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平成21年通常国会 著作権法改正等について

1. はじめに

 「著作権法の一部を改正する法律」が,第171回通常国会において,平成21年6月12日に,成立し,平成21年6月19日に平成21年法律第53号として公布されました。本法律は,一部の内容を除いて,平成22年1月1日に施行されました。
また,今回の法律改正に伴い,関係する政省令等の整備を行い,法律と同じく平成22年1月1日に施行されました。

改正法等の概要及び条文は,以下のとおりです(青字の部分にカーソルを合わせてクリックすると,内容を見ることができます)。

(法律)
著作権法の一部を改正する法律 概要(PDF形式:640KB)
著作権法の一部を改正する法律 条文(PDF形式:160KB)
著作権法の一部を改正する法律 新旧対照表(PDF形式:256KB)
(政令)
著作権法施行令の一部を改正する政令 概要(PDF形式:204KB)
著作権法施行令の一部を改正する政令 条文(PDF形式:128KB)
著作権法施行令の一部を改正する政令 新旧対照表(PDF形式:188KB)
(省令)
著作権法施行規則の一部を改正する省令 概要(PDF形式:168KB)
著作権法施行規則の一部を改正する省令 条文(PDF形式:108KB)
著作権法施行規則の一部を改正する省令 新旧対照表(PDF形式:120KB)
(告示)
広く権利者情報を掲載していると認められる刊行物その他の資料等を定める件 概要(PDF形式:140KB)
広く権利者情報を掲載していると認められる刊行物その他の資料等を定める件 条文(PDF形式:80KB)

また,改正後の著作権法,著作権法施行令及び著作権法施行規則は,e-govに掲載されています。(http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

以下,改正法等の趣旨及び内容の概要についてご紹介します。

2.改正の趣旨等

 今回の改正は,「文化芸術立国」,「知的財産立国」の実現に向け,昨今の情報通信技術の一層の進展などの時代の変化に対応し,インターネット等を活用した著作物等の流通の促進や,障害者の情報利用の機会の確保などを図るため,必要な改正を行うものです。

具体的には,次の3本柱から構成されています。

(1)インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置
(2)違法な著作物の流通抑止のための措置
(3)障害者の情報利用の機会の確保のための措置

※ 概要の全体像については,1.の「著作権法の一部を改正する法律 概要」,「著作権法施行令の一部を改正する政令 概要」,「著作権法施行規則の一部を改正する省令 概要」及び「広く権利者情報を掲載していると認められる刊行物その他の資料等を定める件 概要」をご参照下さい。

これらの改正事項は,文化審議会著作権分科会における審議結果を踏まえた内容となっています。

◆ 審議結果については,平成21年1月「文化審議会著作権分科会報告書」PDF形式(2.10MB))をご参照ください。

3.改正の概要

(1)インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置

■ インターネット情報の検索サービスを実施するための複製等に係る権利制限

インターネット情報の検索サービスを業として行う者(情報の収集等をプログラムにより自動的に行うことや一定の方法で情報検索サービス事業者による収集を禁止する措置がとられた情報の収集を行わないことなど,政令で定める基準を満たす者に限る。)が,当該サービスを提供するために必要と認められる限度で行う複製等について,違法に送信可能化されていた著作物であることを知ったときはそれを用いないこと等の条件の下で,権利制限が認められました。(法第47条の6,令第7条の5,規則第4条の4関係)

■ 権利者不明の場合の利用の円滑化

[1] 著作隣接権者不明等の場合の裁定制度の創設
著作権者について設けられている第67条の裁定制度と同様の制度を,著作隣接権者の不明等の場合についても創設することとされました。(法第103条関係)

[2] 裁定申請中の利用を認める新制度の創設
権利者捜索の相当の努力をした上で,権利者不明等の場合における裁定の申請を行い,かつ,あらかじめ文化庁長官の定める額の担保金を供託した場合には,裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間(それまでに権利者と連絡することができた場合は,それまでの間),著作物等を利用することができることとされました。(法第67条の2,法第103条関係)

