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平成20年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
~DAISY教科書提供体制の確立を目指して~

講師プロフィール

セッション1 「ディスレクシア当事者のニーズと求められる支援」

神山忠(こうやま ただし)

岐阜県立関特別支援学校 教諭

【プロフィール】

高校卒業後即、陸上自衛隊に入隊。自衛隊に勤務しながら夜間の短大に通い、教員免許(中学技術)をとり中学校の教員になる。中学校の通常学級を6年、中学校の特殊学級(情緒障害3年、知的障害2年)計5年受け持つ。その後、岐阜市立岐阜特別支援学校(知的障害)に異動し7年勤務し、現在は岐阜県立関特別支援学校(肢体不自由)に勤務(2年目)している。自身がディスレクシアであることをカミングアウトして、誰もが適切な教育が受けられるようにという思いを胸に各地で講演やシンポジウムを行っている。

【講演要旨】

ディスレクシア(Dyslexia)とは学習障害の一種で、失読症、難読症、識字障害、読字障害とも言います。知的能力及び一般的な学習能力の脳内プロセスに特に異常が無いにもかかわらず、書かれた文字を文字として認識できない、文字として認識しても声に出して読むことが出来ない、読めてもその意味がわからないなどの症状が現れます。合わせて意図した言葉を正確に文字に表すことができない「書字表出障害(書字障害 ディスグラフィア Dysgraphia)」を伴うこともあります。また、文部科学省が行った4万人対象の調査では、およそ4%の児童生徒がディスレクシアを含む学習障害であるという調査結果が出ました。つまり、どの学級にも一人か二人はいる特性と言えます。

そんな特性を持っている私は、小学生からずっと読みを伴う学習に対して困難を抱えています。しかし、「みんなのように勉強ができるようになりたい!」「みんなと一緒に勉強がしたい!」「自分の好きなことや興味があることをたくさん学びたい!」という思いで自分に合った読みの方法(独自の読字)を試行錯誤して獲得してきました。

ある時、私はマルチメディアDAISYと出会いました。目から鱗!今まで苦労して作り上げた独自の読字法がこのマルチメディアDAISYに集約されていることにショックに近い感動を覚えました。そして、「もし、自分の学齢期にこの支援ツールがあったら・・・。」こんな思いに襲われました。私が教師になったのは、自分のようにつらい思いをする子どもたちを作らないためにという思いです。このマルチメディアDAISYが子どもたちの学びやすさに生かされ、どの子にも適切な学びの保障がなされることを心から願っています。

藤堂栄子(とうどう えいこ)

NPO法人 EDGE 会長

【プロフィール】

NPO法人EDGE会長、JDDnet理事、LD学会会員、IDA会員、BDA会員、DITTコンサルタント

1999年に長男が英国に留学し、現地でディスレクシアと診断される。その後、日本においてディスレクシアの啓発、支援とネットワークを目的に2001年にNPO法人を設立。現在は愛をはこぶ人キャンペーンを繰り広げ、ディスレクシアの啓発に努めると同時にディスレクシアを中心に発達障害を持つ児童生徒の支援、成人の支援、学習支援員制度を港区で確立して各地に広げる活動をしている。

訳書「ディスレクシアってなあに」明石書店、雑誌などに記事投稿多数

【講演要旨】

ディスレクシアの当事者は自分がそうであることすら気が付いていないことが多い。私自身も息子が15歳のときに英国でディスレクシアと診断されるまでは読み書きの困難さによって出てくる現象の数々は自分の怠け心やずぼらな性格なせいだと思い込んでいた。つまり外から見て分かられないディスレクシアの人のニーズは本人にもなかなか分からないのが現状である。またそのため誤解を受けやすく、読み書き以外の困難さが併発されることがある。いわゆる二次的障害で無気力、立ち歩き、不登校、引きこもりなどの困難が目立ってしまい、本来の困難さを覆い隠してしまうことがある。

当事者である藤堂高直が作成した画像を基にどのようなニーズがあり、それに対してどのようなソリューションがあるのかについて考察する。

困難さは「きみはきみのままでいい」の中にもあるようにねじれて見える、字が躍っているように見える、文字と音が結びつかない、音に変えても不正確であったり、時間がかかる、そして読むことで大変な疲労感を覚えるということが重なる。

