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事例報告 LD、ADHD児の保護者

こんにちは。LD・ADHDの息子の母です。今回私がなぜこの場にいるのかと思ってはいるんですが、お話をいただいて、一人でも多くの方に息子の困難や発達障害で苦しんでいる子どもたちをたくさんの人に知ってもらいたいと思って、お話しさせていただこうと思いました。このような場で話をすることも、パソコン操作も不慣れなもので、戸惑うことも多く、早口になって聞きづらい点もあるかと思いますが、よろしくお願いします。

息子は中学3年生です。診断がついたのは、小学5年生のときです。幼少のときから何か違うと思っていましたが、育て方の問題、愛情が足りないなどと病院ではそのようなことを言われる時代で、診断までには至りませんでした。しかし小学生になり、学習面でも生活面でも問題が多く、学校では問題児として注意や叱責を受け続けてきました。

高学年になって、先生にも友だちにも認めてもらえず、自信を失い、自己評価を下げながらすごし、二次障害が出ました。中学になったら一からやり直したいという息子の言葉で引越しもしました。
しかし、中学校では小学校よりひどい現実がありました。入学して1ヶ月したころから、学校に行けなくなりました。今までの鬱積したものが噴き出してしまい、気分障害、不登校、ひきこもり、家庭内暴力、非行など三次障害を起こしました。私自身も肉体的、精神的に追い詰められてしまい、息子と私は、明日も考えられないくらい暗闇の中をさまよっていました。

そして息子が、「こんなにしんどい思いをして生きなければあかんのやったら死にたい」と言いました。何度も自殺未遂を繰り返し、息子から目が離せない状態になりました。すると息子は、「自分で死なせてくれへんのやったら殺してくれ」と言いました。息子を殺して私も、と考えたこともありました。しかし息子と話をする中で、皆と勉強がしたい、同じように勉強ができるようになりたいと、本当の気持ちを話してくれました。

まだ 10年足らずしか生きていない息子、悔しく辛い思いをしてきた息子を死なせてはいけないと思いました。私は息子の笑顔を見るために頑張ろうと決めました。息子の困難を知るために勉強もしました。たくさんの本も読みました。

本の中に書かれていた DAISYを見たとき、息子にはこれだ! と思い、調べました。奈良デイジーの会にたどり着きました。

奈良デイジーに連絡をして、どうしたら教科書を提供してもらえるのか、使用方法もうかがいました。これがマルチメディア DAISY教科書との出会いでした。

私自身、DAISYそのものがわからなくて、ましてやパソコンも苦手で、パソコンはメールとインターネットしかできない状態で、何が何だかわからない状態でした。何度も説明してもらっても言葉の理解ができず、AMISをインストールすることすら時間がかかりました。なかなか進まないパソコン操作に親子で苦労しました。DAISYの製作講習会があることを知り、講習会に参加させてもらいました。それでやっと DAISYがどういうものなのかを知りました。そして、どれだけ製作するのが大変なのかも知りました。

マルチメディア DAISY教科書を息子がどのように使用しているのかを紹介させていただきたいと思います。簡単に息子の困難について説明させていただきます。

学校では普通学級のみ在籍しています。漢字は小学校3年生レベル。カタカナは長くなると書けなかったり読めなかったり。読めても、違う言葉を書いてしまうということがあります。ローマ字と英語に関してはまったく書けないし読めない。表を見ながら、パソコンなども使用しています。

マルチメディアデイジー

資料01

他にも息子の困難は色々ありますが、読むための困難というと、聴覚系の認知困難もありまして、学校の教室のガヤガヤした中で話を聞いたり、たくさんの声から一番重要なものを聞き分ける力に弱さがあって、音や声がみんな同じように聞こえてしまって、教室の中で先生の話に集中できなかったり、集団の中で指示が聞き取れなかったりします。

★聴覚系の認知の困難

資料02

あと、短期記憶にも弱さがあります。

★短期記憶に弱さがある

資料03

本を読むことでの困難では、視知覚の認知の困難が大きく関係していると思います。目に入る多くの情報の中から一番必要なものに注目する力が弱いため、教科書の文字を追えなかったり、行を飛ばし読みしたりします。

漢字の構成をつかむのに苦手さがあって、漢字を書くと線が足りなかったり多かったりします。そして細かい、はねたり伸ばしたりする場所に集中がいかなかったりして、正確に書くことができません。
★視知覚の認知の困難

資料04

空間認知の困難もあります。社会的自覚の問題では対人関係に困難を見せることが多くあります。

★空間認知の困難

資料05

学校での困難はたくさんありますが、学習面では漢字が読めない。意味の理解がわからない。飛ばしてしまう。勝手読みしてしまう。どこを読んでいるかわからなくなってしまう。問題を最後まで読めない。授業の内容が理解できないので、授業中は授業と関係ないことをしていることが多い。板書がきちんとできない。あとは「どうせやってもできない」という自信のなさが大きく挙げられます。