[3] 権利者捜索のために利用者が支払うべき「相当な努力」の内容の明確化(法第67条第1項,令第7条の7,告示関係)
「相当な努力を払っても権利者と連絡することができない場合」について,権利者の氏名や住所等の権利者と連絡するために必要な情報(以下「権利者情報」という。)を得るために以下のすべての措置をとり,かつ,それによって得られた権利者情報等に基づき権利者と連絡するための措置をとったにもかかわらず,連絡ができなかった場合とされました。

  • ア 広く権利者情報を掲載している名簿,名鑑,検索サイト等を閲覧すること
  • イ 広く権利者情報を保有している著作権等管理事業者,出版社,学会等に照会すること
  • ウ [1]日刊新聞紙への掲載又は[2]社団法人著作権情報センターのウェブサイトへ30日以上の期間継続して掲載することにより,公衆に対して権利者情報の提供を求めること

■  国会図書館における所蔵資料の電子化(複製)に係る権利制限

国立国会図書館において,所蔵資料の原本の滅失等を避けるため(=納本後直ちに)電子化(複製)することについて,権利制限が認められました。(法第31条第2項関係)

■  インターネット販売等での美術品等の画像掲載に係る権利制限

美術又は写真の著作物の譲渡等の申出のために行う商品紹介用画像の掲載等(複製及び自動公衆送信)について,著作権者の利益を不当に害しないための政令で定める措置(画像を一定以下の大きさ・精度にすること等)を講じるとの条件の下で,権利制限が認められました。(法第47条の2,令第7条の2,規則第4条の2関係)

■  情報解析研究のための複製等に係る権利制限

コンピュータ等を用いた情報解析のために行われる複製等について,権利制限が認められました。(法第47条の7関係)

■  送信の効率化等のための複製に係る権利制限

インターネットサービスプロバイダ等のサーバー管理を業とする者により,[1]アクセス集中による送信の遅滞等の防止(ミラーリング),[2]サーバーへの障害発生時における復旧(バックアップ),[3]著作物の送信の中継の効率化(キャッシング)等の目的で行われる複製行為について,権利制限が認められました。(法第47条の5,令第7条の3,令第7条の4,規則第4条の3関係)

■  電子計算機利用時に必要な複製に係る権利制限

コンピュータ等において著作物を利用する場合における当該コンピュータ等による情報処理の過程で行われる複製について,権利制限が認められました。(法第47条の8関係)

(2)違法な著作物の流通抑止のための措置

■  著作権等侵害品の頒布の申出の侵害化

著作権等を侵害する行為によって作成された物(海賊版)を,その事実を知りながら,「頒布する旨の申出」をする行為について,著作権等を侵害する行為とみなすこととされました。(法第113条第1項第2号関係)

■  私的使用目的の複製に係る権利制限規定の範囲の見直し

著作権等を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を,その事実(=著作権等を侵害する自動公衆送信であること)を知りながら行う場合は,私的使用目的の複製に係る権利制限の対象外とされました。ただし,罰則は適用しないこととされています。(法第30条第1項第3号関係)

(3)障害者の情報利用の機会の確保のための措置

■  障害者のための著作物利用に係る権利制限の範囲の拡大

障害者のための著作物利用について,権利制限の範囲が,次のとおり拡大されました。(法第37条第3項,法第37条の2,令第2条,令第2条の2,規則第2条の2関係)

[1] 障害の種類を限定せず,視覚や聴覚による表現の認識に障害のある者を対象とすること

[2] デジタル録音図書の作成,映画や放送番組の字幕の付与,手話翻訳など,障害者が必要とする幅広い方式での複製等を可能とすること

[3] 障害者福祉に関する事業を行う者で政令で定める者(視聴覚障害者情報提供施設や大学図書館等を設置して障害者のための情報提供事業を行う者や,障害者のための情報提供事業を行う法人等のうち文化庁長官が定める者)であれば,それらの作成を可能とすること

