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DAISY概説-世界に広がるDAISYの輪

2005年1月7日

講演者:国立身体障害者リハビリテーションセンター
研究所障害福祉研究部長  河村 宏

 DAISYについて、実は先程、今日、私を紹介してくれた木戸口さんから面白いパンフレットを渡されました。これはトランヴェ-ルといって新幹線の車内サービス誌ですが、この中に日本財団のキーワードという日本財団を紹介する小さい記事があるのですが、そこにカタカナでデイジーというふうに出ております。それで非常に簡単にDAISYを紹介する一文がのっております。このように書いてございます。
「障害の有無に関わらず全ての人がコンピューターを使って生きた情報を手に入れるためのシステムがデイジー(DAISY)です。例えば視覚障害者のために画面の文字を拡大したり、情報を音声で読み上げます。全ての人が自由に情報を閲覧出来るように日本財団はDAISYの普及活動を支援しております。」
DAISYの紹介もさることながら、最後の方に、日本財団はDAISYの普及活動を支援していますという支援の中身ですね。具体的にどういうことかということから少し申し上げたいと思います。
日本財団は、DAISYコンソーシアムという国際団体に対して、今年で2年目ですが、約5年間の予定でアジアの開発途上国にDAISYを普及するという事業を支援しています。
今回津波の被害を受けました、インド・スリランカ・タイ、ここまでがすでにDAISYの拠点を築いたところです。そしてインドネシアは来年を予定しておりました。
従いまして今回被災した地域というのが、非常にDAISYの普及から見ても近い地域でありまして、特にスリランカでは、DAISYの普及拠点になっている国内のいくつかのところも被害にあったのではないかと非常に心配したのですけど、幸い、盲学校のバスが流されて、中にいた盲学校の生徒、それから父兄が亡くなっておりますけど、施設的にはそう大きな打撃を受けないで済んだというふうに聞いております。
ただ、非常に国全体がダメージを受けておりますので、これから私共DAISYの普及という点からも実際被害を受けた地域として、あるいはDAISYをさらに必要としている地域として、今回の津波への対応を急いでいるところです。

ここまでは、DAISYに関して、日本財団では今のようなコンピューターを使ってというふうに簡潔に表現しておりましたけれども、(DAISYに関して)簡単に歴史を振り返ってみたいと思います。

まず、1995年までは国際的な舞台でDAISYという言葉は登場しておりません。1995年のちょっと前にスウェーデンでDAISYというシステムが産声をあげたという事実はあります。
だいたい92・3年位からこんなものはどうだろうかと考えられていたスウェーデンの国内的な研究開発のプロジェクトで、最後にDAISYという名前になったものというのが95年以前のものです。
95年というのはどういう年かといいますと、デジタル録音図書、コンピューターを使って読み書きする録音図書を、国際的にスタンダードを作って、規格を作って開発をすすめようということが、国際的にアナウンスされた、発表してさあみんなでやろうというふうに呼びかけられた年です。つまり95年から作ろうという話がでた。
そして実際にこういうものでどうだろうか、こういう機能を持っているものであったらいいねという合意がされたのが97年。
そして、さらに機能を実現するための技術がきちんと開発されて、これでいこうというDAISYが姿を現したのが1998年です。非常に若い技術であります。
1998年から2005年の今日までの間が、DAISYが世に出て普及を始めたということになります。

どうしてDAISYなんかを国際標準として開発しようとしたかということが、その次の課題なのですが、機能が今まで、視覚障害者の人たちが録音図書を使って本を読んでいたわけですが、どうも機能的にこれでは限界があるというところからスタートしております。
どういう限界かといいますと、今視覚障害の人の中で一番多いのは中途失明の人たちで、だいたい40過ぎてから糖尿病からなる方が多いです。
そうしますと、見えなくなった途端に点字を読めるということはあり得ないですね。
よく視覚障害というと指で点字を読む。指で点字を読めるようになるには大変な努力とトレーニングが必要なわけです。みなさんも目をつぶって点字を指で触ると分かると思いますけれども、そんなに簡単には読めません。
それからある程度言語的な脳の機能が確立してしまった後に、触覚から言葉が入ってくるということは大変な大脳生理的な努力が必要です。
従ってよくいわれるのは、20歳を過ぎてから失明して、指で点字を読めるようになるというのは、非常に難しいと言われています。絶対できないとは言えないのですけれども、非常に難しい。
ましてやこれまで黙読で読んできた人、本をすらすらと黙読で読んできた人が、そのスピードで、指で読めるようになるというのは、とんでもない苦労があります。20歳を過ぎるとほとんど不可能に近い。
まして40を過ぎてから糖尿病は多くなりますからその場合本当に難しい。どうしても録音図書に頼らざるを得ないわけです。
ところが、録音図書というのはカセットなのですね。カセットで考えると、例えばある辞書がカセットで提供されたとします。辞書のある項目をひきたいと、カセットでどう聞くのか。早送りして聞く。これは一つのやり方ですね。でも辞書なんかだと、一つのカセットが読み上げて、せいぜい数ページ読み上げるだけで、だいたい1本終わってしまいます。
そうするとまともな辞書をカセットに収めると何百巻となってしまうのですね。
何百巻の中からどうやって項目を拾うのか。それをやるだけで10分20分かかって、とてもいくつもの項目を辞書で拾うなんてことをあきらめてしまう。
同じように、色々な文献は、必ず引用として、何ていう本の何ページ、何ていう本の第何章というふうになります。カセットを持ってきて、どの本の何ページをどうやって開くのかと、これはもうほとんど不可能です。
従ってこれまでカセットで読書をするという時には小説なんかがいい、頭からずっと読んでいく。
でも、ある項目を開くという時には、カセットは使えない、というのが機能の限界でした。
従っていわゆる教科書、教材、それから料理の本、そういったものには、カセットではだめなのだ、というのがそれまでの視覚障害者、特に中途失明者の人たちの状況だったわけですね。
これを何とかしたいというのが一つの理由です。

