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小特集/著作権法改正と障害者サービス
「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」と障害者サービス

佐藤聖一

 2010年1月1日施行の改正著作権法および著作権法施行令第2条(以下「政令」という)の特徴や内容は本誌南亮一氏の項のとおりである。今回の法改正は障害者への情報保障という意味では大変大きな意義を持っている。また,「図書館の障害者サービス」というよりも「図書館」にとっても歴史的な意味を持つ。今後の図書館サービスの在り方にも影響を与えるものとなろう。

 ただ,今回の法改正は障害者にとって大きな前進ではあるが,そこには解決できていない点もあるし,不明確な点(グレーゾーン)も存在する。それらのグレーゾーンを明らかにし,その解決策を提示し,もって図書館サービスを円滑に進めることを目的に,このガイドラインを作成した。

 ガイドラインは「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」の下に置かれた障害者サービスワーキングチームによって作成され,当事者協議会の了解を得て発表された。大切なことは,著作権者・出版社等の著作権権利者団体とガイドラインに書かれている図書館関係団体が協議を重ねて作成した点にある。それぞれが,障害者への情報保障という観点では共通の認識を持った上で,具体的な方策について納得できる内容でまとめられたものである。また今後も必要に応じて修正していくことも了解されている。

 今後は,改正された著作権法とその政令,そしてこのガイドラインを基にサービスを展開していってほしい。さらに日図協障害者サービス委員会では具体的事例のQ&Aも作成している。日図協サイトにあるので参考にしていただけると幸いである。ただ残念なことは,このガイドライン(本稿後半にガイドラインの抜粋を記す)【掲載者注:DINFではガイドラインへのリンクを置く。】は法第37条第3項に関するものであり,法第37条の2(聴覚障害者等のための複製等)については手つかずな状態である。早期のガイドライン作成が望まれる。

 ガイドラインでは,特に対象となる障害者を認定登録すること,無許諾で製作できる資料の種類,いわゆるただし書き部分といわれる障害者が使えるような形式で販売されているかどうかを確認する手段について,その具体的方法を示している。ワーキングチームでも特に時間を割いて検討したところである。

 対象となる障害者の認定登録の方法では,別表1・2により,図書館職員が自ら判断できるよう支援している。

 障害者が使える形式で販売等されているかどうかを調べる方法として,別表3で販売出版社等を示し,その中になければ製作できることとした。

 次に今回の法改正と,実際の障害者サービスの現状について,私見も合わせて書いてみたい。

 この法改正は,図書館にとって無許諾でさまざまな障害者用資料が製作できることと,データの自動公衆送信・譲渡ができること,そして利用対象者が大きく拡大することが大切な点である。

 ところが実際に資料を製作している図書館は全国で200もない。この法改正で最も重要なことは,政令で定められた施設相互に借り受け資料やダウンロードした資料をコピーしてさまざまな障害者に提供できるということにある。それは,障害者用資料を一つも持っていないところ(政令で認められている大学図書館・公共図書館・学校図書館等)でも,そこにいる障害を持つ利用者に,全国の資料を提供できるようになったということである。

 それは,全国の公共図書館がさまざまな障害者の情報提供窓口となる可能性を持ったことを意味している。もちろん政令で認められた施設は公共図書館だけではないが,その設置目的やサービスの趣旨,またその数等から見て,公共図書館が最も障害者への総合窓口としての役割を果たすべき施設と考えられる。

 では実際の図書館の現場はどのような状況であろうか。

 全国の公共図書館で,ある程度の障害者サービスを実施していると思われる館は2割程度しかない。また,その実施の有無やサービスの質にはとても地域差が大きく,ほとんどが実施している県がある半面,どこの館も実施していないという県も多い。

 いうまでもないことであるが,障害者サービスを実施していない図書館にとっては,著作権法の改正や法改正を受けたサービスの充実等ということに思いが及ばない。

 それでは,このような現状を踏まえた上で各図書館は何をするべきかを私なりに考えてみた。

 (1) 全職員が障害者サービスの理念や目的を学ぶこと。障害者サービスの目的は「すべての人にすべての図書館資料・サービスを提供・利用できるようにする」ことにある。これは本来図書館が行う基本中の基本であり,「障害は図書館サービスにこそあるのであって,障害者にあるのではない」という言葉の意味を理解しなくてはならない。

 (2) 法改正を受けて,(視覚障害者サービスではなく),あらゆる「図書館利用に障害のある人」を対象としたサービスを検討しなくてはならない。担当者を置くことはもちろん,サービス要綱・規則・マニュアル等も早急に整備する必要がある。

 (3) 今まで何もしてこなかった館においては,まずできることから始めてほしい。全国的相互貸借システムを活用した視覚障害者等への点字録音資料の郵送貸出はすべての図書館で実施可能である。費用もほとんどかからず発受施設の指定さえ受ければすぐにでも実施できる。また心身障がい者用ゆうメールを使った資料の郵送貸出も若干の費用を必要とするがそんなに難しいものではない。小さな自治体の図書館なら宅配や施設入所者へのサービスがやりやすい場合もあるだろう。とにかく,できることはいろいろある。

 (4) 新しいサービスに取り組もう。例えば聴覚障害者へのサービスに積極的に取り組んでいる図書館がある。全国にはいろいろな障害者サービスに先進的に取り組んでいる館がある。そこから学び自館に導入する方法がある。

 実は私の勤務する館においても,今まさにサービスの拡充に向けて具体的な検討を行っている。以前からのサービス実施館においては,逆に視覚障害者サービスからの進展を求められているケースも多い。未実施館の方がかえってやりやすいこともあるかもしれない。いずれにせよ,これからすべての図書館で新たに取り組むことが求められている。

 今回の法改正を契機に,すべての図書館における障害者サービスの実施と,さまざまな障害者(図書館利用に障害のある人)へのサービスを展開していくことを強く願うものである。

図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン

(さとう せいいち:埼玉県立久喜図書館)

[NDC9:015.7 BSH:1.録音図書 2.著作権 3.障害者サービス]


この記事は、佐藤聖一.小特集,著作権法改正と障害者サービス:「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」と障害者サービス.図書館雑誌.Vol.104,No.7,2010.7,p.434-437.より転載させていただきました。

なお、元の記事は、『図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン』の一部抜粋を掲載していますが、DINFでは、このガイドラインをすでに転載していますので、ガイドラインへのリンクとしました。