ただし,著作権者又はその許諾を受けた者が,その障害者が必要とする方式の著作物を広く提供している場合には,権利制限の対象外となります。

(4)その他

■  登録原簿の電子化

著作権登録原簿等が,磁気ディスクをもって調製できることとされました。(法第78条第2項関係)

(5)施行期日

原則として,平成22年1月1日に施行されました。ただし,上記(4)(登録原簿の電子化)の改正についての施行日は,公布の日から起算して2年以内で政令で定める日とされています。

4.改正法Q&A

(1)インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置

問1 情報検索サービスを実施するための複製等について,無許諾で行えることとする趣旨及び内容を教えてください。(法第47条の6,令第7条の5,規則第4条の4)

情報検索サービス事業者は,そのサービスの提供過程において,インターネット上に公開された情報の収集,整理及び提供を行いますが,これらの行為が著作権侵害となる可能性が指摘されています。

他方,これらの行為は,インターネット上に公開された無数の情報を対象に自動的に行われることから,著作権者の事前の許諾を取ることが困難であり,当該サービスを実施する上での萎縮要因となっているとの懸念が示されています。

今回の改正は,情報検索サービスが一定の社会基盤としての意義を有するとともに,その過程における著作物等の利用行為が権利者に与える不利益の程度は少ないと考えられることから,当該サービスを提供する目的のために必要と認められる限度において,権利者の許諾なく行うことができるようにするものです。

なお,

[1] インターネット上で情報検索サービス事業者による収集を禁止する措置がとられた情報を収集しないこと,及び,

[2] 情報検索サービス事業者は,自らが提供している情報が著作権侵害を構成することを知った場合は,その提供を停止すること

等を条件としています。

問2 権利者不明の場合の利用の円滑化の趣旨及び内容を教えてください。(法第67条,法第67条の2,法第103条,令第7条の7,告示)

今回の改正は,経済財政改革の基本方針2007等において,「デジタルコンテンツの流通を促進するための法制度等を2年以内に整備する」こととされたことを受けたものです。具体的には,過去の放送番組等のコンテンツをインターネットで二次利用する際に,権利者の所在不明によって二次利用の許諾が得られない場合があるとの課題が指摘されており,これを解決することを目指しています。

現行法においては,著作権者不明の場合に,文化庁長官の裁定制度(第67条)により,著作権者の許諾に代えて文化庁長官の裁定を受けて著作物を利用できる制度があります。しかしながら,同制度は,放送番組の出演者(実演家)等の著作隣接権者の所在不明の場合には適用されないことに加え,裁定結果が出るまでに時間がかかるとの指摘がされていました。
※ 標準処理期間:3ヶ月(2ヶ月程度で処理できる場合も多い)

このため,今回の改正においては,

[1] 著作隣接権者の不明の場合にも,裁定制度を適用すること(第103条)

[2] 権利者捜索の相当の努力をした上で裁定制度の申請を行い,あらかじめ担保金を供託した場合には,裁定又は裁定をしない処分を受けるまでの間(それまでに権利者と連絡することができた場合は,それまでの間),著作物等を利用することができる制度を新設すること(第67条の2,第103条)

[3] 権利者捜索のために利用者が支払うべき「相当な努力」の内容を明確化すること(法第67条第1項,令第7条の7,告示)  としています。

問3 国立国会図書館における所蔵資料の電子化(複製)について,無許諾で行えることとする趣旨及び内容を教えてください。(法第31条第2項)

国立国会図書館は,国立国会図書館法に基づく納本制度により,日本の官庁出版物や民間出版物を網羅的に収集しており,資料自体の保存が大きな使命となっています。

しかし,国立国会図書館の所蔵資料の中には,既に劣化,損傷が生じているものがあることが指摘されています。現行規定(第31条第2号)により,現に傷みが激しく保存のため必要であれば,図書館等における著作物の複製(電子化)が可能ですが,既に損傷や劣化が生じている資料を電子化しても,資料を保存し,将来の国民の利用に供するとの国立国会図書館の使命が十分に果たせない場合があります。