読むということはどういうことだろう?単に一文字を音に変えるだけでいいのだろうか?読みやすいのはどういうことか?字の大きさ、行間、日本語だったら縦横、ルビの有無、音声で補う、色付のフィルター、速読、フォント、レイアウト、目に入る範囲など読みを支援する方法はそれぞれの困難さに合わせて対応方法を考えていく必要がある。

書くことへの支援はどうだろう?協調性運動障害?それともディスレクシアに起因する困難さ?ディスグラフィア?原因はどうであれ書きにくさへの対応も求められる。

品川裕香(しながわ ゆか)

ジャーナリスト

【プロフィール】

教育ジャ-ナリスト・編集者、元教育再生会議委員、北海道大学大学院教育学研究院付属子ども発達臨床研究センター 学外研究員

兵庫県生まれ。教育・医療・社会問題を異文化理解・予防的観点から取材執筆。国内外の教育現場(いじめ・不登校・非行からADHD・LD・アスペルガー症候群等まで)や矯正教育の現場と子どもたち・保護者たち・教師たちの思いを取材執筆。国際ディスレクシア協会(IDA)会員、発達性ディスレクシア研究会理事、日本LD学会会員他。主な著書は『LD・ADHD・アスペルガー症候群 気になる子がわくわく育つ授業』(小学館、2009年)、『怠けてなんかない!―ディスレクシア 読む書く記憶するのが困難なLDの子どもたち』(岩崎書店、2004年)他多数

【講演要旨】

特別支援教育が全国の小中学校でスタートして早2年が過ぎようとしています。このわずかの間に地域間・学校間の教育格差がいっきにひろがったと全国を取材しながら痛感しています。

現場では、保護者は「学校側が●●」(●●には“うちの子の特性をわかってくれない”、“まず診断をもらってきて、と言われる”、“特別支援教育支援員をつけてくれない”、“クラスで配慮してくれない”などが入ります)といい、学校側は「文部科学省も教育委員会も▼▼」(▼▼には“人をつけてくれ ない”、“お金が足りない”、“言うだけなら誰だってできる”などが入ります)といい・・・。そんな場面によく出会う一方で、特別支援教育的な視点ですべての子どもの教育的ニーズに応えていこうと動き始めた自治体や学校、先生方にもずいぶんお会いしました。

実際、教育現場に行ってみると、特別支援教育といっても対象となっているのがアスペルガー症候群や高機能自閉症などの傾向のある子どもたちが中心になっていることが多いですし、またその内容も千差万別。LD傾向のある子どもたちへの指導は、現状ではほとんど何もされていないと残 念に思うことが多々あります。

こういった違いが生まれるのは、①その個人が“障害”をどうとらえているか、ということと、②子どもの義務教育を受ける権利を徹底的に保障するという姿勢かどうか、ということに集約されると考えています。大人(保護者も教育者も)側のそのような姿勢が、学校・学級経営や授業づくりのありかたの格差を生み、また通級指導教室があるとはいってもそこでの指導内容の格差を生んでいるのではないか。そしてそれらが結果的に、子どもが将来自立して、社会に参加して、市民として生きる権利を侵害し不利益をもたらしていると、私は全国の小中高校を取材しながら、実感しています。

そこで本発表では、2年経った特別支援教育の現状と課題を紹介しながら、今すぐにできることは何か、今後していかなければいけないことは何か提言したいと思います。

ワークショップ報告及びビデオ上映「はじめてのDAISY-自分たちのDAISYをつくってみよう-」

川本雅子(かわもと まさこ)

武蔵野美術大学 非常勤講師

【プロフィール】

武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科研究室 非常勤講師・同大学同学部教職課程研究室 非常勤講師・同大学同学部通信教育課程 非常勤講師・自閉症等の子どもたち、障害を持つ高齢者などを対象とした造形ワークショップ講師

