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文化審議会著作権分科会法制問題小委員会
平成19年度・中間まとめ

第3節 権利制限の見直しについて

2 障害者福祉関係

(1) 問題の所在

1) 視覚障害者関係

  • ア 私的使用のための著作物の複製は、当該使用する者が複製できることとさ れているが、視覚障害者等の者は自ら複製することが不可能であるから、一 定の条件を満たす第三者が録音等による形式で複製すること
  • イ 著作権法第37 条第3 項について、
    1. 複製の方法を録音に限定しないこと
    2. 対象施設を視聴覚障害者情報提供施設等に限定しないこと
    3. 視覚障害者を含む読書に障害を持つ人の利用に供するため公表された著 作物の公衆送信等を認めること。

視覚障害者、聴覚障害者又は上肢機能障害者等(以下「視覚障害者等」という。) は、自らが所有する著作物を自らが享受するためであっても、当該障害があるた めに、自ら、録音又は当該著作物の複製に伴う手話・字幕の付加を行うことが困 難なことがある。そこで、一定の条件を満たす第三者によりそれらの行為が事実 上なされたとしても、視覚障害者等自身による私的使用のための複製として許容 されるようにすべきとの要望がある。

また、著作権法第37条第3項は、専ら視覚障害者向けの貸出しの用に供する ために、著作権者の許諾なく著作物を録音することができる旨を規定しているが、 対象施設としては、視覚障害者情報提供施設等に限られている(著作権法施行令 第2条)注釈2626

このため、現行制度では、

  1. 著作物を録音以外の方法で複製する場合、
  2. 視聴覚障害者情報提供施設等に当たらない国立国会図書館、公共図書館、 大学図書館等において録音資料を作成する場合、又は
  3. 例えば重度の身体障害者や寝たきりの者等、視覚障害者以外の読書に障害 を持つ人の利用に供するために公表された著作物の公衆送信等を行う場合

には、著作権者の許諾が必要である。

これらの場合について、著作権者の許諾なく行えるようにし、多様な障害者の 情報環境の改善を図ることが必要であるとの要望がある。

2) 聴覚障害者関係

  • ア 聴覚障害者情報提供施設において、専ら聴覚障害者向けの貸出しの用に供 するため、公表された著作物、放送等に手話や字幕を挿入(翻案)して録画 すること
  • イ 専ら聴覚障害者の用に供するために、手話や字幕が挿入(翻案)された、 公表された著作物、放送等の録画物を公衆送信することについて

現在、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、放送事業者や著作者団 体等との事前の一括許諾契約を結ぶことにより、字幕・手話を挿入した録画物を 作成し、聴覚障害者情報提供施設等において、聴覚障害者用に字幕・手話入りビ デオ、DVD等の貸出しを行っているが、現実には、聴覚障害者等が希望する作 品には十分には字幕や手話を付与することは行われていないとの指摘がある。

また、著作権法第37条の2では、聴覚障害者情報提供施設において、放送又 は有線放送される著作物について、音声を文字にしてする自動公衆送信が認めら れているが、この自動公衆送信はリアルタイムによるものに限られていることか ら、字幕や手話を付した複製物を作成し、これを自動公衆送信するには許諾が必 要である。このことについて、権利制限を認めてもらいたいとの要望がある。

3) 知的障害者、発達障害者等関係

  • ア 聴覚障害者向けの字幕に関する翻案権の制限について、知的障害者や発達 障害者等にもわかるように、翻案(要約等)をすること
  • イ 学習障害者のための図書のデイジー化注釈2727 について

聴覚障害者向けに字幕により自動公衆送信する場合には、わかりやすい表現に 要約するという形態での翻案が可能(第43 条第3 号)であるが、文字情報を的 確に読むことが困難な知的障害者や学習障害者についても、同様の要請がある。 特に、教育・就労の場面や緊急災害情報等といった場面での情報提供に配慮する 必要性が高いため、知的障害者や発達障害者等にもわかるように翻案(要約等) することを認めてもらいたいとの要望がある。

また、現在、学習障害者や、上肢障害、高齢、発達障害等により文章を読むこ とに困難を有する者の読書支援を目的として、図書をデイジー化し、提供する活 動が行われている。このような活動についても、権利制限の対象とすべきとの要 望がある。

さらに、イについては、自民党・特別支援教育小委員会において、以下のとお り提言されている。

●「美しい日本における特別支援教育」(平成19年5月11日、自民党・特別支 援教育小委員会)

