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基調講演
「障害者権利条約の批准と締約国の責務について」

ヴィクトリア・リー(国際障害同盟(IDA))

2013年12月4日(水) JDF全国フォーラム

講演をするヴィクトリア・リー氏

スライド1

(スライド1のテキスト)

スライド2

(スライド2のテキスト)

IDAは、地域の障害者団体のネットワークです。現在、会員は12団体で、ダウン症インターナショナル、国際育成会連盟(インクルージョン・インターナショナル)、障害者インターナショナル、世界盲人連合、世界精神医療ユーザー・サバイバー・ネットワーク、世界ろう連盟、世界盲ろう者連盟および国際難聴者連盟という8団体の国際会員と、欧州障害フォーラム、太平洋障害フォーラム、アラブ障害者機構およびラテンアメリカ障害者団体ネットワークという4団体の地域会員から成っています。

IDAの会員団体には、世界各地の国内障害者団体が加盟しています。IDAは最近、法人化されましたが、これは、障害者団体の国際的な指導力を強化する重要な節目となります。

スライド3

(スライド3のテキスト)

IDAの使命は、障害者権利条約(以下、権利条約)と、人権に関するその他の文書を、障害者団体の声をまとめたものとして活用し、障害者の人権を促進することです。主な活動は、国連に向けた権利擁護活動で、すべての条約体および人権理事会、さらには国連開発課題における、障害者の権利と権利条約の基準の主流化を進めています。IDAはまた、途上国(グローバル・サウス)を中心に、障害者団体の能力構築にも取り組んでいます。

スライド4

(スライド4のテキスト)

このたびIDAを代表してお話しすることは、特に日本で権利条約の批准が目前に迫っており、権利条約の締約国の数が日本の批准によっておそらく139カ国に増えることを考えますと、光栄です。これが何を意味するのか、権利条約と、障害者権利委員会の役割と活動、締約国の報告の義務、障害者団体が果たす中心的な役割と、障害者団体の参加を確保し、促進するためのIDAの活動について、お話ししていきます。また、現在までの障害者権利委員会による法的判断の主な内容にも一部触れる予定です。

最後に、質疑応答と議論の時間を取りたいと思っております。

スライド5

(スライド5のテキスト)

権利条約は、障害者の権利を明確に定めており、障害者が他のすべての者と同じ権利を持つことと、障害のない者との平等を基礎として、それらの権利を享有するべきであることを認めています。

条約の目的は、すべての障害者によるすべての人権および基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、および確保すること、そして、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することです。

条約は、権利に基づくアプローチをとっています。つまり、障害者を慈善と治療の対象として見ていた医学モデルから、権利の主体、権利保有者、そして社会の平等な構成員として認めるモデルへと移行したわけです。

また、条約では、それらの権利を尊重する義務と責任も定めています。そして、権利を主張するだけでは十分ではなく、締約国(など)がそれらの権利を尊重するためにとるべきさまざまな措置を明らかにすることも、同様に重要であると認めています。

権利条約は、インクルーシブでアクセシブルな開発を促進しています。この条約はしばしば、人権条約であり、かつ、開発の手段であると言われます。これは、権利の保証に向けて前向きな措置をとるという締約国のニーズを認め、締約国がそれらの権利を実現できるよう支援する国際社会の役割を強調する、人権法の傾向を踏まえたものです。条約を適切に実施するには、実際のところ、開発が極めて重要となります。たとえば、多くの規定で物品とサービスへのアクセスの改善が義務付けられていますが、それらは効果的な開発戦略と政策の存在に一部左右されます。重要なのは、開発に障害者を含め、開発を障害者にとってアクセシブルなものとすることです(第32条)。

これには、二本立てのアプローチが必要となります。つまり、障害者のための特別なプログラムと、開発プロジェクト、開発事業およびその他の介入における障害者の権利の主流化とを組み合わせることです。

最後に、権利条約では、国内レベルと国際レベルの両方における実施とモニタリングの仕組みについても定めています。そして、独立した専門家から成る障害者権利委員会を想定し、国内レベルでは第33条で、国内における実施とモニタリングの仕組みを設立し、あるいは指定することを、締約国に義務付けています。これは、コンプライアンスを評価する手段として、また、権利支持に向けた障害者団体とのやりとりの場として、国内における非常に重要な実施の仕組みを義務付けた、最初の国連人権条約の一つとなっています。

スライド6

(スライド6のテキスト)

権利条約は、障害が形成途上にある概念であること、また、障害が機能障害のある人と態度および環境に関する障壁との相互作用であって、機能障害のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものから生ずることを認めています。これは、国内における障害の定義では、機能障害の存在だけに焦点を合わせるのではなく、外部の障壁の役割も考慮し、参加にも注目しなければならないことを意味しています。

スライド7

(スライド7のテキスト)

権利条約の基本は、非差別と実質的な平等で、すべての人に同じルールを適用するのではなく、優遇措置や雇用率制度などの、障害者のインクルージョンを進める積極的な措置をとるということです。そして、非差別の非常に重要な要素が、他の者との平等を基礎とした権利の行使を確保するために、ケースバイケースで合理的配慮を提供する義務です。

スライド8

(スライド8のテキスト)

権利条約の原則:権利条約は8つの基本原則を特徴としています。

  • 尊厳と個人の自律の尊重
  • 非差別
  • 参加とインクルージョン
  • 差異と多様性の尊重
  • アクセシビリティ
  • 機会の平等
  • 男女の平等
  • 障害のある子どもの発達しつつある能力の尊重

これらの原則は、協議、データ収集、法律と政策の策定およびその実施とモニタリングを含む、あらゆるレベルにおける条約の解釈および実施の指針とされなければなりません。ある行動や規定が権利条約に一致しているかどうか疑わしい場合は、これらの原則を振り返るだけでよいのです。

スライド9

(スライド9のテキスト)

スライド10

(スライド10のテキスト)