1977年広島県生まれ。武蔵野美術大学造形学部 油絵学科卒業。在学中より制作活動と並行して造形ワークショップを行なう。卒業後、同大学芸術文化学科助手として任期満了退任。同大学非常勤講師として「アーツ・プロジェクト」「ワークショップ研究」等の授業を行なう。

『武蔵野美術大学 美術と福祉プログラム 2007年度報告書』(「曙光園ワークショップ、9年間の記録-造形ワークショップの日常性と継続性-」武蔵野美術大学出版局)

【講演要旨】

「DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業」に伴い、ディスレクシアの人々にとってのDAISYの有効性を伝える初めての試みとして、ワークショップという手法を用いた実践の報告である。そのため2008年1月より、このキャンペーンにおいて、現在どのような人を対象とすることが効果的かということに時間をかけて話し合いを重ねた。尚、その対象者によってアプローチの方法も異なる。

結果、ディスレクシアの子どもたちをその対象とし、2008年9月23日、子どもたちが安心して活動でき、子どもたちから豊かな発想を引き出すことのできる空間として、敢えてキャンペーン当日ではない事前ワークショップとして開催した。ワークショップタイトルは『はじめてのDAISY-自分たちのDAISYをつくってみよう-』。DAISYの絵本づくりを通して、楽しみながらDAISYを理解し、自分にあった「読みの手段」のひとつとしてDAISYがあるということを知り、その必要性を感じるきっかけの場とすること。尚かつ、子どもたちが、少しの言葉から広がりを持った絵本の世界を表現できるように導き、表現することの楽しさに触れることを目的とした。

その報告と記録映像の上映から子どもたちに生じた実際の変化を確認して欲しい。

セッション2 「マルチメディアDAISY教科書の製作・提供」

中村芬(なかむら かおり)

NPO法人 デジタル編集協議会ひなぎく 理事長

【プロフィール】

初代DAISYより編集に携わる。視覚障害者からスタートしたDAISYが、読みに障害がある方たちにも有効だということから、Sigtuna DARの開発初期からマルチメディア図書並びに、教科書の変換事業に関わり続けてきた。

昨年、『障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律』が成立 したことにより、趣旨に賛同してくださる方が増えていくことを願いながら活動を続けている。

【講演要旨】

マルチメディア教科書の製作と提供

デジタル編集協議会ひなぎく(以下、「ひなぎく」)では、マルチメディア教科書を作成する前に、弱視の方の医学書や教科書を変換していました。医学書は大分(700~800ページ)で、階層も深く、写真・図形が多く、TOCのみの図書から、マルチメディア図書に移ったときは大変苦労したものです。原本のスキャン、テキストのチェック、図形の整理、html化、など、これまでにお目にかかったことの無い、「smil」などとの格闘!!メンバーがいつも同じところからスタートなので、いいことも悪いことも共有します。

数タイトルをこなした頃、「教科書の変換をして欲しい」との依頼を受けました。年末でしたが、3学期に間に合うようにお正月返上で変換しました。

その後、4月になると「教科書をお願いしたい。」との依頼が来ました。

教科書は、一般に手に入れるには4月末まで待たなければなりません。5月の連休開けにどっと本が送られてきます。授業に間に合わせるためには、教師が順番に前から進めてくれるのを願いながら3分の1くらいを仕上げます。後半は夏休み中に送り出すようにします。子供たちの様子は親から聞くことができます。個々のニーズに合わせて編集を変えたりしました。しかし、教科書会社は1社だけではありません。同じものを作ることより、違う出版社の教科書を作ることが多かったです。「どこかで作っていないかなー、ネットワークがあったらいいなー」と何度考えたことでしょう。

教科書会社が作ってくれないかなーと思ったことも再々です。

今回、教科書提供のプロジェクトに参加し、今後ネットワークを作るにしても、製作する前に、かなりしっかりとした製作基準が作られていないと、ユーザーの使い難いものになるのではとの危惧を抱きました。

昨年「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」などが成立し、一歩前進したこと、関係者として嬉しく思います。

長い間不自由を強いられてきた、児童・生徒たちに目が向けられたことを、多くの人に知ってもらい、児童・生徒たちが使いやすい教科書などの制作を進めて行きたいと思っています。

