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著作権法改正と障害者サービス 第4回
視覚等の障害者が必要とする情報とは? ―サピエが広げる情報と公共図書館等への期待―

加藤俊和

1.障害者運動をリードしてきた視覚障害者と点字図書館の存在

(1)障害者サービスの始まりは公共図書館

 障害者運動の始まりは世界も日本も、視覚障害者がリードしてきたといえる。1882年に世界初の点字図書館イギリス盲人図書館(National Library for the Blind)がサービスを開始し、日本では、1893年に点字製版機が輸入されて急速に広がった点字印刷物によって、1916年に東京市立日比谷図書館本郷分館に個人寄託点字図書196冊が設置され日本の障害者サービスの出発点となった。ただし、本格的な利用を伴うのは、1920年の新潟県柏崎市の点字巡回文庫が最初と言われており、昭和初期には、鹿児島、徳島、石川、神戸等の図書館にも点字文庫が設置された。

(2)点字図書館と戦後の公共図書館の障害者サービス

 1929年に点字写本奉仕が始まって1935年に開館したライトハウス点字図書館、1940年に開館した日本盲人図書館によって、点字図書の製作・貸出は着実に広がっていった。戦後は、関係者が一丸となって働きかけた結果、1960年頃から点字図書館に事務費が付き始め、1970年代には各地に点字図書館が誕生して、ボランティアによる点訳・録音資料製作と貸出サービスが盛んになっていった。公共図書館が障害者サービスで再び脚光をあびるのは、1970年の視覚障害者読書権保障協議会(視読協)の活動によるもので、都立日比谷図書館に対面朗読室が設置されて都立中央図書館のサービスへと広がり、1978年には日本図書館協会に障害者サービス委員会が設置されて、今日に至っている。

2.サピエ図書館と地域・生活情報

(1)図書データのネットワークの発展

 1988年に「てんやく広場」として点訳ボランティア団体を中心に誕生した点字図書ネットワークは、1998年に点字図書館を中心とする特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)運営の「ないーぶネット」となり、2010年に「サピエ」として幅広い情報ネットワークとなった。

(2)「サピエ図書館」のネットワークは資料情報の宝庫

 2010年4月から始まったサピエには、10月末現在、約12万タイトルの点字データと1万7千タイトルの録音デイジーデータがあり、特にデイジーはびぶりおネットを吸収して増加している。さらに、全国の点字図書館等が保有する合計約50万タイトルの点字本・テープ本・デイジーCDは、オンラインリクエストの相互貸借によって幅広く利用されている。なお、サピエの直接利用者は約7800人である。また、テキストデイジーという、文字データの新たなスタイルの活用が世界的に始まっており、サピエでも運用を開始している。

 これらは、「サピエ図書館」として管理・運用されており、書誌データの検索などは、ゲストでも利用ができる。2010年10月からは携帯電話によるサピエの利用も始まった。また、図書製作の支援システムもあり、資料製作の入力、校正、修正などの工程(*)管理支援システムや、読み方調べのほか、「BESX」という点字資料製作支援ソフトも開発している。

*掲載者注:原本では「行程」となっているが誤字である。「工程」が正しいとのこと。

(3)サピエの「地域・生活情報」

 サピエには、「地域・生活情報提供」の機能が新たに開発され、活用が始まった。一般の情報は「視覚」がなければ得られないものが圧倒的に多く、視覚障害者は必要な福祉情報すら得られないで不利益を被っていることも少くない。そこで、サピエでは、新たに必要な福祉情報、生活情報、イベント情報などを、理解できる文字や音声等の形態で提供するシステムを開発している。もちろん、直接サピエを利用できない多くの障害者のために、各地域の施設・団体が電話などで直接支援するときの情報源としても、幅広い利用が期待されている。今後、各地域で、自治体や福祉団体、教育機関などからの情報提供など、さまざまな必要な情報が掲載され、自由に利用・提供できるツールとしての活用の広がりを期待したい。

3.様々な図書館と利用者のネットワークへ

(1)公共図書館、学校図書館等との連携

 障害者権利条約の「合理的配慮」(reasonable accommodation)を踏まえての著作権の改正を契機に、地域や学校などの様々な障害者等の情報入手のために、点字図書館と公共図書館、学校図書館などが手を携えていくことが、今や切に求められている。

 でも、2010年1月1日から実施された著作権法の対象者が、これまでの視覚障害者から「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」つまり、視覚著作物をそのままの方式では利用することが困難な者、と広がったこと、および資料の範囲も、テキストファイルや拡大資料を含む「当該視覚障害者等が利用するために必要な方式」となったことで、点字図書館のみならず公共図書館などもサービス範囲を大きく広げられることになったが、現時点ではこれらの多くはまだ従来サービスのままで、戸惑いの中にある。

(2)ネットワークを生かした資料貸出の形態

 これまでも、点字図書館と公共図書館等とは、密接に連携をとってきている地域もあるが、全国的にはネットワークを築いているとは言えなかった。しかし、著作権法の改定で、利用を望む障害者に対して、連携してサービスを提供することが望まれている。  一例をあげれば、点字図書館の資料貸出利用は郵送貸出で支えられているが、現時点での送料無料は「視覚障害者」に限定されている。せっかく著作権法が対象者を広げたにも関わらず、他の障害者の利用が妨げられており、継続した働きかけが必要である。でも、例えば、各地の公共図書館等には、自動車連絡便がきめ細かく存在しており、それに点字図書館等も加わることで、今すぐでも、利用者のすぐ近くの公共図書館などに届くように運用できる可能性がある。「近くの公共図書館に行くことができる障害者」には、サピエの豊富な音声図書の貸出サービスも利用できるのである。なお、ネックとなっているサピエ上の団体利用料負担については、データのダウン等が安価な定額資料購入費と考えることもできよう。

 また、「サピエの地域・生活情報」は、視覚障害者にとどまらず、当然ながら、いろいろな障害の方々にとっても必要な情報としての活用が可能であり、地域の障害者等を支えるために、サピエをともに活用していくことを考慮していく必要があると思われる。

(かとう としかず:特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会サピエ事務局長)

[NDC9:015.17 BSH:1.障害者サービス 2.著作権]


この記事は、加藤俊和.視覚等の障害者が必要とする情報とは? ―サピエが広げる情報と公共図書館等への期待―.図書館雑誌.Vol.104,No.12,2010.12,p.822-823.より転載させていただきました。