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講演1「スウェーデンにおけるさわる絵本」

アニカ・ノーバーグ
フリーランス・テキスタイル・デザイナー

 こんにちは。アニカ・ノーバーグと申します。スウェーデンのウプサラ市に住んでいます。ウプサラ市はストックホルムの北約1時間くらいのところに位置し、大学の町ということで有名です。非常に古い町です。
 今回の来日は、私にとっては初めての体験です。京都、大阪と回りまして、今東京におります。おかげさまで非常に楽しい滞在を送っています。
 今日は皆さんにプレゼンテーションするのですが、途中でもかまいません、何かご質問があれば手を挙げておっしゃってください。
 私はもともとテキスタイル・デザイナーの勉強をしておりました。イェーテボリィ大学デザイン工芸学科を1986年に卒業し、その後はいろいろなデザイン関連のプロジェクトの仕事をしていました。
 今日は、いわゆるタクタイル・ピクチャーズ、タクタイル・ブックといって、さわる絵本について皆さんにお話したいと思います。このさわる絵本づくりには1991年から携わっております。TPB(スウェーデン国立録音点字図書館)(注1)と政府機関のSPSM(スウェーデンの国立特別支援教育庁)(注2)の依頼によって製作しています。その他にも、フリーランスとしてさまざまなプロジェクト、さわる本ですとか、それから通常のアートを実際に触って楽しめる、触って鑑賞できるように変化させる、そんな仕事もしております。

 もともと、さわる本という概念そのものと出会ったのは1991年、TPB、スウェーデン国立録音点字図書館から依頼を受けてのことでした。そのときは特に子どもを対象というわけではなくて、目の不自由な方の編み物の本を書いてくれないか、さわる本としてそういうものを作ってくれないかという依頼がきたわけです。そこで私はイボンヌ・エリクソンという女性と会いました。彼女から、このさわる本について、それからさわる本の考え方とか概念について紹介されて、以来この分野に関わっています。
 TPBとの付き合いは1991年からになります。ただ、こちらの職員として働いているわけではなく、フリーランスです。もともと、このような教育学的思想は、ポリー・エドマン(Polly Edman)やモニカ・ストゥルーセル(Monica Strucel)によってスタートしました。この人たちが、やはり目の不自由な子どもたちにもいろいろ本を、ということを考え始め、現在のSPSM、国立特別支援教育庁にも働きかけて、そこで仕事をしていたわけです。これが1995年までのことでした。そしてこの機関はその後、TPBのイボンヌ・エリクソンという私が知り合った女性にバトンタッチされました。

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 TPBについてはこちらにウェブサイトも出ているのですが、国立の録音点字図書館で文化省の管轄のもとに成り立っております。ここでのミッションは、障害のある方たちが彼らに適した媒体を通して文学とか書籍にアクセスできるようにするということです。例えば、録音図書ですとか、点字の図書、電子テキスト、DAISYなどです。大学生レベルの学生にも適した文学にアクセスできるようにしています。
さわる絵本は4人で製作しており、いろいろな作り方があります。

スライド2

 こちらに出ているスライドですが、「3びきのやぎのがらがらどん」の一部です。これらコラージュという手法を使っています。レーザーカットした紙を重ねて、厚みを出して触れるようにしているものです。

スライド3

 別の技法としては、スウェルペーパーというものです。日本の印刷技法で直訳や定訳があるのかどうかわからないのですが、スウェル(swell)というのは「突起」という意味なのです。どういう仕組みかというと、紙に特別なインクで絵を描き入れる。この中のカーボンがレーザープリンタなどにかけるとそこの部分がぷーっと浮かび上がる。点字を使うときのエンボスとはちょっと違うのですけれども、ちょっとぷくっと膨れるような感じになります。

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 そしてもう一つの技法は、たぶんこれは日本でもおなじみのシルクスクリーンという技法です。英語ですとスクリーン・プリントと呼んでいます。

