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石井氏配布資料

2010年1月9日

参考資料

横浜市立盲特別支援学校 図書館のご案内

1.はじめに

全国には盲学校が70校(昨年度は71校)あり、3,470名(2009年度)が在籍しています。このうち1,2O8名が高等部卒業以上の専攻科です。在籍数が10名以下の盲学校が3校有ります。在籍数の減少は、子どもの数が減少したことにもよりますが、2年前に盲学校が地域の特別支援学級としての役割を担うようになってから、点字使用や強度弱視の児童・生徒が地域の小・中学校に入学するようになってきたことにもよります。

本校は、1888年(明治21年)眼科医浅水十明が盲人を集め、西洋医学の講義を開始した盲学校です。目が見えにくかったり・見えないために専門的な指導を必要とする幼児・児童・生徒に対し、幼児教育・義務教育・高等学校普通教育及び専攻科で職業教育(あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう)を行っています。

専攻科は、大学の入学試験を有する視覚障害者が、理療・保健理療に関する知識・技能を修得し、保健理療科あん摩マッサージ指圧師の国家試験受験資格を、理療科はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家試験受験視覚を得る学科です。

本校は、横浜港を見下ろせる小高い丘の上に建っています。校庭整備の際、縄文式の竪穴住居の遺跡が発掘されたことでも分かるように、温暖な気候に恵まれています。

坂を下りると、日常子どもたちが何かと支援を頂いている大きな商店街が有ります。書店には、思わず手に取りたくなるような美しい本が並べられています。

日本では、毎週数千冊の本が出版されています。しかし、文字が見えにくい、文字が読めない子ども達 或いは、そのままの文章では内容がよく分からない、図書館や本屋に自分では行けない、或いは、学習障害やディスレクシアの子ども達、その様な子どもたちに拠って立ち、配慮した図書の出版は極めて少ないのが現状です。盲学校では、視覚障害だけでなく、様々な障害のある子どもたちも受け入れています。

見えない子どもにとって、本はただの「つるつるの紙の束」にすぎません。どのようにしたら、子ども達が本と出会うことができるのか、どのようにしたら、子ども達が本を楽しむことができるのでしょう。

2.利用者

盲学校の図書館は、蔵書の特殊性からも、利用者は多様です。

図書館は、どんな利用者にも、安心と、信頼が保障されていて、自由な読書活動が出来る、居心地の良い空間であって欲しいものです。

  • 本校在学生 107名(2009年度)
    幼稚部 小学部 中学部 高等部普通科 専攻科(高等部卒業以上 90%以上が中途失明者 あん摩・指圧・マッサージ、鍼・灸師を目指す職業教育)
  • 乳幼児相談部(家族)
  • 卒業生
  • 地域のセンター校として(特別支援学級 小・中学校)
  • 他の盲学校、養護学校、特別支援学級
  • 公共図書館(貸出)

3.施設・設備

夏涼しく、冬温かく、居心地の良い空間には、人は自然に集まってきます。

本館の入り口では、センサーが働いて、子どもたちの声で「いらっしゃいませ ♪♪♪ 図書館の入り口はこちらです ♪♪♪ 」と入口を知らせ、歓迎します。カーペットコーナーがあり、ぬいぐるみに囲まれて、好きな格好で読書が出来ます。冬にはホットカーペットを敷き込んでますので、位置表示にもなっています。

本館の図書館管理ソフトは「音声対応 図書館情報BOX」((株)教育システム)を使用しています。このソフトは、教育システムの厚意により、無償で製作されたものです。この管理ソフトの導入により、利用者は、独力で本の借り受け・返却が可能であり、読書の権利が守られるようになりました。

  • 照明:照度を通常の建物より120%に設計されている。辺光を遮断し、個別の照明が行える机も設置してある。
  • 閲覧室:6教室分 240m2 司書室 1教室分 40m2(集密書架設置 管理システムのサーバー設置)
  • 備品:拡大読書機 デイジー関連機器 DVD・ビデオデッキ コピー機 点字印刷機 パソコン(インターネット・校内ラン接続)よみとも(「高齢者・視覚障害者支援型情報システム」 OCR 自動点訳、音声読み上げ) 電子図書(辞書他)
  • 教材資料室(20m2 集密書架設置)
  • 対面朗読室(放送室内)

