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事例報告 大山 英子(島根県浜田市立松原小学校 通級指導教室)

皆さん、こんにちは。いただいた15分間をフルに使いたいと思います。題を見ていただきたいんですが、これまでの先生方とちょっと毛色が違うかもしれません。私がお伝えできる私ならではのところをいろいろ考えましたところ、こういう題に絞ってまいりました。「田舎にもいます~読みの困難さがある児童・生徒たち」ということでお話をします。

田舎にもいます読みの困難さがある児童・生徒たち

資料01

一人の子どもにとっての、伸びがこうだとかこういう指導をしているというのは、これまで丁寧に先生方がお話しいただきましたので、ダブらないようにしたいと思います。

まず、島根県はどんなところか。大丈夫でしょうか。この画面の右側の奥のところに鳥取県があります。鳥取と島根がどっちだったかなと言われることがあるんですが、そして今年の流行語にもなりましたけど、「ゲゲゲの~」。「ゲゲゲの鬼太郎」で皆さんにとても注目していただいたところは、右端のところ、鳥取県と一番端っこの安来市というところで、奥様の方が島根県の安来市から鳥取の方に嫁がれてのお話でした。島根の下の方には広島県があります。中国地方の一つの県、島根県のことをお話しします。

島根県って、どんなところ?

資料02

東西に長い県ですので、県庁所在地の松江市から西の津和野町まで車で走らせて230km、4時間半。列車で特急で3時間半というところになります。ですから発達障害者支援センターも、国の定めだと、各都道府県に一つずつ設けなさいというところを、最初から島根は二つあります。一つは私たちが今勤めています浜田市、もう一つは出雲市にあります。このように長い県です。ピンとこないと思いますが、東京を起点に考えていただくと、上の方にはずずっと上がって福島まで。西は神奈川も静岡も通り過ぎていただいて、岐阜まで行くという距離です。そこに人口70万ちょっとくらいの島根県民がおりまして、浜田市は6万人です。

なぜそんな話を今するんだろう。それを聞いて何になるんだろうと思われるかもしれませんが、浜田市くらいの自治体というのが全国で8割を占めています。ですからそのくらいの規模で教育委員会が存在するということです。

先ほどもありましたが、教育委員会がどれくらい本気になってくださるかとか、そこの市議さんたちが、そういうことだと本気になってくださるかが大事だと、先生たちがお話しされましたけど、それを身にしみて感じているところですし、うちの島根でできていること、浜田市でやっていることというのは、それぞれ持って帰っていただいても身近なところで通用するのではないかなと思うのでお話しさせていただきます。

ただ、どんな県かと言われたら教育過疎です、限界集落です、という言葉で表現するのがぴったりかもしれません。限界集落って一体何? と言われるかもしれません。準限界集落というのが55歳以上が50%以上。そんなものはとうに通り過ぎています。超高齢化社会、65歳以上が4人に3人というような島根県です。でも大事な大事な子どもたちがいますので、私たちは一生懸命にその子どもたちを育てているところです。

これは取り立てておばあちゃんに写真を撮りたいと言って撮ったものではなく、車を停めてふっと、風景を撮ったもので、これが日常です。そして統廃合を繰り返していますが、なかなか財政が追いつかなくて小さい学校もありますし、地元には統廃合して学校がないというところもある。30分ぐらいかけてスクールバスで町に行って、4~5校が一緒になった新しい学校で勉強している子どもたちもいます。

おばあさん1

資料03

島根のことをお伝えしますけれども、ここで6.3%という数字は、平成19年くらいからですかね、何回も何回も使われてきたと思いますし、これぐらいの子どもたちが特別な支援を必要としているだろうというところですが、あってないような数字です。3人しかいないクラスでも、2人、発達障害の子どもたちがいるクラスもあります。実際、兄弟関係もあり双子さん1組ともう1人で3人のクラスというのもありますし、1人でも支援が要るときもあります。100%のときは100%ということなのです。この6.3%というのは、私たちのところでは?の数字です。