それから保存です。テープは、地球上どこでもいいのですけど、置いておきますと、地球は巨大な磁石ですから、その磁石の上にテープがあるわけです。
いずれテープの中にある小さい磁石、テープというのは色を見ても分かるように、カセットテープにはビニールにプラスチック、ビニールに磁石の小さい磁石になる鉄粉をのりではりつけてある、というようなものです。
従って時間が経つと、その磁石はみんな地球の方向へ向いてしまいます。地球の南北の方向に向いてしまうのですね。
これが、ビデオテープとかカセットテープとかを大事にとっておくと、いつの間にかだめになって“ザーザー”という音がして、最後には何にも聞こえない、何も見えなくなる、劣化というのですね。衰えるということですね。これはどうしようもないわけです。これは地球が磁石だからですね。
そうしますと、劣化してしまうものを保存している、例えば点字図書館というのはどうなるのかということになります。みんなで苦労して作った録音テープを山のように持って行って、でも置いてある書庫というのは全部地球の磁石の上にのっかってしまっているわけなんですね。毎年毎年劣化していくわけです。これはどうにもなりません。そして30年位経つと全部消えて無くなります。
つまり30年しかもたない本を一生懸命作って蓄積している。同じ本をまた30年経ったら完全に作り直さないと,聞こえなくなってしまう。せっかく図書館を作って、1冊作ったらみんなで交換して,それですぐに利用に答えようとしているものが、30年経つと大火によって全部焼けて無くなってしまうという図書館を作ってきたわけです。これを何とかしたいというのがあったわけです。

それからもう一つあったのは、カセットとは世の中にいつまであるのだろうということだったのですね。
もうMDとかCDとか色々なものがオーディオでは市場にありまして、1990年代では自動車に搭載するカーオーディオですね、カセットを搭載しているカーオーディオを積んでいる車が売れなくなってしまうのですね。
自動車を買う時に、みなさんがカーオーディオをどうしようと選ぶわけです。カセット搭載、もうださいと、全然そんなのもう古いからだめと。
だからMDとかCDしか売れなくなってしまうのです。
そうすると自動車メーカーやカーオーディオメーカーの方が作らなくなるのですね。
自動車のオーディオというのは年に数百万台の市場なのです。ほとんどの人が車を買う時につけます。年間数百万台の市場で、結構高いものがそこにいくわけです。
そうするとメーカーは、もうカセットじゃないねと、カセットの生産ラインを閉じてしまうわけです。
カセットの生産ラインというのは、中の読み取るためのヘッドとか、回転をさせるためのモーターとか、あるいはテープそのものの生産とかとなると、全部結びついてきます。
一番大きい市場がMDに移った、CDに移ったとなると、それに関係する産業が全部どんどん縮小されるわけなのですね。
今日本では、大分前からですけれども、カセットテープを国内で生産したものというのは、ほとんど手に入らなくなっていると思います。
品質のいいものを選びたいと思っても、なかなか安定した品質の安い物が手に入りにくいというふうになります。
全体がどんどん縮小に向かってしまっている。それが市場です。カセットだけに依存していると、いつか見捨てられてしまう。
この3つの理由から、急いで国際規格を作って、それで国際的に共通に使えるそういう録音図書を作らないといけないねという話になったわけです。

その時にどういう人がそれを使うのかということが問題になります。
もちろん視覚障害その他の障害のある利用者とか、それから、それを製作する人たちというのも当然関心にあります。流通させるための図書館も関心にあります。
他に新しく作った技術というのは、もっと産業的な目でみると、別な利用法があるかもしれないという要素がありました。
最後、結論として、どういうものにしようかという時に、絶対ここのところは曲げられないというのが、ちょうどさっきWebという話が出ましたね、HTMLです。HTMLというのはそれを書くための、Webを作るための言語的な規格なのです。規格ですね。こういうふうに作ろうと言う作り方を決める。規格を作ろうと。その規格にあったものであれば世界中で共通に使える。
Webを考えますとWebのサーバー、サーバーがあってみんなそれを見にいくわけですけれども、サーバーには色々なサーバーがあります。
要するに一つのメーカーが作った機械でないとサーバーにならないということはないですね。サーバーとしての機能を果たすためには、規格が守られていればサーバーになります。
今度ブラウザーといって見る方の、みなさんが手元に持つ、それを見るための仕組み。これも規格に沿っていれば、マッキントッシュあり、ウィンドウズあり、あるいはUNIXでもいい。最近は携帯電話でも見られる。
つまり、規格があっていれば、みんなどういうふうな仕組みがあっても、それが同じように同じように見られます、というふうな規格を作るというところで、Webをお手本にしようと。
なぜWebがいいかというと、オープンスタンダードというふうに私たちは呼んでいますが、誰でも使用料を払わないでその規格を使える。それからしっかりした団体があって、その規格を管理している。全てその規格の中身が透けて見えている。
つまりそれはブラックボックスと私たちは呼びますけれども、箱の中は見せないで、この箱を使って下さいというようなやり方と、それから手の内は全部公開して、こういうふうにやりましょうという規格とがあります。
全部公開して使用料も取りませんというふうな規格にしていこうということを考えました。

それで、現在はこういうふうに呼んでいます。DAISYを展開しますと、Digital Accessible Information Systemというふうに読んでおります。アクセシブルなデジタル情報システムというふうに意訳しておりますが、デジタルと言う言葉が引っかかるという方がよくいます。
これをデジタルというのはどういうことかというと、コンピューターを使って読み書きすると日本財団の宣伝では訳しておりますけれども、それに近いものですね。
実際使う上でのデジタルの最大の特徴というのは、完全なコピーがとれる、というふうにいったらいいのかなと思います。完全なコピーがとれる。
そのことによって最大の効果をあげられるのは、保存の面で見られると思います。
先程の劣化というところで、DAISYにするとなぜ保存出来るのか、30年経って完全にだめにならないでいつまでも保存出来るのかということの原則を、ちょっとお話したいと思います。

