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国連システム当局、締約国会議終了に伴い、障害者条約実施戦略を発表

各国代表団、市民社会団体代表ら、相互対話に参加

国連プレスリリース
2009年9月4日

第2回国連障害者権利条約締約国会議が、2009年9月2日から4日まで開催された。 2006年12月13日、国連総会61/106決議により障害者権利条約が採択された。第四十条には、「締約国は、この条約の実施に関する事項を検討するため、定期的に締約国会議を開催する。」とある。

写真:第2回国連障害者権利条約締約国会議の様子


国連の各機関、プログラムおよび事務所の代表らは本日、第2回国連障害者権利条約締約国会議の終了に伴い、同条約の実施戦略並びに行動計画をそれぞれ明らかにした。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)ニューヨーク事務所副所長のクレイグ・モカイバー(Craig Mokhiber)は、同条約は障害を権利の問題として扱っており、真のパラダイムシフトを意味していると述べた。さらにそれは、同情に代わるものとしての力、慈善に代わるものとしての権利、そして法の下での説明責任を明確に述べる一方で、新しくかつ重要な課題を締約国にもたらしたと補足した。

障害のある人の権利に関する委員会(Committee on the Rights of Peoples with Disabilities)の事務局として活動しているOHCHRは、各国政府が条約の義務を果たせるように、いくつかの手段を開発している、とモカイバーは語った。たとえば、国内体制への同条約の導入方法に関するガイダンス提供のための研究を行い、非差別、アクセシビリティ、法的能力、自由および安全確保、自立生活、教育および雇用などの実質的な法的課題について、カウンセリングを行っている。研究では、国内外のモニタリングシステムの中核機能についても検討し、結論と勧告を示した。

さらにモカイバーは、OHCHRが、障害者権利条約と障害のある人の権利に関する委員会の活動を、他の条約機関や特別手続きと統一しようとしていると述べた。OHCHRは、経済社会文化的権利委員会(Committee on Economic, Social and Cultural Rights)と、市民的および政治的権利に関する国際規約(International Covenant of Civil and Political Rights)、および他の条約機関のコメントを再検討し、それらが障害者権利条約と一致しているかどうかを確認している。たとえば、国連人権理事会(Human Rights Council)の一般コメント8では精神病の場合の違法な隔離を明確に認めているが、これは障害者権利条約とは矛盾しているように思われる。OHCHRは、法の前で平等に認められる権利についても検討し、排除に関するハンドブックを出版した。世界各国で人権分野に関わる50を超える国連事務所のスタッフが、国内のコンプライアンスの見直しと法的改革を支持している。

国連開発計画(UNDP)政策開発局インクルーシブな貧困開発グループ(Inclusive Development of the Poverty Group in the Bureau for Policy Development)シニア政策アドバイザー兼クラスターリーダーのダイアン・アラーコン(Diane Alarcon)は、障害者は多数の、あるいは悪質な形態の差別を受けており、世界で最も疎外されている人々であると指摘した。彼らは貧困から抜け出せないまま、教育や、利益をもたらす生産性の高い雇用へのアクセス、適切な医療、そしてアクセシブルな社会サービスなどの開発の恩恵から疎外されている。2008年から2011年までのUNDP戦略計画では、障害問題をインクルーシブな開発を通じて是正すべき重大な人権問題と認識することによって、これに取り組むことを目的としている。

アラーコンは、UNDP障害タスクフォースが、国際障害・開発コンソーシアム(International Disability and Development Consortium)と共同で、UNDPのプログラムに障害者を含めるためのガイドライン作成を監督していると述べた。50を超えるUNDP事務所が、100を上回る能力構築・地位向上プログラムおよびプロジェクトを実施し、あるいは最近終了している。たとえば、ウズベキスタンのプログラムでは強力な意識向上プロジェクトが実施され、トルクメニスタンでは盲・ろう社会の能力拡大が進められた。クロアチアでは、障害者はUNDPによるソーシャルインクルージョンプログラムの重要な受益者であった。

