アクセシブル・ブック・コンソーシアム国際優秀賞 受賞2団体発表
2015年4月15日
ケンブリッジ大学出版局とバングラデシュのヤング・パワー・イン・ソーシャル・アクション(Young Power in Social Action)の2団体が、アクセシブル・ブック・コンソーシアム(Accessible Books Consortium)による第1回アクセシブル出版国際優秀賞の同時受賞者となった。
同賞は、4月14日、ロンドン・ブックフェア2015の式典において、一連の国際優秀賞の1つとして授与された。
ケンブリッジ大学出版局(CUP)とヤング・パワー・イン・ソーシャル・アクション(YPSA)はともに、商業用電子書籍およびプリントディスアビリティのある人を対象としたその他のデジタル出版物のアクセシビリティ向上において、卓越した指導力を示し、功績を上げたことを認められた。
「最終選考に残った候補に欠点を見出すのは困難でした」と、審査員を務めた国際出版連合(International Publishers' Association)事務局長のジェンス・バンメル(Jens Bammel)氏は語った。「応募者は皆、アクセシブルな出版における革新的かつ重要な活動事例を示してくれました。しかし、CUPとYPSAは、それぞれの分野で素晴らしい偉業を成し遂げており、本賞にふさわしい受賞者であります。」
ケンブリッジ大学出版局(CUP)― アクセシビリティを標準として設定
ケンブリッジ大学出版局は、アクセシブル・ブック・コンソーシアムによるアクセシブル出版国際優秀賞の同時受賞者である。2013年以来、CUPの学術書部門では、プリントディスアビリティのある読者のために、新刊書を可能な限りアクセシブルにしようと、制作ワークフローの全面的な再編を進めてきた。校正済みのePubおよびKindle書籍と校正済みのPDFを同時制作できるようにしたのである。2014年までには、新刊書の72%が印刷版の出版日以前にアクセシブルな形式で利用できるようになり、また、出版日から2週間足らずで、さらに12%が利用できるようになった。
CUPから購入できる形式が個人ユーザーのニーズを満たしていない場合は、利用者がPDF版を請求できるフォームがCUPのウェブサイトに掲載されており、申請後1週間以内にPDF版が届く。2014年にCUPは386タイトル分の請求を処理し(アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、オーストラリアおよびニュージーランドを除く)、個人ユーザーにアクセシブルなファイルを支給することができた。
アクセシビリティは、現在、ケンブリッジ大学出版局のコンテンツポリシーのすべての側面に組み込まれており、コンテンツをあらゆる形式で利用できるようにするという出版局全体のコミットメントの一部となっている。
ヤング・パワー・イン・ソーシャル・アクション ― バングラデシュにおけるプリントディスアビリティのある生徒の人生を変える取り組み
もう1つの同時受賞者は、少し遠く離れた地の組織である。YPSAは、バングラデシュのチッタゴンに拠点を置き、国内の貧しく弱い立場の人々のために前向きな社会経済的変化をもたらそうと、1985年から活動を進めてきた。活動対象となっている不利な立場にある数多くの集団の1つが視覚障害のある人々で、その数はバングラデシュ国内で約400万人に上る。
YPSAの2人の代表者、最高責任者のアリフール・ラーマン(Arifur Rahman)氏と、プログラムマネージャーのヴァシコル・バッタキャリア(Vashkar Bhattacharjee)氏は、アクセシブル・ブック・コンソーシアム賞を直接受け取るために、バングラデシュからロンドンまで足を運んでくれた。
同賞について、自身も生まれつき盲目であるバッタキャリア氏は、「YPSAを代表してこの賞を受け取ることができ、大変光栄です。私たちの活動を認めていただき、嬉しく思います。また、アクセシブルな出版の分野における他のイニシアティブについて学ぶことは、刺激になります。私たちは、バングラデシュの視覚障害のある人々のために、今後も活動を続けられるよう願うとともに、障害のあるすべての人にとって障壁のない未来を待ち望んでいます」と語った。
YPSAは、600を超えるアクセシブルな形式の書籍を制作してきた。さらに最近では、オーストラリアン・エイド(Australian Aid)の資金援助の下で、視覚障害のある生徒が使用し、楽しめるように、160を超える教育用図書をアクセシブルな形式に変換した。YPSAは政府系出版社(学校教科書を出版)、商業出版社およびプリントディスアビリティの人々にサービスを提供しているその他の機関を対象に、今後の製品を「ボーン・アクセシブル」にできるように、最新のアクセシブルな出版技術に関する研修を企画した。
予備知識
アクセシブル・ブック・コンソーシアムについて