よくフロッピーディスクでパソコンのソフトが売られていた時代、買ったオリジナルのディスクが一番大切だと、それを大事にしまって、コピーはそれよりもちょっと質が落ちる、というふうに考えておられる方がいたと思います。
オリジナルをいつまでも一番大事なものとしてどこかに保存しておいて、いつか必要な時にはそれを開けて使えば、いつまでもいい状態で、これはデジタルのデータのはずだから、ということで使えるんだというふうに思っていた方がいると思いますが、実は5年10年経つと、オリジナルはおそらく使いにくく、どこかに欠陥を生じてくる可能性があります。
それよりは毎年コピーを作って、コピーのコピーでもいいのですが、一番新しく最近コピーをとったものの方が、品質としては高い可能性が高い。デジタルの特徴というのはそういうところに一つあります。
アナログのコピーの代表は、いわゆるゼロックスコピーです。普通の印刷物を最初にコピーした時はまあまあきれいに見えます。2度目3度目というふうに段々、孫・ひ孫というふうにコピーしていきます。最後は真っ黒になります。つまりそれはノイズが入っていくからですね。
デジタルコピーの特徴はそうではないのですね。コピーをした時に元と同じものが出来る。だから何世代コピーしても本来はもとと同じものがそこにある。
ではオリジナルはどうなるのか。保存したオリジナルのメディアは必ず劣化します。
それでそこに目を付けるというのが保存のうえでのデジタルの特徴です。
コピーした時の最初が100%のデータが入っていたとしますが、これは段々と年代が、5年10年20年というふうに右にいくほど年月が経つというふうにしますと、性能は落ちてくるわけです。
ところがもう1回コピーした時に、ここ位までの劣化だったならばもとと同じになるという時点というのがあります。これが敷居、またぐときの敷居ですね。敷居の値というのがここらへんだとします。
これが例えば15年位だとします。これより以前であれば完全にもとの100%までコピーすれば戻るという時点があります。これより以下だと完全に0、何もコピーした時に残らないという時点があります。これがどうしてもメディアと言うものが、例えばCDであっても、あれはプラスチックですから、もし皆さんが指紋をつけますと、指紋は脂と酸と両方ありますので、確実にプラスチックの表面は白くなっていきます。劣化します。指紋のついているところのデータが読めなくなるのですね。
ある程度それが小さければ補正出来るのですけれども、どんどん読めないところが広がっていくと、どうやってもそこのデータが読めなくなります。
そうなる前にコピーをとります。そうすると元通り100%まで戻る。つまり0か100%か極端に、ある1点のデータが0か100%かというふうにして読み取っていく。その仕組みがデジタルの仕組みなのです。
それをうまく活用すると、結論的に言うと、DAISYは、きちんとコピーをし、リフレッシュと言いますけれども、きちんとリフレッシュすると、ほぼ永遠に使うことができます。デジタルデータは全部そうです。そういうふうな特性を手に入れることができたということになります。
あと、実際に使う上ではデジタルかアナログかということはあまり意識しなくてもいいのではと思います。

DAISYコンソーシアムという団体を作りまして、まずこれは、蓄積していけば他の図書館と同じように、100年200年500年でも、このデータはずっと使えるというふうなものになれば、やはり世界中で協力してちゃんと蓄積して、今世界中に色々な図書館があります。そこには1000年前の本もありますし、それを現代に伝えるという役割を果たしている大きな図書館のネットワークがあります。図書館の。
それと同じようなものを作り上げていこうということで、DAISYコンソーシアムというのが設立されております。これでDAISY規格を開発し普及していく。
日本からはこの講習会の主催者であります財団法人日本障害者リハビリテーション協会が中心になって加入しておりまして、他に日本ライトハウス、また、ひなぎくというボランティアグループと、国立身体障害者リハビリテーションセンターが参加をしております。
このDAISYの図書が出来上がりますと、これから作ろうと思っているのは、国際的な相互貸借のネットワークです。どこか1箇所で作ったら相互貸借をしようと。
デジタルであるもう一つの特徴は、ネットワークを通して配信出来るということなのですね。
技術的には、これを読みたいと思ってサーバーにおいてあれば、すぐその場で読むことが出来る。技術的にはです。
そういうところを目指してやっていこうとしています。

それをさらに途上国に普及を図るために、国連のサミットの一つで、世界情報社会サミットというのがあります。
2005年の11月に北アフリカ チュニジアのチュニスで、このサミットの第2回目のものが開かれます。第1回目はジュネーブで2003年に開かれました。
このジュネーブの2003年の時には、約8000枚のCD-ROMを作りまして、このサミットのドキュメントをDAISYにして配りました。
国連で配るドキュメントというのはちょっと大変なのですね。6ヶ国語で作らなければなりません。公用語ですので英語、フランス語・ロシア語・中国語・アラビア語・スペイン語、この6ヶ国語です。ですからサミットのドキュメントはこの6ヶ国語で作ったわけです。
その中で、中国語があるから漢字も大丈夫だなということが、技術的にも証明されていると思いますし、それからアラビア語、これは右から書いて左へ読んでいくのですね。それでびっくりすることに、その中にもし1945何ていうのが出てくると、途端に左から読むのですね。そちらから見ると1行の中にこう読んでいったかと思うと、ここにアラビア数字で西暦なんかが出てくると、ぽんと飛んで1回そこを左から右へ戻って読んで、また右から左へ読んでいくという面白い、1行の中に両方から読まなければならないという言語が入っています。そういうものでも作りました。
それは耳で聞いていると、目で見たところがハイライトされているという形でDAISYを作りました。
それを8000枚ですから、おそらくそこに来た20000人位の参加者のうちのそれぞれの国の代表者には、確実に渡ったというふうに思います。
現在、利用者からみてみます。視覚障害者、これは今一番多い利用者になっております。ただ、但し書きをつけますと、日本ではということです。日本では視覚障害者が最大の利用者です。

