音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

イギリスにおけるソーシャル・エクスクルージョンと障害者

マリリン・ハワード(英国社会政策アナリスト)

書誌情報
項目 内容
翻訳 寺島彰(浦和大学)

英国の障害者数は、約860万人であり、人口の7人に1人が障害者であるとされる。そのうち、約100万人の障害者は仕事に就きたいと考えており、また、約270万人の労働年齢にある成人が就労不能手当(Incapacity Benefit)を受けている。65歳未満の障害者のうち約240万人が、介護と移動の費用を負担する障害者生活手当(Disability Allowance)を受けている。65歳以上の障害者のうち100万人以上が付添手当(Living Allowance)を受けている。また、障害者の介護者の約40万8千人が、介護者手当(Carer's allowance)を受けている。

本稿は、まず、最初に、イギリスの政治家や学者によって展開されている「第三の道」という考え方、特に、福祉と経済、権利と責任、コミュニティー活動との関わりについて言及する。そこでは、いわゆる「ブレアリズム」という、今のブレア政権二期目の任期において現われたいくつかの政策の影響についての意見を述べる。その後、トニー・ブレアにとっての、鍵となるテーマである、公共事業の改革、官民の協調と、首相の改革原則について述べる。次に、社会企業(Social enterprise)と社会起業家(Social antrepruner)を紹介し、サービス提供における役割の可能性について述べる。その後、第三の道の一つの側面である、ソーシャル・エクスクルージョンについて論じ、具体的な障害者政策と第三の道の影響を検討する。ここでは、手当政策と雇用政策(障害者のためのニュー・ディール政策を含む)および障害者に関する公共事業改革の問題を取り上げる。最後に、英国のいくつかの課題と今後の発展について考察する。

1. 英国における第三の道とブレアリズムの影響

2.第三の道と行政

3.社会企業と社会起業家

4.第三の道とソーシャル・エクスクルージョン

References

Main websites

1. 英国における第三の道とブレアリズムの影響

「第三の道」の考えは、トニー・ブレアと新労働党とにより共同で模索されたものであるが、その起源は、労働党の1987年の政策見直しに遡る(Giddens, 2000)。トニー・ブレアは、「第三の道」について次のように述べている。

「第三の道」とは、近代化された社会民主主義、社会正義とそれを達成するための柔軟でしかも革新的および前向きな中道左派の掲げる目標に関する情熱を意味する。そして、それは1世紀以上にわたって発展的な政策を導いてきた価値に基づいている。すなわち、民主主義、自由、正義、互助、そして国際主義である。しかし、それが「第三の道」であるのかというと、国家に支配された旧左翼、重税、生産者の論理、そして新右翼による公共投資、また「社会」という概念そのものと成し遂げられぬままの集団的努力などを決然と乗りこえるからである。(Blair、1998)

以下に、社会政策に影響を与えた「第三の道」のいくつかの鍵となるテーマだと思われることを取り上げてみる。それは、福祉政策と経済政策の統合、義務と権利に対する関心、そしてコミュニティーの重視である。

(1) 福祉と経済を統合すること

「第三の道」の考え方の第一の、そして最も基本的な要素は、福祉と経済の目標が矛盾しないこと、そして互いに協調し合えることにある。社会正義のための労働党委員会による調査報告(Labour Party’s Commission on Social Justice 1994)によれば、不平等格差の拡大により長期的には経済の健全性が損なわれると指摘されている。そこで委員会は、次の三つの提案をした。

  • 手当制度による富の分配にこだわる旧左翼の「平等主義者」は、富の生産を無視している。
  • 新右翼の「規制緩和主義者」は、社会正義は、公共事業の削減と市場にまかせてしまうことで実現できると信じている。
  • 委員会は、「投資家の英国(Investor’s Britain)」という中道の選択肢を提案した。すなわち、収入よりも機会の再分配を通じて、コミュニティーの倫理を市場経済と結びつけることである。

「投資家の英国」の基礎は、強力な経済であり、強固な経済運営の上に成っている。1997年の労働党のマニフェストには、所得税の税率をあげないこと、保守党が政権を担当するはじめの二年間に総ての予算が使い果たされることのないように注意することという公約が含まれている。例外は、最も重要視していた若者のためのニュー・ディールと呼ばれる雇用プログラムが5兆ポンドに達したために、民営化された公共事業による利益に対する臨時の課税を行ったことである。新労働党の主な関心事は、保守党が失業者と経済不振対策として行った浪費(彼らは、それを「福祉と経済の失敗」の証であるとしている)と格闘することであった。また、政府は、「結果のでる金」(Blair 1998)について議論した。政府の主な優先事項(主に健康と教育)に対する長期にわたる公共支出に対して、総合的な支出報告を求める制度を制度化した(最初の報告は2000年)。その目標としては、景気循環を超えて雇用率を上げていくこと等が設定された。

福祉と経済に関連する課題は、「企業の社会的責任(corporate social responsibility)」である。それは、企業が地方や貧困地域に投資すること、地方の計画を支援すること、雇用に恵まれない人々を雇用すること、その企業が環境に及ぼす影響を考慮すること等を意味する。通商産業局には、企業の社会的責任に対する特別任務を負った大臣がおり、「コミュニティーにおける企業(Business in the Community)」と呼ばれる雇用主団体等の組織と協力して仕事をしている(Department of Trade and Industry, 2001)。通商産業局は、企業の社会的責任に関する「ビジネス事例」(例えば、顧客基盤を拡張することで売り上げ促進をはかる、イメージ改善、異なる業種とのパートナーシップなど)を紹介している。また、通商産業局は、高齢者、障害者を含めた様々な労働力の雇用のためのビジネス事例についても紹介している(Department of Trade and Industry, 2003)。

(2) 権利と責任の強調

「第三の道」の考えでは、権利と責任を強調している。1998年の福祉改革についての議会報告書(1998 Green Paper)は、21世紀の福祉のための「第三の道」を、国と市民の契約と表現している(Department of Social Security, 1998)。これは、手当申請者、雇用主、公務員に対して、それぞれがそれぞれすべてに対して権利と責任を負うことを求めており、それのためには文化を変える必要をあげている。この改革は、次の原則に基づいている。

  • 社会は、自らを世話できない本当のニーズがある人々を援助する責任がある
  • 個人は、自分でできることは自分で行う責任がある
  • 労働は、労働可能な人々にとって福祉から脱却するための最適の方法である

これらによって、手当を支給するだけではなく、積極的な支援により福祉から労働へ導くことが可能となるかもしれない。機会の確保と、権利と責任のテーマに基づき、政府の戦略は、互助責任に基づく(自らを支援する人々を支援する)福祉国家の実現を目的としていた(Blair 2002 a)。この戦略の一つとして、労働年齢にある人々に対する雇用と手当の両方を取り扱う新しい機関を創設した(Department for Education and Employment, 2001)。それは、「ジョブセンター・プラス(Job Center Plus)」とよばれる事務所であり、現在、英国内につぎつぎに開設されつつあり、2006年までには全土に普及する予定である。この事務所の役割は、より活動的な戦略により、雇用主と個人に対応しようとするもので、病気や障害のある者の雇用を支援することなどを行う。また、手当と雇用に関する政策は、新しくつくられた雇用年金局(Department for Work and Pensions)でも統一的に推進されている。

雇用主の責任も問われている。企業の社会責任だけでなく、政府は、雇用主の義務を導入した。これには、全国最低賃金、週あたりの労働時間の制限、パートタイム労働者のための新しい権利、育児や介護のための休暇などが含まれる。おそらく今後もっとも論議になるのは、医療ケアが改善されたとして、今年、雇用主が国民保険の保険料を1%多く支払っているということである。

(3)「コミュニティー」の重要性

「第三の道」の考え方において、「権利と責任」に関連しているものに「コミュニティー」がある。コミュニティーも、経済的成功のためには重要である。新労働党の「コミュニティー」への関心は、エツィオーニやその他の人々が喧伝した「共産主義者」の考えに影響されている。インクルーシィブなコミュニティーの構築と市民参加を実現することの重要性を訴えることで、因習的な左翼―右翼の分離をのり超えようとしているのである。共産主義は、個人主義の欠点を暴くと同時に、権利よりもむしろ義務と責任を強調する。(エツィオーニは、まさに、人々が他者への奉仕に集中できるように、すべての新しい権利には猶予期間が必要だと提唱している。)共産主義は、労働者に社会階層の概念を放棄させたと言われてきた(たとえば、社会民主主義からリベラルな保守主義へと転換させることなど)(Powell 1999)。