このため,国立国会図書館においては,出版物が納本直後の良好な状態で文化的遺産として保存されるように,所蔵資料を納本後直ちに電子化できることとするものです。

問4 インターネット販売等での美術品等の画像掲載について,無許諾で行えることとする趣旨及び内容を教えてください。(法第47条の2,令第7条の2,規則第4条の2)

近年,インターネットオークションをはじめとして対面で行われない商品取引の形態が広く普及していますが,このような取引の際,美術品や写真の商品紹介用の画像を掲載することは,複製権や公衆送信権の侵害に当たる可能性があると指摘されています。

しかし,画像は,商品情報の提供として取引に不可欠なものであり,その譲渡等が著作権侵害とならない場合であるにも関わらず,画像掲載に関する著作権の問題(複製権や公衆送信権)を理由に事実上譲渡等が困難となるのは適当ではありません。

このため,今回の改正では,譲渡権等を侵害しないで美術品や写真の譲渡等を行うことができる場合には,その申出のための複製又は自動公衆送信を権利者の許諾なしに行えるようにするものです。

ただし,画像掲載が譲渡等を可能とするための便宜としての効果を超えて,正規の美術品等の市場を圧迫する効果を及ぼすことがないようにするため,ネット上に掲載された画像からの複製を防止するための技術的な手段を施すなど,著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定めるもの(画像を一定以下の大きさ・精度にすること等)を講じている場合に限って権利制限を認めることとしています。

問5 情報解析研究のための複製等について,無許諾で行えることとする趣旨及び内容について教えてください。(法第47条の7)

インターネットや各種の通信手段の発達などにより,情報の流通量が爆発的に増大する中,近年,膨大な情報の中から必要とする情報・知識を抽出する情報解析技術の重要性が指摘されています。このため,高度情報化社会の根幹となるこれらの技術を発展させるための活動をより円滑化すべきとの要請があります。

※ 情報解析技術には,例えば,画像・音声・言語・ウェブ解析技術等の分野があり,いずれもデジタル・ネットワーク社会の基盤的な技術として,本人認証,自動翻訳,社会動向調査,情報検索等,随所に用いられてきています。

情報解析の過程では,情報をコンピュータに蓄積した上で,必要な情報を整理し,抽出すること等が行われていますが,これらの行為は,著作物の表現そのものの効用を享受する目的で行われるものではなく,情報を収集し,統計的に処理する目的で行われるものです。したがって,権利者の権利を保護すべき著作物利用としての実質を備えないものであると考えられます。

現行の著作権法では,これら複製等の行為について明確に適法とする規定はなく,形式的には著作権者の許諾を受けなければ行うことができないと解される可能性があります。

このため,本改正では,こうした行為について,情報解析の社会的意義等と,その利用に伴い著作権者の利益が害される程度が低いことにかんがみ,権利を制限することとしています。具体的には,著作物は,大量の情報から,それを構成する言語,音,影像等の要素を抽出し,比較分類その他の統計的な解析を行うことを目的とする場合には,必要と認められる限度において,記録媒体に記録することができることとしています。

問6 送信の効率化等のための複製について,無許諾で行えることとする趣旨及び内容について教えてください。(法第47条の5,令第7条の3,令第7条の4,規則第4条の3)

インターネット上の通信を行う上で,頻繁なアクセスに効率よく対処するためのキャッシュサーバーや,情報を安定的に提供できるようにするためのミラーサーバー,バックアップサーバーなどの仕組みが通信事業者等にとって必須となっています。

このような仕組みにおいて行われている複製が著作権の侵害に当たるかどうか,関係者間で判断が分かれて混乱が生じかねない状態にあります。

本改正は,通信の効率化や安定性の向上のための取組に萎縮効果を与えないよう,このような複製は権利者の許諾なく行えることを著作権法上明確化するものです。

問7 電子計算機利用時に必要な複製について,無許諾で行えることとする趣旨及び内容について教えてください。(法第47条の8)