今机の上にあります【PTR1】、録音しているので動かせないのですが、後でご覧頂きたいのですけど、銀色の小さい箱があります。後程ご覧下さい。
【PTR1】という、DAISYの録音と再生両方が出来る機械ですけれども、これはもともとはテクノエイド協会というところの助成を受けまして、日本障害者リハビリテーション協会がプロトタイプの開発をしたものです。
最終的にこういうふうに小さく作りこむというところはプレクスターあるいはシナノケンシという会社行いました。
現在、これは日常生活用具というものになっております。
日常生活用具になりますと、多くの都道府県では無償でこれを受け取ることができます。PTR1は、日常生活用に、昨年の4月から指定され使われております。
ですから視覚障害者の方で、これを使いたいという方は福祉事務所に最終的にはつながるのだと思いますが、無償で受け取ることが出来る。
ただ岡山県の人から聞いたのですけれども、岡山県は財政難ということで、自治体負担分を、どうも今のところ出せないらしいのですね。それで、それが実施されていないという噂を聞きました。これはおとといのことなのでまだ確認していないのですが、神奈川県や東京都では間違いなく実施しております。青森県でどうかというのはちょっと私分かりませんので、みなさんどうぞお調べ下さい。
この日常生活用具は視覚障害者のためということで、【PTR1】が指定されております。日常生活用具というスキームには、他に車椅子などもあるわけですね。ですから障害毎に何を指定するということになっております。
残念なことに今回の講習の対象であります認知・知的障害の方々に日常生活用具として【PTR1】は指定されておりません。
これは私自身が国の団体にいて言うのはおかしいのですけれども、やはり国あるいは自治体あるいは両者を含めてと言っていいのかもしれませんが、これが使えれば本当に日常生活が便利になる、そういう障害として、認知・知的障害のいくつかのカテゴリーの方には、本当に便利になる可能性があります。そのことについての認識の普及というのがまだ足りないのかなというふうに自戒しているところです。
両者のところで先程日本では視覚障害者がダントツであるというふうに申し上げましたが、それはこういった制度的なことと深く結びついていると思います。
視覚障害者には知る機会も多いし、使うチャンスも多いし、使いたいと思えば給付されるチャンスもあるという仕組みがあるからです。学習障害、特に読み書き障害に定義されますDyslexiaの場合にはどうかということですが、これはスウェーデンでいいますと、スウェーデンの大学生の間では、圧倒的にDyslexiaがDAISYの利用者です。統計的にいいますと、大学に通っていてDAISYを日常的に使っている方々がスウェーデンでは約800人いるというふうに言われています。その中の600人がDyslexiaというふうに伝えられております。200人が視覚障害です。
ですからスウェーデンの大学生でいうと、利用者はというと、代表的な利用者はDyslexiaの利用者なのです。
スウェーデンからは、えっというような利用者の方の報告があります。難聴者が非常に便利に使っていると聞いております。難聴者の、特に聴力の訓練を兼ねて本を耳で読むという利用者が、ある程度の数がいると聞いています。具体的な数字はちょっと聞きもらしましたが、難聴者の方も使っているということでした。
それからスウェーデンだけではなく、北米の方では、上肢障害、本を手で持てないとか、例えばその次の筋ジストロフィーやCPで、充分に重い本を持ってページを開くということが出来ないという方で、このDAISYのボタン操作で本が読めるということだったらば使える、という方たちが使っているケースもあります。
特に、アメリカでは、もともとカセットの録音図書の時代から、法律上、そういった方々を法律のスキームの中で明記しておりまして、1960年代から視覚障害、及びその他の身体障害により普通の読書の出来ない人たち、というふうな定義をしております。
今その他の身体障害と申し上げましたが、このDyslexiaについては、身体障害なのか、ではないのかという議論をしている国もあります。アメリカの場合で国の中でいくつかの団体の一つの一番大きい議会図書館、一番予算を使っているところですが、そこでは公式には未だに身体障害だけだといっているようですが、実態的には実際に貸し出しをする各州の図書館がDyslexiaあるいは学習障害LDの方たちには広範に貸し出しているという実態の方が進んでいるということがあります。
もう一つアメリカの団体でユニーク団体というのは、RFB&Dという団体があります。RというのはRecording、Fはfor、誰々のために、この後が対象になるのです。最初に出てくるB、これはBlind、その後に出てくるD、これはDyslexicです。もう団体の名前の中にDyslexic、Dyslexiaのことですけれども、こういうふうに謳っております。つまり視覚障害者とDyslexiaの方々のためのレコーディング、録音図書を提供する団体というのが、アメリカで録音された専門書を提供する最大の団体です。
こういう状況から見ますと、日本が、視覚障害だけに特化しているというのは、先進国の中では珍しい、特異な現象であるというふうにいうことが出来ると思います。
そしてこれからどの国でも、改革をしなければいけないのは高次脳機能障害と呼ばれる次のカテゴリーの方たちです。これは、一番典型的なのは、脳梗塞で倒れて、脳の、読み書きあるいは言語に関する部分が障害をおったと言う方たちは、読めなくなることがあります。でも聞けば分かるという場合があるはずなんですね。そこを切り替えて自分に必要な情報をどうやってアクセスするのかというところのチャンネルが、今ほとんどありません。脳梗塞のリハビリテーションのプロセスに、録音図書をどういうふうに活用して、その方たちが従来できてきた、調べ物をしたりとか、読書をするとかという部分を、いったいどうやってサポートをするのかということは、残念ながら、これまであまりきちんと研究も行われておりませんし、医療あるいはリハビリテーションの現場でも、きちんとそういったシステマティックな方法が導入されてるとは言い難いと思います。

高次脳機能障害のもう一つの大きな原因は、転倒あるいは交通事故による頭部の強打、そういったものがあります。脳外傷というふうによく呼ばれます。
ですから私共は、DAISYを普及する立場としては、何とかそういう非常に日常生活においても色々な困難が出ますので、そういったリハビリテーションの中に、情報を自分で自由に選んで理解していく、そういうチャンネルをどうやってつけていくのかというところにシステマティックに貢献する方法はないものかと、考えているところです。
これはまだ国際的にもあまりきちんと取り組みは進んでいない分野です。
実際に出来上がったものというのは、サービスの提供者の手を通じて提供されていくわけです。図書館とか、学校とか自治体とかであります。

