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日本のリハビリテーション No.4

財団法人

日本障害者リハビリテーション協会


3 将来展望

 昨年,1987年(昭和62年)は「国連・障害者の10年」の中間年であり,国・地方自治体・民間団体の各レベルで,1981年(昭和56年)の国際障害者年当時にそれぞれのレベルで作成された「長期行動計画」を見直し,後半期計画を策定する試みが行われた。わが国の今後のリハビリテーションを展望するために,国(政府)や地方自治体では「国連・障害者の10年」の後半期にどのような施策を重点課題として掲げているか,そして民間団体(障害者団体)ではどのような点を要望しているか,以下紹介してみたい。

1.政府の「後期重点施策」の概要

 政府の障害者対策推進本部は1987年(昭和62年)6月「『障害者対策に関する長期計画』後期重点施策」を発表したが,その概要は以下のとおり。

第一 基本的考え方(項目のみ)

  1. 「障害」及び「障害者」についての正しい認識の一層の普及
  2. 均等な機会の確保
  3. 自立の支援
  4. 生活環境の改善
  5. 高齢化への対応
  6. 技術進歩の活用
  7. 施策の連携の確保
  8. 調査研究の充実
  9. 国際協力の推進

第二 課題別施策の基本的方向と今後の重点施策

  1. 啓発広報(項目のみ)

    (1) 啓発広報活動の推進
    (2) 福祉教育の推進
    (3) 交流の推進

  2. 保健・医療

    (1) 心身障害の発生予防および早期発見の充実

    先天的な障害については,妊婦の健康管理対策の推進,周産期医療体制の整備,先天異常を発生させるおそれのある諸因子(医薬品,感染症,アルコール,環境汚染物質等)に対する対策の推進,母子保健の各種健康診査の充実に努めるとともに,早期発見から早期治療・早期療育への連携を確保する。後天的障害については,高齢化に伴い生じやすい障害の予防対策の推進,情緒障害,行動異常等の原因疾患の予防,労働安全対策,交通安全対策など各分野における安全対策の推進に努めるとともに原因疾患等の早期発見から治療・リハビリテーションへの連携に努める。

    (2) 医療・研究の推進

    リハビリテーション機能を有する医療機関の整備,重症心身障害児等の重度の障害者に対する医療・リハビリテーションの質的向上,在宅重度障害者のための訪問診査,腎移植体制の整備等を推進するとともに,進行性筋ジストロフィー症を中心とする神経・筋疾患に関する研究,発達障害に関する研究,精神障害に関する研究,難病等の原因や治療法に関する研究を推進する。

    (3) 精神障害者対策の推進

    精神障害者の人権を擁護しつつ,適切な精神医療の確保及び社会復帰の推進を図るとともに,精神衛生相談等の充実,思春期,老年期等のライフ・ステージに応じた精神保健対策を促進する。

    (4) 専門従事者の養成確保

    臨床工学技士法および義肢装具士法に基づく専門従事者の養成に努めるとともに,言語聴覚療法士(仮称)等資格制度のない専門従事者の資格制度化の検討,医学教育および医師の卒後教育におけるリハビリテーション教育の充実,理学療法士,作業療法士の計画的養成を推進する。

    (5) 福祉機器・医療機器の研究開発の推進

    福祉機器・医療機器・医療機器の研究機器の研究開発体制の整備,規格化,標準化についての検討,福祉機器情報のネットワークづくり等を推進する。

  3. 教育・育成

    (1) 心身障害児に係る教育施策の充実

    心身障害児の可能性を最大限に伸ばし,可能な限り社会自立の達成を図るために,障害の種類と程度に応じた適切な教育の推進を図るとともに,幼・少年期からの心身障害児に対する理解認識の一層の推進,心身障害児の早期教育における医療・福祉・教育関係諸機関の連携の強化,視覚障害者および聴覚障害者を対象とする国立の短期大学の設置等に努める。

    (2) 心身障害児に係る育成施策の充実

    心身障害児の療育に関する研究,療育体制の整備,療育方法の普及,助言指導組織の充実,施設の療育と学校の教育との一層の連携等を推進する。

  4. 雇用・就業

    (1) 障害種類別対策

    ア 身体障害者対策の推進

    職域の拡大を図るため,ME機器の開発等調査研究,広報啓発等を推進するとともに,障害の種類に応じた助成金の活用,企業に在職中に身体障害者となった者の雇用の安定を図るための施策の充実等に努める。

    イ 精神薄弱者対策の推進

    雇用率制度上および納付金制度上の取扱いの改正について,事業主に対し周知を図る等により精神薄弱者の雇用促進を図るとともに,第三セクター方式による精神薄弱者能力開発センター育成事業,心身障害者職業センターにおける精神薄弱者等職業準備訓練等を推進する。

    ウ 精神障害者対策の推進

    精神障害者の職能的諸条件についての調査研究,雇用促進のための広報啓発を推進するとともに,職場適応訓練制度等を活用した雇用の促進,精神障害者授産施設の整備の促進を図る。

    (2) 現状では直ちに一般雇用に就くことが困難な者に対する対策の推進

    重度障害者の適職の開発,職域の拡大,第三セクター方式による重度障害者雇用企業の育成等を推進するとともに,授産施設の計画的整備,授産施設における訓練の充実および就業,授産施設および福祉工場等の安定経営のための施策,小規模作業所に対する助成を促進する。

