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パネルディスカッション 【日本における DAISY の普及】

モデレータ:
河村 宏(DAISYコンソーシアム 会長)
パネリスト:
長尾 真(国立国会図書館長)
石川 准(静岡県立大学国際関係学部教授)
神山 忠(ディスレクシア当事者、特別支援学校教諭)
井上 芳郎(NPO法人 全国LD親の会、公立高校教諭)
野村 美佐子((財) 日本障害者リハビリテーション協会情報センター長)
河村●
それでは、これからパネルディスカッションを始めさせていただきたいと思います。これから大体1時間半を費やしまして、日本におけるDAISYの普及をどう進めるのか、様々なお立場からご意見をいただいて、それから先ほどプレゼンテーションを行いましたスピーカーからのコメントも含めて、会場全体で議論をさせていただきたいと思います。
パネリストの皆様のご紹介は、今日のプログラムの中にございますので、個々のご紹介は割愛させていただきます。これから、最初に、一人10分以内、短くても結構ですし、最大限10分という持ち時間で、まず私のお隣の国会図書館長の長尾先生から順番に、今日のプレゼンテーションに関するコメント、あるいはご自身の今一番言いたいことをおっしゃっていただいて、それからディスカッションに入りたいと思います。では最初だけ順番を指定させていただきます。それでは長尾先生、よろしくお願いします。
長尾●
国立国会図書館長の長尾でございます。私どもは2002年からテキストのデジタル化をやり始めたわけでございますけれども、最近になりまして予算をいただきまして、本格的に蔵書のデジタル化に取り組んできております。
ただ、出版社側といろいろ話し合いがありまして、現在の段階ではテキストのデジタル化は画像の形でデジタル化をする、そういうレベルでございますので、まだ文字コードにはなっていないわけでございます。しかし何とかして近い将来には画像イメージから文字コードに直す、OCRソフトウェアをかけて文字コードに直す、そしてその文字コードになったテキストをText-to-Speechのソフトウェアでもって聞いていただけるようにすると、そういうことを目標にして、いろいろやり始めているわけでございます。
ただ、問題がたくさんございます。一つは、文字コードにするということについては、出版社側は大変な危機感を抱いております。と言いますのは、文字コードにしたら、そのテキストは、ネットを通じてどこかへ流れ出てしまう。もし流れ出てしまったら、あらゆる所に行っちゃうから、出版物が売れなくなる危険性があるので、文字コードにはしないでくれ、というような話が非常に強いわけでございます。
ただ、著作権法が改正されまして、障害者の方々に対して、そういうサービスをやるということができることになりましたので、私どもとしましては、せっかく著作権法が改正された以上、何とかして文字コードに直して、そしてText-to-Speechで聞いていただきたいというふうには思っております。
ただ文字コードに直す場合に、OCRをかけますが、そこでは誤りが非常にたくさん出ます。多分98%、よくて99%ということになると、100文字に1文字、間違っているというようなことになると全然使い物にならないという危険性があるわけで、これをきちんとした修正をする、そのために一体どれぐらいの費用がかかるのか、これはちょっと想像がつきません。これをどうするかというのが一つの大きな課題であります。お金はなかなか出てまいりませんので、本当にちゃんとした校正ができるかどうか。これが大変危ぶまれるわけであります。
もう一つは、文字コードになってから、それではText-to-Speechのソフトウェアで聞いていただくといたしましても、DAISYのような高度な機能を持ったことがなかなかできない。そうすると、そこをどうするかという問題がございます。文字コードになったテキストをXMLに換えていくということも、現在の段階では自動化はなかなかできないわけでありますので、それをどうしたらいいか。それから、テキストの中に含まれる図とか写真とか、いろんなものございますが、そういうことについてどうしたらいいかということが大変な問題になっていて、そこに必要とするコストですね、お金はどうしたらいいかというような問題もあって、なかなか簡単にはDAISY化することができないという問題があるわけでございます。
ただ、初めから順番にコード化されたテキストをText-to-Speechで読み上げていくという程度のことならば、ある程度はできるのではないか。そこで満足はできないと思いますけれども、私どもとしましては、教科書とかそういう限定されたものではなくて、あらゆる本について、そういうサービスを提供するということをする必要があるという立場から、そういうことを考えているわけでございます。
教科書につきましては、やはり何と言いましても文部科学省の所管でございまして、文部科学省がどういうふうに今後していかれるかということは、またあるわけでございます。私どもとしては教科書を中心というのではなくて、いろんな学術書とか、小説も含めまして、一般的な本を一般の方々が要求をなさったときに、それがText-to-Speechで聞いていただける、あるいはテキストを読書端末装置で拡大してみたりできるようにする。そういうことをまずやりたいと思っていますけれども、まだそういうことについて具体的なスケジュールがあるわけではございません。時間がいろいろかかるかと思いますけれども、目標としてははっきりした目標を、今、申しましたような目標を持っておりますので、少しずつですけれども、進んでいけるのではないかと思っているところです。
河村●
どうもありがとうございました。それでは次に、石川先生、お願いいたします。
石川●
今日、お集まりの多くの方は、一つの目標を共有していると思います。つまり、障害のある人もない人も、あらゆる人が自由に平等に情報にアクセスできる世界を実現するという目標です。それを実現するための戦略・戦術・方法論については、こういう方法のほうが有効だとか、ああいう方法のほうがもっといいとかという、そういう議論は当然あって、それをブレーンストーミングと言うか、考えを寄せ合って、より良い方法を考えていくということだと思います。
それで、日本の場合ですが、これから電子出版市場というのは放っておいても、大きく花開いていくのかどうかについての予測ですね。そうなるのか、ならないのかによって、ゴールを共有する私たちが考えるべき方法論が、微妙に、あるいはかなり違ってくるかもしれないと思います。
私は、開花するはずだと考えています。10年前とは、やはり状況が違います。新聞・雑誌・本等、紙媒体からの読者離れというのは、やはり進んできているというのは否定しがたいことだと思いますし、また、広告収入についても低下している、大きくインターネットに奪われてきているという現状があります。
また、電子ブックリーダー、Kindleとか、あるいは間もなく発売されるiPadだとか、こういった電子ブックリーダーが性能的に非常に優秀になってきて、紙とある意味では遜色ない、場合によってはそれよりも、より使い勝手の良いユーザーインタフェースを提供するようになってきています。
それからWi-Fiや3G等のネットワークが整ってきたため、毎朝の新聞や雑誌をネットワークからダウンロードして電子ブックリーダーで読むということが快適に、どこでもできるようになってきています。
そういうことによって、電子書籍の市場というのは活性化するであろうと考えています。したがって流通する、市場化される電子書籍が、ユニバーサルデザインあるいはアクセシブルな電子書籍になるのかならないのかというのは、決定的な違いをもたらすわけです。そうなるかならないかによって、この先、まったく違ってくるということなので、あまりのんびり構えているのではなくて、今、ユニバーサルデザインをベースとした電子書籍出版の市場化ということを実現する方向で、出版等の業界、あるいは新聞・雑誌等の業界との間でパートナーシップを組んでいくということが大事だと考えます。