障害児の権利について、国連児童基金(UNICEF)政策企画部副部長エリザベス・ギボンズ(Elizabeth Gibbons)は、障害者権利条約の中で障害児のニーズに特に注目することを、国際障害コーカス(International Disability Caucus)と連携を取りながら効果的に主張したと語った。UNICEFの障害に関する活動は、権利に基づくアプローチに従っており、社会から最も取り残された、誰よりも貧しい子供と家族、特に少女たちに焦点を当てている。2007年、UNICEFは各国事務所および連携機関に対し、障害児に関する新たなプログラムガイダンスの発表を開始した。現在これらの事務所の55か所で、関連戦略の策定が終了している。障害に関するプログラミングはまた、プロジェクトベースのアプローチから、政策の主張や法的改革など、より組織的なアプローチへと変化しつつある。

UNICEFは、障害者権利条約とその規定への認識を広める活動に積極的に関与している、とギボンズは続け、UNICEFによる障害者権利条約の子供向け版『わたしたちのできること』は、意見をはっきりと述べ、差別に立ち向かい、同条約の原則を促進するよう子供たちに働きかけることを目的としていると指摘した。また、UNICEFの障害者権利条約『学習の手引書』も、青少年リーダーやピアエデュケーター、教師およびコミュニティーワーカーらによって使用されている。

UNICEFはさらに、弱い立場にある子供たち、特に障害児を対象とした施設保護の利用を減らすための児童保護制度改革を支持していると、ギボンズは語った。UNICEFは障害に関する調査研究を9カ国で実施し、およそ30カ国において施設保護に代わる実行可能な代案を推進している。いくつかの国では障害児のたった5%しか就学していないという事実に驚いたUNICEFでは、教室やトイレ、学食、出入り口を、障害児にとってアクセシブルにする、インフラストラクチャー改善のための技術支援を行っている。

経済社会局(DESA)政策調整・関連機関間問題担当(Policy Coordination and Inter-Agency Affairs)事務次長補のトーマス・ステルザー(Thomas Stelzer)は、DESAは各国政府、市民社会団体および障害者団体、ならびに学術機関および国連システム連携機関、特にOHCHRと密接に協力しながら、障害者権利条約実施に取り組んでいると述べた。DESAは、障害問題に関連する国内の戦略、政策およびプログラムの策定について、加盟各国に専門的なアドバイスと支援を行う。さらに、政府間機関における障害に関する国際的な政策対話をサポートし、障害者権利条約、障害者に関する世界行動計画(World Programme of Action concerning Disabled Persons)、および障害者の機会均等化に関する基準規則(Standard Rules of Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities)の実施を促進するための知識の生成と共有に一役買っている。

DESAが準備した事務総長あての2通の報告書、すなわち、障害者権利条約および選択議定書の状況に関する報告書と、世界行動計画の実施による障害者のためのミレニアム開発目標達成に関する報告書は、次の国連総会において再検討されるであろう。8月には事務総長が、南アフリカ出身で世界的な障害者権利運動のリーダーであるシュアイブ・チャルクラン(Shuaib Chalklen)を、基準規則の実施を監督する社会開発委員会(Commision on Social Development)の新しい障害担当特別報告者に任命した。

DESAは4月に、世界保健機関(WHO)、市民社会団体および学術機関との緊密な連携の下、ミレニアム開発目標のプロセスに障害問題を主流として組み込むことに関する専門家会議を開催した、とステルザーは続けた。そして3月には、障害者権利条約関連機関相互支援グループ(Inter-Agency Support Group on the Convention)の一員として、同条約を国連システム全体で主流化する戦略と行動計画の草案の打ち出しに取り組んだ。

障害者管理コンサルタントで障害のある人の権利に関する委員会委員のアミナ・アリ・アル・スウェイディ(Amina Ali al-Suweidi)は、実施とモニタリングの両方の機能を持つ障害者権利条約の重要な役割を強調した。締約国による同条約および選択議定書の実施に関する報告書の定期的な提出は、各国間の国際協力とともに極めて重要である。同条約はまた、市民社会団体、特に障害者を代表する非政府機関と人権機関が、国内レベルでの条約実施に果たす主要な役割を想定し、詳細に規定している。

