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国際セミナー
「防災のユニバーサルデザインとDAISYの役割」

【質疑応答】

司会●

それでは、質疑応答ということで最後の25分、始めさせていただきたいと思います。マーカスさんにたくさん質問がありました。

一番根本的なところで、EPUBとDAISYの関係が今ひとつわかりません。EPUB3.0の中のオプションとしてDAISYも使えるということでしょうか?

次の質問が、課題として挙げられていたアクセシビリティに焦点を絞ったオーサリングツールについての展望を具体的に聞かせてください。私は出版編集者ですがEPUB対応をうたった既存のDTPツールでは、表示できるだけのEPUBドキュメントは作れても、それも容易ではありませんが、機能するEPUBを作ることの困難さに辟易しております、という質問がございます。

それから、タッチパネル式のタブレット端末、スマートフォンは視覚障害者にとっては非常に使いにくいです。凹凸がないのでどこを押せばいいのか、クリックすればいいのかわかりません。このようにある特定の障害者にとって不便な端末がマーケット拡大していることについてコメントをいただきたいとのことです。そして、また上記の欠点を補うツールとして、Siriというようなソフトのような、高性能の音声ナビゲーションがあるが、このような機能はEPUB3に装備されているのでしょうかという質問になります。

ここまででわかるところを答えていただけますか?

マーカス・ギリング●

最初のご質問はDAISYとEPUBの関係についてだったと思います。プレゼンテーションのときにうまく説明できなかったのは申し訳ありません。

まずDAISYという組織は残ります。組織としてのDAISYは大変重要な役割をまだ果たしています。この新しく発展して進化している世界の中で重要な役割を果たしています。ただ、DAISYのフォーマットとして新しい主流のEPUBが出てきております。ただDAISYのフォーマットは今後EPUBに移行していくわけです。DAISYとEPUBでフォーマットが一緒になった。ですから主流となるEPUBはDAISYのフォーマットの主な機能はすべて使えます。DAISYはEPUBの中のオプションなのかどうかという質問ですが、ある意味ではそれはそのとおりです。DAISYはオーディオオンリーかテキストオンリー、そしてテキストとオーディオ両方も可能です。EPUBも同じです。ですから出版社は選ぶことができます。つまり音声とテキストの同期を使うのか、あるいは先ほどの音声の合成と言いましたけれどもTTS、音声合成もある意味ではオプションです。ですから必ず必要だというものではありません。しかし、ほかのDAISYの機能すべて、アクセシビリティのDAISYの機能はすべてオプションとしてEPUBフォーマットの中にあります。

河村宏●

マーカスはIDPFとDAISYの両方の最高技術責任者なのでIDPFのことも説明しないといけないわけですが、私はDAISYの方の理事をしていますので、少しDAISYの方から付け加えさせていただきます。

DAISY4というものが制作者用のソースコードで存続します。DAISY4は、それからEPUB3を作り出す、あるいはDAISY3、DAISY2.02、今使われているDAISYに同じソースからコンテンツを作って配布する。あるいは点字をそれから作り出す。そういう目的を持ってDAISY4というものがあり、最終的に消費者の手元に届けるときにはEPUB3という形になります。また昔からのDAISYプレーヤーしか持っていない人にはDAISY4のソースからDAISY3、あるいはDAISY2.02のコンテンツを提供できる。そういうことのためにソースファイルとしてのDAISY4は存続するというふうに考えていただきたいと思います。これでいいですね、マーカス?

マーカス・ギリング●

はい、そうです。それについてはもう一つ言いたいのですが、今まで作られたツールボックスはこれからも残りますし、これからも何年もそれはサポートされます。MP3のオーディオフォーマットと同じようなものです。新しい、もっといいオーディオフォーマットに取って代わられていますけれどもMP3プレーヤーはまだ残っています。DAISYファイルも同じです。ライブラリとか他のプロバイダなどDAISYを使っているところにとっては、もうサポートされないという心配はありません。

