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書物への視覚障害のある人々によるアクセスを改善する新たな条約
交渉担当者らが最終作業を開始

2013年6月18日
マラケシュ/ジュネーブ
PR/2013/739

ハイライト動画(*WIPOサイト内の動画へのリンク)
http://www.wipo.int/export/sites/www/multimedia/en/dc2013/marrakesh_dc_opening.swf

世界知的所有権機関(WIPO)事務局長のフランシス・ガリ(Francis Gurry)氏は、視覚障害のある人々のためのマラケシュ外交会議を開催した。

WIPO加盟国186カ国から集まった600名を超える交渉担当者が、この日、全盲の人々と視覚障害およびその他のプリントディスアビリティのある人々による、書物へのアクセスを容易にする新たな国際条約を、最終的にまとめる作業を開始した。出版物への視覚障害のある人々およびプリントディスアビリティのある人々によるアクセスを促進する条約の締結に向けた外交会議(*WIPOサイト内の会議のページ(英語)へのリンク)は、WIPOの招集により、モロッコ王国の主催で、2013年6月18日から28日までマラケシュで開催される。

条約が締結されれば、点字、大活字テキストおよび録音図書などのフォーマットによる出版物への、全盲の人々、視覚障害のある人々およびプリントディスアビリティのある人々によるアクセスの改善に関する長年にわたる議論の集大成となる。受益者は、教育や娯楽の目的で利用可能な、小説、教科書およびその他の資料にアクセスしやすくなる。

モロッコ王国国王陛下モハメッド6世のメッセージを紹介したモロッコ情報大臣兼報道官のムスタファ・カルフィ(Mustapha Khalfi)氏は、外交会議は「極めて重要です」と語り、「今こそ、マラケシュ条約を採択するときであり、著作権の原則に対する例外措置として、限定的な例外および制限規定を定めた、世界知的所有権機関史上初の国際条約の締結を楽しみにしています」と述べた。

メッセージの中で国王は、条約がなければ、全盲の人々、視覚障害のある人々およびプリントディスアビリティのある人々は、「平等な機会の権利をはく奪され続けること」になるが、条約締結に成功すれば、WIPOの歴史における誇らしい瞬間となるだけでなく、「相互支援と連帯の価値を支持するというWIPOの集団としてのコミットメントの、人道的な深みを反映する」ことにもなると語った。メッセージは、国際社会に対し、「全盲の人々および視覚障害のある人々が、文化、科学、現代技術、メディアおよびコミュニケーションの発信手段へのアクセスを得ることを阻む、あらゆる障害物を撤廃する道徳的義務」を想起させる言葉で締めくくられた。

また、メッセージの中で国王は、「今日のグローバル化が進んだ世界において、この外交会議は、マラケシュでこれから議論される国際条約の採択を通じて、グローバル化に人間らしさを加えることができます。この条約により、全盲の人々と視覚障害のある人々は、文字で書かれた、著作権で保護されている、世界各地の資料にアクセスし、これらを検索し、利用できるようになるでしょう」と語った。

フランシス・ガリWIPO事務局長は次のように述べた。「外交会議の目的は、比較的単純で直接的なものです。つまり、大多数が開発途上国で暮らしている、3億人を超える視覚障害のある人々が、9割強の出版物にアクセスできない原因となっている本不足を緩和するということです。」この目的は、アクセシブルなフォーマットの製作促進と、国境を超えた交換を可能にする法的枠組みの設立によって達成されるとガリ氏は語った。

ガリ氏はさらに「交渉担当者らは、一方では、アクセシブルなフォーマットの製作と、このようなフォーマットの、単純かつ容易な方法による、世界中での国境を超えた交換を可能にする有効なシステムの策定という課題を抱えており、他方では、著作者と出版社に対し、このシステムの下で、視覚障害のある人々およびプリントディスアビリティのある人々へのサービス提供を目的としていない並行市場において、彼らの所有する著作物が悪用されることはないと保証しなければならないという課題も抱えています。適切なバランスをうまく見つければ、条約は確実に成功します」と述べた。

交渉担当者らは、2009年5月に最初の条約草案が初めて提出されて以来、既にいくつもの交渉会議を経て、大きな前進を果たしてきた。

マラケシュ会議における交渉のたたき台となっている草案には、アクセシブルなフォーマットによる書物の製作を許可し、プリントディスアビリティのある人々を対象としたアクセシブルなフォーマットによるコピーを、国境を超えて国際的に共有することを可能にするための、各国の著作権法への例外および制限規定採用の義務が含まれている。

受益者(視覚障害のある人々、その他のプリントディスアビリティのある人々、あるいは身体障害のために通常の文章を読むことができない人々)など、草案中のいくつかの重要な要素については、既に仮合意が得られている。

加盟国はまた、草案文書が対象とする著作物と、視覚障害またはプリントディスアビリティのある人々に出版物のアクセシブル版を提供する「公認機関(authorized entity)」について、重要となるそれらの定義に関して仮合意に達している。

しかし草案には、アクセシブルなフォーマットによる著作物のデジタルファイルを、国境を超えて転送できる時期を定めるに当たり、そのような著作物の商業市場での利用可能性を考慮するかどうか、また、過去の国際著作権条約に定められている制限および例外の範囲に関する義務を、条約案にどのように盛り込むかなど、合意を必要とする多数の課題がある。

これらの課題は外交会議における交渉のテーマとなるが、これは条約交渉終結に向けて従来採用されている手法である。

今後の動き

マラケシュ外交会議では、招集後、タイプの異なる課題に取り組むために、主委員会I および主委員会IIの2つの委員会が開催される。主委員会Iの任務は、すべての実質的な規定について交渉し、合意を得、本会議による採択に向けてこれらを推奨することである。

主委員会IIは、今後条約に加盟できる者は誰か、また、発効要件など、すべての管理条項および最終条項について交渉し、合意を得る責任を負う。このほかにも3つの副委員会が設けられた。資格審査委員会は、会議に参加して条約に署名する代表者の資格を検証する。起草委員会は、条約の6つの言語によるバージョンを、足並みを揃えて作成することを確保する。運営委員会にはすべての委員会の委員長が参加し、プロセスの順調な進行を確保する。

ドラフトテキストとその他の資料(英語版のHTML)(*DINF内に置いた英語版のHTMLへのリンク)

ドラフトテキストとその他の資料(*WIPOサイト内の6つの言語によるバージョンのあるページへのリンク)

すべての委員会が作業を終えたのち、条約は採択のために本会議に送られる。その後、署名のために開放される。外交会議の最後に行われる条約の署名は、条約に加盟するという署名国の確固たる意思とコミットメントを示すものとなるが、必ずしも各国に条約の規定を強制するものではない。また、最終文書(会議開催記録)も、採択後署名のために開放される。

(*"Some Background"の訳は省略した。)


原文:
Negotiators Begin Work on Finalizing New Treaty to Improve Access to Books for Visually Impaired Persons
Marrakesh/Geneva, June 18, 2013
PR/2013/739
http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2013/article_0013.html