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DAISY版教科書提供の取り組みと現状について

野村 美佐子(財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長)

私は、「DAISY版教科書提供の取り組みと現状」ということでお話しさせていただければと思います。

私は最初は、20分間いただいたんですけれども、その後、事例発表でたくさんの方が参加いただけることになりましたので、私の報告は10分ほどということになりました。そのため本当に簡単ですけれども、リハ協のDAISY普及事業、DAISY版教科書提供事業についてお話しできればと思っております。リハ協のDAISY普及事業ですが、1998年から2001年にかけまして、日本におけるDAISYの導入をいたしました。この導入は河村さんのイニシアチブで行われ、視覚障害者を対象にしたデジタル録音図書の普及の基礎となりました。点字図書館にいらっしゃる方はご存じかなと思います。そして2001年に認知・知的障害者のためのマルチメディアDAISY研究開発事業が開始いたしました。最初は、DAISYというは、Digital Audio Based Information Systemの略で、視覚障害者対象で、デジタル音声情報システムと訳していました。2001年12月には、視覚障害から、印刷物を読むことに障害がある人々が対象ということで、Digital Accessible Information Systemの略となり、翻訳しますと「アクセシブルな情報システム」となりました。それから2001年から現在までの10年間、マルチメディアDAISY普及活動を進め、関連する情報収集及びウェブサイトへの掲載をDINFというウェブサイトで行なっております。またマルチメディアDAISY図書の製作及び展示を行い、今日も私どもが製作しましたDAISY図書の展示がございますので、よろしければ見ていただければと思います。さらにDAISY再生と製作ツールの無料提供と、DAISY製作研修会の開催も行ってきました。そして2008年9月よりDAISY版教科書の提供を、小学校や中学校の読むことの困難な生徒に開始しました。

DAISYによる教科書製作プロジェクトは、対象者は、読むことに困難がある小学校・中学校の児童と生徒です。提供を開始した2008年9月というのは教科書バリアフリー法が施行された時期なんですね。それにあわせて教科用特定図書としてDAISY版教科書の提供を開始いたしました。そのときは神戸のLD親の会「たつの子」のお子さんを対象に提供いたしました。今日は山中さんがいらしているので、現在の状況についてお話しいただけると思います。

2009年4月には、出版社からのデータ提供が始まりました。10団体の協力でDAISY版教科書提供を行い始めました。10団体というのは、皆様の資料の中に入っておりますので、ご参照ください。そのような方たちの協力で、2009年9月には約200人の児童・生徒への提供となりました。ただ、CD-ROM提供ということで、またリハ協が一括して行うことになりましたので、少し手間がかかる部分はリハ協が担当することになりました。

そして現在、教科書を50冊ぐらいを製作しています。総提供数は375。製作教科書は、国語が中心で、社会、歴史、公民、地理、英語といった教科になります。製作依頼につきましては、現在までに162人の先生から利用者の代わりとして依頼がありました。そして個人は204人で、その他9人で、だんだん希望者が多くなっていきました。初めは保護者の方が多かったのですが、特別支援教育の中で、先生の方からの問い合わせが多くなってきました。

まず初めて聞く方は、どうやって手に入れるのかなと思われると思うのでそのことについて話します。DAISY研究センターに連絡をしていただき、その後申請書を提出していただきます。その後、私どもの方でCD-ROM を送付いたします。費用はCD-ROM代と送付代ということになります。

2010年からはダウンロードを予定しておりますが、著作権問題というのがあります。2008年6月には、障害のある児童・生徒の教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の教科用特定図書「等」にマルチメディアDAISYが入り、その法律が採択されました。施行が2008年9月。その法律に合わせて著作権法も変わりました。そして2009年4月から教科書データも提供されるようになりまして、2010年1月からはさらに改正されましたが、実は、1月の改正の政令指定業者にはまだなっていません。そのため、これから私どもは、政令指定業者の申請をして指定されれば初めて例えば教科書以外の図書の製作、あるいはダウンロードができるというところですが、まだそういう状況にはなっておりません。

2009年12月に、私たち10団体で行っているこのプロジェクトの成果はどうなっているかということで、利用者のお子さんの保護者あるいは先生にアンケートをとりました。

利用者はさまざまな読むことに困難がある方です。そしてただ単に読み書きだけではなくて、例えば、ADHD、集中力がないとか、あるいは眼球運動に問題がある、見え方の問題ですね、そういった問題のある方も利用者になりました。また、ページがめくれないので本が読めない方も、このDAISY版教科書を使用しています。

DAISYの利用方法を見てみますと、多くが、通級での個別指導に使っています。また家庭学習が多いです。家庭学習で何をやっているかというと、予習、復習、音読、練習、宿題などです。そしてテスト対策という回答もありました。復習というのは、もしかしたらDAISY版教科書が間に合わないということもあるので、この傾向というのは、実際に復習をしているかというと、復習せざる得ない状況にあると考えてもらってもいいかもしれません。

