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新著作権法に関する最新情報-円卓会議による共同成果

ティム・エヴァンス
印刷物を読むことに障害がある人々のための情報アクセスに関する円卓会議 副議長
ビジョン・オーストラリア(VA) ビジネス・サービス ジェネラル・マネージャー

項目 内容
会議名 印刷物を読むことに障害がある人々のための情報アクセスに関する円卓会議
発表年月 2007年5月

本文書の目的は、最近の著作権法改正と、これらの改正事項が印刷物を読むことに障害がある人々のコミュニティに対して与える影響に関して、円卓会議に最新情報を提供することである。更に本文書では、これまで取り組まれていなかった、印刷物を読むことに障害がある人々のコミュニティに関わる技術的保護手段の最近の動向に関する問題も論じ、同会議にその情報を提供する。

背景

著作権法は著作物の製作者の権利と、それにアクセスしたいと望む者の権利とのバランスを取ろうとする。著作物の製作者は、そのデータを管理し、そこから収入を得る権利を持っていることは、明らかである。結局のところ、我々に作品の娯楽性や情報の価値を提供するのは製作者の創造性であり、才能であり、機知であり洞察力なのである。これは信頼と敬意が存在する環境においてのみ、花開くことができる。出版されている著作物の大部分は、印刷物の形式をとっており、印刷物を読むことに障害がある人々にはアクセシブルでないということが、このような人々にとってアクセス上の問題となっている。この問題は、印刷という形で出版されている情報のたった5%しか、アクセシブルなフォーマットで利用できないということを示した研究によって、浮き彫りにされている。

この背景を念頭におき、円卓会議と、BCA(Blind Citizens Australia)、およびVAは、オーストラリアにおいてはこのバランスが適正ではなく、それがオーストラリアの印刷物を読むことに障害がある人々に影響を与える限り、そのバランスを変えるために何とかする必要があるという見解を持つに至った。この見解は、3団体すべての会員およびクライアントからのフィードバックをもとにまとめられた。3団体はすべて、情報へのアクセスは基本的な人権であり、その欠如は完全な社会参加を阻むものであると確信し、この問題について一致して行動することを決定した。30万人の視覚障害者と、170万人の印刷物を読むことに障害のある人々を抱える国に対する、人道的および経済的影響を理解しようとするとき、この問題の重要性は高く評価することができる。

我々は、この見解について、出版社および製作者のコミュニティ内部からもある程度の共感を得ていると確信している。それは、印刷物を読むことに障害がある人々のコミュニティが特にCAL(Copyright Agency Limited)と各出版社から受けてきた寛大な支援に反映されている。CALの資金による、 ACC(Australian Copyright Council)の、印刷物を読むことに障害がある人々のためのガイドラインの作成もまた、このような人々のコミュニティを支援する優れた取り組みの、別の一例である。しかし、印刷物を読むことに障害がある人々のコミュニティでは、この問題を、基本的権利の問題として考えているということ、そしてアクセスの権利は、著作権法に正式に規定されなければならないということは、いっておかなければならない。連邦政府による2006年の著作権法見直しの結果、この法律を改正する機会が我々にもたらされた。

提案

2006年5月、VAは、BCAおよび印刷物を読むことに障害がある人々のための情報アクセスに関する円卓会議と共同で、著作権法担当の連邦法務長官らに対し、印刷物を読むことに障害のある人々に関連する部分について、オーストラリア著作権法を改正することを支持する提案を提出した。

我々の提案では、無制限の公正使用の例外を提案した。これは、公正使用の場合、つまり、ある一定の条件が満たされている限り、個人あるいは組織による作品のコピーは著作権の侵害ではないということを意味する。提案では主な条件として、知覚障害者に関わる公正使用をあげた。この定義には印刷物を読むことに障害がある人々も含まれる。著作物の製作者の権利を認め、また、何らかのガイドラインを設けるという政策決定者のニーズを認めるにあたって、我々は、無制限の公正使用のもとでは、いかなる場合も、コピーを作成する前にテストを実施するべきであると提案した。公正使用に関する条項と、その特別な条件に加えて、我々は法務長官に対し、以下の趣旨で、改正案に関する特別な勧告を行った。

