DAISYの夢に参加するべきだということはわかっていた
-スペイン国立盲人協会(ONCE)の情報アクセスへの取組み-
DAISYコンソーシアム15周年シリーズ
2011年5月
出典:DAISY Consortium
http://www.daisy.org/
ONCE: We Knew We Had to be Part of the DAISY Dream
http://www.daisy.org/planet-2011-05#a1
1938年の設立以来、スペイン国立盲人協会(ONCE)は幅広いサービスを提供し続けてきた。現在ONCEは、スペインの全盲および弱視の人々7万人以上を支援している。これにはONCEくじという独自の資金調達システムが利用されている。ONCEとONCE財団およびFOAL(ONCEラテンアメリカ財団)が、全盲および弱視の会員全員に質の高いサービスを提供し、115,000人以上(そのうち80%以上は障害のある人々)に職を提供できるのは、毎年このくじを数百万枚販売しているからである。ONCEが提供するサービスは、リハビリテーション、歩行訓練、高齢者支援、心理社会的支援、盲導犬の訓練と供給から、教育、就職、スポーツおよび情報アクセスにいたるまで、広範囲にわたっている。
録音図書
アクセシブルなフォーマットによる図書の制作・配布制度をONCEが最初に設立したのは、「情報へのアクセス」という枠組みの中でのことだった。1960年代、最初の録音図書が広範な点字図書の蔵書(その一部は19世紀末期にまでさかのぼる)に追加された。最初の録音図書は1966年に録音されたが、それは『ドン・キホーテ』の冒険以外の何物でもなかった。このユニバーサル仕様の図書に続き、さらに20,000タイトルが数年間かけて制作され、現時点でこれらの録音図書のうち18,700タイトルが、DAISY図書としてデジタルフォーマットで利用可能となっている。点字への愛着が衰えることはなかったが、「録音図書」は急速にONCE会員のお気に入りの読書方法となったのである。
ONCEは、のちの1996年にDAISYコンソーシアムへと発展する団体を設立したいと考えたTPB(スウェーデン国立録音点字図書館)が最初に連絡を取った、全盲および弱視の人々にサービスを提供している機関の一つであった。ONCEはこの夢に最初から参加し、これを実現させた6つの図書館・機関の一つとして数えられることを、光栄に、また誇りに思ってやまない。
その夢とは、数ある中でも特に、カセットテープで配布されていたアナログ録音を、一枚のCDに収められる構造化されたデジタル録音に差し替えるというものであった。DAISY発案の「父」であるラース・ソネボ(Lars Sonnebo)の言葉であったと思うが、全盲の人にとって、テープに録音された図書を読むことは、目が見える人にトイレットペーパーに印刷された本を与えるようなものなのだ。目が見える読者が、印刷された図書をざっと読んだり、あちこち拾い読みしたりするのと同じようにユーザーがナビゲートできるデジタル録音図書を見せられたとき、ONCEはその夢の一端を担わなければならないと悟ったのである。そのシステムの美しさと、現在では廃れてしまったカセットテープの未来に対する現実的な不安の高まりがあいまって、決断はきわめて容易に下された。
DAISYへの移行
ONCEのアナログ蔵書をDAISY図書へと変換することは、他の多くの図書館同様、DAISYに対する初めての大きな挑戦であった。作業は2003年に開始されたが、既存の16,000タイトルをデジタル化する作業は、胸が躍るとともに恐ろしくもあった。現在、それらのタイトルのほとんどすべてがデジタル化されているだけでなく、DAISY化されている。1年後の2004年には、DAISY図書の制作が本当の意味で始まった。それ以来、新たなタイトルの制作と、愛着のある古い録音図書の「新型図書」への変換とを調整しつつ進めていく試みが続けられている。昨年、ONCEのDAISY図書の蔵書は、新たに2,500タイトル以上増加したが、そのうちアナログのアーカイブから変換されたものの割合はごく少ない。
アナログフォーマットによる新たな録音図書の制作は、最初のDAISYマスター版が制作されてから間もなく中止された。以来、ONCEの制作センターおよび制作ユニットから送られてくる録音図書はすべて、DAISY規格に完全に準拠した図書である。これまでONCEは、音声のみの構造化されたDAISY図書(DAISY2.02仕様に準拠)を肉声で制作してきた。しかし、フルテキストを入れて、音声と同期させたり合成音声を使用した図書の制作に利用したりすることが、最終的な試験段階に入っている。
DAISY図書の制作へとつながる作業に携わる者は皆、この新技術がいかにはかり知れない飛躍的進歩であるかを知っていた。音質の明らかな改善、4トラックのカセットテープ8本または10本分を一枚のCDに「圧縮」できる可能性、キーを2,3個押すだけで特定のページへと移動できる「魔法」、誰でも理解でき、ナビゲートできるわかりやすい構造…私たちは皆、それがユーザーにとって何を意味するかを理解していた。しかし、これらの変化すべてに、ユーザーはどのように反応するだろうか?
