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わかりやすい言葉で
-読みやすく、わかりやすい言葉で書かれたヨーロッパの国々の新聞とその開発の動 き-
【抄訳】

IN PLAIN LANGUAGE
Easy-to-read and plain language newspapers and initiatives in Europe-

EUソクラテスプログラム、グルントヴィッヒ2プロジェクト(2000 年~2006年)が、「ヨーロッパ読みやすくわかりやすい言葉の学習連携ネットワー ク」の一環として発行

民主化を進める手段としての言葉

読みやすく(easy-to-read)、わかりやすい言葉(plain language)で書かれた本や 新聞、情報資料には、情報や文学およびニュースを、すべての人が理解できるように するという、民主的な目標の達成への意欲が表れています。

一般の読者の少なくとも20%は何らかの読みの問題を抱えており、基本的な言語技能を身につけることなく学校をやめてしまう生徒の数は増えています。

何百万人ものヨーロッパ人が、祖国を離れ、自分を理解してもらうためには外国語を話さなければならない国で、新たな人生を歩んでいます。それにもかかわらず、新聞社やコピーライター、政治家やジャーナリストらは、不必要に複雑な言葉や理解できない専門用語を使うことが多く、わかりやすく、読みやすい言葉が必要であることが明らかになってきました。これはどう見ても、民主化への動きであるといえます。

この小冊子で紹介している新聞社やその他の機関はすべて、読みやすく、わかりやすい言葉で書かれた出版物を扱っています。このような動きは当初、いい加減でわかりにくい言葉に憤慨し、これに反対するキャンペーンとして、あるいは、障害者の読み書き能力向上をはかる民主的なプロジェクトとして始められました。

現在では、読みやすく、わかりやすい言葉で書かれた出版物は、それ自体独自のジャンルとなっています。そしてよくあることですが、障害者や不利な立場にある人々のために開発された手段が、一般の人々にとっても役に立つことが明らかになりました。

読みやすく、わかりやすい言葉

「読みやすい言葉」と「わかりやすい言葉」とを区別することは、簡単ではありません。

一般に、「わかりやすい言葉」という表現は、読者に文書の意味をより明確に伝えるために、不必要に複雑な言葉を使わないようにする方法を表していると考えられています。

一方、「読みやすい言葉」とは、対象となる一つ、あるいは複数の特定のグループのために、そのグループの障害や読みの問題について出版者側が知っていることを利用して、言葉や絵、表現の仕方を工夫する方法であると理解されています。

このように、「わかりやすい言葉」が、役に立つ情報をすべての人々に伝える方法であるのに対し、「読みやすい言葉」は、対象となるある特定のグループを想定して、それに合わせて使用される言葉だといえます。

ターゲットグループ

どのような本も、新聞も、パンフレットも、マニュアルも、法律も、公文書も、わかりやすい言葉や読みやすい言葉で書くことができますし、また、実際にそうしなければなりません。わかりやすい言葉を使えば、難しいことでもガラスのようにはっきりとさせることができます。そしてだれもが皆、わかりやすく、読みやすい言葉で書かれた文書や情報から利益を得ることができるでしょう。しかし、この冊子で紹介している新聞社や各機関はすべて、特別なニーズを持つターゲットグループをいくつか想定しています。

これらのターゲットグループには、ディスレクシアの人々や、知的障害者、移民、学童、読みの障害を抱える人々、十分な教育を受けていない人々、失語症などの記憶障害に苦しむ人々と高齢者が含まれています。

各ターゲットグループには、読み書きに関する特別なニーズがあります。しかし、最も基本的なニーズは、大部分の読者に共通しています。それは、論理的な流れと、簡単で具体的な言葉、そして簡単な文構造と読みやすいフォント、余白を十分とった見やすいレイアウトです。

これまでの経験から、前述のターゲットグループの人々すべてが読んで理解できる新聞や本、その他の文字で書かれた資料を作成することは、可能であることがわかっています。実際、財政面を考慮するならば、文字で書かれた資料を、それぞれのターゲットグループに合わせて別々に制作することは不可能でしょう。

その他の機関とネットワーク

この小冊子で紹介している機関だけが、読みやすくわかりやすい言葉の普及にかかわっているわけではありません。ヨーロッパだけでも数機関が、読みの障害を抱える人々のための方法や製品の開発を積極的に進めており、また、読みやすい言葉で書かれた新聞や本を出版しています。

イタリアでは、Due ParoleとOtto Paginaが、知的障害者向けに印刷版のニュース資料とウェブニュースを提供しています。 ベルギーでは、フランス語系のL’Essentielが、ニュースダイジェストを毎月発行しています。