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 基本的にこの図書館で、また私が携わっている本のほとんどは子ども向けのものなのですが、もちろん大人向けの本も手がけています。こちらが一つの例です。これはストックホルム市のガイドブックなのですが、町の中にある非常に有名な建造物をさわる本にしているものです。これは「Getting in touch with Stockholm」、ストックホルム市を知ってみよう、というようなガイドブックです。

 基本的にはTPBの本を借りることができるのは、点字が読めるようなお子さんがほとんどです。けれども、いわゆる視覚障害のお子さんだけではなく、その他にも例えば知的障害などをかかえたお子さんもTPBから本をさわる本を借りることもできます。

 この本ですが、もちろん図書館から、通常皆さんも同じように借りること、貸し出していただくこともできますし、それからTPBなりあるいはその他の組織から買うこともできます。実際にはさわる本はと通常のバージョンでは、価格は実は違います。やはり作るコストがかかりますから違うのですが、実際にはコストは税金でカバーされています。
 ですので、最終的に例えば、目が見える方が普通のバージョンの本を買うのと、その本のさわる本バージョンを買った場合でも、実際に消費者が支払う額はほぼ同じです。差額の分は税金で負担します。

 さて、このTPBは、「読書の喜び」ということをターゲットにして皆さんに働きかけています。一方のSPSM、国立特別支援教育庁、こちらは本当に教育のための図書を作っています。

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 国立特別支援教育庁は、その名のとおり、視覚障害だけではなく、いろいろな障害を持ったお子さんたちのためにいろいろな教材を使えるように、応用する、あるいは少し変えて、どの障害があっても使っていただけるように調整するという役割を持っています。
 スウェーデンの学校では、障害のある児童の多くが障害のない児童と同じクラスに統合されています。特に障害児のクラスというものは設けていない。そのような障害を持ったお子さんが授業に参加しやすいように、また、障害のある児童もない児童も同じ教育を受けられるように、教材を改良していく。それがSPSMの役割です。

スライド7

 SPSMから依頼される仕事は、主にスウェルペーパーという技法を使って絵を作る作業です。例えばこのような地図などですね。

 さらに、特別支援教育庁では障害を持った子どもたち、あるいはその親御さん用の特別のコースも設けています。このコースでは、例えば障害に応じて必要なスキルとか技術などを教えます。例えば点字が読めないお子さんに点字を教えるとか、あるいは、目が不自由だからなかなかあちらこちらに動き回れない、そういうときに白杖を持ってどうやって歩いたらいいのかとか、行動範囲を広げるためにはどうしたらいいのかということも教えています。
 それでは、さわる本づくりについてもう少し詳しくお話していきます。
 イメージを触る、画像を触って理解するためには実は時間が非常にかかります。目が完全に見えているという方たちの場合、目で見て、何の絵か、どういうふうに描かれているかというのがすぐに理解できます。そのプロセスというのは実は考えないで理解できているのではないでしょうか。

 見える人は一目見てわかりますが、視覚障害の子どもたちにとってはできないことなのです。したがって、この子たちに意識して、これは面白そうだとまず思ってもらうことが必要です。興味を持ってもらえなければ、そもそも話にならない。この考え方はもちろん、子どもだけではなくて、視覚障害者の大人の方にも言えます。

 私自身目は見えますから、もちろん振り向けばいろいろな画像、いろいろな映像が目に入ってくる。それを自動的に理解しているわけです。しかし、視覚障害者の場合ですと、そこにいるだけでは情報は入ってこない。やはりそこに何かしらの支援が必要なわけです。

 「これは絵本ですよ」とただ見せても、頭の中に入ってくるわけではありません。目の不自由な方がわかるような形に本を改良する、形を少し変えて提示しなければなりません。
何か物体を認識するとき、最初は形から入ります。そして、視覚、知覚へと移ります。

