音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

WIPO(世界知的所有権機関)著作権・著作隣接権常設委員会(SCCR)
印刷物を読むことに障害がある人々のための著作権の制限および例外規定の問題に取り組む

出典:
WIPO Wants to Hear from YOU
Standing Committee on Copyright and Related Rights (SCCR) - Copyright Limitations and Exceptions for Persons with Print Disabilities
The DAISY Planet, May 2010
http://www.daisy.org/planet-2010-05

WIPOは5月26日から28日までジュネーブにて「印刷物を読むことに障害がある人々のための著作権の制限および例外規定」の問題に取り組むオープンエンド型の会議を開催した。加盟国のみによる非公開会議が5月26日に、また、加盟国、政府間組織およびNGOによる会議が5月27日および28日に開かれた。WIPOではこれらの会議に先立ち、著作権で保護されている作品へのアクセスの問題に関する情報を収集するため、「国際的な同意に向けて(Towards International Consensus)」というオンラインフォーラムを開設した。このフォーラムに関する情報は、本記事の最後に掲載されている。これはこのような重大な問題について意見を表明するよい機会である。

WIPO会議

WBU(世界盲人連合)アクセシビリティ戦略目標リーダー、WBU読む権利グローバルキャンペーン代表、サイトセイバーズ・インターナショナルプログラム開発アドバイザーのクリス・フレンド(Chris Friend)が、先週開催された会議の見どころをまとめてくれた。メキシコは現在、ブラジル、エクアドルおよびパラグアイとともに、正式に、全盲、弱視およびその他の読字障害者のアクセス改善のためのWIPO条約(WBUによって最初に提案された条約)の賛同国となった。ジュネーブ駐在の新しいメキシコ国連大使は視覚障害者である。会議はラテンアメリカ数ヶ国が同条約への賛同を示すことから始まった。賛同国であるブラジル、エクアドル、パラグアイおよびメキシコの4カ国は、同条約のイニシアティブを進めるためのスケジュールを提案した。それによれば、同条約の条文検討を、第20回および第21回SCCR(それぞれ2010年6月および11月)と、第22回SCCR(2011年5月)において実施すること、そして2012年前半に外交会議を開催するよう正式に要請することを求めている。

その後、米国代表団長のジャスティン・ヒューズ(Justin Hughes)が、『合意文書(草案)』と題する勧告案を提出した。フレンドの報告によれば、米国案は、WBUとその提携機関が同条約の採択において求めている内容にははるかに及ばず、輸出入の問題(同条約第8条)や「書籍不足」の問題に対する妥当な解決策とはいえない。

  •  『合意文書草案』は法的拘束力を持たない法律で、強制力がない。
  •  視覚障害あるいはその他の印刷物が読めない障害がある人々のための例外規定(同条約第4条)の国際的な採択を促進するものではない。
  •  例外規定の下に制作されたアクセシブルな出版物を、世界各地で国境を超えて貸借したり、共有したりすることを促進するものではない。むしろ、同条約第8条(輸出入)と比較し非常に制限された方法による、信頼のおける媒介機関による使用許可制度を重視している。

結論として、クリス・フレンドは以下のように述べた。

これは実質的には、現在例外を認めている50カ国(ジュディス・サリバン(Judith Sullivan)による報告書参照)でしか、米国が提案する勧告を推進できないことを意味している。例外の採用において信頼のおける媒介機関の利用を促進することにより、米国案では、契約によって認められた例外の保護(同条約第7条)を含めることができなくなってしまった。『読む権利とは:WIPO勧告あるいはWIPO宣言ではなく、WIPO条約が必要な理由(Right to read briefing: why we need a WIPO treaty and not a WIPO recommendation or declaration)』という論文では、2つのアプローチの違いを概説し、なぜ後者が必要なのかを説明している。

3週間後の6月21日から24日までは、第20回WIPO SCCRが開催される。これは大変興味深い4日間になるものと期待されている。会議の見どころと成果は、DAISY Planet6月号で報告される。

追加情報とさらに詳しい洞察は、5月28日にIntellectual Property Watchのウェブサイトに投稿された『WIPO提案は印刷物を読むことに障害がある人々の資料への国境を超えたアクセスの道を開くか(WIPO Proposals Would Open Cross-Border Access To Materials For Print Disabled)』という論文に掲載されている。さらに、DAISYコンソーシアム事務局長のジョージ・カーシャによる短い白書『国際的な著作権例外規定(International Copyright Exception)』(以下一部抜粋)も興味深い。

第一に、国際的な著作権例外規定により、広範囲に及ぶ利益が即座に得られるだろう。まず既存の図書館およびサービス機関は、制作したコンテンツを、国境を超えて共有することができるようになる。(中略)各国の図書館は、現行の国内法の下で、利用者にコンテンツを提供し続けることになる。唯一変更されるのは、図書館が合法的にアクセシブル版の制作物を共有できるようになるということである。このような利益を即座に得るために、長年にわたりこれらの図書館によって開発されてきた蔵書が利用される。

WIPOフォーラム

「当フォーラムは、この問題に関する討論を促し、理解を深め、意識を拡大することを目的とし、少なくとも2010年6月20日まで開設されます。(中略)ここで議論された内容は、6月21日から24日までジュネーブで開催される次回のSCCR(第20回)に検討材料として提出されます。」

フォーラムのページはブログ形式で、条約案に関するコメントを誰でも送ることができる。「このブログでは、本条約草案(あるいはこのテーマに関して今後提出されるその他すべての提案)に関し、その目的や、視覚障害者によるアクセスを促進するであろう一連の活動等を含む、予想される利益あるいは懸念についてのコメントを一般の皆様から募集しております。」フォーラムおよびブログは、Vision IPのウェブサイト上に、著作権および著作隣接権の問題についての情報を提供するために、WIPOによって設けられた。これまで投稿されたすべてのコメントは、条約案への賛成を示している。これは、この問題についてどう考えているかをWIPOに知らせるよい機会である。このような機会はまたとないので、ぜひ、WIPOのフォーラムページに意見をよせてほしい。

その他の参考情報

WIPO SCCRと、著作権・アクセス問題およびこれに関連した活動について参考となる情報は、以下にあげるDAISY Planetの記事を参照のこと。