音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

デイジーを知ろう!1

そもそもデイジーって?

星野敏康

デイジーとはシステムのこと

 デイジーとは「視覚障害者が聞く録音図書のこと」だと思っていませんか? 間違いではありませんが、それではデイジーの一部分しか説明したことになりません。具体的にどんなものなのか、どのような場面で活用されているのか、意外に知られていないデイジーについて紹介しましょう。
 デイジー(DAISY)は、「Digital Accessible Information SYstem」(アクセシブルな情報システム)の略です。主に視覚障害者が利用してきた経緯はありますが、より幅広い場面で情報をアクセシブルにする「システム(規格)」として、世界50か国以上で採用されている国際標準規格です。CD-RやUSBメモリといったメディアを指す言葉ではありません。
 デイジーは国際共同開発機構デイジーコンソーシアムによって開発と維持が行なわれ、今も進化を続けています。デイジーという規格で作られた「デイジー図書」には、「音声デイジー」だけでなく、さまざまな情報を盛り込んだ「マルチメディアデイジー」もあり、普及しつつあります。
 なお、音声データのない「テキストデイジー」は、早くからテキストデータの使用が法的に認められた欧米で広く使われています。日本では、平成22年にようやく実現した著作権法の改正により、公共図書館での障害者向けコンテンツの作成のための複製が合法化されたものの、まだそれほど普及してはいません。

視覚障害者による活用

 デイジーはもともと視覚障害者の読書のために開発されました。そして今でも、多くの視覚障害者がデイジーによる読書を楽しんでいます。では、なぜ視覚障害者にそれほど歓迎されたのでしょうか。
 デイジー図書の特徴のひとつは、特別なファイル圧縮方法を用いているということです。圧縮率にもよりますが、一枚のCDに50時間以上も録音することができます。音楽CDでは何枚にもなる文章が、デイジー図書なら1枚になります。もちろん、読み上げ速度の変更も可能です。
 一方で、収録時間が長くなると、いくら再生速度を上げ、トラック数を増やしても、聞きたい部分にたどり着くのが煩雑になってしまいます。小説などとは違い、特に学術雑誌などは必要な記事の、必要な場所だけ参照する人が多いでしょう。そこで、デイジー図書にはもうひとつの便利な機能があります。それが、目次から読みたい章や節、あるいは注のような任意のページ・場所に自在に飛べるという機能です。
 点字図書館や一部の公共図書館で視覚障害者向けに貸し出されているもののほとんどが、音声に加えて目次・見出しの情報を記録した、この「音声デイジー」で、デイジー録音図書とも呼ばれています。