 私が実際にさわる本を作る際には、基本的には線や面だけでものをとらえていきます。例えば遠近法といったようなものは一切使いません。それから、例えば普通の絵本だったら描かれている影も一切取り上げません。それから例えば3Dというか、立体的に見せるための手法がその絵本の中に使われていたとしても、そこは敢えて省略していきます。そうでないと、さわる本に変換したときに却ってわかりづらくなってしまうからです。
 ですので、読む本、見る本をさわる本に変換するためには、本自体をデザインしなおす。もっとシンプルなものにしなければなりません。ぱっと見にはとてもシンプルな絵ね、単純な本だわねと思われるような本であっても、それをさらに省略していきます。

 いくつか、例をご覧にいれましょう。

スライド8

 さて、こちらはおなじみのミッフィーですね。非常に絵自体がシンプルなラインで囲まれています。形もシンプル、それから黒の輪郭がはっきりと入っていて、また背景の色が濃い。そして前面に出ている色が非常に鮮やかということで、例えば多少視力が残っている方であっても、この本でしたら読めるかもしれません。
 ですが、こんなにシンプルなミッフィーの本であっても、TPBはさらにこれをちゃんとさわる本にしてほしいと、私に依頼してきました。そのときにはシルクスクリーンの技法を使ってはどうだろうかと言ってきました。

スライド9

 実際のものは後ろのほうに展示しておりますので、ご覧になってください。
 こちらが、さわる本バージョンのミッフィーです。
 左側がオリジナルバージョン、右側がさわる絵本バージョンのミッフィーです。オリジナルのバージョンを見てみますと、ミッフィーちゃんは男の子か女の子かちょっとわからないのですが、手を身体の前に置いていますよね。そのままですと、さわる本にしたときにちょっとわかりづらい。そこで、さわる本バージョンにしたときには手を身体の外側に描きました。

スライド10

 もう一つの例です。これはミッフィーちゃんのお父さんです。ミッフィーちゃんのお父さんが花に水をやっているという絵ですね。左側がオリジナルバージョン。このときミッフィーちゃんのお父さんは少し横を向いた形で、多少遠近法も感じさせるような形で描かれています。そして花も複数描かれています。しかし、右側のさわる本バージョンのミッフィーちゃんのお父さん。真正面を向いて、さらに水をやっている花は1輪にしています。

 こういったさわる本づくりをするときに、内容はさておき、まず絵の中に絶対に入っていなければいけない重要な要素は何か、その分析から始めます。そして私自身、この絵本のこの絵の中で何を見せることが大切なのか、そしてその絵がどういう機能を果たしているのか、それを説明できるように心がけています。

 先ほど、絵をとらえるときには形から入ると言いました。この形というものは、線と面で描くことができます。けれども、それがどんな線、あるいはどんな面にするかというのはとても重要で、私自身も作るときに気をつけなければならないポイントになります。なるべく、さわる本づくりをするときにはすべての絵をまず単純化する。それから、絵の中で何が一番大切なのか決定する。そして、絵の中で不必要なものは極力排除していくという作業を行います。

 例えば、実際に私が作業をするときにどんな思考プロセスを経ているのか、これからご説明します。

スライド11

 では、丸という一つの画像からスタートしましょうか。今ここで皆さんがご覧になっている丸は、何かちょっと陰が入っていて、塗りつぶされているような丸ですよね。輪ではないということはわかります。けれども、この丸がいったい何を意味しているのか。ボールでしょうか、太陽でしょうか、何かのフルーツでしょうか。それをまず理解しなければなりません。

スライド12

 この丸は、実は単なる丸ではなくてレモンなのだということを伝えたいのだとしましょうか。見えるのであれば、本当にレモン色で塗ってレモンだと説明することもできます。しかしさわる本のバージョンではそれは無理です。ですから、色で勝負するのではなくて、形で勝負する。その形も、レモンであればレモンらしい、端の出っ張りの部分を強調することによってレモンであるということを伝えます。