    (3) 職業リハビリテーションの推進

    心身障害者職業センターの充実強化,障害者職業総合センターを核とした職業リハビリテーション・ネットワークの形成,職業リハビリテーションに係る研究およびその普及体制の確立等を推進する。

    (4) 専門職員等の養成

    障害者職業総合センターの設置構想の推進等職業リハビリテーション専門職員の養成研修体制の整備を図るとともに,これら専門職員についての資格制度を導入する。

  5. 福祉

    (1) 生活安定のための施策の推進

    障害者に対する年金の額の国民の生活水準等の変動等に応じた見直し,特別障害者手当,障害児福祉手当等各種手当の充実に努めるほか,障害者に対する適切な税制上の配慮を行う。

    (2) 福祉サービスの充実

    ア 在宅サービス

    「障害者の住みよいまちづくり事業」等による地域全体の取組みの推進,在宅サービス関連事業の総合的推進,福祉ホームなどのケア付住宅の整備,重度の在宅障害者に対する介護,家庭訪問サービス等の充実を促進するとともに,手話通訳等関係職種の資格制度化の検討,精神薄弱の判定方法および望ましい処遇のあり方の研究,精神薄弱者の自立援助体制の整備,精神障害者に対する住宅サービスの充実を図る。

    イ 施設サービス

    総合的リハビリテーションを実現するための施設の整備,障害者のニーズに即した施設体系の確立と施設の地域オープン化,従事者の養成等を推進するとともに,心身障害の発生予防,早期発見,早期療育に資するための総合的療育センターの整備,公的精神病院,精神衛生センター,精神障害者のための社会復帰施設等の整備を促進する。

  6. 生活環境

    (1) 住宅・建築物の整備

    障害者向けの公的住宅の整備改善,公的住宅への入居,公的住宅金融における障害者への配慮の拡充,障害者向けの住宅の整備,障害者用住宅設備機器の設置を推進するとともに,障害者の利用に配慮した公共建築物の整備改善,民間建築物についての,「身体障害者の利用を配慮した建築設計標準」の普及と助成措置を推進する。

    (2) 移動・交通対策の推進

    公共交通機関におけるターミナル施設,車両等の改善,整備,信号機,横断歩道等の交通安全施設の整備,道路構造の改善,障害者の便宜を考慮した駐車規制等を推進するとともに,リフト付バスの設置,改造自動車への助成,ガイドヘルパーの派遣等を充実する。

    (3) 障害者に対する情報の提供

    点字,録音テープ等による視覚障害者に対する情報サービスの充実,手話の普及,字幕入りビデオの充実,字幕入りテレビ番組の拡充等による聴覚障害者に対する情報手段の充実,障害者とのコミュニケーションを促進するための機器の開発普及と利用情報のサービス網の整備,公共施設におけるガイド,通報等についての配慮,手話奉仕員派遣事業等の拡充等を推進する。

    (4) 防災・防犯対策の推進

    災害時における情報の収集伝達や避難誘導が迅速かつ適切に行われる体制を確立するとともに,災害や障害者に対する犯罪,事故等の発生を防止するための体制を整備する。
  7. スポーツ,レクリエーションおよび文化施策の推進

     スポーツ大会,レクリエーション・創作事業に対する支援,スポーツ施設,レクリエーション施設および文化施設の整備における障害者のアクセシビリティへの配慮,スポーツ活動,レクリエーション活動および文化活動の開催情報,利用方法等に関する広報等を推進する。

  8. 国際協力の推進

     国際社会の一員として,障害関連分野においても国際社会の中で主要な役割を果たし,世界各国で障害者の「完全参加と平等」が実現されるよう,能動的,積極的に貢献することとし,「国連・障害者の10年」のための諸事業に重点を置いて,国際協力をさらに強力に推進する。

第三 推進体制 (略)


2. 地方自治体における今後の重点施策

 国際障害者年日本推進協議会では1987年(昭和62年)3月,「障害者対策にかかわる長期計画」を策定した361の地方自治体に対して,その実施状況や今後の課題などを聞くため,郵送法による調査を行った。回答は29都道府県・指定都市,103市・区,14町村の合計146自治体であり,回答率は40パーセントであった。以下この調査結果の中から,1982年度(昭和57年度)以降重点的に進めてきた施策と1987年度(昭和62年度)以降重点的に進めようとしている施策について,施策分野毎に概要を紹介する。

(1) 啓発広報

 障害者福祉大会,記念行事,障害者の集い,表彰などの行事,広報誌の発行,通常の広報誌への特集記事,マスメディアの活用,福祉映画・ビデオの作成,副読書の作成などがこれまで多くみられた。注目される施策として,福祉の店,市民による一日施設長,福祉基金,友愛訪問,ボランティア育成などもなされてきた。後半期も従来と同様な施策を重点にしているところが多い。新たに「障害者社会参加啓発誌」の刊行を予定している自治体もある。

(2) 保育・教育

 障害児保育・療育の分野では,前半期に障害児保育事業の拡充(対象園,対象児の拡大など)や保母の研修強化,専門的通所訓練施設の充実などを重点にしてきたところが多く,後半期にはこれらに加えて新たに保母研修・資質の向上,障害児学童保育,一般園への巡回指導を実施しようとしているところも見られた。
 教育の分野では障害児学級・学校の増設,設備の改善,教育内容の充実と研修強化,就学相談・指導の充実などが中心で,その他福祉教育や社会教育などが多く実施されてきた。後半期には社会教育,高等部教育の充実(学科,学級改編を含む),教員研修,関係機関の連携,教育用機器の活用などが多くあげられている。前半期,後半期とも統合教育関係施策は重点施策としてはあまり多くはあげられていなかった。