  • このようなアクセシブルな資料の使用目的の公開リストを伴う、公正使用に関する条項が必要である。非公開のリストでは、印刷物を読むことに障害がある人々のコミュニティの事例における、情報へのアクセスに向けた、あらゆる将来的な可能性が予見できない。
  • 急速に変化する技術環境と印刷物を読むことに障害がある国民のさまざまなニーズを反映するため、いかなる例外についても、特定のフォーマット、言語あるいは技術に限定されてはならない。
  • オリジナルなフォーマットによる情報への、オーストラリア国民のアクセスを阻む障害のすべての範囲を網羅するために、障害のより広範な定義を認めるため、新たな法令が必要である。
  • デジタル・レポジトリを構築し、アクセシブルなフォーマットを作成するコストを削減し、アクセシブルなフォーマットの利用可能性について連絡を取り合えるように、作品の構造化されたテキストファイルをレポジトリに預けることを、出版社に義務付ける。アメリカ合衆国のNIMACのモデルが、その一例である。
  • 現行の例外は、現在の形のまま機能し続ける。
  • 現行の第47条A項の、公認RPH放送局(訳注:印刷物を読むことに障害がある人々のためのラジオ放送局)のための規定は、インターネット放送にも適用が拡大される。
  • WBU(世界盲人連合)のモデル規定に従い、オーストラリア国外で制作されたアクセシブルなフォーマットの使用に関する規定を有効にする。

2006年著作権法改正

我々は、2006年の著作権法改正法案が、新たな個人的使用の例外に関する提案に従い、また、印刷物を読むことに障害がある人々を支援する機関のために、法律に重要な新しい例外規定を盛り込む役割を果たすと確信する。

  • 「個人的な使用」の例外では、我々のコミュニティのメンバーが、私的な利用を目的として、著作権の侵害を恐れることなく、アクセシブルなコピーを作成するために「フォーマットの変更」を行うことができ、
  • コミュニティの他の部門とともに、「時間の変更」、つまりテレビおよびラジオ番組を録画・録音することができ、
  • 録画・録音したCDを自分のCDプレーヤーで再生するために、「場所の変更」ができるということを確保する。

2006年の著作権法改正法案は、我々の提案を取り入れ、改正前の著作権法による円卓会議の会員組織に対する制限は大幅に削減され、事前の許可を取る必要なく、コピーを作成できるようになった。

  • この法案では、障害者や障害者を支援する人々による、ある一定の条件の下での、事前の許可を得ない著作権の侵害について例外を規定し、我々がアクセシブルなフォーマットで作品を提供できることを確認する。注目すべきは、この規定は特定の障害について言及していないので、対象範囲が広いということである。
  • この法案では、印刷物を読むことに障害がある人々を支援する組織が、ある一定の条件の下で、事前の許可を得ることなくコピーを複製することによる著作権の侵害について、例外を規定し、我々がアクセシブルなフォーマットで作品を提供できることを確認する。更にこの法案は、個人用のコピーを作成するためのマスターコピーの作成も認める。著作権使用料の支払い通知は今後も必要だという点は、留意すべきである。
  • この改正案は、特定のフォーマットを限定するものではない。これによって、我々の組織やクライアントは、メディア、情報配信およびアクセシビリティの分野で認められる数多くの多様な技術の進歩を十分に利用できるようになる。
  • 最後に、この改正案は、印刷物を読むことに障害がある人々のコミュニティのニーズと状況とを更に正確に反映するために、知覚障害の定義を拡大した。

この改正案は、ベルヌ条約の第9条(2)で取り入れられた三段階テストに基づき、「特別な事例」として認められるべき特定の必要条件という形をとったガイダンスを提供する。