スライド13

 では、今度はリンゴです。同じ丸から派生してリンゴを表します。先ほど、さわる本を作るときはすべてを単純化すると申し上げました。ですが、場合によっては、例えばこのリンゴのように、多少パーツを追加することもあります。

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 上のヘタの部分と、下のお尻の部分にちょっとパーツを加えることによって、リンゴらしくなってきました。

スライド15

 先ほど、さわる本を作る際には遠近法は用いないと申しました。とは言っても、物というのはだいたい立体なのだということも目の不自由な子どもたちには理解してほしい。そこで、ときにはこんな描き方もします。これは自転車の絵です。これが立体なのだということを理解させるために、横から見た図と上から見た図をここに描きました。
 そもそも、なぜこういうさわる本というものが必要なのでしょうか。実際にそのものがあるのだから、触らせればいいではないかと思われる方もいらっしゃると思います。
 例えば自転車なら自転車そのものを触ればいいではないかという意見もあるかとは思うのですが、私は視覚障害のあるお子さんたちがもっと早期に絵や図を理解できるようになることがとても大切だと思っています。なぜかというと、その子たちが大きくなったときに、当然のことながら学校で「はい、ではこの地図を見てみましょう」とか、あるいはグラフなり、図や画像を「理解できていますか、これはどう思いますか」と、当然のように問われることになるわけです。ですから、小さなときからものを触って見る、触ることによって理解するという訓練が大切になると思っています。

 それから、もう一つ、本物のものとさわる本、あるいは図や絵というのは違うものなのだということをわかってほしいからなのです。絵や図柄というのは、本物のものを抽象化したものにすぎないからです。それを抽象化したものであると理解させることが大切です。
 そして、もちろん目の見えるお子さんも、本物と絵に描かれているもの、あるいは写真に写っているものというのは違う、だけれどもこれはこの絵なのだということはプロセスを経て学んでいます。けれども、見えるお子さんの場合にはこれは特に考えないで、自分で会得できます。でも、ハンディキャップのあるお子さんの場合には、それを敢えて意識的に学習していかなければいけません。
 もちろん、さわる本を触りながら理解することによって、また安全なものを触りながら理解することによって、子どもさんが楽しい、嬉しい、あるいは読んでいて自分の心が和む、そんな気持ちも味わってほしいと思います。
 あくまでも、目の不自由な子どもさんが本に触れるということは、「これは何の絵?」というのをただ当てっこさせるだけの話ではないと思います。やはり本を理解すること、絵本を理解して楽しむこと、読書の喜びが得られなければいけないと思っています。

スライド16

 例えば、もう一つの例をご覧いただきましょうか。これは「長くつ下のピッピ」です。その横にはおさるのヘル・ニルソンが描かれています。左側が、これもさわる本バージョンとして作り替えた「長くつ下のピッピ」です。
 オリジナルのピッピをご存じの方はおわかりになると思うのですが、オリジナルのバージョンと随分異なっています。でも、さわる本バージョンのピッピは、ピッピがどんな女の子かということをまず伝えています。
 ピッピといえば、まずご存じのように長い髪の毛を三つ編みにしている。それから、長い靴下を履いている。大きな靴を履いている。こういう特徴を持っています。それを強調して描いてあります。
 さらに、例えば三つ編みとか、三つ編みという文字が点字になっていたり、手、長い靴下、靴といったテキスト、文字も入っています。
 それから、実際に本物を見ていただくとわかるのですが、どのページでもピッピは同じ大きさで描かれています。さわる本においては、それはとても重要なポイントなのですね。ピッピという女の子はこういう特徴を持っている。そのピッピが出てくるときは、常に同じ大きさの女の子でなければいけないのです。

