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DAISY 教科書提供の取り組みと現状について

 野村 美佐子(日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長)

 日本障害者リハビリテーション協会、情報センターの野村です。こんにちは。明日がクリスマスになりますけれども、ようこそいらしていただきました。これからDAISY 教科書の取り組みと現状についてお話しします。先ほどネットワーク会議が終わったところなんですけれども、そういった方々の協力の中で行われているDAISY 教科書の提供事業についてお話しできればと思っております。

 「DAISY とは」というものを一応用意してまいりましたけれども、皆さん、すでにおわかりですね。 DAISY というのはDigital Accessible Information System の略で、日本語ではアクセシブルな情報システムと訳されます。DAISY は、最初は視覚障害者のためのデジタル録音図書の規格だったのですが、だんだん開発が進むにつれてさまざまな障害、具体的に言いますと「print disability」という言い方をしているんですが、印刷物を読むのが困難な人々のために製作をするデジタル録音図書の国際標準規格となっております。そしてそれが米国の標準規格として認定されております。ただしアメリカだけの規格ではないことはご理解いただければと思います。

 それから、DAISY コンソーシアムがDAISY の開発と維持を行っています。現在ここにいらっしゃいます河村宏さんがDAISY コンソーシアムの会長となっています。

DAISY 教科書の取り組みと現状について

資料01

 DAISY 図書の種類には、大きく分けると三つあります。音声DAISY、テキストDAISY、マルチメディアDAISY という三つです。これは皆さんご存じでしょうか? 皆さんの後ろの方でデモをしている方々がマルチメディアDAISY、あるいは音声DAISY を見せてくれるか思います。また、テキストDAISY も 見せている方がいるとのことなので、後で体験していただければと思います。

DAISY 図書の種類

資料02

 それから再生プレーヤーはいろいろあるのですが、iPad はこのスライドの中にないのですが、後方で、iPad でもiPhone でも使えるというソフトを見せてもらえますので、ぜひ試してみてください。

再生プレーヤー

資料03

 それでは、本題のDAISY 版教科書の提供活動についてお話をさせていただきたいと思います。

 この活動をして一番私がたぶん勉強したというか、学ばなければならなかったことは、著作権でした。常に著作権と一緒に歩いているという感じがしていました。

 そもそも始まったのは2008 年9 月。「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進に関する法律」が2008 年6 月に公布されまして、9 月に施行となりました。それから著作権法第33 条の改正がありました。そのことをきっかけとしまして、マルチメディアDAISY による教科書を小学校と中学校の発達障害、つまり視覚障害者以外の児童と生徒に提供を始めました。

DAISY 版教科書の提供活動(1)

資料04

 2010 年4 月には、先ほどの著作権との絡みもございますけれども、教科書バリアフリー法に基づいて、教科書出版社から私どもにデータ提供が始まりました。今までスキャンしていたのがPDFになるだけで、それでも私たちにとっては少し負担が軽くなりました。そしてDAISY 製作団体の協力で製作をして、利用者へCD-ROM による配布といたしました。

DAISY 版教科書の提供活動(2)

資料05

 そして2010 年1 月、今年の1 月でしたが、もう1 年終わってしまいますが、本当にいろんなことが起きて忙しい1 年間だったなと思います。著作権法の37 条ですが、特別な支援を必要とする児童・生徒のニーズに合わせた形式でマルチメディアDAISY 図書を複製、自動公衆送信がこの著作権法の改正により可能となりました。

 施行が始まったのは1 月です。実はうちは作れる施設ではなかったので、政令指定になるためにすぐに申請を行いました。文化庁から回答がなくネット配信ってできないのかなと思っていましたが、2010 年4 月に著作権法37 条3 項の政令指定を受けました。