(3) 雇用・就労

 雇用対策は基本的には国レベルの施策であるが,優良企業の表彰を含む障害者雇用促進のキャンペーン,第三セクター方式を含む多数雇用企業(事業所)の育成,就職対策協議会・懇談会,雇用奨励金や就職支度金の支給,自治体雇用など,自治体レベルでも比較的大きな自治体を中心に重点施策として取り組まれてきた。後半期は従来の施策の充実とともに,新たに8つの自治体から第三セクター方式による障害者多数雇用事業所の計画(検討を含む)があげられているのをはじめ,関係機関による連絡協議会の設置や充実,相談員の増員などが予定されている。
 福祉的就労の分野で前半期の重点施策としてもっとも多くみられたのは(無認可)小規模作業所への助成(およびその充実)であり,ついで通所・入所授産施設の設立である。障害
者福祉事業団の設立,福祉的就労者用生活寮,授産事業振興センター,在宅福祉作業委託,授産施設技術講習会なども実施された。後半期では全体として重点施策の大きな変化は予定されていないが,新たに2か所で障害者事業団構想が検討され,福祉的就労に従事する障害者のための生活寮などの建設もあげられている。また,福祉的就労の場のあり方を研究しようとするところや,公園清掃委託,民間企業への(授産生の)派遣,在宅福祉就労に着手しようとするところなど,多様な展開がなされようとしている。

(4) 福祉

 在宅福祉サービスの前半期重点施策として,ホームヘルパーなどの介護・介助施策,ボランティアの育成と活動の推進,ミニファクス,障害者団体への助成などが多くみられた。後半期には従来のサービスメニューの充実のみならず,新たな供給組織の設置,ボランティア組織の体系化,福祉公社の設立(新たに2か所),福祉基金の設置(新たに2か所),地域ケアシステムの検討など供給体制の改革が多くの自治体で構想されている。中途失明者点字指導員派香制度など新しいタイプのサービスの発足も注目される。
 施設福祉サービスの分野では小規模作業所,授産施設,福祉センター(およびそこでのデイサービス事業),生活施設の建設などが中心となっており,生活ホームや生活寮などの共同住居もかなり多い。後半期も同様である。
 金銭給付面では前半期も後半期も,国制度の活用促進,自治体独自の手当の創設・充実とが主である。

(5) 保健・医療

 都道府県レベルでは総合リハビリテーションセンター,小児療育センターなどの建設もみられたが,町村レベルでは無回答も多く,リハビリ教室などが主な施策になっている。全体として予防・早期発見・早期療育・リハビリテーションのシステム化への努力,精神障害者の社会復帰対策に重点が置かれてきた。一般医療面では重度障害者医療費助成と歯科対策が多く,いくつかの自治体では訪問看護制度が導入された。後半期の重点施策では精神障害者対策や総合リハビリテーションセンターの計画を新たに取り上げたところが比較的多くみられた。

(6) 生活環境・住宅・交通

 前半期には,都市環境整備要綱の策定あるいはそれに基づく整備,福祉タクシー制度の創設,身体障害者用公営住宅の建設,公営住宅優先入居の促進,住宅改造費助成などが多く,後半期にも新たに整備要綱を策定したり従来のものを見直したりしようとしているところが多く,また身体障害者福祉ホームを含むグループホームの建設を計画しているところが多くみられた。

(7) 文化・スポーツ・レクリエーション

 各種のスポーツ大会の実施,スポーツ施設の整備・活用,指導者養成,スポーツ教室,文化的な集い,作品展,レクリエーション行事,教養講座などが多く取り組まれてきた。後半期にはこれらに加えて新たにデイサービス事業への着手,スポーツ人口拡大のための事業などが多く予定されている。


3. 障害者団体の後期重点要望項目

 わが国の全国的な障害者団体や民間の障害者関係団体の連合組織の中で代表的なものとして,国際障害者年日本推進協議会,全日本身体障害者連合協議会,および全国社会福祉協議会などがあるが,ここでは国際障害者年日本推進協議会の要望事項を紹介しておく。
 同協議会は国際障害者年を契機に1980年(昭和55年)100あまりの団体によって結成されたもので,あらゆる種類の障害者の全国的団体が初めて団結した画期的な連合組織である。1981年には独自の長期行動計画を作成し,1987年には後期行動計画とともに「後期計画における重点要望項目」を決定,政府・地方自治体に要望した。


後期計画における重点要望項目

国際障害者年日本推進協議会

  1. 障害者の範囲・等級の見直しならびにライフサイクルに対応する施策についての抜本的見直しを行い,すべての障害者(国連における障害者の概念による)に対する福祉制度を確立すること。