スウェーデンでは、Sesamという新聞社が、移民向けに読みやすい新聞を発行しています。

ヨーロッパのいくつかの国々では、障害者団体が、読みやすくわかりやすい言葉を使った情報資料や案内書および図書を発行しています。

何よりも重要なのは、ヨーロッパのいくつかの機関が、「読みやすい図書ネットワーク(Easy-to-Read Network)」を結成したことです。このネットワークは、読みやすい図書に専門的な関心とかかわりを持つ人すべてに開かれています。

読みやすい図書ネットワークの会員は、以下のそれぞれにアクセスすることができます。

  • 情報、掲示板、リンクが掲載されているインターネット上のウェブサイト
  • インターネットベースの連絡フォーラムとメーリングリスト
  • 年2-3回発行されるニュース・情報紙
  • IFLA会議、クリミア図書館会議の開催地などで、2,3年おきに開かれる会議

読みやすい図書ネットワークへの参加登録は、Centrum för Lättlästs(スウェーデン読みやすい図書センター)のウェブサイトwww.lattlast.seで簡単にできます。

学習連携ネットワーク

英語、デンマーク語、フィンランド語、ノルウェー語、スウェーデン語およびオランダ語はすべて、お互いに関連があるにもかかわらず、大きく異なっています。言うまでもなく、何がわかりやすい言葉であり、また読みやすい言葉であるかは、国によって違います。

しかし、異なっている点よりも、似ている点の方がたくさんあります。わかりやすい言葉で書くプロセスは、すべての言語についてほとんど同じであるといえます。読者の立場に立って文章を見、難しい言葉や専門用語を避け、複雑な文構造の使用をやめて、要点を単刀直入に言うことは、わかりやすい言葉で書こうとする書き手がとる共通の手段です。今後、国際的な協力を進め、海外の優れたアイディアを利用し、書き方や、編集の仕方、評価、マーケティングなどの標準規格を開発していくことで、多くの進歩がもたらされるでしょう。

2005年以降、PEC、Klar Tale、Okee、Wablieft、Selko/Uutiset、8 SIDOR およびOverblikは、EUのソクラテスプログラムの出資による共同プロジェクトを実施してきました。そのグルントヴィッヒ2プロジェクトの第一目標が、将来の協力方法を探るための活動ネットワークを作ることでした。

ヨーロッパ連携ネットワークのプロジェクト

イギリス、オランダ、ベルギー、デンマーク、フィンランド、そしてスウェーデンの連携ネットワークが確立されると、読みやすい品質保証マークの作成、わかりやすい言葉の研修コースの開発、営利を目的とした書き換えサービスの提供、マーケティング、本の出版や、ニュース記事および写真の交換などに向けて、連携を強化していくことが決定されました。

2007年、連携ネットワークでは、気候変動などの環境問題に関する新聞を印刷することを決定しました。参加各国が投稿した記事が6ヶ国語に翻訳され、各国で配布されます。

連携ネットワークの将来の目標の一つは、わかりやすく、読みやすい言葉で書かれたヨーロッパウェブ新聞を制作し、数ヶ国語で発行することです。

スウェーデン

8 SIDOR(8ページ)は、読みやすいスウェーデン語で短くまとめられたニュースを好む読者のために、週刊新聞と日刊ウェブ新聞の発行、ウェブベースの情報サービスの提供、教育用小冊子の出版を行っています。

8 SIDORのニュースサービス部では、地方新聞社にニュースダイジェストを販売しています。ターゲットグループには、軽度知的障害者や学童、移民、ディスレクシアの人々や、失語症などの障害に苦しんでいる読者が含まれます。

8 SIDORが発行する印刷版の新聞の定期購読者数は12,500人で、毎号およそ100,000人の読者が読んでいます。また、ニュースサービス部の資料は、毎週300,000部コピーされています。編集部は、記者4人とカメラマン1人で構成されています。

8 SIDORの目的は、ウェブベースのマルチメディアツールを使った報道を開発し、さまざまなターゲットグループにとって読みやすいと考えられる新たなニュースの伝達方法を見出し、読みやすいニュースを必要とし、あるいは求めているすべての読者が、それを利用できるようにする国際的なプロジェクトに参加することです。

8 SIDORは、スウェーデン読みやすい図書センターの出資により、1984年に設立されましたが、一部国から補助金の支給を受けています。また同センターは出版社も経営しており、読みやすい言葉で書き換えをするサービスの提供や、読みやすいスウェーデン語の研修も行っています。