濱田滋子(はまだ しげこ)

NPO法人 奈良DAISYの会 代表

【プロフィール】

2003年、マルチメディアDAISY図書体験会に参加し、その有効性に確信を持つ。

2003年5月、マルチメディアDAISY図書製作講習会を受講。受講者8名で奈良DAISYの会を結成。ディスレクシアの啓発とマルチメディアDAISY図書の製作・提供を始める。

2006年5月より会代表。教科書のマルチメディアDAISY化を活動の中心に、読みに困難を持つ人の読書環境作りに努めている。

【講演要旨】

-教科書のマルチメディアDAISY 化の活動報告-

NPO法人 奈良DAISYの会は2006年より教科書のマルチメディアDAISY化に取り組み、児童・ 生徒に提供している。この3年間の活動の報告をする。

(提供の経緯と変遷)

2006年、巡回相談員で特別支援教育士スーパーバイザーの提案を受けた校内コーディネーターの先生から奈良DAISYの会に製作依頼があり、中学2年生の男の子にマルチメディアDAISY教科書が提供されたのが最初の事例である。以来、著作権に則して奈良DAISYの会では製作依頼を担当の先生からしていただくという形で提供をおこなってきた。2008年「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」の施行とそれに伴う著作権の改正で、提供方法がより柔軟となり、他の製作グループと連携をとった提供も可能となった。

(提供してきた児童・生徒数と、マルチメディアDAISY化した教科書数)

2006年、2名への提供から始まり、現在は38名に提供している。教科書数は2006年度は3冊を扱ったが、2008年度は部分的なものも含め14冊を扱っている。この推移はディスレクシアやマルチメディアDAISYの啓発活動の成果であるとともに、新法施行によるものと考えられる。

(マルチメディアDAISY教科書の製作ガイドライン)

製作は、特別支援教育士スーパーバイザーに助言をいただき、担当の先生や当事者や親御さんと相談し、ユーザーのニーズを引き出しながら進めてきている。その過程からマルチメディアDAISY教科書の製作ガイドラインをまとめた。現在新しい再生ソフトの開発が進められており、先々はユーザーサイドで自分のニーズに合った形を選択できるようになることが期待される。

(今後の課題と展望)

2009年1月には文科省による教科書のデジタルデータ提供希望調査がおこなわれた。今後、教科書のマルチメディアDAISY化が進められユーザーが増えてくることを考えると、公的機関での統一された製品管理・配布についてのシステムを確立していくことがこれからの課題である。そして長期的には教科書に限らず、あらゆる印刷された文字情報が読みに困難をもつ人たちにもアクセスしやすい形で提供されるよう社会の環境が整えられていくことを望んでいる。

野村美佐子(のむら みさこ)

(財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長

【プロフィール】

(財)日本障害者リハビリテーション協会情報センター長、国際図書館連盟(IFLA) 読書に障害がある人々への図書館サービスセクション委員、日本図書館協会障害者サービス委員会委員、LD学会会員、ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業実行委員

国際電信電話会社(KDD)に勤務の傍ら、赤十字語学奉仕団に入団し、1987年から12年間ボランティア活動に従事。その間、障害者に関わる国際会議支援、英語版「アクセシブル東京」の編集、「Travel for All」のセミナーを企画・実施する。1998年に(財)日本障害者リハビリテーショ ン協会に入会。情報センターで障害者の情報のアクセスに関わる情報収集・ウェブでの提供(www.dinf.ne.jp)に従事、2001年より認知・知的障害者を対象としたマルチメディアDAISYの研究・普及に取り組む。2004年6月から2007年5月までの3年間、アジアでのDAISYを普及するDFA(DAISY for All)プロジェクトの事務局を担当。2006年には、バリアフリーなLL本(読みやすい本)の日本版「赤いハイヒール」製作プロジェクトチームを立ち上げ、当協会からDAISY CD-ROM付き書籍版を出版。現在はDAISY版教科書の普及にも力を注いでいる。2007年7月より情報センター長。