第4条では、権利条約の下での締約国の義務、すなわち、権利条約において認められる権利を実施するために、すべての適切な立法措置、行政措置およびその他の措置をとることを定めています。これは、総合的な措置をとらなければならないこと、特にさまざまな法的および文化的文脈に即した、多種多様な措置を検討する柔軟性がなければならないこと、社会的なプログラム、資金調達、研修などに関する措置が考えられること、そして、これらの措置が権利条約の原則に照らして適切であることが、極めて重要であることを意味しています。

スライド11

(スライド11のテキスト)

具体的な実施措置には、以下が含まれます。

法的調和 第4条(1)(b)

障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習および慣行を修正し、廃止すること

例 後見制度にかかわらず障害者が投票する権利を確保するための選挙法の改正

これには、後見制度に関する法律の全面的な廃止も含まれます(第12条に違反)。

障害者の権利の主流化 第4条(1)(c)

すべての政策および計画において

例 ドメスティックバイオレンスキャンペーンなど、女性に関するキャンペーンと戦略における、障害のある女性と少女に対する特別な配慮を含む。

実現のための措置をとること、また、違反を阻止するための措置をとること―公の当局および機関による条約の違反がないようにすること 第4条(1)(d)

この条約に合致しないいかなる行為または慣行をも差し控え、かつ、公の当局および機関がこの条約に従い行動することを確保すること。

民間アクターによる条約の違反がないようにすること 第4条(1)(e)

いかなる個人、団体または民間企業(雇用主など)による障害に基づく差別をも撤廃するためのすべての適切な措置をとること。

スライド12

(スライド12のテキスト)

研究および開発 第4条(1)(f)、(g)

ユニバーサルデザインを用いた物品、サービス、備品および施設と、新たな技術(情報通信技術、移動補助具、補装具および支援技術を含む)について

他の者との平等を基礎とした障害者の参加を妨げるのは、多くの場合、技術の欠如であるため、これは重要です。これらの技術と補助具の開発は、ほとんど注目されておらず、資金の投資もほとんど行われていません。締約国は、これらの追求に積極的にならなければなりません。

補助具と支援技術および他の形態の援助と支援サービスに関するアクセシブルな情報の提供 第4条(1)(h)

支援技術、補装具、支援サービスに関する情報提供は重要です。なぜでしょうか? 知らないものを求めることはないからです。世界の障害者のほとんどは、これらを知りません。知らないので、求めません。求めないので、政府に何かするよう要求することもありません。ですから政府は、これらの技術、補装具および支援システムの追求に、積極的になる必要があり、さらに、人々が利益を得られるように、これらに関する情報提供も積極的に行わなければなりません。

障害者と共に行動する専門家および職員に対する訓練 第4条(1)(i)

この条約において認められる権利により保障される支援およびサービスを一層効果的に提供するため、当該権利に関して、条約の原則と精神に従って訓練する。

スライド13

(スライド13のテキスト)

第4条(2)

各締約国は、経済的、社会的および文化的権利に関しては、これらの権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で措置をとることを約束する。ただし、この規定は、この条約に含まれる義務であって国際法に基づいて即時的に適用可能なものに影響を及ぼすものではない。

政府は、経済危機などのために資源がないこと理由に、権利の実施を辞退することはできない。その場合は、実施に向けて、情報の普及、期限を設けた行動計画の考案など、費用のかからない別の措置をとることができる。政府が利用可能な資源をどこに費やしているのか、より広範なモニタリングが必要である。

スライド14

(スライド14のテキスト)

第4条(3)

締約国の最も重要な義務の一つで、障害者(障害のある子どもを含む)と障害者を代表する団体と緊密に協議し、かつ、積極的に関与させ、パラダイムシフトを具体化する。障害者のための政策と計画を、障害者のインプットや直接参加なしには策定できない。

スライド15

(スライド15のテキスト)

第4条(4)

締約国は、この条約の要件を超えることができる。ただし、条約の原則に従うものとする。

第4条(5)

この条約の規定は、いかなる制限または例外もなしに、連邦国家のすべての地域に適用される。全地域に適用され、地方自治体を含む、すべてのレベルの政府が関与する。

スライド16

(スライド16のテキスト)

これらの義務は皆、何を意味するのでしょうか。何をしなければならないのでしょうか?

  • 法律と政策の変更
  • 資金提供
  • 物品とサービスをアクセシブルにすること
  • 認識と権利の向上
  • 専門家とその他の人々の研修
  • 研究の実施
  • データ収集
  • モニタリング
  • 省庁、裁判所、国内人権機関の設立と強化
  • 締約国の実施能力の構築
  • 障害者が自らの権利を主張する能力の構築

スライド17

(スライド17のテキスト)

実施のサイクル。締約国のさまざまな義務と措置が相互に結び付き、集約的に実施をサポートしており、これらすべての行動の中心に、障害者団体の参加があります。

スライド18

(スライド18のテキスト)

スライド19

(スライド19のテキスト)

誰が実施に関与するのでしょうか。このスライドの目的は、国内の実施とモニタリングにおいて役割を果たすことができる、さまざまな仕組みの概要を説明することです。

条約では3つの仕組みに明確に言及しています。それは、フォーカルポイント、調整機構、そして独立したモニタリングの仕組み/枠組みです。その他の仕組みも、実施とモニタリングに役立てられます。議会、裁判所、市民社会がその例として挙げられますが、民間アクターも、権利条約の尊重を確保する上で、大きな役割を担っています。

障害者権利委員会

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(スライド20のテキスト)

委員会は、18名の委員で構成されています。委員は、「徳望が高く」、障害者の人権の分野において「能力及び経験を認められる」必要があります。委員は権利条約の締約国によって推薦され、選出されますが、政府の代表ではなく、独立した専門家です。任期は4年間ですが、1度の再選資格があり、2期まで続けられます。