8 sidor(スウェーデン):
URL:www.8sidor.se

8 SIDOR(2008年5月7日号)の1面

ベルギー

Wablieftは、ベルギーのフラマン語が話されている地域で発行されている、読みやすい言葉で書かれた新聞です。Wablieftとは、「もう一度言っていただけますか?」という意味です。Wablieftは毎週、何らかの理由で通常の新聞を読むことが難しすぎる読者に、ニュースの一番重要な部分を伝えてくれます。Wablieftの主な目標は、社会をすべての人にとってアクセシブルなところにすることです。誰にでも、その人自身のレベルに応じて情報を得る権利があります。Wablieftは、その多くの読者にとって、ニュースの経過を追い、それについて意見をまとめるために使うことができる唯一の手段となっています。

Wablieftは普通の新聞のように見えますし、ベルギー国内の政治問題や外交問題、三面記事、スポーツ、インタビューや最新の話題に関するレポートなど、普通の新聞と同じテーマを扱っています。また、クロスワードや小説、マンガなどもあります。Wablieftは人々への情報提供以外に、成人教育やその他の教育にかかわる学習者や教師に、学習教材も提供しています。

Wablieftは、「アルファベット化の実験」の一環として、1985年に小さな規模で始められました。現在では、9,500人を超える定期購読者が、毎週新聞を受け取っています。Wablieftの読者はさまざまです。読者の年齢は7歳から77歳で、家庭で購読している人もいれば、グループで、教室や基礎教育センターまたは成人教育センター、言語研修センターなどで購読している人もいます。また、多くの病院、リハビリテーションセンター、図書館、移民労働者統合センター、老人ホーム、知的障害者施設などでも、Wablieftを定期購読しています。

Wablieftは、フランドル成人基礎教育支援開発機関(VOCB)によって発行されており、フランドル政府も一部出資しています。2005年以降は、全国的な協同組合金融グループであるCeraからも補助金を得ており、読みやすい言葉で書く(書き換える)サービスや、読みやすい言葉で書くための研修を実施しています。

Wablieft(ベルギー):
URL:www.wablieft.be

Wablieft(2007年5月23日号)の1面
 
Wablieftのスタッフ

イギリス

プレーン・イングリッシュ・キャンペーン(PEC)は、英語圏全体で編集・研修サービスを提供し、また、わかりやすく書かれた文書を対象としたクリスタル・マーク認証制度を実施しています。PECは3カ月に一度、Plain English(わかりやすい英語)という無料の雑誌を発行しています。この雑誌は、PECのウェブサイトでも読むことができ、ダウンロードもできます。

PECのウェブサイトでは、医療情報、法律、年金、金融などのテーマに関する無料案内も提供しているほか、わかりやすい英語の書き方も紹介しています。

PECは現在、読み書きが困難な人々を支援するための、無料オンラインサービスを開発中です。

PECのスタッフは、すべての言語をできるだけ簡単でわかりやすいものにしていくために、定期的に海外の国々を訪問しています。最近訪れたモスクワでは、世界全体で読み書き能力の水準が低下していることに、多くの人々が不安を示していました。

PECの活動資金は、営利を目的とした編集・研修サービスの提供によって賄われています。これによって、PECは独立を保ち、政府の影響を受けずに活動することが可能となっています。

Plain English Campaigns(イギリス):
URL:www.plainenglish.co.uk

プレーン・イングリッシュ・キャンペーン(PEC)のスタッフ

 

ノルウェー

Klar Taleは、ノルウェーで唯一の、読みやすい言葉で書かれた新聞です。この新聞では、誰にでもニュースが理解できるように工夫しています。使われている言葉は簡単で、文字は他の新聞よりも大きくなっています。

Klar Taleは週一回発行されており、ノルウェーをはじめ世界のニュースや記事を、12ページにわたって掲載しています。また音声CD版だけでなく、点字版の新聞も提供しています。このような3種類のKlar Taleの定期購読者数は、13,000人です。Klar Taleの最新版を、同社のウェブサイト、http://www.klartale.no/で聞いてみてください。’KLAR TALE Hør podkast’から入ってください。ファイルをMP3プレーヤーにダウンロードすることもできます。

Klar Tale(ノルウェー):
URL:www.klartale.no

Klar Tale(2007年3月22日号)の1面
 
Klar Taleのスタッフ

オランダ

Eenvoudig Communicerenは出版社兼通信社です。同社は、企業や公的機関、行政機関を対象とした、わかりやすいオランダ語の研修コースと、オランダ語の文書をわかりやすいオランダ語に書き換えるサービスを提供する、読みやすいコミュニケーションセンターの運営もしています。