ワープロソフトを用いた文書や,ブラウザを用いたウェブサイトの視聴など,電子機器を用いた著作物の利用が広範に行われています。

このような利用の際に電子機器内部の技術的過程で生じる情報の蓄積について,これが複製に当たるかどうか関係者間で判断が分かれて混乱が生じかねない状態にあります。

本改正は,通常の電子機器使用に萎縮効果を与えないよう,このような蓄積が問題とならないことを著作権法上明確化するものです。

(2)違法な著作物の流通抑止のための措置

問8 著作権等侵害品の頒布の申出の侵害化の趣旨及び内容を教えてください。(法第113条1項2号)

著作権法では,権利侵害品を,情を知って頒布する行為は,権利者の損害を拡大させる行為であることから,これを著作権等の侵害とみなすこととしています。また,頒布行為が行われたかどうか,頒布の相手方を特定して立証することは容易でないことから,頒布の前段階である「頒布の目的をもって所持」する行為も権利侵害とみなすこととされています(第113条)。

近時では,デジタル技術及びネットワーク技術の普及・発達を背景に,権利侵害品がインターネットを通じた販売や,カタログの配布やチラシなどにより広い範囲との取引が可能となることから,権利侵害品の頒布による被害が深刻化しているとの指摘があります。

そのため,頒布の現場という物理的な状況をその場で把握することができず,差止請求を行おうとしても,頒布はもとより,頒布目的所持の規定を根拠とすることも困難との状況があります。このため,頒布の立証を軽減するとの本条の目的が十分に達せられないこととなっています。

頒布の申出行為は,頒布の前段階の行為であって,頒布の合意が成立するまでの経過において行われる提供側の行為のうちの中核とも言うべきものであり,権利侵害に直結する準備行為としてその蓋然性が高いものと考えられます。

したがって,頒布行為の前段階の行為においても権利侵害の追及を可能とし,頒布等目的の所持の規定によっては侵害物品の頒布等への対応が困難になっている部分を補完し,権利侵害物の拡大の蓋然性が高い行為を抑止すべく,頒布の申出行為について,これを権利侵害とみなすこととしています。

問9 私的使用目的の複製に係る権利制限の範囲を縮小することとする趣旨及び内容を教えてください。(法第30条1項3号)

インターネットの普及,大容量化を背景に,携帯電話向け違法音楽配信サイトやファイル交換ソフト等によって違法に配信される音楽や映像作品を複製(ダウンロード)する行為が,正規の配信市場を上回る膨大な規模となっているとの指摘があります。

権利者団体では,これまで違法配信対策に精力的に取り組んできていますが,規模が膨大であるとともに,技術的にも制約があることから,違法配信者への対処だけでは限界があります。今回の改正は,このような実態にかんがみ,違法なインターネット配信から音楽・映像を複製する行為については,私的使用目的の複製に関する著作権の例外規定の適用対象範囲から除外し,原則通り権利者の許諾を要することとするものです。

なお,本改正において新たに第30条の適用対象外とする行為については,違法配信と知りながら録音・録画を行う場合のみに限定するとともに,罰則は課さないこととしています。

問10 「YouTube」などの動画投稿サイトの閲覧についても,その際にキャッシュが作成されるため,違法になるのですか。(法第30条1項3号)

動画投稿サイト等から動画を視聴する際に,視聴するデータがコンピュータ内部に一時的に保存されることがありますが,このような情報の蓄積(キャッシュ)に関しては,今回の改正に盛り込まれている電子計算機における著作物利用に伴う複製に関する著作権の例外規定(第47条の8)が適用され,権利侵害にならないと考えられます。違法投稿された動画を視聴する際にコンピュータ内部に作成されるキャッシュについても同様です。

ただし,こういったキャッシュをキャッシュフォルダ(記憶装置上でキャッシュが作成・格納される領域)から取り出して別のソフトウェアにより視聴したり,別の記録媒体に保存したりするような場合については,この例外規定は適用されず,著作権が及ぶものと考えられます。(第49条)

