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パネルディスカッション

河村● 質問用紙の追加はまだありますか?ある方がいらっしゃいましたらできるだけ早くスタッフに渡してください。あまり質問がなかったので、最初に事実関係だけ共有しておいた方がいいものから質問にお答えしたいと思います。

まず私に対する、EPUB3の図書がパブリッシャーで開けるかということ、もう一つTobiという無料のソフトでは開けないのかという質問です。私が知るところでは、今現在はまだ開けないようですが、誰か開いた方いますか?何かちょっとやってTobiで開いて使えたという方、いましたら教えてください。多分、最終的にはDAISY4に対応した製作ツールになるというのがロードマップですので、EPUB3からDAISY4のソースにするというツールはできるはずです。最終的にはTobiが、EPUB3で出力してあれば、それに音声をシンクロできるようになることを私は期待していますが、まだそのアナウンスはないですね。

会場● Tobiの最終版が昨年12月末に出たので、私、2月10日の一太郎の発売を待っているんです。それが出たらEPUB3を作ってテストしようと思って狙っているところなのでちょっと伺いました。ありがとうございました。

河村● その次は、細川先生と西澤先生にご質問です。通級にDAISYを導入する際に、他の子どもの親への説明はあったのですか?

あれば、どのように説明したのか、さらに親の反応はありましたか?ということです。

通級でDAISYを使うときに、実際に使っているお子さんの場合には、親に説明していると思うのですが、それ以外のお子さんに説明はされたのですか?どのように説明し、それに対する他の子の親の反応はどうでしたか?というのが質問です。西澤先生と細川先生への質問ですが。

西澤● 学級すべての児童に使う一斉の国語の授業の手立てとして考えていましたので、特別に何か説明するようなことはありません。これ以前に子どもたちも何回かDAISYを使った授業を受けていますので、子どもたちは自然に受け入れています。

細川● 私は学級全体で使いたいということをメインに考えてやってきたので、まず子どもたちに、「こんなんあるんやけど、見てみよか」ということでクラスの子どもたちには始めていきました。それから、学級通信を書いてるんですけれども、その中にDAISYはこんなものだよと。そこにはもともとは視覚障害を持った方のためのデジタル図書です、今は文字を読むのが難しい人でも使えるようになってきているんですということを載せさせてもらったり。あと保護者向けには、授業参観のときにDAISYを使いますというのを先にお知らせして、実際に使ってみたりしました。

保護者の方からは、特に反応はなかったのですが、多分使っている風景がすごく自然で、対象のお子さんの保護者の方からは「すごく自然でした」ということは言っていただきました。

河村● ありがとうございました。あと、事例報告の中で、AMISのインストールに制限があるという話がありましたが、AMISの側にはどこでどうインストールするという制限は全くありません。これが学校ですと校内ネットワークの制限ということなのかなと思うのですが。質問された方はそれでよろしいですか? どなたが質問されたのか、名前がないのでわからないんですが。よろしいですね。AMISに関する限り、どこでどのように使おうとも、インストールに制限ということはありません。ただ、仕様上、例えばWindows95だと使えないということはありますが、それ以外の制限は特にございませんので、ご活用ください。

それではパッと答えられる質問は、一応これで答えを共有したということにさせていただいて、今日の本題であります、どういうふうにもっとDAISYの読める教科書を届けていくのかに議論を絞っていきたいと思います。

その際に、今日ずっと確認されてきたのは、このように実践されるとこういうところが有効だということが、非常に端的にいい実践が明らかにされたと思うんです。少し議論で補っていただきたいのは、西澤先生が少し触れておられたと思いますし、細川先生も触れておられたかと思うんですが、最初に、この子が必要だということがある程度わかって使い始めた子のそばに、実は本当は必要だけれども、なかなかそれが自分からも言えないし、わからない子が潜んでいて、実際に使える環境があると、ああ使ってみてよかったという子が出てくる。まだまだ、本当は使った方がいいんだけど、そういう子たちが出会ってない部分があるのではないかというのが、今日の報告の中からも感じられましたし、これまでもそういうことが言われていたと思うんです。