さまざまな障害に効果的

 表題や見出しの階層構造だけでなく、完全なテキストも収め、さらに音声とテキストをシンクロ(同期)させたものを、「マルチメディアデイジー」と呼びます。
 音声とテキストをシンクロすることで、全盲だけでなくロービジョンの人の読書環境が大きく変わりました。というのもマルチメディアデイジーでは、読み上げている部分の文字がハイライト表示され、文字の大きさや色、行間、縦書きや横書き、あるいは背景色やハイライトの色も変えることができるので、それぞれの見え方に合わせた表示を選択できるからです。キーワードによる全文検索もできますし、任意の場所にブックマーク(しおり)を挿入することも可能です。音声と文字がシンクロしているので、人名や外来語の表記の確認も容易です。
 もっとも、音声とテキストのシンクロだけでは、まだデイジーの真価を説明したことにはなりません。「マルチメディアデイジー」では音声とテキストだけでなく、図表や数式までシンクロさせ、読書に困難を感じる、より多くの人を支援できるのです。
 たとえば、ディスレクシアなどの学習障害をもつ児童生徒や、スポーツや交通事故によって脳外傷を負った人たちへの有効性が認められています。このような文字を読むことが困難な人のためには、文字だけでなく画像や音声も含んだ豊かな表現を用いることにより、知識・情報を効果的に伝えることができるからです。
 アメリカでは、教科書のアクセシビリティを高めるため、連邦法によってデイジーが積極的に採用され、幼稚園から高校までの紙媒体で印刷された教科書・教材のすべてがデイジーデータ化されています。また北欧の国々では、デイジー図書が国の予算で製作・提供されています。
 日本でも、平成27年度のデイジー教科書提供生徒数は2,932人に上りました(12月1日現在)。しかし、平成24年に文部科学省が行なった全国調査では、通常学級に通う児童生徒の2.4%が、読み書きに著しい困難を示すという結果も出ており、支援が必要な児童生徒は、決して少なくないと言えそうです。
 後述するように、デイジーを再生するソフトウェアは複数ありますが、平易な画面で操作ができるなど、知的障害者の読書にも有効です。タッチパネルやジョイスティックも使え、高齢者の読書にも役立ちます。
 デイジーを活用し、津波からの避難マニュアルを作成した事例もあります。北海道浦河町にある精神障害等を抱えた当事者の地域活動拠点「浦河べてるの家」は、国立障害者リハビリテーションセンターとNPO法人支援技術開発機構(ATDO)の協力の下、マルチメディアデイジーのマニュアルを使って避難訓練を行いました。そして、それだけではなく、訓練の経験を元に避難マニュアルをより良いものへと作り変えたのです。それぞれのグループホームから避難経路をたどる自分たちの姿を写真に収め、それをマニュアルの写真を差し替えることで、自分たち自身のマニュアルを作って使いました。これはデイジーの、再生だけでなく製作のしやすさをも活かした成功例と言えるでしょう。

デイジー図書の再生

デイジー図書の再生。読み上げている部分がハイライト表示される

デイジーを使ってみよう

 デイジー図書は、サピエ(視覚障害者情報総合ネットワーク)からダウンロードすることができます。サピエは有料の会員登録が必要ですが、数万点の音声デイジーが登録されています。
 「マルチメディアデイジー」を入手するには、公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センターの「デイジー研究センター」が運営する「エンジョイデイジー」(http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/index.html)にアクセスしてみましょう。有償・無償でダウンロードできるコンテンツが用意されているほか、デイジー図書を提供する他団体のリストも掲載されています。
 ところで、最初に書いたようにデイジーは世界共通の「規格」ですから、デイジー規格に沿ったさまざまなソフトウェアや専用機器も販売・提供されています。Windowsだけでなく、iOSやAndroidのタブレットでもデイジーを楽しめるアプリが開発されていますし、デイジー図書を製作するためのソフトウェアも公開されています。「エンジョイデイジー」では、AMIS(アミ)というマルチメディアデイジーの再生ソフトを無償でダウンロードすることができます。
 専用のハードウェアもあります。日本のメーカー、シナノケンシ株式会社では「プレクストーク」シリーズをはじめ、複数の再生機器や録音編集機器を製作販売しています。
 その他にもさまざまな機能・デザインを備えたツールがあります。どのような使い方をするにしても、まずは、ご自身でデイジーの操作性を試してみるのがいいでしょう。

デイジーの理念とは

 以上のように、自分自身にあった方法で図書を読み、理解することができるよう読書のユニバーサルデザインに向かって進歩を続けているのがデイジーです。はじめに触れたデイジーコンソーシアムでは「印刷物を読めない障害がある人々が、公表されるすべての情報を、それが一般の人々にリリースされる時点で、余計な費用を負担することなく、高い機能を豊富に備えたアクセシブルなフォーマットで利用できるようにする」というミッションのため、ユースケースに基づいたデイジーの改良や、国際団体等への働きかけを行なっています。
 デイジーとコンソーシアムの歴史、そして未来については次回、ご紹介します。

(ほしのとしやす 視覚障害者支援総合センター)


出典:
星野敏康.そもそもデイジーって?.ノーマライゼーション.Vol.36, No.1, 2016.1, p.44-46.(デイジーを知ろう!1)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n414/index.html