コミュニティーかどうかは、倫理的価値を共有しているかで区別されると考えられており、それにより、社会の結束を回復することができる。国家ではなく市民社会が、市民権の基礎を下支えしており、そのために、コミュニティーの利益のために活動している(金儲けのために設立されたのではない)。英国の非営利団体コミュニティーやボランティアセクターが、新しい民主主義と政策決定に重要だと考えられている(Blunkett, 2001)。トニー・ブレアは、フェイス・コミュニティー(Faith Community)の役割の大きさについても興味をもっているが、英国は、基本的に非宗教社会であるので、どれほどこれが発展を遂げるかは未知数である。しかしながら、コミュニティーに基礎をおいた組織は、一般的に、福祉国家のサービスの提供においてある役目を負っている。このことについては、ソーシャル・エクスクルージョンと公共事業改革において再びふれる。政府は、ボランティアセクターを、積極的社会参加を促進する市民社会における必須要素としても捉えている。内務省は、政府とボランティアセクターやコミュニティーの団体が、いかに協同していくべきかについての考え方について出版物を出している。他者の幸福に貢献し、ボランティア自身の個人的な成長を促し、そして社会の結束を強化する点で、個人によるボランティアもまた、重要だと考えられる(HM Treasury and Home Office, 2002)。

ブレア政権の影響

第三の道は、それ自体で十分に独立したものだといえるのだろうか?それともほとんど意味のない実利的な中間段階にすぎないのであろうか?「サッチャーリズム」と表現されたマーガレット・サッチャー政権下での保守政策と同じように、「ブレアリズム」と呼ばれ得るもののなかに、一貫した哲学があるのかどうかということについて、評論家は異論をとなえるであろう。サッチャーとブレアには、どちらも独断的なスタイルのリーダーシップを発揮し、自分の政党の変革を中心においているという点で、いくつかの類似点がる。たしかに、ブレアはただ保守党時代の遺産を享受しているにすぎないという議論はすでにあるが、しかし、最低賃金の導入や、十年以内に子供の飢餓を根絶させる誓約など、保守党が持たなかった鍵となる政策を行っている。

トニー・ブレアの最初の任期は、多くの重要な目標を提起したことがその特徴といえる。第二期は、それらの目標を掲げサービスを提供することに集中している。2001年に二度目の総選挙の勝利した後、第三の道が失われてしまったのではないかということに関心が集まった。トニー・ブレアの反応は、次のように明確であった。「我々のためになることに、我々は反対しない」(Blair, 2003)。彼は、英国の政治勢力の再編が目標であると述べた。すなわち、「急進連合(radical coalition)」についての議論を、それに賛成する人々といまだ賛成してはいない人々が議論し、市場経済における個人の自由か社会正義の推進かという中道左派の2つの主要な流れを結びつけることである。彼はこの計画を、「保守主義(左翼と右翼の両方の保守主義を意味する)の力」ではなく、「進歩の力」と定義している。

この第三の道の再表明は、第二期の中核となる領域は、行政改革であることを示している。以後、公共事業と社会企業の現在の役割と潜在的な役割について考えながら、第三の道により提起されたいくつかの問題をみていくこととする。

2.第三の道と行政

公共事業の改革は、いまや重要課題であり、それは「ブレア政権」の試金石とみなすことができるだろう。2002年1月に行われた福祉改革についての演説で、トニー・ブレアは、旧来のパブリックセクターの考え方から、新しい公共事業の考え方へと根本的な路線変更するために「選択できる供給事業者の消費者の選択肢のさらなる拡大」を促進する必要性を述べた(Blair, 2002b)。

官民のパートナーシップ

社会政策研究所によって組織された官民パートナーシップ研究委員会(Institute for Public Policy Research)は、英国における論争では、資金調達とサービス提供が混同されていると述べた。すなわち、民間やボランタリーセクターに任せるのが意味のある場所や時期を明らかにするためには、資金調達とサービス提供を区別することが必要であるとする(Institute for Public Policy Research, 2001)。委員会は、官民パートナーシップは、公共事業に、余分な資金提供をもとめられず、しかも、支援の質の改善とてサービス提供についての対応が早くなると述べている。

医療ケアなどの英国の公共事業の資金調達には、次の4つの方法がある。それは、一般税(すべての納税者から)、国民保険(雇用主と被雇用者というより小さな団体から)、利用者の個人負担(イングランドでは、利用者は、医療は無料であるが、社会的ケアに対する支払いがある)、そして民間の保険(補償範囲は極めて限られているが)である。医療費は、ほとんど一般税から資金を調達しており、国民保険加入者による支払いもごく一部行われている。

資金調達とは違って、サービス提供はさまざまに組みあわされている。現在、民間およびボランティアセクターは、高齢者や障害者に対する施設ケアおよび在宅ケアの半分を提供している。民間団体は、また、パブリックセクターが提供できないサービス(たとえば学校におけるサービスなど)や、主要な生活活動に対して「補助的」とされるもの(たとえば掃除など)を引き受けるようになっている。一方、住宅手当管理部が、いくつかの地方政府に外注しているのをのぞけば、ほとんどの手当金の支払いは、国によってなされている。ときには(対立ではなく連携がとれているようなところでは)、この官民パートナーシップのシステムはうまく機能するが、そうでないところでは、その管理は、地方政府にまわされる。(Harvey et al, 2003)

他のサービスのモデルとなり得る官民パートナーシップの例は、長期にわたって失業状態にある人々の復職を支援する雇用ゾーン(Employment Zone)による方法である。15のすべてのゾーンにおいて、民間の請負業者が公共職業安定所(Jobcentre Plus)の仕事を引き受けた。これらのゾーンのうちの9ゾーンでは、官民パートナーシップにより、ワーキングリンクス(Working Links)と呼ばれるユニークな営利会社を運営している。この会社は、職業安定所(Jobcentre Plus)、キャップ・ジェミニ・アーンスト・アンドヤング(Cap Gemini Ernst and Young)、マンパワーPLC( Manpower PLC)などが、対等に所有しており、三つのパートナー組織から選出された理事会により管理されている。今日までをみれば、雇用ゾーンは、類似のプログラムよりもより効果的な雇用結果をもたらしているという証拠があるが、これについては、長期にわたる評価が待たれるところである。

委員会は、国以外に関与する場合は、社会的ニーズと公共の利益に応えるような基準に拠らねばならないと提言している。その基準は、質の高いサービスを実現する費用対効果の高い方法かどうか、(公共にしろ、民間にしろ)サービスと供給事業者について、共通でしかも明快な説明責任を備えているか、改善方法が明確であるかどうか等である。

改革の原則 

総理府は、公共事業改革について次の4つの主要原則を示した。第一の原則は、明快な説明責任の枠組みに関する国家規格である。この原則は、供給事業者ではなく調整役として国をみる考え方に基づいている。公約された公共事業改革は、中央政府の管理によってのみには行われ得ないという議会の認識が浸透してきた(Milburn, 2002)。中央政府は、主要目標とその目標を達成するための国の最低基準を定めた。たとえば、イングランドの医療と社会ケアに関する「全国サービスフレームワーク(National Service Frameworks)」は、これらのサービスが満たすべき基準を定めることで、サービスの質を向上させ、対象とならない介護サービスの種類を減らそうとしている。今までのところ、メンタルヘルス、冠状動脈疾患などがとりあげられており、現在、長期にわたる疾患に関するものを開発中である。

説明責任と監査の新しい体制が導入されつつある。また、学校、病院、地方政府などのサービス供給についての水準を測定するための実績の格付けも導入されてきている。新しい監査団体の例としては、ソーシャルケア監察委員会(Commission for Social Care Inspection)がある。この組織は、その前身の団体とは異なり、健康局(Department of Health)とは独立した組織とされる予定である。もう一つの例は、論議をよんだ病院信託(Foundation Hospital Trusts)の提案であり、それは公共事業に対する「第三の道」の最初の例であった。病院信託は、健康局によってではなく、地元の人々や信託組織に勤める人々などから直接選ばれた知事の諮問委員会によって運営される、NHS基金信託独立監査機関(Independent Regulator for NHS Foundation Trusts)と呼ばれる新しい非政府部門により運営される。

