音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成20年度 DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業
~DAISY教科書提供体制の確立を目指して~

セッション2 「マルチメディアDAISY教科書の製作・提供」

講演を行う野村美佐子氏の写真

野村美佐子(財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長)

皆さん、こんにちは。日本障害者リハビリテーション協会情報センター長の野村です。私は、DAISY版教科書製作提供の取り組みというところを特に視点を当てましてお話をさせていただきたいと思います。

DAISY版教科書製作・提供の取り組み

(資料1 説明)

まず日本障害者リハビリテーション協会のDAISYの普及については、よくご存じの方が多いと思うのですが、1998年から2001年にかけまして、日本におけるDAISY導入は、前情報センター長でございました河村さんを中心として行われました。そして2001年より、認知・知的障害者対象のマルチメディアDAISYの研究・開発事業を開始しました。そのころというのは、世界は、まず音声のDAISYをどのように製作するのか、そしてどのように提供していくかについて考え始めた時期で、私たちは、世界的に先駆けた試みを始めてしまいました。そのための企画委員会の設置をいたしました。

日本障害者リハビリテーション協会によるDAISYの取り組み

(資料2 説明)

今回も企画委員の方々に、たくさん登壇していただいています。また関連する情報の収集及び皆さんご存じのDINFというところのウェブサイトで情報を掲載するという、ネットの環境を利用したDAISYの促進というものを始めました。それから今回のような啓発セミナーの開催というのも行いました。そしてまたサンプルマルチメディアDAISY図書の製作。皆さんがこの会場の受付のところで見ていただいたサンプルマルチメディアDAISY図書を製作いたしました。そしてまた製作をしてもらわなければ普及しないので、DAISY再生ソフトと製作ソフトの開発、それらの無料提供というのを行ってきました。

マルチメディアDAISY図書製作については、今までに製作した図書をパワーポイントでお見せしております。ここにお見せしている図書だけではないのですが、製作ソフトの不具合とかもありまして、なかなかうまくいかなかった図書もあります。そしてまた、読みやすい図書というスウェーデンの図書を翻訳しまして、DAISYのCD-ROM付きの「赤いハイヒール」の書籍版を出版いたしました。

マルチメディアDAISY図書製作

そうした中で、DAISYを利用した教材の試みとして、「ねずみのよめいり」「はなさかじい」というのを、世界文化社からデータをいただきまして3つのバージョンをつくりました。3つのバージョンというのは、普通に読んでいるバージョン、ゆっくりめで区切れ長めバージョン、それから区切れ短めバージョンといった形で、藤澤和子さんの協力を得まして、特に認知・知的障害者の子どもたちを対象に作成をいたしました。そのフィードバックが返ってきたところで分析をしてみますと、DAISY版教科書の可能性があるのではないかという動きが出てきたのは2006年です。

DAISY版教材の試み<2006年>

(資料4 説明)

そして2007年には、様々なところで展示や体験会等を行ってきたのですけれども、その中で通級の先生、あるいは特別支援学校でもDAISY図書の導入が結構されているという話を聞きました。私どものDAISY図書、「ごんぎつね」を使ったという話も聞きました。LD学会では、「DAISYによる教育的支援」というものをアピールいたしました。ディスレクシアについて理解を深め、彼らの読みの支援の1つの方法としてDAISYがあるという観点から普及を始めました。

DAISY版教科書製作(2007)

(資料5 説明)

その中で、通級の先生からの依頼がありまして、「たぬきの糸車」そして「わらぐつの中の神様」という2つのDAISY版教科書をつくってみました。個人使用なので、あるいはその学校の学級で先生の教材として使用するので、著作権はクリアするのではないかと思い製作いたしました。その成果については、皆さんのお手元にある資料の「マルチメディアDAISY教材の作成」というところにフィードバックとして掲載させていただきましたが、ダウン症の方に使っていただいたりしまして、かなり手応えが感じられました。

著作権については、著作権法第35条の中で規定されていますように、先生あるいは担任の先生など、あるいは授業を受ける者は、著作物を複製することができますので、このことにより、DAISY版教科書が作成できるのではないかというふうに考えました。

2008年に、DAISY版教科書製作を始めたわけですが、具体的に申しますと、2008年7月に兵庫県LD親の会「たつの子」主催のDAISY勉強会に参加させていただいたことがきっかけです。河村さんがそのときのコーディネータであった勉強会だったのですが、そこでDAISY版教科書の依頼というのを受けました。10名程度の依頼なのかなと思っていましたら、30名弱にもなっておりまして、また算数とか社会とか理科とか、国語以外の依頼もありました。

DAISY版教科書製作(2008年)

(資料6 説明)

