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視覚障害者およびプリントディスアビリティのある人々の出版物へのアクセスを促進する条約の締結に向けた外交会議
マラケシュ
2013年6月17日―28日

全盲の人々、視覚障害のある人々、あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々のために、出版物へのアクセスを改善するマラケシュ条約

主委員会IおよびIIを通じて、起草委員会により本会議に提出

前文

締約国は、

世界人権宣言および国連障害者の権利条約において宣言されている、反差別、平等な機会、アクセシビリティおよび社会への完全かつ効果的な参加とインクルージョンの原則を想起し、

視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々には、自ら選択するすべてのコミュニケーション形態の利用と、教育の権利の享受および調査研究の機会を含め、他の者との平等を基礎として、あらゆる種類の情報とアイディアを求め、受け取り、および伝える自由を含む表現の自由を制限し、その完全な発達に不利となる課題があることに留意し、

文学的および芸術的創作のインセンティブと報酬としての著作権保護と、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々を含むすべての人が、地域社会の文化生活に参加し、芸術を享受し、科学的進歩とその恩恵を共有する機会を増進することの重要性を強調し、

視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々が、社会における機会均等を達成するうえで、出版物へのアクセスを妨げる障壁があることと、アクセシブルなフォーマットによる著作物の数を拡充するとともに、そのような著作物の流通を促進する必要があることを認識し、

視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々の大多数が、開発途上国および後発開発途上国で暮らしていることを考慮し、

各国の著作権法には違いが見られるが、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々の生活に対し、新たな情報通信技術が与える好ましい影響は、国際レベルでの法的枠組みの強化によって増大できることを認識し、

多くの加盟国が、国内の著作権法において、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々のために、制限および例外を設けていること、にもかかわらず、このような人々が利用できるアクセシブルなフォーマットでの複製による著作物は引き続き不足しており、このような人々のために著作物をアクセシブルにする取り組みには、多くの資源が必要であること、さらに、アクセシブルなフォーマットによる複製物を、国境を超えて交換する可能性が欠如しているために、これらの取り組みが必然的に重複するに至ったことを認識し、

権利保有者が、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々のために自分の著作物をアクセシブルにするという役割の重要性と、特に、市場がそのようなアクセスを提供できない場合に、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々に向けて著作物をアクセシブルにするための適切な制限および例外の重要性の両方を認識し、

著作者の権利の効果的な保護と、特に教育、調査研究および情報へのアクセスのような、より広範な公共の利益とのバランスを保つ必要性、および、そのようなバランスは、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々の利益のために、著作物への効果的かつ適時のアクセスを促進するものでなければならないことを認識し、

著作権保護に関する現行の国際条約に基づく締約国の義務と、文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約第9条(2)およびその他の国際文書に定められている、制限と例外に関する三段階テストの重要性および柔軟性を再確認し、

2007年に世界知的所有権機関(WIPO)総会で採択された、開発について考慮すべき点をWIPOの活動の不可欠な部分とすることを目的とした、開発アジェンダ勧告の重要性を想起し、

国際的な著作権制度の重要性を認識し、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々による著作物へのアクセスとその利用の促進を目的として、制限および例外を調和することを希望し、

以下の通り合意した。

第1条
他の条約との関係

本条約のいかなる規定も、締約国が他の条約に基づき互いに有する義務を制限せず、または、締約国が他の条約に基づき有する権利を侵害しない。

第2条
定義

本条約の適用上、

(a)「著作物」とは、出版されているものであるか、または何らかのメディアにより、その他の方法で公に提供されているものであるかを問わず、文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約第2条(1)の意味する範囲内の、文章、表記および/または関連図版の形式での、文学的および美術的著作物を意味する。1)

