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WIPO(世界知的所有権機関)
ステークホルダー・プラットフォーム第4回中間報告(抄訳)

原文(英語):
Standing Committee on Copyright and Related Rights
Twenty First Session
Geneva, November 8 to 12, 2010
Fourth Interim Report of the Stakeholders’ Platform
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_21/sccr_21_10.pdf


著作権及び著作隣接権に関する常設委員会
第21回セッション
2010年11月8~12日
ジュネーブ
ステークホルダーズ・プラットフォーム(Stakeholders’ Platform)の第4回中間報告

事務局作成文書

はじめに

1. 本第4回中間報告は、2010年10月23日にニューデリーで開催されたステークホルダー・プラットフォームの第5回会合の結果について報告するものである。

2. 2008年11月に開催された著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)の第17回セッションにおいて、委員会は、視覚障害者の特別なニーズについて確認し、失明者、視覚障害者及びその他読書障害者のこれらのニーズに対して、速やかに、適切な検討を経た対応をすることが重要である旨を強調した。これには、限界や例外についての分析を踏まえたうえで、保護された著作物へのアクセスの促進及び増強を図るにはどのような方法・手段があるかを国内及び国際的なレベルで話し合うことが含まれる。さらには、障害を持った人々による保護されている著作物へのアクセスを確保するために取決めを促すべく、世界知的所有権機関(WIPO)にステークホルダー・プラットフォームを設置することも含まれよう。

3. 上述の任務に基づき、WIPO事務局は、著作権の権利者及び印刷字が読めない障害を持つ人々を含めた視覚障害者の具体的なニーズ、懸念及び代替的フォーマットによる著作物への障害者のアクセスを促進するという目標達成に向けてのアプローチ案を研究するために、彼らの権利を代表する主要なステークホルダーに対して二つの会合に参加するよう求めた。

4. これまでのステークホルダー・プラットフォームの会合の開催状況は、次のとおり。

  • 第1回会合: 2009年1月19日、ジュネーブにて開催。
  • 第2回会合: 2009年4月20日、ロンドンにて開催。
  • 第3回会合: 2009年11月3日、アレキサンドリア(エジプト)にて開催。
  • 第4回会合: 2010年5月26日、ジュネーブにて開催。

5. 上記の会合の中間報告は、SCCRの第18回、第19回及び第20回セッションにおいて提出され(文書番号は、それぞれSCCR/18/4、SCCR/19/10及びSCCR/20/6)、プラットフォームの最新の作業状況が報告された。委員会は、これらの報告を歓迎し、2010年6月に開催された第20回セッションにおいて、事務局に対して引き続きプラットフォームの作業を行いSCCRの第21回セッションでその活動について報告をするよう求めた。さらに、委員会は、WIPO事務局に対して、発展途上国及び後発発展途上国からもステークホルダーが効果的に参加できるのを確実にしそれを支えるための資金提供を行うよう要請した。プラットフォームの第2回会合の後、事務局に対し、改めて途上国でのプラットフォーム会合開催に向け最大限の努力をするよう要請があった。

6. 今回の第4回中間報告においても、任務の目標を達成するために必要なさらなる措置を明示する。事務局は、提案された行動案を実行に移し、2011年6月に開催されるSCCRのセッションで新たな報告を行うことについて、加盟国の承認を求める。

ステークホルダー・プラットフォームの第5回会合

7. ステークホルダー・プラットフォームの第5回会合は2010年10月23日にニューデリーで開催された。参加者のリストは、本報告書の付属文書に記載されている。会合では、プラットフォームの3つのサブグループ、すなわち、信頼のおける媒介機関のサブグループ、技術関連サブグループ及び能力開発サブグループがそれぞれ行ってきた作業の評価に焦点が当てられた。

8. 参加者は、ステークホルダー・プラットフォームが設置されてから約2年が経過し、その間、提案された様々なプロジェクトの作業に対して多大な善意とサポートが寄せられている一方で、世界に3 億1,400万人もいる印刷字が読めない障害を持つ人々の状況には何らの改善もみられていないことについて認識が一致した。必要とされているのは、二重のソリューション、すなわち、ステークホルダー・プラットフォームの成功と立法措置によるソリューションであり、これらはいずれも引き続き補完的かつ相互支援的に作用していくであろう。

信頼のおける媒介機関

9. 信頼のおける媒介機関(TI)サブグループの作業の中間報告が提出され、プラットフォームの検討を受けた。このサブグループは、2010年7月31日に作業を終了して、異なる国のTI間のファイルと権利の国際的交換に関する作業について報告した。権利者とTIとの間の契約関係において用いられるファイルの転送と権利の移転に関する標準的契約条項についての最終案も提示された。契約条項を検討する段階では、113を超えるコメントが寄せられた。試行プロジェクトを実施して、この枠組みと契約条項が現実的にはどのように機能するかをテストすることとなった。

