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第3章 権利制限の見直しについて
第2節 障害者の著作物利用に係る権利制限の見直しについて

文化審議会著作権分科会報告書

第8期文化審議会第2回総会(第47回)資料

平成21年1月
文化審議会著作権分科会

文化審議会著作権分科会の資料から 障害者福祉に関連する部分(第3章 権利制限の見直しについて 第2節 障害者の著作物利用に係る権利制限の見直しについて(p.37-49))を抜粋して掲載しています。

全文のPDF版は、こちらをご参照下さい。

第8期文化審議会第2回総会(第47回)議事日程
http://www.bunka.go.jp/bunkasihngikai/soukai/47/gijishidai.html

文化審議会著作権分科会報告書の概要(PDF形式)
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/47/pdf/shiryo_3_1.pdf

文化審議会著作権分科会報告書(PDF形式)
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/47/pdf/shiryo_3_2.pdf

1 問題の所在

(1)これまでの改正要望の概要

 本小委員会では、平成17 年1 月の「著作権法に関する今後の検討課題」に基づき、 障害者の著作物利用に関係する権利制限の見直しについて検討を行っているが、平成 18 年1 月の文化審議会著作権分科会報告書においては、一部の事項について、改正要 望の趣旨の明確化、提案の具体化等を待って改めて検討を行うこととされていた。ま た、その後に寄せられた改正要望もあり、現在、検討を求められている事項の概要は 次のとおりである。

ア 私的使用のための著作物の複製は、当該使用する者が複製できることとされて いるが、視覚障害者等の者は自ら複製することが不可能であるから、一定の条件 を満たす第三者が録音等による形式で複製すること

 視覚障害者、聴覚障害者又は上肢機能障害者等(以下「視覚障害者等」という。)は、 自らが所有する著作物を自らが享受するためであっても、当該障害があるために、自 ら、録音又は当該著作物の複製に伴う手話・字幕の付加を行うことが困難なことがあ る。そこで、一定の条件を満たす第三者によりそれらの行為が事実上なされたとして も、視覚障害者等自身による私的使用のための複製として許容されるようにすべきと の要望がある。

イ 著作権法第37 条第3 項について、

  • (ⅰ)複製の方法を録音に限定しないこと
  • (ⅱ)対象施設を視聴覚障害者情報提供施設等に限定しないこと
  • (ⅲ)視覚障害者を含む読書に障害を持つ人の利用に供するため公表された著作物 の公衆送信等を認めること

 著作権法第37 条第3 項は、専ら視覚障害者向けの貸出しの用に供するために、著 作権者の許諾なく著作物を録音することができる旨を規定しているが、対象施設とし ては、視覚障害者情報提供施設等に限られている(著作権法施行令第2 条)注釈3939

このため、現行制度では、

  • ⅰ)著作物を録音以外の方法で複製する場合、
  • ⅱ)視聴覚障害者情報提供施設等に当たらない国立国会図書館、公共図書館、大学 図書館等において録音資料を作成する場合、又は
  • ⅲ)例えば重度の身体障害者や寝たきりの者等、視覚障害者以外の読書に障害を持 つ人の利用に供するために公表された著作物の公衆送信等を行う場合 には、著作権者の許諾が必要である。

 これらの場合について、著作権者の許諾なく行えるようにし、多様な障害種の障害 者について、その情報環境の改善を図ることが必要であるとの要望がある。

ウ 聴覚障害者情報提供施設において、専ら聴覚障害者向けの貸出しの用に供する ため、公表された著作物、放送等に手話や字幕を挿入(翻案)して録画すること

 現在、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、放送事業者や著作者団体等 との事前の一括許諾契約を結ぶことにより、字幕・手話を挿入した録画物を作成し、 聴覚障害者情報提供施設等において、聴覚障害者用に字幕・手話入りビデオ、DVD 等の貸出しを行っているが、現実には、聴覚障害者等が希望する作品には十分には字 幕や手話を付与することは行われていないとの指摘がある。このことについて、権利 制限を認めてもらいたいとの要望がある。

エ 専ら聴覚障害者の用に供するために、手話や字幕が挿入(翻案)された、公表 された著作物、放送等の録画物を公衆送信すること

 著作権法第37 条の2 では、聴覚障害者情報提供施設において、放送又は有線放送 される著作物について、音声を文字にしてする自動公衆送信が認められているが、こ の自動公衆送信はリアルタイムによるものに限られていることから、字幕や手話を付 した複製物を作成し、これを自動公衆送信するには許諾が必要である。このことにつ いて、権利制限を認めてもらいたいとの要望がある。