ところが文部科学省の方の、特に入試センターの場合の配慮事項に顕著なんですけれども、これまで読むことが難しい子に入試において配慮をするという中で、たとえばDAISYを使ったらというのは、ほとんど教育委員会では考慮されていないし、入試センターでも議論が表には出ていないと思うんです。その一方で、学校ではいくつかの実践の中で、これはやはり必要だと見えているし、端的に奈良の高校の入試では代読必要だという申請をした子が最終的には断られてしまっています。非常に残念な状況が出ているわけです。

もう少し、実際にはまだ手が届いていないけど待っている子どもたちがこのようにいるんだということについて、なぜもっと広く届けなければいけないのかという辺りを、まず議論していただきたいと思います。

その点について、田中先生、いかがでしょうか?

田中● 入試からですけれども、入試というのは公平とか平等でなければいけないと言われる。そういうことも壁になっているのではと思うんです。つまり、ひょっとしたら読みの子に有利になっちゃったら平等ではなくなるんじゃないかということです。それというのは検証する必要があって、確かに平等性とか公平性は評価するときにはすごく大事です。だから、例えば同じようなテスト問題をやってみて、読みに困難のない子はデイジーでも紙ベースでも同じような成果で、だけど読みだけが苦手な子はとても大きく違うとされたら、読みのことでその子は正しく評価されていないということになります。それから理解なのか読みなのかの辺りで評価がされるといい。例えば数学の問題の答えが出せるかというのと、さっき山中さんがおっしゃっていましたけれども、読みを問うているのか、それとも思考を問いたいのかというところが、これから検証され、データとして出てきたら、平等な評価、アコモデーションとして、デイジーが認められると、私は、評価の点では思っています。現時点では、とても、読みの苦手な子どもたちに不利な評価です。

河村● ありがとうございました。パネリストの方、今の点に関して他にどうですか?

井上● 先ほど私が発表したスライドの中で、韓国と日本の佐賀県の高校の例を挙げました。日本でのフューチャー・スクールの話は最近ややトーンダウンしていますが、二千何年かわかりませんが、すべての児童にデジタル教科書を導入するとしています。韓国では2015年までにとしています。そのときには、みんなデジタル教科書を使うわけです。どういうものになるかわかりませんが、例えばEPUBで作ったもので、アクセシブルにきちんとしたデジタル教科書であれば、読みに困難のある子が「発見される、されない」という話は基本的に問題にならなくなるはず。逆にそうならなければいけない。

韓国のいろいろな情報が入ってくるのですが、いろいろ気になることがあります。私も個人的に何回か、セミナーや大学の研究会などに入り込んでいろいろ話を聞いてみました。あちらの専門家、韓国の大学の先生に、読みの困難な子ども達に関して、日本の事情と併せて韓国の事情を聞いたのですが、「そうなのですか」と言われたのです。ですからあちらではあまり進んでないのかも知れない。韓国では確かに点字教科書や全盲の方への支援研究はされているようです。しかし発達障害やその他で読みに困難のある方については、私自身ハングル語も読めませんので、情報が少ないので良くわからないのです。

佐賀県の高校については2013年度までに配布ということです。実は来週佐賀県の先生にお会いすることになっており、詳しい話を聞いてみたいと思っています。新聞記事では、タブレット型と書いてありますね。iPadなのかどうかわかりませんが。逆にバリアフルなデジタル教科書になるかもしれませんよね。このデジタル教科書ではコンテンツとしてどういう作りにするつもりなのか。恐らく、今年は多くの人が佐賀県詣になるのでしょうか、先進県ということになるのでしょう。こういうアクセシビリティの問題をきちんとクリアして進めているのかどうか知りたいですね。私としては、当然それをやっていると思いたいのですが。

入試については私も高校で教えていますし、知り合いに盲学校で教えている者がおりますので、いろいろ聞いています。非常に大変です。例えば弱視のお子さんにはフォントサイズなど、一人ひとりの見え方にあわせて入試問題を作ります。