ONCEのユーザー
ONCEの会員の反応は絶大であった。この新技術(この「新たな読書方法」)への関心は、私たちの最も楽観的な予想を明らかに超えていた。何年もONCEの本を読んでいなかった図書館利用者さえもが、突然、熱心な読者と化した。こうして、ONCE図書館サービスの「アクティブユーザー」の数は、2,3年で2倍に増えたのである。
DAISYを試したら、もう後戻りできない
ONCEのDAISY図書はリクエストに応じてCDに焼き増しされ、既存の郵便サービスを利用して会員に送付された。それまでのアナログテープとは異なり、CDに保存されたこれらの新しい図書は、図書館に返却する必要はなかった。しかし、2004年から2007年までは移行期間とされた。その間ONCEのユーザーは、図書の制作方法に関係なく、テープかCDのいずれかで図書を借りることができた。しかし、たった一冊のDAISYで、ユーザーは古き良きテープのことなど即座に忘れてしまう。それはDAISYがいかに優れているかを語っている。一度試したら、もう後戻りできないのだ。
アナログによるサービスを、新しいDAISY図書に徐々に差し替えていく計画は円滑に進み、2008年末日をもって、アナログ音声による新タイトルの制作は中止された。2009年度中には、テープに録音された図書の配布も中止され、2010年末日をもってアナログ音声によるサービスは存在しなくなった。実際には、もうほとんど誰もアナログサービスを利用してはいなかった!
DAISYオンライン配信
ONCEの4,000人近いDAISYユーザーは、毎月およそ14,000冊の図書を読む。そのうちCDで配布されているのはわずか4,000冊だ。2006年3月に立ち上げられたONCEのデジタル図書館はたちまち成功を収め、おそらくONCEの(これまでの)短いDAISYの歴史の中で最大の成果を上げたといえよう。このサービスを通じて、有効なユーザーネームとパスワードを持つONCEの会員は、DAISY目録にアクセスし、バーチャル本棚を閲覧し、読みたい本をダウンロードできる。本はそれぞれ1個のZIPファイルとして配信され、ユーザーはそれを開き、好みのDAISY読み上げ機器を使用して楽しむことができる。ダウンロード件数は2006年以降増え続けている。2007年には40,000件、2008年には65,000件、2009年には94,000件近くの図書が、ユーザーによってダウンロードされ、2010年には120,000件のダウンロードをONCEのサーバーが記録した。これはサービスを開始した最初の年の年間ダウンロード件数の3倍である。そして今年、2011年の最初の3か月間で、41,000件以上のDAISY図書がオンラインデジタル図書館を通じて配信されており、新たな記録が達成されると思われる。
新しいデジタル配信システムを考案する際のおもな懸念の一つは、ONCEの会員の43%が65歳以上であるという事実であった。彼らがこのようなサービスをどの程度有用と考えるか、そして彼らがZIPファイルやダウンロード、ウェブ検索などにどの程度対処できるのか、正直なところよくわからなかった。しかし3年半後の2010年には、オンラインで提供されている120,000件の図書のうち、23%が51歳から60歳のユーザーによってダウンロードされ、25%が41歳から50歳のユーザーの手にわたっていた。実は、ONCEがもともと「ターゲットグループ」としていた人々(21歳から30歳までのユーザー)は、図書をダウンロードしている人々のわずか7%を占めているにすぎない。
すべての人々のための標準規格
DAISY図書の構造に固有の利便性とともに、完全に相互貸借可能な図書の制作に世界各地の機関が利用できる独自の標準規格の開発が、DAISYの概念のおもな利点の一つであったことは間違いない。私たちは、スペイン語が(中国語に次いで)世界で2番目に多く母国語として話されており、4億人近くのネイティブスピーカーがいることを忘れてはならない。DAISY標準規格は、FOAL(ラテンアメリカの全盲および弱視の人々を支援するために設立された財団)を通じて、新たな協力の世界を広げるであろう。ONCEはDAISY図書の蔵書のデジタルコピーを、他のスペイン語圏の国々の会員機関や個人会員と共有できるようになるだろう。また同様に、ラテンアメリカで制作されたスペイン語によるDAISY図書へ、ONCEからアクセスできるようになるだろう。現在ONCEは世界盲人連合(WBU)とともに、この夢の実現に必要な法的枠組みの設立に取り組んでいる。
これは、国際協力とアクセシブルな情報の共有という、DAISYが当初から掲げていた夢の重要な一部分であり、だからこそ、DAISYのアウトラインロゴは地球の形の中に描かれているのである。