  2. 障害者のライフサイクルの視点にたった総合的研究体制を確立すること。

  3. 中央,地方における政策形成過程に,障害者(代弁者を含む)の参加システムを確立すること。

  4. 障害(児)者に対する権利擁護(日常生活援助,財産管理,人権擁護等)の制度化を進めること。その他,障害者の地位向上を図るための施策を検討すること。

  5. すべての障害者を対象とする「障害者の雇用の促進等に関する法律」の早期成立を図り,その名称にふさわしい雇用対策の整備と内容の充実を図ること。

  6. 就労の場としての小規模作業所を授産施設制度の延長上でとらえ,公費助成の改善を行うとともに,現行授産施設制度の総括的見直しを行うこと。

  7. 障害者の生活の質の向上をめざすため,在宅障害者のデイサービス事業,通所援貨事業,相談事業,通所施設など,地域福祉対策の拡充を図ること。

  8. 障害者の自立に必要な所得保障制度の確立と,障害の程度に対応する介助費及び介助システム(福祉機器の開発・活用を含む)の実現を図ること。

  9. 障害者の自立の視点から,施設体系・機能・配置ならびに専門従事者の資格制度を再検討するとともに施設に係る費用徴収制度の抜本的見直しを行うこと。

  10. 障害者に対する住宅供給制度を推進し,特にグループ・ホーム,ケア付公営住宅等の整備を進めるほか,施設における居住環境の改善,建造物,交通機関等,移動・交通環境の改善整備を図ること。

  11. 障害者療育にかかわる制度及び現状を点検し,早期発見・早期療育体制の一層の充実,幼稚園と保育所における障害児保育の拡充等を推進すること。

  12. 現状の教育の改革を伴った統合教育(交流教育を含む)の具体的施策の促進,障害児学級と障害児学校における教育条件の改善を通して障害児教育の充実を図り,後期中等教育と高等教育の保障をめざす施策を展開させること。

  13. 地域医療と専門医療体制の整備,保健・医療・福祉の総合化による地域のリハビリテーション体制の確立を図ること。特に必要な医療機関の整備,専門医・専門職の養成や資格制度の確立につとめること。

  14. 難病等の長期慢性疾患患者に対する公費医療負担制度の拡充につとめ,適切な医療の実現を期すること。

  15. 精神障害者の人権を守り,社会復帰の促進を図るため,「精神保健法」の早期成立につとめること。

  16. 国民に対する啓発広報活動を推進すること。

  17. 上記対策を推進するため必要な予算を確保すること。


日本のリハビリテーション関係主要法制の流れ (1945-1987)
1945(S20) 第二次世界大戦の終了
1946(S21) 旧生活保護法の施行
1947(S22) 児童福祉法の制定
1947(S22) 保健所法の制定
1947(S22) 身体障害者職業安定要綱
1947(S22) 日本国憲法の施行
1947(S22) 学校教育法の施行
1947(S22) 職業安定法の施行
1947(S22) 教育基本法の施行
1947(S22) 労働者災害補償保険法の制定
1950(S25) 身体障害者福祉法の施行
1950(S25) 精神衛生法の施行
1950(S25) 新生活保護法の施行
1951(S26) 児童憲章の制定
1951(S26) 第一回全国身体障害者実態調査の実施
1951(S26) 社会福祉事業法の施行
1951(S26) 福祉事務所の発足
1952(S27) 国鉄身体障害者旅客運賃割引規則の施行
1952(S27) 戦傷病者戦没者遺族等援護法の施行
1953(S28) 精神薄弱児対策基本要項決定
1954(S29) 更生医療の給付開始
1957(S32) 朝日訴訟の開始
1958(S33) 国民健康保険法(新法)の制定
1958(S33) 身体障害者職業訓練所(校)の設置
1959(S34) 最低賃金法の制定
1959(S34) 国民年金法の制定・障害福祉年金の支給
1960(S35) 職場適応訓練制度の創設
1960(S35) 精神薄弱者福祉法の制定
1960(S35) 身体障害者雇用促進法の制定
1963(S38) 重度身体障害者更生援護施設の発足
1963(S38) 老人福祉法の制定
1963(S38) 戦傷病者特別援護法の施行
1964(S39) 第13回ストークマンデビル競技大会(東京パラリンピック)
1964(S39) 特別児童扶養手当等の支給に関する法律の施行
1965(S40) 第3回汎太平洋リハビリテーション会議の開催(東京)
1965(S40) 第1回全国身体障害者スポーツ大会の開催
1965(S40) 精神衛生法の改正
1965(S40) 母子保健法の制定
1965(S40) 理学療法士及び作業療法士法の制定
1966(S41) 特別児童扶養手当法の制定
1966(S41) 保健所における精神衛生業務運営要領
1966(S41) 雇用対策法の制定
1967(S42) 精神薄弱者福祉法の改正
1967(S42) 重症心身障害児施設の制度化
1967(S42) 身体障害者福祉法の改正
1967(S42) 精神薄弱者に対する職場適応訓練制度の適用
1969(S44) 重度身体障害者に対する日常生活用具の支給
1969(S44) 精神衛生センター運営要領
1969(S44) 心身障害者扶養保険共済制度の実施
1970(S45) 堀木訴訟の開始
1970(S45) 精神障害回復者社会復帰施設整備費予算化
1970(S45) 心身障害者対策基本法の制定
1971(S46) 精神薄弱者通勤寮の制度化
1971(S46) 身体障害者福祉工場の創設
1972(S47) 身体障害者福祉法の改正
1972(S47) 心身障害者職業センターの発足
1972(S47) 身体障害者福祉センターの創設
1973(S48) 身体障害者福祉モデル都市の設置
1973(S48) 心身障害者多数雇用事業所への特別融資制度
1974(S49) 精神科作業療法・精神科デイケアの診療報酬点数化
1975(S50) デイケア施設運営要領
1975(S50) 勤労身体障害者体育施設の設置
1975(S50) 精神障害回復者社会復帰施設運営要領
1976(S51) 身体障害者雇用促進法の改正
1977(S52) 精神薄弱者通所援護事業の実施
1979(S54) 国立職業リハビリテーションセンターの開所
1979(S54) 精神薄弱者福祉ホーム設置運営要項
1979(S54) 国立身体障害者リハビリテーションセンターの創設
1979(S54) 養護学校義務化の実施
1980(S55) 精神衛生社会生活適応施設運営要領
1981(S56) 第二次臨時行政調査会発足
1981(S56) 国際障害者年
1982(S57) 通院患者リハビリテーション事業発足(精神障害者)
1982(S57) 老人保健法の成立
1982(S57) 老人保健法の制定
1982(S57) 障害者対策に関する長期計画(国際障害者年推進本部)
1983(S58) 精神薄弱者能力開発センター育成事業の実施
1983(S58) 第3セクター方式による重度障害者雇用企業制度の発足
1984(S59) 身体障害者福祉法の改正
1985(S60) 精神薄弱者福祉工場設置運営要項
1985(S60) 補助金削減一括法の成立
1985(S60) 国民年金法等の改正
1986(S61) 障害基礎年金の支給
1986(S61) 特別障害者手当の支給
1987(S62) 精神保健法の制定(精神衛生法の改正)
1987(S62) 社会福祉士及び介護福祉士法の成立
1987(S62) 障害者の雇用の促進等に関する法律の成立(身体障害者雇用促進法の改正)
1987(S62) 精神障害者小規模保護作業所運営助成費の制度化
1987(S62) 在宅重度障害者通所援護事業費の制度化
1987(S62) 義肢装具士法の制定
1987(S62) 臨床工学技士法の制定