そういうことは当然、配慮しなければならないことです。要するに入試問題そのものにアクセス出来ない状態にしていて、何点取れたからという話にはなりませんので。公平性を担保する必要があると言われても、きちんとアクセスの条件がそろった段階でやっと公平になるわけです。アクセスができてからはじめて公平かどうかという話が始まると思います。その辺はしっかりやるべきだと思っています。

高校入試では、教育委員会からの指示で「配慮しなさい」という項目があるのです。しかし、ほとんどは、例えば車いすで受験する生徒がトイレを使えるようにとか、そういう配慮が大部分なのです。読み書きに困難な生徒の配慮はない。今までのところ申し出がないので、なかなかこちらから働きかけも出来ないですが。

河村● ありがとうございました。他のパネリストの方、ご意見どうですか?

野口● 大学入試に関してですけれども、私の勤務校で、ディスレクシアの生徒の受験にどう配慮しましょうということが話し合われたことはないように思います。受験に際して申し出があるのも、視覚障害など身体障害の人です。

先ほどの話の中で大学におけるDAISY教科書に触れましたけれども、大学の授業における障害学生支援というのも基本的に身体障害の人中心なんです。おそらく他の大学もそうだと思います。発達障害の学生に対する支援というのは、まだ多くの教員が意識していないですし、そういった学生は授業をしていると必ず気になる学生っているんですけれども、支援をしなきゃいけないという意識にまでまだ高まっていないというのがおそらく現状だろうと思います。

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私の大学の場合、基本的に学生自身が申し出ない限り、障害学生支援の対象にはならないんです。つまり、教員側が気づいても、高校までと違って大学というのは教員の側から何か支援しようというのはなかなかしにくい環境にある。それはもちろん変えていかないといけないけれど、現状はそういう状況です。

神山● 入試問題については二つ問題があると思います。一つは入試問題の作成技術。先ほど点字の試験問題という話がありましたけれども、悪平等なんですよね。真に公平性を保つために問題も必要に応じて変えていくということも必要なんですけれども、学習障害についてはまだ議論が進んでいない。これが一つです。読みの問題があるのに音声で聞こえたらおかしいじゃないかという。その議論すること自体がおかしな話で、悪平等の否定をしてもしようがない話です。公平な試験をするためにはどうするべきなのかという議論が必要です。もう一つの問題として試験に至るまでの学校教育ですね。学校教育はまだ紙の教科書をベースとして教えています。これからDAISYを導入しましょう、ひょっとしたら一斉授業で使えるようになるかもしれない、そういう段階ですので、そちらの議論を深めてから、試験問題の問題を解決できるんだろうと思うんですが、そこを通り越していきなり試験問題から始めるから状況が見えてこないんじゃないかなと思います。

河村● 今、文科省に合理的配慮に関するワーキンググループというものが、特別支援教育に関してはあるんです。そこでは普段の試験と入試について議論しています。普段の授業の中でアクセスが保障されていないことについて試験を行う場合は、配慮しないといけないと言っています。例えば視覚障害で漢字を見ることができない子どもに対して、漢字を目で見ることによって初めて回答可能な問題を課すというのは不適切であり、それを漢字の学習をするのであれば、普段から文脈の中でどういう漢字だというふうに教えているとすれば、それを問うという違う形にする。形式的に全く同じものを問えばそれが平等だというのではないというのが、視覚障害のケースでは積み重ねられていると思うんです。ところが読みの障害というのは、まだまだ学校現場では知られていないということが一つ問題なんじゃないでしょうか。

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それからもう一つ言えるのは、高校入試は中学でやっていた配慮を参考にして配慮するんだと言いながら、今回の奈良のケースは、中学でやっているのに高校の教育委員会は、それを否定したわけです。それは中学でやっている配慮を否定しているということになるのではないかと思うんです。ではどうすればよかったのかというふうに、逆に私は否定した高校の方の教育委員会の見識を疑ってしまうんです。ただもう一方で、お母さん方と話していると、あまり無理に入ったとしても、今度は無理無理入ってこられたと学校の方が思っていると、何されるかわからないという不安もあるわけです。しようがないから世論に押されて入試だけは配慮したけど、その後、本気で配慮をやってくれるのかという心配も当然あると思うんです。