4.図書館の運営

夏休み等の長期休業期間も含めて、いつでも図書館が開館され、専任の司書が居ることは、図書館の最低の条件です。教育課程を支援する資料が充実していること、これは、全職員が図書館に対して責任を持つ姿勢が必要とされます。こどもたちの興味関心を引く資料が充実していて、知りたいことが分かった喜びは、子どもたちの世界を大きく拡げるに違いありません。

本館の運営には、司書教諭 校務分掌「情報メディア支援部」(各学部から)図書館運営委員ボランティア 生徒図書委員会が当たっています。

また、廃棄をも考慮に入れて、長期にわたる蔵書計画を立て、教育委員会へ予算の増額を言い続けています。

5.見えない、見えにくいということ

「見え方」眼の状況は、1人ひとり異なります。本校在籍の約半数は先天盲であり、約半数は中途失明者です。見え方は、半数が全盲で、半数は弱視ですが、弱視の見え方は一様ではありません。

強度弱視、羞明がある(まぶしさによる見えにくさの補償のために、図書館では常に遮光力ーテンが閉まっています。)、眼振がある、視野狭窄(大活字にすると文字が視野からはみ出す。視野の確認が大切になる)、急激な視力の低下がある、眼圧が高く長時間の読書が困難等々・・・日常生活をする上で、目の管理が必要な子どもも居ます。

以前、盲学校では、残存視力のある子どもたちにも点字を使用していました。けれど、図書館は訓練所ではありません。点字使用が見込まれる生徒であっても、残存視力を活用したいと希望する間は、読みやすい、読みたい媒体で提供することが図書館の責務であると考えます。

「読み易くなければ内容が分かりにくい」「楽しくなければ読書ではない」図書館は楽しい所で有って欲しいのです。

6.1冊の本が・・・媒体の変換

本校の図書館活動は、現在33グループ、600人に近いボランティアの支援を受けています。それは、視点を変えると、視覚障害者は、出版物をそのままの状態では情報を得ることが、非常に困難であり、媒体の変換が必要であり、それをボランティア活動に依存しているということになります。現状は、蔵書の90%は自館製作です。本が納品されたら、質の高さを目指しつついかに速やかに、いかに媒体の変換を行うかが課題です。

  • 様々な媒体媒体
  • 点字図書 手で読む絵本 点字絵本
  • 拡大絵本 大活字本
  • バリアフリー絵本
  • 音声訳図書(デイジー図書)
  • 対面朗読(究極の情報保障である。)

音声訳のボランティアに、日課表に組み込んだ形・放課後等に、対面朗読を依頼しています。医療関係・東洋医学関係の資料・雑誌であることが多く、専門的な知識が要求され、校内研修を行っています。

7.本への誘い

世の中に、本が有ることを知らない・・・そんな事実を理解出来るでしょうか。絵本を通して、大人達は子育てを楽しんで欲しいし、子ども達は、大人達の膝の温かさを感じながら、楽しい時間を過ごして欲しい。物語を通して、大人と共感し、認めて貰い、良い言葉の育ちが出来たらと願っています。

子ども達が情報を得る手立ては「聞く」「触る」(時として「香る」)、聴覚と触覚に依ります。絵本との出会いは、子どもを取り巻く大人達が「しむける」必要があります。その辺りをどの様に工夫するか、つまり、盲学校の図書館の大きな役割の一つに、家族への支援がありあます。

一人ひとり関心は異なります。どのようにしたら、手から、指から、耳から情報を得るカを身につけることが出来るのでしょうか。

  • 点字の迷路:本の出会いの前に、触ること慣れなければならない。凸の点の繋がりで描かれた「迷路」は、子ども達だけでなく、中途失明の大人達にも有効な、「お薦め」の触察教材です。
  • 手で読む絵カード:「触ってみる練習」を重ねることにより、絵力一ドの構成(この様な事物がこのように作り替えられている)きまりの雰囲気が分かるようになります。