というわけで、奈良DAISYの会の協力は確認できましたが、それでも私たちだけではできないので、他団体からの協力もということになりました。そのほとんどの団体の方が今回来ていらっしゃるのですけれども、国立大学法人富山大学人間発達科学部森田研究室、NPO法人デジタル編集協議会「ひなぎく」に協力を依頼しまして、私どもはコーディネータとして入ることになりました。そしてまた社会とか理科とか算数などの依頼がありましたが、それらのDAISY版教科書は製作したことがありませんでしたので、国語ということに限らせていただきました。また奈良DAISYの会で既につくられたDAISY版教科書がありましたので、それを活用することができたという大きな助けもありました。

その結果について、資料にもありますように利用者にアンケートとインタビューをいたしました。利用者にとってDAISYであることで有効な点は、ハイライトが付くため、どこを読んでいるかが分かるという回答が多かったです。再生プレイヤーの中でコントラストなど自分に合った読むスタイルにできるという有効性もありますが、読み飛ばしが多いという問題を抱えていた子供の親にとっては、ハイライトはとても嬉しい機能だったように思います。

希望者がしだいに増加していきまして、現在、76名の生徒に提供するようになりました。そのため私たちも忙しくて大変な状況になってきてしまいましたが、必要な子供たちがたくさんいるという大変な状況というのが少し見えてきたように思いました。

資料には、DAISY版教科書提供についてその詳細を掲載しておりますが、平成20年度のマルチメディアDAISY教科書提供の内訳を見ていただきますと、圧倒的に光村図書が多いんですね。そしてまた、学校と個人からの依頼についての表もありますが、「たつの子」のプロジェクトの場合は個人だったのですが、このプロジェクトが始まってからは、学校や先生からの問い合わせも来るようになりました。また一方では、学校の先生と言うか、校長先生が許可しないので子どもが利用できないというケースもありました。地域的にはやはり私どもが東京にいるということで、東京と栃木が、そしてまた兵庫県が「たつの子」というLD親の会がございますので、圧倒的に利用者が多いと思います。

リハ協からどのようにして提供されていったかについて図に書いてみますと次のようになります。製作団体に、製作の依頼をして、そのデータをアップしてもらい、こちらでコンテンツを見て修正をするとか、そういったやりとりを製作団体といたしまして、完成した教科書をCDに焼いて利用者に発送をいたしました。更に利用者からフィードバックを受けて、そのフィードバックを製作団体に返すこともありました。また協力製作団体の中には、直接依頼を受けて個々に提供を行っている団体もありました。

リハ協から提供された経緯

このプロジェクトを行うことで、製作団体と話し合いにより、自分たちがつくったものをみんなで共有して、利用者のニーズに応じてそれを個々のニーズに合わせた形で提供するという形になっていきました。しかし、製作版教科書のガイドラインがないわけですね。それぞれの団体でそれぞれの方法があり、一概に間違いとか良いとかというのはとても難しい状況でした。そのため、カスケイディング・スタイル・シート(CSS)のガイドラインをこちらで作成しまして、そのCSSを使って製作してもらう提案をいたしました。また、やはりテキストデータがないというのは一番大変な問題でして、入力間違いとか、校正をいたしましたが、朗読の時点で初めて間違いに気づき、それでまたやり直しということがたびたび起こりました。本当にデータがないというのは、こんなに大変なのだということがよく分かりました。

課題

(資料8 説明)

またマルチメディアDAISY図書の使い方がよく分からないお子さんやお母さんもいたように思います。きっと隣にDAISYを知っている人がいたら、「こういうふうにフォントも大きくなるのだよ。」とか、「コントラストも使えるんだよ。」とか教えてもらえたのかもしれませんが、使い方の講習をしない形でこのプロジェクトを始めてしまったことも問題だったかなと思っています。その点については、「たつの子」プロジェクトのコーディネータである山中さんに私どもの代わりに教えていただいたりとか、助けていただきました。

それから再生ソフトが、現在、IEの6とか7とか使っていらっしゃる方がいらっしゃると思うのですけれど、両方のバージョンで見ますと、一方が反映されていないことがありました。現在はIEの6でも7でも読めるような形になったんですけど、それに到達するまでとても時間がかかりました。それから多様なニーズの把握と、それに対応するためのソフトウェアの開発が必要になってきました。

また希望者の増加に、だんだん私たちも対応しきれなくなってきてしまって、それをどうしようかという課題も出てきました。

それから著作権の問題。これは講演者の方々がお話しになっていますが、解決する方向に向かっています。更に、文科省のほうから教科書デジタルデータの提供希望調査がきておりますが、残念ながらまだ国によるはっきりとした提供体制は見えない状況にあります。

著作権問題の解決

(資料9 説明)