公共事業改革の第二の原則は、第一線への権利の移譲である。ブレアの最初の任期において、政府は、医療や介護といった、いくつかの鍵となる政策をスコットランドやウェールズの地域に移譲した。今後の目標は、権限や資源を中央政府から第一線の公共事業を行っているスタッフに移譲し、個々の利用者のニーズにみあうようにしていくことである。たとえば、2004年4月から、公共職業安定所(Jobcentre Plus)は、第一線の個別相談員の自由裁量権をより柔軟にして、地方の雇用問題を解決するために地域担当者が自由裁量のきく新しい基金を作る。もっとも成功を収めた担当者にはより多くの報奨金を出するが、失敗した地域担当は交代させられる。

改革の第三の原則はより柔軟であることである(効果があった場合の報奨金を含む)。公共事業のテーマは、改革する能力を増進することである。それには、受託業者に対する柔軟性が必要である。これは雇用ゾーン(Employment Zones)の一つの特徴であるが、受託業者は、ゾーン参加者のための三つの段階に関して独自のプログラムを作成する柔軟性が認められている。最初の段階は、公共職業安定所から求職者手当(Jobseeker’s Allowance)が支払われる。それは、13週間続く。その後、受給者は受託業者によって評価される。支援計画について合意した時は、その時点で求職者手当の支給が停止され、かわりに、受託業者によって手当てが支払われる。その手当は最高26週まで支払われる。手当の額は、すくなくとも、それまでの手当てと同額でなければならない。

その他の鍵となる問題は、供給事業者が望ましい結果を導けるように、妥当な報酬を得ることをいかにして確定するかということである。雇用ゾーンの受託業者は、結果に応じて報酬を得る。政府は、いくつかの支援計画活動に対し資金を出しているが、クライエントが就職した場合、支払いのほとんどは受託業者に対してなされる。また、求職者が仕事を得た後その仕事が三カ月以上続いた場合にはより多くの支払いがなされる。その他のプログラムも結果払い方式に移行している。また、障害者を支援付雇用から脱却させても供給事業者や雇用主には報酬がまったくないこと(そして手当が支払われなくなる)から、英国の支援付雇用制度に新しい財源確保の制度が導入された(ワークステップ(Workstep)と呼ばれている)。このプログラムでは、月々の支払いの他に、支援の進展に対する報酬を含んでいる。

長期的または基本的な資金に頼るのではなくて、短期的あるいは費用ベースの支払いに頼るとすれば、ボランティアセクターの組織は、短期契約を再交渉するための時間と金を浪費することになる。その結果、ボランティア組織最高責任者協会は(Association of Chief Executives of Voluntary Organisations)、ボランティアセクターが公共事業にもっと従事できるように長期契約(最長25年間まで)をすることを呼びかけている(Ormerod et al, 2003)。

最後の公共政策改革の第四の原則は、消費者の選択である。過去においては、供給事業者の範囲が限られていた。しかし、それでは、ボランタリーセクターや民間の技能や経験を見逃しかねない。同一のサービス地域における協力関係は、分裂や競争を導きかねず、そのために、利用者が組織ごとに異なるシステムに導かれることで、質の低下を招くために受給者の利益にならない。

これらの原則とともに、公共事業は、互助やコミュニティーを活用して、もっと改革されるべきだと指摘する人もいる。すなわち、公共事業の一部を、地域の人々や利用者自身によって所有及び経営されている互助組織にまかせるということである。政府は、これまでの「公による所有(public ownership)」の考え方を「コミュニティーによる所有(community ownership)」に変更することを提唱してきた。例えば、いくつかの地域で公営住宅を管理しているアームレングス・カンパニー(Arms-Length Companies)や、すでに述べた医療信託基金などがその典型例である。

3.社会企業と社会起業家

福祉と経済の協調という「第三の道」の哲学は、「社会起業家」と「社会企業」に対する感心の高まりにより示される。英国やヨーロッパ共同体は、ともに、公共の利益を実現するためにビジネスの解決手法を活用することで、社会企業が、強力かつ持続的でインクルーシブな経済を創造するのに役立つ明確かつ価値のある役割を演じてくれると信じている。しかし、社会企業の意味は、必ずしも明確ではなかったし、全国的に統一されたものでもなかったため、ときには議論が混乱した。

「社会起業家」は、福祉や福利の促進を目的とし、利潤を目的とはしないが、ニーズに応えるために資源を動員する際にはビジネスライクにそれを行う人と定義されている(Social Enterprise Coalition, 2003)。政府は、経済に競争圧力を高めることで、生産性を高めるために、企業家精神を支持している。起業家は、利用者との長期的な関係を築き、革新的な解決方法により官民の溝を埋めることができるかもしれない(Leadbeater 1997)。起業家は、公共セクターで働くこともできるが、民間セクターで働く場合よりも、革新的な能力を発揮するには様々な制約があるかもしれない。

政府は、さらに、小ビジネスを奨励しているが、これは、「社会起業家」をより刺激することであろう。しかし、就労人口の十分の一が自営業であるにもかかわらず、調査報告では、典型的な起業家は、36歳の白人男性であるとされている。その他のグループ、たとえば、障害者については、十分に示されていない。これは、貧困地域の住民も同様である。ほとんどが高所得者ではなく、四分の三は一人で働いているか、もう一人のパートナーと一緒に働いている(Weir 2003)。障害者は、非障害者と比べると、多少自営業が多いが、職業上の地位は低く、財、サービス、各種相談へのアクセスにおいて不利にある傾向がある(Boylan and Burchardt, 2003)。障害者の起業家を育てることで、各種相談や助成金、差別禁止法、手当規則の活用が促進されるであろう。

「社会企業」は少し違った概念である。社会企業は、個々の起業家の想像力と活動力の産物であるが、多様な形態がある。社会企業には、信用組合、協同組合、ソーシャル・ファーム(social firms)、慈善団体(charity)の出先機関(たとえば小売店)等が含まれる。コミュニティーを基礎にした小さな団体のときもあるし、国の大きな組織である場合もある。社会企業は、市場格差の解消を実現するかもしれない。あるいは民間を買収するかもしれない。社会企業は、法的に規定されているのではなく、何をなすかという本質で決まる。通産省(2002)は次のように言っている。

「基本的に社会福祉を目的としており、その利益は原則的に、最大の利潤を求める株主や所有主のニーズを満たすために使われるのではなく、ビジネスやコミュニティーの目的を達成するために原則的に再投資する企業。」

社会企業の共通の特徴は、次のとおりである。

  • 市場に商品やサービスを提供することに直接関与するという企業の指針を持っていること。
  • 雇用創出、地域サービスの提供やそのための訓練、福祉目的達成のために利潤が再投資される等の福祉目的をもっていること。
  • 利用者、コミュニティーグループ、社会投資家のような団体が参加している等社会所有権の形式をもっていること。(Social Enterprise Coalition, 2003)

社会企業の定義のなかに「ソーシャル・ファーム(social firms)」が含まれている。これは、障害者にとって重要である。これらのファームの達成すべき目標は、収入のすくなくとも半分以上が売り上げからのものであることと、従業員の四分の一以上が障害者や弱者であることである。ソーシャル・ファームは、次の三つの基本的な意義をもたされている。すなわち、市場価格によって決定され支払われる賃雇用を通じたインテグレーション、雇用支援、雇用機会、生活できる(meaningful)仕事を提供する雇用環境、市場指向と福祉目的の結合である。その一例が、「第四セクター(Forth Sector)」と呼ばれるスコットランドの会社である。この会社は、ゲストハウス、クリーニング屋、ケータリングビジネス、装飾サービス、ITビジネスを含めたいくつかのソーシャル・ファームを持っている。それぞれの商売は、メンタルヘルスの問題をかかえている従業員に、非障害者のとなりで働きながら、訓練と職業経験を提供することを目的としている。

障害者雇用サービスを提供している、いくつかの組織(例えば、Shaw Trust等の慈善団体のように)は、社会企業と考えることができるであろう。しかし、用語がまぎらわししいため、それらの組織が、障害者関係の議論において社会企業として捉えられることはまれである(供給事業者と呼ばれる)。従って、英国における障害者関係の議論においては、ソーシャル・ファームの市場におけるシェアに関してではなく、むしろ、その雇用主としての役割が重要だと考えられている。ソーシャル・ファームは、保護された労働と支援付一般雇用の中間に位置する障害者サービスとみることができる。ソーシャル・ファームと支援付雇用の境界はあいまいであるが重要な意味がある。なぜなら、後者は、雇用主助成金や政府の補助金を得られるからである。