島根のありのまま

資料04

それから、田舎の事情として物的環境、人的環境は十分ではありません。もう一つは、田舎ながらの風土というのがあります。さっきのおばあちゃんもそうですけど、この夏で沖縄を抜いて、島根県は長寿一番になりました。それは誇らしいことなんですが、ひきこもりもほとんど一番に近いと思います。出にくくなった子どもたち、青年も含めて、ひきこもりになった場合、なかなか出られません。就職するとかしないとか、学習をもう一回やり直すとかのその前に、まだ終業式も来ていない日中には、おうちから学校のやっている時間に家を出ることはできません。そんな事情がある中で、勉強したいとか、もう一回やり直したいと思っている子も、島根県の中にたくさんいます。そんな風土を抱えた、いい意味でも、悪い意味でも、人に関心があったり、注目を浴びたりする島根県です。

そんな中でも、島根県教委をあげて一生懸命やっていることの一つに、特別支援教育があります。特に通級指導教室というのは平成5年の制度化のところから、全部、聞こえの教室、ことばの教室を、通級指導教室にかえて私たちはやってきました。そしてさっきお話ししたように70万人いくかいかないかというところで103人の担当者が県下を駆けめぐっています。そして6万の人口の浜田市で9名の担当者(教員)が動いています。通常の学級に籍を置いてLDやADHDのお子さんがそこで学習するように、必要な支援があったら通級指導教室で受けるようにというのが、国からの指示ですので、私たちの役割は大きくなると思います。

島根県の通級指導教室

資料05

これはうちの学校です。190人のところです。もう一つ後ろに大きな建物がありますが、全くそれは使わず、手前の校舎でやっています。こういう教室があって、プレイルームがあったり、それぞれの個別ですることがあったり、職員総がかりでやっているという通級指導教室です。制度についてもう一つ。それ何? という方もいると思うのでお話ししておきます。通常の小中学校のところからで、自分の学校にいる子どもたちは自校通級という形で来ます。ない学校の子どもたちは他校通級という形で親御さんに送っていただきます。これはきちっと制度化されています。文科省に届け出て自立活動ということで行っています。教育課程を変えて勉強に入っています。

浜田市立松原小学校通級指導教室

資料06

通級指導の形態

資料07

もう一つ島根独自では巡回指導というのも平成5年からやっています。これは連れてこれないお子さんや通常の時間で自分の学校で受ける方が効果的なお子さんには、私たちが出向きます。これに旅費も確保されています。さっきの103人が県下を駆けめぐっているというのはこういうことです。これは島根ならではというか、島根が考えついた方法だろうと思います。

複式学級って?

資料08

各県にちょっとずつ制度の違いはありますが、こんなふうに動いており、DAISYもより多く活用しているのが通級だと思いますが、こういう制度の中でやっています。

これは活動の場面です。それぞれの学校では大変苦労している子どもたちですが、放課後、こうやって学習をしたり親子で活動したりもしています。また、相手を思いやって一緒にゲームをするなんてなかなか難しいことだったりしますが、グループ活動の形で取り入れています。これは人生をかけて悩んでいますが、こういう人生ゲームをしたりとかもします。

それから個別時間にDAISYも使っています。一場面として写真を持ってきました。

もう一つ、通級自体ではありませんが、複式学級というお話をしておきます。これも大きな学校とか、東京都にはあまり縁がないかもしれませんが、県の指定、国の指定というのがあって、その中には特地とか僻地に準ずる土地とか、国だと1級から4級まであります。等級が決められていますけれども、島根県でいうと、小中の半分はほぼこれに当たるというくらいのところです。条件によっては、担任は、教頭先生が兼ねるところもあります。純粋な教員は2人、1~2年生の担任の先生、3~4年生の担任、それから5~6年生の担任。どこかを教頭が兼ねるという場合もあります。その場合、事務職の方がつかない、そんな学校もあります。

そんな中、浜田市の隣の江津市というところの中学校4校、小学校10校という、そんな中にある一つのA小学校を紹介します。全校18人です。今年の1年生は1人でした。クラス3、教職員8。ですので教頭担任ではありませんが、純粋な担任の先生は3名という学校です。

ちょっと懐かしい写真を挙げたいと思います。

DAISY教科書のある日常

資料09

校長室に行くとこんな風景になります。今年全校で18人。窓の外はこんな景色という小学校です。5~6年生5人が机を並べています。電子黒板があります。そして重要なものとして、ホワイトボードが3つ、黒板以外にあります。前と後ろ、場所を分けて勉強するんですね。これは自学も含めて分からないことを教え合う黒板。学級の中に子どもが使っていいパソコンがあります。この子がDAISY教科書を使っているB君です。学級の中に電子黒板を持ち込んでいます。