(表4-1) 医療施設数の推移
- 施設数 率(人口10万対)
病院 一般診療所 歯科診療所 病院 一般診療所 歯科診療所
総数 精神 伝染 結核 らい 一般
1955 昭30 5,119 260 73 676 14 4,096 51,349 24,773 5.7 57.5 27.7
1960 35 6,094 506 58 595 14 4,921 59,008 27,020 6.5 63.2 28.9
1965 40 7,047 725 46 340 14 5,922 64,524 28,602 7.2 65.7 29.1
1970 45 7,974 896 35 160 14 6,869 68,997 29,911 7.7 66.5 28.8
1975 50 8,294 929 27 87 16 7,235 73,114 32,565 7.4 65.3 29.1
1980 55 9,055 977 20 38 16 8,003 77,611 38,834 7.7 66.3 33.2
1985 60 9,608 1,026 12 27 16 8,527 78,927 45,540 7.9 65.2 37.6
資料 厚生省「医療施設調査」(動態)


(表4-2) 病床数の推移
- 施設数 率(人口10万対)
- 総数 病院 一般診療所 歯科診療所 病院 一般診療所
総数 精神病床 伝染病床 結核病床 らい病床 一般病床
1955 昭30 626,716 512,688 44,250 19,177 236,183 14,095 198,983 113,924 104 574.3 127.6
1960 35 852,025 686,743 95,067 22,713 252,208 14,260 302,495 165,161 121 735.1 176.8
1965 40 1,077,971 873,652 172,950 24,179 220,757 13,230 442,536 204,043 276 889.0 207.6
1970 45 1,312,628 1,062,553 247,265 23,144 176,949 13,217 601,978 249,646 429 1,024.4 240.7
1975 50 1,428,482 1,164,098 278,123 21,042 129,055 14,020 721,858 264,085 299 1,039.9 235.9
1980 55 1,607,482 1,319,406 308,554 18,218 84,905 12,235 895,494 287,835 241 1,127.1 245.9
1985 60 1,778,979 1,495,328 334,589 14,619 55,230 10,471 1,080,419 283,390 261 1,235.5 234.2
資料 厚生省「医療施設調査」(動態)


第4章 医学的リハビリテーション


1 日本の医療制度の概要

1. 医療供給制度の概要

(1) 医療施設の分類

 日本では,狭義の医療施設は病院と一般(医科)診療所,歯科診療所の三つに分けられている。諸外国では病床の保有の有無により病院と診療所とが区分されるのが普通であるが,わが国では,20床以上の病床を持つ医療施設のみが病院とされ,19床以下の病床を持つ医療施設は,病床を持たない施設と共に診療所と呼ばれている。そして一般診療所のうち,33.1パーセントが有床診療所である。
 (表4-1・2)に示したように,わが国では,第二次大戦後40年間,ほぼ一貫して医療施設数・病床数が増加している。1985年現在,病院は9,608(人口10万対7.9),一般診療所は78,927(同65.2),歯科診療所は45,540(同37.6)である。欧米諸国と比べるとわが国の病院・診療所の病床数は相当多く、人口10万対で1,469.7床に達している。
 わが国では病院は精神病院,伝染病院,結核療養所,らい療養所,一般病院の5種類に分けられている。ただし,現在では伝染病院・結核療養所・らい療養所はごく少数にすぎず,一般病院が全体の88.8パーセントを占め,精神病院が全体の10.7パーセントとなっている。
 諸外国と異なり,わが国では短期入院型病院と長期入院型病院との区別が制度化されておらず,急性疾患患者と慢性疾患患者はともに一般病院に入院している。また,欧米諸国に比べて,病院以外の収容施設(老人福祉施設や障害者福祉施設)が極めて不足している。例えば,老人福祉施設の定員数は205,571人と病院・診療所の病床数の11.6パーセントの水準にとどまっている。このためもあり,(表4-3)に示したように,わが国の病院の平均在院日数は諸外国に比べて著しく長く,一般病床でも39日に達している。