(b)「アクセシブルなフォーマットによる複製物」とは、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのない人々と同様に、実現可能な方法で無理なく著作物へアクセスすることを許可するなど、受益者に著作物へのアクセスを提供する代替的な手段あるいは形態による著作物の複製物を意味する。アクセシブルなフォーマットによる複製物は、受益者のみが利用し、著作物を代替フォーマットでアクセシブルにするために必要な変更と、受益者のアクセシビリティに関するニーズを考慮しつつ、原著作物の同一性を尊重するものでなければならない。

(c)「公認機関(authorized entity)」とは、教育、教育的訓練、読書の改善策または情報へのアクセスを、非営利を基本として受益者に提供する、政府によって認可あるいは承認された機関を意味する。これには、主たる活動または組織の義務の一つとして、受益者に対し同様のサービスを提供する政府機関あるいは非営利機関も含まれる。2)

公認機関(authorized entity)は、以下の目的のために、独自の手続きを設け、これに従う。
(i)サービスの対象者が受益者であることを確認する。
(ii)アクセシブルなフォーマットによる複製物を頒布および提供する相手を、受益者および/または公認機関(authorized entities)に限定する。
(iii)無許可複製物の複製、頒布および提供を阻止する。
(iv)第8条に従い、受益者のプライバシーを尊重しつつ、著作物の複製物の扱いにおいて常にしかるべき注意を払い、その扱いについて記録する。

第3条
受益者

受益者とは、以下に該当する者である。

(a)全盲の者
(b)視覚的な機能障害、または知覚もしくは読みに関する障害のない者と実質的に同等の視覚機能を与えるための改善ができない、視覚的な機能障害、または知覚もしくは読みに関する障害がある者で、そのために、印刷された著作物を、機能障害または障害のない者と実質的に同程度には読むことができない者、あるいは3)
(c)それ以外の、身体障害により本を持っていることや扱うことができない者、あるいは、両目の焦点を合わせることや両目を動かすことが、読むために通常必要な条件を満たせるほどにはできない者

ただし、その他の障害の有無は問わない。

第4条
国内法令におけるアクセシブルなフォーマットによる複製物に関する制限と例外

1.(a)締約国は、受益者の、アクセシブルなフォーマットの複製物による著作物の利用可能性を促進するため、WIPO著作権条約(WCT)で規定されているように、複製権、頒布権および利用可能化権に対する制限または例外を、自国の著作権法において定めるものとする。国内法令に定められる制限または例外は、著作物を代替フォーマットでアクセシブルにするために必要な変更を許可するものでなければならない。

(b)締約国は、著作物への受益者によるアクセスを促進するため、公の実演権に対する制限または例外を設ける場合もある。

2.締約国は、自国の著作権法において、以下に該当する制限または例外を定めることにより、第4条(1)で明示されているすべての権利を履行することができる。

(a)公認機関(authorized entities)は、以下の条件がすべて満たされる場合、著作権保有者の許諾を得ずに、著作物のアクセシブルなフォーマットによる複製物を作成すること、他の公認機関(authorized entity)からアクセシブルなフォーマットによる複製物を入手すること、およびこれらの複製物を、非商業的な貸与、あるいは有線または無線の手段による電気通信を含む方法により、受益者に支給すること、ならびに、これらの目的を達成するための中間的措置を講じることを許可されるものとする。

(i)本規定に基づく活動を実行することを希望する公認機関(authorized entity)が、当該著作物または当該著作物の複製物への合法的なアクセスを有すること。
(ii)当該著作物が、アクセシブルなフォーマットによる複製物に変換されていること。これには、アクセシブルなフォーマットによる情報の操作に必要な手段を含むことができるが、当該著作物を受益者にとってアクセシブルにするために必要な変更以外の変更は行わない。
(iii)このようなアクセシブルなフォーマットによる複製物が、受益者による利用のみを目的として支給されること。および
(iv)この活動が、非営利を基本として実行されること。

および

(b)受益者、または主たる世話人もしくは介助者を含む、受益者の代理として行動している者は、受益者が当該著作物または当該著作物の複製物への合法的なアクセスを有する場合、その受益者の個人的な利用を目的として、著作物のアクセシブルなフォーマットによる複製物を作成することができ、あるいは、受益者がアクセシブルなフォーマットによる複製物を作成し、利用することを支援することができる。