現在のところ、ソーシャル・ファームは、ほとんどない。増加しつつあるが、英国内に、ソーシャル・ファームは45ほどしかなく、119のファームが立ち上がりつつあるところである(Social Firms UK, 2002)。非政府系の供給業者によって運営されている雇用プログラムのうち、ソーシャル・ファームが運営しているのはたった四分の一である(Arksey et al, 2002)。従って、ソーシャル・ファームが障害者の雇用支援の主要な提供事業者であるといえるまでには、長い道のりが必要であろう。国の手当だけが収入であるような貧困地域の消費者を当てにしているとすれば、ソーシャル・ファームの市場が限られているということもあるであろう。

しかし、政府がその部門に興味をもっているために、今後、より成長する可能性があるかもしれない。社会企業連合(Social Enterprise Coalition)、協同組合運動、コミュニテーアクションネットワーク、ソーシャル・ファームUKなどの、多くの組織が、現在、社会企業を推進している。2年前、社会企業課(Social Enterprise Unit)が、通商産業局内に設立され、社会企業戦略報告書を出版している。政府は、社会企業の運営を容易にするため計画された新しい法定組織として「地域利益会社(Community Interest Companies)」の導入を推進している。

社会企業は、公共事業により参加できるか?

最初のほうに述べたように、ボランティアセクターの組織は、短期の助成金に頼っているために、公共セクターの仕事を入札で手に入れることができない。銀行は、社会企業を、リスクの大きい、あるいは「非営利」なものだとして、異質な概念とみなしているようである。民間セクターの会社に外注しているものの中には、質の低下をきたしたり(基準をみたしていない施設ケアなど)、公的資金が「暴利をむさぼる人」に流れていくという懸念を国民に抱かせるようなものがある。政府は、消費者に近く、革新的で、利益確保に制約されない社会企業が、こうした問題を解決できると考えている。たしかに、住宅供給公社によって管理され資金提供されている住宅協会のようないくつかの非営利組織は、すでに公共セクターの供給事業において、長年にわたって重要な役割を演じている。失業者のためのニュー・ディールプログラムの下で、ボランティアセクターあるいは環境保護セクターにおけるニュー・ディール職業斡旋をとおして、人々は社会企業で働くことができる。しかし、これ以上の、福祉や公共事業における社会企業の関与は、いまだ限定的である。

実際問題として、契約前の交渉に要する費用は小さな企業や社会企業にとっては高くつくし、いくつかの公共団体は、指定された供給事業者や財政力があり似たような契約をした経験を持つ会社とのみ取引をする。ボランティア組織は、助成金がサービスにかかるすべてのコストをまかなえないとき、自分たちは地方政府の事業を補完していると感じている(Institute for Public Policy Research, 2001)。公共セクターができることの例としては、ロンドンのイーリング地区協議会がある。同協議会は、購入者と出資者に考えを普及させ、同協議会と契約するための指定事業者名簿に載せて欲しいと考えている社会企業を支援するための入札支援プログラムを開発することで社会企業に機会を提供してきた。政府は、最近、医療やコミュニティー・ケア等の五つの主要な領域で公共事業を運営するボランティア、コミュニティー組織や社会企業を支援するために1億2千5百万ポンドの「将来構築者基金(future builders fund)」の導入を発表した。

政府は、地元企業の振興にも関心をもっている。たとえば、貧困地域の住民はビジネスを始めたり自営業者になりやすくなっている。これはソーシャル・エクスクルージョンを解消するための戦略の一つでもあるが、これについては、次に述べる。

4.第三の道とソーシャル・エクスクルージョン

「ソーシャル・エクスクルージョン」は、英国よりも、ヨーロッパのほかの国(とくにフランス)において長い歴史をもっている。英国では、当時の保守派政権が貧困について認識していなかった政治的状況で議論がはじまった(Hills et al, 2001)。ブレア政権は、児童の貧困と年金生活者の貧困、およびソーシャル・エクスクルージョンの問題に取り組むことを公約している。ソーシャル・エクスクルージョンのために重要なのは、第一に、所得だけではなくその他の政策部門を含むこと、第二に、貧困とエクスクリージョンに取り組むための地域を基盤にした戦略、第三に、コミュニティーの取り組みにあると考えられる。

低所得による貧困以上のソーシャル・エクスクルージョン

「第三の道」の考え方では、福祉と経済を結びつけるため取組みの中には、所得だけではなく、機会の分配も考慮される。これは、旧左翼の主な関心事であった。また、別に、職業と教育も考慮される(Mandelson, 1997)。将来に期待がもてない、人のつながりが少ない、人生のチャンスが限られているということも、ソーシャル・エクスクルージョンに関連する。特に、近隣の人々とのかかわりや住宅問題がかかわっている。新労働党は、ソーシャル・エクスクルージョンを、次のように定義している。

ソーシャル・エクスクルージョンとは、個人や地域が、失業、未熟練、低所得、住宅難、高い犯罪率、不健康、家庭崩壊等の複合した問題に苦しむときに起こりうるものについての端的な呼び名である。
機会拡大の必要性に焦点をあてて、ソーシャル・エクスクルージョンに取り組む活動における、鍵となるテーマと戦略には、次のようなものがある。

  • 幼い頃から子供たちの、国語能力、算数能力、学ぶ興味を向上させ、不登校問題に取り組むこと
  • 雇用支援と訓練を受けられやすくすること
  • 医療の不平等の軽減
  • 高齢者家庭の燃料不足への取り組み
  • 見苦しくない住宅の供給を増やすこと(Department of Social Security, 2000)

諸問題に対する政府の対応方法も、ソーシャル・エクスクルージョンの原因の一つと考えられる。貧困な住宅政策、コミュニティーの軽視、コミュニティーよりも物理的環境の再生を重視することなどがそれにあたる(Social Exclusion Unit, 1998)。これまでの政策は、これらの問題のいくつかに対して個別的に取り組んできたが、それらの相互作用についてはほとんど対応してこなかった。かつての「大きな」政府は、しばしば平等を推し進めることに失敗してきており、中央集権国家が予算化し提供したサービスは、貧困と格闘し社会の流動性の促進するためには不十分であったため、今後は、政府が、より首尾一貫した取組みをすることが重要であると政府は述べている。「複合的な問題には、複合的な解決が必要である」。そこで、1997年12月に、トニー・ブレアは、政府の心臓である内閣府の中に、ソーシャル・エクスクルージョン課を設置した。

政府は、エクスクルージョンの原因についても、取り組んでいる。失業、不健康、犯罪などための費用を減らす上で重要な考え方は、問題が起こる前に未然に防ぐ活動の必要性であった。1998年の福祉改革の議会報告書(Welfare Reform Green Paper)は、福祉は、事が起きてしまってから行動することだけではなく、人々に、きちんとした教育、訓練、支援を確保することによって、貧困を未然に防ぐことを事前に行うべきだと述べている。このことは、人々の個人的資産(技能、雇用、教育)を構築することになるであろう。

所得についてのエクスクルージョンに関していえば、社会福祉組織や施設を活用できないことは、プロセスとしてのソーシャル・エクスクルージョンだといえる。生涯にわたる貧困(貧困あるいは排除された状態をすごした長さ)の「ダイナミクス」に関する研究によれば、ある時点の一瞬をとらえるよりも有意義な分析ができることが示されている(Oppenheim, 1998)。同じように、長期的研究によれば、障害は静的な状態ではないことが示されている。日常生活に制限をうけつつある成人の半数以上が、少なくとも二年以上継続する小康状態があり(メンタルヘルスのように)、断続的なパターンを示すことが一般的である(Burchardt, 2000)。

所得以外要素に関するプロセスとしてのソーシャル・エクスクルージョンは、障害者にも関係がある。障害者は、教育、就職、余暇活動の機会が制限されていることと、低所得、高コスト、他者の否定的態度等の複合的な相互作用により社会から排除されている。調査によれば、障害者の5人に1人が、物理的障壁、参加拒否、公共交通機関を利用できない等の理由で、商品やサービスを得られないという困難に遭遇している(Grewal et al, 2002)。そして3人に1人が、余分の暖房器具をもつことができない(Leonard Cheshire, 2002)。また、不健康な人々や障害者は貧困地域に集中している。