★学校での困難

資料06

他にも学校では褒められることはなく怒られることばかりで、自信をなくし続けています。どうしてもケンカが絶えなく、些細なことですぐ手を出してしまうので、学校では乱暴な子、反抗的という目で見られてしまうことが多いです。

学習面の困難以外に、ADHD特有の困難も混じり、学校ではとてもしんどい思いをしています。残念なことに息子の通っている中学には理解してくれる先生が一人もいませんでした。一人でも発達障害を理解してくれる先生がいれば、息子はここまで苦しむこともなかったと思いますし、大人を信じなくなることもなかったと思います。しかし、現在は好きなことには一生懸命、取り組むことができています。そして自分なりに工夫をすることができています。

あと、学習面で、学校の教科書と自宅の教科書の話をさせていただきます。

息子の教科書は、学校で認めてもらっている教科書は紙の教科書のみです。息子の教科書を借りてきましたが、全部がこれです。息子は教科書をただの荷物にしか思っていません。

忘れ物が多いので、学校に教科書を隠しておいています。見つかると怒られるので、このようにコンパクトにして隠しています。本当の教科書はこういう感じです。全部の教科書をこうやって隠しています。

息子の教科書

資料07

家での勉強風景を紹介させていただきたいと思います。

家での勉強風景

資料08

息子の家での教科書は iPhoneです。いつでもどこでも見たいときに見ることができ、調べたいときに調べ、見ることができ、聞きたいときに聞ける。自分の時間で自分の力で勉強ができるようになりました。

息子の一日の生活をビデオで撮りたかったのですが、本人がそれはやめてほしいと言うので、しぶしぶ、写真ならばいいということだったので、写真で紹介させていただきたいと思います。

息子は、学校でクラブには入っていませんが、他のところに柔道の稽古に行っています。学校から帰って、今から行くところですが、iPhoneで何を聞こうかということで今、調べています。自転車で駅まで行って、駅から電車に乗っていってるんですが、今日はこれを見ようと決めたみたいで、今日は昨日の続きでここから聞こうという形で決めたみたいです。今から、早く行きたいのに写真撮ってと、ちょっと怒っているところです。駅までついていけなかったので、こんな感じで駅では見ているということで、電車の中では、こんな感じで画面と音と一緒に聞きながらいつもこういう感じで見てるということです。

帰ってくるときも自転車で、こんな感じで、不注意でフラフラしているにもかかわらずこんな感じで帰ってくるので、よくこけたりぶつかったりします。ちょっと考えて、フォルダを置いてそこに載せて見れるように、自分なりに少し工夫をしたみたいです。

毎日、稽古から帰ってきたら、家で筋トレを1時間くらいするんですが、その間も、音と画面を見ながら、毎日こういう感じで。大体最近は英語を聞いています。こんな感じでいつもやっています。

★毎日の勉強方法

資料09

テスト1週間前に入ると稽古は休んで勉強に専念すると約束しているので、自分用のパソコンと、ノートと iPhoneを使って勉強します。

★テスト期間の勉強方法

資料10

ローマ字が苦手なのでなかなかパソコン操作ができないので、外付けの CDが入れられるようにしたりしながらやっています。

iPhoneを使うまでは、「次は?」という感じで呼びにきて、横についてないとできない感じだったんですが、今はパソコンができなくても iPhoneで見ながらするという形で、一人で、こんなやる気があるのかないのかわからないようにしています。

弟がいるので、外の音が入ると自分で聞き取りにくいので、大体寝静まった夜中にするか、周りがうるさいときはパソコンにイヤホンをつけて一人で聞いて勉強をしています。

まだまだテストの点数にはつながっていませんけれども、自分の勉強スタイルを見つけることができたので、今は一人で毎日こつこつと勉強しています。

教科書はマルチメディア DAISY化をしていただいているんですが、学校でのプリント類は私が打ち込んで、読み上げソフトで読んでみたり、Wordで作成できる DAISYでプリント類は使用したりしています。

最近、iPhoneのバージョンアップがされ、とても簡単に転送できるようになったんですが、その説明をしようと思いましたが、時間がないので省きます。本当に機械類が苦手な私が iPhoneの説明を見て一回で転送できたので、本当に簡単だと思います。

マルチメディア DAISY教科書との出会いで変わった息子なんですが、息子は何もかもに疲れ、人を信じられなくなっていました。そして何をするにも、「どうせできへんし」と投げやりになっていましたが、奈良デイジーの会の皆さんに出会い、息子は変わり始めました。

息子の変化

資料11

そのきっかけは、テストで社会と理科は本人なりに頑張っていたので、理科の教科書を提供してほしいと息子が言い、当時は国語と社会のみの提供だったので、奈良デイジーの会に理科の教科書の DAISYを作っていただけないかということを、相談させていただきました。すると、奈良デイジーの会の方が製作してくださることになり、息子がどうしたら読みやすいのか、どういうふうにしたら勉強しやすいか等、いろいろと聞いてくれました。

