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著作権法改正と障害者サービス 第11回
拝啓 公共図書館さま

藤田晶子

 5年前に 「全国音訳ボランティアネットワーク」を立ち上げたのは,その頃,各地でバラバラに活動していた音訳仲間が手をつなぎ,話し合える場をつくりたい思いからでした。
 その趣旨は今も変わりませんが,やがて活動するなかで音訳ボランティアの目的を十全に遂行していくためには,既存の諸組織との協力と連携プレーが欠かせないことがわかってきました。
 図書館との関連で一例を挙げますと,ある人が近くの公共図書館に音訳者養成講座について尋ねたところ,予定はないという返事。ところがその直後, 隣の地域の図書館では,近々に開講が決まっていたことがわかったそうです。
 こうした事例に幾度か触れるなかで,関係諸機関との連携の必要性と情報の共有が非常に大事であると考えるようになったのです。
 以来,各音訳ボランテイア組織とは言うまでもなく,各図書館,社会福祉協議会(以下社協),企業等とも連携を図るべく,設立趣旨に賛同の方はどなたにも門戸を広げ,かつつなぎ役を務めてきたつもりです。
 なかでも公共図書館との連携の必要性を強く感じていましたので,当会の第3回総会(本年6月)の分科会では「図書館との連携を考える」を企画しました。
 また,同企画に先立って4月に「公共図書館に関するアンケート」を会員に向けて実施した結果,三つの課題が見えてきました。
 第一点は,著作権絡みの問題です。
 2010年1月には,待望の改正著作権法が施行されました。
 しかし,依然として図書館協力員以外の音訳者が読んだ録音図書は図書館に受け入れられません。率直に言えば,官と民との間に残された障壁とも言えるでしょう。基本的には,誰が読んだものであっても図書館は蔵書として受け入れるべきではないでしょうか。
 なぜならば,蔵書が一冊でも増えることは,利用者にとって必ずプラスになるからです。
 その場合,一定以上の質を求められるのは当然です。しかし,私たち音訳者たちの技量は,社協の所属者であれ地域の草の根のメンバーであれ,日頃,継続的に活動するなかで保証されています。つまり,同じ音訳者として図書館協力員と私たちと技量の差はないはずです。
 そして,同じ音訳に携わりながら,両者間に対立が生まれている話もあるかに聞いています。そうした事態は社会的にマイナスですし,その責任の一端は図書館にもあると思います。
 ですから,図書館はもっと門戸を広げて録音図書を受け入れるべきですし,もっと本質的には,図書館側の福祉サービスに対する姿勢に問題があるのではないでしょうか。
 また,近年,図書館の予算も削減されるなか,協力員に依頼があるのは年間1冊しかないというところもあるようです。では,録音図書が足りているかと言えば,そんなはずはありません。
 現在, 私たちは「マンガ」本の音訳にも挑戦を始めています。その利用者からは,もっと多くの人たちに楽しんでもらいたいという嬉しい声も,たくさん寄せられています。
 しかし,「マンガ」 の著作権は,いっそう厳しい面があり,ボランティアの頑張りだけでは,乗り越えられない現実があります。もしも図書館が寄贈蔵書として受け入れができれば,明日からでも障害者サービスを前進させることができるわけです。
 第二点は,図書館職員に関する要望です。
 現場では,職員と私たち音訳者との間で次のようなことが繰り返されているのです。
 たとえば「障害者サービスって何ですか」という新しい職員が担当につくと,おかしなことに私たちおばさん音訳者が一から教示することから始まります。そして,やっと意志疎通がとれるようになってきたかと思う頃には異動になって,また振り出しに戻されます。
 また,マルチメディアDAISYに関しては,「10年先の話はわからないし,導入する予定もない」と言われました。一方,利用者や音訳者の間では,すでに当たり前になり始めていて,あとは時間の問題という段階になっています。
 私たちの立ち位置から見ている限り, 職員の意識の低さとしか映りません。より率直に言えば,役所の人事管理・運営の硬直と市民サービス理念の低さにあるのではないでしょうか。
 今後,障害者サービスの向上を第一に考えると,どうしても図書館と音訳者との情報交換の場を設けていかなければならないと考えています。
 ここで双方の歩み寄りと協力が進めば,福祉の質は今よりも数段向上するはずです。
 つけ加えますと,障害者サービス実施図書館は現在全体の10%しかないそうですが,私たちはこの数字を寒い気持ちで受け止めております。
 第三点は,DAISY移行に関してです。
 全国的に見ると DAISYへの取り組み状況はまだ提供者, 利用者ともにバラつきがあります。
 しかし,時代は間違いなくDAISY化の方向を向いていることを活動の中で実感します。
 そんななかにあって, DAISY化への移行策がまったく図られていない図書館もあるのです。
 勉強熱心な音訳者は, 時代に遅れまいとしてDAISY化情報を必死に学習しています。それは, 音訳を少しでもよい方法で利用者の許に届けたいとひたすら願っているからです。

 さてここでひとつの提案をさせていただきます。
 それは,高齢者や障害者など読み書きに困難を伴う方たちのために代読や代筆を提供できる仕組みを作ることです。
 人材を養成し,公共施設等で常駐サービスを行えるようにしますが,その推進役と中心拠点を公共図書館にお願いしたいのです。
 このたびの東日本大震災の被災地を訪問した経験から, 早急にその仕組みを整える必要性を痛切に感じました。
 社会に広く認知されたものであり, 全国レベルで常設展開された仕組みを望みます。
 もしも現在,図書館で行われている対面朗読サービスの一環として行えれば,公共施設の意義にも福祉政策の視点にも合致した活動になるのではと考えますが,いかがなものでしょう。
 その場合,現場で協力する一員に音訳者が加わることは十分に考えられますが,大事は対応策の一つに守秘義務の理解と解釈とがあります。
 従ってこのサービスを実現するためには,専門講習・研修を受けて技術・技能をきちんと身につけた代読・代筆者を養成しなくてはならないわけです。
 しかし,このことに関しては,すでに講習会等を実施しているところもありますので,この方面との連携も大切ではないでしょうか。
 震災後は相互扶助の考え方が全国的に浸透しているようで,当会のHPにも多数の問い合わせがあり,入会者も増えています。また,代読・代筆サービスの講習会は,定員を大幅に超える応募があることからもそのことがわかります。
 何も図書館がすべてをやらなくても役割分担できるところは,分担すべきです。
 最後にこの対面朗読については, 早急に改善していただきたいことがあります。それは対面朗読を行っている館と行っていない館があるということ。行ってはいても各自の持ち込み図書や書簡等は許可されていないところが多い点です。
 いずれにしても公共図書館と私たち音訳者団体が協力すれば,図書館の負担も軽減しつつ,サービスの向上も可能になっていくと考えます。

(ふじた まさこ:全国音訳ボランティアネットワーク)

[NDC9:015.17 BSH:1.障害者サービス 2.録音資料 ]


この記事は、藤田晶子.拝啓 公共図書館さま.図書館雑誌.Vol.105,No.9,2011.9,p.640-641.より転載させていただきました。