浦河べてるの家のDAISY版避難マニュアルを活用した防災活動
-DAISYミーティング(2008年12月3日)の記録より-
川端俊(浦河べてるの家 DAISYチーム)
べてるではDAISYを防災活動の避難マニュアルづくりで活用しています。
ここでは、今までの取り組みとDAISY活用方法、今後の活用の展望について報告します。
べてるの家ではなぜ防災活動に取り組んでいるのか?
浦河べてるの家は、主に精神障がいを抱えている10代から70歳代までの100人以上の当事者たちの活動拠点です。
幻覚や妄想を語り合う「幻覚&妄想大会」、当事者が自分自身の経験を仲間とともに研究という視点からアプローチする「当事者研究」等の世界の精神医療の最先端の試みが、精神障害者福祉の分野で広く注目を集めています。
べてるの家がある北海道襟裳岬の近くの小さな町、浦河町(人口1万5千人)は、全国でも有数の地震地帯で、平成18年、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域の指定を受け、また500年間隔地震、浦河沖・十勝沖・三陸沖北等で発生する地震にともなう津波対策の必要性が改めて確認された地域です。
平成15年の十勝沖地震以降、べてるではこうした地域で障害者が安心して暮らすための防災の取り組みを進めてきました。
特に平成16年度以降は津波対策に重点をおき、町行政および国立障害者リハビリテーションセンター(以下、国リハ)と共に精神障がい者の防災に関するプロジェクトを行い、平成18年度は授産施設および共同住居からの避難マニュアルの作成とそれを用いた避難訓練を実施しました。
平成19年度は、厚生労働省から「平成19年度障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)」として認定され、国庫補助を受けました。
浦河町は地震が多い町でいつ津波が来てもおかしくない地域です。今までは運が良くまだ被害に遭ったことはありません。浦河町で予想される津波は地震発生から4分以内に10メートルの高さまでと言われています。
浦河町には障がい者や高齢者など要援護者が多く生活しています。べてるの家ではSST(生活技能訓練)や当事者研究と同じように練習を重ねることによって大きな被害から逃れられると考えています。
H20年度の取り組み
- より過酷な状況(夜間・悪天候など)での避難訓練
DAISYチームでは以前作った避難マニュアルのDAISYの写真などを差し替えて各グループホームや共同住居で避難訓練を実施しました。これまでの避難訓練は日中に行っていました。H20年度の取り組みでは何時起こるか分からない災害に備え、より過酷な状況を想定して避難訓練を実施しました。 - 3障がい(知的・身体・精神障がい)施設の垣根を越えての防災活動の取り組み
- 地域と共に防災活動(べてるの家・向陽園・自治会・浦河町との連携)
- 仕事マニュアル作り(発送・うどん・オリエンテーション・清掃チーム)
- べてるのHPに掲載されてるニュースをDAISY化
- 当事者研究をDAISY化
防災活動以外のDAISY活用法
当事者研究編
毎年6月に行われるべてるまつりに合わせて浦河町にある老舗映画館大黒座では「安心して発表できる浦河楽会」という町民向けに発表する当事者研究発表会があります。H20年度は町民の方たちも舞台に上がり研究発表しました。
町内でパン屋さんを経営している以西さんは当日ポリープの術後のため声を出すことができませんでした。そこでDAISYチームの今堀さんを中心に以西さんの研究をDAISY化することにしました。当日の発表ではパワーポイントを用いて発表する人が多い中、音声が流れる発表に聴衆の方たちは興味を示し発表に聴き入っていました。
ホームページの記事編
当事者研究発表以外での活用法は長い間入院生活をしていたメンバーの退院支援プロジェクトの様子が「べてるの家の情報サイトべてるねっと」に掲載され、本人やこれから一緒に生活を共にするメンバーに伝えるためDAISY化にしました。記事の主人公の方もDAISY化された記事を見て喜んでくれました。
仕事マニュアル編
べてるには昆布作業チーム、べてるのオリジナルグッズを作る「グッズチーム」、べてるの商品を全国に発送する「発送チーム」、べてるに見学に来たお客さんにべてるを紹介する「オリエンテーションチーム」など沢山の仕事があります。べてるのメンバーは自分の得意な仕事や自分のテーマに添った仕事を自分で選ぶことができます。その中で一番苦労が多いのが「発送チーム」です。
発送チームの仕事内容は、商品の原料の発注、お客様との注文の受付やクレーム処理の対応、梱包作業、データ入力、郵便局さんをはじめとする宅配業者さんとのやり取りなど他のチームよりも沢山の仕事があります。直接お客様と接することが多く、コミュニケーションの障がいともいえる精神障がいを抱える僕たちにとっては苦労が多いチームです。最近では昆布作業チームから更なるスキルアップを目指し発送チームに参加するメンバーも増えたので、仕事内容をわかりやすくマニュアル化するためにDAISYを活用することにしました。
まずはじめに発送チームとDAISYチームが合同でミーティング(以下MT)を開きました。MTでは発送チームのメンバーが発送の一連の流れと細かい作業内容を紙に書いて発表してくれました。次にDAISYチームのメンバーも発送作業でわからない事を質問をして、確認しながら文章を考えました。
最初にDAISY化したマニュアルは発送チームがどのような仕事をしているか分かるように発送作業の一連の流れをDAISYにしました。
DAISYに載せる文章を発送チームのメンバーでもある今堀さんが事前に考えてきてくれました。その内容についてみんなでMTを開いて良かった点、更に良くする点をDAISYチームで話し合いました。写真撮影も発送チームのみんなにモデルになってもらい、できるだけ多くのメンバーが登場するように工夫をしました。発送チームがどのような仕事をしているか分かる内容のDAISYができました。
細かい作業のDAISYは現在作成途中です。
なぜDAISYを使ってるの?