息子がカタカナが苦手なことと話したら、カタカナ表を DAISYで作ってくれました。それを見て、自分のためにこんなに一生懸命にしてくれる人がいることに驚き、感謝していました。

それから、今まで以上に努力し、自分のできることを一生懸命するようになりました。そして自分の居場所も見つけることができました。その居場所では、ありのままの息子を受け入れてくれました。自分を認めてくれ、理解し応援してくれる人がたくさん増えました。環境が変わればこんなに違うのかと思うほど、息子は成長しました。時間がないのでどんなに成長したかをお話しすることはできませんが、親が言うのも何ですが、すごく成長しました。自分のやりたいことを見つけて、目標に向かって頑張るようになりました。そして将来についても考えているようで、勉強は苦手だけど勉強したいと言っています。たくさんの方が、息子を支えてくれたおかげだと感謝しています。自分なりに頑張れているのは、僕に教科書を作ってくれる人がいるからと、教科書と一緒に、製作していただいているたくさんの方の優しさやいろんな思いを受け取っているからだと思います。

マルチメディア DAISY教科書は、人の思いも一緒に届けてくれました。ガチガチになった私と息子の心を少しずつ溶かしてくれ、一歩前に進むための後押しをしてくれました。勉強も含めて頑張ることで、息子の自信につながり、目標を持つことができ、前向きにさせてくれました。

今後のお願いとしては、息子は来年、高校生です。勉強したい気持ちは人一倍あります。しかし、皆とは学び方が違うだけで、学校では落ちこぼれ、そして問題児です。息子のように苦しんでいる、子どもたちのことや、息子の努力や苦労を一人でも多くの先生方や関係者に知っていただきたいと思います。そして発達障害の多くの子は、普通学級にいる子たちです。気づかれずにしんどい思いをしている子がたくさんいます。ここに来られている先生方から、先生の輪を広げていただき、普通学級での理解を進めていただきたいと思います。

★要望

資料12

そして、息子は、目標を達成するためには、勉強が必要です。義務教育まではマルチメディアDAISY教科書を提供していただけます。これからが本当に必要になると思います。しかし、提供してもらうことができません。マルチメディアDAISY教科書を学校の教科書として認めてください。

★ありがとうございます

資料13

また、パソコンが苦手であきらめてしまう方、お子さんにパソコンはと難しく考えている方、いろんな理由で無理だと思っている方もたくさんいらっしゃると思います。同じことを何度聞いても、親切に丁寧に答えてくれます。先ほどもお話しさせていただいたように iPhoneなども使用できます。

同じように悩んでいるお子さん、保護者の方には、ぜひ、マルチメディア DAISY教科書を知っていただき、手にとって見ていただきたいと思います。子どもに合ったツールの一つになればと思います。

何より、製作されているのはボランティアの方のみです。今後、もっと需要が増えてくると思いますし、教科書や参考書など、すべての本を DAISY化していただきたいと思います。そのためにはボランティアの方だけに頼るのは限界があると思います。きちんと国の制度として取り組んでいただきたいと思います。

最後になりますが、息子は自分のやりたいことで、スポーツ推薦で高校が決まりました。夏休みの宿題で、税についての作文があり、1ヶ月かけて仕上げました。マルチメディア DAISYでたくさんの本を読むようになり、そこから引用したり、かっこいい言葉を使って 1,200字を書き上げました。その作文で初めて学習面で賞をいただきました。学校では褒められることがなかったので、とてもうれしそうでした。そしてこの賞は息子にとってすごく自信につながったようです。

息子から皆さんに手紙を預かってきましたので読ませていただきたいと思います。なかなか文章力がなくて、何が言いたいのかがわからないのですが、読ませていただきたいと思います。

「僕に教科書を作ってくれてありがとうございます。そして奈良デイジーの会の皆さん、ありがとうございます。僕にも勉強ががんばれると思いました。読むことの苦痛から解放されました。テストではいい点はとれません。でも勉強はしたいです。僕は柔道を3年生のときからやっています。中学生になり、真剣に柔道に取り組みました。柔道でたくさんのことを学びました。将来は高校の保健体育の先生になって、柔道部で柔道のすばらしさをたくさんの人に伝えていきたいと思います。勉強は嫌いです。でも、勉強がしたいです。わかるようになりたいです。高校生になったら、僕の教科書はなくなってしまいます。どうしたらいいのか不安で困っています。どうか、僕に勉強をさせてください。僕のように困っている人のために僕は学校の先生になりたいです。そして、努力は無駄なことではないこと、努力していれば、誰かが見ていてくれることを伝えたいと思います」

息子からみなさんへ

資料14

以上です。ご清聴ありがとうございました。

---補足 ----

*iPhone/iPod touch/iPadで DAISYを再生できるVOD(Voice of DAISY)というアプリに関しての詳細は下記参照ください。
http://www.cypac.co.jp/vodi/jp/index.html