  • 我々の組織による著作物の特定の利用が、作品の通常の利用と矛盾しない、つまり、製作された複製が「非公開の市場」を対象に、非営利目的で回覧される場合。
  • 著作物の利用によって、著作権所有者が自分自身の商業利益のために公開市場を対象に類似版を制作することが制限されない場合。
  • 組織によって製作されるあらゆるフォーマットによるすべての複製品が、原作の著者、出版社および/または著作権所有者の、十分かつ完全な承認を得ており、組織による著作物の利用が、著作権所有者の正当な利益を不当に侵害しない場合。

この法案、特に「特別な例外」規定は、印刷物を読むことに障害がある人とそのような人々を支援する組織が、より協力的な法的枠組みの中で、情報へのアクセスのニーズに取り組む行動を起こすことを可能にする。しかし、それには責任が伴う。

状況が、「特別な事例に匹敵する」か、あるいは、利用が「通常の作品の利用と矛盾する」か、もしくは著作権所有者の正当な利益を「侵害する」かどうかは、裁判所による解釈にゆだねられる。著作物の所有者は誰でも、その権利が侵害されたと確信すれば、裁判を起こすであろう。それゆえ、三段階テストは真剣に受けなければならない。法の範囲内で活動してきたことを確立するには、組織内で段階を追って、手順や方針を変えて行く必要がある。疑問があれば、法的アドバイスを求めることを強く勧める。

  • 著者および作者の権利が考慮されることを確保するために、今まで以上にいっそう、我々は出版社と密に協力して活動し続けなければならない。
  • 作品の変換を記録し、作品のアクセシブルなコピーがあることを他の人に気づかせるデータベースへの寄贈を確保するために、今まで以上にいっそう、我々はCALと協力して活動し続けなければならない。
  • ACCおよび法務長官事務所の意見を取り入れて、我々の決定に重みを加えることを確保するために、これまで以上にいっそう、これらの組織と協力して活動していかなければならない。

私をよく知る人々は、私がたびたび、情報の100%をアクセシブルにする大胆な新計画があるといっているのを知っているだろう。新著作権法は、今後10年間、我々がこの目標へ近づくのを助けてくれる、新たな可能性への扉を開いたと私は確信している。新著作権法の機運にのって、我々は旅を進めることができるのだが、しかし、我々が取り除かなければならないバリケードがもう一つある。我々には全国的なデジタルレポジトリが必要なのである。

全国的なデジタルレポジトリとは何か?そしてそれは何をするのか?

これは、出版社が、同じフォーマットのファイルを、中央のレポジトリに預けられるようにする、集中型自動システムである。預けられるファイルのフォーマットを同じにすることは重要である。なぜなら、これによってアクセシブルなフォーマットへの変換が容易になるからで、それはxmlなどのオープン標準規格に基づくフォーマットにするべきである。我々は、このレポジトリが、その後交換所としての役割を果たし、認可されたユーザーが、アクセシブルなフォーマットに変換するために必要なデジタルソースファイルをここで検索、ダウンロードできるようになると信じている。AFM製作者は、製作するAF作品について、レポジトリに情報を登録することを義務付けられるであろう。このようにして、印刷物を読むことに障害がある人々のコミュニティが、お金のかかる複製を作成しないですむようにできるのである。

アメリカ合衆国のNIMASは、そのようなレポジトリの一例である。NIMASは、全国指導教材標準規格およびレポジトリの略で、このレポジトリはNIMAC、つまり全国指導教材アクセスセンターと呼ばれている。このレポジトリは個別障害者教育改正法(2004年IDEA)という法律に基づいている。NIMASは、幼稚園から高校3年生までの教材出版社を対象とした、構造化されたXMLファイルの必要条件の概略を記載した標準規格である。ソースファイルはその後アクセシブルなフォーマットの作成に使用される。レポジトリは政府の資金により運営されている。カナダでは2005年にAFPのための電子交換所として知られるパイロットプロジェクトが開始され、イギリスでは2004年に、MLA(訳注:博物館・図書館・文書館委員会)が、デジタルレポジトリを取り巻く問題に関する予備調査を依頼した。