昔、大学でよくあったのが、盲学校の先生が点字受験を泊まり込みで支援して点訳したりするわけですけれども、そうやってバックアップして点字受験を実現しているわけですが、その時に「入った後、何もしないけどいいですか?」と大学が聞いていることが結構あったんです。私が大学にいる頃ですけれども。あちこちの学生から、こそっと悲鳴が聞こえてきたんです。入った後、何もしてくれないんで、とにかく困っている、何とかならないかと。なぜそうなっているかと聞くと、「入試の時の約束なんで」と言う。「それがあるので表沙汰にできない」という大学生が現実にいました。

今はそんなことがないことを期待していますが、やはり本人や家族としては、事を荒立てて、何とか入っても、その後ちゃんと教育が保障されるのかという部分も非常に重要な考慮の要素になるのかなと思います。ですから非常に根が深い問題だと思います。

今まで、優れた実践があるんですけれども、それ以外にも本当に必要とする子たちがものすごくたくさんいるんだということを私たちは想像するんですが、なかなか数では、文科省なんかは、「何人いるんだ、エビデンスを出せ」とか言ってくるわけです。だけど、そういう子どもたちが診断を適切に受けるチャンスはなかなかないわけですし、診断を受けられるところがあったとしても、受けるまでに何年もかかるというケースすらあるわけです。ですから、そういう効果があるんだということを私たちは確認ができたと思うんですけども、もう一つそれを広げていく為には、もうちょっと越えなきゃならない社会的な壁と言いますか、社会全体が認識をする、そこをもう少しキャンペーンなどをやって高めていかないといけないと思うのですが、その辺りの進め方について。私たちはただ教科書を作って届ければいいということではなくて、もうちょっと別のこともやらなきゃいけない。環境づくりもやらなきゃいけない。そのことについて意見をもう少しいただきたいと思いますがどうでしょう? 会場の方も、何かご意見をいただけたら。

赤瀬● 読みについてのスクリーニングってすごく難しいと思うのです。ただ私は1年生、2年生、今年度の秋11月頃にあったのは、1年生と2年生の読み書きテストをしました。うちの学校は4クラス、1年生の音韻性の者、聴写、2年生も同じ、カタカナ、ひらがな、漢字の聴写と、そして書き写し、文章のものを2回書き写す。それは高槻市のを土台にやっているんですけれども、読み書きテストをしました。やっぱりそのときに独特な書き方をするのです。読み書き障害の子というのは。だからそれがある子については何人か面談をしたり、その後、検査に結びつけたりしています。

すごく大事だなと思うのは、1年、2年というのは非常に読みの方は見つかりにくいのです。むしろ保護者の方が気がつきます。低学年では、行間も分かち書きになってるし、文そのもの少ないです。例えば何回も何回も、家で10回とか20回とか練習していたら、耳で覚えていて学校の中では結構それなりに読めます。だから意外と担任の先生は気がつかないのです。むしろ保護者の方がよく気がつく。なんでこんなに読めないのかとか、なんでこんなに嫌がるんだろうとか。なかなか学校の中で1、2年のときに見つけるのは難しいと思います。

でも書きの方は一斉にスクリーニングしたときに独特の書き方をしている子どもがいるようにおもいます。漢字になったときには、ADHDの特性からの書きの問題と、ディスレクシアの問題なのかは、詳しく検査しないとわからないとは思うのですが、1、2年のひらがな、カタカナというのは結構、わかりやすいかなと思うんです。そういう意味で、スクリーニングは全員を対象にやる問題ですから全然問題ないので、そういうことも各学校で広げていけたらと思うんです。そして早く見つけてやる。担任が早く見つけてやることが今後、いろんな支援につなげることで大事かなと思っています。

河村● 今、ご発言いただいたのは赤瀬先生でした。もう少しいかがですか? 会場からでも、パネリストの方からでも。

西澤● 青森の西澤です。学級全員に取り組むのはとても大事な視点だと思います。一斉授業の一つの手立てとして考えて学級に入っているので取り組みやすいと思います。学級の全員の児童にスクリーニングをやるというのもすごく大事かなと思っています。通級指導教室というのは各地域にあるので、通級指導教室の先生がDAISY教科書にすごく理解を示すような取り組みが進んでいけば、その地域に普及していくと思います。通級しているLDの子どもへのDAISYを使った指導が契機になって、DAISYが通常の学級の指導にも影響を及ぼしていくのではないかと私は思っています。