3.締約国は、自国の著作権法において、第10条および第11条に従い、その他の制限または例外を定めることにより、第4条(1)を履行することができる。4)

4.締約国は、本条文に基づく制限または例外を、その市場において受益者が合理的な条件の下で商業的に入手できない、特定のアクセシブルなフォーマットによる著作物に限定することができる。この可能性を利用する締約国は、本条約の批准、受諾または加入時に、あるいはそれ以降のいずれかの時点で、WIPO事務局長に寄託される通告において、その旨を宣言するものとする。 5)

5.本条文に基づく制限または例外が報償の対象となるか否かは、国内法令で決定される事項とする。

第5条
アクセシブルなフォーマットによる複製物の国境を超えた交換

1.締約国は、アクセシブルなフォーマットによる複製物が、制限または例外あるいは法律の施行に基づき作成される場合、公認機関(authorized entity)が、そのアクセシブルなフォーマットによる複製物を、他の締約国の受益者あるいは公認機関(authorized entity)に、頒布または提供することができると定めるものとする。6)

2.締約国は、自国の著作権法において、以下に該当する制限または例外を定めることにより、第5条(1)を履行することができる。

(a)公認機関(authorized entities)は、著作権保有者の許諾を得ずに、受益者による利用のみを目的として、他の締約国の公認機関(authorized entity)に対し、アクセシブルなフォーマットによる複製物を頒布または提供することを許可されるものとする。

および

(b)公認機関(authorized entities)は、著作権保有者の許諾を得ずに、第2条に従い、他の締約国の受益者に対し、アクセシブルなフォーマットによる複製物を頒布または提供することを許可されるものとする。

ただし、頒布または提供に先立ち、頒布元または提供元の公認機関(authorized entity)が、アクセシブルなフォーマットによる複製物が受益者以外によって利用されることになると知らなかった場合、あるいは、そのことについて知るに足る合理的な根拠がなかった場合に限る。7)

3.締約国は、自国の著作権法において、第5条(4)、第10条および第11条に従い、その他の制限または例外を定めることにより、第5条(1)を履行することができる。

4.(a)締約国の公認機関(authorized entity)が、第5条(1)に基づき、アクセシブルなフォーマットによる複製物を受領する場合、かつ、当該締約国がベルヌ条約第9条に基づく義務を有しない場合、当該締約国は、自国の法制と慣習に従い、アクセシブルなフォーマットによる複製物が、当該締約国の管轄域内においてのみ、受益者の利益のために複製、頒布または提供されることを確保する。

(b)第5条(1)に基づく、公認機関(authorized entity)による、アクセシブルなフォーマットによる複製物の頒布と提供は、締約国がWIPO著作権条約の加盟国でない限り、あるいは、本条約の頒布権および利用可能化権の実施における制限および例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、権利保有者の正当な利益を不当に害しない、特別な場合に限定していない限り、当該管轄域内に限定されるものとする。8)9)

(c)本条文のいかなる規定も、何が頒布行為または利用可能化行為に相当するかの決定に影響を与えることはない。

5.本条約のいかなる規定も、権利の消尽に関する問題への対処に利用してはならない。

第6条
アクセシブルなフォーマットによる複製物の輸入

締約国の国内法令で、受益者、受益者の代理として行動する者、あるいは公認機関(authorized entity)が、著作物のアクセシブルなフォーマットによる複製物の作成を許可される限りにおいて、当該締約国の国内法令で、受益者、受益者の代理として行動する者、あるいは公認機関(authorized entity)が、受益者の利益を目的として、著作権保有者の許諾を得ずに、アクセシブルなフォーマットによる複製物を輸入することも許可されるものとする。10)