自治体というのが、実は非常に大きな問題を抱えています。
先程津波の話を申し上げましたが、日本は全国で1,000にちょっと欠ける位の自治体が海岸線を持っています。沿岸自治体と言ったらいいのでしょうか。3,000ちょっとある自治体のうち1,000位が海に面しているのですね。津波の危険が全てあるのです。
この中で浸水予測図と言いまして、水が津波等の時にどこまで入ってくるのか、浸水予測です。この浸水予測図をきちんと持っている自治体というのは、10%に充ちません。90%位は持っていないのです。
ですから、気象庁は津波警報をすぐ出します。インド洋の津波の時に日本は進んでいるというふうによく言われました。警報を出す仕組みは進んでいます。でも、津波が30cmの津波ですと言われた時に、それぞれの地域で実際にどの位の高さの津波になるのか、ということは誰にも分からないのです。これは地形によって全部違うわけです。30cmの高さのものがずっと深く入り江になって深い入り江が、リアス式海岸なんかで、三陸とか伊勢志摩のように深いまま、最後こうせばまったところに、30cmの波が、全部海面が30cm浮き上がって押し寄せてくるわけですから、そこがどんどん狭い奥に向かってくれば、10mにでもなり盛り上がってくるわけです。
そこに川があれば、海岸線からいくら遠くても、そこの川に沿ってその高さが上がってくるわけです。それは浸水予測図というのを作って、どこまでくるのかと予測しておかないと、絶対に分かりません。
同時にそれぞれの地域に標高、ちゃんと海面からの高さを記しておいて、どっちの方向へ逃げれば高い所へ逃げられるのか、ということが事前に分かっていないと助かりません。
そういった対策というのはほとんどの今の沿岸自治体で行われていないのですね。
では行われたとします。行われたとして、それを、今度は一人も逃げ遅れないで済むように、ちゃんと避難出来る体制というのは、次のもう一つ大きな課題になります。
身体障害の方で、高い方へ向かって逃げるというのが難しい方がいっぱいいます。車椅子の方は、段差が無くても傾斜を出来るだけ早く高い方へ登るというのは、自力では不可能という方がほとんどだと思うのです。それから、肢体不自由の方は当然そうですし、後は視覚障害の方、あるいは聞こえのない方は、警報が鳴っても聞こえないわけですから、そのチャンネルをどこにつけるのか、そして最後に残るのは認知・知的障害の方たちなのです。一見、外見上、支援が必要であることが分かりません。その時に、どこへ逃げたらよいのか、その時に自分の安全を確保するにはどうしたらいいのか、というのは、計画を立て、普段から練習をして、その時に対応をする、必要な場合には必要な支援を受ける、ということがなければ間に合わないわけです。
ここで自治体というふうにとらえているのは、自治体はどこも住民の安全に責任を持つ、という責務を負っているのです。安全に責任を持つということで、今やっているのは、防災の手引きというのを大抵作っています。パンフレットですね。非常に難しいのが多いです。それから、大抵地図がそこにあります。地図はあるけれども、どういう災害の時にどこに避難するべきなのか、ということがほとんど書いてありません。避難所はこことこことここにありますよ、ということなのです。
私が今一緒に、障害のある方たちの防災の研究をやっている北海道の沿岸の町では、ある時津波の警報を出しました。それでみなさん避難して下さいと言って、それでまさかと思いながら、町の役場の人が、海沿いにある避難所に電話を入れたのですね。もしかして、そこに行ってしまっている人がいるかもしれない。まさに海の極にある避難所です。
それで2箇所に何人かづついたっていうのですね。津波の避難警報を出して、それでぱっと逃げようといって、逃げた先が海岸の避難所だと。これはその時は笑い話になってしまったのだけれど、これはやっぱりとんでもないねと。やっぱり避難所というのはどういう避難をする時にはどこに行ったらいいのか、ときちんと訓練しないと出来ないねということだったのです。
つまり、そういった命にかかわるような情報を発信し、住民に普及する責任が、実は自治体にあるのですね。DAISYというのは、そういった時に、誰にでも分かる情報源となる、そういうチャンスが一番高いものというふうに考えています。
一つ作って、それを更新しておいて、それでみんなに分かるように提供する、というところに一番向いているものだと。それ以外のもので作ると、別途に点字版を作ったり、録音版を作ったり、字幕用のものを作ったり、それぞれ作らなければなりません。
でもDAISYのマルチメディアで作っておけば、みんながそれを使って普段から理解し、そしてアップデートがあれば、その一つの新しい版をみんなで配って、もう一回どこが変わったかを学習しておくことが出来るだろうと思います。

こういったものが今、印刷・出版あるいは放送というところにも、いくつかニーズがある、ということが分かってきております。
国際協力団体、日本財団、先程申し上げましたが、他にJICAとか国連の太平洋・アジア地域の協力委員会でありますESCAP、あるいはWorld Bank・ユネスコなどでもそろそろ注目を集めてきております。
国別の導入状況でいきますと、日本は視覚障害者への普及ではダントツです。世界一です。というのは、視覚障害者が、自らDAISYの録音を出来る機材を、無償で配っていると。世界中の視覚障害者から羨ましがられております。
この視覚障害者の普及状況と、それ以外のDAISYを必要とするであろう人々への普及状況のギャップ、というのが日本の特徴です。
それからスウェーデンの中では必要な人たちにまんべんなく普及しております。確実に進歩を遂げておりまして、特にスウェーデンではFMSという団体、これはDyslexiaの方々の当事者団体です。カテゴライズが色々難しいのですね。Dyslexiaと呼ばれている人たちと、LD呼ばれる人たちと、どう重なり合うのかと。でも多分広く定義すると、スウェーデンのFMSのオーガナイズしているDyslexiaの人たちの団体には、その周辺というか類縁というか、連続的に色々なつながりのある障害のカテゴリーの方たちが含まれているだろうと私は思います。
よく障害別に、例えば自閉症の場合、皆さんの中にご専門の方がいらっしゃるかと思いますが、自閉症はオーティズム(autism)、オーティズムスペクトラムディスオーダー(autistic spectrum disorder)という言い方なんです。自閉症とその類縁の症候、ということですけれども、これはすごく広い範囲のオーティズムの定義がされているのですね。この一番広い範囲で自閉症を定義すると、日本での推計の人数はどの位になりますという話を、議論をしたことがあるのですが、総人口の1%位だろうと言われる方がおります。びっくりするほど多いですね。
もう一方で、文部科学省が昨年報告を致しました、特別支援教育が必要な児童・生徒がどれだけいるかという中で、だいたい都道府県によって、ちょっと違う数字を出したりしていますけれども、最低で5%ですね。これは、あらゆる意味での特別な支援を要する、ということですから、身体障害の方も含めているわけです。
そして、デンマークがかつてDyslexiaについての統計を出したことがありますが、それは総人口の1%というふうに確か言っていたと思います。
アメリカでは、LDの人がどれ位いるかと、このRFB&Dに聞きますと、総人口の10%位だと。これを見ても、もうすでにお分かりのように、境目というのはそんなに問題ではないというか、あまり定義しようと、思ってもそれぞれの国によって随分違うのではないかと思われるわけです。
基本的にこのFMSというのは私のお付き合いしている限りでは、読みに障害のある方、いわゆる身体障害ではなくて認知・知的障害で読みに障害のある方々の、要求全部を代表して活動しているように思われます。
自分たちではDyslexiaの当事者主体の団体である、というのが定義ですけれども、実際には知的障害、あるいは認知障害の要求を、幅広く含んでやっているように思われます。
そこで出てきている最大の要求の特徴は、動画です。動画を文章表現とシンクロナイズして、表現に使ってほしいということです。それは、今のDAISYの定義にははっきり規定されていないので、そこの部分をさらに開発してほしい、ということになっております。他の国の状況はスキップ致します。

