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WIPO(世界知的所有権機関)
ステークホルダー・プラットフォーム第7回中間報告(抄訳)

原文(英語):
Standing Committee on Copyright and Related Rights
Twenty-sixth Session
Geneva,December 16 to 20,2013
SEVENTH INTERIM REPORT OF THE STAKEHOLDERS'PLATFORM
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_26/sccr_26_7.pdf

著作権及び著作隣接権に関する常設委員会
第26回セッション
2013年12月16日~20日
ジュネーブ
ステークホルダー・プラットフォーム(Stakeholders' Platform)の第7回中間報告

事務局作成文書

はじめに

1.本第7回中間報告は、2013年11月18日にジュネーブで開催されたステークホルダー・プラットフォームの第8回会合の結果について報告するものである。

2.2008年11月に開催された著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)の第17回セッションにおいて、委員会は、視覚障害のある人々(VIP)の特別なニーズについて確認し、全盲の人々、視覚障害のある人々及びその他の読みに関する障害のある人々のこれらのニーズに対して、速やかに、適切な検討を経た対応をすることが重要である旨を強調した。これには、著作権で保護されている著作物へのアクセスの促進及び増強を図るにはどのような方法・手段が考えられるかを、制限や例外についての分析を踏まえたうえで、国内及び国際的なレベルで話し合うことが含まれる。さらにこれには、著作権で保護されている著作物への障害のある人。によるアクセスを保障するための取決めを促すべく、世界知的所有権機関(WIPO)にステークホルダー・プラットフォームを設置することも含めなければならない。

3.上述の任務に基づき、WIPO事務局は、著作権の権利者及びプリントディスアビリティのある人々を含めたVIPの具体的なニーズ、懸念及び障害のある人々のための代替フォーマットによる著作物へのアクセス促進という目標達成に向けたアプローチ案を研究するために、彼らの利益を代表するさまざまな主要ステークホルダーに対して、プラットフォームに参加するよう求めた。

4.これまでのステークホルダー・プラットフォームの会合の開催状況は、次のとおりである。

  • 第1回会合:2009年1月19日、ジュネーブにて開催
  • 第2回会合:2009年4月20日、ロンドンにて開催
  • 第3回会合:2009年11月3日、アレキサンドリア(エジプト)にて開催
  • 第4回会合:2010年5月26日、ジュネーブにて開催
  • 第5回会合:2010年10月23日、ニューデリーにて開催
  • 第6回会合:2012年2月10日、ジュネーブにて開催
  • 第7回会合:2012年11月16日、バンコクにて開催

5.中間報告は、SCCRの第18回、第19回、第20回、第21回及び第24回セッションにおいて提出され(文書番号は、それぞれSCCR/18/4、SCCR/19/10、SCCR/20/6、SCCR/21/10及びSCCR/24/2)、プラットフォームによる最新の作業状況が報告された。委員会は、第1回会合から第6回会合までの報告を歓迎し、2011年7月に開催された第24回セッションにおいて、事務局に対して引き続きプラットフォームの作業を進めるよう促した。SCCR第24回セッション以降は、2回にわたりステークホルダー・プラットフォームの会合が開催された。

  • 第7回会合:2012年11月16日、バンコクにて開催
  • 第8回会合:2013年11月18日、ジュネーブにて開催

6.本文書は、プラットフォームの第8回会合についてのみ報告するものである。ステークホルダー・プラットフォームの第7回会合の報告は、文書SCCR/26/5(『ステークホルダー・プラットフォームの第6回中間報告』)としてまとめられている。

ステークホルダー・プラットフォームの第8回会合

7.ステークホルダー・プラットフォームの第8回会合は2013年11月18日にジュネーブで開催された。参加者のリストは、本報告書の付属文書に記載されている。世界盲人連合(WBU)の代表がオブザーバーとして参加し、全盲の人々、視覚障害のある人々、あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々のために、出版物へのアクセスを改善するマラケシュ条約(マラケシュVIP条約の実施)との整合性確保を重視し、世界的な本不足の終結に取り組むという目標をもって、プラットフォームによる作業へ参加する旨を後に表明した。

8. 会合では、2つのテーマに焦点が絞られた。第一に、信頼のおける媒介機関によるグローバル・アクセシブル・リソース(TIGAR)プロジェクト、キャパシティービルディングプロジェクト(Capacity Building project)及びインクルーシブな出版プロジェクト(旧イネーブリング・テクノロジー・フレームワーク・プロジェクト)の進捗状況の報告、第二に、ステークホルダー・プラットフォームの将来に向けた計画である。