10. 以下の国や組織から質問状に対する回答が寄せられ、試験的プロジェクトに参加することについておおむね興味を有していることが表明された。

  • オーストラリア: ビジョン・オーストラリア(Vision Australia)
  • ブラジル: ドリナ・ノウィル・ファンデーション・フォー・ザ・ブラインド(Dorina Nowill Foundation for the Blind)
  • カナダ: カナディアン・ナショナル・インスティテュート・フォー・ザ・ブラインド(Canadian National Institute for the Blind)
  • コロンビア: インスティテュート・ナシオナル・パラ・シエゴス(Instituto Nacional para Ciegos (INCI))
  • インド: DAISY・フォー・インディア(DAISY for India)
  • フランス: ブライユネット(BrailleNet)
  • スペイン: オルガニサシオン・ナシオナル・デ・シエゴス・エスパニョレス(Organizacion Nacional de Ciegos Espanoles (ONCE))
  • スウェーデン国立録音点字図書館(The Swedish Library of Talking Books (TPB))
  • 南アフリカ: サウス・アフリカン・ライブラリー・フォー・ザ・ブラインド(South African Library for the Blind)
  • 英国: イギリス王立盲人援護協会(Royal National Institute of Blind People (RNIB))
  • アメリカ合衆国: 米国議会図書館(Library of Congress/National Library Service (NLS))

11. 当初のTIプロジェクトがグローバル・アクセシブル・ライブラリー(Global Accessible Library (GAL))プロジェクトと統合され、またその後WIPOからスタッフをプロジェクト・マネージャーに就かせる旨のオファーがあったのを経て、試行プロジェクト最終計画案が策定された。プロジェクト・マネージャーは、TIと権利者とがそれぞれ資金提供する2名の専門家からの支援を受けている。また暫定運営委員会からの助言も受けている。

12. 試行計画に携わるステークホルダー、すなわちTI、出版社及び複製権に関する組織は、試行計画の作業にかかわっていくためには、ファイル転送及び著作権に関する契約や技術関係の取決めの詳細に関与する必要があろう。契約については、著作権や契約関係の国内法に応じて修正が加えられることが了解された。

13. 試行プロジェクト計画案がプラットフォームに提示された。これにはa)プロジェクトの実施戦略、b)強化されたTI参加基準、c)情報コミュニケーション技術(ICT)コンポーネントの供給者及びプロジェクトにとっての信頼される世界的団体としてのWIPOの役割、d)計画された成果物のリスト、e)予算及び資金調達に関する予想、f)役割、責任及びプロジェクト・マネジメント・チームの構成を含めたプロジェクトのガバナンス構成、並びにg)主なマイルストーンが含まれる。

14. 試行プロジェクトの計画は、2010年11月から2013年末までの3年間を対象とする。多角的アプローチを採ることで、初年度から目に見える結果を出すとともに関連するリスクの管理を目指している。プロジェクトが進行するとともにアプローチが統合されてくる。各アプローチで重視される項目は次のとおり。

  • アプローチ1: 既存のタイトル及び新しいタイトルに関するTI間のファイル及びファイル情報の共有化並びに権利者との契約及びその実現化に向けてのインフラストラクチュア(たとえばビジネス間取引(B2B))の構築及び試行。
  • アプローチ2: エンドユーザーがアクセス可能なコンテンツを検索しTI及びやがてはプロバイダーから直接ダウンロードすることを可能とすること(たとえばビジネス消費者間取引(B2C))。
  • アプローチ3: 契約、ガイドライン、最善慣行及び持続可能な運用業務モデルの継続的開発。
  • アプローチ4: TI、とりわけ途上国のTIがTIネットワークの有効な参加者となるよう支援すること。
  • アプローチ5: 上記のアプローチが効果的に実施されるようサポートする集中的ICTコンポーネントの開発。