スライド17

 次の、他のページではこんなふうに描かれています。これは、触って理解するには意外と難しい絵ですよね。ピッピの三つ編みの後ろ側に手が上に伸びていて、そして馬を持っているか、あるいは支えているかのような絵なのですが、ピッピはどういう特徴を持っている女の子かということが前のほうのページで十分説明されている。だから、多少目の不自由なお子さんでも想像がつきます。
 ちなみに、この「長くつ下のピッピ」はカラーで描かれていますね。スウェルペーパーという技法で作ったのですが、このようなカラー印刷も可能です。ただ面白いことに、なぜか黒だけはカーボンに反応しないので、ぷくっと、盛り上がらないのです。黒以外はこんなふうにきれいにでます。

 それでは次に、いわゆるメインストリームの、通常の本をさわる本にするときにどんなことを考えているのか、説明します。
 さて、一般図書をさわる本にする場合、何を入れて何を変えるか、何を省略するかを考えなければいけません。TPBは、毎年3~4タイトルを制作しています。チームの中には4人、TPBの仕事をしている人たちがいて、私もその一人です。私は1年に大体1タイトルくらいを受け持って作っています。最終的には50部から100部くらい製作します。
 もちろんこの図書は公立の図書館から借りることもできるし、点字を既に読める人、あるいは点字をこれから勉強しようとしている人が買うこともできます。
 TPBのミッションは、基本的に子どもだけでなく、本当にすべての一般図書がこのようなさわる本バージョンに変換できるようにする、ということなのですね。もちろんいっぺんにすべてを変換することはできませんから、まずこの本をやっていこう、ということはTPBが決定します。そしてスウェーデンにも著作権法があります。この著作権法によると、スウェーデンで出版されている本はすべてさわる本などに変換することができます。
 もちろん書籍です。テキスト、本文の変更はできませんけれども、さっき皆さんもご覧になった「ピッピ」の例のように、絵については変更が可能です。
 特に子ども向けの図書を選択するときには、いろいろと重視する項目があります。まず、文章があまり長すぎない。子ども向けですから当然ですね。それから、ストーリーそのものが非常にいいお話であること。それから、画像、絵が非常に見ていてワクワクするようなものでなければいけませんし、それからお子さんの間でとても人気のある本、そういった本から先にとりかかっています。

 私がTPBから、では今回はアニカさん、これを変換してください、ということで依頼を受けます。すると、まずその絵本をよく見て、自分なりに分析します。本の中にはたくさんの絵があります。いろいろな部分があります。この中で、どの絵は省略してしまっていいかな、ということをよく考えます。
 それから、ではこれをさわる本に変換するときに、どういう素材で作ろうか、ということも考えます。当然、触って理解してもらう本ですから、すべてを全く同じような感触のもので作ってしまうとわかりにくくなってしまう。なおかつ、本ですから、何度も何度も読んでもらうものです。ですから、1回読んだらすぐに破れてしまうようなものでは困る。非常に質が良く、なおかつ本の中で感触の違いをよく感じてもらえるようなマテリアルを選びます。
 それから、そのマテリアルを自分で選択するとき、やはりすごく気を遣います。実際にもの、例えばペットボトルだったらペットボトルの材質を使えばいいかというと、そうではありません。例えばキツネの絵をさわる本バージョンに変換するとき、キツネの毛をそこに貼ったらいいかというと、そうではありません。それを貼ってしまっただけでは、読んでいるお子さんにしてみればただ何か動物の毛がそこに貼られているようなイメージしか湧きません。そこで、もっと想像力を働かせてもらえるような、何かもっとソフトな材料を使って、形でもってキツネだということを表すような努力をします。

スライド18

 次に、一般図書を変換した例もお見せしたいと思います。
 こちらは、「トッテはお料理しています」という本です。小さな男の子が自分でケーキを作るというストーリーなのですが、これはすでにさわる本バージョンに変換したものです。
 ここで皆さんがご覧になっているのがトッテという男の子です。実際、今ここでご覧になっているトッテは立っていますよね。オリジナルの本の中のトッテは最初はこんな絵では始まらないのです。
 でも、さわる本の中のトッテは常にまずこの顔、それからサイズもこのサイズ。手足は触ってすぐわかるように手と足が身体の外側にある状況です。けれども、トッテの動きは手足の動きなどで変えられます。そしてそれを感じてもらえると思います。

