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著作権法改正と障害者サービス 第12回
公共図書館・学校図書館に期待すること-発達障害の子どもたちとマルチメディアデイジー図書-

山中香奈

発達障害と読字障害

 「たつの子」は兵庫県で活動するLD親の会です。発達障害の子どもの親が自分たちで発達障害の啓発,勉強会の開催,懇親会の開催などを行っております。

 「たつの子」でも子どもたちが必ず読み書き障害があるわけではありませんが,障害を複数併せ持つケースが多いと言われています。例えばAD/HDと学習障害(LD)等です。学習障害の子どもの中にはディスレクシアと呼ばれる「読字障害」も存在します。

 私の息子はディスレクシアです。中学校2年生ですが漢字の読み書きは小学校3年生レベルです。息子は見た文字を音に変換することが困難です。しかも,文字のかたまり(文節など)がわからないですし,目線が外れるとどこを読んでいるのかわからなくなったりもします。

 そんな息子の読書は「字」を「音」に変換することが精一杯の読書です。音読は逐次読みだったり,切るところを間違えていたりするので幼い子が読んでいるようですし,読み終えても内容が頭に残っていません。

 私たちが息子の読書を体験するとするなら,英文を縦に隙間無くならべて一文字ずつ読んでいるような状態かもしれません。アルファベットは読めても長い単語や文章となるととても難しく,たった数行の文章を読み終えるのにとても時間がかかり,内容理解もままならないことでしょう。

マルチメディアデイジー図書

 私の息子は小学校4年生のとき,マルチメディアデイジー図書に出会い,読めない息子が読書を楽しむことを知りました。マルチメディアデイジー図書はパソコンで再生します。画面にはテキストが表示され,今読んでいる箇所をハイライト表示してくれます。文字の大きさも色も自分の見やすいように変更することが可能ですし,挿絵も画面で楽しむことができます。その上,自分のペースにあわせ読んでくれるのです。

 読めない彼らにとってマルチメディアデイジー図書は視力の悪い人のメガネであり,足が悪い人の杖や歩行器のようなものなのです。息子が「ボクはみんなみたいにはできひんけどデイジーあったらできるんやな」と嬉しそうに笑って私に言っていたことが忘れられません。

 しかし,マルチメディアデイジー図書はなかなかありません。地元の公共図書館での貸し出しも,サピエ図書館(視覚障害者情報総合ネットワーク)でもありませんでした。

 読書が好きになった息子はもっと本が読みたい,音声だけのデイジー図書だけでも良いから借りたいと地元の点字図書館とサピエ図書館に会員登録をして利用させていただいております。これは昨年,著作権法が施行され,視覚障害者に限られていた複製が視覚による表現の認識に障害のある人でも認められるようになったからです。

 これで息子は念願の『ハリー・ポッター』を読むことができましたが,それは音声だけで挿絵も見られませんし,今どんな文字を読んでいるのかもわかりません。見えているのに読めない子どもたちには少々寂しいものでした。

 そんな折,社会福祉法人日本ライトハウス情報文化センターでマルチメディアデイジー図書のサービスを行っていることがわかりました。登録すればインターネットからダウンロードができるのです。現在はまだ約30冊ではありますが,やっと出会えたマルチメディアデイジー図書の図書館でした。今後まだまだ増えて行くでしょうからとても楽しみです。しかも,見えているのに読めない子どもたちへの工夫は製作者からの愛情を感じさせ,とても嬉しく思いました。

マルチメディアデイジー図書ならできる

 今年の夏休みに「たつの子」では2回目となる読書感想文講座を開催しました。先ほどの社会福祉法人日本ライトハウス情報文化センターのダウンロードサービスも利用して本を読み,読書感想文を書きました。そこに参加したお母さんたちにマルチメディアデイジー図書について聞いてみました。

 高機能自閉症の中学2年生の男の子のお母さんは,「漢字は知っていて読めるのに,読む(音声化する)だけで内容はわかりません。他人が読み聞かせをするとどうしても周りのいらないノイズが集中の邪魔になり本の内容がわからなくなってしまいます。でもデイジーならヘッドフォンをして集中することもできるし,毎回同じ声で同じ調子で読んでくれるので理解しやすいようです」と言われていました。

 また,AD/HDで軽度知的障害の小学校5年生の男の子のお母さんは「普通の本を読むときは落ち着いて読めません。ざーっと読み飛ばしてしまうのに本人は「読んだ」と言います。挿絵などを見て内容を推測しているようです。マルチメディアデイジー図書は比較的落ち着いて読むことができているようです。視覚,聴覚両方からの刺激のせいかもしれません」ということでした。

 どちらも,私の息子とはまったく違う特性の子どもたちですが,マルチメディアデイジー図書なら集中して読めてわかりやすいということでした。文字が読めないディスレクシアだけが必要としているのではないこともわかります。

公共図書館に期待

 あるとき,息子は「図書館の本にデイジー,付いてたらいいのにな~」と言いました。

 現在の息子の読書は音声のみのデイジー図書と同じ本を公共図書館で借りて成り立っています。2種類の図書館があるからできる読書です。本も半分以上はどこを読んでいるのか見失いますが本には本にしかない味わいがあり好きなようです。紙の手触りや本の重さもその一つかもしれません。

 いつもの図書館で息子の読みたい本が,読める本(マルチメディアデイジー図書)と一緒に借りられるようになればいいなと思います。

 もちろん,ダウンロードなどのサービスにも期待しております。日本国中の公共図書館や学校図書館が連携をしてサピエ図書館のようなダウンロードサービスが可能になれば,図書館に通うことが難しい方でもサービスを受けることができるのです。

 また,高等教育などでは参考書や文献,論文などが必要です。学校図書館は障害のある学生たちのニーズを集約し連携を取って専門的分野の製作を行い,サービスを始めていただければ読むことの障害で進学や研究をあきらめることがない時代になっていくのではないかと期待いたします。

 マルチメディアデイジー図書は一つのソースで,違う特性の人たちが自分に合った形で利用ができます。発達障害だけでなく視覚障害をはじめ,本を読むことが困難な方々が障害種別に限らずに利用,活用ができるのです。だからこそ公共図書館や学校図書館でサービスを行って多くの方々に利用していただきたいと思います。

 最後に,『みんなの図書館』8月号にも「ディスレクシアが望む図書館を考える」と題し私たち親子の図書館への期待だけでなく夢まで書かせていただきました。そちらもぜひご覧いただけたらと思います。そして,これからの図書館は息子のような読めない子どもでも通いたくなる図書館になると期待して止みません。

(やまなか かな:兵庫県LD親の会「たつの子」)

[NDC 9:015.17 BSH:1.障害者サービス 2.録音図書]


この記事は、山中香奈.公共図書館・学校図書館に期待すること-発達障害の子どもたちとマルチメディアデイジー図書-.図書館雑誌.Vol.105,No.11,2011.11,p.770-771.より転載させていただきました。