この後、どうしてDAISYだと様々な要求に答えることが出来るのか、ということの一つの根拠というか、証明というか、その代表例として、AMISというものを取り上げているわけです。
DAISYはコンテンツなのですね。それをどういうふうに読むかというのは、間にユーザーインターフェースというのが必要になります。分かりやすく言えば、読み方ですね。ですからその一つのコンテンツを、色々な工夫をして読む。その色々な工夫をして読むその工夫に、ありとあらゆる工夫を許容する、そういう仕組みになっているということになります。
多様なユーザーインターフェースが可能なものの代表としてAMISがありますけれども、これはもっともっと他に、より多様なものが出てくる予定です。
AMISも、いわゆるコンピューターを使って読む仕組みです。それだけ一つの限界があります。
この【PTR1】とさっき申し上げましたが、【PTR1】を使っている人は、誰も自分がコンピューターを使っていると思っていません。実際はコンピューターなのですけどね。中には、ポケットコンピューターと同じタイプの、スイッチオンで起動し、電源をパシッと切れば仕事をやめるコンピューターが入っているのですね。
つまり、普通コンピューターというと、キーボードがあって、画面があって、立ち上がりの間ちょっと時間がかかって、最後シャットダウンをしないと壊れてしまう、というすごく慎重に使わないと上手く使えないというものが、そういうコンピューターですね。
でも機械と同じように、パシッとスイッチを入れてすぐ使えて、スイッチを切れば使うのも終わりとしたら、あまりコンピューターという感覚がないですよね。
つまり将来のDAISYの、もう現実にもそういうものがあるのですけれども、ユーザーインターフェースの中には、全然コンピューターらしくない、実際には中にコンピューターが入っているけれども、コンピューターらしさがない、使いやすいインターフェースというのも入ってきます。
おそらくスケジュール管理やなんかをやっている、PDAと呼ばれるポケットコンピューターがありますけれども、あれに、近い将来AMISがのっかってくるというふうに思います。
この、普通、今コンピューターで仕事をしているAMISが、スイッチオンオフで使うことの出来るポケットコンピューターにAMISがのると、また随分違った使い易さが出てくるというふうに思います。
そういうふうにコンピューターそのものが見かけ、使用上の感覚というのが違ってくるというふうにいえます。

これから研究開発をするチームはどうなっているのかということをちょっとお話したいと思います。
研究開発課題としては、先程ありました動画とか、それからインターネット上に置いてあるものを、これといって選んで、辞書だったらここというふうにピッと選んで、それで読む、そういう、ナビゲーションと呼んでおりますが、ある特定の自分の読みたいところをピンポイントで探し出してそこを読む、それをインターネットでサポートする、というふうなところが課題になります。
その時にそういうものが出来ると、教科書、教材、試験問題といったものがそこにのっかるということによって、今、日常生活にある様々なハードルになっているものというのが、どういうふうに変わるだろうかということを、やはり研究し、開発し、これを実現したいというところを、改めていくというのが重要だと思います。
それから、もう一つが命を守る緊急災害の情報ですね。これは、今後、デジタル放送が2011年までに世界中を覆って、今のアナログのテレビ放送が無くなります。それまでに完成させないといけないだろうというふうに思います。
その出来上がったデジタル放送網が、どういう障害を持つ人も完全に使えるものになるということで、技術的に一番今可能性が高いものというのが、動画をサポートするDAISYであるというふうに考えております。
それから、障害者の支援・技術という形で、これまですすめられてきているものを、もっと最初に出版する段階で、あるいは放送する段階で、全ての人がアクセス出来る、同様に理解出来る、そういうものに高めていく。それをメインストリーム化と呼んでおりますが、かつて公害の歴史を振り返ってみますと、熊本の水俣病などの時には、排水の規制があって、その規制を違反していなければ、会社は責任を問われない、というふうになっていた時期があると思います。
会社自体は、排水の濃度で調べると規制はクリアしていると。でも結果として災害は起こり、人の命が失われた、というふうな環境汚染が引き起こされたとします。そうすると、やはり社会としては、それはなんとか解決しなければいけない問題であるわけです。
私の目からみると、DAISYの技術がもうあり、実際にそれが簡単に、出版や放送に応用出来るということが証明出来た時に、さらにそれを積極的にしない、あるいは、それを補完的に、ボランティアグループやなんかが、もとの出版社がやらないのであれば、自分たちがそれを非営利で肩代わりしてやりますよ、というボランティア活動、そういったものを許諾しない、許可しない、著作権を盾にとって許可しない。そういったようなことは、かつての公害の歴史と照らし合わせると、やっぱり社会的にみておかしいのじゃないかと。
つまり情報というのは、益々人の日常生活にとって、抜き差しなら無い重要なものになってきているわけですね。その情報にアクセスできなければ、社会的にきちんと自立することが難しい。その情報をアクセス部にするというという技術があり、方法があるのに、それをしないで、アクセスできない情報だけを提供していく、ということは、環境を悪化させている、ということと、何も変わらないというふうに、私には思えます。
従ってやはり何らかの放置しておいて、それが改まらないものであれば、法的な制度というものを準備しなければならないのではないか。
これは、非常に今地球環境をどうするのかというテーマがありますが、その中の一つとして考えていいと、そういうテーマであろうというふうに思います。私たちの情報環境をどうするのかと。
そういう意味で、これは可能なんだということをきちんと証明するというのが、私の、これを開発するものの責任だというふうに考えております。その上でメインストリームを変えていく。
そして情報が発信された途端に、そこから阻害されていく人を最終的には無くしていくということが、今後の在り方であろうと考えております。
従いまして、障害者を支援する技術としてのDAISYから、どうやって出版・放送・情報メディア全体をアクセス部にしていくメインストリームの技術にしていくのか、ということが開発の課題になるわけです。