そうした中で、2月5日に京都でネットワーク会議を行いました。そこで、製作団体の参加を呼びかけまして、製作・提供方法の共有、今後の連携について話し合いを行い、当事者からの要望・意見などのヒアリングをいたしました。さらに、DAISYのソフトウェアの会社から、具体的に言いますと、シナノケンシさんにも参加していただき、日本語に対応した再生ソフトについて要望をいたしました。最終的には、やはり国がきちんと、法律の中に書かれているようにDAISY版教科書を無償で提供するべきだと思っているのですが、具体的な提供体制の提言アピールに参加してくださいという呼びかけを会議の中でいたしました。

ネットワーク会議(2009年2月5日)

(資料10 説明)

「たつの子」プロジェクトに協力していただいた団体についてですが、先ほど申しあげませんでしたが、DAISY江戸川とATDOにも教科書の提供という形で協力していただいております。

2月3日から2月7日にかけては、DAISY京都会議というのが、DAISYコンソーシアムの会長になりました河村さんのイニシアティブの中で開かれました。とりあえず京都会議と呼んでおります。まず、DAISYコンソーシアムの理事会がございました。そして「DAISYによる教科書づくりを考える」というセミナーを行いました。それから「地域における障害者のインクルーシブな情報支援」のテーマでシンポジウムを開催いたしました。この会議は、本当に、DAISYコンソーシアムの理事会のメンバーにとっても、日本の関係者にとっても、あるいは参加者にとっても、とても有意義な会議ではなかったかなというふうに思います。と申しますのは、これまでにDAISYの関係者がやってきたことの到達点の確認、そしてこれからどういうふうに活動していけばいいのかというヒントを、それぞれの会議やセミナーなどからもらったのではないかと考えるからです。

ネットワーク会議(2009年2月5日)

(資料11 説明)

最後に、DAISY版教科書提供体制の確立に向けてなんですけれども、例えばどのような人が関わるのかなと思いましてそれをここに羅列してみました。もちろん国の介入はとても必要だし、国からトップダウン的なやり方をするのであれば、本当は一番早いのではないかなと思います。その一方で、先ほどの京都会議でも言っていたことですが、ボランティア側からのグラスルーツレベルでボトムアップという流れで皆さんに普及を促していく方法もあるかとは思います。そしてまた出版会社、当事者、その関係者との連携が必要だと思います。

提供体制の確立に向けて

(資料12 説明)

そしてまた学校。お子さまがいらっしゃるところというところで、やはり何が必要なのか、何が子どものニーズに合わせた教育の提供なのかという観点でその役割は重要です。学校の中でDAISYを利用してもらえたらと思います。

次に教育委員会。教科書バリアフリー法施行規定によれば、まず、最初に学校から教育委員会にDAISY版教科書を要請して、教育委員会から私どもに発注が来るという体制になっております。国に代わって教育委員会が発注するので、やはり教育委員会が、今、子どもたちがどういったニーズがあるのか、どういったものが必要なのか、障害者にとって、例えば別にDAISYではなくても、例えば点字とか拡大図書とか、どういうものがあるかという理解が必要だと思いますし、そのためのお手伝いを私たちDAISY関係者ができればいいなと思います。図書館というのは、先ほど品川さんがおっしゃったみたいに、情報の保障をしてあげるところでありますし、学校図書館は、子どもに身近にある場所だと思います。DAISY図書に関わるようになって図書館に関わり、国際図書館連盟においてもDAISYというものを普及していますが、図書館の活用というのは地域での支援において重要であると思います。

1998年に、私はリハ協に入り、初めてDAISYを知りました。その当時、デジタル教材に関わる助成の申請をしました時に、申請書を見た助成先の担当者が、「申請の中身はいいんだが、“DAISY”って名前はいらないので取ってくれないかな?」って言われてしまいました。それではと申請をやめてしまったことを思い出します。それぐらい、DAISYは知られていなかった時代のことです。それから10年経ちました。DAISYというのが少しずつ広まっていますけれども、やはりまだまだ普及が十分されていません。今回の2年間の事業の中で、ディスレクシアの読みの支援ツールとしてDAISYを説明していきますと、「まずディスレクシアって何ですか?説明してください」と言われます。ディスレクシアの説明をして、その読みの支援の1つとしてDAISYを説明したことが多かったように思います。そのような普及の中で、当事者の声、応援する人の声、支援者の声、協力の声が大きくなっていくとき、それに応えてDAISYもまた進化していくのではないかと思うのです。

最後に、教科書だけではなくて、本当に、様々な本が出版されると同時にDAISYが出版されればいいなということで「Best Way to Read,Best Way to Publish」のDAISYのさらなる普及を願って終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

Best way to read, Best way to publish

(資料13 説明)