第8回「リハ協カフェ」参加報告

国際医療福祉大学成田保健医療学部 教授
国際リハビリテーション研究会 代表河野 眞

2021年10月31日(土)、第8回目となるリハ協カフェに発表者として参加する機会をいただきました。今回のリハ協カフェは、同年9月7日~9日にデンマークで開催された第24回RI世界会議(24th Rehabilitation World Congress)がテーマでした。

Rehabilitation Internationalが4年に1度開催するRI世界会議は、障害やリハビリテーションの関係者が一堂に会して研究報告や活動報告を共有する大規模なイベントです。当初スケジュールでは2020年に開催予定だったものが、COVID-19パンデミックの影響で翌年に延期されました。加えて、本来はデンマークのオーフスで対面開催だったものが、対面とオンラインのハイブリッド開催へと変更されました。

筆者自身、国際学会への参加経験は何度かありますが、RI世界大会への参加は今回が初めてでした。そのため、自分と同様に「地域に根ざしたリハビリテーション(Community-Based Rehabilitation)」を専門分野とする海外の関係者と会議の場で交流できることをとても楽しみにしていました。しかし、オンライン開催ではそれが制限されるため、少し残念に感じました。

対面の学会や国際会議に参加経験のある方はご存知だと思いますが、この種のイベントでは、発表したりそれを聞いたりするのはもちろんのこと、それ以外の時間に関係者と交流し情報交換できることが大きな利点です。オンライン開催になりますと、発表自体は聞くことが出来ますし、それに対しての質疑応答や議論の機会もありますが、発表の場を外れた場面での交流の出来ないことが大きなデメリットと感じます。やはり、人と人のコミュニケーションの醍醐味は対面での交流にこそあるのかもしれません。

さて、前述の開催延期や開催方法の変更、更にはオンライン開催によるデメリットが影響したのか、今回のRI世界大会では日本人による演題発表は数件にとどまっていました。その点で前回第23回に比べると低調だったように思います。

ただ、そのような状況であるからこそ、今回のリハ協カフェで共有の機会を持つことは重要であると思いつつ、自分の発表に臨みました。

当日は、まず筆者がRI会議での自分の発表演題について再演し共有しました。続いて、湯沢由美さん(医療法人丹沢病院 精神保健福祉士)が「地域で働く実践家から見た、国際学会参加を通した国際貢献と臨床に持ち帰るもの」と題した発表を実施されました。

湯沢さんの発表は、第24回RI会議の概要から始まり、ご自身の国際学会への参加経験と共に、国際学会への参加意義を大いに語るものでした。何となくハードルの高い響きがある「国際学会」のハードルを下げ、多くの人が勇気づけられる内容だったと思います。きっと当日のリハ協カフェに参加された皆さんの国際学会参加へのモチベーションは大いに高まったことでしょう。今回の湯沢さんのご発表を聞いて、一人でも多くの方が何かしら国際学会への参加に踏み出し、知的な刺激と意義に満ちた経験をされることを筆者自身期待しています。

さて、順序が逆になりますが、当日のリハ協カフェでの筆者の報告は、「ポスト紛争期のミャンマー・カレン州における障害のある人たちの生活実態調査」と題するものでした。これは、文部科学省の科学研究費助成金を受け、特定非営利活動法人AAR Japan[難民を助ける会]の全面的な協力の下、3年間に渡って実施した調査研究の経過報告に相当するものです。リハ協カフェではRI学会での発表内容に加え、過去の他学会での関連発表の内容も合わせて報告し共有いたしました。

報道で周知の通り、極めて残念なことですが、現在のミャンマーは、2021年2月の軍によるクーデター以降、COVID-19パンデミックと相まって、非常に混乱した状況にあります。しかし、筆者が前述の調査研究を実施していた2018年~2020年のミャンマー・カレン州は、約70年に渡って続いていたミャンマー政府とカレン民族同盟による内戦が2015年の停戦合意をもって落ち着いた時期にありました。そのため、前述の調査研究では、ミャンマー・カレン州をポスト紛争期にあると捉え、そのような状況下にある農村部障害者の生活実態の把握に取り組むこととしました。

紛争期及びポスト紛争期の障害者は非障害者よりも一層過酷な生活状況に置かれている可能性がありますが、そのことをテーマとした先行研究は散見されるものの、共通の知見を得られるほど十分な数ではありません。そのため、1つでも多くの研究を積み重ね、紛争期やポスト紛争期の障害者支援に役立てたい、というのが今回の研究を実施した動機です。

リハ協カフェでの報告は大きく二つの部分~対象地域の全戸訪問調査と対象地域に暮らす障害者へのインタビュー調査~から構成することとしました。

いずれの調査もカレン州ラインブエ地区の農村を対象地域としています。

このうち、全戸訪問調査については、実際は15の村を対象として実施しましたが、そのうち分析の完了していた10の村のデータから報告を行いました。また、インタビュー調査については、10名の障害児者を対象に実施したインタビューの分析結果を報告しました。

10の村の全戸訪問調査では、1,895世帯を訪問し227名の障害児・者の生活状況について、社会参加を中心に聞くことが出来ました。それによると、①就労という面では障害者が非障害者に比べて著しく参加から疎外されていること、②教育では、男性障害者は非障害所とほぼ変わらない参加を果たしているが、女性障害者は著しく参加から疎外されていること、③一方で、男性障害者に比べて女性障害者は、村での生活の中で障害者差別を実感していないこと、などが明らかとなりました。結果として、障害に対する差別に加えたジェンダー差別の存在と、社会参加からの阻害の故に、逆に女性障害者は差別を感じにくくなっている可能性が示唆されました。女性障害者へのアドボカシーを含めた支援の必要性を考えさせる結果と言えます。

一方、インタビュー調査では、障害者とその家族がフォーマル・インフォーマルの別にかかわらず、さまざまな社会資源をパッチワーク的に活用しながら社会生活を営んでいる様子を捉えることが出来ました。セイフティネットとして、家族だけでなく、叔父・叔母や甥・姪といった親戚、難民キャンプの資源も含めた隣国タイ、そして仏教寺院のような宗教組織などを、状況に合わせてさまざまに活用しながら、障害者とその家族は困難な日々を逞しく生き抜いていました。その結果からは、セイフティネットを一本化し選択肢を減らしていく支援ではなく、選択肢を多様化する支援の必要性について示唆を得たと考えています。

以上のような報告を踏まえ、参加者の皆さんからは質疑応答の時間だけでなく、終了後のアンケートの中でもさまざまな反響をいただくことが出来ました。質問の中には、筆者の限られた調査や経験では答えることの出来ないものも多く、その点では忸怩たる思いが残ったところです。ただ、ありがたいことに、「こうした調査を積み重ねて、当局に課題解決の提起をしていく必要がある」「フォローアップ調査を期待したい」「ミャンマー全体との比較分析が欲しかった」など、同様の調査研究を積み重ねる動機付けにつながるようなご意見もいただくことが出来ました。ご意見を励みとし、十分に答えられなかった質問に答えられるようになることを目指して、地道に研究活動を続けていきたいと思います。

そして改めて、オンラインではあっても、このような交流機会を持つことの重要性に気付かされた今回のリハ協カフェへの参加でした。このような貴重な機会が末永く続くことを祈ります。

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