第7条
技術的手段に関する義務

締約国は、効果的な技術的手段の回避に対する適正な法的保護と効果的な法的救済措置を提供する際に、このような法的保護によって、受益者が、本条約で規定されている制限および例外の享受を妨げられないことを確保するための適切な措置を、必要に応じて講じるものとする。

第8条
プライバシーの尊重

本条約に定められている制限および例外の実施において、締約国は、他の者との平等を基礎として、受益者のプライバシーの保護に努めるものとする。

第9条
国境を超えた交換を促進するための協力

1.締約国は、公認機関(authorized entities)が互いを認識する支援をするため、情報の自主的な共有を奨励することにより、アクセシブルなフォーマットによる複製物の、国境を超えた交換の促進に務めるものとする。WIPO国際事務局は、この目的のために、情報アクセスポイントを設置する。11)

2.締約国は、第5条に基づく活動に関与している公認機関(authorized entities)が、第2条に従い、その実践に関する情報を提供するための支援を、公認機関(authorized entities)の間での情報共有と、関係者および一般大衆への、アクセシブルなフォーマットによる複製物の国境を超えた交換に関する情報を含む、公認機関(authorized entities)の方針および実践に関する情報の適宜提供の両方を通じて行うことを約束する。

3.WIPO国際事務局は、本条約の機能に関して情報の共有が可能な場合、これを求められる。

4.締約国は、本条約の目的および目標の実現に向けた国家の取り組みを支援するに当たり、国際協力とその促進が重要であることを認める。 12)

第10条
実施に関する一般原則

1.締約国は、本条約の適用を確保するために必要な措置を講じることを約束する。

2.いかなる規定も、締約国が自国の法制および慣習の範囲内において、本条約の規定を実施するための適切な方法を決定することを妨げるものではない。13)

3.締約国は、自国の法制および慣習の範囲内で、受益者の利益を特に目的とした制限または例外、その他の制限または例外、あるいはそれらの組み合わせを通じて、本条約に基づく権利と義務を履行することができる。これらには、受益者の利益を目的とし、ベルヌ条約、その他の国際条約および第11条に基づく締約国の権利および義務と一致する、受益者のニーズを満たす公正な慣行、取引または利用にかかわる、司法、行政あるいは規制に関する決定を含めることができる。

第11条
制限および例外に関する一般的義務

本条約の適用を確保するために必要な措置を講じる場合、締約国はベルヌ条約、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定およびWIPO著作権条約(これらの解釈に関する合意を含む)に基づき、当該締約国が有する権利を行使することができ、義務を遵守するものとする。よって、

1.ベルヌ条約第9条(2)に従い、締約国は、特別な場合に、著作物の複製を許可することができる。ただし、そのような複製は、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないものとする。

2.知的所有権の貿易関連の側面に関する協定第13条に従い、締約国は、排他的な権利に対する制限または例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作権保有者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定するものとする。

3.WIPO著作権条約第10条(1)に従い、締約国は、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合において、同条約に基づき、著作者に与えられる権利に対する制限または例外を定めることができる。

4.WIPO著作権条約第10条(2)に従い、締約国は、ベルヌ条約を適用するに当たり、権利に対する制限または例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定するものとする。

第12条
その他の制限および例外

1.締約国は、締約国の経済状況およびその社会的・文化的ニーズを考慮し、当該締約国の国際的な権利と義務に従い、また、後発開発途上国の場合は、その特別なニーズと特定の国際的な権利と義務およびその柔軟性を考慮し、本条約で定められた以外の、受益者の利益を目的とした、その他の著作権に対する制限および例外を、国内法令において実施できることを認める。

2.本条約は、国内法令に定められている、障害のある人々を対象とした他の制限および例外を侵害するものではない。

第13条
総会

1.(a)締約国は総会を設置する。

(b)各締約国は、総会において一人の代表によって代表されるものとし、代表は、代表代理、顧問および専門家の補佐を受けることができる。

(c)各代表団の費用は、その代表団を任命した締約国が負担する。総会はWIPOに対し、国際連合総会の確立した慣行に従って開発途上国とされている締約国、または市場経済への移行過程にある締約国の代表団の参加を容易にするため、財政支援の提供を要請することができる。