パートナーシップを組んでいくためには、じゃあどうすればいいのか。Win-Winということがパートナーシップの原則ですから、どうしたらWin-Winになるのかを考えていくことになると思います。
と同時にですが、読書バリアフリー法のような法律によって、その方向を後押ししていく必要もあると思います。日本は交通バリアフリー法によって、世界的に見ても、交通バリアの解消という点ではかなり進んでいるのではないかと私は思っています。単純に比較はできませんが、読書バリアフリー法のような法律あるいはガイドラインといったものの有効性に期待しています。
Win-Win関係を作っていくという意味で、ビジネスモデルと図書館モデルを両立させていくことが大事です。オーストラリアの事例なども紹介されていましたが、視覚障害者等にアクセシブルな電子書籍を提供する情報提供施設は、出版社のUD出版とは独立に、あるいは無関係に、今までの著作権法の例外規定の枠組に沿って自由に製作していいことにするのか、あるいは、出版社がUD電子出版をやっている場合にはそれを阻害しないように配慮するのか、さっきのオーストラリアはそうだと思いますが、そういうふうにしていくのか、あるいは市販されたUD電子書籍を調達・購入して利用者に提供するという、一般の図書館がやっているのと同じ方法をとるのかといったようなところで、考え方・方法に少し違いが出てくると思います。
それから国会図書館の役割についてですが、今、長尾館長がおっしゃったことを受けてなんですが、電子書籍のナショナルアーカイブのあり方については、せっかくのナショナルアーカイブなので、これをユニバーサルデザイン化していくということ。検索性という意味もそうですが、テキスト情報を持った、アクセシブルなナショナルアーカイブにしていくというのが本筋だと思います。あとは利害調整の問題だと思います。特定の団体や人々だけが、それによって損失を引き受けなければいけないような形でのナショナルアーカイブ作りということではなくて、全体としてWin-Winになるということ。言い直します。特定の人々だけが負担を負わない形であれば、画像だけのデータよりもテキスト情報を含んだナショナルアーカイブのほうが、そうでないアーカイブより、だれにとってもより大きな利益をもたらすことは間違いありません。あとは方法論の問題だと思います。
また私は日々OCRを使って本をテキスト化していますが、テキスト化して使える本もありますが、例えば理系の本であるとか、表を含んだ本であるとか、OCRでは対応できない本というのが多くあります。少しぐらい間違っていても、まあ、全体の内容をざっと理解するという点ではいいんですが、精読しようとすると、OCRでテキスト化したものをまた人間が校正しなければいけない。その校正コストというのは、非常に膨大なものになります。
そうすると出版社からのデータ提供あるいは調達というのが、最も合理的な選択だということになると思います。そうすると、UD電子出版の市場化、国会図書館の役割、出版社の社会的役割、情報提供施設の役割、どういうふうにそれをうまく調整していくかということが、先ほど、最初に述べましたゴールを目指す上で重要なことではないかと考えています。とりあえず以上です。
河村●
まだまだ論点ありそうですけれども、次のラウンドのときにお願いいたします。それでは、ありがとうございました、井上さん、お願いいたします。
井上●
井上です。よろしくお願いいたします。プロフィールは書いてあるとおりでございます。いくつかの立場でDAISYに関わってきておりますが、最初に著作権法関係で簡単にお話しいたします。今年の1月1日から著作権法が改正されました。それまでは基本的に「視覚障害」と「聴覚障害」の二つの規定しかありませんでした。今回 「視覚障害者等」、「聴覚障害者等」、と「等」に変わりました。「視覚障害等」とは「視覚による著作物の認識が困難な人」ということで、従来の視覚障害以外に広がることになりました。ですからディスレクシアの方なども含まれることになりました。そういう方たちの利用目的であれば、権利者に許諾なく複製できるようになりました。
複製の方式についても、障害者などが必要とする方式でやれるようになりました。ですからDAISY化のようなデジタル化についても、きちんと担保されるようになりました。
ここにお示しした冊子は、日本の文化庁著作権課が、今回の著作権法改正についての解説をしたものです。「コピライト」という雑誌の2010年1月号です。ちょっと読みます。
すなわちDAISYに関して「昨今では、例えば視覚障害者向けの著作物の提供方法については、点字、録音図書の他にマルチメディアDAISYと呼ばれるデジタル方式の録音図書や…」と、方式について列挙していまして、ちょっと省略しますが、その後に、「これらのサービスは、視覚障害者や聴覚障害者に限らず、発達障害者等により幅広く必要とされている」と、そう書いてあります。この「発達障害者」というのは、説明すると長くなりますので端折りますが、ディスレクシアの方などはここに含まれてくるわけです。日本の文化庁著作権課が、そういうふうに書いているわけです。「DAISYコンソーシアムのホームページに記載してあるものから引用した」とただし書きしています。いわば公式見解として述べているわけですね。ですから、今回の著作権法改正というのは、やはりデジタル化、DAISY化ですね、こういうことを強く意識したものだなと思っています。
このように、著作権法に関することについては、だいぶ片付いてきたのですが、肝心なアクセシブルなコンテンツ、著作物ですね、その提供が次に課題になってくるわけです。私も団体として要望書などを出しております。例えば教科書ですが、これはニーズが一番大きいものだと思います。特に日本の場合は、文科省の検定教科書ということで、実際に発行するのは教科書会社ですが、文科省がオーソライズして発行しております。しかも義務教育は全部無償でお子さんの手に渡しているわけです。ところがそういう教育の現場で、例えばディスレクシアのお子さんのように、紙の教科書では読みにくいという場合、これはある意味、教育を受ける権利が侵害されていることになるわけです。無償ということは、税金で捻出しているわけです。ですからしっかりそこは国の責任でやってほしいということで、要望書を出しているところです。残念ながらなかなか進まないのですが。
それで、国会図書館の長尾館長さんには大変失礼とは思いましたが、国会図書館には検定教科書がすべて納本されていますので、今回の著作権法31条の改正により、国会図書館の蔵書がデジタル化できることになるので、国会図書館に納本された教科書をデジタル化することはできるのではないかと、お願いをいたしました。もちろんこれは本筋から言えば文科省に要望すべきことで、我々ももちろん要望しています。第一義的には文科省のやるべきことですので、それはそれとして協力してやってくださいということでお願いをしました。国会でも取り上げられましたが、いろいろな事情でなかなか進まないようです。
それから先ほど海外の方から伺ったお話の中で、一つ非常に注意しなきゃいけないなと思ったことがあります。ジョージ・カーシャさんの話の中で、アメリカで教科書を、必要とするお子さんに渡すときに、非常に制約が多かったということでした。実は日本でもそういう心配があります。と申しますか、現に今、起こりつつあります。これは今回の著作権法改正に先立ち、教科書バリアフリー法と俗に言っている法律ですが、2年半前に施行され、著作権法の一部が変わりました。文科省検定教科書に限り、出版社からデジタルデータを、バリアフリー教科書の製作者に提供できるというふうになったのです。ところがその教科書やデータ提供については、非常に制約が大きいのです。例えば、学校の先生が使いたいと思っても、厳密に言うと使えないといった、そんなばかげた話があるのかと思うのですが。それから家に持ち帰れない。要するに学校の授業の場面でのみ使う。紙の教科書というのは普通お子さんたちは、自由に家へ持ち帰って予習・復習しますね。これは文科省の方、今日、会場にいらしたら聞いてほしいのですが、これは普通の教科書の使い方から言うと、あまりにも杓子定規であると思います。日本の教科書の検定制度や無償供与制度にからんで、何か制約があるようで、このような提供の仕方しかできないらしいです。これは利用者サイドからもきちんと要望を出し、そういうことのないようにしてきたいと思うのです。