15. 時間的スケジュール案と主なマイルストーン案は次のとおり。

  • 2010年11月: プロジェクト計画、プロジェクトのガバナンス構成、プロジェクト管理資源及び資金計画についての合意と実施。プロジェクトのICTインフラストラクチュア及び集中的設備のサービス提供者としてのWIPOの役割の確認。
  • 2011年1月: TI認定基準の承認。当初の参加組織についての原則合意、プロジェクトのウェブサイトとWIKIページの策定。詳細な作業計画及び成果物のリストの更新。暫定的な国際作業グループの設置。
  • 2011年2月: 当初参加のTIと権利者との間でのファイル転送及び著作権に関する契約の締結。必要なICTの機能の明確化。
  • 2011年4月: 当初のターゲットとするタイトルについて合意。
  • 2011年6月: 情報コミュニケーション技術(ICT)コンポーネントのアーキテクチャ設計の完成。既存のコレクションからのタイトルについて、新しい契約の下でTI間のファイル転送が開始される(B2B)。次段階の参加組織についての原則合意。
  • 2011年7月: ICTの試行開発/実施の開始。
  • 2011年9月: アクセス可能なファイルの転送対象に出版社が提供するファイルを使ってTIが創出した新しいタイトルを含める(B2B)。試行/テスト環境で当初の集中的ICT(特にアップロード及びダウンロードの機能)が利用可能に。2012年の計画と予算案の策定。
  • 2011年末: 複数のTIと権利者との間でのアクセス可能なファイルの制作及び共有に関する継続的計画の策定。2012年の資金計画の実施及び2012年業務計画の再確認。テスト環境での、追加的な集中的ICTサービス(特に拡張記憶/データベース、利用状況の追跡及びメタデータ設備)が利用可能に。
  • 2012年第2四半期末: 結果及び影響の明確な実証を基に、すべてのアプローチにおける重要な活動計画の策定。ICTテスト環境での検索及び発見サービスの提供(第1四半期)。B2Cのテスト環境でのトライアルの準備完了(第2四半期)。
  • 2012年第4四半期末: 試行/テストICT実施の制作プラットフォームへの移行(第3四半期)。ICT制作の最終的トライアルの完了(B2B及びB2C)(第4四半期)。商業的コンテンツの検索の最終的トライアルの完了(第4四半期)。
  • 2013年第2四半期末: 制作環境での様々な検索及び発見方法の最終的トライアルの完了(第1四半期)。持続可能な運用及び業務モデルの推奨の概要の策定とステークホルダーとの協議。プロジェクトの移管又は終了についての計画の承認。
  • 2013年第4四半期末: 最終報告の発表。あらゆる最善慣行に関する文書の配布終了。

16. その複雑性に鑑み、ステークホルダー・プラットフォームは、必要が生じた際には改訂する可能性がある旨留保した上で試行プロジェクト計画を承認した。試行プロジェクト計画は、「TIGAR」(信頼のおける媒介機関の世界的アクセス可能資源プロジェクト (trusted intermediary global accessible resources project))と称されることに。

技術関連

17. 技術関連サブグループから作業の中間報告が提出され、プラットフォームの検討を受けた。WIPOにより、二つの国際的基準設定機関、すなわちEDItEURとDaisyコンソーシアムとの間で、利用可能化技術の枠組みを実施するための覚書(MoU)が2件締結された。これらの作業では、出版社が制作段階で採るべき最善慣行のガイドラインを策定し、場合によってはこれらの最善慣行を増強するような方法で既存の基準(たとえばONIX、EPUB及びDAISY)を主流の出版業務に統合することに重点が置かれていた。

18. MoUの下でDAISYコンソーシアムは主に、DAISYパイプライン2の分野とDAISYぺディアの開発の活動を行ってきた。DAISYパイプライン2は、XMLコンテンツを自動的に加工するためのオープンソースのツールとして設計されているもので、DAISYペディアは、トレーニングや技術サポート資料の作成に関するトレーナーや専門家のためのwiki環境である。

19. EDItEURは、アクセシビリティ・コミュニティーに関する要件の確立、コミュニケーション及びガイドラインの開発並びにトレーニングに重点を置いている。その他の活動として、EDItEURは国際的な調査を行ったこととフランクフルト書籍市でコミュニティー横断的な検討会の場を設けた旨を報告した。

20. プラットフォームでは、DAISYとEDItEURの双方で積極的な活動の活発化と進捗がみられることや、主流のアクセシブル出版が今までにも増して身近になってきていることを認識した。

21. 技術関連サブグループはまた、2011年末までにWIPOがハイレベル技術サミットを組織することを提案した。そのイベントには、目標とする技術関係会社やアクセシビリティや出版関係のコミュニティーから実績のある人物の出席を求める意向。

能力開発

22. 能力開発サブグループの活動範囲が報告され、プラットフォームで検討された。このサブグループの作業は、TIが未だ存在しない国々でTIを作り出す方法を推奨することを通じTIGARプロジェクトを補完すること及び発展途上国や後発発展途上国に必要な能力開発活動を行うことに重点が置かれている。この作業は、ステークホルダー・プラットフォーム及びそのプロジェクトが実績を上げるうえで極めて重要であった。

23. アルゼンチン、コロンビア、ブラジル、ケニヤ、インド及び南アフリカといった発展途上国からのステークホルダーから、印刷字が読めない障害を抱えた人々に対して著作権で保護されたコンテンツを提供することに関する現在の状況と具体的問題点について説明がなされた。

24. ステークホルダー・プラットフォームは、能力開発サブグループに対し、次回の会合の際に具体的な提案を行うよう求めた。

その他

25. ステークホルダー・プラットフォームの次回会合は、2011年4月11日(月曜日)にロンドン書籍市にて行われる予定である。

26. 常設委員会においては、事務局がSCCRの2011年6月のセッションにおいて改めて報告を行うことをはじめとして、この報告書の内容に留意されたい。

以下付属文書省略