2.(a)総会は、本条約の存続および発展、ならびに本条約の適用および運用に関する問題を扱う。

(b)総会は、特定の政府間機関が本条約の締約国となることの承認に関して、第15条に基づき割り当てられた任務を遂行する。

(c)総会は、本条約の改正に関する外交会議の招集を決定し、当該外交会議の準備のために、WIPO事務局長に対し必要な指示を与える。

3.(a)国である締約国は、それぞれ一票を有し、自国の名においてのみ投票する。

(b)政府間機関である締約国は、当該政府間機関の構成国であり、かつ、本条約の締約国である国の数に等しい数の票をもって、当該構成国に代わり投票に参加することができる。当該政府間機関は、当該構成国のいずれか一国が自国の投票権を行使する場合は、投票に参加してはならない。また、当該政府間機関が自らの投票権を行使する場合は、当該構成国のいずれも投票に参加してはならない。

4.総会は、事務局長の招集により、特別な事情がなければ、WIPO総会と同じ時期に同じ場所で会合を持つ。

5.総会は、合意による決議に努め、臨時会議の招集、定足数の要件、および本条約の規定に従い、さまざまな種類の決議を行う際に必要な多数決の要件を含む、独自の手続規則を定める。

第14条
国際事務局

WIPO国際事務局が、本条約に関する管理業務を行う。

第15条
締約国となるための資格

(1)WIPO加盟国は、本条約の締約国となることができる。

(2)総会は、本条約の対象とされる事項に関して権限を有すること、および、これらの事項に関して、すべての構成国に対して拘束力を持つ独自の法制を有することを宣言し、かつ、本条約の締約国となるため、内部手続きに従って正式に権限を委任されていることを宣言する政府間機関が、本条約の締約国となることを承認する決定を行うことができる。

(3)欧州連合は、本条約を採択した外交会議において、前項に規定されている宣言を行ったため、本条約の締約国となることができる。

第16条
本条約に基づく権利および義務

本条約における特別な別段の定めに従うことを条件とし、各締約国は、本条約に基づくすべての権利を享受し、すべての義務を負う。

第17条
条約の署名

本条約は、マラケシュにおける外交会議で署名のために開放され、採択後1年間は、WIPO本部において、適格国による署名のために開放される。

第18条
条約の効力の発生

本条約は、適格国(第15条に規定)20カ国が、批准書または加入書を寄託した後3カ月で効力を生ずる。

第19条
条約の締約国となり効力が発生する日

本条約は、以下の期日から締約国を拘束する。

(i)第18条に規定されている20の適格国については、本条約が効力を生じた日
(ii)第15条に規定されているその他の適格国については、それぞれ、当該国が批准書または加入書をWIPO事務局長に寄託した日から3カ月の期間が満了した日

第20条
条約の廃棄

いずれの締約国も、WIPO事務局長にあてた通告により、本条約を廃棄することができる。廃棄は、WIPO事務局長がその通告を受領した日から1年で効力を生ずる。

第21条
条約の言語

(1)本条約は、ひとしく正文である英語、アラビア語、中国語、フランス語、ロシア語およびスペイン語による原本一通について署名する。

(2)(1)に規定されている言語以外の言語による公定訳文は、関係国の要請により、すべての関係国と協議の上、WIPO事務局長によって作成される。本項の適用上、「関係国」とは、WIPO加盟国で、当該公定訳文の言語がその公用語または公用語の一つとなっているもの、ならびに欧州連合および本条約の締約国となることができるその他の政府間機関で、当該公定訳文の言語がその公用語の一つとなっているものを意味する。