時間がないので、もうこれで終わりにします。冒頭で河村さんから、教室で授業を受けている風景の絵の紹介がありましたが、特別支援教育が日本でも始まりまして、まさに一人一人の個の教育ニーズに応じた対応をしていくということです。また、インクルーシブな教育を目指すといって、まさにあそこの絵に描いてあったのはそういうイメージだと思うのですが、それらを実現するには、やはり一人一人に適した教科書・教材が必要ですし、一つの教室の中で、同じ授業の内容を同じように理解できるためには、教科書・教材のデジタル化、DAISY化などは必須条件だと思っております。
ちょうど時間だと思います。以上です。
河村●
井上先生、ありがとうございました。それでは続きまして神山先生にお願いいたします。
神山●
はい。岐阜の神山といいます。少しお時間をいただいて私の思いをお伝えしたいと思います。よろしくお願いします。
私は今、岐阜の特別支援学校で教員をしておりますが、私自身、ディスレクシアの特性を持っております。小学生時代から、なかなか教科書が読めないということで、非常に辛い思いをしてきて。いろいろな回り道をしながら教員になり、自分と同じ苦しみを味わわないように、子どもたちに適切な教育ができないかなと思って、頑張っているところなんです。
自分自身、一番辛かったのは、教科書が全然読めない。そのことから情報が得られないことで勉強についていけず辛かったです。また、学校の中の図書室、図書館に行っても、借りれる本がない状況で辛かったです。班とか学級で、何冊借りたかというような競争と言うか、グラフを作って競い合う時なんかは、「お前が借りんでやぞ」というようなことで、みんなにいじめられたことがありました。夏休み、課題図書といって、みんな同じ本を読んで同じ本で感想文を書くというようなことがあったんですけれども、そんな課題もできなくて、ずっと残されたり叱られたりしたことがありました。
ここになって、法律が変わったので、「よし、いけるかな。」「教科書バリアフリー法や著作権法が変わったからいけるかな」と思って、いろいろなところで、こんなふうに使えるようになったんだよという話をしております。でも学校現場では、管理職もそうですし、現場の一人ひとりの先生方も、今現在の勤務内容で手一杯の状況。そこに新たにデジタル教科書も使えるようになったんだよ、DAISY教科書も申請すれば使える、手に入るような時代になったと言っても、これ以上、手を伸ばすことはできない実状。一部の子だけにそんなものを扱わせれないという認識。そんなことでなかなか現場では、法的には変わっていっても、現場は変わっていないという状況なので、何とか糸口がないかなと思って、今日、来させてもらいました。
今は、支援者側の都合で、当事者がサービスを受けれていないと言うか、受けれる教育が受けられてない。学ぶための土俵にさえ上がることができてないということをお伝えしていけるといいのかな。支援者側の立場ではなくて、当事者という視点でいろいろ考えてもらえる、そういう社会の流れになっていくといいのかなと思いました。
先ほど、ジョージ・カーシャさんの中で、「アメリカの失敗」というところで、現場に委ねてしまうと失敗するというような話がありました。日本でもそうならないために、何かパッケージとして、現場にそれほど負担にならなく、エンドユーザー、当事者が利益と言うか、サービスが届くような、そんなパッケージを、公的なところで保障していける、そんなシステムになっていくと嬉しいなというような気持ちでいます。
あと、音楽がデジタルで配信されるようになる過渡期に、そうしてしまったらCDとか売れなくなるんじゃないかという業界の心配があったんですけど、でもインターネットで配信するようになったら、すごい売上も上がってきているというところもあるので、出版業界も、これからデジタルに移行していくことで、マーケットも広がっていくかなと思っています。
私も関わらせてもらったアンケート調査を全国的にやったんですけど、144名のディスレクシアの方たちにアンケートをとったんですけれども、現在読んだりしている本の冊数と、もし読める方法や媒体があればどれだけ読んでみたいかいうような問いに対して、ニーズとして10倍以上、もし読めるとしたら読んでみたいというジャンルや量を示す結果が出ました。そのマーケットといったら、すごく大きいですよね。紙媒体だと読めない、なかなか情報を得られない人たちでも、デジタルの形で、その人が情報を入手できる形態で配信してもらえれば、買ってでも読んでみたいというマーケットがあるので、障害の有無にかかわらず多様な媒体で配信されるという方向はいいことだと思います。そのためにも、先ほど聞いたDAISY 4とか、EPUB 3とか、あの情報にすごく期待しています。
あと一つのコンテンツ、一つのソースを自分の入力しやすい形に換えることが容易になってくるんだなと実感できました。Pipelineというソフトの話の中でもありましたが、著作権にも配慮しながら、本当にエンドユーザーが使いやすい形に換えられる時代になってくるということは、当事者である私にとってはすごく嬉しいことですし、何とかそれを子どもたち、教育を受けている子どもたちにも還元していって、どの子にも適切な教育が受けられる、そういう時代が早くやってくるといいかなという気持ちでおります。ご清聴ありがとうございました。
河村●
どうもありがとうございました。それでは、野村さん、お願いいたします。
野村●
野村です。私どもリハ協では、10年ぐらい前から、DAISYの普及事業をしてまいりました。そして2008年の9月に、教科書バリアフリー法が施行され、それに伴う著作権法の改正という節目に、ボランティアのDAISY製作団体と一緒にDAISYの教科書を製作し、読みの困難な小学校と中学校の生徒さんに対して提供を始めました。そして、先ほど井上さんが2008年9月の教科書バリアフリー法により、文科省を通して出版会社がデータを提供しなければならないという話をしていましたが、2009年の4月から教科書のデータを提供してもらっています。しかしデータをいただくことによって、別な縛りがいろいろと出てきてしまっています。やはり、ジョージ・カーシャさんがおしゃっていたように、データの提供方法や利用者の範囲について、規制があります。しかし、私たちは国からではなく、ボランティアとして提供しているので、わりと広い範囲の中で提供しているというところがあります。
ですから、予算がつけられるようになりましたら、もっと縛りがあるかもしれません。現在は、先生が、やはり利用者の代わりとして受け取るとか、保護者がお子さんの代わりとして受け取ることが行なわれております。というのは、DAISYの使用については、先生と子どもの共同作業、あるいは保護者との共同作業が必要ではないかと思っていますのでそういったことが必要だと思っています。
また文科省からは、DAISYの有効性についての委託事業を受けております。今年と来年度の2年間の事業です。そのためDAISY教科書の様々な実証実験を行っています。しかしながら、実証実験でDAISY教科書の有効性をと言いつつ、その一方ではボランティアの製作団体と協力してDAISY教科書を、現在すでに、読みの困難な児童・生徒に提供しているわけですから、ジレンマがあります。
このような状況の中、色々な意見が出てきて、「これだけが支援じゃない」 とかいう人もいますが、あるディスレクシアの児童のお母さんから、「今、支援はDAISY以外では何もないんですよ。」 と言われたときは、やっていかなければならないことなのだと改めて思いました。