オ 聴覚障害者向けの字幕に関する翻案権の制限について、知的障害者や発達障害 者等にもわかるように、翻案(要約等)をすること

 聴覚障害者向けに字幕により自動公衆送信する場合(第37 条の2)には、わかりや すい表現に要約するという形態での翻案が可能(第43 条第3 号)であるが、文字情 報を的確に読むことが困難な知的障害者や学習障害などの発達障害を有する者等につ いても、同様の要請がある。特に、教育・就労の場面や緊急災害情報等といった場面 での情報提供に配慮する必要性が高いため、知的障害者や発達障害者等にもわかるよ うに翻案(要約等)することを認めてもらいたいとの要望がある。

カ 学習障害者等のための図書のデイジー化 注釈4040

 現在、学習障害者や、上肢障害、高齢、発達障害等により文章を読むことに困難を 有する者の読書支援を目的として、図書をデイジー化し、提供する活動が行われてい る。このような活動についても、権利制限の対象とすべきとの要望がある。

(2)障害者関係施策の状況や国際的な状況

 近年、情報技術の進展に伴う情報流通の急激な増大に伴い、障害による情報格差、 すなわち、障害者にとって一般に流通している書籍・新聞・雑誌等を読むことができ ない、放送番組等をみることができない等の情報格差の問題についての社会関心が高 まっている。平成18 年12 月には、障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包 括的・総合的な国際条約として「障害者の権利に関する条約」が国連で採択されてお り、我が国は、平成19 年9 月28 日に署名を行っている。同条約においては、障害者 の情報アクセスの確保の必要性について触れるとともに、知的財産権を保護する法律 がその不当な又は差別的な障壁とならないようにすべきことについて言及されている。
 このような背景から、政府の障害者施策においても、障害者の情報アクセスの確保 との観点が重視されるようになってきており、政府の重点施策実施5 か年計画(平成 19 年12 月25 日・障害者施策推進本部決定)注釈4141において、「障害者の情報へのアクセ スに配慮した著作権制度の在り方について検討を進め、必要に応じて法整備を行う」 ことが盛り込まれるに至っている。
 また、諸外国の立法については、対象となる障害種や対象となる行為がより広い権 利制限規定を設けている国も多く見受けられるところである。

【参考:諸外国における立法例等】注釈4242

○障害者の権利に関する条約(平成19 年9 月28 日署名)(仮訳文)

第30 条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加

1 締約国は、障害者が他の者と平等に文化的な生活に参加する権利を認めるものとし、障害者が次 のことを行うことを確保するためのすべての適当な措置をとる。

  • (a) 利用可能な様式を通じて、文化的な作品を享受すること。
  • (b) 利用可能な様式を通じて、テレビジョン番組、映画、演劇その他の文化的な活動を享受すること。
  • (c) 文化的な公演又はサービスが行われる場所(例えば、劇場、博物館、映画館、図書館、観光サー ビス)へのアクセスを享受し、並びにできる限り自国の文化的に重要な記念物及び遺跡へのアク セスを享受すること。

2 (略)

3 締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法律が、障害者が文化的な作品を享受する機会 を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての適当な措置をとる。

4・5 (略)

○ドイツ著作権法

第45 条a(1) 知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である人々のために、また そうした者への作品の普及目的の場合に限り、利益を目的としない作品の複製は認められる。

○イギリス著作権法

第31 条のA(1) 視覚障害者が、文学的作品、演劇作品、音楽作品、芸術作品の全部又は一部の合法 的な複製物を所有しており、障害ゆえにその複製物へのアクセスが不可能である場合、当該障害者 の私的利用のためにアクセス可能な形の複製物を作成することは、著作権侵害には当たらない。
(5) この条の規定に基づき、ある者が視覚障害者の代わりにアクセス可能な形の複製物を作成してそ の料金を得る場合は、その金額は複製の作成及び提供においてかかったコストを上回ってはならな い。

第31 条のB(1) 認可を受けた機関が、商業用に作られた文学作品、演劇作品、音楽作品、芸術作品 の全部又は一部の合法的な複製物を所有している場合、障害ゆえにその複製物へのアクセスが不可 能な視覚障害者の私的利用のためにアクセス可能な形の複製物を作成及び提供することは、著作権 侵害にはあたらない。
 ※ 認可を受けた機関:教育機関および非営利団体(第31 条のB(12))