(表4-3) 病床の種類別にみた平均在院日数の年次推移
(単位:日)
- 総数 精神病床 伝染病床 結核病床 らい病床 一般病床
1960年 57 333 17 328 7,969 28
1965年 57 434 18 409 11,733 30
1970年 55 455 18 385 11,099 33
1975年 55 487 17 318 14,149 35
1980年 56 535 18 253 7,251 38
1984年 55 539 16 215 8,560 39
1985年 54 536 18 207 9,748 39
資料 厚生省「病院報告」


(表4-4) 開設者別にみた病院病床数の構成割合
1985年10月1日現在
- 構成割合(%)
総数 精神病床 伝染病床 結核病床 らい病床 一般病床
総数 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
10.9 2.8 8.9 38.8 98.5 11.1
公的医療機関 22.3 9.3 85.0 28.9 - 25.4
社会保険関係団体 2.5 0.1 1.2 3.5 - 3.3
医療法人 33.9 58.4 1.5 11.9 - 28.2
個人 17.7 18.6 - 6.4 - 18.4
その他 12.8 10.8 3.4 10.5 - 13.7
資料 厚生省「医療施設調査」(動態)


(2) 病院の開設者

 わが国の医療施設の開設者は多岐にわたっており,厚生省の「小分類」では24種類に達している。主な開設者は,国,都道府県・市町村(自治体),日赤,公益法人,医療法人(3人以上の医師を有する私的法人),個人(医師)である。そして,わが国では診療所だけでなく,病院も私立が大半を占めるという諸外国にはみられない特徴を持っている。先に述べたように,わが国では,第二次大戦後40年間病院が増加し続けているが,これはほとんど医療法人と個人の病院の増加によるものである。(表4-4)に示したように,病院病床のうち,国と公立は33.2パーセントに過ぎず,医療法人と個人が51.6パーセントを占めている。ただし,わが国では株式会社等営利目的の病院の開設は許されていない。
 このようにわが国では私的病院が多いため,平均病床規模は155.6床と小規模である。300床以上の大病院も全病院の13.9パーセントにとどまっている。ただし,近年は医療技術の高度化を反映して,私立大学病院を中心とした巨大病院の増加が著しい。

(3) 病院の機能

 (表4-5)に示したように,わが国の病院の診療機械の保有率は著しく高い。例えば,全病院の15.1パーセントが全身用CT(コンピュータ断層撮影装置)を,15.3パーセントが人工腎臓装置を有しており,これらの保有率は世界一である。
 他面,諸外国に比べて,病床当りの病院の従事者数は著しく少ない。(表4-6)に示したように,100床当り従事者数は,全病院で79.1人,一般病院でも87.4人にすぎない。このようなマンパワー不足のためにわが国の病院では患者の濃密な診療が困難となっている。そして,このことが上述したわが国の病院の平均在院日数の著しい長さのもう一つの原因になっている。


(表4-5) 診療機器保有病院数
1984年10月1日現在
- 施設数 病院数に対する割合(%)
病院数 9,574 100.0
診療機器保有病院数 8,802 91.9
- 胃ファイバースコープ 6,053 63.2
気管支ファイバースコープ 2,454 25.6
頭部(頭頚部)用CT 1,165 12.2
全身用CT 1,448 15.1
デジタルラジオグラフィー 170 1.8
血管連続撮影装置 1,778 18.6
RI診断装置 974 10.2
リニアック 282 2.9
コバルト60遠隔治療装置 499 5.2
呼吸心拍監視装置 2,195 22.9
分娩監視装置 1,969 20.6
新生児専用人工呼吸器 1,477 15.4
マイクロサージャリ装置 1,152 12.0
レーザーメス 510 5.3
心細動除去装置 3,134 32.7
長時間心電図分析装置 1,557 16.3
生化学自動分析装置 2,460 25.7
血液ガス測定装置 3,033 31.7
画像診断用超音波装置 5,778 60.4
脳波計 5,915 61.8
人工腎臓(透析)装置 1,464 15.3

資料 厚生省「医療施設調査」(静態)


(表4-6) 病院の種類・業務の種類別にみた100床当たり従事者数
1985年10月1日現在
- 総数 医師 歯科医師 薬剤師 看護員 技術員 その他
病院 79.1 11.8 0.6 1.9 39.9 7.8 17.2
- 精神病院 40.7 3.7 0.1 0.8 24.7 2.2 9.2
伝染病院 18.5 2.5 - 0.9 8.2 1.1 5.8
結核療養所 43.9 4.9 0.0 1.3 21.7 4.1 12.0
らい療養所 33.7 1.3 0.2 0.4 19.8 1.2 10.9
一般病院 87.4 13.5 0.7 2.1 43.2 9.0 18.9
注) 総数には介輔を含む。
資料:厚生省「病院報告」