河村● ありがとうございました。さっき私が引用したものの出典をはっきり言わなかったんですけれども、今見つけましたので言います。文部科学省が今年の1月13日に合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ報告案というのを発表しました。このワーキンググループの親はやたら長くて、中央教育審議会初等中等教育分科会特別支援教育の在り方に関する特別委員会。それが親です。この1月13日のものというのはかなり画期的な内容を含んでおりまして、その中に大きく言われている一つが、合理的配慮の観点1「教育内容・方法」というのがあります。ここだけぜひ皆さん、読んでいただきたいと思うんですが、教育内容と教育方法について、それぞれ合理的配慮はこうあるべきではないかという案を示しています。その中の教育方法のところが、「情報コミュニケーション及び教材の配慮」となっています。それが一番目のテーマです。その中に教材が「ICT及び補助用具を含む」まで書いてあります。

それから二番目が「学習の機会や体験の確保」となっています。ここに入学試験と他の試験というのが出てきます。ちょっと読み上げますと、「学習機会が確保できないことや、体験不足のために理解が困難であることに対し、学習機会や体験を確保する。また、障害の状態により、実施が困難な学習活動についての活動内容・方法を工夫するとともに、感覚と体験を総合的に活用できる学習活動を通じて概念形成を促進する。また、入学試験やその他の試験において配慮する」と、明確に書いてあります。

学習機会や体験が確保できない子どもについては、入試とその他の試験を配慮することは、この中では明確にうたわれているんですね。実は合理的配慮のワーキンググループというのは国連障害者権利条約を批准するための日本の教育を国際水準に持っていかなければならない。そのときに合理的配慮をきちんとやっていかないと批准できないので、そのための整備だということが、このワーキンググループ設置のときにうたわれているんです。それが出ていながら、1月13日にこれだけはっきりした案が文科省のとりまとめ案として出ていながら、奈良県の教育委員会が入試の配慮を拒否したことは、私には非常にショックなんです。なぜそんなことが起こるのかと。

他のご意見、いかがですか? もう少し社会的な認知を上げていくにはどうしたらいいかということだったんですけれど、他に特にご意見がなければ、次に、どうやって提供を増やすのかに進みたいんですがよろしいですか?

では、どうやって提供を増やすのか。そこに論点を持っていきたいと思います。ご意見を求めます。どなたか。さっき、時間が足りなくて神山さん、言い足りなかったことがあるんじゃないですか? いいですか? 野村さんはどうですか? その質問もちょうど関わっていると思いますので。

野村● この方の意見は、「来年度の授業としてDAISY教科書作成者の養成講座の開催を予定しております」ということで、「以前よりDAISY製作者が不足しているということをお聞きしているため、ぜひ取り組んでいきたいと思っています。一般のNPOでこのような講座を開くことは可能でしょうか」ということなんですが。可能です。私どもがこういうことをしてはいけないという理由も逆に言うと何もないわけです。ですからそれぞれが養成講座を開催して、それがボランティアの普及につながっていくのではないかなと思います。

例えば、私どものネットワークに参加する際には、既にDAISY製作ができるということで参加していただきます。最初にチェックをさせていただいて、それでOKであればネットワークに参加していただいております。また、ネットワーク参加のための養成講座は、時間もないので開催はしていませんけれども、研修の依頼というのは受けてはおります。

DAISY製作者を育てることも必要ではありますが、私が講演の際に申し上げましたのは、やはりボランティアだけでやっていく仕事ではないと考えます。国がやはり合理的配慮として、あるいはそういう子たちの教育の支援の保障という観点から、国が担うべき仕事だと思うのですけれども、そのようになるのには時間がかかりそうなので、例えば地方自治体からそういうモデルができればいいなというふうに思っております。

