画一的になりがちな施設の食事の中から、選択や自己決定ができるように配慮すべきである」。この意見は、軽度の人も重度の人も食事は自分で決めることが理想的であるというものです。栄養士や指導員は、さまざまなレベルでそうした自己決定の為の“援護”を行うべし、というものです。また、「選択できる」ということと「家庭的である」という事は違うのではないか、という立場からの意見もありました。「家庭といっても色々ある。自分の好きな物を食べる、というのは外食時の時だけで、施設には過剰に持ち込まない方がいいのではないか」というものや、「個人差が大きいので個別栄養指導が行き届けば、カフェテリア方式で本人の意思決定によるものが理想」という意見がありました。小グループが理想とされる意見が多い中において、後者は、むしろ積極的に施設の特性をいかした立場と言えるでしょう。

表15 理想の食事とは

回答 件数
家庭的雰囲気 130
選択できる 120
喫食単位の少数化 97
適温食の提供 88
嗜好にあったものを提供 80
喫食時間に幅をもたせる 53
栄養バランス 45
喫食時刻の適正化 36
自分で調理する 32
献立の工夫 29
栄養指導を行う 27
自分で盛りつける 24
食器の個別化・高級化 23
旬・季節の考慮 15
食の楽しみを教える 15
マナーの学習 14
手作り重視 13
外食の取り入れ 10
好き嫌いをなくす
自己の向上の場
その他 29
わからない

 以上、第2部の質問群は、複数メニューを中心に、全国の精神薄弱者更生施設の食事に関する情報を収集し分析することにありました。我々自身は最初に述べましたように、「QOLの向上とは障害者本人の選択肢が拡大されること」との見解から複数メニューの実施は好ましい方向性であるという考えを持っておりますが、果たして、各施設での複数メニューの実施の背景にはどのような考え方や条件があるのか、逆に実施していないという場合にはどのような考えに基づいたものなのか、等を検討したいと思ったからです。
 複数メニューは、外食も含めて全体の約65%の施設で実施されていました。これは、年に数回の外食のところや2ヶ月に1回の施設内選択メニューといった探索的段階のものもすべて含んだ数値ではありますが、食事に関する選択の機会は予想以上に多く感じました。
 さて、複数メニューを実施しているところと実施していないところでは、何か条件が異なるのでしょうか。複数メニューを週に1回以上実施しているところに限定して、他の質問項目をチェックしてみました。その結果、食費の比較的安いところ(770円)、センター方式で食事を作っているところ、また、施設の定員数が200名近くのところもありました。経営主体についても社会福祉法人も公立もあり、また重度棟の定員数についても全体と同様の比率を保っていました。一方、「(複数メニューは)これからも実施するつもりはない」という施設における理想的な食事のあり方についてみると、際だって固有の方針を貫いているとの印象は受けませんでした。従って、こういった要因は必ずしも決定的なことではないようです。ただ、全体的に見て、複数メニューを実施している施設では、施設利用者の自治会(あるいはそれに準ずる会議等)が食事に関与しているという記述が目立ちました。もっとも最初から自治会の有無を尋ねるような質問項目があったわけではないのではっきりとは言えませんが、利用者の意見を吸い上げる自治会のようなシステムが存在するということと、「複数メニュー」に積 極的であるということと、多少の関連はあるように思われます。
 では、実際に選択メニューがどのように行われたり、あるいは実施できなかったりするのか、我々は、選択を実施している施設と実施していない施設の両方を(押しかけ)訪問させていただきました。その一部を、次章でご紹介します。


主題・副題
精神薄弱者更生施設の「食」に関する全国調査報告書:知的障害者のQOLの向上をめざして 11頁-31頁

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