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著作権法改正と障害者サービス 第14回
都道府県立図書館の役割

杉田正幸

1.はじめに

 2010年の国立国会図書館の調査では,都道府県立図書館で障害者サービスを実施しているのは回答のあった53館の内49館(92.5%)と市町村立図書館より比率は高い。しかし,その内容は対面朗読や郵送貸出など一部のサービスしか行われていないのが現状である。改正著作権法第37条により,視覚によりその表現が認識される著作物の利用が困難な人のために,公共図書館等において一定の条件のもとでの複製等を行うことができるようになったが,都道府県立図書館では従来のサービスから進んでいるところは皆無である。この稿では都道府県立図書館としてできるサービスを考えてみたい。

2.資料の製作と購入,貸出

 資料の製作に関しては,パソコン録音による音声DAISY図書・マルチメディアDAISY図書の製作,字幕入り・手話入り資料の製作,点字図書や点字絵本,触る絵本などの製作などが考えられる。この内,音声DAISY図書の製作はいくつかの都道府県立図書館では自ら音訳者を養成し行っているが,その他のサービスはまったく行われていない。人材養成の予算化をし,まずは人材を育てサービスをはじめることが必要である。

 しかし,製作には時間と労力がかかる。本来,一般の資料は購入してサービスをしているが,障害者サービス資料は出版点数も少ないことから公共図書館が自ら製作しなければいけないという矛盾がある。

 都道府県立図書館では音声DAISYやマルチメディアDAISYについては購入し,活字による読書が困難な人のすべてにサービスをすることが望まれる。具体的にはオフィスコア,音訳サービスJ,日本障害者リハビリテーション協会などから発売されているDAISY図書,一般の出版社からの委託製作を請け負っているテープ版読者会のDAISY図書などが購入対象になる。なお,筆者の勤務する図書館では購入可能なマルチメディアDAISY図書は全点購入することを心がけているが,現状,販売されているマルチメディアDAISYはあまりにも少ないのが現状である。

 その他,テキストデータ,PDFデータなどの電子図書,大活字図書,点字図書などの購入・収集も積極的に行う。全国視覚障害者情報提供施設協会の視覚障害者総合ネットワーク「サピエ」に加入(公共図書館は年間4万円)し,オンラインでの相互貸借やDAISY図書,録音図書をダウンロードし,CD-RやSDカードでの利用者への提供なども必要である。

 字幕や手話入りの資料はTRCのToolⅠで貸出や館内の上映の可否も確認できるので,それらツールを参考に購入することが必要だ。

3.市町村図書館への支援と研修の実施

 障害のある利用者は外出の難しい利用者が多く,とかく郵送によるサービスが中心になる。しかし,近くの図書館であればどうにか来館できる利用者も多くいる。だが,市町村の図書館には障害者サービスのノウハウもなく,どこからはじめたらよいのかわからないところが多い。そのために都道府県立図書館は障害者サービスに関する研修を積極的に開催することが必要である。障害者の概要,利用者への接し方,それぞれのサービスや資料,障害者用の機器やオンラインサービスなど,その自治体の実情に合わせて,実習を多く含めた実践的な研修が必要である。講師としては地元の障害当事者やその支援者(特別支援学校の教員や視聴覚障害者情報提供施設の職員),全国に働く図書館の障害当事者職員などが望まれる。

4.対面朗読

 対面朗読は多くの自治体で実施しているが,都道府県立図書館には市町村図書館にない,専門書や貴重な図書・雑誌が多くある。それら資料を独力で読むことの困難な人にサービスすることが必要であり,これは障害者手帳のありなしに関わらずサービスができることが望ましい。対面朗読協力者(有償)を養成し,定期的に現任者にも図書館の責任で研修を行うことが必要である。また,予算や人材が乏しい場合は職員自らが利用者に対面朗読を行うことが必要だ。

5.郵送貸出および市町村図書館への資料の貸出

 広範囲な地域にサービスをする都道府県立図書館にとっては郵送でのサービスは重要で,録音図書,点字図書,墨字図書,字幕入り・手話入り資料の郵送貸出などが必要だ。録音図書は郵便局から図書館が発受指定を受ければ,視覚障害者には郵送料が無料になる。しかし,視覚障害以外の読書障害者には送料がかかる。そこで市町村図書館と連携し,利用者の近隣の図書館まで都道府県立図書館から連絡便などで配送し,利用者に資料を取りにきてもらうなど,市町村図書館との連携が必要だろう。

6.関連機関との協力

 特別支援学校,視聴覚障害者情報提供施設,障害者施設,作業所などへの資料の貸出,それら施設や団体との共同してのイベントの開催など関連機関との協力関係を築くことが重要だ。また,障害者向けの利用案内を作成し,上記の施設や団体の他,市町村などの障害福祉担当にも定期的に送り,図書館が障害者に対するサービスを行っていることをアピールしていくことが必要だ。

7.パソコン利用支援や電子図書館やデータベースへの対応

 24時間テレビが2011年までに23館の都道府県立図書館に障害者サービス用の機器を贈呈している。パソコン本体や画面を音声や拡大するソフト,音声ブラウザ,音声読書機,拡大読書機,DAISY再生機,点字プリンターなど,導入はしたものの十分に活用できていない図書館が多いようだ。さまざまな利用者にPRし,活用することを期待したい。

 筆者の図書館では視覚障害者や盲ろう者にパソコン支援サービスを行っているが,これら以外にも学習障害(LD)や本が読みにくい人などさまざまな人にパソコン利用や支援をしていくことが必要である。

 電子図書館については障害者に利用しにくいものも多いが,活字による読書が困難な人こそ恩恵を受けるべきサービスと思う。そういう意味からも積極的にさまざまな利用者に使ってもらえるような研修会の開催が必要だ。もちろん新聞や雑誌の図書館で契約しているデータベースについてもすべての利用者が使えるよう図書館で整備し解放することが必要だ。

8.終わりに

 著作権法が変わってもその恩恵を受けることのできる利用者にサービスができていないのが都道府県立図書館の現状である。予算の削減,民間への業務の委託など苦しい状況であるからこそ,公的な責任として活字による読書が難しい利用者には公共図書館が積極的にサービスをする必要がある。サービスは人である。そのためにも障害者資料や機器,サービスに精通した専門的な知識や技術を持った職員や図書館協力者が都道府県立図書館には必要と思う。

(すぎた まさゆき:大阪府立中央図書館)

[NDC9:015.17 BSH:1.障害者サービス 2.著作権]


この記事は、杉田正幸.都道府県立図書館の役割.図書館雑誌.Vol.106,No.3,2012.3,p.184-185.より転載させていただきました。