 それから2010 年5 月になりますと、今度はDAISY 教科書の提供方法が変更になったんです。それは受ける方にとっては、とても良い変更だったように思います。三つあります。最初に、障害のある児童・生徒は在籍学年よりももっと下の学年のDAISY 教科書が欲しいと言った場合、利用することが可能になりました。そして先生が障害のある児童・生徒の指導のために工夫が必要だということで、DAISY 教科書の利用が、先生も可能になりました。それから、障害のある児童・生徒がいる学級では、先生は必要に応じて一斉授業でも利用可能になりました。ただし、積極的に障害のない児童にこれを示してはいけないと但し書きがついていました。それでも一斉授業でも可能になったんですね。ただしそのための先生の工夫はとても必要だなとは思います。

 それから2010 年の10 月に、実は、政令指定を受けた4 月から文科省とのやりとりがあり、なかなか許可が下りなかったのですが、一部制限はあるけれど37 条3 項によりネット配信の許可をもらうことができました。そして今、ネット配信、つまり、利用者はDAISY 教科書のダウンロードがサーバーから可能になりました。

 そういった過程では国会議員に会ったり教育委員会の方に会ったり、いろんな方にお会いしましたが、ある党の方が、かなり積極的にDAISY 教科書の普及にご協力いただいたことで、かなり関係者の皆さまの理解や協力が始まったように思います。

 現在、DAISY 教科書に協力していただいている製作団体ここに挙げさせていただきました。リハ協だけではないんですね。このようにリハ協を含めて12 団体になりましたが、これだけの団体が参加しています。

 さっき申し上げました12 団体の方は、ここにいらしております。その方々がいなかったら、私たちはこうやって630 名の方に提供できなかったわけです。それぞれの団体の名前を挙げますので団体の方は手を振っていただけますか?

 最初に奈良デイジーの会、それからデジタル編集協議会ひなぎく、富山大学人間発達科学部森田研究室、デイジー江戸川、支援技術開発機構、かかわり教室、今日は体調が悪くて欠席です。それから、こみこみドットコム、日本ライトハウス情報文化センター、朗読奉仕グループQの会、調布デイジー、やまゆり、それからあおもりDAISY 研究会です。ネットワーク会議をすると、代表の方々だけでも二十数名という大人数になるくらい、そういう方々の支援、ご協力によりDAISY 教科書が提供できているわけです。

DAISY 教科書製作協力団体

資料06

 現在の利用者は、ネット配信あるいはCD-ROMによる提供ということになっています。

 ではどういう生徒たちが利用者だろうって気になりますよね。例えば特別支援学級、特別支援学校、普通学級、普通学級プラス通級指導教室。皆さん、「通級」とおっしゃいますけれども、通常学級のための取り出し授業を受けている通級指導室のことだそうです。私も最初はわからなかったんですが、通級指導室に通う生徒さんが利用しているということになります。

 それからどういう障害かと申しますと、やはり発達障害の方とか、広汎性自閉症の方、上肢障害の方もいらっしゃいます。

 では依頼はどこから来ているかと申しますと先生が約400 名、そして保護者が約200 名です。最初はほとんど保護者からの依頼だったのですが、今は逆に先生が多くなっています。多分ほとんどの先生が通級指導室にいらっしゃるとか、取り出し授業を行っている先生から依頼があるように思います。

現在(2010年12月)

資料07

 利用方法としては、アンケートにも書いてありますが、個別学習、家庭でやられるわけですね。家庭でやられる場合も、一人でやる場合と保護者が「あなたやらなきゃダメよ」とやる場合があるようです。通級指導室の場合もあります。そして本当に少ないんですが、通級、つまり普通の学級で利用しているところもあるように思われます。

 では製作した教科書の数はどれくらいあるかと申しますと約140 冊になります。これは内訳がございまして、光村の教科書って上下に分かれていますよね。上を1 冊、下を1 冊と数えまして、140 冊ぐらいになっているわけです。小学校は国語、社会、理科、算数の教科書を、中学校は、国語、歴史、地理、公民、英語、理科、音楽の教科書を作成しました。