問11 違法なインターネット配信からの音楽・映像のダウンロードが違法となったことにより,インターネット利用者が権利者からいきなり,著作権料の支払いなど損害賠償を求められることはありますか。(法第30条1項3号)

インターネットでは一般に,あるサイトからダウンロードを行っている利用者を発見するのは困難です。また,権利者がサイト運営者に対して,ダウンロードを行った利用者を特定するための情報開示を請求することができる制度はありません。

権利者団体においては,今回の改正を受けて,違法に配信される音楽や映像作品をダウンロードする行為が正規の配信市場を上回る膨大な規模となっている状況を改善するため,違法なダウンロードが適切でないということを広報し,違法行為を助長するような行為に対しての警告に努めるものとしており,利用者への損害賠償請求をいきなり行うことは,基本的にはありません。仮に,権利行使が行われる場合にも,事前の警告を行うことなど,慎重な手続を取ることに努めるよう,文部科学省から権利者団体に対して指導する予定です。

もし,違法ダウンロードを理由とした損害賠償などの名目で,支払の請求がいきなり送りつけられた場合は,悪徳事業者による架空請求詐欺(振り込め詐欺)である疑いがありますので,文化庁著作権課や関係する権利者団体の相談窓口に問い合わせるなど内容をよく確認し,すぐに現金を支払うことのないようご注意ください。

文化庁長官官房著作権課
〒100-8959 東京都千代田区霞が関3-2-2 
TEL(03)5253-4111 (代表)

(3)障害者の情報利用の機会の確保のための措置

問12 障害者のための著作物利用に係る権利制限の範囲を拡大することとする趣旨及び内容を教えてください。(法第37条第3項,法第37条の2,令第2条,令第2条の2,規則第2条の2)

技術の進展に伴う障害者による著作物等の利用方法の多様化や障害者の権利に関する条約を巡る状況を踏まえ,障害者の情報格差を解消していくことが求められています。

このため,今回の改正では,障害者のために権利者の許諾を得ずに著作物等を利用できる範囲を抜本的に見直すこととしました。改正内容は次のとおりです。

◆視覚障害者関係(第37条第3項)

  改正前   改正後
障害の
種類
視覚障害者 障害の
種類
視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者
⇒発達障害,色覚障害等も対象に
複製等が
認められる
主体
点字図書館等の視覚障害者の福祉の増進を目的とする施設(政令指定) 複製等が
認められる
主体
視覚障害者等の福祉に関する事業を行う者(政令指定)
⇒公共図書館等も指定可能に
認められる
行為
録音図書の作成,録音物の貸出,自動公衆送信 認められる
行為
視覚障害者等が必要な方式での複製,その複製物の貸出,譲渡,自動公衆送信
⇒拡大図書,デジタル図書等の障害者が必要とする方式で作成が可能に



◆聴覚障害者関係(第37条の2)

  改正前   改正後
著作物
の範囲
放送,有線放送される著作物 著作物
の範囲
聴覚で表現が認識される公表著作物
⇒映画も対象に
障害の
種類
聴覚障害者 障害の
種類
聴覚障害者その他聴覚による表現の認識に障害のある者
⇒発達障害,難聴等も対象に
複製等が
認められる
主体
聴覚障害者の福祉の増進を目的とする事業を行う者(政令指定) 複製等が
認められる
主体
聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う者(政令指定)
⇒公共図書館等も指定可能に
認められる
行為
字幕のリアルタイムでの自動公衆送信 認められる
行為
  • 聴覚障害者等が必要な方式での複製,自動公衆送信(第1号)
  • 字幕等を映像に付加して複製・貸出(第2号)

  • (1)異時の字幕等の送信が可能に
  • (2)手話等の作成も可能に
  • (3)字幕入映画の貸出が可能に

なお,著作権者又はその許諾を受けた者等が自ら,障害者にとって必要な方式での著作物を提供している場合には,この権利制限の適用をしないこととしています。これは,障害者の方への著作物の提供に当たっては,本来,権利者自らが障害者に対応した方式で著作物を提供するということが望ましいという考え方から,そうしたインセンティブを損なわないようにするためです。