第74 条(1) 指定団体は、聾者若しくは難聴者又はその他身体障害者若しくは精神障害者である人々 に、字幕入りの複製物その他それらの人々の特別の必要のために修正されている複製物を提供する ことを目的として、テレビジョン放送若しくは有線番組又はそれらに挿入されている著作物のいず れの著作権をも侵害することなく、テレビジョン放送又は有線番組の複製物を作成し、及び複製物 を公衆に配布することができる。

○アメリカ著作権法

第121 条 第106 条及び第710 条の規定にかかわらず、許諾を得た団体が既発行の非演劇的言語著作 権物のコピーまたはレコードを複製しまたは頒布することは、視覚障害者その他の障害者が使用する ためのみに特殊な形式においてかかるコピーまたはレコードを複製しまたは頒布する場合には、著 作権の侵害とならない。

○カナダ著作権法

第32 条(1) 知覚障害者の求めに応じて以下のことをする場合、または非営利団体がその目的のため に以下のことをする場合には、著作権侵害にはならない。

  • (a) 文学作品、音楽作品、芸術作品、演劇作品を、特に知覚障害者のための形態において複製ない し録音すること(映画著作物を除く)
  • (b) 文学作品、演劇作品を、特に知覚障害者のための形態において手話に翻訳、改作、複製するこ と(映画著作物を除く)
  • (c) 文学作品、演劇作品を手話(ライブあるいは特に知覚障害者のための形態)で実演すること

※ 第2条「“知覚障害”とは、文学作品、音楽作品、演劇作品、芸術作品を元の形のまま読んだ り聞いたりすることが不可能、あるいは困難な状態を指し、以下のような状態を含む。

  • (a) 視覚・聴覚における重度あるいは全体的な障害、または、焦点・視点の移動ができない 状態
  • (b) 本を手に持ち扱うことができない状態
  • (c) 理解力に関わる障害のある状態」

○スウェーデン著作権法

第17 条 録音以外の方法により、だれもが、障害者が作品を楽しむために必要な形態において、出 版されている文学作品、音楽作品、視覚的芸術作品の複製を作成することが可能である。その複製 物を障害者に配布することができる。また、政府が特定の場合において認可した図書館や組織は、 以下のことが可能である。
1.最初の段落で言及した複製物を、作品を楽しむために複製を必要としている障害者に伝達する こと。
3.聴覚障害者が作品を楽しめるように、作品をラジオ、テレビ放送、映画で送信すること、およ びその複製物を聴覚障害者に配布、伝達すること

2 検討結果

(1)全体の方向性

 障害者の著作物利用についての権利制限は、これまで障害者の福祉の増進、社会参 加の促進等の観点から規定が設けられてきている。一方、今回の検討においては、い わゆる情報アクセスの保障、情報格差是正の観点から対応が求められており、障害者 にとって、録音物等のその障害に対応した形態の著作物がなければ健常者と同様に著 作物を享受できないという状況を解消することが必要とされている。このような観点 からは、従来の権利制限規定の対象となっていた障害種の障害者に限らず、多様な障 害に対応して各障害者に必要な形態の著作物を制作することについても、基本的に高 い公益性が認められると考えられる。
 このような観点から、本小委員会における検討では、障害者が著作物を利用できる 可能性を確保する方向で著作権法上可能な措置について検討すべきであるとの意見や、 障害者福祉の問題は、諸外国と比べて日本固有の事情があるとは考えられないことか ら、諸外国の例等を参考にそれと同程度の立法措置を講ずべきとの意見があった。ま た、検討に当たっては、健常者向けのマーケットや障害者向けのマーケットへの影響 について考慮すべきであるとの意見があった。 以上を基本的な方向性としつつ、各検討課題における対応方策について、次のとお り検討を行った。

(2)視覚障害者関係についての対応方策(1(1)ア・イ関係)