障害者権利委員会の構成においては、以下を考慮しなければなりません。

  • 委員が地理的に衡平に配分されること
  • 異なる文明形態および主要な法体系を代表するものであること
  • ジェンダーの均衡が取れた委員会であること
  • 障害のある専門家が参加すること

現在、委員18名のうち、17名が障害者で、7名が女性です。

2名はサハラ以南のアフリカ出身者、3名は中東および北アフリカ出身者、4名はラテンアメリカ出身者、6名は欧州出身者、3名はアジア太平洋地域の出身者です。

2014年6月に、委員会の9議席について選挙が行われる予定です。この9名の委員の任期は2014年末に満了となり、そのうち4名は、すでに2期を務めたため再選資格がありません。

推薦と選考のプロセス、また、締約国が質の高い候補者を推薦できるように、障害者団体が国内レベルで推薦のプロセスに果たすことができる重要な役割については、後ほど私の発表の中で詳しくお話しします。

障害者権利委員会の役割

スライド21

(スライド21のテキスト)

委員会の活動は、以下のようにまとめられます。

  • 締約国の報告の検討
  • 選択議定書に基づく個人通報の検討と調査
  • 一般的討議の日にテーマ別問題について詳しく説明し、一般的意見を採択すること

委員会は、権利条約の実施に関する締約国の報告を検討し、締約国に対し、「総括所見」と言われる勧告を提出することを義務付けられています。現在までに委員会は、チュニジア、スペイン、ペルー、中国、ハンガリー、アルゼンチン、パラグアイ、オーストリア、オーストラリアおよびエルサルバドルの10カ国の報告を審査してきました。

委員会はまた、選択議定書に基づき、選択議定書の締約国を相手とした個人通報を受理し、審査することができます。そして、選択議定書の締約国による重大な、または制度的な侵害を示す信頼できる情報に基づき、調査を行うことができます。

現在までに障害者権利委員会は、4件の個人通報に関する決定を採択してきましたが、その最新のものは、後見制度の下に置かれている知的障害者の選挙権に関する、ハンガリーを相手とした通報でした。委員会は、裁判所による個人の選挙能力のアセスメントは差別的であり、したがって、政治的参加の権利に関する第29条と、法的能力の権利に関する第12条を侵害しているとの判断を下しました。

締約国の報告を審査することに加えて、委員会は締約国に対し、一般的討議と一般的意見の日を通じて、条約実施に関するガイダンスも提供します。委員会は一般的討議を3回にわたって開催してきました。法的能力に関する第12条の一般的討議は2009年に、アクセシビリティに関する第9条の一般的討議は2010年に、障害のある女性と少女に関する第6条の一般的討議は2013年4月に開催されました。これらは1日または半日のイベントで、このときに委員会は、通常は専門家を招き、障害者団体の参加を得た上で、公開の場で問題を議論します。

これらの3回にわたる一般的討議の結果、委員会は、これらの条文に関する一般的意見の採択に向けて取り組むことを決定しました。一般的意見とは、条約の特定の条項を実施する方法について、解釈のガイダンスを締約国に提供する文書です。委員会は現在、これら3つの条文の一般的意見を作成しており、第12条と第9条の一般的意見の草案が、現在公開されています。10月には委員会が、締約国および市民社会などすべての関係者、特に障害者団体に対し、障害者としての体験を一般的意見に確実に反映させるために、これらの草案に関するコメントを提出することを求めました。2014年4月に開かれる次の会議では、委員会が一般的意見を公の場で読み上げる予定ですが、この会議において、市民社会からの提案を考慮しつつ、草案について議論することになっています。IDAは、世界中の障害者団体が最新情報を受信し、これに遅れずについていけるように、これらの会議をウェブで生中継する予定です。

報告

委員会の主な活動は、締約国の報告を検討し、現場での権利条約の実施について審査することです。締約国の報告の義務に関する情報は、条約本体の第35条と、委員会が作成した報告ガイドラインに明記されています。

報告のプロセスにはいくつかの段階がありますが、第一段階は、報告を作成し、委員会に提出するという締約国の義務です。

締約国の報告

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(スライド22のテキスト)

権利条約を批准すると、締約国は、権利条約が効力を生じてから2年以内に最初の報告を、その後は4年ごとに報告を、委員会に提出する義務があります。最初の報告では、権利条約の批准後、各条項を履行するために取られた措置を明らかにしなければなりません。報告は60ページを超えないことが望ましいとされています。

報告のプロセスは、より効率的な政策立案と条約の実施を目的とし、人権保護の状況を評価する機会となります。したがって、報告を作成するプロセスにおいて、各締約国は以下の機会を得ることができます。

(a)締約国が加盟している、権利条約と関連のある国際人権条約の規定に、国内法および政策を調和させるために取られた措置の総合的な見直し

(b)条約に定められた権利の享受促進における進捗状況の、人権全般の促進に照らしたモニタリング

(c)条約実施に対する締約国のアプローチにおける問題と欠陥の確認

(d)これらの目標を達成するための適切な政策の立案と開発

協議

スライド23

(スライド23のテキスト)

権利条約第35条(4)によれば、報告の作成は、公開され、かつ、透明性のある過程でなければならず、締約国の報告を作成する際には、障害のある子どもを含む障害者を代表する団体を通じて彼らと協議し、その積極的な参加を得なければなりません。さらに、最初の報告を作成するための報告ガイドライン では、締約国の報告の質を高め、権利条約によって保護されている権利の享受を促進するために、締約国に対し、報告の作成に障害者団体を含むNGOの参加を得ることを促しています。

報告の義務は締約国にありますが、締約国の報告を作成するにあたり、障害者団体に果たすべき役割があること、また、権利条約で義務付けられているように、締約国が市民社会からのインプットを受け取れるように、障害者団体が国内協議の実施を要求しなければならないことは、明らかです。締約国の報告を作成するにあたり、障害者団体は、情報提供と研究、懸念される分野の特定、そして今後の行動に向けた勧告を行うために、締約国と協力しなければなりません。