それから、今、私たちが製作しているDAISYの仕様は2.02です。今日の講演を聞いていますと、DAISY 4やDAISYとEPUBとの関連の話が出てきました。そうするとDAISY 3はスキップしてしまう方が良いのではないかと思いました。しかし、DAISY 4がリリースされるまでは、私たちはDAISY 2.02でどのようにやっていけばいいのかということをもうちょっと外国の皆様に教えていただきたいと思いました。技術が進化すれば、DAISYも一緒に進化します。たとえばWindowsの進化に合わせて、私たちが製作したDAISY教科書も、CSSの修正などいろいろ調整をしていかなければならないわけです。そのへんのところに関しては、本当にいろんな方々との連携がとても必要だと思っています。ソフトウェア会社の方々、データを提供する出版会社の方々、そういった方々と一緒にできる方法を考えなければならないと思っています。あるいは国会図書館においては「教科書は当分…」 とおっしゃっていますが、やはり電子図書のフォーマットは、関係するみんなで、そして日本で使いやすいフォーマットととしてDAISYを検討してもらいたいと思いました。以上です。
河村●
ありがとうございました。非常に皆さん、簡潔にポイントまとめていただきました。これから今日のプレゼンターも含めたディスカッションに入るわけですが、主に私のほうで仕分けをさせていただきますと、技術的問題、コストも含めた問題が一つ。それから関係者、みんなそれぞれ利害が対立したり一致したりするわけですが、その間のパートナーシップですね。みんなでやっていこうということを、どういうふうに作っていくのか。「誰もが読める社会にしよう」ということは、おそらく誰も反対がないんだと思うんですけれども、いざ、現実に何をどうするということになると、必ずしも一致しない。そこをどういうふうにしていくのかという問題が、もう一つあります。
そして法律、制度、予算などの枠組の問題というものが、現実的な、みんなが合意したとしても「さあ予算どうする?」というふうな問題があるかと思います。
これを順次整理していきたいわけですけれども、ちょうどこれを横断するような形で、今大変興味深い動きが、WIPO(ワイポ)、著作権を管理している国連の国際団体であります世界知的所有権連合ですが、WIPOのほうで進んでおります。その中で、二つの、最近面白い作業部会が作られておりまして、そのことについてはジョージ・カーシャさんがずっと関与をしてこられて詳しいと思いますので、ここでジョージさんに、先ほど来の問題をもう1歩進めて解明していくために、今、WIPOでワーキンググループが二つ作られたというふうに聞いておりますが、それぞれ何のために作られ、そして何でそういう作業をWIPOでやっているのか、あるいは、ワールド・ブラインド・ユニオンとDAISYコンソーシアムが新しい条約案を提案して、ラテンアメリカ諸国を中心に、それを支持する国が投票にかけようと言って、日本政府も最終的にどういう態度をとるか、賛否を迫られるわけですけれども、それに向けての動きについてジョージさんのほうからアウトラインを教えていただきたいと思います。
カーシャ●
WIPO(世界知的所有権機関)の中では、世界盲人連合ですが、著作権の例外規定、すなわち国境を越えてタイトルの移転を許そうということを提案されているわけであります。ですから、例えばカナダで高等教育で使われている教科書というのは、アメリカで作られたものですね。だけれども、それができないところがあります。出版社というのは、例外規定を設けることは嫌がります。その代わりに合意を求めてほしいと言うわけです。そこでWIPOのワーキンググループにおいては、ライセンシングをどのようにして使うか、著作権法の例外規定ではなくて、ライセンシングという形でできないか、どのように使えるかということを考えています。一つは、コピーライトの例外プラス、ライセンシングというものです。出版社とのパートナーシップというのは一番いい方法だと思うんですけれども、出版社の中で協力をしていないということであるならば、著作権法の例外規定を使うという方向に動いているわけです。Win-Winの状況を、すべての人にとって作り出したいと思うわけです。それを今、ワーキンググループが扱っているところです。
このもとでは、出版会社がライセンスを使って、特定の機関にファイルを提供して製作ができるようにする。そして図書館においては、ライセンスを使って、DAISY版ならDAISY版を作って世界中に配布することができるようにするということを考えています。
一つこの中に関与しているのが、イネイブリング・テクノロジー・ワーキンググループ(Enabling Technologies Working group)というものです。WIPOは、このDAISYコンソーシアムに、これとの関連で資金を出しまして、DAISY Pipelineツールを作るため、活動をしてきました。これを使って出版社がファイルをDAISY XMLにコンバートする、変換して誰でも使えるようにするということが考えられています。
また、出版社のほうでアクセシブルな教科書、あるいはその他の本を作って、販売するということも考えられています。販売されて、アクセシブルであるということであれば、障害を持っている人々のために働いている機関というものがお金と時間をかけて製作をする必要がないわけです。したがって、普通の図書館と同じように市販されている本をDAISYフォーマットで買えばいいということになります。
もう一つ、WIPOが現在検討していることがあります。それは、フェデレイテッド・サーチ(Federated Search)というものを作るということです。すなわち、本が欲しいなと思ったら、全世界のどこの図書館へ行ってもサーチすることができる。そして、本は、知的障害者のためのライブラリーにないということが分かった場合には、出版社に行って、ファイルを入手して、それを提供することができると。このような製作のプロセスということであるわけですけれども、これが前進してほしいと思っているわけであります。石川さんのほうからちょっとお話が出ましたが、出版会社にとっても図書館にとってもWin-Winの状況をどのようにして、作り出すかということです。これはまさに、我々が今、一生懸命に検討をしているところです。教材なり本なりを作っているところが、実際にそれを販売するということもあると思います。アメリカにおいては、例えばDAISY版を作った本を見ると、「何てきれいなんだ、みんな学生は誰でもこんなものを欲しがるじゃないか」「そうだ、そうだ」と、だから「売ったら?」とかという話になるそうなんですね。これは、6年生と言うか、12年生用の本なんですけれども、実際にそういうDAISY版の本を作ったら、誰もが欲しくなるような、そういうものを作るとそういうことになるのです。それで、著作権法も、出版社に対して、何かを強制するために使われてはならないと思います。協力のために使うべきだと思います。
河村●
どうもありがとうございました。今、ジョージさんの説明で、私たちが今ここで議論していることは、いわゆる読みに障害のある人たちをサポートするグループだけで議論しているのではなくて、大元の著作権を管理している国際機関であるWIPO(ワイポ)で今、国際的に、国家間で進んでいる議論と並行して、今私たちは、そのことを考えているということです。早ければ来年の5月に新しい著作権条約の投票があります。日本政府はそれに賛成するか否かを決めなければなりません。同じように、オバマ政権も、決めるためのいろいろなミーティングを障害者団体と一緒に行っております。そしてさらにその背景には、再々出ております国連の障害者権利条約という大きなバックボーンがあるわけです。こういった全体的な流れの中で、技術の問題、あるいは制度の問題というものがパートナーシップをどうやって開発し発展させていくのかということとともに、議論が行われているわけです。
たまたま、これをみんなに紹介しろということで、私はイギリスの知人から、1冊の本を預かっています。もらったのでなくて預かっています。これは、モリスさんというイギリスの国会議員の方の著書です。この本は、ちょうど今ジョージさんが言いましたように、RNIB=Royal National Institute for the Blindという視覚障害者向けの大変大きな情報提供サービスをしている団体と出版社と著者が協力して、出版したものです。外から見ると普通の本ですが、表紙の裏に1枚 CD-ROMが入っております。ここにはDAISYと点字のファイルの両方入っています。このようにパッケージにして売るというのも、一つのWin-Winゲームのあり方だと思います。