それらを実際に進めていこうとしている団体はDAISYコンソーシアム、これはもうDAISYそのもので作っている団体です。
それからアメリカにはANSIという、日本のJISにあたるような規格を作っている団体がありまして、DAISYはすでにANSIに登録された規格になっております。
とてもDAISYとは思えない名前なのですけれども、一応ご参考までに。
ANSIのZ39.86-200Xというのが名前です。このXというところは今2ですがこれは4に変わろうとしていて、いずれ6になります。2年に1回改定があります。
ANSIの中にこれを管理する委員会があるわけです。DAISYコンソーシアムから半分以上がその委員会に入っています。DAISYコンソーシアムメンバーが多数を占めているのがZ39.86を管理する委員会です。
従って、こういう形でアメリカとDAISYコンソーシアムとが全く違う企画を開発しないようにする仕組みを、今作っています
それからインターネットのWebの規格を管理している団体で、W3Cという団体があります。これはXMLとかHTMLとかの規格を管理する団体です。
そこにSMILのワーキンググループというのもあります。SMILと書いてスマイルと読みます。最終的には、このSMILの中にDAISYの規格というものを確立していくのが一番いいんだろうというふうに考えて、私共は取組を進めております。
このSMILというのはW3Cの規格ですので、世界中のWebのコンテンツを作る人たちがこれを使う規格になります。
このSMILのワーキンググループという作業部会がありまして、そこの中で私共の国立身体障害者リハビリテーションセンターが音頭をとりまして、オランダにありますCWIという国立の研究所と、フランスのINRIAインヤと呼んでいる団体と、さらにDAISYコンソーシアムとこの4つのそれぞれ非営利団体になるのですが、SMILを使った情報のアクセシビリティ、特にマルチメディアを全ての人がアクセス出来る情報のツールとして、今後発展させていくためのチームを作りました。
これが、これから共同で研究開発をしていくというのが、今後の開発の予定であります。
途上国に対しても、DAISY for All project というのが、日本財団の助成でスタートしておりまして、これまで5カ国、そしてさらに来年はインドネシア・パキスタン・バングラディッシュ・ベトナムといった国々に普及が展開する予定です。

最後に写真をいくつか出しましたけれども(*パワーポイントファイル参照)、真ん中で手を振っている方が、ちょっと遠くて見えにくいかと思いますが、ビルゲイツさんです。
ビルゲイツさんが、去年の11月に、世界中から75人DAISYについて意思決定の出来る人を集めてほしいと、マイクロソフトの本社で集まりました。
それでビルゲイツとしては、マイクロソフトはDAISYを応援したいと。ついてはマイクロソフトとして何をしたらよいか、要望を出してほしいという話がありました。
結果的に、マイクロソフトがこれから出そうとする次のOS、Windowsの次のを開発しているのですが、それがDAISYをきちんとサポートしてほしいと。つまりそれがのっかっているパソコンであればDAISYが読める、DAISYをストリーミングでどこかのサーバーにあるものをダウンロード出来る、というふうにしてほしいというようなことが要望の結論でした。
その時にビルゲイツさんが強調していたのは、コンテンツを違法コピーから守る仕組み、Digital Rights Managementと呼ぶのですけれども、DRMと略称しております。これがとても大事だと,講演の中で言っていたのですね。
それはそれで主張は分かるのですが、やはり企業としてマイクロソフトが見ているコンテンツの世界というのは、全てコピーライト、著作権のあるものの世界のモデルで見ているのだなという限界も、そこに出ていたと思います。
つまり、映画とかドラマとか、そういったものに鍵をかけて、お金を払ったら見られるという仕組みにしたいのも、分からないわけではありません。
それは普通に本屋さんに並んでいても、レコード屋さんにあっても、お金を払ってみんな買うわけですから、それを障害のある人だからといって必ずただで手に入れさせろというふうに、私共は言っているわけではないのですね。
余分な待つ時間とか、余分な費用とかを払わないで、そういうものがアクセス出来るようにしようというのが、業務的な要求です。
もう一つ、もっと大きいことは、津波の今回の事件で非常に明らかになりましたけれども、命にかかわる情報、急いで同時に手に入れなければ間に合わない情報が、世の中にあるわけです。
情報のネットワーク、あるいは情報の提供、アクセスを考える、考え方のモデルを変えなければいけない、ということを今回の事件は明らかに示しているわけですね。
津波に関する情報に、誰も著作権なんか主張するわけがないですよね。
その情報を次々に分かる形で加工したり、もっと広げたりするのを、誰もとがめたりはしないし、むしろそうしなければいけないわけですよね。
つまり違法コピーをさせたくないという思いが、全部に行き渡っている情報の仕組みしか考えないのでは、将来に、私共が考える、誰もが対等に情報を受け取れる仕組み、というのは構築するのは難しいだろうと。
むしろ逆に障害のある方もない方も同じように自分の身を守る、そういうことが可能な緊急情報のアクセスをモデルにして、その上にさらに、必要なところには何か付け加えて、そういう違法コピーを防ぎたい、というものだったら、それはそれでやったらいいのではないかと。
つまり主客を転倒して、まずは誰もが共通に入れる広場を世界中に構築する、という発想からやっていかないとだめなのだろうということを、その会議の中でも思いましたし、そういう発言もしたのですけれども、いかんせん世界中のほとんどの人が、情報、あるいはインターネットによる情報の共有を考える時に、著作権のあるものをどうするのかということばかり考えております。それが現実です。
ですから、それに対して、今、初めてグローバルなインパクトを与えるような情報がとにかく大事なのだと。特に、外国人でプーケットにいた人が多く遭難しています。おそらくタイ語で逃げろとか、あっちへ、高い方へ行けとか、津波がきたとか言われたって、誰も分からないだろうと思うのですね。タイ語を知らない人は。
そこで、初めて自分に必要な情報が自分に分かる形で手に入らないと、大変悲惨なことになるということが、世界中50カ国位で今回被害が出ておりますので、グローバルに共有できたと思うのです。
多大な犠牲をはらって、私共はそういうことを悟っているわけなのですけれども、この犠牲を無駄にしないで、そういう時に備えるという意味も含めて、さらに誰もが同時にアクセス出来る情報、その仕組みをグローバルに作るということの大切さと、具体的な手法というのを、確認していくことが必要なのだろうというふうに思います。