地域主導性

ソーシャル・エクスクルージョン課(Social Exclusion Unit)は、イングランド内の貧困地域を分析し、地域主導を推奨するとともに、もっとも貧しい地域とその他の地域との格差を軽減するという目標を立てた(Social Exclusion Unit, 1998)。「地域改善のための全国戦略(National Strategy for Naighbourhood Renewal)」においては、特にサービスの最低基準を定め、もっとも貧しい地域とその他の地域の犯罪率、住宅基準、医療および雇用の格差を軽減する「基本目標(floor targets)」が導入されている。貧困地域にこそ良質のサービスが重要であり、要求はどこよりも高いはずであるのにもかかわらず、いくつかの地域では、公共事業は二の次であったり存在もしていない。コミュニティーのニュー・ディールは、主要な改革課題であり、イングランドでは39の貧困地域において協力関係を構築して、住宅、健康、失業等の主要な課題について、最も貧しい地域とその他の鍵となる地域との格差を軽減するための10年計画が押し進められている。シュア・スタート(Sure Start)プログラム等の貧困地域における新しいサービスが展開されている。シェアスタートプログラムは、発達と心理的ニーズをもつ三歳以下の幼い児童とその家族を支援するためのプログラムである。

たとえ、全国的に雇用機会が増したところで、貧困地域はそれ以外の地域と比べて、あまり得るものがない。したがって、政府は、そうした地域における仕事の増加と会社の発展を支援することを目標としている。その目標には、最貧困地域におけるビジネスの創設と発展を目的として国内に2000の「企業地帯」を指定することなどが含まれる。

英国の地域を基盤とした取り組みには長い歴史があるが、1997年以降は、いくつかの地域では、計画の対象にするかどうかを、その地域の特質に基づき選択している。例えば、コミュニティーのためのニュー・ディール(New Deal for Communities)は、その例である。その他の地域では、国の変革をテストするパイロットスタディとして選択されており、雇用ゾーンは人口の集中度によって選択されている(Tunstall and Lupton, 2003)。確かに、政府は、変革の「試験的(pilotiong)」手法を社会政策にまで劇的に拡大した。そして、そのことで、優先度と資金助成の順番が混乱してしまいた。

コミュニティー重視

地域を基本にした政策とともに、政府は、ソーシャル・エクスクルージョンと格闘する戦略の実施において、「コミュニティー」を重視することに次第に関心を持つようになった。これは、はじめのほうに述べた互助とコミュニティー所有についての関心から発展してきた。主導権の再生に関する研究によれば、実際問題として、地域の柔軟性の不足と、中央との連携不足の双方のために、地域の共同活動が妨げられていると指摘されている(McGregor et al 2003)。コミュニティーのためのニュー・ディールについての評価によれば、「コミュニティー重視」により、地域住民の協力関係が生まれることを見いだしている。しかし、「燃え尽きて」しまった地域があり、別の地域ではコミュニティー内での緊張関係が起こった(Office of the Deputy Prime Minister, 2003)。10年間の戦略的計画は複雑で、住民は、いつもそれを行えるとは限りない。コミュニティーのためのニュー・ディールにおけるコミュニティー重視により、黒人やエスニック・マイノリティーの住民のインクルージョンがいくらか前進したが、ジェンダーや障害には、それほど注意が払われていない。

コミュニティーの自助のためには、コミュニティーの能力の向上を必要とするが、それも地域改革の中心である(Demos 2003)。

「協同生産(Co-production」」は、別の発展しつつある考え方である。専門家スタッフとサービス受給者が連携して、「協同生産」すれば、最も効果的な福祉が実現できるとされる。例えば、子供や高齢者の世話、移動支援など、近所や親戚に対して人々が提供するある種の非公式な相互支援を指す。まだ政策論争の中心テーマにはなっていないが、互助責任の考え方となんらかの関係があり、保健サービスについての責任を共有するなどいくつかの分野におけるテーマとなるであろう。

次に、障害者政策を取り上げる。

5.第三の道と障害者政策

1997年2月のトニー・ブレアの最初の首相就任演説で、ソーシャル・エクスクルージョンに関して彼は「下層階級の人々は、目的の共有という考えに無縁で、社会の主流からエクスクルージョンされている。」と述べている。「下層階級」という用語は、最近では用いられないようになったが、それはさておき、ソーシャル・エクスクルージョンの原因について、個人の問題なのか、社会の問題なのかという議論がある。この議論は、障害分野でよく知られた議論を反映している。つまり、医学モデルは個人とその障害を強調しており、社会モデルは、社会に焦点を当て、障害者のために社会が変わるべきだと考える。そこで、障害者政策の議論においては、トニー・ブレアによる、あるいはその前の保守党政権による政策推進の背後に隠されたいくつかの前提をここで明らかにしておきたいと思う。

障害モデルと「第三の道」の影響

保守党政権下での障害者政策は、おうおうにして医学モデルを反映したもので、機能障害を技術的に解決することを重視したり、インクルージョンよりも差異を強調した。労働年齢の障害者に対する主要な対応は、手当を支給することであった。いくらかの雇用対策はあったが、「差別的」になりがちであった。医学モデルは、個人に焦点を当てるが、それは保守党の個人偏重の考え方と合致した。しかし、これはまた、地方政府の社会サービス部が障害者に、サービスよりもお金を与えることを許可するなどの、よりポジティヴな政策をももたらした。

ブレア政権の初期は、障害者の異なるモデルの影響について限られた認識しかなく、障害者手当の削減といった政策のいくつかは、どうやら医学モデルの考え方を反映していたらしいのである。しかしながら、障害者を支援するためには、個人に対する支援もさることながら、互助と社会的義務の考えが必要である。「第三の道」において、個人と社会の要素の両方の影響を考慮に入れる必要性があることから、互助主義的アプローチ((Howard、1997)が生まれた。また、障害者と非障害者の互助が提起された(Christie and Mensah-Coker、1999)。後者は、障害者をマイノリティーの宿命としてではなく、複数の可能性として、平等に職業につくことの要求することができ、また、障害者の権利を主張できることができると論じた。それ以降、政府は異なるモデルに影響を受けるようになったようである。医学モデルは、手当政策なかにみることができる。また、社会モデルは、市民権のなかにみることができる。そして生態学心理社会モデルのような二元的なモデルは(Waddell, 2002)、近年のリハビリテーションモデルのなかにみられる。これらのことは、政府の政策内部も緊張関係にあり、障害者政策を支える一貫した理論を発展させるためには、第三の道についてより検討する必要があることを示している。

第三の道の要素と障害

はじめのほうで、第三の道の三つの鍵となる要素を示した。それは、福祉と経済の結合、権利と責任、そしてコミュニティーであった。

経済と福祉を結合に関しては、障害者政策は、社会的責任を求める政府のより大きな計画の一部であり、障害者が従業員として働き、消費者として消費することで、商業的利益をあげることができるという認識がひろがってきている。障害者についての雇用主フォーラム(Employers Forum on Disability)は、障害者雇用のための「ビジネス事例」(business case)を推進している(ザデック&スコット・パーカー、2001)。このアプローチがうまくいったかどうかを示す情報はほとんどないが、雇用主の調査では、4社に1社が、障害者雇用は、企業イメージによいと回答した(Stuart et al, 2002)

権利と責任に関しては、実際の福祉戦略において、あるいは、(多くの民間企業の)雇用主や商品・サービス供給事業者の義務として、より大きな個人の責任を要求している。

以前の保守党政権は、法律よりもむしろ、信条に頼る傾向があり、1996年まで割当雇用率制度が存在した。これは、20人以上を雇用する民間企業の雇用主に対して、従業員の3%以上を、登録された障害者から雇用するよう求めた(Berthoud et al, 1993)。しかし、この割当雇用率は強制力をもたなかった(50年間に訴えられたのは10件にすぎない)。雇用主は、この雇用率を無視し、雇用サービスに登録されている障害者はほとんどいなかつた(Oliver and Barnes, 1998)。最初は、障害者差別に関する認識はなかったが、しだいに、強力な市民権キャンペーンにより、1995年に障害者差別禁止法が成立し、雇用率制は廃止された。この法律は、雇用主や商品・サービス供給事業者が、障害者を非障害者よりも好ましくないものとして扱うことは違法であるとしており、また、合理的な便宜をはかる義務があると規定している。しかし、強制力がなかったために、1997年の労働党声明に、この改正が盛り込まれた。障害者権利委員会が、2000年に導入され、これによって法律が強化された(教育は、2002年に追加された)。雇用主が、障害者に対して、保証付きの求職者面接を行い、「障害者のシンボルを利用する」ようになるなど、いくつかの信条はまだのこっていて、それは雇用率にいくらかの影響をあたえているようである。