つまり紙の本であっても、このような解決策がありますし、ましてやデジタルのものについては、もっとバラエティに富む解決策があるのではないかというのが、今、希望が持てるところではないかと思います。もちろん大変厳しい意見の対立もあるわけですが、そのような、ひとつ背景情報を踏まえた上で、次の議論に移らせていただきたいと思います。
長尾先生のご発言の中で、テキストファイルをスキャンしたものからOCRをかけて、というお話がございまして、それに対して石川さんは、それはものすごく大変ですよ、というお話がありました。特に、専門的な図書にあります図表とか、それから数式とか、テキストファイルにはならないものについて、肝心の情報が消えてしまう。ですから、テキストファイルと言っても、「テキストを含むファイル」 ということになるかと思うんです。そうしますとそこにどういう形式で、というフォーマットの問題が出てまいります。ここで少しフォーマットの問題について、簡単に整理をしたいと思います。
まず長尾先生に伺いたいんですが、国会図書館でお考えの、テキストを抽出した後のコレクションというのは、フォーマットについてはいわゆるテキストファイルなのでしょうか。それとも、もうちょっと違ったファイルフォーマットをお考えなんでしょうか。いかがでしょうか。
長尾●
文字コード化されたテキストのファイルフォーマットをどうするかというのは、私は聞いておりません。聞いておりませんと言うか、図書館内でいろいろ検討してくれてはいるんですけれども、私はそういう細かいところまでは分かっておりません。ただ、これは広く日本中で共通に受け入れられるようなフォーマットにしなきゃいかんということは、ちゃんと分かってやってくれているんじゃないかと思います。
河村●
ありがとうございました。もし、差し支えなければ、会場に国会図書館の方、先ほどお会いしたかと思うんですけれども、もし補足情報をいただけましたら、いかがでしょうか。フォーマットに関して。
会場●
国立国会図書館の上綱と申します。今、私は大規模デジタル化の事務局にいまして、画像へのデジタル化を実施しているとともに、テキスト化の調査をしています。どれぐらいのコストがかかるかとか、どのようなフォーマットがいいかという調査をやっています。今日もそういう趣旨で出席させていただいたのですが、EPUBですとかDAISYですとか、そういった標準的なフォーマットに、おそらくしていかないといけないだろうとは考えており、そういうふうにするにはどうしたらいいのかというところを、今、調査をしている段階です。なので、フォーマットに関してはまだ結論は出ていないというのが現状です。
河村●
どうもありがとうございました。突然、指名して恐縮です。ありがとうございました。それでは、先ほどから、今日のプレゼンターは、みんなDAISY 4 + EPUB 3がいいよ、という議論を展開したわけですけれども、その点について、今日のプレゼンターでもパネリストでも、あるいは会場にいらっしゃる方でも結構ですが、何か質問のある方、ここのところをもうちょっとはっきりさせたいという質問のある方、いらっしゃいましたら、最初にお受けしたいと思います。いかがでしょうか。どうぞ遠慮なくお手を挙げてください。
会場●
ありがとうございます。デイジー江戸川の杉中と申します。いろいろ技術は進んでいるようなんですが、私たちDAISY化する時に、それを作るツールというのはどうなっているんでしょうか、ということが気になっているんですが。今、2.02を作るツールはありますが、3については、私把握してませんし、もちろん4はできてないと思うのですが、何か情報をいただけましたら。
河村●
会場の中にさらに詳しく答えられるメンバーがいると思いますが、私の知りうる範囲では、一昨日ですか、日本語でDAISY 3をコンバートするためのDAISYトランスレーター、WordファイルからDAISY 3にするトランスレーターというのが、日本語化が、一応作業が出来上がりました。近々、リリースされると思いますが、DAISY 3に関するツールとしましては、再生ツールはAMIS 3.1が既に日本語でも対応をすませておりますので、一応、コンバートに関しては、マイクロソフトWordから、それにフリーのアドインソフトであるDAISYトランスレーターを乗せて、シンセサイザー(合成音声)でもってDAISY化するというプロセスは、一応完成したと思われます。
そしてさらに人間の肉声をそこに入れる、あるいはインタラクティブに編集するということについては、日本語で使えるものとしては、近々リリースされます予定の「ドルフィン・パブリッシャー」というソフトウェアがあります。今のところインターフェイスが英語なんですけれども、これが日本語のインタラクティブな編集も可能にする、そういう見通しがありますが、これはかなり高価なソフトです。
その他にもたくさんツールがあると思いますし、現実にアメリカでは法律で、必ずDAISYファイルを作らなければいけないということになっています。またオーストラリアでも、DAISYの3と2.02についての意見などもあるかと思いますので、これは今日のプレゼンターの皆さんに、ツールについて、実際どんなツールが製作ツールとして使われているんですか、DAISY 3については特にどうなるんですか、ということについてコメントをいただきたいと思います。最初にグレゴリーさん、お願いします。
グレゴリー●
製作過程で私たちが使っているものなんですけれども、私どもの盲人協会、西オーストラリア協会でやっていることですが、プリントのテキストブックで、まだ出版社からのテキストがないというような場合には、本から切り出して、ハイスピードのOCRのスキャナをかけています。多分私が見たことのないぐらいの高スピードのものです。そのことによってOCRテキストができます。それがスタンダードテキストファイルとして保存されるのです。RTFとかワードにはしません。それをテキストファイル、単純なテキストファイルとして保存するのです。そしてその後、いろいろな誤字、脱字等がありますので、それを校正するわけです。それと同時にナビゲーションの構造を加えます。オープンオフィス(OpenOffice)で行います。なぜオープンオフィスを使うかと言いますと、ボランティアが作業を行なっているので、つまりコストをかけたくないからです。ですから、ボランティアに対してマイクロソフトWordを使う必要はないわけですね。つまりそれを買えというようなことを義務づける必要はないわけです。MacintoshでもLinuxでも普通に使われるようなプログラムというようなものですね。それを使っていいわけです。例えばマックのバージョンのDAISYなどもありますので。ですからまったく無料で使えるようなツールを使うようにしています。そしてオープンオフィスを使って、ナビゲーション・ストラクチャー(Navigation Structure)というものを定義するわけです。ドキュメントのです。レベル1なのかレベル2にいくのか、あるいは写真を扱うのかということですよね。つまりその本全部をオープンオフィスのドキュメントとして作っていくわけです。本全部をそれで作るわけであります。私たちはさらにDAISY XMLに変換していきます。そしてPipelineを使って、フルテキストを作っていきます。フルオーディオの本を作っていくわけであります。きちんとページ数が合っているかどうかというのをチェックしなければいけませんから、フルテキストのオーディオDAISYブックというものを作っていきます。
肉声のナレーションがあるような場合におきましては、パブリックドメインの本を使います。「リーボブックス」というのがあります。これは英語でレコーディングされているのですが、ありとあらゆるクラシックの古典のナレーションが入っているわけであります。そしてそのレコーディングを使って、ボランティアを使って、Obiを使って…今、それについて、ObiのMacintosh版もできたばかりであります。西オーストラリアにおきましては、WindowsよりもMacintoshを使っている視覚障害者が多いんですね。Macintoshのほうが多分安いからだと思うのですが、Windowsの場合には、アメリカに比べてですが、オーストラリアでは、JAWSといったスクリーンリーダーは2倍ほどのコストがかかりますので、予算がというものがある関係で、Macintoshのほうが多いのだと思います。