アクセシブル・ブック・コンソーシアム(ABC)は、マルチステークホルダー連合で、世界知的所有権機関(WIPO)、プリントディスアビリティのある人々の代表機関、プリントディスアビリティのある人々のための図書館、出版社と著作者の代表機関から成る。ABCは、世界中のアクセシブルな形式(点字、音声および大活字など)による書籍の数を増やすこと、そして、全盲、弱視またはそれ以外のプリントディスアビリティのある人々がそれらを利用できるようにすることを目的としている。
ABCは、その使命を果たすために、以下の3つの分野で活動を行っている。
- 能力構築。すなわち、開発途上国における、アクセシブルな形式による書籍の制作と配布に関する技術研修。
- インクルーシブな出版。すなわち、晴眼者とプリントディスアビリティのある人々の両方が、出版される書籍を最初から利用できるようにするために、アクセシブルな書籍の制作技術を普及すること。
- ABCインターナショナル・ブック・エクスチェンジ。ジュネーブのWIPO本部に設置された、国境を越えた交換が可能なアクセシブルなタイトルのデータベース。
世界保健機関の2014年の推定によれば、世界全体で約2億8500万人が視覚障害を持つ。このうちの90%以上は開発途上国の居住者であり、そこでは全盲の人が学校に通ったり仕事を得たりする機会が10に1つしかないと、世界盲人連合(WBU)は推測している。アクセシブルな書籍が不足していることが、教育を受け、自立した、実りのある生活を送る上で、極めて現実的な障壁となっている。
【原文】
Accessible Books Consortium. "Two Winners Announced for Accessible Books Consortium International Excellence Award" April 15, 2015. Accessible Books Consortium.http://www.accessiblebooksconsortium.org/news/en/2015/news_0004.html (cited 2015-04-22)
【掲載者注』
YPSAのプログラムマネージャーのヴァシコル・バッタキャリア(Vashkar Bhattacharjee)氏は、ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業の第4期生(2002年)である。
ABCのプレスリリースの翻訳とともに掲載した写真は、バッタキャリア氏より許諾をいただき、YPSAの今回の受賞を知らせるページより転載した。写真中央がバッタキャリア氏である。
Young Power in Social Action. "YPSA become winner of the International Excellence Award 2015".Young Power in Social Action (YPSA) http://ypsa.org/2015/04/ypsa-become-winner-of-the-international-excellence-award-2015/ (cited 2015-04-22)
なお、下記のダスキン研修サイトの帰国後の活動報告のページで、彼のバングラデシュでの活動について読むことができる。
ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業編.“2013年12月13日:バングラデシュでICT研修を実施 ヴァシコルさん(バングラデシュ:4期生)”ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業 http://www.normanet.ne.jp/~duskin/alumni-news/activity-report/no04/person1/001.html (参照 2015-04-22)
ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業編.“2014年7月14日:ヴァシコルさん(バングラデシュ)活動報告(バングラデシュ:4期)”ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業 http://www.normanet.ne.jp/~duskin/alumni-news/activity-report/no04/person1/002.html (参照 2015-04-22)
ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業編.“2015年1月16日:ヴァシコルさん(バングラデシュ)報告(バングラデシュ:4期)”ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業 http://www.normanet.ne.jp/~duskin/alumni-news/activity-report/no04/person1/003.html (参照 2015-04-22)