コミュニティーを強調することは、「コミュニティー・ケア」を実践している社会保障省(Social Services Departments)には、とりわけ重要である。それにより脱中央集権が可能になり、地方の自立組織の役割が増すことになる。今日、いくつかの地方政府は、地域組織やボランティアを含めた投資家団体などの、地域コミュニティーとともに働いている。また保健部門の関係機関とも協力している。自立と利用者中心のサービスを推進するために、社会サービスに対して追加の予算が計上された(Department of Health, 1998)。これは、利用者参加を求める障害者組織の要求と合致している。新労働党は、また、直接払い(direct paymentsサービスの代わりとしての現金)を推進することで自立を強調してきた。まだ、数は多くなく(7,884人)身体障害者が中心であるが、この選択をする人々が増えてきている。

手当と雇用政策

就労不能に基づく手当(国民保健によるものと社会扶助によるものの両方を含む)の受給者数は、1970年代後半から1995年のあいだに3倍になった。そして、手当をより長期間給付してほしいというあたらしい主張がでてきた。現在、平均継続期間は、9年である。女性、50歳未満の人々、そして精神衛生上の問題を抱える人々の受給が、増えている。保守党政権下では、いくつかの手当が廃止され、短期の病気に対する雇用主からの手当と、就労不能についての厳しいテストが導入された。

新労働党が政権を握った後も、保守党政権下で始まった障害者生活手当の受給者の見直しを継続したので、ダウニング街10番地の首相官邸の前ではデモが行われた。政府の初期の福祉改革には、ある障害者の人々(たとえば、年金による所得がある人、働いているパートナーがいる女性など)に対する手当を削減または廃止し、それ以外の手当(たとえば、資力調査を伴う非常に多くの個別支援を必要としている人々に対する手当など)を増額することが含まれていた。1998年の改革は、以前の保守政権が手遅れだとして拒否したものであるとして障害者団体から批判された。しかし、この改革は、税額免除を拡大するなどが含まれていたため、雇用の疎外要因をなくすという観点から前向きに受け入れられた。寛大な税額免除を含めて、より積極的に受け入れられた。就労不能手当規則に対する小さな改革により(たとえば、一年以内に給付金に戻ることができるなどで)、仕事につきやすくなったが、基本的に手当金制度は、「就労不能」という概念に基づいているので、そのことが、福祉に対する、より積極的なアプローチを難しくしているといえる。(Howard, 2003)

1998年の福祉改革は、「働くことができる人々には仕事を、できない人のためには保障を」というスローガンにもとづいて、障害者が、尊重されて、充実した生活をおくることができるように支援することを目的としていた。最近は、障害者の雇用率の上昇、障害者の雇用率と全体の雇用率との格差の是正、障害者の権利の改善、および障害者の社会参加のための障害を取り除くことに重点が移ってきている。

保守党の雇用政策では、おおまかにいえば、障害者の支援つき雇用(いまはワークステップと呼ばれている)、雇用リハビリテーション(いまは雇用準備とよばれている)、職場適応と設備と支援員の管理(労働計画へのアクセス)について評価する専門家チームと障害者雇用アドバイザーが中心であった。新労働党政権は、この基本的構造を根本的に変えたのではなかったが、そこに新しい構想を加え、現実的な労働市場政策の一部として就労不能手当受給者に焦点を絞った。しかし、このことは、保護雇用から離れ、職業斡旋支援を通じて、一般雇用に道を開いていく方向に政策の中心を移行させることになった。

障害者についてのニューディールは、従来あらゆる就労が困難である(手当の主要な条件)と考えられてきた就労不能手当受給者を対象にした、もう一つの重要な政策転換を意味している。障害者のためのニューディールには、二つの異なる試験的プログラムがあった。最初のプログラムは、1998年から2000年のもので、24の改革計画からなり、パーソナル・アドバイザー・サービスが12の地域で試行された。このうちの6つについては、公立の職業安定所が、試行した。それは、1998年秋にはじめられた。非営利の民間団体組織が、1999年春から、その他6つの地域で試行を開始した。それらの評価は、次のようにでている。

  • 対象者は、受給資格者のおよそ6パーセントと低い
  • 賃労働に従事している人は、およそ四分の一だが、多くの人は、仕事をみつけることができそうだと言っている。(Loumidis et al, 2001)
  • 職業安定所の地域の登録者が仕事を得る数と割合が若干勝るものの、公民の地域差はほとんどない。しかし、これは、プログラム開始時期が早いことを反映しているようである。(Green et al, 2001)

第二のプログラムが2001年7月に開始された。これもまた、実験的なものである。障害者のための全国展開ニュー・ディール(New Deal for Disabled People National Extension)は、初期の試行と次の点で異なっている。

  • これは(官、民そしてボランティアセクターなどの)60近くの職業斡旋事業者の全国ネットワークであり、政府との契約のもとに、サービスを提供している。
  • 基本的に結果に基づき支払われる。
  • 目的は、登録者に、職業斡旋事業者を選択できるようにすることにある。

資料によれば、職業斡旋事業者の対象者は、およそ2%と低いが、ジョブセンター・プラスの実施する就職を目的とした義務的面接を受けた手当受給申請者は、高い数値を示している(Corden et al, 2003)。期待されたより、対象者数は少ないが、その数は伸びつつある。はじめの2年間で、5万人が職業斡旋事業者に登録し、1万6500人が仕事に就いた(Department for Work and Pensions, 2003 a)。職をみつけた登録者の数は、だいたい予測したとおりの線であるが(およそ三分の一)、登録者数は、まだまだ少なく、そのことは、もっと多くの紹介を受け入れることが必要であることを示している。もともと職業斡旋事業者の契約は、2004年に失効することになっていたが、つい最近の「パスウェイ(pathways)」重視を支援するからみもあって、最近、2006年まで延長された。

「パスウェイ」の試行は、障害者の生態学社会心理モデルにもとづいており、就職に焦点をあてた面接を行っている専門的なジョブセンター・プラスのパーソナル・アドバイザーをまきこみ、就労不能手当申請の最初の段階にある人々を支援している(Department for Work and Pensions, 2002)。対象者は、彼らの健康管理を助けるためのリハビリテーション支援を提供するために選ばれる。精神衛生上の問題があったり、筋骨格系や心臓血管系に問題があるなどの状態にある人々を主な対象としている。特別の金銭的な動機付けのために、復職手当やアドバイザー裁定基金助成金が支給される。この方法は、2003年10月から7つのエリアで試行されることになっている。

障害者と行政改革

政府は、雇用プログラムのなかで、民間あるいはボランティアの団体の受託業者の利用の継続と拡大を行ってきた。1990年代初頭、雇用リハビリテーション(いまは「雇用準備」と呼ばれている)は、サービスと選択肢を拡大するために、民間団体とボランティアセクターに委託されたが、これは、寄せ集めで、断片的な対策となっていた(Lakey and Simpkins, 1994)。今でも、ジョブセンター・プラスは270のボランティアまたは民間団体の供給事業者に委託している。支援つき雇用プログラム、ワークステップもまた、レンプロイという英国最大の供給事業者等の、政府から融資を受けている外部の供給事業者と契約している。障害者のためのニュー・ディールとは、非政府の供給事業者との契約をさらに進めていくことを意味している。

1980年代は、施設介護の費用が急上昇し(社会保障により支払われた)たことと、在宅介護よりも施設での介護を求められたことから「コミュニティー・ケア」の導入がうながされた。地方政府の社会保障局は、必要性を査定した。しかし、独立した供給事業者から、介護サービスを購入することにした。このサービスには、家庭における支援も含まれる。これは主に新労働党によって続けられてきた。1980年代には、資力調査にもとづく家庭における支援のための特別手当が、自立生活基金による手当に変わり、政府により独立した裁定機関が設置され、重度の障害者が、独立して自宅に住まうことができるようになった。この基金は、地方政府との連携により運用され、手当と介護の組み合わせが提供される。そしてブレア政権は、最近になって、地方政府と協力している43のボランティア組織に対して、「個人的支援援助対策」を通じて現金払いの対象者を拡大するために助成金を与えている。