 そういった状況ですけれども、どのような効果があったのだろうと思いまして、今年の12 月上旬に、630 名の利用者に対してアンケートを行いました。郵便とメールの発送でおこないましたが、12 月上旬ですとそんなに時間がたっていないので、「こんな忙しいときに」と思ってらっしゃる方も多かったと思うのですが、利用者154 名のアンケート結果が返ってまいりました。こちらを見ていただきますと、こちらにアンケート結果が出ていますので、見ていただきたいと思うのですけれども、細かく結果を示してございます。

 特に12 月に行ったアンケート結果からとしまして、利用者について実際にアンケートに答えた方は先生及び保護者です。ですから利用者本人ではないのですけれども、いろんな質問に答えていただきました。

 私が読んでいて一番感じたのは、成果の部分です。読むことへの抵抗感、苦手感、心理的負担が減った。これはすごく大きいことだと思います。発達障害の方は見えるのだけれども読めないという。読めないということは、そこで立ち止まってしまうわけです。DAISY で音を聞くとこれはもしかしたら読めるかなというふうに抵抗感が少なくなっていくのではと思います。

 そして、自分で練習できることによって読むことに関心を持つようになったとか、読むことがスムーズになったという状況があります。その結果、授業に自信を持って取り組むようになったという状況がございます。

12月に行ったアンケート結果から

資料08

 実際、私が会ったディスレクシアの方で、小学校5年生になります。LD という診断がついています。その子はほとんど本も読まないし、ADHD の傾向があり、授業も大変だったそうなんですね。そのためか、彼のお母さんは授業参観に来るのがとても嫌で、絶対来なかったそうです。でもその子がDAISY を使うようになって、自信を持って授業に参加できるようになったということです。連絡帳も、それまで持ち帰ったことがなかったのが、持って帰えるようになって、お母さんのコメントが連絡帳に書かれるようになったということです。お母さんも態度が変わりました。でも実は、態度というか、多分お子さんが変わったので、喜んだのでしょうね。その子にインタビューをしました。お子さんに「読めるようになった?」と聞くと、「ふん」って感じなんですね。どうしようかなと思っていると先生が「言わなきゃダメよ」とすごく言ってくれて、その先生がいなくなった時に、その子が「ハイライトがよかった」と言ってくれたんです。その言葉が聞きたかったと思いました。

 以上のような効果というか成果として申し上げられると思います。

 DAISY については、いろんな工夫をしています。ハイライトの長さを変えるとか、コントラストを変えるための工夫をするとか。そういったものは全部、再生ソフトでできる場合とコンテンツそのものに工夫をしなければならない場合と二つあります。その結果はこちらの資料に出ていますので、皆さんは後でゆっくりとお読みいただければと思っております。

マルチメディアDAISY教科書の工夫

資料09

 では一番の課題は何かについてお話をします。やはり必要としている人がすごく多いということです。だけど私たちは630 名程度しか提供できてないわけです。まだまだ可能性のあるお子さんたち、あるいは50 万とか60 万人と言われる読みの障害の子たちに行きついていないわけです。もっと知らせなければいけないのではないかと思いました。

 ある教育委員会主催の校内コーディネーター研修会に行ってまいりました。大体30 名くらいの方がおりましたが、まず「ディスレクシアを知っていますか?」と聞くとほとんどの方が知らなく、知っている人は3 人しかいませんでした。では、「DAISY は知っていますか?」と聞くと、残念ながらゼロだったんですね。さあ、どこから話してよいのかわからなかったのですが、実際にDAISY をインストールから始めていただいて、体験をしていただいたら、校長先生が「これは本当にいいですね」と言ってくれたのですね。このことは、体験しないとわかってもらえないということを感じました。一生懸命デモをしても、あまりわからない。でも自分が体験すると、何がいいかがわかるのかもしれないということを考えて、まだ知らない人に対してやらなきゃいけないと思うようになりました。