スライド19

 こちらが、「トッテはお料理しています」という絵本の、オリジナルの絵です。
 このページで、オリジナルのバージョンではちゃんと文章があって、トッテはケーキを作るために何と何を持ってきました、というお話になっています。トッテが何をしているのか見てみてください。

スライド20

 けれども、さわる本バージョンではトッテ自身を省いてしまいました。トッテがテーブルに持ってきたものだけを書き出しています。

スライド21

 トッテがエプロンをつけました。

スライド22

 次にでは何をするか。ある一つの動作をトッテが行っています。

スライド23

 タマゴを割っているという動作です。こういう場合には、さわる本でも動きはとてもわかりやすいのです。
 タマゴを割っているシーンはストーリーの中でとても重要ですので、さわる本バージョンにするに当たっても、ここはあまりシンプルにすることができませんでした。絶対にタマゴを割っているところを見せたかったわけです。それでできあがったのがこちらです。

スライド24

 ここでも、トッテの全身が描かれています。
 オリジナルの絵本は、トッテがテーブルの後ろ側に立っていました。あれはある意味、遠近法です。

 もう一つの技法でコラージュというものがあります。コラージュを使ってどんなふうにさわる本を作るのか、お見せしましょう。
 依頼を受けて、ある絵本をさわる絵本に変換するとき、まず自分で見本を作ってみます。できあがった見本をTPB、図書館の担当者、アンソフィー・ファルクに見せます。
 そして、アンソフィーと一緒に「こんな感じでいいかしら」という話し合いをし、なおかつ、実際に目の不自由な方に触ってもらって、これで話の流れが理解できるかということを確認します。
 そしてOKであれば、今度は材料を用意します。そして、オリジナルの中からどういう部分を使って、そして印刷とかレーザーカットとか、プリントに回すかを考えます。
 ちなみに、変換したさわる本の背景を通常は印刷であれ、点字であれ、シルクスクリーンの技法を使ってまず背景を決めます。  これはちょっと薄いので、後ろの方が見えるかどうか。

スライド25

 型紙みたいな感じです。さっきご覧になったトッテなのですが、彼の身体のパーツが、たくさん細い薄い線で描かれています。私は、イラストレーターというソフトウェアを使って、この形を描いています。これを今度はレーザーカットに、つまり切り離す作業に移します。
 切り取って、今度は切り取ったものをコラージュ、まさに貼り合わせるのですが、どこに何枚貼っていくかということをどんどん考えていきます。コンピュータのソフトウェアですから、実際に本当に何十枚と自分が紙を貼り重ねるわけではないのですが、自分自身としてはここに何枚必要かというのはわかりますので、コンピュータ上ですべてコラージュづくりをしていきます。
 そして、背景はシルクスクリーンで作ります。背景ができました。さらに、貼り重ねるレーザーカットされた形が手に入ります。レーザーカッターでもう切られた後です。

スライド26

 そして、今度は本当に手作業になるのですが、ご覧のように手で切り離したりして、貼り重ねていきます。
 イラストレーターというソフトウェアができたおかげで、すべて手作りではなくてすむようになりました。
 当然、本の実際の価格というのは、コストと同じかというととんでもありません。それは先ほども申し上げたとおりです。でも、政府が相当分をカバーしています。
 ご清聴ありがとうございました。

講演をするアニカ・ノーバーグ氏。左は「ミッフィー」のオリジナル版。右はさわる絵本版



【掲載者注】

1) Talboks- och punktskriftsbiblioteket (スウェーデン語)
http://www.tpb.se/

英語版ページ:The Swedish Library of Talking Books and Braille, TPB
http://www.tpb.se/english/

2) Specialpedagogiska skolmyndigheten (スウェーデン語)
http://www.spsm.se/

英語版ページ:The National Agency for Special Needs Education and Schools
http://www.spsm.se/Startpage/