障害者に対する物理的な配慮への国連の取り組みについては、ニューヨークにある国連ビルの大規模改修に関する徹底調査が実施され、事務次長でキャピタル・マスター・プラン執行部長のマイケル・アルダースタイン(Michael Alderstein)が、同プランは非常にレベルの高いアクセシビリティの達成を目指していると述べた。現況では、ニューヨーク本部ビルは非常にアクセシブルであり、多くの出入り口とスロープが建物内へと直接通じており、大部分の出入り口は車いすが通れるほど十分広い。新たなプランでは、依然として残されている障壁をすべて取り除く予定で、設計者は現地の法律に従うだけでなく、改修された場所が最高の実践例と実体験を反映するものとなるべく取り組んでいく。

セキュリティーシステムを備えた入り口部分の設計については、障害者が磁気探知機を備えた幅広いスイングドアやアクセシブルな回転ドアから入れるようにする、とアルダースタインは語った。受付カウンターには低めのアクセシブルな部分を設け、補聴援助機器が利用できることを掲示する。また、すべての標識を点字でも表示する。そして、すべての会議室で音声増幅技術により背景雑音を除去し、補聴器使用者のために音質を改善する。建物には完全にアクセシブルなトイレ設備を備える。

討議では数人の代表が、各政府の障害者権利条約実施への取り組みを説明し、国連システム官僚らに質問を投げかけた。イタリアおよびイギリスの代表は、同条約実施の成果と優れた実践例を伝える方法についてのアドバイスを求めた。エジプト代表は、各締約国が協調して実施に取り組んでいく方法、障害の根本的な原因、そして武力紛争の犠牲となった障害者に対する支援方法を詳しく説明するよう求めた。

アルゼンチン代表は、地雷、戦争および安全でない輸送システムが原因の障害に関して、平和を求める明確なメッセージが必要であると述べた。モロッコおよびドミニカ共和国の代表は、障害者権利条約実施の予算が限られている開発途上国を援助する基金を設立し、障害者を支援するという提案にさらに注目することを求めた。タイ代表は、同条約および国連ウェブサイトと情報ポータルを、障害者にとってアクセシブルなフォーマットで利用できるようにするべきだと述べた。

これらの質問に対しアラーコンは、障害者権利条約の実施は、国内レベルで実際の行動へと変換されなければならないと語った。だが、この課題の範囲を的確に文書化するための情報が十分でないため、それは非常に難しい。また、障害問題をミレニアム開発目標と、政策に関わるすべての分野に統合し、首尾一貫した対応を進めていく必要もある。

ギボンズは、障害のある人の権利に関する委員会への報告システムが、成果と優れた実践例とを共有する機会を締約国にもたらしたと述べた。国連は、資源がより少ない国々と協力することに専念している。貧しい国々ではまず、障害者運動の大使として障害者を紹介するため、障害者に光を当ててその権利を促進したり、教師らに障害児を参加させるよう指導したり、障害のある学童のためのトイレを作ったりすることができるであろう。

モカイバーは、障害のある人の権利に関する委員会が一般コメントを発表し、どのように権利が保護されているか、その意味するところを検討する全体テーマ会議を数日間開催すると述べた。同委員会は、委員らによって共有される情報と経験に基づき、ガイダンスを作成していく。連携に関しては、国連システムのすべての機構がこの問題に取り組んでいると述べた。

さらに会議中、ラテンアメリカ非政府障害者・家族団体ネットワーク(Latin American Network of Non-governmental Organizations of Persons with Disabilities and their Families)会長のレジーナ・マリア・メロ・アタラ(Regina Maria Melo Atalla)が、木曜日に開かれた緊急課題に関する非公式会合、「世界経済危機、貧困と障害者権利条約の実施」の要約を発表した。アタラは、多くの障害者が苦しんでいる貧困を、世界危機が一層悪化させたが、障害者権利条約の発効はその状況と戦う機会と考えるべきだと述べた。

