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精神薄弱者更生施設の「食」に関する全国調査報告書

-知的障害者のQOLの向上をめざして-

第4部 複数メニューを始めるためのワンポイント・アドバイス

 ◆同じ材料を使って、調理できるようなものから始める。肉ジャガとカレーは、ルーを作るところまでは同じなのである。あるいは、容器が違うというだけでも施設生が喜び、その満足感が、調理の側の継続を維持した。

 ◆同じ材料で献立を変える。慣れてくればだいじょうぶ。

 ◆選択メニューの場合は、材料的に最初は20%ぐらい増で始めると良い。チケット制でスタートした。そもそも「うどんの熱さ」に情熱を持って全員で対処したチームワークは非常に良い。

 ◆最初は簡単なもので、うどんの具から始めた。最近では、牡蛎フライ、刺身、焼き肉、あるいは鰻丼、ちらし、やきめし等の3種選択もできる。

 ◆最初はオヤツ、次にバイキング、そして選択メニューというステップを踏んでいけばよい。最初はできる人がやれば良いという気持ちで始めることが大切。

 ◆バイキング形式での練習から選択へ。

 ◆最初は、土曜日の麺類(天ぷら、きつね、玉子おろし)からスタートした。手間が少なく、見かけが違うものから。とにかく始めてみるのが、コツである。

 ◆とんかつセットとカツ丼のように、「盛りつけの変化」程度のものからスタートすると良い。

 ◆「園生は満足しているか?」「喜ぶだろうか?」といった疑問があった。最初に誕生会のケーキの選択を行い、園生が非常に喜んだことから定着していった。

 ◆最初は麺類(山菜、月見)の現物選びからスターとした。最初は写真は使わない方が良い。今は、全て雑誌の切り抜きで事前選択ができる。但し、当日の変更も可能である。

 ◆基本は、「月に1回くらいおいしいものを」という発想で、指導職員もメニューを考えて張り切る。「馬さし」「ごかせの蟹」「しゃぶしゃぶ」「手巻き寿司」などを出す。

 ◆最初は、食数のことが問題になったが、やってみたら問題にならなかった。喜ばれている。
 
 ◆外注のパン(10種類)からスタート、汁物(豚汁、さつま汁)、バイキングで来た。

 ◆調理と指導が詳しい打ち合わせをして協力することが重要である。確かに1回は混乱したが、回を重ねるうちに簡単になってきた。

 ◆メニューを調理員さんと相談して、無理をせず2種類から。

 ◆麺類のスープ(塩味、みそ味)くらいから始めることを勧めます。チームワークも大切。

 ◆材料が同一で調理法が違う物(焼き物と煮物、あえものとソテー)で始めると良い。

 ◆試したが、他のスタッフから「意味があるの?」と言われた。選択ということに関しては、表現ができない人が多いとみなされているために、「選択」ということを全面に出さないで、「変化をもたせる」ということでやっている。

 ◆他の給食スタッフから反対されるかと思ったが、調理員さんには、やりがいのある仕事として受け入れてもらえた。また、自分の仕事をアピールする良い機会であるという認識があった。そして、やった後、満足感があった。指導職員の大きな協力もあった。

あとがき

■調査開始からこの報告書までずいぶんと時間がかかってしまいました。電話で、色々とお約束していたのに、そのままになってしまった施設もいくつかあります。すいません。

■これまで施設での仕事を総称してきた「療育」とは、その名の通り治療と教育という意味でした。そこでは、職員はもっぱら医者や教師のような役割を期待されることになります。しかし、今や、施設は“患者”や“生徒”のいる場所ではなく、そこを日々の生活の場として利用する“消費者”のいる場所です。従って、職員は“医者”でも“教師”でもなく、消費者の個別の希望や意志の実現を手伝う“援助者”であることがまず求められます。それは従来の職業的範疇で言えば「サービス業」と言えるものです。そうした意味でのサービスと言えば、教師や医者より、ホテルマンやコックさんに一日の長があると言えるかも知れません。

■今回の調査では、色々な施設の栄養士さんや給食スタッフの方々と、直接にあるいは電話でお話する機会を得ました。これまでそうした機会は余りなかったのですが、いわゆる療育スタッフのそれとは違う“心意気”みたいなものを非常に強く感じました。それは、「料理」という非常に具体的かつ専門的な技で勝負を決めるプロフェッショナルな心意気と言えるかも知れません。ちょっとうらやましいなぁ。

■一般的に言えば、療育(指導)スタッフと給食スタッフは、厨房のカウンターを境にそれぞれが別の所にいることが多かったように思います。しかし、選択メニューなどの実施やそれらに付随する様々な問題点を考えることは、食事という極めて具体的で日常的な事柄を題材に、今、施設でのサービスのあり方について改めて見直す良い機会と言えるかもしれません。そして何より、食事について話すのは楽しい事です。

■この調査に対しては、愛知県コロニー研究所の平成4年度プロジェクト研究費ならびに、千葉大学太田俊己氏代表の科学研究費の一部があてられています。


主題・副題
精神薄弱者更生施設の「食」に関する全国調査報告書:知的障害者のQOLの向上をめざして 43頁-45頁

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