山口県は、この前お聞きしたところ、特別支援教育関係者400人に対してDAISYの研修をすると言っています。それから兵庫県の場合ですと、教育委員会だと思うんですけど予算を立て、DAISY図書を買っていただけるということがございました。このようなことを考えると、地方自治体というところからのアプローチもあっていいのではないかと思います。私は、企業であるとか公共図書館、教育委員会、それから学校図書館、そういう人たちがみんなでやれることをやっていただくというのが、広めていくということになるかと思っています。DAISYの研修会などでたくさんの方にお会いしておりますが、最初に「DAISYを知っていますか?」と言いますと、ほとんどが、「知りません」とおっしゃるんですね。まだそういう状態ではあります。そういうところからの普及の突破口として、例えば地方自治体もあり得るのではないかと思います。

河村● ありがとうございました。では、供給を増やす、どんどん作って提供するということについてもう少し意見を求めたいと思います。いかがですか?

さっき神山さんからご提案があって、工夫されているのは、ボランティアが製作するというのが前提なんですが、例えばNPOでも会社でもいいのですけど受注して仕事として作るということを教科書全部について展望を作っていくという、その辺りについてのご意見はありませんか?やってみたいんだけどここで壁に当たっているなどありましたら、今、議論するいいチャンスだと思います。

今、私のところにゆうべ夜遅くに来た相談が一つありまして、2月16日に締め切りということで、ある県で産業振興の助成金が単年度で出るというんです。各都道府県にどうもそういうのがあるらしいんです。そこでは4つありまして、戦略的産業育成事業、あと関係ありそうなのは地域産業技術活性化・高度化支援事業、人材育成事業なんていうのがあるんですね。例えばいわゆる学力試験でどこかの府知事が言っていたようにわが自治体は非常に低い、何とか上げるんだという目標を立てるとすれば、特別支援教育を充実させるというのは、確実に平均は上がるわけです。例えばそれが本人の教育機会にもなるし、もし、これからEPUBが出てくる、新しい技術で教科書を作る技術を開発して、そこで雇用を増やすということも展望して、ある県で、うちは30タイトル引き受ける。そのためにこういう助成金を提供する、と。よその県で残りを分担してやってくれというようなのが、いくつかの自治体が連合を組めば、小中の合計440タイトルなんてすぐいっちゃうんじゃないかと思うんですよね。全国の自治体は1,700もあるわけです。だから4分の1が1タイトルずつやればカバーできるはずなので。文科省が全部を出すと決める前に、自治体が努力することによってかなりの部分をカバーできる余地があると私は思っています。この2月16日に間に合うように提案書を一つ書いてあげようかなと思ってるんですが。もし、うまく助成金が下りそうでしたら皆さんにお伝えして、みんなで仕事としてやる取り組みをぜひしたいと思いますので、その節はよろしくお願いしたいと思います。

井上● 佐賀県にこだわるつもりはないのですが、この新聞記事を読む限りは、県立高校の新入生全員にタブレット端末を配ると書いてあります。ただ、コンテンツがどうなっているかは書いてないです。端末だけ配ってもただの箱ですから、当然コンテンツが必要になるので、先ほどから話題になっているEPUB形式のフォーマットのものを使っていくのがよいのかなと思いました。私は高校生を日頃授業で教えていますが、先ほど一太郎の話などありましたが、気の利いた高校生ですと自分でもEPUBを作れるようになるでしょう。やってみなければわかりませんが。高校の授業では実際にはHTMLとかCSS、スタイルシートなどのまねごとをやっています。実際のところ、神戸の方ではそういう青年たちがちらほら出ているような話も聞いていますが、どうなのでしょう。

河村● ちょうど今、神戸という話が出ました。山中さん、まだパネルになってからご意見をいただいていないんですが、どうでしょうか?

