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井上氏配布資料

著作権法改正による発達障害者などへの情報保障・教育支援の広がりに期待する

井上 芳郎(障害者放送協議会著作権委員会委員長)

1.著作権法改正について

著作権法の一部が改正され2010年1月1日から施行されました。このことは約10年間にわたる、障害者放送協議会や関係団体等によるねばり強い取り組みの成果といえます。

主な改正点としては、第37条等で規定される「視覚/聴覚障害」を「視覚/聴覚障害等」と改め、「発達障害」等も「視覚/聴覚による表現の認識に障害のある者」として、権利者に無許諾で著作物の「複製」やインターネットの「自動公衆送信」のできる対象者としたことなどです。

ここで特筆すべきは、「複製」について「障害者等が利用するために必要な方式によりできる」としたことで、デジタル録音図書の国際標準規格であるデイジー方式も含まれるようになり、これまで視覚障害者中心であった利用範囲や場面が広がることが期待されます。そして複製や自動公衆送信等の主体について今まではきわめて限定的でしたが、改正後は一定の要件を満たす公共図書館、大学図書館、学校図書館等にも拡大されました。

文化庁の公式発表では、これらサービスを受けることのできる対象者の確認について、発達障害のうち「視覚や聴覚による表現の認識に障害のある者」であればその対象であると明確化され、確認方法については「障害者手帳」や医師の「診断書」等は不要であり、各施設等での判断となりました。具体的には図書館関係団体策定の「ガイドライン」を利用することになります。

また国立国会図書館に限られますが第31条の改正により、所蔵資料のデジタル化が原則可能となり、障害者サ-ビスを念頭においた調査研究が進められていると聞いています。国会図書館には検定教科書はもちろんのこと国内の出版物がすべて納本される建前ですので、全国の公共図書館や学校図書館などとをつなぐデジタル・ネットワークの早期構築が望まれます。

2.特別支援教育等の場面で期待される効果

今回に先立ち「教科書バリアフリー法」が2008年9月17日より施行され、あわせて著作権法第33条の2も改正され、文科省検定教科書に限り発達障害等の児童・生徒のため、必要な方式で複製等ができるようになり、マルチメディア対応のデイジー教科書の製作が教科書出版社等の許諾を得ずともできることになりました。日本障害者リハビリテーション協会を中心としたボランティアネットワークによる取り組みにより、デイジー教科書を利用した学習支援の輪が広がっています。

そして今回の法改正では検定教科書以外の著作物のデイジー化などにも道を開いたものであり、高校や専門学校、大学・短大等での発達障害生徒・学生への学習支援、情報保障に道を開き、さらに卒業後の就労支援への活用も期待できます。すでに欧米はじめアジア諸国の一部でも、デイジー図書などのデジタルアーカイブとインターネットとを組み合わせたネットワークシステムの活用を国家的事業として開始しています。

3.今後の課題

喫緊の課題として義務教育や実質無償化を謳う高校教育までのバリアフリー教科書について、必要とする全ての児童・生徒に対し国の責任で提供すべきことがあげられます。すでに全国LD親の会やJDDネットワークが文部科学大臣宛の要望書を提出したと聞いています。さらに各方面とも協力し取り組みを進めることが必要と考えます。