(4)  保健所・市町村保健センター

 地域住民に対する医療以外の保健サービスは,保健所および市町村が実施している。保健所とは,都道府県や大都市が設置する行政機関であり,多様な専門職と設備が配置されている。1985年現在全国に849か所設置されている(図4-1)。市町村には,保健婦の配置と市町村保健センターの整備が進められている。この市町村保健センターは,全国に768か所設置されており,市町村が行う成人病,母子保健等の対人保健サービス活動および地域住民の行う自主的な保健活動等の拠点施設として活用されている。
 歴史的には,保健所の中心的活動は公衆衛生サービスであったが,近年は,後述するように障害児・者に対する各種のリハビリテーション活動も積極的に行われるようになっている。

保健所・市町村保健センターの図

(5)  医療計画の作成

 わが国では,伝統的には,診療所だけでなく病院も「自由開業制」であり,公的な医療計画は事実上存在しなかった。しかし,1985年に成立した改正医療法により,各都道府県は地域医療計画を作成し,それを推進することになった。この医療計画に盛り込むべき主な内容としては,1.体系だった医療供給体制の整備を進めるために医療圏を設定 2.医療圏における必要病床数を定める 3.医療機能に応じた病院の整備目標 4.病院・診療所間の機能・業務の連携5医療従事者の確保など,が定められている。特に,必要病床数を超える病床過剰地域では,新規の病院病床の増加が原則として認められないことになるなど,今後は,従来と異なり,医療機関に対する規制が強められることが予測されている。


2. 医療関係者の概要

 わが国の医療関係者のうち,公的資格制度が確立している職種の現況は(表4-7)に示した通りである。わが国では,伝統的には国または都道府県のみが医療専門職の資格認定をしており,専門職団体による認定制度は存在しなかった。しかし,近年は各医学会が認定する診療科別専門医制度が急増している。
 表に示した職種のうち,医師・歯科医師・薬剤師は大学で養成されている。医科大学と歯科大学は6年制であり,薬科大学は一般の大学と同じ4年制である。それ以外の職種は3年制または2年制の専門学校により養成されており,大学教育による養成はごく例外的である。
 1984年の医師数は181,101人で,人口10万人当り150.6人である。この数値は欧米諸国に比べてまだ低い。しかし,わが国では1970年以降,医学校の新設が相つぎ,1学年の入学定員は1970年の4,380人から1986年の8,300人へと16年間で89.5パーセントも増加している。その結果,今後は医師数も急増し,2000年には人口10万対220人,2050年には340人に達し,「医師過剰時代」が到来すると予測されている。そのために,厚生省の委嘱を受けた「将来の医師需給に関する検討委員会」は1986年に「1995年を目途に医師の新規参入を最低限10パーセント削減すべきである」との意見をまとめている。
 わが国では,伝統的には医師の多くが開業医であったが,1970年代以降は勤務医の増加が著しい。その結果,1984年には,開業医は全医師の36.3パーセントを占めるにすぎず,医療施設の勤務医が59.5パーセントを占めるに至っている。特に,大学病院には全医師の18.3パーセントが集中している。


(表4-7) 医療関係者の現況
職種 実数
(’84年末現在)
人口10万対 養成施設数
(’86年4月)
入学定員
(’86年4月)
医師 181,101 150.6 80 8,300
歯科医師 63,145 52.5 29 3,360
薬剤師 124,390 103.5 46 7,725
保健婦 20,858 17.3 61 2,440
助産婦 25,887 21.5 80 1,995
看護婦(士) 324,289 269.7 855 37,253
准看護婦(士) 301,484 250.7 645 32,624
理学療法士 5,265 4.4 44 1,010
作業療法士 2,142 1.8 29 615
視能訓練士 1,254 1.0 3 120
歯科衛生士 29,178 24.3 126 6,836
歯科技工士 29,339 24.4 73 3,588
診療放射線技師 26,703 22.2 29 1,557
診療エックス線技師 4,199 3.5 - -
臨床検査技師 87,905 73.1 77 4,195
衛生検査技師 117,182 97.5 - -
あん摩・マッサージ゙・指圧師 86,024 71.5 169 3,401
はり師 52,794 43.9 97 2,793
きゅう師 51,433 42.8 97 2,793
柔道整復師 16,779 14.0 14 1,050
資料:厚生省「厚生白書」


3.医療保障制度の概要

 一般に医療保障制度は,租税を財源とする国民保健サービス方式と保険料を財源とする医療保険方式とに区分される。わが国は,全国民がなんらかの公的医療保険に強制加入する「国民皆保険」制度を1961年に達成しており,各種の公費負担医療制度がそれを補完している。ただし,わが国の医療保険・公費負担医療制度は職業・社会階層・年齢・疾患等別にこまかく分立している。1970年代までは,高度経済成長を背景として,医療保険の給付率の改善や公費負担医療制度の拡充が行われた。しかし1980年代には,政府の財政難のため,給付率の引き下げをはじめとした厳しい医療費抑制策がとられるようになっている。