山中● 私が所属する親の会に、中学の時代まではDAISY教科書を提供してもらっていたけれども、高校に進学してからなくなって困っているというお子さんがいらっしゃいます。そのお子さんのために何かできないかなと考えまして、たまたま前年度に河村さんたちの仕事プロジェクト、DAISYを作ろうというプロジェクトに参加した青年たちがいましたので、その青年たちに、君たちは後輩たちを助けられるかもしれないと声をかけて、全員ではないんですけども、数名残った子どもたちに手分けをして高校の教科書を作ってもらっています。全部は作れないので本人の希望で何が欲しいということを聞きましたら、物理、数学、国語、社会と名前を挙げまして、数学はライトハウスさんにお願いをして作ってもらうことになりました。国語、世界史、物理は私たちで作ろうということで作り始めたんですが、PDFが全部そろったのが秋でした。まず子どもがいて、提供しようというグループがいたとしても、PDFを申請しても来ないというのが、去年、大きなことでした。結構たくさんのタイトルを申し込みをしました。ちょうど震災の数日前で、時も悪かったのかもしれないんですけれども。1ヶ月以内に来たのは1タイトル。あとはまばらに来ました。最終的に一番欲しかった国語が来たのは10月ぐらいだったと思います。これでは、欲しいという子どもがいて提供しようというグループがあっても、実質、提供できない状態があります。まずそこが問題点だと思います。

あとは子どもたちの力だけではやはり難しい部分もあるんです。高校卒業したての子どもから24歳くらいまでの子どもで作っているんですけれども、やはり大人の目、もしくはちゃんと技術のある人の目で見ないと、直すこともままならなかったりもします。例えば1週間に1回必ず見てあげるよという環境がそろっていないと、次に会うときには忘れていたりとか、彼らの特性でもあるので、そういうところをサポートしながら作っていくというのは、もしPDFがそろっていたとしても、かなり大変なことではあるかなと思います。

河村● ありがとうございました。1冊をきちんと全部作るのはものすごい持続力も要るし労力も要るし技術も要る、大変な作業だと思うんです。

そろそろ時間で締めなくてはいけないのですけど、お一人ずつ、締めの言葉をいただきたいと思います。

神山● 今、お話をずっと伺っていて、今までやってきたことと違うアプローチの仕方があるなと感じました。一つは、今まで養成をしながら、例えば青森市の方に1,500人いるわけですね、青森の人口から考えると。人材を育てるのが大切と言っているわけですけれども、ただ言うだけじゃダメだなと思いました。その一方で図書館のスタッフ等には協力を惜しまないと言っていますが、なかなか動かない。だけど予算がつくような方向に動いていかないといけないんだろうなと、今、反省を込めて感じました。

野口● DAISYを普及させる、DAISY教科書も図書もそうですが、普及させるといったときに、学校の先生方の多くはまだ読むということイコール紙のものを使うということにすごくこだわっている方が多いように感じるんです。デジタルメディアも読むというところにうまく結びつけていかないと、言い換えれば意識の変革をしていかないと、DAISY普及の壁になってしまうのかなと、いくつかの学校を見せていただいたりしながら感じたりしています。

先ほどの私の話の中で一つ、今日のプリントの中にありますが、DAISYライブラリーというのをリハ協が始めたということで、連携のところで話をしようと思って忘れてしまいました。多分、皆さんのお手元に入っていると思います。ぜひご覧ください。

田中● 今日のお話をいろいろ伺っていて、DAISYは一つの学力向上に役立ちますよ、というのが要るのかなと思うんです。読み障害だけみたいに言っているとなかなか広まらないところもあるので、「学力向上ですよ」、あるいは「生きる力を育みますよ」というところが要ると思います。DAISYをみんなに見せる場面も必要です。例えばメガネの必要な子がメガネをかけて本を読んだり授業を聞いても誰も文句を言わない、マルチメディアDAISYを見て、そっちが役に立つなら、それで読む子はそれがいいんじゃない? という意識感覚みたいなものもすごく大事だと思います。それが平等だという感覚を子どもたちに育てたり、周りの教師がそう思うことが大事だと思うんです。

今日の西澤先生の中で、DAISYは役に立たなかった子もいました。それでいいんだと思います。自分が生きるために、生涯教育を自分で構成したとき、何が要って何が要らないか、要るものをちゃんと選択する力は大切です。周りも、選択されたものはその人にとって大事なものだと認める感覚ってすごく大事だなと思います。