【講演要旨】

財団法人 日本障害者リハビリテーション協会でDAISYの普及が始まったのは1998年からである。最初は視覚障害者を対象に、2001年からはDAISYの対象者を拡大して、認知・知的障害者を対象としたマルチメディアDAISYの研究・開発・普及を開始した。その成果として、無料で配布しているDAISYの 製作ソフトと再生ソフトの開発がある。

昨年度より、ディスレクシアなど読みの困難な人を対象としたマルチメディアDAISYの利活用のキャンペーン事業を開始し、講演、展示、DAISY図書のサンプル配布など、大々的な広報活動を始めた。

今年度は、特にDAISYの普及を特別支援教育に焦点をあて、前述の活動に加えて、ディスレクシアなど読みの困難な子どもたちへの理解とその支援ツールとしてDAISY版教科書を紹介。また9月より、他のDAISY製作団体の協力のもと、神戸にあるLD親の会「たつの子」の希望者約30人を対象に、DAISY版教科書の提供を始めた。現在は76人の児童・生徒に提供を行っている。

昨年の6月には、教科書バリアフリー法が採択、9月からの施行により、DAISY版教科書の要望も増加している。それらの要望に対応するためには、通常の教科書では対応できない児童・生徒への「合理的な配慮」として国の代替教科書の提供体制づくりが望まれる。

本発表では、ディスレクシア等の読みの困難な児童・生徒へのマルチメディアDAISYキャンペーンとDAISY版教科書提供プロジェクトの紹介と成果、更にDAISYの認知度が高まってきた今、当協会は何ができるのか、その課題とその解決に向けて関係者との連携、あるいは国への提言を述べたい。同時に必要な人にDAISY版教科書が保障されるよう、そのゴールにむけて、多くの人の協力を呼びかけたい。

パネルディスカッション 「DAISY教科書提供体制の確立を目指して」

河村宏(かわむら ひろし)

DAISYコンソーシアム 会長

【プロフィール】

国立障害者リハビリテーションセンター研究所 特別研究員、NPO法人 支援技術開発機構副理事長、DAISYコンソーシアム会長、IFLA/LBS常任委員、GLADNET理事、国連GAID戦略委員会委員、世界盲人連合国連委員会委員、JICA障害分野支援委員

1970年から1997年まで東京大学総合図書館に勤務。

(財)日本障害者リハビリテーション協会情報センター長および国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部長を経て現在にいたる。

すべての人が共有する知識と情報のデザインを追及し、情報アクセス権と著作権の調和を目指した活動に取り組む。また、ソーシャルインクルージョンの立場に立ち、障害者・高齢者の災害に対する事前の備えへの情報支援と国際協力に力を注いでいる。

井上芳郎(いのうえ よしろう)

NPO法人 全国LD親の会

【プロフィール】

NPO法人「全国LD親の会」事務局員 親の会「けやき」副会長・広報担当。

日本LD学会広報委員、障害者放送協議会著作権委員会委員長など。

全国各地の約50の会が参加する「全国LD親の会」事務局員として、文科省、厚労省などへの要請活動や、日本LD学会をはじめとする学術団体等の協力を得て、広く社会一般へのLDに関する理解・啓発活動等に従事。最近はLD等の人たちの情報保障や著作権法改正に係わる活動にも取り組む。

【講演要旨】

2008年9月17日、「教科用特定図書普及促進法」が施行され、2009年度採用となる教科書から適用される。「教科用特定図書」とは従来の「拡大教科書」と「点字教科書」とを指す。この法律は、それまで不十分であった拡大教科書の供給体制を国の責務とさせ、普及を促進する目的から、ボランティア団体等への原稿用デジタルデータ提供を教科書出版社に対して義務づけることとした。また、ディスレクシアを含む発達障害等の理由で、通常の教科書での学習が困難な児童・生徒にも拡大教科書等の活用ができるよう、調査研究を推進するものとした。なお、これを受け、文科省より来年度の予算要求がされている。

そして普及促進を担保するため、著作権法第33条の2が改正され、「教科書に掲載された著作物は、視覚障害、発達障害その他の障害により教科書の使用が困難な児童・生徒のため、文字、図形等の拡大や必要な方式(DAISY化も含む)により複製することができる」とされ、原則として著作権者への許諾なしで、その目的に合致さえすれば誰もが複製できることとなった。すなわち、それまでDAISY教科書等を作成する際に足かせとなっていた、著作権法のハードルが一段低くなったといえるわけである。