障害者団体による貢献が、締約国の報告に取り入れられる場合と、取り入れられない場合があることに注目することは重要です。報告の作成は締約国の義務なので、報告には政府の視点が正確に反映されなければなりませんが、市民社会は、提供されるすべての情報や、それが提供される方法に、同意する場合もあれば同意しない場合もあります。このため、障害者団体は草案作成委員会に参加したり、締約国の代わりに報告を書いたりすることはせず、むしろ、報告の作成において、締約国に助言や情報を提供し、締約国と協議するほうが望ましいとされるわけです。障害者団体は、締約国の報告が提出された時点で、パラレルレポートを提出することにより、その独立性を保ち、制約されることなく独自のモニタリングの役割を果たす必要があります。

障害者団体によるパラレルレポート

スライド24

(スライド24のテキスト)

目的

政府は、障害者権利委員会、さらにはいかなる条約体についても、これとかかわりを持つとき、政府が達成したことに注目し、講じた措置や、実施あるいは採択した法律を強調する傾向があり、条約の実施にあたって直面している課題については詳しく説明しません。このため、現場で権利条約の実施を阻む主な課題と障壁は何か、バランスのとれた客観的な見解を委員会が得るためには、パラレルレポートが大変重要になります。

そして、報告のサイクルにおける、パラレルレポートの作成とすべての障害者団体の参加の目的は、権利条約の実施を効果的に改善するための政府に対する強力な勧告を、委員会から得ることにあります。

委員にとっては、重要な懸念事項を強調し、国内レベルでのフォローアップに向けた勧告を提出している単一の総合的な報告があることで、問題が締約国のどこに存在するのか、明確な構図を得ることができますし、これらの問題を、対話の中で締約国に確実に伝えられます。国内の連合体によって提案された勧告は、より具体的かつ組織的な傾向があります。

インクルージョン

パラレルレポートを、できる限りインクルーシブなものにすることを目指す、ということも重要です。つまり、子ども、女性、高齢者および少数民族など、すべての障害者と、すべての地域における、すべての障害者支援団体の参加を確保するということです。障害者団体の能力構築を進めてきたIDAの経験から申し上げますと、精神障害者、知的障害者とその家族、ろう社会など、特定の障害者分野や集団に、まだ連携の手が差し伸べられていないのを目にすることは珍しくありません。これは、このような人々に気づいていなかったためか、コミュニケーションを阻む障壁があったためか、あるいは、単にそのような人々が受け入れられていなかったためです。多くの場合、都市部に関しては豊富な情報が利用できましたが、国内の連合体は、地方と遠隔地の状況は知りませんでした。パラレルレポートの作成においては、すべての地域のすべての障害者のすべての権利を網羅するべきだということは、いくら強調してもしすぎるということはありません。インクルーシブなプロセスは、特定の集団が直面している特別な課題に関して、協力し、お互いから共に学び合うことにより、障害者運動を強化する機会をもたらします。それは、エンパワメントを進める、知識構築と連携構築のプロセスであり、パラレルレポートという成果物それ自体と同様に重要なのです。

このプロセスで直面するいくつかの課題は、以下の通りです。

  • どうすれば障害のある子どもや思春期の若者と効果的に話し合えるか
  • すべての分野の代表の参加が得られるわけではない場合、最も人数が少ない集団の問題を、どうすれば適切に検討できるか
  • どうすれば連合体内で、条約のすべての規定に関する共通の理解を得られるか

他に誰を含めるか。

スライド25

(スライド25のテキスト)

スライド26

(スライド26のテキスト)

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(スライド27のテキスト)

連合体は障害者団体が主導するべきですが、他のNGO(子どもの権利や女性の権利にかかわるNGO) など、市民社会の他のメンバーも含めることができます。また、広く市民社会との連携は、障害者の権利に対する彼らの認識を高め、力を結集することによって、国レベルでの権利擁護活動を促進することができます。

私たちが出会った、とても優れたインクルーシブなプロセスの例は、パラレルレポートを作成する目的で権利条約連合が設立されたフィリピンの事例です。それは障害者団体が主導する団体で、すべての障害者分野に働きかけ、これらをまとめる取り組みを行っています。この団体には、女性の権利にかかわるNGOや、より広く、経済的、社会的および文化的権利にかかわる活動をしているNGOも参加しています。ソーシャル・ウォッチ・フィリピンの支援を受け、この連合体により、障害者の権利に関する予算分析の作成という革新的な活動が行われていますが、これは、障害者の権利に割り当てられる予算に関する政府の公約を評価する上で非常に貴重であり、委員会による審査のプロセスに大いに役立てられることは間違いありません。現在、権利条約と審査のプロセスに対する、国全体および各分野の団体全体の認識の向上を図るとともに、パラレルレポートで取り組むべき中核課題を明らかにするために、この連合体による地域協議会が開催されています。

この、権利条約に対する認識の向上という点に立ち入ることが許されるなら、少しお話しさせて下さい。障害者団体と各障害者分野の団体は、確かに権利条約について知ってはいますが、必ずしも、その規定を詳しく知っているわけではなく、それらの規定の解釈についても、意見が一致しているわけではありません。問題の誤解や軽視を避けるために、連合体の構築には、権利条約に関する研修を必ず含め、権利がどのように守られるのか、また守られないのかを詳しく調べるため、どのような権利と義務が存在するか、共通の理解を得ることが求められます。各分野の団体にとって、権利条約を最高水準に高めるための共同戦線の確立に向けて、自団体の問題だけでなく、他団体の問題も引き受ける、このような取り組みは重要です。

データ収集

スライド28

(スライド28のテキスト)