円卓会議は連邦政府に対し、オーストラリア人のための全国的なレポジトリに関する予備調査を開始する措置を取るよう要求する。

それは、この部屋にいるすべての人の協力を必要とするであろう。国立図書館、州立図書館、オーストラリア図書館協会、オーストラリア大学評議会、および国会議員の協力と好意が、この夢を実現するために必要なのである。

放送と著作権

スティーブン・ジョリーは、DAISYコンソーシアムの年次総会におけるプレゼンテーションの中で、今後のインターネット放送の発展について語り、我々はオランダのSolutions Radioによるインターネットラジオ放送の開発について聞いた。カレル・レイブン氏は、ラジオ放送の70%はインターネットラジオで、30%は地上波放送だという数字を引用したと思う。インターネットは未来の方法である。オーストラリアのRPHネットワークは、AMおよびFM放送を通じて日刊新聞の朗読を配信しているが、これらのプログラムを、インターネットを通じて提供することはできない。

連邦政府への提案の中で我々は、RPHのプログラムをインターネットで配信することを許可するよう法律を改正することを要求したが、失敗に終わった。我々はこの問題を更に進め、連邦政府に対し、RPHの内容がインターネットを通じて配信できるよう、1992年の放送サービス法の改正に関する我々の提案の検討を要求し続ける。

技術的保護手段(TPM)

技術的保護手段は著作権所有者によって、著作物の内容を保護し、管理するために利用される。この例としては、DVDリージョンコードや独自の規格の利用、暗号化による内容のロックアップなどが挙げられる。

著作権法はTPMに関して強化されてきた。VAは下院のTPMに関する常任委員会に代表を派遣し、印刷物を読むことに障害がある人々のコミュニティのために、TPMの規定にある例外を認める議論で成功を収めた。

世界図書館および国際著作権法との一致

世界図書館の構想は、印刷物を読むことに障害のある人々のためのすべての図書館が、共有と交流を行う共同コミュニティの中で結ばれる世界を予見するものである。印刷物を読むことに障害のある世界の市民が、幅広い言語による、幅広いテーマの、幅広い内容の著作物を、自由に検索できる、そんな内容の世界的な総合図書目録を想像してみるとよい。それは複製を製作することは一切無い、情報へのアクセスがずっと容易な世界なのである。

これはWBU、IFLA(国際図書館連盟)およびDAISYが共有する構想である。円卓会議はこの構想を支持する。その際制約となるのは、技術や国同士の協力ではなく、著作権に関する不確実性なのである。我々は各国の著作権法を一致させるために、WBUによって進められているイニシアティブを支持する必要がある。WBUのモデル規定を我が国の著作権法に盛り込むことについて、検討されるべきである。

結論

さて、我々はどこにいるのだろうか?我々は数々の領域において重大な進歩を遂げてきたが、いまなお取り組むべき問題は数多く残されている。個人的利用、特別な事例に関する規定、そして印刷物を読むことの障害に関する規定が、著作権法改正法案に盛り込まれてきた。我々は、これらの改正法案は、ある特定の条件の下での無制限の公正使用を、きちんと提案しているという見解に立っている。TPMの規定もまた、印刷物を読むことに障害のある人々のケースについて、いくつかの例外を提供してきた。

ラジオ放送の内容のインターネット配信、全国的なレポジトリ、および世界的な著作権法の一致に関する分野では、取り組むべき課題がある。円卓会議はこれらの点の改正を支持し続ける。

我々は、未来をはっきりと見ることができないため、驚くべき不確実性の世界にいる。このコミュニティが非常に得意とする新しいアイディアを解放するのは、この不確実性の創造的な緊張感であろう。解決策は、必要に応じて試され、評価され、証明され、あるいは修正されていくであろう。

ネルソン・マンデラは、我々が大いに恐れるのは、失敗することではなく、はかり知れないほどの成功を収めることであると語った。エルセベスは、我々には、道徳的要請という追い風が吹いており、成功するという意思があるといった。私は著作権法に対する最近の改正について、連邦政府に意見する。しかし、我々の旅は終わってはいない。