精神障がいを持つ人たちは幻聴さん、お客さん(頭の中のマイナス的な自動思考)に苦労していることが多く、話に集中できないことがあります。DAISYは目と耳とで情報を得ることが出来ます。二つ以上の情報があると頭の中に入りやすいためDAISYを活用しています。
実際にDAISYを活用すると口頭で説明するよりもメンバーの集中力が増し、より正確な情報を得ることが出来るとメンバーにも好評です。
DAISYを利用して良かったこと
- DAISYの仕事があってひきこもりから脱出できた。
パソコンが得意なメンバーがDAISYチームが発足したことを知り、DAISYチームに参加するようになった。その後DAISY以外の仕事にも参加できるようになった。 - 自分達で避難マニュアル作りができるようになった。
今までは国リハの方たちやべてるのスタッフの手を借りDAISYの作業をしていた。最近ではスタッフがいなくても自分達でDAISYを作成出来るようになった。 - DAISYを作るようになってから他のパソコンソフトも使えるようになった。
- DAISYを通じて普段交流のないメンバーと話す時間が増えてよかった。
- 防災以外のDAISYも作るようになって、いろんなアイデアが出て楽しみが増えた。
今後の展望
DAISYチームMTで話し合い次のような意見がメンバーから提案されました。
どんなDAISYがあったらいいか?
向陽園など地域の人たちのための防災避難マニュアル
べてるの家だけではなく、最近交流が始まった「向陽園」や地域の人たちも災害時に避難できるようにDAISYを使って避難マニュアルを作りたい。
応急処置の仕方
災害で被災した時にケガをした場合、応急処置の方法を消防署の方に習ったことはあるが覚え切れていないため応急処置の仕方をDAISYにして覚えたい。
病院などの施設利用の仕方
最近、日赤病院の受付や会計がコンピューター化して利用方法が分らない人が多いため。
浦河町の観光マップ
べてるに見学に来たお客さんが気軽に観光できるようなDAISYを作りたい。べてるメンバーオススメスポットも取り入れてオリジナル観光マップを作りたい。完成したら浦河町内の施設や観光協会にも配布して浦河町を応援したい。
現在DAISY用にべてるの行き帰りに歩いて街の様子を撮影しています。
べてるのオリエンテーション
べてるが忙しくオリエンテーションの時間が少なく充分な説明が出来ない時が時々あります。後からお客さん自身が自分で操作しながらゆっくりべてるを知ることができるようにオリエンテーションのDAISYを作りたい。
べてるの紹介の歌
べてるの紹介の歌があるから聴覚障がいを持っている人でも楽しめるように。歌詞が楽しい内容なので、べてるの日常がわかる写真も取り入れ視覚的にも楽しめるように。
当事者研究やSSTの手順
べてるで積極的に行われているプログラムの当事者研究やSSTを初めて経験する人たちにも分りやすくせつめいできたらいい。初めての人たちが実際に取り組めるような内容のDAISYを作りたい。
お料理の作り方
料理を作れない人へのお手伝いがDAISYでできたらいいと思う。
べてるのメンバーも参加しているNPO法人セルフサポートセンター浦河には「料理教え隊」というチームがあります。「料理教え隊」は共同住居しおさい荘に住むメンバーや料理を覚えたい一人暮らしをしているメンバーのための週1回行われているお料理教室です。
DAISYで作り方を作ったら面白い。
DAISYの作り方
DAISYチーム以外のメンバーもDAISYが作れるように。DAISYづくりの操作を時々忘れてしまうため。
関連サイト
- 障害者の安全で快適な生活の支援技術の開発(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)
http://www.rehab.go.jp/ri/safety/index.html - べてるの家の防災プロジェクト2008
~助け合いをキーワードにした障がい者と地域との防災対策づくり~
http://urakawa-bethel.or.jp/bousai/HOME.html