国連障害者の権利条約署名式関連

署名式報告「82の署名－国際社会の関心の高まり」

長瀬修
東京大学大学院経済学研究科・全日本手をつなぐ育成会

　2007年3月30日に、障害者の権利条約とその選択議定書の署名式が国連本部総会議場にて行われ、同日中に81カ国と欧州共同体（EC）が条約への署名を行った。この82という大きな数字は国際社会の本条約への高い関心を示すものである。今回署名しなかった日本政府の早期の署名が求められている。

（写真＝国連本部総会議場の右側の大スクリーンに映る手話通訳者）

他の人権条約の例を見ると、子どもの権利条約の場合、1990年1月26日に署名のために開放され、同日に61カ国が署名を行っている。それと比べても障害者の権利条約の署名数の多さは際立っている。

条約への署名とは、その条約を批准する意思の表明であり、署名後に各国は批准に向けての国内手続きを進める必要がある。署名への開放は、条約の第42条によって規定されている。

午前の部は、出張中の国連総会議長からのビデオメッセージから始められ、国連事務次長と人権高等弁務官が発言を行った。その後、条約の策定過程で特別に重要な役割を果たしたメキシコ、エクアドルそしてニュージーランドの３カ国の政府代表がそれぞれ発言を行った。メキシコは条約提案を行った国であり、エクアドルとニュージーランドは共に特別委員会の議長を務めた国である。市民社会からは、国際障害同盟(IDA)と国際障害コーカス(IDC)を代表して、国際リハビリテーション協会（RI）副会長のギディオン・メンデシ氏（タンザニア）が発言を行った。

その後、障害者の権利条約とその選択議定書は署名のために開放された。同日中に81ヶ国と地域的統合組織である欧州共同体が条約への署名を行い、44カ国が選択議定書に署名した。ジャマイカだけは批准も行い、最初の批准国となった。午後は、署名した各国が順次、発言を行った。

（写真＝昼休みのレセプションにて歓談するドン・マッケイ大使＜特別委員会議長：左＞とジャマイカ政府代表団＜右側2名＞）

式典では以下のアクセス面の配慮がなされた。NGO参加者の傍聴席は４階であるが、車椅子利用者が最後部にしか入れないため、特別に車椅子利用者だけは、総会議場のフロアへの入場が許可された。情報アクセスとしては、アメリカ手話（ASL）が匿名の米国人の寄付により提供された。また、難聴者向けに磁気ループが国連事務局によって提供された。

中国語を除く国連公用語（国連事務局が現在使用しているソフトウェアの問題で中国語の点字文書は作成ができない）の条約文点字版、また、英語、フランス語、スペイン語の条約文拡大文字版が配布された。

今後の動きであるが、障害者の権利条約は20カ国が批准を行ってから30日後に効力を発する。その時点から6ヶ月以内にこの条約の実施のための締約国会議が開催され、障害者の権利条約委員会が設置される。この委員会は当初、12名の専門家から構成される。

本稿執筆時点（2007年4月9日）時点での署名国・地域組織数は条約が84、選択的議定書が44である（注）。最新の署名・批准リストは下記の国連サイトを参照。http://www.un.org/disabilities/

2007年3月30日の署名式において署名した国・地域統合組織リスト

（＊がついているのは選択議定書にも署名）
（+は外見で分かる障害者代表が署名をしたか、代表団に加わっていた国・地域組織）

• アルジェリア＊
• アンティグア・バーブーダ＊
• アルゼンチン＊
• アルメニア＊
• オーストラリア
• オーストリア＊
• ベルギー＊＋
• ブラジル＊＋
• カナダ
• カーポ・ヴェルデ
• チリ＊
• 中国＋
• コロンビア
• コンゴ（コンゴ共和国）＊
• コスタリカ＊
• クロアチア＊
• キプロス＊
• チェコ＊
• デンマーク
• ドミニカ
• ドミニカ共和国＊
• エクアドル＊＋
• エルサルバドル＊
• エチオピア
• フィンランド＊
• フランス
• ガボン
• ドイツ＊
• ガーナ＊
• ギリシャ
• グアテマラ＊
• ホンジュラス
• ハンガリー＊
• アイスランド＊
• インド
• インドネシア
• アイルランド＋
• イスラエル
• イタリア＊
• ジャマイカ＊＋
• ヨルダン＊＋
• ケニア
• リベリア＊
• リトアニア＊
• ルクセンブルク＊
• マケドニア（旧ユーゴスラビア共和国）
• マルタ＊
• メキシコ＊＋
• モルドバ＋
• モロッコ
• モザンビーク
• オランダ＋
• ニュージーランド＋
• ニカラグア＋
• ニジェール
• ナイジェリア＊
• ノルウェー
• パナマ＊
• パラグアイ＊
• ペルー＊
• ポーランド
• ポルトガル＊
• 韓国＋
• サンマリノ＊
• セイシェル＊
• シエラレオネ＊
• スロヴェニア＊
• 南アフリカ＊＋
• スペイン＊＋
• スリランカ
• スーダン
• スリナム
• スウェーデン＊＋
• シリア
• タイ
• チュニジア＊
• トルコ
• ウガンダ＊
• 英国
• タンザニア＋
• イエメン
• 欧州共同体

（注）上記に加え、ウルグアイは4月3日、エジプトは4月4日にそれぞれ署名した。両国とも条約のみである。