みなさんがこれから取得されるDAISYの製作というのは、今ある製作ツールを活用してやる、非常に現実的なのですけれども、今までのツールを活用して作る作り方です。
おそらく、その中で、DAISYというのはどういうものかという原理をしっかりつかんで頂くことが、何より大事なのだと思います。
いつまでも自分が作らなければいけないのがDAISYだというふうには、思って頂きたくないのですね。
それは、どんどん、技術ですから、進歩させることができます。
そして、先程申し上げましたように、出版のところから変わっていけば一番いいわけです。情報発信のところが変わっていく。
つまり、自分たちが、これはこういうふうに使えるし、これ以外ではこういうニーズには答えられない、ということに確信をもつ、ということが、本来そういう情報提供を最初からするべきところが義務を果たしていくために、要求を出していく根拠になるのだと思うのですね。
その間もニーズは毎日あるわけですから、出来るところからこつこつやっていくと。
そして、でも、最後のゴールは、どんなところが出す情報も全ての人にアクセス可能になっていくという、その入り口が、ここから見えるのではないかということを、実感して頂きたいと思っています。

(質問者1)
OS方向無いと言ったのですけれども、これはどうしたらいいんでしょう。
例えばOSはXPとか2000とか話されましたけれども現実的にそういうのがベースで開かれていくのではないのでしょうか。

(河村氏)
実際何かを作る時には、そういうものの上に作るしかないですね。
でもXMLなんかが一番代表だと思うのですが、UNIXを使う人もXMLを使いますよね。MACを使う人もXMLを使いますよね。
だから、後はそういう違うOSの上でちょっとそれに足す作業をすると、そっちの系でも使えるという言う意味になります。

(質問者2)
まだ動画に関するコンテンツが使えないというお話ですが、
その辺の方向性と、だいたいの実現の可能性、時期をお聞かせ頂ければと思います。

(河村氏)
動画に対応したDAISYのプレゼンテーションというのは、実際には今でもできます。できますが、DAISY規格に無い部分が、そこに入るわけですね。そうすると、それを他のところでDAISYプレーヤーと呼ばれるものへ持っていっても、動画の部分は再生できないという意味です。
動画の代わりに静止画像、これはDAISYで使えるわけですよね。先程ご覧になりました。現実に教科書とか出版物とかは、静止画像しか入っていないわけですよね。それも絵本に近いような形の、グラフィカルな表現が中心になって、いくつかの静止画像と言葉があって、最小限のテキストがあるというようなものは、言語的なコミュニケーションがかなり難しい方でも、よく理解出来るという、これまでの体験的なものですね。いわゆるどういうふうに理解したかということを、脳科学的に証明したものは、まだありませんけれども、体験的にそれを見て、理解ができて、ある行動が出来るようになる。
例えば電車に乗るという一つの行動の目的がありますね。新幹線に乗るためにはということで、いくつかの場面をグラフィカルに表現して、そこで切符はこういうふうに買うとか、乗る時の改札はこうやって通るとか、というのは静止画像でもかなりできます。
ですから、そういったものを組み合わせて、何色かの絵と説明の文書及び言葉でもって、今はやっているわけです。
それが、今度は説明があって、少し動きがないと分かりにくいものというのが、多分あると思うんですね。
それから、重度のオーティズムの方なんかには、言葉による表現だけではどうしても分かりにくいというケースがあります。
特に、火事の時には、部屋からこういうふうにして外へ出ましょうという場面を想定したとします。
静止画像を組み合わせて作るということは、もちろん出来ると思いますが、もう一つは、それの上に一連の流れを、全部動画で示すというものがあったらもっといいな、というふうに思えるわけですね。
ですから、より今のDAISYでかなりのところまで出来ると思いますけれども、現実に、いくつかの重度の自閉症の方に支援をする人たちが、今静止画像のDASIYで色々なマニュアルを作り始めておりますが、そこに動画があったらもっとスムーズに見えるというふうに思います。
あと、セルフビデオモデリングという言葉をお聞きになったことはありますか。お聞きになったことがある方は、ちょっとお手を頂けますか。
これは、重度の認知あるいは知的障害の方たちに、今アメリカでかなり取り組んでいるやり方なんですけれども、一つの作業をみんなで支援しながらやっているプロセスをビデオにとるんですね。それは本人が登場しているわけです。
最後に、間に色々やっているのを全部切って、本人が自分ですーっとその作業が出来ているように、編集してしまうわけです。そうすると、一連の動きというのは、主人公が本人になっていて、スーッと動いて、こうやって実現するというプロセス全部が、なめらかに最後出来上がるのですね。
これが非常に有効だというふうに、私共はアメリカから聞いているのですね。アメリカの共同研修者たちから。それを入れられないのかなというふうに思うのですね。このビデオセルフモデリングというのは、どうしてもスムーズに実時間で動いているという必要があるので、そこを静止画像に細かく分けるというのはちょっと難しいので、これを是非色々なプロセスに入れたいということもありまして、色々な意味で動画が絶対必要と、だけど今の静止画像でかなりのところまでいけるだろうというふうには考えております。

(2005年1月7日 青森県民福祉プラザにて収録)

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