① 障害者の私的複製を代わって行うための措置について

 現行の著作権法第30 条では、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた 範囲内において使用することを目的として、その使用する者が著作物を複製するこ とができることとされている。この「使用する者」については、使用者自身である ことが原則であるものの、その支配下において補助的な立場にある者が使用者自身 に代わって複製することも許されると解されている注釈4343
 このため、このような考え方を前提とすれば、ボランティア等が障害者の自宅に おいて録音物を作成するような場合や障害者自身と個人的関係のある者が録音物を 作成するような場合など、第30 条の私的使用目的の複製に該当するものもあると 考える。
 一方、現在、点字図書館で行われているプライベートサービスのように、外部の 機関が多数の視覚障害者からの個人的な複製の要望に応じて録音物を作成するとの 形態については、第30 条の範囲の複製とは考えにくい。また、点字図書館が対象 施設となっている第37 条第3 項では、視覚障害者の用に供するために、公表され た著作物を録音することができることとされているが、その目的は、貸出しの用に 供するため又は自動公衆送信の用に供するためとの限定がある。

 

 平成18 年1 月の著作権分科会報告書では、「私的使用のための複製」による対応 を考えるのか、一定の障害者向けのサービスについて特別の権利制限を考えるのか について、実態を踏まえた上で検討すべきとされていたところである。
 この点、第30 条の私的使用目的の複製は、家庭内の行為について規制すること が実際上困難である一方、零細な複製であり、著作権者等の経済的利益を不当に害 するとは考えられないという趣旨に基づいた規定であり、前述のプライベートサー ビスのように、外部の機関が多数の視覚障害者からの要望に応じて録音物を作成す るとの形態について、第30 条の範囲を拡大して対応することは、本来の規定の趣 旨から外れるものと考えられる。
 したがって、点字図書館がプライベートサービスとして視覚障害者等の私的使用 目的の複製を第三者が代わって行うための措置としては、別途、第37 条第3 項に 基づき録音図書の作成を行う目的について、貸出しの用に供するため又は自動公衆 送信の用に供するために限らないこととし、視覚障害者等が所有等をする著作物か ら録音図書を作成・譲渡することが可能となる措置を講ずることが適当と考えられ る。

② 第37 条第3 項の複製を行う主体の拡大について
 現行の第37 条第3 項では、「点字図書館その他視覚障害者の福祉を増進する目的 とする施設」において録音が可能としており、具体的には、視覚障害者を対象とし た施設が指定されているが、これらのほか、公共図書館等においても録音を可能と するよう要望がなされている。
 現在、国立国会図書館や一般図書館において、日本図書館協会と日本文藝家協会 が実施する「障害者用音訳資料ガイドライン」に従い、権利処理を行った上で録音 図書(デイジー図書を含む)の作成を実施してきている注釈4444。これらの施設は、同ガ イドラインの下で、登録制などにより利用者が視覚障害者等であることの確認が行 える体制が整えられているものとして事業を実施しているものである。このように 利用者の確認等が整えられ、視覚障害者の福祉等に携わる施設と同等の取組が可能 と認められる公共施設については、第37 条第3 項の規定に基づく複製主体として 含めていくことが適当と考えられる。

③ 第37 条第3 項の対象者の範囲について
 今回の権利制限は、録音物がなければ、健常者と同様に著作物を享受できない者 への対応という観点から検討が必要とされているものであり、その必要性は、理念 的には視覚障害者に限られるものではないと考えられることから、障害等により著 作物の利用が困難な者について、可能な限り権利制限の対象に加えることが適切で ある。
 もっとも、権利制限規定は、権利の範囲を定める規定との性格上から、また法に 関する予測可能性を確保する観点から、規定の適用範囲を明確にしておく必要がある。 範囲の明確化の方法としては、例えば、障害者手帳や医師の診断書の有無等の 基準により限定する方法があるが、そのほか施設の利用登録等により確認がなされ た者等を対象とするといった方法で認めていくべきとの要望もある。このため、こ のような意見等を踏まえ、規定の明確性を担保しつつ可能な限り範囲を広げていく よう努めることが適当と考えられる。

④ 第37 条第3 項の複製方式の拡大について
 本事項については、対象とする障害種の範囲の検討と密接な関係を有するため、 知的障害者、発達障害者等関係の課題と併せて検討を行った。(2(5)で詳述)

⑤ 第37 条第3 項の範囲の拡大に関するその他の条件について
 今後、障害者向けの録音物等の市場が大きくなってくることも考えられ、営利事 業としてこれらの複製を行う場合は権利制限の取扱いを慎重に検討すべきではない かとの意見があった。
 また、コンテンツの提供者等によりこれらの録音物が提供されることが本来望ま しいとの考え方注釈4545からは、コンテンツ提供者自らが、障害者に利用しやすい形態で 提供するインセンティブを阻害しないようにする必要があると考えられることから、 録音物等の形態の著作物が市販されている場合については、権利制限を適用しない こととすることが適当と考えられる。