信頼のおける媒介機関によるグローバル・アクセシブル・リソース(TIGAR)

9.TIGARプロジェクトの報告が行われた。22カ国から24の信頼のおける媒介機関(TIS)(公認機関(AES)とも称される)と、45名の著作権の権利者がプロジェクトに参加したとの報告があった。TIGARデータベースには、10の図書館から寄せられた、アクセシブルなフォーマットによる、さまざまな言語で利用可能な21万件を超えるタイトルが含まれている。これまで著作権処理は、より多くのリソースを必要とする困難な課題であったが、マラケシュVIP条約が実施されれば状況は改善されるであろう。多くの前向きな結果が明らかにされ、特にWIPOによって開発され、プロジェクトに参加したAESによって実施された、さまざまなアクセシビリティ要件を満たした検索と発見が可能な共同目録の作成、アップロード及びダウンロード機能、受注管理モジュール、ファイル交換、統計報告、自動通知及びメッセージング、著作権処理ツールの作成など、技術解決策の進歩が明らかにされた。これらのツールはすべて、目的に適していることが証明されており、今後はその拡張性が検証されなければならない。

10.TIGARは、世界的なネットワークの実現可能性と有用性の調査を目的としていたため、プロジェクトでは、技術面とビジネス面のサポートだけが重要なのではなく、開発途上国と後発開発途上国における技術とインフラストラクチャーの特性が原因で発生する可能性のある、さらなる困難な課題に適切に取り組むために、これらの国のニーズに対する特別な配慮も必要であることが明確に示された。また、TIGARプロジェクトの試験段階は2014年5月に終了する予定であるが、その後、現在ステークホルダー・プラットフォームによって進められている3件のプロジェクトに取り組む新たな共同戦略が、最善のアプローチとなることも強調された。

キャパシティ・ビルディング(Capacity Building)

11.キャパシティ・ビルディングに関する報告が行われた。作業グループの参加者は、最善の結果を達成するには、一定水準の既存の図書館サービスなど、ある一定の条件の実現を基礎とした組織的なアプローチが望ましいという見解を示した。書籍とプリントディスアビリティのある登録会員に関する情報の維持には、最低水準の図書館サービス組織が必要である。キャパシティ・ビルディング作業グループは、開発途上国の各機関がTIGARデータベースから利益を得、これに価値を付加する公認機関として機能できるようにするための支援を行うことを目的としていた。キャパシティ・ビルディング活動に浸透していた最優先課題は、現場の人材であった。

12.バングラデシュでは、アクセシブルなフォーマットによるベンガル語の教材の製作に関連した、VIP向けの支援技術研修を含む、国内非政府機関を対象としたキャパシティ・ビルディング実施のための覚書が締結され、プロジェクトが開始された。さらに、ダッカの出版社向けには、最新のアクセシブルなフォーマットの技術(すなわち、EPUB3)に関する研修も行われることになった。スリランカでは、現在、同様な覚書から利益を得ると思われる非政府機関と地域の出版社を特定する、実態調査の任務が進行中である。同様な計画は、2014年の第1四半期にタンザニアでも立てられた。これまでの活動からは、特にVIP団体によるアクセシブルな複製の提供を支援するために、また、出版社と政府のサービス機関による、現地語での地域の学校教科書の製作を支援するために、そして何よりも、アクセシブルなフォーマットの複製を輸入する能力を開発するために、多くのレベルでキャパシティ・ビルディングが必要であることが明らかになった。地域の擁護者を発見することがプロジェクトの成功に重要である。これらの活動に対する経済的支援は、オーストラリアFIT基金及びWIPOから得ている。

13.WIPO事務局長の視覚障害者(VIP)イニシアティブ名誉顧問を務めたスワシュパワン・シン(Swashpawan Singh)大使の退任が発表され、感謝と遺憾の意が示された。