選択と競争

最終結論は、今後の評価をまたねばならないが、障害者のためのニュー・ディールにおける職業事業者の経験によれば、選択と競争の目標が、思いも寄らず一致したことが指摘されている。そもそも、結果に基づき支払われるため、登録者が、26週間継続して仕事についたあとにのみ決済されるので、組織は、その他の活動からの仲介手数料に奨励金をつけて、最も準備ができている登録者が選ばれるという傾向をひきおこしている(Corden et al, 2003)。ある斡旋事業者は、弁済に陥っている。斡旋事業者は、結果主義の決裁の原則を受け入れているようであるが、引き受け数の減少や、仕事につくまでの時間がかかったときは、不当なリスクを負うことになってしまう。登録者は、斡旋事業者に関して多くの選択肢をもつことはまれで、地域によっては、組織がたった一つしかないことが起きている。ジョブセンター・プラスのアドバイザーは、選択肢と競争を確保する必要から、斡旋業事業者を直接紹介することは禁じられている。そのため、登録者には、選択に必要な情報が限られている。職業斡旋事業者は、登録者を引きつけるような商品開発に非常に積極的で、職業斡旋サービスそのものよりも組織にひかれていく登録者もいる。もっとも成功している斡旋事業者の公式情報はない。労働・年金局は、そうした情報を商業的に流すことには慎重であるべきだと考えているからである。その結果、競争が機能しているのかどうか、あるいは、なにが斡旋事業者の成功につながっているのかがわからない。

結果主義に基づく支払いについての調査の結果、すぐに支援可能な登録者を選び出すことの動機付けにはやくだつが、ニーズをもっている多くの人々が置き去りにされたままになっていると指摘されている(Corden and Thornton, 2003)。結果主義に基づく支払いにとって重要なのは、支援ニーズに応じて登録者を類型化することであるが、英国には、適切なモデルはありない。

民間団体は、障害者に対してよりよい結果を出すことができるのか?

民間あるいはボランティアセクターが、障害者に対する支援のための手当を給付したことはほとんどない。就労不能手当と障害者手当申請者に対する医療相談と診断についてのみ、1997年の総選挙の直前から、民間企業に受託されてきた。処理が遅いことと質について懸案されるが、状況は進展しているようである。(National Audit Office, 2003)

間あるいはボランティアセクターの業者が、雇用プログラムを運営する効果について、両面の結果がでている。「エンプロイメント・ゾーン(Employment Zone)」は、設立当初良い結果を出したが、「ワン(ONE)」のサービス(すべての労働年齢にある成人に、手当と雇用支援の両方を提供する試験的プログラム)の運営は、官営と民営のモデルのサービスの違いをなにも証明できなかったどころか、障害者が就職する機会を拡大させることもできなかった。(Green et al, 2003) 

障害者に対する今後の雇用支援についての政府の意図は、まだはっきりしていない。ニュー・ディールのモデルでは、民間とボランティアの団体組織に(協調的なパートナーシップによって)それを委託しようとしているのが中心であるが、パスウェイ(Pathway to Work)の試みは、ジョブセンター・組織内のアドバイザーを活用しようとしている。

問題点と今後の方向

最後に、今後に向けての問題点に明らかにする。

障害者のための公共政策における社会企業の役割

「デイ・ケア」施設から発展したソーシャル・ファームは、以前に比べて、少なからず発展している。しかし、はじめのほうに述べたように、ソーシャル・ファームが、障害者の単なる「雇用連盟」の一部であるならば、障害者団体のうちどのグループをターゲットにするべきか、またいかにターゲットにするべきかについて、あいまいになる。社会企業が、実行力のあるもうひとつの供給事業者として発展するためには、ソーシャル・ファームは必要とされるであろう。また、公共政策のどの領域を対象とするのかを確定するためにより必要とされる。可能性のある領域は、地方政府から直接現金の支払いを受けて自分のケアを自ら購入することを望む人々を支援するためのパーソナルアシスタンス事業である。イーリング区の審議会は、全国的慈善団体であるショー・トラスト(Show Trust)と連携し、現金支払いを援助するソーシャル・ファームを、すでに持っている。

「互助」に関して発展させなければならない考えは、被雇用者と雇用主が、ひとつの組織のメンバーとして参加する「被雇用人互助(employee mutual)」という考え方である。その考えは、仕事をみつけ、労働能力を改善し、生活を管理する方法として提案されてきている。それは、また、雇用主が、空きポストをうめるのを支援し、訓練と育児において、労働者と企業が共通に必要としているものを調整する。(Leadbeater and Martin, 1999)これは、職業の不安定性を改称し障害者と非障害者を地域で統合するための方法として推奨されてきた。(Christie 1999)しかし、このことについては、障害者に関してはあまり議論されてこなかった。

手当と雇用の緊密に結びついた方策のための要求

英国政府による、就労不能手当受給者の就職を支援する最近の試みは、経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)によって強調されるように、収入と雇用政策の緊張関係をもたらしている。(プリンズ、2003)人々は、手当を受けるためには就労不能であることを証明しなければならないが、仕事を得ようとするときには、就労能力があることを証明しなければならない。この緊張関係に取りくむ試みとしては、(就職に焦点をあてた面接のような)「積極的な」方法を、「消極的な」就労不能手当に取り入れることが行われた。しかし、この緊張関係は、ますます深刻になってきており、就職支援のための方法が、さらに手当運営に取り込まれてきている。(Howard, 2003)

適切な介入を定めるためのよりよい手段のための要求

英国の政策格差から、障害者にとってどのような介入が適切であるかを特定できるようになってきた。これまでみてきたように、これは、供給事業者への結果主義に基づく支払いの効果と、ソーシャル・ファームの「雇用連盟」のなかで別の種類の仕事を提供していく役割に影響を与えることとなる。エンプロイメントゾーン(Employment Zones)は、年齢、個人的障壁、手当額、経験などを指標としながら、登録者の就職の困難性を類型化しているが、これらはときに不正確である。(Hirst et al, 2002)しかし、いまだ、どのような仕事を、誰に雇用斡旋すべきかについて明確な根拠がないのである。パスウェイの試行では、だれが仕事に就けそうかを決めるために、アドバイザーの助けなしに、コンピュータによって予備審査するという試みも行われた。これは、プロフィール作成のツールを開発しはじめるのに役立つであろう。

予防とリハビリテーションへの強調の増大

就労をめざす人々を援助するより「革新的な」福祉国家にするために、政府はより予防的な戦略を考えはじめている。医学リハビリテーションと職業リハビリテーションの統合、社会資源の不足という問題が増加してきている(英国リハビリテーション医学会、2000)。今年はじめ、「職業継続とリハビリテーション」という試行事業が、英国のいくつかの地域ではじめられた。これは、疾病手当を受給している第6週目から26週目までの人々に対する介入を試すために構想された。これは健康や雇用あるいはその両方に対する介入をテストする無作為抽出による試行である。先に言及した雇用への道(Pathway to Work)は、既存の雇用支援との結合による健康管理プログラムを推進する。リハビリテーションは、労働災害保障制度の中心に据えられ、政府の労働災害使用者賠償責任保険の見直しのなかで検討されている。(Department for Work and Pensions, 2003 b)しかしながら、これらの取組みは、統合戦略が構築されるまえに調整しておく必要がある。

雇用主と供給事業者のさらなる責任

政府は、障害差別禁止法をさらに拡張して来年には、製品やサービスを提供する者は、障害者を不当に差別するすべての物理的環境を変更することが求められる。また、現行の、従業員15人以下の小企業の免責を廃止し、100万の小企業の雇用主も対象となる。障害者法は、障害者に対する平等な機会を提供する公共団体の義務を盛り込んで、まもなく完成する。政府は、2006年までに障害に関する人権機関とその他の人権機関を一つの人権委員会にまとめると宣言している。その主要な課題と任務は、公共政策の中心に平等と人権をおくことと、官民、そしてボランティアセクターのパートナーシップにおかれている。