8) 著作物のデイジー化は、学習障害のある者にとって大いに有用なツールで あるとの指摘等も踏まえ、著作権法上の制約について、改正も視野に入れた 検討を行う。

【参考:諸外国における立法例】注釈2828

○ドイツ
第45条a(1) 知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である 人々のために、またそうした者への作品の普及目的の場合に限り、利益を目的 としない作品の複製は認められる。
○イギリス
第31条のA(1) 視覚障害者が、文学的作品、演劇作品、音楽作品、芸術作品の 全部又は一部の合法的な複製物を所有しており、障害ゆえにその複製物へのア クセスが不可能である場合、当該障害者の私的利用のためにアクセス可能な形 の複製物を作成することは、著作権侵害には当たらない。
(5) この条の規定に基づき、ある者が視覚障害者の代わりにアクセス可能な形 の複製物を作成してその料金を得る場合は、その金額は複製の作成及び提供に おいてかかったコストを上回ってはならない。
第31条のB(1) 認可を受けた機関が、商業用に作られた文学作品、演劇作品、 音楽作品、芸術作品の全部又は一部の合法的な複製物を所有している場合、障 害ゆえにその複製物へのアクセスが不可能な視覚障害者の私的利用のためにア クセス可能な形の複製物を作成及び提供することは、著作権侵害にはあたらな い。
※ 認可を受けた機関:教育機関および非営利団体(第31条のB(12))
第74条(1) 指定団体は、聾者若しくは難聴者又はその他身体障害者若しくは精 神障害者である人々に、字幕入りの複製物その他それらの人々の特別の必要の ために修正されている複製物を提供することを目的として、テレビジョン放送 若しくは有線番組又はそれらに挿入されている著作物のいずれの著作権をも侵 害することなく、テレビジョン放送又は有線番組の複製物を作成し、及び複製 物を公衆に配布することができる。
○アメリカ
第121条 第106条及び第710条の規定にかかわらず、許諾を得た団体が既発行 の非演劇的言語著作物のコピーまたはレコードを複製しまたは頒布することは、 視覚障害者その他の障害者が使用するためのみに特殊な形式においてかかるコ ピーまたはレコードを複製しまたは頒布する場合には、著作権の侵害とならな い。
○カナダ
第32条(1)知覚障害者の求めに応じて以下のことをする場合、または非営利団 体がその目的のために以下のことをする場合には、著作権侵害にはならない。
(a) 文学作品、音楽作品、芸術作品、演劇作品を、特に知覚障害者のための形 態において複製ないし録音すること(映画著作物を除く)
(b) 文学作品、演劇作品を、特に知覚障害者のための形態において手話に翻訳、 改作、複製すること(映画著作物を除く)
(c) 文学作品、演劇作品を手話(ライブあるいは特に知覚障害者のための形態) で実演すること
※ 第2条「“知覚障害”とは、文学作品、音楽作品、演劇作品、芸術作品 を元の形のまま読んだり聞いたりすることが不可能、あるいは困難な状 態を指し、以下のような状態を含む。
(a) 視覚・聴覚における重度あるいは全体的な障害、または、焦点・視 点の移動ができない状態
(b) 本を手に持ち扱うことができない状態
(c) 理解力に関わる障害のある状態」
○スウェーデン
第17条 録音以外の方法により、だれもが、障害者が作品を楽しむために必要 な形態において、出版されている文学作品、音楽作品、視覚的芸術作品の複製 を作成することが可能である。その複製物を障害者に配布することができる。 また、政府が特定の場合において認可した図書館や組織は、以下のことが可能 である。
1.最初の段落で言及した複製物を、作品を楽しむために複製を必要としてい る障害者に伝達すること。
3.聴覚障害者が作品を楽しめるように、作品をラジオ、テレビ放送、映画で 送信すること、およびその複製物を聴覚障害者に配布、伝達すること
  • 26 「点字図書館その他視覚障害者の福祉を増進する目的とする施設」として、1)国、地方公共団体、 公益法人が設置する、知的障害児施設、盲ろうあ児施設、視聴覚障害者情報提供施設(点字図書館、 点字出版施設)、障害者支援施設、障害福祉サービス事業、2)養護老人ホーム及び特別養護老人ホー ム、3)特別支援学校に設置された学校図書館、筑波技術大学附属図書館などが指定されている。
  • 27 デイジー(DAISY)は、Digital Accessible Information System の略語であり、デイジーコンソー シアムにより開発されているデジタル録音図書に関する国際規格である。現在、日本のほか、スウェ ーデン、英国、米国などの国々で利用されている。
    デイジーコンソーシアムは、アナログからデジタル録音図書に世界的に移行することを目的として、 1996 年に録音図書館が中心となり設立された組織。(出典:Daisy Consortium HP)

  • ホームページ:http://www.daisy.org/
  • 28 三井情報開発株式会社 総合研究所『知的財産立国に向けた著作権制度の改善に関する調査研究-情 報通信技術の進展に対応した海外の著作権制度について-』(平成18年3月)より

  • ホームページ:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/0603_mitsui_copyright_research/index.html