 それから今使っているDAISY の仕様はDAISY2.02 なんですね。ところが最新規格として存在しているのはDAISY3 なんですね。でもまだ2.02 を使っています。しかも縦書きもルビもサポートしていないので拡張して縦書きのDAISY を作っています。そういう意味では、今後の開発が期待されます。この部分については、後で河村宏さんから、うれしいお話が聞けるのではないかと思います。

 来年は小学校の教科書がすべて改訂されます。そのためボランティアでできるかどうか、とても不安です。それからDAISY を使用する環境に不安があります。と言うのは学校のパソコンは、たいてい教育委員会に管理されているので簡単に、AMIS とか再生ソフトをインストールできません。そういった制限もあります。それからパソコン自体も「ありません」と言われてしまって、そうした場合どうしたら良いのだろうかと考えることもございました。そういったことが課題なのですが、課題は実は英語ではチャレンジと言うんですが、「チャレンジ」と言った方が「やってやるぞ」という感じがでてくるので、ここからチャレンジについて話します.

 DAISY 教科書の無償供与に向けた提供システムの確立のために法律や制度を変えてほしいと思います。またDAISY 利用のための環境整備をしてほしいと思います。それから教育委員会による研修がとても必要なんだということを感じています。そしてツール開発費や教科書製作費もいただきたいなと思っています、国には声を大にして言っています。もう2 年間も言っています。なかなかかなえてもらえません。それから先生の協力による好事例の収集、そして外国の先駆的な活動をモデルにした普及をしたいと思っております。そのへんを、河村さんからお話をしていただきます。

 それから図書館の学校支援もあります。学校図書館というのは、意外とできることがいっぱいあるはずです。著作者の許可なくできることもあるわけですから、ぜひぜひやっていただきたいと思います。

 最後に、国連障害者の権利条約の中には合理的配慮、Reasonable Accommodation について書かれておりますが、DAISY 教科書も合理的配慮の一つではないかなと思います。ただしいろんな支援があって初めてDAISY の活用が生きると思います。「DAISY を使えばいい」などとは言っていませんが、「DAISY、DAISY って言われたら、他のものが使えなくなります。」と文句を言われた方がいました。DAISY だけではないというのはあたりまえのことと認識しています。ただ私は、その方に、支援の一つとしてDAISY を認めていただきたかったことをわかってほしいと思いました。

 第23 回障がい者制度改革推進会議というのはご存じですか? わかっている方は手を挙げてもらっていいですか?あまり知られていないのですね。先程申し上げました国連障害者権利条約の日本の批准にむけた会議をおこなっているところです。そこで障害者の権利とか、情報アクセスの保障などについて議論していただいているわけなのですが。

DAISY 教科書提供の課題

資料10

 ここに、皆さん、すでにお持ちになっていると思いますが、「教科書・教材のアクセス問題への提案」のペーパーがあります。私のプレゼンのスライドはパソコンの調子が悪く、お見せできませんでしたが、今、スライドが見えるようになりましたが、私の講演は終わりに近付いております。一番言いたいことは、ここにあります。DAISY 教科書は、支援の保障の一つなんです。支援の保障は人権、ヒューマン・ライツだと言ったかたがおりましたが、だからこそ、それを使って改善が見られなくても、少なくともDAISY 教科書を提供してほしいと思います。もしかしたら読む能力の向上にもつながっていって、人生を豊かにするかもしれないし、プラスプラスになります。たとえプラスでなくても、プラスマイナスの部分でも必要だと考えてもらえばいいと思います。それから第23 回障がい者制度改革推進会議の中で提案した「アクセシブルな電子データでの教科書、教材の保障を国の責任において実現すること」、そして「教科書会社自らが電子教科書を紙の教科書とともに出版することを事前に承認し、一定期間後に認可する。」ということです。この二つが実現すれば、随分、読みが困難な方々の生活とか学習が変わるのではないかという提案をさせていただいて、私の講演とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。