分かることの楽しさを体感し「知りたがり屋の子ども」になると、図書館は楽しい場所になります。

市販のさわる絵本「これ、なあに?」(バージニア・アレン・イエンセンとドーカス・ウッドバリー作 偕成社)等も盲学校における基本図書です。これらの出版を期待しています。

(1)手で読む絵本(さわる絵本)

手で読む絵本は、文字の点訳と同時に、絵の中から中心となる事物を取り出して、布などで再現した手作り絵本である。情景を思い浮かべる手がかりとなるように、触って分かる工夫を凝らしている。ボランティアグループの方々は、日頃から、いろいろな素材を集めるために苦労しています。

まだ点字が読めなくても、大人たちから話を読んでもらい、多くのことを説明して貰って、手で触っているうちに、情報を得るカが育まれます。

(2)点訳絵本

透明のシートに点字を書いて、絵本に張り付けた絵本。大人達、或いは兄弟・姉妹も一緒に絵本を楽しむことができます(これは、大阪の全盲の岩田さんが、ご自身のお子さんに、読み聞かせをするために、工夫された絵本です。)

(3)点図絵本

絵や写真を言葉で説明するのには限界があります。点字絵本は点字の「絵本」です。大、中、小の点の連続で絵を描きます。しかし、見たこともないものを触って理解するのはとても困難です。慣れないうちは分かりにくいかも知れませんが、充分な説明受け、経験を重ねる内に、例えば、そこに描かれた人物の唇や目の形で表情を読みとったり、雨だれの大きさや方向で雨の様子の理解が可能となります。

更なる経験により、点図を、立体・空間の広がりを掴む手がかりとして活用して欲しいものです。

これまでは、点訳する際、童話や小説の挿し絵なども、省略されることが普通でした。そこに描かれた映像を、点字の文章で解説するだけでなく、点図があるとイメージが広がり、理解が深まります。最近の出版物は、ことのほか写真、イラストが多用されています。必要な映像は省略することなしに、点図化が望まれます。

パソコンで、点図を描けるようるこなりましたが、まだ大変な労力と感性を必要とされています。分かりやすい点図を描くために、製作者と点字図書館や、盲学校の教員や視覚障害者たち、時には子どもを交えて、より質の高い点図の製作が課題です。

8.本は友達コンクール

特に紹介したい活動に、全員参加型の「本はともだちコンクール」があります。

読書感想文コンクールを中心として、創作、朗読、読書の薦め標語等、子どもたち一人ひとりがどのようにしたら参加できるかを基本に要項が作成されています。

表彰盾は、キャラクターを生徒図書委員会が決め「手で読む絵本」グループに製作を依頼しています。因みに今年度のキャラクターは「ピカチュー」でした。

9.全国的な連携

高田馬場にある日本点字図書館を開館された本間一夫氏が、生前「戦災を逃れてリヤカーで点字本を運んだ」と言われました。本を愛おしむ心が伝わってきます。それほどまでに、視覚障害者向けの本は、手作りで有ることが多く、1冊1冊が貴重であり、視覚障害者の共有の財産といえます。全国的な連携を計るために、様々な努力がなされています。

  • 国会図書館視覚障害サービス:一般の図書以外に、学術文献録音図書サービス
  • 「ないーぶネット」:厚生労働省補助事業として日本点字図書館が運営を委託
    全国の点字図書館等の点字データも含めての蔵書検索が可能であり、点字図書・録音図書の貸出が可能。また、ないーぶネットの利用によって、匿名性が保たれ、入手するまでの時間が短縮
  • ビブリオネット:日本点字図書館と日本ライトハウス盲人情報文化センターが、2004年4月に共同で開始した新たな利用者サービス事業。東京及び大阪に設置されたコンテンツサーバ内のデジタル化された点字図書・録音図書を自由に利用することが可能