(1) 医療保険

 わが国の医療保険は被用者保険と国民健康保険および,これらを基礎とした共同負担事業である老人保健法による医療に大別される。被用者保険は事業所に使用される者を被保険者とする健康保険と船員保険・各種共済組合であり,国民健康保険は一般地域居住者(自営業者・無職者等)を被保険者とする市町村の国民健康保険が中心である。さらに,健康保険は大企業の被用者を対象とする組合管掌健康保険と中小企業の被用者を対象にする政府管掌健康保険に分かれる。
 (表4-8)に示したように,国民健康保険の加入者がもっとも多く,4,503万人で総人口の37.6パーセントを占めている。次に大きいのは,政府管掌健康保険と組合管掌健康保険であり,加入者は家族(被扶養者)を含めて,それぞれ3,234万人(総人口の27.9パーセント, 2,911万人(同24.1パーセント)である。
 医療保険は医療給付と現金給付を行い,医療給付は現物給付の形をとるのが普通である。医療保険の給付率は医療保険により異なり,全体としては被用者保険の方が国民健康保険よりも高い。被用者保険の被保険者本人の給付率は入院・外来とも9割であり,被保険者家族の給付率は入院8割・外来7割である。それに対して,大半の国民健康保険では,入院・外来とも医療給付率は7割にとどまっている。ただし,各医療保険とも高額療養費制度により,毎月の自己負担のうち54,000円を超える額は後に償還される。
 医療保険から医療機関への医療費支払方式は,個々の患者に提供されたサービスの種類・頻度に比例して支払われる「個別出来高払い方式」である。しかも,諸外国と異なり,個々の医療サービスの公定価格はほぼ全国・全医療機関共通である。


(表4-8) 医療保険制度の現況
(1986年4月1日現在)
- 健康保険 船員保険 国家公務員等共済組合 地方公務員等共済組合 私立学校教職員共済組合 国民健康保険
対象 一般被用者 日雇労働者 船員 国家公務員及び公社の役職員 地方公務員 私立学校教職員 農業者・自営業者等 被用者保険の退職者
経営主体
(1985.3現在)
政府(社会保険庁) 各健康保険組合
(1,722)
政府(社会保険庁) 政府(社会保険庁) 各省庁及び各公社共済組合
(27)
各地方公務員共済組合
(54)
私立学校教職員共済組合
(1)
各市町村
(3,270)
各国民健康組合
(167)
各市町村
加入者数
(1985.3末現在)
1,529万
家族(1,705万)
1,240万
(1,671万)
22万
(14万)
19万
(41万)
192万
(293万)
298万
(394万)
35万
(33万)
市町村4,154万,国保組合349万
〔計4,503万〕
保険給付 医療給付 療養の給付 9割(国会で承認を受けて厚生大臣の告示する日の翌日からは8割)

※希望する医療機関における一部負担金は,医療費が1,500円以上のとき100円, 1,501円以上2,500円以下のとき200円, 2,501円以上3,500円以下のとき300円, 3,501円以上のとき1割
7割 8割
家族療養費 入院8割,外来7割 入院8割
外来7割
高額療養費 ※自己負担額が5万4千円(低所得者は3万円)を超える場合,その超える額を支給する。
1 世帯合算(同一月に3万円(低所得者2万1千円)以上の負担が複数生じた場合は,これを合算して世帯単位で高額療養費を支給)
2 多数回数該当世帯の負担軽減(前12か月間に高額療養費の支給が4回以上になった時には,4回目以降の自己負担額は3万円(低所得者2万1千円))
3 長期高額疾患者の負担軽減(血友病・人工透折を行う慢性腎不全の患者については,自己負担限度額は月1万円)
現金給付 ●傷病手当金
●出産手当金
●分娩費
同左
(附加給付あり)
同左 同左 同左
(附加給付あり)
●助産費
●葬祭費
●育児手当金 等
(但し任意給付)


(2) 老人保健事業と老人医療

 老人医療は,被用者保険,国民健康保険に加入している70歳以上の者,および65歳以上70歳未満で障害認定を受けた者を対象としており,医療の給付は市町村が行う。
 この老人医療は,1983年から施行された老人保健法により実施されている。(図4-2)に示したように,同法による保健事業は,狭義の医療以外に,予防から機能訓練・訪問指導に至る各種の医療以外の保健事業を含んでいる。
 患者の一部負担金は,外来1か月800円,入院1日につき400円であり,一般の医療保険加入者に比べれば低額である。ただし,1983年の老人保健法施行以前は,70歳以上の老人の医療保険上の自己負担金は全額公費で負担されていた。

(図4-2)老人保健事業の概要(体系図)

(3) 公費負担医療制度

 公費負担医療制度は,(表4-9)に示した各種の法律によって行われているものと,予算処置によって行われているものとがある。これらのうち,もっとも対象者が多いのは生活保護法にもとづく医療扶助であり,被保護人員は1985年度で91万人である。

(表4-9) 公費負担医療の種類
伝染病予防法 (明30.4.1公布,30.5.1施行)
児童福祉法 (昭22.12.12公布,23.1.1施行)
予防接種法 (昭23.6.30公布,23.7.1施行,予防接種被害の救済措置52.2.25施行)
性病予防法 (昭23.7.15公布,23.9.1施行)
身体障害者福祉法 (昭24.12.26公布,25.4.1施行)
精神衛生法 (昭25.5.1公布,同日施行)
生活保護法 (昭25.5.4公布,同日施行)
結核予防法 (昭26.3.31公布,26.4.1施行)
らい予防法 (昭28.8.15公布,同日施行)
原子爆弾被爆者の医療等に関する法律 (昭32.3.31公布,32.4.1施行)
戦傷病者特別援護法 (昭38.8.3公布,38.11.1施行)
母子保健法 (昭40.8.18公布,41.1.1施行)
老人保健法 (昭57.8.17公布,58.2.1施行)


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主題:
日本のリハビリテーション  No.4
60頁~76頁

発行者:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

編集:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

発行年月:
1992年8月31日

文献に関する問い合わせ先:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162 東京都新宿区戸山1-22-1
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FAX 03-5273-1523