ただし、あくまでも文科省検定教科書に限られる措置であり、義務教育で使用されるのなら、本来は国の責任において全ての児童・生徒が「使える」教科書が、無償で用意されるべきであり、これらについては今後の改善が強く望まれる。さらに、文科省検定教科書以外にも必要とされる教育用図書や参考書等の課題、義務教育終了後についての課題も残されている。今後、各方面と協力しながらさらに取り組みを進めていく必要がある。

山内薫(やまうち かおる)

墨田区立あずま図書館

【プロフィール】

1969年より東京都墨田区立あずま図書館に勤務。寺島図書館、緑図書館を経て、再びあずま図書館。この間、子どもへのサービス、図書館利用に障害のある人へのサービスを担当。拡大写本サービスを早くから手がけ、最近は高齢者や知的障害者へのサービスに取り組んでいる。

著書に『あなたにもできる拡大写本入門-広げよう大きな字』(大活字、1998年)、『本と人をつなぐ図書館員─障害のある人、赤ちゃんから高齢者まで』(読書工房、2008年)、共著に『障害者サービス 補訂版』(日本図書館協会、2003年)などがある。1985年から日本図書館協会障害者サービス委員会委員を務める。

<関連資料>

『本と人をつなぐ図書館員-障害のある人、赤ちゃんから高齢者まで』(読書工房、2008年)

【講演要旨】

すべての人に教科書を-墨田区立図書館の経験から

  1. 拡大写本教科書を作った経験から
    • 1年で読みの速度が3~4倍になった子どもの例。
    • 養護学校からの依頼で1学期に一つの単元のみを拡大したこと。
    • 誰もがすべての単元に触れる機会を与えるべきではないかと思う。
      その場合マルチメディアDAISY教科書が不可欠。
  2. 知的障害者のための教科書
    • 同様に特別支援学級での学習でも教科書のほんの一部分を使うのみであった。
    • マルチメディアDAISY教科書を使うことによって少なくともすべての内容を一度は聞くこと、見ることができるように。
    • マルチメディアDAISY教科書であれば読めるという人が少なからずいると図書館の実践のなかでわかってきた。
    • 知的障害と言われている人の中にもディスレクシアに近い読みの障害を抱えている人がいるようだ。
  3. 拡大写本の技術をマルチメディアDAISY教科書にどう反映させるか?
    • 文字の大きさ、行間、字間、白黒反転等々、マルチメディアDAISY教科書の上でも様々なタイプで表せるように。
  4. 公立図書館では、かつて様々な理由でまともに教科書を読むことのできなかった人などに対して、資料としてマルチメディアDAISY教科書を備えて誰もが教科書を読めるように貸し出ししたい。

寺島彰(てらしま あきら)

浦和大学総合福祉学部 学部長・教授

【プロフィール】

大学で障害児教育を学び、視覚障害者更生施設のソーシャルワーカーとして16年間勤務。その後、厚生省(現厚生労働省)障害福祉専門官、国立身体障害者リハビリテーションセンター国際協力専門官、同センター研究所障害福祉研究部社会適応システム開発室長、同研究部長を経て現職。

研究テーマは、障害者福祉政策と福祉機器を活用したソーシャルワーク。ソーシャルワーカー時代から福祉機器を活用してのソーシャルワークを実践し、必要に応じて、自ら福祉機器の開発も行った。継続して障害のある人々の福祉機器活用を支援するボランティアを行なっている。