データ収集は、パラレルレポートの作成、すなわち、権利条約の実施において具体的な欠落があることを委員会に示すために不可欠です。(第31条に基づく)分類されたデータの収集は、主として締約国の義務ですが、締約国がこの義務を怠った場合、やはり障害者団体が、規模は小さいながらも情報を提供する役割を果たすことができますし、委員会に対して、現状のより明確なイメージを示すためにこれを行うことは、私たちの利益になります。なぜなら、障害者が差別されていることを、私たちと委員会はどうやって知ることができるでしょうか。 また、締約国が特定の権利の漸進的な実現に本当の意味で関与していることを、私たちはどうやって知り、示すことができるでしょうか。 データと統計は、一般集団と比較して、障害者は公共サービスへのアクセスが少なく、普通教育の場で排除され続けており、貧しい生活をしている人々の多くを占めていることなどを実証する鍵となります。

障害者団体は、一つの市町村など規模は小さくても、アンケートや調査を開発し、たとえば、障害のある女性や、障害のある子どもと思春期の若者とのフォーカスグループを開催することができます。特定の種類の情報を収集するために、大学との連携も想定できます。たとえば、エルサルバドルの障害者団体は、エルサルバドル大学の人権研究所と共同で、障害に関する統計を収集し、国内法と権利条約の比較分析を実施しています。

IDAガイダンス文書

スライド29

(スライド29のテキスト)

このプロセスにおいて障害者団体を支援するために、IDAは、障害者権利委員会への報告のプロセスと内容に関する実用的な情報を提供する、パラレルレポートガイダンス文書を開発しました。ガイダンス文書では、委員会の報告ガイドラインを主たる基準とし、締約国とパラレルレポートのレベルの一貫性を保つことで委員会による両文書の解釈と比較を容易にするために、障害者団体の報告をガイドラインに定められている構造に従ったものとするよう推奨しています。ガイダンス文書は、障害者団体が提起し、探究すべき問題を明らかにする助けとして、権利条約の各条項に基づく具体的な質問を提案しています。

権利条約の報告サイクル

スライド30

(スライド30のテキスト)

円形の図で、報告サイクルのさまざまな段階が、円周上の長方形の囲みの中に示されています。

サイクルは、権利条約の締約国による批准から始まります。

次の段階は、締約国が最初の報告を障害者権利委員会に提出することですが、通常、締約国は批准の2年後にこれを行わなければなりません。報告は、委員会のウェブサイトに掲載され、国連の公用語に翻訳されます。

委員の1人が、その国を担当する報告者に任命されます。報告者は、その国の審査を中心となって行います。

その後、障害者権利委員会が報告の事前審査を行い、いわゆる事前質問事項(list of issues)を採択します。これは、締約国に対する質問のリストで、締約国の報告で提供された情報を明確化したり、完全なものにしたり、あるいは、締約国による報告提出以降の最新の変化について、報告の更新を図るものです。

事前質問事項の目的は、締約国の報告を補完するできる限り多くの情報を得、これを明確化して、締約国と委員会の双方向的対話ができる限り建設的に、かつ、十分な情報を得た上で行われるようにすることです。事前質問事項が採択されると、政府に送付され、政府は2カ月以内に書面で回答します。

したがって、報告サイクルの次の段階は、事前質問事項に対する書面による政府の回答の提出となります。これも、委員会のウェブサイトに掲載され、国連の公用語に翻訳されます。

その後、双方向的対話そのものが始まります。政府の代表がジュネーブに来て、1日、合計6時間、委員会と会合を持ちます。両者は公開会議を開きます。まず政府が発言権を持ち、15分間から20分間で報告を発表し、その後、その国を担当する報告者、つまり、その国の審査を中心となって行うよう任命された委員が、事前審査の所見を一部伝え、質問を開始し、次に、他の委員が各自追加質問をします。

対話の後、委員会は非公開会議で総括所見を作成し、採択します。総括所見は、政府が今後4年間に変更しなければならないことに焦点を絞った、政府に対する勧告です。

この4年間で政府はこれらの勧告を実施し、報告サイクルの最初に戻りますが、今度は、権利条約の実施全般と、特に委員会からの勧告の実施に向けた行動と取り組みを説明する、定期報告を提出しなければなりません。その後、報告サイクルは、事前質問事項など、その行程を再び継続していきます。

障害者団体は障害者権利委員会の活動にどのようにかかわることができるか。

スライド31

(スライド31のテキスト)

このスライドでは、同じ円形の図が見えますが、さきほどの図の長方形の間に、楕円形が散らばっています。これは、障害者団体とNGOが報告サイクルに参加できるさまざまなエントリー地点を表しています。

批准の直後、障害者団体は、締約国の報告に関する相談を受ける形で参加できます。締約国には、障害者団体の懸念を聞くために、このプロセスに障害者団体の参加を得るという義務があります(これは、条約と、手続きに関する委員会規則に規定されています)。

委員会に最初の報告が提出された後、障害者団体は、締約国の報告に関する意見と、障害者団体の視点および条約の規定が締約国でどのように実施されているかに関する情報を提供するために、独自のパラレルレポートを提出できます。この楕円は、締約国の報告の提出後に置かれています。しかし、障害者団体は締約国が報告を提出するまで、パラレルレポートへの取り組みを始めるのを待つ必要はなく、それ以前に、パラレルレポート作成のための連合体の構築を開始し、情報を収集し、実施のモニタリングを行い、委員会から出して欲しい勧告を作成することができます。

私たちが見てきた次の段階は、委員会による事前質問事項の採択でした。障害者団体は、別途単独の文書を提出したり、パラレルレポートと併せて(たとえば、付録に含めて)文書を提出したりすることにより、事前質問事項の編集にインプットを行うことができます。障害者団体には、この予備会議中にジュネーブに行って委員に会い、現場で活動している障害者団体にとっての優先課題を提起し、事前質問事項に含めるべき具体的な質問を提案する機会があります。委員会は、問題を明確化し、現場での権利条約の実施状況についてより深い理解を得られるように、公式な会議の中で、障害者団体から意見を聞く時間を取り、彼らに質問をします。この会議への参加はまた、非公式な会議の場で、その国を担当する報告者と直接かかわる機会でもあります。