インクルーシブな出版

14.インクルーシブな出版プロジェクトの活動に関する報告では、以下の点が強調された。
(a)EPUB3は、カナダと米国で首尾よく採用された、アクセシブルな出版フォーマットの標準規格であるが、今までのところ、他の国々ではそれほど成功していない。技術的観点からすれば、EPUB3はテキストのみで構成することもできれば、さまざまなメディアオーバーレイをサポートしているため、他のメディアによって強化することも可能であることが指摘された。
(b)米国出版社協会とアメリカ盲人協会は、高等教育の教材をEPUB3フォーマットで出版しなければならないという点で合意した。
(c)多くの企業(Adobe、Google、IBM、Bookshare、Learning Ally)が、Readium財団に加わり、ファイルをチェックしてEPUB3出版標準規格に準拠しているかどうかを確認する「プリフライト」検証システムを設立した。
(d)DAISYコンソーシアムによってPipeline 2が開発されたため(一部はWIPOによる資金援助)、旧DAISYフォーマットをEPUB3に変換できる。
(e)EDItEURは、WIPOの資金援助によりアクセシビリティガイドラインを開発したが、これは出版社コミュニティに歓迎され、EDItEURは、ガイドラインが作成された4か国語でウェブサイトからダウンロードされた回数は、7000回を超えていたと報告した。出版社に対する研修も大いに歓迎されてきた。

15.すべての関係者は、最初の段階からアクセシブルな出版の促進と、VIP団体及び出版社との連携の促進が、書籍のアクセシブル版の数を増やす重要な要因であるという点で合意した。目標は、印刷されたテキストしかない著作物の90%を、3年から4年以内に「最初の段階からアクセシブル」なものにすることであるが、参加者は、一部の資料について他の資料よりもアクセシブルなフォーマットへの変換が複雑であることに合意した。複雑な画像、図表及びその他のグラフを伴う教材によって、特別な課題がもたらされた。ステークホルダー・プラットフォームの活動におけるこの重要な側面は継続するべきである。

ステークホルダー・プラットフォームの将来

16.参加者らは、TIGARの第一段階が間もなく終わりを迎えるだけでなく、2013年6月に採択されたマラケシュVIP条約によって弾みがついたことから、次の段階が特に重要となるという点で合意した。このプロジェクトは、実践的な方法で著作物のアクセシビリティ増進に貢献を果たし、それゆえ、このイニシアティブを継続するべきであるが、共通の目的と戦略について、すべてのステークホルダーの合意を得る必要があるという点で意見の一致が見られた。共通の目的と具体的な戦略の策定及び合意に向けた課題への取り組みが始まった。

17.ステークホルダーは、ステークホルダー・プラットフォームの第7回会合で合意が得られたように、WIPO、国際出版業界及びプリントディスアビリティのある人々の代表団体や、これらの人々にサービスを提供する機関による提携を通じて、TIGAR試験プロジェクトが終了する2014年5月より前に、専門性のレベル向上に向けて行動を起こしたいという希望を述べ、最終的にはこの将来組織を、アクセシブル・ブック・コンソーシアム(ABC)のような名称にしたいとの考えを示した。ABCの目的は、アクセシブルなフォーマットによる本の世界的な不足を、マラケシュVIP条約に従った、すべての関係ステークホルダーとの、より運用しやすい専門的なレベルでの連携を通じて終結させることになるであろう。これは、同様なイニシアティブを考慮し、以下の活動とスポンサー付きのプロジェクトを実施することを通じて達成されるであろう。
(a)TIGARデータベースのような適切なツールとシステム及びビジネスプロセスの開発と実施
(b)開発途上国及び後発開発途上国における、関連技能と知識の向上に向けた能力構築
(c)インクルーシブな出版技術に関する幅広い宣伝と研修
(d)全盲の人々、視覚障害のある人々、あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々、公認機関、著作権の権利者及び技術企業との協力と関係づくりの奨励

18.参加者は、ステークホルダー・プラットフォームの第7回会合で交わされた議論が、TIGAR、インクルーシブな出版及び能力構築などの、ステークホルダー・プラットフォーム内のさまざまなイニシアティブを調整し、限られた人的及び経済的資源の割当分を、より効率的な方法で使用するには、これまで以上に合理化された組織が必要であるという結論につながったことを想起した。新たな組織案は、ステークホルダー・プラットフォームの活動が、全盲の人々、視覚障害のある人々、あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々にとってアクセシブルな著作物の数を増やす実践的な手段へと確実につながるようにするために、これらの活動の調整を合理化するものとなる。この専門性レベルの強化により、将来組織の活動拡大を支援する外部資金獲得を目的とした資金調達活動も可能となるであろう。暫定期間中は、成功を収めたTIGARプロジェクト運営委員会の組織が、これら3件のすべてのプロジェクトの調整に適用できる。

19.参加者は、今後2,3カ月かけて、戦略と組織案の開発への取り組みを継続することで合意した。

20. ステークホルダー・プラットフォームの次回会合は、2014年2月に開催される予定である。

21. 委員会においては、本文書に記載されている情報に留意されたい。

以下付属文書省略