【講演要旨】

高等教育におけるテキストのDAISY化への期待

高等教育機関における障害者の受け入れが進んでいる。独立行政法人日本学生支援機構が実施した「平成19年度大学・短期大学・高等専門学校における障害学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」によれば、全国の710校(前年度670校)の大学・短期大学・高等専門学校に5,404人(前年度4,937人)の障害学生が在籍(在籍率は、0.17%)している。そのうち、支援を受けている学生は2,972人であり、その内訳は、視覚障害452人(前年度367人)、聴覚・言語障害923人(同799人)、肢体不自由1,088人(同722人)、重複58人(同36人)、病弱・虚弱206人(同199人)、発達障害91人(同46人)であった。高等教育を受ける障害学生は、ますます、増えてきている。また、発達障害者支援法の成立や学校教育法の改正により、従来の身体障害者に加え、発達障害者の高等教育に対するニーズが高まっている。また、今後は、高次脳機能障害者に対する支援も期待されるところである。

ところが、大学においても、授業で使用するテキストの不足は、深刻である。視覚障害者のための専門書の音声化や点字化は、量的に不足しており、即時性もない。聴覚障害者のためにビデオ教材に字幕や手話をつけようとしても、それを行う機関がないし、著作権という大きな問題がある。発達障害者や高次脳機能障害者については、これからの課題であるが、学習には、マルチメディアの活用が不可欠であり、作成技術の確立が必要である。

義務教育における教科書提供体制の確立とともに、高等教育におけるテキストのDAISY化の制度としての確立が求められている。

山中香奈(やまなか かな)

兵庫県LD親の会たつの子 副代表

【講演要旨】

現在息子は小学校5年生です。幼児のときから西宮YMCAに通っています。数年前当時息子を担当してくださっていた西岡先生にDAISYを教えてもらいました。しかしながらそのお話は、製作しなければならないようなお話で、進展もせず、「DAISYというものがある」にとどまっていました。

2007年11月、LD学会が横浜で行われました。その時、西岡先生とDAISYに再会することが出来たのです。このことをきっかけに息子がDAISY教科書を使うようになりました。

当時小4の息子ですがパソコンへの興味も重なりDAISY教科書を毎日のように使用し始めました。拾い読みだった朗読もDAISYで学習した文章はすらすらと読むようになり文章の理解も進みました。

何より「国語」が嫌いではなくなったことにも驚きました。

「ママ、学校で先生が読んでいる所が分るようになったよ」と嬉しそうに報告もしてくれました。

目線がちょっと外れたらもうどこを読んでいるのか分らなくなる。一度分らなくなるともう元に戻れない。そんな状態での国語の授業はとてもしんどかったと思います。国語嫌いになるのも当たり前の状況だったと思います。

ところがDAISYでの学習を始めてから目線を外してもまたどこを読んでいるのか探し出せるようになっているようなのです。このことは私以上に息子が驚いていたようでした。

息子はDAISYで学習した教科書の文章を目で追うだけでなく、文章理解も出来てきたようです。それは物語の主人公の心情などを読み取れたり、国語の授業での発表回数が増えたりとその効果はすぐに反映されていたようです。

私が特に思うことは、息子が自分で学習する事ができるようになったということです。息子は漢字が読めないし書けません。小5ですが小3の漢字でもあやふやです。

教科書が新しい単元に入ると漢字に振り仮名を振る作業をしないといけませんでした。それは、必ず親が付きっ切りでしないといけない作業です。振り仮名を振りながら、本を読ませて読み間違いを指摘して一緒に読み進めていく・・・結構時間のかかるものでした。

ところが、DAISYを始めたらその作業がいらなくなったのです。

DAISYでの学習は予習として使います。まだ学習していない漢字が盛りだくさんな状態であってもまず聞くことから始めるので漢字が読めなくても構わないのです。そのうちハイライト表示されている箇所を目で追うようになります。音が先に頭に入っているので後に出てくる漢字を知らないうちに読んでいるような状 態になってきます。漢字が読めるようになってくると音声を消して自分だけの声で読むようにもなります。逆に本を開いて音声で教科書を目で追うこともあります。DAISYを使う事で自分なりの学習が親の手を借りなくてもできてくる。高学年の子どもにはありがたいことで、これはすごいことだと思いました。

そして、読める漢字が増えてきていることに気が付きました。漢字に興味をもち、ドライブ中でも看板の文字を読むようになって、今まで嫌だった国語が嫌でなくなっただけでなく、ちょっと好きになってきている。読める楽しさを本人が感じてきている。そう思います。