それで、とにかく私たちの組織においては、オープンソースのツールを使うようにしています。そうしますと、クロス・プラットフォームで使用できるのです。Windowsを使う人たちでも、またMacintoshを使っている人でも使うことができますので、そういうようなプロセスを経て、ツールを使ってDAISYブックに変換しています。DAISY XMLファイル、これがマスターになるわけです。そこから点字の図書を作ったり、あるいは大活字の本、あるいはe-pubブックなども作っているわけであります。
どの本でも作ったら必ず図書館に入れることにしています。本を作ると我々のライブラリーの中に入るわけであります。そしてそれからだんだんと大学、あるいは学生のところにその本が使えるようになっていくわけです。
河村●
マーカスさん、あるいはジョージさんから何か付け加えることはありますか。製作ツールについて。
マーカス●
考えていたんですけれども、国会図書館で行っているようなテキストフォーマットをOCRで処理するということですが、一つ思いついたのがGoogleブックですよね。Googleは人類が出版したものはすべてをスキャニングしようというようなことを考えているようですね。ちょっと臆病な野心じゃないかと思うんですけれども、いずれにしても、それを行うためには人間によって校正をしてもらうわけにはいきませんよね。そこでオープンソースなOCRシステムを作りました。できるだけ良い仕事をしてもらってテキストファイルを提供してもらう。そして、XMLマークアップが全自動で行われるものです。
でもそれはもちろんパーフェクトではありませんので、例えばそこからいい点字本を作ることはできませんし、DAISYというのもパーフェクトなものができるということではありません。しかし、これは何かであるわけですよね。つまり、ゼロよりも何かができていればゼロと比べたら100%いいわけです。もちろん改良化という概念もあります。Googleでは段階的にファイルが良くなるということを考えているようです。とにかく自動化で、今できるものを作りましょう、そしてそのタイトルが何回も何回も使えるということになるならば、だんだんとそれを良くしていくことができるだろうという概念でやっています。マークアップを改善していく、それから少しずつ良くして、改訂していくということです。それからその本がどのぐらいたくさん需要があるのかということも考えて、改善していこうということのようです。
私はこの業界におりまして、非常に積極的な出版社、例えば オライリー(O'reilly)社がありますが、一つ基本的な、もう根本的なことを推奨することができると思います。それはXMLを使うことです。できれば使った方がいいということで、それはもう本当に単純なことなんです。DAISY XML、あるいはEPUB XML、どっちでもいいわけですし、その他にもあります。Text Encoding Initiative、TEIというものもあります。これは主にアカデミックなXMLフォーマットです。非常にリッチですね。
いろいろな要素によって違ってくるのですが、最も根本的なことというのは、やはりXMLを使うということで、その次に、だんだんと改善をしていくということを考える、ファイルの改善を考えていくということだと思います。それが実現するならば、非常に大きな前進になるというふうに思います。ではジョージさん、どうぞ。
ジョージ●
Googleのことですが、EPUBを配信しています。SonyReaderで読むことが可能になっているんですけれども、100万タイトルぐらいがGoogleから出ているかもしれません。しかしもちろん、それはEPUBにすべてをストアできるということではないと思います。XMLのフォーマットで、今のEPUBよりも良いものをストアしている。それは独自のXMLフォーマットでやっているわけなんです。EPUBが改善していけば、そしてまた商業的な商品も改善していけば、これが将来的に使えるかもしれないということであろうと思います。ですからEPUBの背後に大きな企業があるということですね。
河村●
Google とかオライリーとか、現実に今進んでいるいろんな技術的進歩を反映したお話が出てまいりました。ここで、パネリストの方に、またコメントをいただきたいと思うんですが、いかがでしょう。
長尾●
国立国会図書館では、今後、出版社から出される本につきましては、紙の本の他に、デジタルな形態のものをできれば納入してもらえるようにしたいと考えております。これはそういうことが実現するように法律改正をしないといけませんから、ちょっと時間がかかりますけれども、そういうことを考えております。その場合には、出版社によって、それぞれプリントするときのフォーマットは様々です。ですからそれをそのまま国会図書館に納めてもらってもどうにもならないので、国会図書館へ納める場合には、ある一定のフォーマットに統一した形で納めてもらわないといけないというふうに考えております。そのためのフォーマットはいかなる形であるべきかというのは、これからの私どもの検討事項なんですけれども、XMLをベースにするのでしょうけども、表とか図とか写真とか、いろいろ含まれている場合に、それをどうするか。どういう形で統一するかというようなことがありまして、そういった場合に、やはりこのDAISYとか、そういったところにうまくつないでいけるような、そういうフォーマットを念頭に置いてやらないといけないかなとも思います。今後、皆さん方とよく連絡を取りながら、慎重に検討していくのがよいかなと思っています。
河村●
ありがとうございました。石川さん、どうぞ。
石川●
時間が限られていますが、いくつか簡潔に述べたいと思います。
テキストDAISYについていいますと、情報提供施設にとっては、OCRの誤りを校正するためにはかなり膨大な人的コストがかかります。したがって電子データを出版社からもらえるのがベストというのが情報提供施設の立場です。現状ではデータを購入するための予算はありませんので、無償で取得したいということになります。
出版社の立場に立つと、大手のベストセラーを出しているような出版社と、学術書をコツコツと出している出版社とでは、だいぶ状況が違うように思います。大手の出版社は、アクセシビリティにはあまり関心はないかもしれませんが、電子出版にはかなり注目しているはずです。学術出版をやっている出版社の立場に立つと、もしOCR等でDAISY化されてしまうのであれば、できれば電子データを購入してほしいと思うでしょう。またそれほどデータ提供の要請が多くなければ協力してもいいというところもそれなりにあると思います。
それから、先ほどフロアから、オーサリングツールについて質問があった際、河村さんからはトランスレーターがありますという話がありました。Save as DAISYとPipelineをつないで自動的にDAISYができるという話ですが、しかしOCRも間違えるけれども、TTSも間違えるし、それから今はその話になっていませんが、自動点訳ももちろん間違えます。TTSが間違って読み上げているのを容認していいのかという問題があります。これは特に教科書の場合は容認できないだろうと思います。そうすると、やはりきちんと校正しなくてはいけないので、そのような機能を持ったオーサリングツールが必要だというのが現場のニーズではないかと思います。
さらに、冒頭に、縦書きとかルビとか禁則処理とかいう問題については今までは未対応で、これからバージョン 4でやるんだという話がありました。DAISYコンソーシアムが作っているオープンソースのツールは、基本的に国際的な言語としての英語をベースにして、ヘルプを含めてメッセージやリソースを出しているわけなので、日本のユーザー、日本のボランティアや日本の製作者にとっては、使いやすいとはいえない。やはり国産のオーサリングツールが欲しい、国産のプレイヤーが欲しいというニーズが強くあるのではないかと思うんです。そこのところについての質問なのではと思いました。とりあえずその2点です。
