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シンポジウム「デイジー教科書の現状、課題、そして将来に向けて」

講師のコメントおよびまとめ

井上 芳郎(埼玉県立坂戸西高等学校 教諭)

このシンポジウムは、今回で何回目か正確には覚えていないのですが、本当にいろんな意見を聞けて勉強になりました。今までは、どうしても一方通行でしたので、今回は、とても良かったと思っております。

展望ということですが、発表者のまとめのなかにもありましたが、いわゆるデジタル教科書は、国の施策としては最初は2015年度までに導入という話でしたが、その後、トーンダウンして2020年度までに、義務教育に導入するということです。これは出所のあやふやな数字ですが、5000億円の財源が必要とのことだそうです。義務教育の子どもが約1000万人ですから単純に割り算すると、1人5万円です。こんな考え方はあまりしたくありませんが、下手をすると、端末、デバイスを1000万台ばらいておしまいという危険性がある気がします。これは私が勝手に思っているだけかもしれません。

私は高校で何十年も教員をやっていますので過去の経験から言いますと、今までも色々なモノが教育現場に入ってきましたが、使われないままほこりをかぶってしまったものも多いのです。デジタル教科書も、コンテンツつまり中身がなければただの箱ですから、良質なコンテンツが用意できないまま下手をすると我々の貴重な税金を使って、ただの箱を配って終わりになる危険性を感じます。

平成25年8月、文部科学省の検討会として、「障害のある児童・生徒の教材の充実に関する検討会」が6回開催され、ものすごいスピードで、あっという間に報告書が出来ました。これはインターネットで公開されているので、ご覧いただければすぐに中身がわかります。そこにはいろいろ書いてありますが、とても気になる点は、アクセシビリティについては最初からボランティア頼みなことです。ようするに国はあまりお金を出さないけれどもボランティアに頼んでやってもらうということです。ボランティアの方たちは本当に貴重なことをやっていらっしゃるのですが、最初からあてにされているのです。報告書では、そのためのいろいろな仕組みについて、これからさらに検討を深めるとあります。本来ならば、検定教科書は、「主たる教材」として使用が義務づけられているのですから、実際につくるのは教科書出版社ですけれど、誰もが使えるアクセシブルな教科書は国の責任で提供するべきです。これからは「合理的配慮」が重視されます。そのベースになる部分はしっかりと作り、多様な個別のニーズは本当に細かくありますので、そのようなところはボランティアの方たちの手を借りてカスタマイズして提供出来るようにしていくべきなんです。そういう余地をきちんと残したうえで、国の責任で一定の高いレベルで作るべきです。ボランティアの方たちの、活躍する場は、本当はカスタマイズの部分にあるのではないかと思います。この検討会の議論でも、そこまで、踏み込んでやってほしかったと思います。現状の紙ベースの検定教科書でも400億円、子ども1人当たり4000円の財源が使われています。それだけ貴重な税金が使われています。私も、いろいろなデジタル教科書研究会とか学会などに参加して、いろいろ話しています。どうしても残念ですがアクセシビリティの話は、置き去りになりがちです。そういうところへできるだけ、顔出しをして、こういう問題について真っ先に考えるべきではないかと、意見を述べています。これは自分自身の展望ということですが、今後も続けていきたいと思っています。

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