(3)聴覚障害者関係についての対応方策(1(1)ウ・エ関係)

① 手話・字幕を挿入した録画物の作成等の取扱いについて
 現在、放送行政においては、放送局自らが字幕放送等を行うことについて目標を 設定しつつ取組を進めてきている。このような取組は今後とも重視されるべきもの であり、また相当の進捗が見られるが、しかしながら、緊急放送等を含めたすべて の放送番組において字幕等が対応できている状況にはないとの指摘がある。
 また、放送行政以外の分野では必ずしも同様の取組が進んでいるとは言い難い状 況にあると考えられる。

【参考:字幕付与可能な放送時間に占める字幕放送時間の割合、手話放送の割合】注釈4646
<字幕放送>
 NHK(総合テレビ) 平成19 年度実績 100% (※ 44.6%)
 在京キー5局 平成19 年度実績 89.0% (※ 39.5%)
 在阪準キー4局 平成19 年度実績 90.8% (※ 34.3%)
 在名広域4局 平成19 年度実績 88.2% (※ 30.8%)
 系列ローカル局 平成19 年度実績 67.7% (※ 26.1%)
                   ※は、総放送時間に占める字幕放送時間の割合

<手話放送>
 NHK(教育テレビ) 平成19 年度実績 2.4%
 民放(キー5局平均) 平成19 年度実績 0.1%

【参考:日本語によるパッケージ系出版物のうち字幕の付与されているものの割合】注釈4747

日本図書館協会による頒布事業において、日本で製作された日本語による映像資料の うち、日本語字幕付きVHS:139 本(0.66%)、日本語字幕付きDVD:約1,000 本 (7.1%)

 一方、前述のように、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、放送事業 者や著作者団体との事前の一括許諾契約を結ぶことで、字幕・手話を挿入した録画 を行っている(NHK、関東民放5社、関西民放5社、地方局等・次ページ図参照)。 字幕付き、手話付きのビデオ又はDVDが約3,000 本あり、作品ごとに利用条件、 利用方法を設定しつつ、利用登録制により、貸出等を行っている注釈4848。なお、聴力障 害者情報文化センターによると、同センターにおいて制作しているDVDは、人間 の台詞のみならず、そのDVDの鑑賞に必要な音声情報を文字にした字幕(いわゆ るバリアフリー字幕)が挿入されたものとなっているとともに、聴覚障害者の障害 の程度に応じた字幕の選択が可能となっているとのことである。
 しかしながら、必ずしも希望作品について希望どおりに許諾が得られているわけ ではないとの指摘があり、また、一括許諾契約の相手方以外の個人や取材先等に関 するものを製作しようとする場合には、改めて個別の契約が必要となるところであ る。
 このような状況を踏まえ、聴覚障害者の用に供するために字幕等を挿入して複製 を行う行為についても、権利制限の対象として新たに位置づけることが適当と考え られる。

【参考:字幕ビデオ制作等の流れ】

参考:字幕ビデオ製作の流れ
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(情報提供:社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター)

② 複製を行う主体について
 現行では、上記のように、聴覚障害者情報提供施設等を中心として、関係団体と の契約により字幕の付与等が行われているが、視覚障害者関係の権利制限の要望と 同様に、公共図書館等についても複製主体としてもらいたいとの要望がなされてい る注釈4949
これについては、登録制などにより利用者が聴覚障害者等であることの確認

が行える体制が整えられていること等の条件を満たす公共施設についても、複製主 体として含めていくことも考えられるが、一方で、映像資料を取り扱うこととなる ことに関して、

  • ⅰ)点字図書と異なり、字幕等を付した映像資料については、健常者にとっても 利用価値が損なわれない可能性があることから、貸出し対象者の確認について より慎重な体制が求められること、
  • ⅱ)放送やDVD等には、複製の抑止等をするための技術的な保護手段がかけら れているなど、技術的にもより高度な体制が求められること注釈5050

などにかんがみ、これらの体制が確保されるかどうかを見極めた上で、適切な施設 等を複製主体としていくことが適当と考えられる。(なお、現行の第37 条の2(い わゆるリアルタイム字幕のための権利制限)についても、第37 条の規定とは異な り、リアルタイム字幕の付与のために一定の能力が必要との観点から、個別の聴覚 障害者情報提供施設ではなく、それを設置する事業者等が指定されている。)