河村●
私の発言について、ちょっとそのことについてまず触れさせていただきたいと思います。先ほど申し上げましたように、コンバートして、さらに変更したいとき、あるいはソースファイルを作って人間の肉声を入れたいときに、ツールがあることはあるんですけれども、非常に高価なツールになる。それが先ほど申し上げた「ドルフィン・パブリッシャー」というものですね。これは商業的に出されているものなので、少なくとも「ドルフィン・パブリッシャー」の次のバージョンは、DAISY 3のインタラクティブな編集、Sigtunaでやっているような編集ができるわけですが、そこではソースファイルをまず、先ほどのDAISYトランスレーターで作っておいて、それに後で人間の肉声をつけて、正確な読みをつけるということが可能ではないかという意味でお話ししたつもりなんですが、ちょっとそれが言葉足らずだったと思います。
それから、これは申し上げていいと思うのですけれども、全視情協のほうでも今オーサリングツールを作っておられると思います。もしどなたか、そのことについて、石川さんも含めて、どんなオーサリングツールなのか、よろしければ補足していただければと思いますが、いかがでしょうか。これは日本語のオリジナルです。
石川●
全視情協の理事の立場で発言いたします。全視情協が開発していると言えるかどうかは微妙でして、多分違います。つまり調達者であって、著作権を持つのは外注先の企業だと思います。そちらはそちらで自由にビジネスとして、開発後に製品化して販売してよいという、多分、私の理解ではですけれども、そういう条件で、全視情協が調達しているオーサリングツールがあります。まだそれは開発途中で、マルチメディアまで対応したオーサリングということで言うと、まだ1年以上かかるかもしれませんが、とりあえずのテキストDAISYだけのオーサリングであれば、今すでに、β版段階です。それを使いながら4月以降の新しい電子書籍のサービスに向けての、テキストDAISYブックの製作を各図書館、ボランティアで必死になってやっているところだと思います。
河村●
ありがとうございました。「Tobi(トビ)」について誰か紹介していただけませんか?
ロマンさん、お願いします。
デルトワ●
まず最初に、自動プロダクションとヒューマンプロダクションのことについてお話をしたいと思います。毎日のニュースを提供するというような場合には、もちろん人間のボイスというのは難しいので、その場合には自動ということになるわけです。まず自動プロダクションをするわけです。そしてその後、拡張してヒューマンナレーションにも対応できるようにするわけです。その場合には「Tobi」ということになるわけです。
「Tobi」というのは、すべてのテキストオーディオブックからインポートして、それでオーディオレコーディングに変換することができます。そういたしますと自動的に作られたペーパーのDAISYブックを作ることができますし、またそれを「Tobi」でインポートいたししますと、別のものに変換することができるわけであります。ですので恐らく最も強力なのは、自動とインタラクティブオーサリングツールを組み合わせることだと思います。
グレゴリー●
ディスレクシアでありますので、何でも、ないよりはましなんですね。ですからもちろん、とにかく本を作ってほしいと思います。いくらかミスは出るかもしれませんが、技術書ということになりますと、ほとんどの例えば中等教育あるいは大学レベルの教育ということになりますと、テックとかレイテックというようなものが入ってくるかと思うんですよね。現在の大学においては、パースにおいては、テックのコマンドから一般的なフォーマットに変換するということをやっております。そしてそれから音声フレーズに変えております。つまり、例えば数学の公式などがありますと、それを言葉などの説明に変換することができるわけであります。しかしながら点字というものはありません。数学というのは、公式を読み取るとやっていくわけでありますので、上から下へと読むというようなわけにはいかないわけであります。ディスレクシアの場合には、公式にはあまり苦労しません。つまり、その公式がどういう意味なのかということがわかれば、別に問題はないわけであります。つまりその情報が提供されれば、公式は読むことができるわけです。そういうふうなアプローチでもって数学を勉強しています。数学の公式ということなんですけれども、レイテックで書かれているわけなんですけれども、それを変換しているわけです。しかしながら今のところで、数学部の方がスタンダードなやり方でやっているので、なかなか難しいところがあります。
河村●
それでは、あと12~13分でこのパネルを閉じなければいけませんので、そろそろパネリストの皆さんに、まだ結論ではなくていいんですけれども、まとめに入る方向でご発言をいただきたいと思います。今後、日本で誰もが読める社会を作る上で、どんなふうに進めていったらいいのかという方向で。それでは井上さんから順にコメントをお願いできますか?1ラウンド2~3分でどうでしょう。
井上●
別に教科書にだけこだわっているのではないですが、例えば小学校の最初に勉強するような国語の教科書では、テキストリーダーでの読み間違いとか、合成音声、これは今非常に進歩しているとはいえ、やはり小さいお子さんは違和感を持つ場合もあるでしょう。それから、実は私は高校で教員をやっておりますけれども、教員用の指導書というのがございまして、これは日本だけのものかどうか知りませんが、実は一冊で結構な値段がついています。この付録でテキストデータがついている場合があります。あるいはPDFで提供されているものもあります。これは授業を担当する教員が、そこからテキストあるいは画像データを取り出して、日本の著作権法ではそれはできます、外国でもそうだと思いますので、教材作製などに使えるわけです。値段は高いと言いましたけれども、それほど驚くほどの高額なものでもありません。もしかすると教科書会社が採算を度外視して提供しているのかも知りませんが、とにかくすでに提供されているのです。
ところが、弱視の生徒さんのための拡大教科書が、高いものでは一冊数百万円という製作コストがかかる場合があるそうです。それはいろいろな理由があると思うのです。少なくともデジタル化することで、コストはかなり下げられるのではないでしょうか。
ですから、教科書を作る最初の段階から、そういうことを強く意識して、バリアフリーではなくてユニバーサルデザイン化された教科書ということを、目指すべきだと思います。教科書は文科省では「主たる教材」であると言っていますので、使用する義務があるわけですね。ですからそれが、仮に一人でも、日本全国の子どもの中のたった一人でも読めないお子さんがいたら、これはきちんと読めるように保障するのが筋でしょう。ただし一冊のためだけに何百万円もかけることはどうなのでしょう。デジタル化をすれば、そんな膨大なコストをかけずともできるはずだと思います。
そのためにも、私もいろんな立場でお願いやら提言などをしてきました。以前も教科書会社の方と何人かお話をさせていただきました。具体的にどうするかについてはまだ勉強中ですので、現実にできること、できないことはありますが、いずれ近いうちにやらねばならないことと思っています。
神山●
法的な面とか技術的な面で、いい状況になってきているので、支援者が意欲的に導入してみようとか、本人が意欲的に使ってみようという、その辺の心理面をこれからどうしていくかも、一つ重要な視点かなと思います。
中学生ぐらいの子に、「DAISY教科書あるよ、使ってごらん」と言っても「他の子と違う教科書を何か使うの嫌やな」というようなことを言ってくるディスレクシアの子どももいます。その辺も一つ、これからの課題だと思うので、もし海外の事例で、こんなふうにやって、全然本人も嫌がらずに意欲的に使えているよ、というようなお話が聞けたらありがたいなと思っております。
河村●
ありがとうございました。何か今の神山先生の言われたことの、いい事例ってありますか?グッドプラクティス、ありますか?どうでしょう?