障害者は職を失っているが、これは彼らが多くの場合、最後に雇用され、最初に解雇されるからだとアタラは語った。障害者の教育と支援プログラムのための資金調達は中断され、新規インフラストラクチャー計画でアクセシビリティ要件を必ず満たすようにすることには、注意が払われなくなった。貧しい家庭では、障害児よりも障害のない子供たちに、食糧やその他のわずかな家庭資産を優先的に与えている。特別な取り組みがなければ、障害者は経済危機による損害を受けるだけでなく、危機が去った後も引き続きその影響に苦しむことになるのだ。

障害者に対する社会のスティグマと偏見が問題の根本的な原因であったとアタラは語り、障害者の利益となる政策とプログラムは、出費ではなく必要経費であると考えなければならないと強調した。また、障害者の状況に関する統計データの範囲を広げることにも一層の努力が必要である。障害者は、世界銀行が最近設立した即時対応基金(Rapid Response Fund)においてもそうであったように、あらゆる景気刺激策において、その一部として考慮されなければならない。また、人権を重視した雇用、障害者に対する文化的態度の改善、そして障害者の就学や識字への一層の配慮に取り組んでいかなければならない。

これらの懸念に同調し、国際障害同盟(International Disabilities Alliance)のステファン・トロメル(Stefan Tromel)は、障害者権利条約は障害分野における移行法であると述べ、同条約が掲げる目標のより優れた実践を確保するために、さらに組織的なアプローチが必要であると付け加えた。障害の医療モデルに逆戻りすることを避けるために、すべての国連専門機関およびプログラムは、同条約の実施に貢献していかなければならない。

閉会にあたり、障害のある人の権利に関する委員会委員長のモハメド・アル・タラウネ(Muhammed Al-Tarawneh)が、障害者権利条約の採択をめぐる前進と熱意にも関わらず、同条約の実施と、より大きな国際的な人権の枠組みへの同条約の目標の統合に向けて、多くの課題が待ち受けていると述べた。国連システムは、世界中の6億5千万人の障害者の地位と能力の向上のために、障壁を取り除くことに協力して取り組まなければならない。アル・タラウネは、同条約および選択議定書の批准と、国際的な枠組みと地域的な枠組みの関係を強化することを、すべての国に対し強く求めた。

写真:障害のある人の権利に関する委員会委員長、モハメド・アル・タラウネ氏

締約国会議の共同議長を務めたクロード・ヘラー(Claude Heller)(メキシコ)は、第3回の会議は、2010年9月第1週に開催されると発表した。

その他の議題としてヘラーは、ロフト・ベン・ララホム(Loft Ben Lallahom)(チュニジア)、ジョルジー・コンツェイ(Gyorgy Konczei)(ハンガリー)、エダ・ワンゲチ・マイナ(Edah Wangechi Maina)(ケニア)、ロナルド・マッカラム(Ronald McCallum)(オーストラリア)、ジャーマン・シャヴィエル・トレス・コレア(German Xavier Torres Correa)(エクアドル)およびツヴェート・ウルシッチ(Cveto Ursic)(スロヴェニア)ら6名の委員の2年間の任期が2009年12月31日に終了することを指摘した。また、障害者権利条約の実施に関する法的手段を編集した資料を締約国に提供するよう、事務局に求めた。

同じく締約国会議の共同議長を務めたジム・マックレイ(Jim McLay)(ニュージーランド)も、経済社会局(DESA)インクルーシブ開発課長のジャン・ピエール・ゴノ-(Jean-Pierre Gonnot)とともに声明を発表した。

その他、マリ、ブラジル、ヨルダン、チリおよびケニアの代表らも、同日意見を述べた。

写真:UNICEFとオーストラリア後援のサイドイベントの様子。「わたしたちのできること」(It's About Ability)の著者ビクター・サンチャゴ・ピネダ氏とともに。