Eenvoudig Communicerenは5種類の新聞を発行しています。それは、読みの障害を抱える成人を対象とした新聞、移民向けの新聞、労働者向けの新聞、知的障害者向けの新聞、そして学童向けの新聞で、いずれもわかりやすいオランダ語で書かれています。これらの新聞はすべて、月に一回発行されており、定期購読者数は22,000人を超えています。

政府の調査によれば、Eenvoudig Communicerenのターゲットグループには、読み書き障害を抱える150万人の人々も含まれているとのことです。このような人々のうち、読み書きができない学童の割合が急激に増えています。

Eenvoudig Communicerenの出版部では、5つのターゲットグループすべてを対象とした読みやすい図書を制作しています。青少年向けの小説では、恋愛、妊娠、同性愛などをテーマにしたシリーズが、大変人気を集めています。また、古典のシリーズや仕事、健康、自立生活、借金防止などに関する本も出版しています。学習障害の生徒を対象とした職業ガイドや、読みやすい料理本も制作しています。

Eenvoudig Communicerenは、記者、編集者、デザイナーら合わせて14人のチームで、フリーランスの記者も働いています。政府の財政支援は受けていません。

事務所は、アムステルダム中心部に非常に近いダムスクウェアにあり、カイザース運河に面しています。

Okee(オランダ):
URL:www.eenvoudigcommuniceren.nl

PrO-krant(2006年5月号)の1面
 
Eenvoudig Communicerenのスタッフ

フィンランド

フィンランドのわかりやすいことば研究所は、わかりやすい言葉で書かれたフィンランド語の新聞、Selkouutisetと、スウェーデン語の新聞、LL-Bladetを発行し、わかりやすい言葉で書かれた文学作品の出版を促進し、わかりやすい言葉に関連したサービスやコミュニケーションプロジェクトを企画し、この分野での連携とコミュニケーションの道を提供しています。

フィンランド語のSelkouutisetとスウェーデン語のLL-Bladetは、わかりやすい言葉で書かれた新聞です。これらの読みやすい新聞は、さまざまな障害者グループや、移民、海外在住のフィンランド人、高齢者、学童などに配布されています。どちらの新聞も、宗教的、政治的な偏りはありません。

SelkouutisetとLL-Bladetには、国内外のできごとやスポーツ、文化、そして娯楽に関する情報が掲載されています。どちらの新聞も2週間に一度(年間26回)発行されています。年間購読料は20ユーロです。発行部数はおよそ5,000部です。スタッフは3人の記者です。

わかりやすいことば研究所の、わかりやすい言葉のウェブページには、本や新聞の注文申込書のほか、SelkouutisetとLL-Bladetのインターネット版や、わかりやすい言葉で書かれた本、その他の話題が掲載されています。

Selkouutiset/LL-bladet(フィンランド):
URL:www.papunet.net/selko
www.papunet.net/ll

Selkouutiset(2006年4月25日号)の1面
 
LL-Bladet(2007年7月30日号)の1面
 
わかりやすいことば研究所のスタッフ

 

デンマーク

Overblik(ジェネラルビュー)は、年に10回発行されている読みやすい新聞です。発行部数は3,500部です。

ターゲットグループは、読みの障害を抱える青少年と成人、そしてデンマーク語を学んでいる外国人です。このような人たちにデンマークに関する最新の情報を提供し、社会における民主的な活動に参加するよう促すことを目的としています。

Overblikは教育・研修プログラムの中で広く利用されているので、毎号、8題から10題の練習問題を掲載した紙がつけられています。練習問題は経験豊富な教師たちによって作成されています。

Overblikはまた、Overblik Undervisning(Overblik教育)という特別な指導用ウェブサイトを開設しています。このウェブサイトでは、新聞の各号について、さらに簡単な言葉で書かれたミニチュア版新聞である4 Sider(4 ページ)や、Overblik と4 Sider(4 ページ)の記事をもとにした用語解説、クイズおよび対話方式の練習問題など、オンラインの補助教材を提供しています。

Overblikは、読みやすい情報を専門にしている2人のジャーナリストが経営する民間企業、pt tekst(ptテクスト)によって発行されています。編集もこの2人が担当しています。

Overblik(デンマーク):
URL:www.paaletdansk.dk

Overblik(2007年5月号)の1面
 
Overblik(2007年5月号)の4sider
 
Overblikのスタッフ