第22条
寄託者

本条約の寄託者は、WIPO事務局長とする。

2013年6月27日マラケシュにて作成

1) 第2条(a)に関する合意声明:本条約の適用上、この定義には、オーディオブックなどの音声形式による著作物が含まれると解される。

2)第2条(c)に関する合意声明:本条約の適用上、「政府によって承認された機関」には、教育、教育的訓練、読書の改善策または情報へのアクセスを、非営利を基本として受益者に提供する、政府から財政支援を受けている機関が含まれる場合があると解される。

3)第3条(b)に関する合意声明:この文言は、「改善ができない」という言葉によって、すべての可能な医学的な診断手続きおよび治療の利用を義務付けることを意味するものではない。

4)第4条(3)に関する合意声明:本項は、視覚障害あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々にかかわる翻訳権について、ベルヌ条約で認められている制限および例外の適用範囲を縮小または拡大するものではないと解される。

5)第4条(4)に関する合意声明:商業的利用可能性の要件は、本条文に基づく制限または例外が、三段階テストと一致しているか否かを予断するものではないと解される。

6)第5条(1)に関する合意事項:本条約のいかなる規定も、他の条約に基づく排他的権利の範囲を縮小または拡大するものではないと、さらに了解される。

7)第5条(2)に関する合意声明:アクセシブルなフォーマットによる複製物を、他の締約国の受益者に直接頒布または提供するには、公認機関(authorized entity)が、サービスの対象者が受益者であることを確認するさらなる手段を適用し、第2条に記されている独自の手続きに従うことが適切な場合もあると解される。

8)第5条(4)(b)に関する合意声明:本条約のいかなる規定も、締約国が、本条約またはその他の国際条約に基づく義務を超えて、三段階テストを採択または適用することを義務付け、または意味するものではないと解される。

9)第5条(4)(b)に関する合意声明:本条約のいかなる規定も、締約国に対し、WIPO著作権条約(WCT)の批准または加入、あるいはその規定の順守の義務を設けるものではなく、また、本条約のいかなる規定も、WCTに記載されている権利、制限および例外を損なうものではないと解される。

10)第6条に関する合意声明:締約国は、第6条に基づく義務を履行する際、第4条に定められているものと同様な柔軟性を有すると解される。

11)第7条に関する合意声明:公認機関(authorized entities)は、さまざまな状況において、アクセシブルなフォーマットによる複製物の作成、頒布および提供のための技術的措置の適用を選択し、また、国内法令に従っている場合、本条文のいかなる規定も、そのような実践を妨げることはないと解される。

12)第9条に関する合意声明:第9条は、公認機関(authorized entities)の登録の義務付けを意味するものでも、また、公認機関(authorized entities)が本条約で認められている活動に関与するための前提条件となるものでもないが、アクセシブルなフォーマットによる複製物の国境を超えた交換を促進するための情報共有の可能性を定めたものであると解される。

13)第10条(2)に関する合意声明:音声形式による著作物を含む著作物が、第2条に基づく著作物として適格とされる場合、本条約で定められている制限および例外は、アクセシブルなフォーマットによる複製物を作成し、頒布し、受益者に提供するために必要な隣接権に、変更すべきところは変更して適用されると解される。

(日本障害者リハビリテーション協会情報センター仮訳)


原文:
Marrakesh Treaty to Facilitate Access to Published Works for Persons Who Are Blind, Visually Impaired, or Otherwise Print Disabled
http://www.wipo.int/meetings/en/doc_details.jsp?doc_id=241683

Diplomatic Conference to Conclude a Treaty to Facilitate Access to Published Works by Visually Impaired Persons and Persons with Print Disabilities
Marrakesh, June 17 to 28, 2013
MARRAKESH TREATY TO FACILITATE ACCESS TO PUBLISHED WORKS FOR PERSONS WHO ARE BLIND, VISUALLY IMPAIRED, OR OTHERWISE PRINT DISABLED adopted by the Diplomatic Conference
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/diplconf/en/vip_dc/vip_dc_8.pdf

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