事前質問事項が採択され、公開されると、委員会は事前質問事項に対する書面による政府の回答を受理しますが、委員会が「代替的な」回答を手元に得て、それらを政府の回答と比較し、実状をより深く理解し、対話の際に投じるべきフォローアップの質問を十分に準備することができるように、障害者団体にも、質問に対する書面による独自の回答を提供する機会があります。

パラレルレポートと事前質問事項の提出においては、ともに、委員会による総括所見の作成に役立つとして提起された懸念に関連のある、具体的な勧告を行わなければなりません。

ジュネーブにおける政府との双方向的対話

スライド32

(スライド32のテキスト)

委員会は、政府との対話を開始する前に、障害者団体の意見を聞くために非公開会合を開いてきましたが、これは、国連の公用語への通訳を伴う公式な会議において行われます。通常、この時間は非常に限られています。

IDAも、障害者団体と委員との交流の時間をより多く確保するために、サイドイベントを企画してきましたが、これは、最新の情報と障害者団体の懸念を共有し、委員が政府との対話に備える機会となります。

障害者団体は、対話自体に参加することはできますが、当然、議論には参加できません。しかし、同じ室内にいて、議論を見守り、委員会の質問に対する政府の回答を聞くことは重要です。委員もまた、情報を検証するために、休憩時間中に室内の障害者団体にアプローチすることができます。

委員会が総括所見を採択すると、障害者団体の真の活動が始まります。委員会の報告サイクルに関連のあるすべての活動とこれに注がれる努力は、このために、つまり、委員会の国別勧告を得て、国内の権利擁護活動を強化するものとして利用すること、また、障害者の権利をさらに尊重し、保護し、実現するために必要な措置を講じ、変更を実施するよう政府にプレッシャーを与えることを目的としているのです。

総括所見の採択を受けて、障害者団体は、これらの総括所見の実施を確保するという重要な役割を担います。つまり、総括所見を国内で公開し、広く市民社会と政府の各部門に普及する役割で、記者会見を開くことも可能ですし、関連メディアを通じて、政府がしていることについて、また、政府に義務付けていることについて、国連委員会が何と発言したかを、すべての人に伝えていくことも考えられます。総括所見は実現されなければなりません。さらに障害者団体は、勧告の実施において、政府に協力し、技術的援助と専門知識を提供することもできます。

現在までの障害者団体の参加

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障害者権利委員会開催前の障害者団体の参加については、報告サイクルの話の中で説明したとおりです。障害者団体の代表は、チュニジア、中国大陸(香港とマカオを除く)およびハンガリーを除く、現在までのすべての審査において、ジュネーブで開かれた委員会の会議に参加し、概要説明を行ってきました。

最初に審査が行われた国、チュニジアについてですが、当時革命が起こっていたため、チュニジアの障害者団体は、情報を提出することも、委員会の会議に参加することもできませんでした。それでも、チュニジアの障害者団体の懸念を委員会に確実に伝えるために、IDAは草の根の障害者団体とワークショップを実施し、障害者団体に代わって委員会に情報を伝えることができました。中国大陸については、障害者団体はリスクのために、直接参加することができませんでしたが、IDAは障害者団体によって秘密裏に提供された情報に基づき、彼らの代理として提案を行うことができました。

IDAは、委員会開催前に、障害者団体の参加を促進することによって、また、障害者団体の直接参加が不可能な場合は障害者団体の代理として情報を伝えることによって、障害者団体の声が確実に聞き届けられるよう、尽力しています。

障害者団体が国際レベルで障害者の権利の実施に向けた擁護活動を行うには、ほかにどのような手段が利用できるか。

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(スライド35のテキスト)

締約国は、多くの場合、複数の国際人権条約に加盟しています。ですから、権利条約をまだ批准していない国や、今後数年間審査が行われない可能性がある国には、自国が加盟している他の人権文書を用いて障害者の権利を高める重要な機会があります。

たとえば、日本は以下に加盟しています。

  • 市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)
  • 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR)
  • 拷問等禁止条約(CAT)
  • 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW)
  • 子どもの権利条約(CRC)
  • あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(CERD)

これらの法律文書も皆、障害者の権利に関する義務を定めています。障害者団体は、障害者権利委員会のみに、その取り組みを集中させるべきではありません。障害者団体は、他の条約体の報告プロセスにおいても、役割を果たすことができるのです。各条約体の審査のサイクルと活動は、極めて似通っています。

それらの委員会の活動において障害問題を主流化し、政府のすべての部門の検討すべき課題に障害者の権利を含めることは、非常に重要です。他の委員会をターゲットとし、市民的および政治的権利であるか、障害のある女性の権利であるか、障害のある子どもの権利であるかを問わず、他の条約体も障害者の権利を確保する必要があるという認識を高めることが重要です。現状を認識していなければ、障害者にかかわる問題を提起することはできません。障害者団体からこのような情報を得ることがなければ、条約体がこれらの問題を政府に提起する可能性は非常に低くなります。

市民社会のさまざまな部門との協力も重要です。たとえば、女性の権利にかかわるNGOと力を合わせ、障害のある女性と少女の権利に関する情報を含めたパラレルレポートをCEDAW委員会に共同提出することが挙げられます。これにより、NGOとの連携を築き、障害者の権利と、それがNGOに委任された活動にどのように収まるかに対する、NGOの認識を高めることができます。

近年、IDAは主流の条約体にパラレルレポートを提出し、国内の障害者団体にもこれを奨励してきました。その結果、権利条約と関連のある条約体の総括所見において、障害者への言及が目に見えて増えました。しかし、他の条約体に、権利条約の基準を完全に把握し、これを取り入れ、パラダイムシフトの真の意味を理解してもらうには、まだ多くのやるべきことが残っています。