グレゴリー●
それは全世界的な問題だと思いますよね。やはり子どもたちはそういう気持ちになると思います。目が見えるディスレクシアの人たちは普通の教科書を使うことができるわけなんですけれども。あちらの後ろの方にいらっしゃる方、iPhoneで紹介していらっしゃいますよね、DAISYを。これはクールですよね。まさにすごいかっこいいですから、中学生でもやっぱり使いたがるんじゃないですか?だから「カッコイイ!」というのが大事なんじゃないでしょうか。例えば何年も前から目が見えなくなったおばあさんが、ロッキングチェアに座って点字の本を読んでいるなんていうのは、あまりかっこよくないわけですけれども、こういうようなかっこいいものでDAISYを提供してくれるというんだったら、みんないくらでも使いたがるのではないでしょうか。こんなこと、馬鹿馬鹿しいと思うかもしれませんけれども、13歳の子どもたちにとっては、これ、とても大切ですよね。ですから普通の本でも、絵が描いてあるということは非常に重要です。
それと同じように、こういったようなかっこいいもの。印刷された教科書は提供していいと思いますけれども、それと同時にかっこいいデバイスで使えるような、そういうものを提供することが必要なんじゃないでしょうか。多分クラスメート(Classmate)も「いいな」と思うんじゃないでしょうか。
野村●
技術とか体制というのは、少しずつよくはなっているんですけれども、やはり著作権の改正があったとしても、それがすぐ使えるわけではないと思うのです。関係者がそれをすぐ利用できないことも多いと思います。例えば、点字図書館ではDAISYを視覚障害以外の方にも提供できるようになりました。でも、ある点字図書館に「1月1日から著作権法が変わったので、どなたか問い合わせありました?」と聞きましたら、どなたもいらっしゃらないそうなんですね。せっかく著作権法が整ったのに、使う人がいない。そういう意味では視覚障害者のツールという心理的なものも、もしかしたらあるかもしれないと思いました。そのことに関しては、グレゴリーが「DAISYをクールに見せる」とさっきおっしゃっていましたけれども、私も、あまりおもしろくなさそうにしているDAISYの利用者に、DAISYプレイヤーが入っているiphoneを見せて、「これで読めるんだよ」みたいな、同じような言い方をすることもあります。またDAISYがその子にとって必要なツールであるということについては、先生がある程度影響しているんではないかなと思いますので。先生に対してもう少し広めていくのにはどうしたらいいのかというのが課題の一つです。
それからもう一つの課題、点字図書館のDAISY図書はたくさんあるので、例えば、私どもの教科書提供の中で、音だけでも使えるということであれば、教材として使うことができるかもしれないと思いますので、そういった方法のために点字図書館との連携ができればいいなと思います。また「ユニバーサルデザイン」と言っても、関係者がそれぞれで頑張ることが多いように思います。出版会社だけで頑張るとか。関係者がお互いに見直したり、お互いに話し合ってみると、重複していることをしているような気がします。これは一緒にやれればいいかもしれないといったことが、なかなか一緒にやれていないので、もうちょっとそういうところが連携してうまくやれればいいなと思います。
河村●
ありがとうございました。長尾先生がどうしても5時にお発ちにならなければいけないので、次に長尾先生にごく短くご発言いただいて、それでその後、石川さんで締めにさせていただきたいと思います。
長尾●
今は技術的にものすごくいろんなことが進んでいる時代だと思います。ですから今はなかなか困難な面がたくさんあるかもしれませんけれども、2年、3年、あるいは5年というスパンで物事を考えれば、今困難なことでも、かなりのことが解決していくんじゃないかと私は思っておりまして、国会図書館もそういう方向で努力をしたいと思っておりますので、そんなに悲観することはなくて、これからどんどんよくなっていくんじゃないかと考えています。
河村●
ありがとうございました。では、石川さんお願いします。
石川●
UD電子出版を社会的に推進していく、これはもう絶対に必要だし有効、絶対やった方がいいと思います。最優先事項だと思います。と同時に、1ソース・マルチユースというのが原理的に可能になります。そしてそれによって自分が望んでいるメディアで、自分にとって使いやすい道具で読書できるようになる。ただ同時に、1ソース・マルチユースの変換というのは、すべて自動的に正しくできるということではありません。その代表的な例は教科書です。ワンソースになってもやはり人力は必要です。
特に日本語に関して言うと、OCRの誤りが英語などに比べるとかなり多いです。文字の数があまりに多いし複雑ですし。それから読み間違いも多く出ます。ということで、やっぱりマンパワーはどこまでいっても必要です。ユニバーサルデザインは重要ですが、それであと何もしなくてよくなるということは絶対にないだろうということですね。
それから、やはりよい道具を作っていく必要があります。よい規格は、どんどん高度化していくんですが、その規格についていく、規格に対応したよい道具、オーサリングツールとかプレイヤーとか。高度なニーズに対応するために、規格がまず高度化していくわけですが、それにオーサリングツールやプレイヤーもついていかなくてはいけないということで、開発もこれから頑張ってやらなくてはいけないと思います。しなくてはいけないことはたくさんあるということだと思います。以上です。
河村●
ありがとうございました。それでは20秒で締めさせていただきます。ずっと皆さんで、パネリストそれからスピーカー、会場の皆さんも含めて議論してくださいまして、本当にありがとうございました。やはりみんなで知恵を合わせ、そして一番最初に私申し上げましたけど、やっぱりみんなで汗もかかないと、いい物はできない。待っていてもできない。これは誰かに 「やってください」というだけではなくて、「やってください」って言っていいんですけれども、自分もそれぞれ、ユーザーの方も含めて、自分もニーズを明らかにするということも大事なことだと思いますし、やはりみんなで一緒に努力して、前へ進めることで、先ほど長尾先生が言われましたように、ちょっと長くかかるかもしれない、でも、必ず状況はよくなるというふうな確信を持ちながら、みんなでこれから進めていこうというのが結論だったのではないかと思います。
パネルディスカッション、パネリストの皆さん、ありがとうございました。