③ 対象者の範囲について
 対象者の範囲については、視覚障害者関係の場合と同様の観点から、規定の明確 性を担保しつつ可能な限り範囲を広げていくよう努めることが適当と考えられる。

④ その他の条件について
○ 前述のように字幕等を付した映像資料については、健常者にとっても利用価値が 損なわれない可能性があることから、例えば、利用登録制などのほか、複製物につ いて技術的保護手段を施すこと等、利用者と複製主体との関係を踏まえて流出防止 のための一定の取組が可能となるよう体制の整備を求めることが適当と考えられる。

○ このほか、営利事業として複製を行う場合についての考え方や、コンテンツの提 供者等によりこれらの録音物が提供されることが本来望ましいとの考え方注釈5151からは、 コンテンツ提供者自らが、障害者に利用しやすい形態で提供するインセンティブを 阻害しないようにする必要があると考えられることについては、視覚障害者関係の 権利制限の場合と同様と考えられる。

⑤ 公衆送信の取扱いについて
 字幕等を付した映像資料を公衆送信するとの要望は、具体的には、専ら聴覚障害 者を対象としたCS放送を念頭に置いた要望とのことであるが、公衆送信は、広く 権利者に影響を与える可能性があることから、権利制限を認めていくとする場合に は、利用者の限定の手段等が確保されることを前提とすることが適当と考えられる。

(4)知的障害者、発達障害者等関係についての対応方策(1(1)オ・カ関係)

① 現行規定での対応可能性
 ヒアリングの中では、学校教育に関係した事例が多く見られたが注釈5252、著作権法第 35 条第1 項では、学校その他の教育機関において、教育を担任する者及び授業を受 ける者が、授業の過程において使用する場合には、公表された著作物を複製するこ とができ、また翻案して利用することもできる(第43 条第1 号)とされている。 この「教育を担任する者」については、その支配下において補助的な立場にある者 が代わって複製することも許されると考えられており注釈5353、学校教育、社会教育、職 業訓練等の教育機関での活用であれば、要約等やデイジー図書の製作の態様によっ ては、現行法においても許諾を得ずに複製できる場合があると考えられる。ただし、 複製の分量や態様、その後の保存等の面においては、必要と認められる限度に限ら れる。
 一方、ヒアリングの中では、これらの取組の中核的な施設のようなものがデイジ ー図書の蓄積や提供を行う構想等も提示されているが注釈5454、そのような形態であれば、 第35 条第1 項の範囲の複製とは考えにくい。

② 対応方策について
 知的障害者、発達障害者等にとって、著作物を享受するためには、一般に流通し ている著作物の形態では困難な場合も多く、デイジー図書が有効である旨が主張さ れており、著作物の利用可能性の格差の解消の観点から、視覚障害者や聴覚障害者 の場合と同様に、本課題についても、何らかの対応を行う必要性は高いと考えられ る。

 このような観点から、視覚障害者関係(上記(2))、聴覚障害者関係(上記(3)) の権利制限の対象者の拡大を検討していく中で、権利制限規定の範囲の明確性を確 保する必要性はあるものの、可能な限り、知的障害、発達障害等により著作物の利 用が困難な者についてもこの対象に含めていくよう努めることが適切である。その 際、複製の方式については、録音等の方式に限定せず、それぞれの障害に対応した 複製の方法が可能となるよう配慮されることが望ましいと考えられる。

(5)まとめ

 以上のように、障害者の著作物利用についての権利制限については、障害者の情報 アクセスを保障し、情報格差を是正する観点から、対象とする障害種を視覚障害や聴 覚障害に限定することなく、障害等により著作物の利用が困難な者であれば、可能な 限り権利制限規定の対象に含め、また、複製等の主体、方式についてもそれに応じて 拡大を行う方向で、速やかに所要の措置を講ずることが適当である。
 また、権利者への影響の観点から、権利制限を行うには一定条件の確保を前提とす るために速やかな措置が難しい事項があった場合についても、その条件が整い次第、 所要の措置を実施に移すことが適当と考える。


39 「点字図書館その他視覚障害者の福祉を増進する目的とする施設」として、①国、地方公共団体、公益法人が設置する、 知的障害児施設、盲ろうあ児施設、視聴覚障害者情報提供施設(点字図書館、点字出版施設)、障害者支援施設、障害福 祉サービス事業、②養護老人ホーム及び特別養護老人ホーム、③特別支援学校に設置された学校図書館、筑波技術大学附 属図書館などが指定されている。