これを行うために、障害者団体は積極的に他の条約体に参加しなければなりません。すべての条約体は、障害者団体を含む市民社会によるインプットを受け入れており、実際、障害者団体のインプットを求めています。これまでは、他の条約体の活動への障害者団体の参加はごくわずかでしたが、次第に増加しつつあります。

IDAの支援を受けて、障害者団体の代表も、委員に直接概要を説明するために、ジュネ―ブを訪れ、それらの条約体の会議に参加するようになりました。これは障害者の国別状況に対する委員の認識を高めるだけでなく、障害者全般が直面している課題に対する認識も高めることになります。このような課題は、他の条約体の専門家にとっては常識ではないのです。

たとえば、JDFの会員の一つである、全国「精神病」者集団は、今年の5月に開かれた拷問等禁止委員会に参加しました。私はこの委員会の委員に対する、全国「精神病」者集団による権利擁護活動を支援する機会に恵まれました。彼らは、委員会への概要説明に参加し、委員と個別に数回の非公開会合を持ちました。日本から大勢のNGO代表が参加した中で、彼らは唯一の障害者団体代表でした。現在、彼らは精神障害者の市民的および政治的権利の向上のために、人権委員会による審査のプロセスにも参加していますが、これに関する対話は来年3月に行われる予定です。

全国「精神病」者集団の活動は、極めて賞賛に価するものです。彼らに対する人権侵害について説明する義務を日本政府に守らせる、あらゆる機会をとらえているのですから。同時に、彼らの活動は、日本以外にも大きな影響を与えています。条約体のメンバーの認識を高めることによって、これらの委員会の基準を変更し、権利条約に一層合致したものとするために、彼らは一役買っているのです。そしてこれは、今後審査を受けるすべての国に好ましい影響を与え、国際人権法に基づく障害者の権利の強化に貢献するはずです。

これらの条約体に提出するパラレルレポートの作成には、情報収集、法律、政策および慣習の評価が含まれますが、これを通じて、彼らは既に日本における権利条約実施のモニタリングに積極的に取り組んでいるわけです。引き続き文書を作成し、モニタリングを行っていくことにより、時期が来たときに障害者権利委員会に提出するパラレルレポートの各部を作成するプロセスが容易になるでしょう。

委員会の総括所見

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(スライド36のテキスト)

現在までの委員会による10件の審査全体を通じて、極めて一貫して提起されてきた重要な問題がいくつかあります。これから、権利条約の実施における重要な実質的側面と手続的側面について、一部その概要を紹介しましょう。(これは、他の問題が重要ではないという意味ではなく、現在までに、これらが最も頻繁に、委員会によって提起されてきたことを意味します。)

実質的側面

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  • 非差別
    • 複数の分野横断的な差別
    • 合理的配慮の否定は差別に相当するということを法律で明確に認めること
    • 救済策と罰則の必要性
    • その期間内であれば障害を理由に妊娠中絶できるとして法律で許可された期間における、いかなる差別も廃止すること
  • 法的能力
    • 後見制度と代理人による意思決定を許可する法律、政策および慣習の撤廃
    • 当該個人者の自律、意思および選好を尊重する支援付き意思決定の導入
    • 個人の権利に関して、その能力の範囲内で、医療に関するインフォームドコンセントを与える権利と取り消す権利、司法へのアクセス、選挙、結婚、労働の権利と居所を選ぶ権利
    • 国レベル、地方レベル、地域レベルでの、障害者とその代表団体との協議および協力による、公務員、裁判官およびソーシャルワーカーなど、すべての関係者を対象とした、障害者の法的能力の認識と、支援付き意思決定のメカニズムに関する研修の実施
  • 強制不妊手術
    • 強制不妊手術を認める法律の撤廃と、障害のある少年少女に対する不妊手術の使用を禁止する法案の採択。障害のある成人に対する、事前の十分な情報提供と自由意思に基づく合意のない不妊手術の使用禁止
  • 施設収容
    • 障害を理由とした自由の剥奪を許可する法律の撤廃
    • 新たな法律が実施されるまで、病院および専門施設で自由を剥奪されている障害者のすべての症例を審査する。審査には、不服申し立ての可能性も含める。
    • 障害者団体と協力し、知的障害および/または精神障害のある子どもを含む障害者の、十分な資金を伴う脱施設化戦略を採択し、彼らのソーシャルインクルージョンと、自宅でパーソナルアシスタントや支援サービスを受ける可能性はあっても、地域社会で自立した生活を送る権利を確保する。さらに、障害者が社会から隠され、あるいは孤立することや、家族や社会集団から引き離されることを防ぐための、家族への必要な支援の提供などの措置を採択することを勧告する。

手続的側面

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  • 障害者団体の参加
  • 研修と認識の向上
  • データ収集
  • 資源

障害者権利委員会の選考のプロセス

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(スライド46のテキスト)

IDAは、障害者権利委員会委員の候補者推薦の機会に関する情報を国内の障害者団体に提供するため、委員会の選挙を当初から近くで見守ってきました。また、候補者が発表された時点で、権利条約にかかわる経験と専門知識を問うアンケートを候補者に送付することにより、候補者に関する情報を収集してきました。アンケートへの回答はその後、締約国の国連代表部に届けられ、締約国会議で行われる選挙で投票する候補者を選択する前に、彼らがより多くの情報を得られるようにしました。

公式なプロセスは、国連事務総長がすべての締約国に、障害者権利委員会に対する候補者の推薦を求める手紙を送付する時点で始まります。この手紙は、遅くとも締約国会議の4カ月前には送付されなければなりません。来年の選挙の場合は、2014年2月初めになります。

2カ月以内に、つまり4月初めまでに、締約国は候補者を1名推薦することができますが、候補者は締約国の国籍を持つ者でなければなりません。締約国は、国連に関連情報を送付しますが、国連は、締約国会議のウェブサイトにこれらの推薦候補を掲載します。