使用期間は、最近問い合わせをして使いはじめた方も多く、1ヶ月間という方々もおり、最長で4年間使っている方もいらっしゃいます。

使用頻度は、週1回から週2~3回程度。継続が結果を生むのかなと思っています。

有効点に関しましては、実は私の後の発表の中で実際の事例発表がありますので、こちらで詳しく申し上げるつもりはないんですけれども、読むことの関心とか、自分のペースで読める、授業への参加意欲がでた、内容・理解等がかなりよくなったという話がありました。本日、実際に使用されています保護者、そして通級指導に使用されている先生から、さらに詳しく有効な点をお話していただけると思います。

そして要望についてです。スピードの変更、音の質。例えば抑揚をつけて読んでほしいとか、抑揚がない方がいいとか、気持ちが入っていない方がいいとか、気持ちがないとか、思い入れがないと物語がつまらないという声もございます。それぞれニーズが違うので、これらの声をどう扱ったらいいのかと思いました。

スピードの変更という要望がありますが、実は最新の英語版のAMISではできるようになっています。利用者の保護者の方で、「速くてしょうがない」とおっしゃっている方は、休憩時間に体験していただきますと、きっと感激するのではないでしょうか。

著作権法の問題の解決というのは先ほどお話ししましたが、そのことによりDAISYによる支援の可能性の広がりができてきたんですね。というのは、教科書だけでなく、いろんな場面でDAISYの活用はできます。例えば教育におけるDAISY活用事例として、先生にぜひやってほしいと思うのは、ソーシャル・スキル・トレーニングです。またもちろん図書を楽しむため、作業手順を学ぶ、緊急時の対応を学ぶ、自己表現方法として、そしてDAISY版教科書として使う等と、さまざまな使い方があるということです。私たちは、教科書だけでなく先生のお手伝いをできればと思っております。

そして、さらなる普及に向けてどういったことが考えられるかといいますと、DAISYをどう使ったらいいかわからないという方のために使用事例の作成をしたいと思っています。

またDAISYを使用するための研修会。というのはアンケートで「使っていない」という理由を調べますと、「操作ができなかった」というのがあったんです。本当に残念でしたので、研修会を開催したいと思っています。

そして教材としてのDAISY図書の作成。多分、教科書と違った形のDAISY図書ができるのではないかと思います。

それから教科書作成のガイドラインの確立。国語以外で社会とか、数学とか、本当にレイアウトが難しくて、どこを基本に作っていいかというガイドラインがないので、そういったものができればいいなと思っています。

それから教育委員会との連携。昨年末に、ある県の教育委員会の要請で研修会をいたしました。このように、将来的には、教育委員会がまとめてくれれば、こちらとしては助かるなと思っています。

そして展望。国連障害者権利条約による合理的配慮として権利的な保障があればいいなと思っています。そして提供システムへの確立に向けた国の支援や、研究開発の促進があることを特に期待したいと思います。実は私どもでは、文科省の委託プロジェクトを行っていまして、今年ともしかしたら来年もあるかもしれないのですが、DAISY版教科書の有効性についてのプロジェクトを行っております。その結果によって、もしかしたら、DAISY版教科書提供プロジェクトの今後について国が考えてくれるのではないかと思っています。また学校図書館等が協力していただければ、学校の中にも入りやすいのではないかとも思っております。そして出版会社や企業との連携。つまり関係者とのネットワークの構築です。それから多様なニーズに合った開発。これはDAISYコンソーシアムに期待するしかないと思います。DAISYコンソーシアムの会長がいらっしゃいますのがよろしくお願いします。

そして最後にあなたの参加です。あなたは何ができますでしょうか?

やはり本日こちらに来ていただいたということは何かをしたいのではと、そして何かお手伝いいただけるのではないかと考えるからです。もちろん学ぶ、知識を得るということも必要だと思いますが、参加することもとても重要だと思います。ご清聴ありがとうございました。

補足資料

マルチメディア DAISY版教科書の提供

2008年9月17日施行の「教科用特定図書普及促進法(教科書バリアフリー法)」と「著作権法第33条の2」の改正により、LD(学習障害)等の発達障害や弱視等の視覚障害、その他の障害のある児童・生徒のための「拡大教科書」や、デジタル化された「マルチメディアDAISY版教科書」等が、製作できるようになりました。

(財)日本障害者リハビリテーション協会では、2008年の9月よりマルチメディアDAISY版教科書を通常の教科書では読むことが困難な児童、生徒に、提供を始め、2009年度には、当協会を中心にボランティア9団体(下記参照)に協力していただき、より多くの読むことに困難のある生徒に提供をしております。

<DAISY版教科書製作協力団体>(2010.1.9現在)

  • 特定非営利活動法人 奈良デイジーの会
  • 特定非営利活動法人 デジタル編集協議会ひなぎく
  • 国立大学法人富山大学人間発達科学部 森田研究室
  • ボランティアグループ デイジー江戸川
  • 特定非営利活動法人 支援技術開発機構
  • 特定非営利活動法人 かかわり教室
  • 特定非営利活動法人 こみこみドットコム
  • 社会福祉法人日本ライトハウス 情報文化センター
  • 朗読奉仕グループ「Qの会」