2006年までに、私たちは長い道を進んでいくことになるであろう。

References

  • Arksey H et al, 2002, ‘Mapping employment-focused services for disabled people’, Department for Work and Pensions in-house report 93
  • Blair, T, 1998, ‘The Third Way: New Politics for the New Century’, Fabian Society
  • Blair, T, 2002 a, speech on welfare reform 10 June 2002
  • Blair, T , 2002 b, speech about public services reform 25 January 2002
  • Blair, T, 2003, ‘Where the Third Way Goes from Here’, speech to progressive governance conference
  • Blears, H, 2002, ‘Communities in control: public services and local socialism’, Fabian Society
  • Blunkett, D, 2001, ‘’Politics and progress’, Demos/Politicos
  • Boylan, A and Burchardt, T, 2003, ‘Barriers to self-employment for disabled people’, Department of Trade and Industry Small Business Service
  • Burchardt, T, 2000, ‘The Dynamics of Being Disabled’, CASE paper 36
  • British Society of Rehabilitation Medicine, 2000, Vocational Rehabilitation: The way forward’ Christie, I with Mensah-Coker G, 1999, ‘An inclusive future? Disability, social change and opportunities for greater inclusion by 2010’, Demos
  • Commission on Social Justice, 1994, ‘Social Justice: strategies for national renewal’
  • Corden A and Thornton P, 2003, ‘Results-based Funded Supported Employment: Avoiding disincentives to serving people with greatest need’, Department for Work and Pensions, W160, May 2003
  • Corden A et al, 2003, ‘New Deal for Disabled People National Extension: Findings From the First Wave of Qualitative Research with Clients, Job Brokers and Jobcentre Plus Staff’, W169, Department for Work and Pensions, October 2003
  • Demos, 2003, ‘Inside out: rethinking inclusive communities’
  • Department for Education and Employment, 2001, ‘Towards full employment in a modern society’, Cm 5084, March 2001
  • Department of Health, 1998, ‘Modernising social services: promoting independence, improving protection, raising standards’, Cm 4169
  • Department of Social Security, 1998 a, ‘New Ambitions for our country: A New Contract for Welfare’, Cm 3805
  • Department of Social Security, 2000, ‘Opportunity for All: second annual report, Cm 4856
  • Department of Trade and Industry, 2001, ‘Business and Society: developing corporate social responsibility in the UK’, March 2001
  • Department of Trade and Industry, 2002, ‘Social enterprise: a strategy for success’
  • Department of Trade and Industry, 2003, ‘Business case for diversity and equality’
  • Department for Work and Pensions, 2002, ‘‘Pathways to work: helping people into employment’, Cm 5690
  • Department for Work and Pensions, 2003 a, ‘Opportunity for All: fifth annual report’, September 2003, CM 5956
  • Department for Work and Pensions, 2003 b, ‘Review of Employer’ Liability Compulsory Insurance, first stage report’
  • Etzioni, A, 1995, ‘The Spirit of Community’, Fontana Press
  • Giddens, A, 2000, ‘The Third Way and its critics’, Polity Press
  • Green, A et al, 2001, ‘New Deal for Disabled People: Local labour Market Studies’, Department for Work and Pensions in house report 79
  • Green H et al, 2003, ‘Final Effects of ONE’, Department for Work and Pensions research report 183
  • Grewal, I, et al, 2002, ‘Disabled for life? Attitudes towards, and experiences of, disability in Britain’, Department for Work and Pensions research report 173
  • Harvey, J et al, 2002, Local authority experience in outsourcing Housing and Council tax Benefits’, Department for Work and Pensions in-house report 115
  • Hills, J et al, 2002, ‘Understanding Social Exclusion’, Oxford University Press
  • Hirst A et al, 2002, ‘Employment Zones: A study of local delivery agents and case studies’, Department for Work and Pensions, WAE124
  • HM Treasury and Home Office, ‘2002, ‘Next Steps on Volunteering and Giving in the UK’, December 2002
  • Howard, M, 1997, ‘Investing in disabled people: a strategy from welfare to work’, Disablement Income Group/Joseph Rowntree Foundation
  • Howard, M, 2003, ‘An ‘interactionist’ perspective on barriers and bridges to work for disabled people’, Institute for Public Policy Research
  • Institute for Public Policy Research, 2001, ‘Building Better Partnerships: the final report of the commission on public-private partnerships’
  • Lakey, J and Simpkins, R, 1994, ‘Employment rehabilitation for disabled people’, Policy Studies Institute
  • Leadbeater, C, 1997, ‘The rise of the social entrepreneur’, Demos
  • Leadbeater, C and Martin, S, 1999, ‘The Employee Mutual’, Demos/Reed
  • Leonard Cheshire, 2002, ‘Social Exclusion report’
  • Loumidis, J et al, 2001, ‘Evaluation of the New Deal for Disabled People Personal Adviser Service pilot’, Department for Work and Pensions research report 144
  • Mandelson, P, 1997, ‘Labour’s next steps: tackling social exclusion’, Fabian Society
  • McGregor, A et al, ‘Developing people ? regenerating places’, Joseph Rowntree Foundation/Policy Press
  • Milburn, A, 2002, ‘Redefining the health service’, speech to the New Health Network January 2002
  • National Audit Office, 2003, ‘Progress in improving the medical assessment of incapacity and disability benefits’, House of Commons Paper 1141
  • Office of the Deputy Prime Minister, 2003, ‘New Deal for Communities: National Evaluation 2002/3: research summary 7’
  • Oliver, M and Barnes, C, 1998, ‘Disabled People and Social Policy: from exclusion to inclusion’, Longman
  • Oppenheim, C, 1998, ‘An inclusive society: strategies for tackling poverty’, Institute for Public Policy Research
  • Ormerod, P et al, 2003, ‘Replacing the State’, Association of Chief Executives of Voluntary Organisations
  • Powell, M, 1999, ‘New Labour, New Welfare State? The ‘third way’ in British Social Policy’, Policy Press
  • Prinz, C, 2003, ‘Transforming Disability into Ability: policies to promote work and income security for disabled people’, OECD
  • Social Enterprise Coalition, 2003, ‘There’s more to business than you think: a guide to social enterprise’
  • Social Exclusion Unit, 1998, ‘Bringing Britain together: a national strategy for neighbourhood renewal’, Cm 4045
  • Social Firms UK, 2002, ‘national mapping’
  • Stuart N et al, 2002, ‘How employers and service providers are responding to the Disability Discrimination Act 1995’, Department for Work and Pensions in-house report 96
  • Tunstall, R and Lupton, R, 2003, ‘Is Targeting Deprived Areas an Effective Means to Reach Poor People?’ CASE paper 70
  • Waddell, G, 2002, ‘Models of Disability: Using back pain as an example’, The Royal Society of Medicine Press Ltd
  • Weir, G, 2003, ‘Self employment in the labour market’, Labour Market Trends September 2003
  • Zadek, S and Scott-Parker, S, 2001, ‘Unlocking the evidence: the new disability business case’, Employers Forum on Disability

Main websites:

執筆者プロフィール

マリリン・ハワード/ Marilyn Howard

英国社会政策アナリスト(Social policy analyst)
1978年レスター大学卒業。1990 年ノッティンガム大学社会福祉学修士号取得。現在、フリーの社会政策アナリストとして、さまざまな大学、ボランティア組織、シンクタンクのための研究や助言を行なっている。また、政府の雇用審議会における障害者政策アドバイザー、障害者雇用諮問委員会委員、障害者のためのニューディール全国普及委員会およびジョセフ・ローントリー基金などの研究諮問委員を兼任。これまで、障害同盟および王立障害・リハビリテーション協会の政策役員、アランハワース下院議員の専属研究員、英国議会の2つの特別委員会のアドバイザーなどを歴任。また、有資格のソーシャルワーカーであり、これまで、コミュニティー・ソーシャルワーカー、福祉人権アドバイザー、保護観察官として勤務してきた。最近の研究テーマとしては、国および民間の就労不能手当における女性の受給状況といわゆる「自分の病気に詳しい患者(expert patient)」である関節炎を患っている人々に対する障害者手当の影響について調査している。さらに、政府の実施している障害者のためのニューディール政策における個人相談サービスの影響を分析する研究コンソーシアムの委員でもある。(フラバラ大学が事務局を担当)