前回の締約国会議の選挙で実施されたプロセスと、他の国連人権条約体の選挙プロセスの経験は、ニューヨークにおける選挙の結果が、候補者に対する支持を他の締約国に求める国連政府代表部の努力と強く結びついていることを示しています。多くの場合、国連の別の選挙で支援をしてもらうことと引き換えに、ある候補者を支持するという政治的取引が認められます。

このように、障害者団体がプロセスの最終段階で与えられる影響は限られています。したがって、候補者を推薦するプロセスに影響を与えるには、国内レベルでの一致した取り組みが、早い段階で必要となります。

全体的な目的は、障害者の権利を深く理解している委員で構成される委員会にするということです。それゆえ、国内の障害者団体は、自国の候補者が権利条約に定められている基準を満たしている場合にのみ、これを支持するべきです。この基準は、IDAが障害者権利委員会委員の理想的なプロフィールを示した付録文書の中で、さらに明確にされ、定義されています。

第一段階は、国内の障害者団体が(協調して)、政府が候補者の推薦を検討しているかどうかを確認する試みです。この情報は、外務省や、障害問題に中心となって取り組んでいる省庁に求めることができるでしょう。

政府が実際に候補者の推薦を検討している場合、障害者団体は、適切な候補者を明らかにするために従うべきプロセスについて、具体的な勧告を提出しなければなりません。この勧告には常に、このプロセスに関する障害者団体との協議を含めなければなりません。

政府が候補者を推薦するべきかどうか、まだ決定していない場合、国内の障害者団体は、政府に推薦をさせるために、障害者団体として活動するべきか否かを判断しなければなりません。その際、政府が推薦候補として受け入れるであろう、好ましい候補者が国内にいるかどうかを考慮します。

推薦のプロセスは全体として広く宣伝され、適切な事前通告が行われなければなりません。また、推薦のプロセスの宣伝は、考えられるすべての応募者の元に届けられなければなりません。それは、国内の新聞およびその他のメディアを通じて、また、市民社会の関連部門、特に障害者団体への宣伝を通じて行われます。また、今後のプロセスに関する十分な情報を、国会に提供することも提案されます。

障害者団体による支援は、高い資質を持つ候補者を明らかにし、このような候補者からの応募を促進するために不可欠です。障害者団体は、できるだけ広く宣伝し、基準を満たす者に応募を促す働きかけをしなければなりません。特に障害者団体は、権利条約の実施促進における活動実績と専門知識、および権利条約の原則を実現するというコミットメントを認められている候補者に応募を促すことを、積極的に行わなければなりません。

選考を行う人の名前と資格は、公表されなければなりません。プロセスの透明性を上げるために、候補者の選考にかかわる人の名前と資格は、広く公表されなければなりません。この際、候補者を募るために使用された宣伝方法を用いることが望ましいでしょう。

選考:選考委員会を構成するこれらの人々は、国際人権制度の機能を熟知し、障害者の権利に関する知識を備えていなければなりません。メキシコは以前、国連の人権分野で働いた経験のある3名から成る諮問委員会を設立することにより、好ましい例を示しました。この3名から成る委員会は、最善の候補者の選考に関して政府に勧告する責任を負い、政府の決定の基礎を築きました。

応募者の技能と経験、また、応募者がどのように基準を満たしているかについては、障害者団体に助言を求めるべきです。障害者団体が、応募者の専門知識と現場での活動について、重要な情報を提供することができる最善の立場に置かれていることを考慮し、応募者に関する実質的な意見と情報を、障害者団体が提供できる適切なメカニズムが設置されなければなりません。選考のプロセスにおいて障害者団体と協議するという締約国の義務を踏まえて、障害者団体の意見はしかるべく考慮されなければなりません。

推薦のプロセスが完了した後、候補者から選ばれた推薦候補は、前述の宣伝手段を用いて迅速に公表され、締約国会議における選挙のプロセスを進めるため、関連情報が国連に送付されなければなりません。国内の障害者団体も、候補者に対し、IDAアンケートへの回答とその返送を促さなければなりません。

世界各地の障害者団体が、推薦のプロセスに積極的に関与するための十分な事前通知を得られるように、IDAはまもなく、プロセスをについて解説した文書を配布する予定です。

私たちが出会ったもう一つの好事例は、英国の事例です。

  1. 国内人権機関(NHRI)、政府および障害者団体によって作成された、役割に関する説明
  2. 国内の新聞、インターネットおよび障害者団体のネットワークを通じた広範囲にわたる宣伝
  3. NHRI、政府および障害者団体が参加する委員会への聞き取り調査
  4. (政府の出資による)キャンペーンの決定と開始
  5. ニューヨークとジュネーブの国連代表部を対象とした2年間のキャンペーン戦略と、国内およびEUにおける多数の講演の機会
  6. IDAによって公表されたアンケート
  7. 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のウェブサイトへの履歴書の掲載
  8. 選挙キャンペーンへの注目を集めるための、ソーシャルメディアの利用

権利条約の実施にあたり、障害者団体へのアドバイス

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(スライド47のテキスト)

  • 権利条約の実施にあたり、国内レベルおよび国際レベルの両方でリーダーとなる。

国内レベル:

  • 権利条約が、すべての地域における、すべての障害者の、すべての権利を意味することを確保する。
  • 障害者の権利を主流化するために、他の関係者(NGO)と連絡をとり、協力する。
  • 第33条(2)に従い、独立したモニタリング機構を含む、国内における強力なモニタリングの仕組みの設立を支持する。

国際レベル:

  • 障害者権利委員会の法的判断に関する最新情報を、ウェブ放送で提供し続ける。
    • 総括所見、個人通報に関する見解、一般的意見(入手可能な場合)
  • 障害者の権利と権利条約の基準の向上を図るため、主流の条約体や、普遍的・定期的レビュー(UPR)など、他の人権機構および他のフォーラムへの参加の機会を得る。

選挙(権利条約だけでなく、他の条約体も含む)

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(スライド48のテキスト)