問13  障害者のための著作物利用を行うことができる者としては,どのような者が定められているのでしょうか。(令第2条,令第2条の2,規則第2条の2)

障害者のための著作物利用を行うことができる者は次のとおりです。

  • 1.視覚障害者のための複製等が認められる者(法第37条第3項,令第2条関係)

    以下の施設を設置して視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う者が一般的に定められています。
    • [1]児童福祉法第7条第1項の知的障害児施設及び盲ろうあ児施設
    • [2]大学・高等専門学校に設置された図書館及びこれに類する施設
    • [3]国立国会図書館
    • [4]身体障害者福祉法第5条第1項の視聴覚障害者情報提供施設
    • [5]図書館法第2条第1項の図書館
    • [6]学校図書館法第2条の学校図書館
    • [7]老人福祉法第5条の3の養護老人ホーム及び特別養護老人ホーム
    • [8]障害者自立支援法第5条第12項に規定する障害者支援施設及び同条第1項に規定する障害福祉サービス事業(生活介護(第6項),自立訓練(第13条),就労移行支援(第14項)又は就労継続支援(第15項)を行う事業に限る。)を行う施設


その他,以下の条件が付加されています。

  • [1],[4]及び[8]を設置する者については,非営利目的の法人に限定。
  • [5]については,司書又はこれに相当する職員として著作権法施行規則第1条の3で定める職員を置いている図書館に限定。また,その設置主体を地方公共団体又は公益社団法人若しくは公益財団法人に限定。


また,[1]~[8]の施設を設置する者のほか,視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う法人(法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含む。)のうち,「視覚障害者等のための複製又は自動公衆送信を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力,経理的基礎その他の体制を有するものとして文化庁長官が指定するもの」が定められています。

  • 2.聴覚障害者等のための字幕等の作成・自動公衆送信が認められる者(法第37条の2第1号,令第2条の2第1項第1号関係)

     身体障害者福祉法第5条第1項の視聴覚障害者情報提供施設を設置して聴覚障害者等のために情報を提供する事業を行う者(非営利目的の法人に限る。)が一般的に定められています。

     上記のほか,聴覚障害者等のために情報を提供する事業を行う法人(法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含む。)のうち,「聴覚障害者等のための複製又は自動公衆送信を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力,経理的基礎その他の体制を有するものとして文化庁長官が指定するもの」が定められています。
  • 3.聴覚障害者等のための字幕や手話付きの映画の作成・貸出しが認められる者(法第37条の2第1号,令第2条の2第1項第2号,規則第2条の2関係)

    以下の施設を設置して聴覚障害者等のために情報を提供する事業を行う者が一般的に定められています。
  • [1]大学・高等専門学校に設置された図書館及びこれに類する施設
  • [2]身体障害者福祉法第5条第1項の視聴覚障害者情報提供施設
  • [3]図書館法第2条第1項の図書館
  • [4]学校図書館法第2条の学校図書館


その他,以下の条件が付加されています。

  • [2]を設置する者については,非営利目的の法人に限定。
  • [3]については,司書又はこれに相当する職員として著作権法施行規則第1条の3で定める職員を置いている図書館に限定。また,その設置主体を地方公共団体又は公益社団法人若しくは公益財団法人に限定。
  • 全てについて,法第37条の2第2号の規定の適用を受けて作成された複製物の貸出しを文部科学省令で定める基準に従って行う者に限定。


  [1]~[4]の施設を設置する者のほか,聴覚障害者等のために情報を提供する事業を行う法人(法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含む。)のうち,「聴覚障害者等のための複製を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力,経理的基礎その他の体制を有するものとして文化庁長官が指定するもの」が定められています。

(文化庁長官官房著作権課)


本コンテンツは、文化庁長官官房著作権課の許諾を得て、下記より全文を転載しています。

平成21年通常国会 著作権法改正等について
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/21_houkaisei.html