これはパソコン室です。また別の電子黒板です。こんな感じで、他の子どもたちも自由に。18人しかいない学校ですけれども、そういう環境にあります。

早足で流れてしまいましたが、島根県下各学校に1台ずつ電子黒板は入れています。今のところは特別に自分の教室にも入れています。使える先生ということもありますが、iPadもいろいろ駆使しながら。それと自分の教室でもDAISYを開け、お家でも開けるようにという環境の中でやっている子どもがいます。

たった18人ですが、こういう環境のあるところで、彼は今まで苦手としていた国語以外にも、読めないからわからないというところから脱却しながら、僕もできるかなということで教科に取り組んでいるところです。

ちょうどおじゃましたときに誕生会だったので、全員が集まって、ランチルームでお昼を囲みながら、彼のお誕生を祝っていました。

そこで恒例のようで、「抱負は?」と言われたときに、「僕は何々になりたいです」と言って、その時間をかわすことはできたのですけれども、彼は、私が行っているからどうこうではなくて、やっぱり自分の中に意識があったんだと思いますが、みんなの前で宣言をしました。「僕は字が読めません」と。「でもたくさん読んでみたい本があります。知りたいことがあります。だからパソコンを使って読む練習をしています。そこを頑張ってこれからも工夫して、うまく読めるようになりたいと思います。」と、全員の前で発表していました。

DAISYもそんなふうに、何かちょっと勇気を与えると言うか、前に一歩進めるものなのかなと思いながら、聞かせてもらいました。

自分のところに来てくれている、自校のケースを含めて4ケース、巡回先の学校に行って担任の先生と一緒にやっているのが3ケースあります。ですから、田舎にも読み書きが苦手な子どもはいます。6.3%は?のところ。

ユニバーサルデザインの授業を田舎でも今、一生懸命考え始めているところです。これに合わせてどんどん取り込んでいって、読み書きが苦手な子だけのためといった視点から広げていく必要があると感じています。

では、逆手にとって!

資料10

それからさっき「何もない」と言いましたが、ないならないなりに使えるものを使う、手をつなげる機関とフルに手をつなぐ、何よりも人が財産だということ。それからいいも悪いもお節介のところは、それを「ありがとう」という形で、よさに活かせるように人の力も借りていきたいと思っています。

さっき登場した学校の先生は、自分もマックを使いこなす。それから電子辞書も自分の教室に持ち込んで使い切る先生だからできているわけで、子どもがどの先生に出会うかによって大きく人生が変わるようではいけないと思います。皆がネットを張って情報を活用できる、そんなふうに私たち教員はスキルアップしていなくちゃいけないなと思っています。

DAISY教科書に期待することとして、今までも出ましたけれども、必要とするすべての児童・生徒のもとに届くような形に今後していっていただきたい。それから、より活用しやすいようにさらなる改善をお願いしたい。それから多くの教員の視点を広げるために力強い発信をしていただきたいと思っています。

DAISY教科書に期待すること

資料11

また、複式教育の場合、 1年、3年、5年生は教科にもよりますが次の学年の学習内容を半分前倒しで学習をしています。学習の遅れ等に関わらず、このような場合には上学年のDAISY教科書も手に入るようにお取りはからい下さい。

私、言いっぱなしで島根に帰ろうとは思っていません。やはり私たちが頑張れることがあると思います。今日、会場に入ってこられる皆さんを拝見しながら、この中に学校の先生はどのくらいおられるだろうなと。子どもたちを直接支援している方や保護者が多いんじゃないかなと思います。もっともっと学校は頑張らなければならないと、これをまとめながらつくづく思いました。

国語の授業に限らず、私たちずっと子どもたちにわかる授業はどんな授業なんだろうと、今までもやってきましたし、これからもやっていかないといけません。特別じゃない特別支援も踏まえたところで、学校も、質の向上、私たちの意識の向上をしながら歩まないといけないなと思っています。ここで今日得たことも島根に持ち帰りたいですし、それぞれのところで、子どもに一番近いところにいて、長い時間関わらせていただいているのは教員ですので、頑張りたいなと思っています。あとは家の方とも二人三脚で取り組みたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。