今、個の教育と言われていますが、孤独の教育ではなく、個別ではありますが双方の教育、すなわち伝え合う力が言われています。マルチメディアDAISYで基礎と基盤を培う、そしてそういう力があるので自尊感情が下がらない、この二つをそろえて、読みにしんどい子どもたちが、持っている豊かな力を発揮してほしい、いろんなことをいきいき学んでいってほしいと思います。いろんな場面で私たちがデイジー教科書を伝えていくことが大事ですね。

また、まだまだ環境整備ができていないこともあると思います。でも、今、パソコンや携帯電話を持っていない人は本当に少なくなりました。そういった意味ではツールみたいなのはどんどん出てくるので、私も勉強して、それをうまく使えることをあちこちで考えたり、伝えたりしていかなければいけないなと思っています。

井上● 私は最近はSNSで情報交換しています。そういうものを活用して、私は「トモダチ作戦」と勝手につけましたが、おじゃま虫と思われても、いろんなところにネットワーク上で割り込んでいく。中には拒否される方もいますけれども。でも大分、お友達が増えました。別に皆さんにもやりなさいということでもないですが。

その議論の中でよくあるのは、やはりデバイス志向なのですね。アップルのこういうものが出たとか、何とかが出たとか。確かにそれはそれで良いのですが、「ちょっと忘れてはいませんか」と言いたいわけです。いくら良いデバイスができても、中身に詰めるものは何ですかと。そうすると、また「また標準フォーマットのことでしょ?」と言われるのです。でもそれを今きちんと考えておかないといけない。大事な時期だと思いますので、ここでこっちの道を行くのかあっちの道を行くのか、道を間違えると大回りをすることになると思います。いろんな機会をとらえて、おじゃま虫と思われても、いろいろなところへ顔を出そうと思っています。以上です。

河村● ありがとうございました。今、井上さんはおじゃま虫とおっしゃったんですが、国際的に見ると、EPUBっていうのは、まさに最先端のデジタル出版の技術です。これから世界の主要な企業がこの技術を自分のものにしようと先を争って採用し、そこに勝った企業が次に生き抜くんだろうというふうに言われているんです。その最先端の技術というのは、実は先ほど申し上げたように、障害のある人のニーズに応える技術開発の中から出ているんですね。そういう意味で、おじゃま虫どころか、やっぱり引っ張っているんですね。

これからの社会というのは超高齢化社会ですよね。超高齢化社会の一人ひとりのニーズが社会のあり方を決め、方向づけ、引っ張っていく。そういうふうにしていかないと、社会そのものは成り立たないということだと思うんです。

本当に金の卵の若い子どもたち一人ひとりの教育機会をきちんと保障して、社会参加して自立していくために、メガネのようにずっと必要なものがあれば、それを早い段階から使いこなせるようにしていくというのが本来の教育の姿だと思います。その中から、ゆっくりではあれ、自分で読む能力を獲得する子どももいるでしょうし、ずっとメガネが必要な子どももいるんだと思うんです。必要があるときには、社会的なシステムとして支援する。それを支えるためにDAISYはメインストリーム化して、出版や図書館のあり方そのものを根本からユニバーサルデザインに変えていこうということをやって、今、それは一歩次の段階にEPUBという形でいこうとしているわけです。

やはり今、私たちはボランティアとして支えることもすごく大事で、明日のニーズに応えるにはそれは欠かすことはできないんですけど、もう一方は、全部の教科書をそれで支えきるなんてことはとてもできないのはわかりきっていることですよね。ですから同時に、社会全体の認識を高めていって、国、自治体、それぞれが果たすべき責任を果たすということについても積極的に取り組んでいく。そのための私たちの実践に基づいた証拠が、今日、たくさんすぐれた実践の中から確認できたし、それからまだまだ出会っていない子どもたちがたくさんいるんじゃないかということも確認できたのではないかと思います。

パネルディスカッションとしては、あまりたくさん発言がなかったということは、逆に、皆の認識がそういうふうに煮詰まってきたからなのかなというふうに思いました。やはり次は行動があるのではないかと思います。

これをもちましてパネルディスカッションを閉じさせていただきたいと思います。ご協力どうもありがとうございました。