40 デイジー(DAISY)は、Digital Accessible Information System の略語であり、デイジーコンソーシアムにより開発さ れているデジタル録音図書に関する国際規格である。現在、日本のほか、スウェーデン、英国、米国などの国々で利用さ れている。デイジーコンソーシアムは、アナログからデジタル録音図書に世界的に移行することを目的として、1996 年 に録音図書館が中心となり設立された組織。(出典:Daisy Consortium HP)

41 障害者基本法(昭和45 年法律第84 号)第9 条に基づいて定められた「障害者基本計画」(平成14 年12 月24 日・閣 議決定)の対象期間は、平成15 年度から平成24 年度までの10 か年であるが、この「重点施策実施5 か年計画」は、そ のうち後半5 か年の政府の重点計画を定めたもの。

42 諸外国の立法例については、三井情報開発株式会社 総合研究所『知的財産立国に向けた著作権制度の改善に関する調 査研究-情報通信技術の進展に対応した海外の著作権制度について-』(平成18 年3 月)より(下記URL参照)
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/chitekizaisan_chousakenkyu.pdf

43 「使用者の手足として、その支配下にある者に具体的複製行為を行わせることは許されます。例えば、会社の社長が 秘書にコピーをとってもらうというのは、社長がコピーをとっているという法律上の評価をするわけであります。ただ し、コピー業者に複製を委託するということになりますと、その複製の主体はコピー業者であって、本条にいうコピー を使用する者が複製することにはなりません」(加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』((社)著作権情報センター、 平成18 年3 月))

44 一般図書館では、平成19 年7 月11 日現在、204 館において実施(第6 回法制問題小委員会(平成19 年7 月19 日) 資料4-3 障害者放送協議会等提出資料より)。また、国立国会図書館では、平成18 年度中に87 タイトルのデイジー 図書の作成を実施する一方、許諾手続等の理由により、新たに要望を受け付けたタイトル数95 に対し謝絶数は75 タイ トルとなっている。(「DAISY(Digital Accessible Information System)の年度別受付・謝絶・完成・貸出タイトル数(平 成14 年度~19 年度))」国立国会図書館関西館図書館協力課、平成19 年10 月1 日より)。

45 障害者の権利に関する条約は、情報提供サービスを行う事業者に対して障害者が利用可能な態様でサービスを提供する よう要請すること等を、各締約国に求めている。また、権利制限の要望団体も「コンテンツ提供者に対応を求めることを 社会的に制度化できるのか検討いただきたい」との意見を述べている。(法制問題小委員会・第7 期第6 回(平成19 年7 月19 日)資料4-2 障害者放送協議会等提出資料より)(下記URL 参照)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/07072002/003.htm

46 「平成19 年度の字幕放送等の実績」(平成20 年6 月30 日・総務省報道発表資料)

47 前掲注46・法制問題小委員会・第7 期第6 回(平成19 年7 月19 日)資料4-2

48 社会福祉法人聴力障害者情報文化センターHPより

49 前掲注46・法制問題小委員会・第7 期第6 回(平成19 年7 月19 日)資料4-2

50 社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、現在、健常者向けに市販されているDVD 等と同様の技術的な保護手 段を施してから貸出しを行っており、今後もこのような体制が確保できるのかどうかについて配慮が必要である。

51 前掲注46 のように障害者の権利に関する条約による要請があるほか、権利制限の要望団体も「これらの作業は本来出 版や放送を行う側が行い、それを保証することを政府が義務化すべきである」と述べている。(法制問題小委員会・第7 期第6 回(平成19 年7 月19 日)資料4-1 障害者放送協議会等提出資料より)(下記URL 参照)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/07072002/002.htm

52 前掲注46・法制問題小委員会・第7 期第6 回(平成19 年7 月19 日)資料4-2

53 「教育を担任する者といいましても、第30 条の私的使用の場合と同様に、実際にはその部下職員である事務員とか児 童・生徒を手足として使ってコピーをとることは、複製の法律的主体が教員自身である限り許されます」(加戸守行著『著 作権法逐条講義(五訂新版)』((社)著作権情報センター、平成18 年3 月)

54 前掲注46・法制問題小委員会・第7 期第6 回(平成19 年7 月19 日)資料4-2。ただし、現状において、特にその ような施設が整っているとの実態は特段示されなかった。