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著作権法改正と障害者サービス 第8回
知的障害の人たちへのわかりやすさを提供する図書館サービス
-図書館利用案内のLL(やさしく読める)リライト-

藤澤和子

■わかりやすさの提供

 著作権法の改正で、知的障害(自閉症や肢体不自由を重複する人を含めた)や読み書き障害などの人たちのために、必要とする幅広い方式での複製等が、公共図書館などの施設で可能となった。これは、今まで読めない、読んでも内容がわからなかった出版物が、読んだりわかるようになる可能性が高まったことを意味する。
 しかし、一方でそのような幅広い方式での複製などのサービス経験を持たない公共図書館では、具体的な内容や方法をどうするのかという問題が課題として挙げられているのではないだろうか。例えば、図書館で「わかりやすく書きなおします」とサービス内容を掲げると、ゲームの攻略本や新聞記事をもってきて「これをやさしく読めるようにしてください」という要求もあるだろう。
 ここでは、著作権法の改正を受けて、新たなサービスとして考えられるリライトについて紹介し、代読人を合わせて提案させていただきたいと思う。実際に、公共図書館が、どのような出版物をどの範囲でリライトするのかということは、今後、検討されていくと思うが、わかりやすくリライトする、わかりやすく読むということは、これからの障害者サービスを考えるにあたっての課題となるだろう。

■図書館利用案内のLL(やさしく読める)リライト

 LLリライトとは、読んでも内容がわからない本や文書、新聞記事などを、わかりやすくリライトすることにより、知的障害などのある人が読書や情報を得ることを保障するための支援である。わかりやすくリライトするために大切なことは、だれのためのリライトであるかをはっきりさせて、対象となる人たちの意見を含めて進めていくことである。わかりやすくなったかどうかは、彼らが評価することである。
 参考例として、知的障害のある人たちを交えて取り組んだ図書館利用案内のリライトを紹介したい。知的障害の人たちにとって、いろいろな本や雑誌、DVDなどがあり、無料でサービスも受けられる公共図書館は、読書を楽しむためにとても良い施設だと思う。また、幅広い方式での複製等のサービスが行われると、今以上に楽しく有意義に利用できる施設となるだろう。このリライトは、知的障害の人たちの図書館利用を進める目的で、図書館で見たり読んだり聞いたりできるもの、図書館での本の借り方や返し方、障害のある人に向けたサービスなどについて、わかりやすく書いたものである。近畿視覚障害者情報サービス研究協議会LLブック特別研究グループ・LL編集委員会のメンバー9名と知的障害のある3名(50代女性1名と30代男性2名)の方に参加してもらって行った。本稿では、知的障害の人を、当事者と述べる。
 リライトの方法は、ある公共図書館の障害者向け利用案内を基にして、リライト案を作り、それをたたき台として、当事者を交えてテキストのリライトとレイアウトを進めた。当事者の方には、わかりにくいところを言ってもらい、その意見を基にして修正案を作り、それを提示してわかりやすくなったかどうかを聞いた。
 たたき台となったリライト案では、難しい単語を、簡単なことばに変える、一つの文章には一つの内容にして文章を短くする、要点がわかるようにシンボル(絵記号)をつける、困ったりわからないことがあったとき、文字の読めない人が図書館の人に助けてもらえるような項目を作った。さらに、知的障害などの人がやさしく読めるLLブックが集められたLLブックコーナーがあること、マルチメディアDAISYが見られて貸出できること、代読サービスがあること等の紹介を加えた。これらは、行っていない図書館が多いと思うが、紹介を含めて利用案内に盛り込んだ。このリライト案を基にして、その後の当事者を交えた討議の中で、さらに修正が加えられた。
 例えば、図書館利用の説明の初めに、「図書館はだれでも利用できます。お金はいりません。」という文章を加えた。これは、あたりまえのことであるが、当事者の方から、知らない人もいるので、あった方が良いという意見があり、追加した。また、削除した文章もあった。それは、インターネットで予約する方法を書いた文章で、「図書館のホームページの障害者サービスページをつかうと、1回でカード番号やパスワードの入力ができます。」と表記していたが、ホームページ、パスワードという意味自体が難しく、自分で入力できる人はあまりいないだろうという当事者の方の意見があったため、削除した。代読サービスの説明では、どのようなサービスかがわかるように、「本が読めないときは」と表記していたが、失礼な感じを与えるかもしれないという意見が出たため、「本を読むのにお手伝いがいる人は」という修正案を作った。当事者の方に、どちらの言い方が好きかを尋ねると、後者の方が好きという意見だったので、修正案に変更した。利用案内の項目は、「借りる」「返す」「インターネットで予約する」「設備」「わからないことやこまったことがあったときは」「本を読むのにおてつだいがいる人は」の六つになった。
 レイアウトについては、シンボルのデザイン、文字の大きさ、字体等についても、当事者の方の意見を取り入れた。
 このように、すべての文章やレイアウトを詳しく検討して制作した利用案内は、近畿視覚障害者情報サービス研究協議会のホームページからダウンロードして、各図書館が使用できるように提供されている(http://homepage2.nifty.com/at-htri/ll_guide.htm)。図書館の事情によって追加、変更する必要のある箇所が、上書きできるようにワードデータにしてある。すでに、大阪府富田林市立図書館、京都府精華町立図書館では、この利用案内の使用が始まっている。
 リライトについては、他にもいろいろな文書や本への要望があるだろう。当事者の方や地域のディセンターや入所通所施設、特別支援学校などの指導員や教師に、わかりやすくなったかどうかの意見を聞けるつながりを持っていることが大事だと思う。

■知的障害の人への代読サービス

 文を書くのは、時間も労力もかかるため、新聞や週刊誌など、時間的に早く読むことに意味がある出版物は、リライトに対応するのは難しい側面がある。そこで、わかりやすく読むことを提供するサービスが、現実的でニーズが高いと考えられる。朝刊をわかりやすく読んであげる支援を行っている障害者の施設もある。現在、視覚障害者を対象として対面読書(対面朗読)サービスが行われているが、文字が読めないなどの読書への困難さをもつ知的障害の人などが利用できる代読サービスをぜひ提供していただきたいと思う。
 知的障害の人にわかりやすく読むためには、ゆっくりと集中力が続く程度の比較的短い時間で読む。また、わかるかどうかを尋ねてもいいが、「わかる」と返事する人も多いように思うため、読み手が、表情などからわかるかどうかを感じとりながら読んであげる必要がある。ことばは簡単に、長い文章は短く切って伝えるなど、読み変えのポイントは、リライトと同じような配慮が必要である。

やさしく読める図書館利用案内 やさしく読める図書館利用案内

「やさしく読める図書館利用案内(表紙と一部)」
制作・著作:近畿視覚障害者情報サービス研究協議会LLブック特別研究グループ・LL編集委員会
デザイン:近澤優衣(大阪芸術大学大学院芸術研究科博士課程前期修了)

(ふじさわ かずこ:京都府立南山城支援学校)

[NDC9:015.17 BSH:1.障害者サービス 2.知的障害]


この記事は、藤澤和子.知的障害の人たちへのわかりやすさを提供する図書館サービス:図書館利用案内のLL(やさしく読める)リライト.図書館雑誌.Vol.105,No.5,2011.5,p.292-293.より転載させていただきました。