ただ今後、インクルーシブな出版を作る際にEPUB3がディストリビューションの手段として使われることになると思います。ですから制作について河村さんがおっしゃったように、DAISY4はソースフォーマットとして今後も存続します。しかしEPUBファイルを作るオプションは他にもあります。これだけに限ったものではありません。ソースフォーマットとしてのDAISY4は、特にパラレルプロダクションに使えます。例えばeBookとDAISYブック、両方のアウトプットを同じソースで作りたい場合に使えます。また、DAISY4のXMLに前のバージョンになかった日本語の文字がサポートされているということです。例えばルビがDAISY4には含まれます。DAISY3にはこれはありませんでした。このようにXMLでルビを入れるのにこんなに時間がかかったのはお詫び申し上げなければなりません。

次の質問はプロダクションについてです。私の理解が正しければ説明が十分に理解できたかわからないのでお答えしてみたいと思います。

プロダクションツールとして、プレゼンテーションで申し上げましたように、出版社やコンテンツプロバイダでEPUBを提供したい者にとっては状況が変わっています。というのは、EPUBは社会的にDAISYより何倍も規模が大きいからです。ですからたくさんのオプションがあります。過去数ヶ月、例えば出版ツールで世界中で一番人気があるのがアドビのInDesignだと思います。日本でもよく使われていると聞いています。InDesignはバージョン6です。1ヶ月前ぐらいだったと思いますが、EPUBのサポートも含まれています。ですから現在出版社としてはEPUB3がInDesignだと言えるわけです。DAISYはそうではなかった。だからこれはいいニュースです。

しかし、商業的なプロダクションツール、アクセシビリティをサポートする上ではたくさんのことが必要です。現在のInDesignのアウトプットは十分にアクセシビリティのあるeBookになるかもしれませんけれども、アクセシビリティという意味では、またユニバーサルコンテンツデザインという意味ではまだ十分ではないかもしれません。InDesignはユニバーサルなデザインやアクセシビリティを最初から念頭に入れてデザインされたものではありません。ですから、商業出版とDAISY、両方にとって使いやすいシンプルなオーサリングツールでEPUB3ファイルを作るものが必要だと思います。InDesignとは違うアプローチをとっているものです。InDesignというのはイメージ、レイアウト志向のツールで、フォントにフォーカスしています。フォントのグループです。しかしアクセシビリティという意味では、構造とかセマンティクス、ナビゲーション、オーディオ、他の側面が重要です。これは一般の出版も同様ですし、防災情報の提供も同じです。使いやすくてフレンドリーなアクセシビリティを中心としたオーサリングツールが必要です。現在、世界ではそういうものはまだありません。ですからDAISYコンソーシアムや関係者にとっては恐らくこれが最も重要な分野だと思います。DAISYとEPUBを統合することでこれを成功させて、商業出版自体をアクセシブルなものにするためには、必要なツールがそろっていなければなりません。質問にちゃんとお答えできたかどうかわかりませんがお答えになりましたか?

最後のご質問はタブレットのユーザーインターフェースのことでした。

EPUBをeBookのフォーマットにする際にはタブレットで読むこともできますしスマートフォンも使えます。コンピュータでもウェブでも使えます。eBookそのものは、どこで読まれているかということは気にしません。関係ないわけです。

質疑応答の様子

今の質問ですが、ユーザーとしてeBookを使う際、もちろんデバイスと読み取りシステムのアクセシビリティが必要です。完璧にアクセシビリティのあるeBookを持っていても、読み取りシステムにアクセシビリティがなければ使えないわけです。

現在のコンテンツとのユーザーのインタラクションの仕方の発展ですが、タブレットのタッチセンサーやスマートフォンと強い関連性があります。タッチパネルとのインタラクションをもっとユーザーフレンドリーにする研究は多く行われています。特に高齢者と認知障害の方には専用の特別なユーザーインターフェースが必要です。

PLEXTALKデバイスやいろいろ他の方法があることはご存じだと思います。これは非常に大きな手で触ってわかるゴムのボタンでできています。スマートフォンなどのタブレット状のスクリーンでは高齢者のニーズ、こういった大きなゴムの手で触れるボタンを必要としている高齢者のニーズに応えることはできません。ですから専用のデバイスが必要になります。

また、スマートフォンとかタブレットをほかのテクノロジーに接続できる必要性もあります。例えばモンティエンさんはBluetoothのキーボードを持っていてスマートフォンを使っているのですよね?

モンティエン・ブンタン●

はい、タイプをするとき手をiPhoneのタッチパネルで、アクセシビリティのあるものを使えば時間がかかりますができます。Bluetoothのキーボードですと普通のスピードでタイプできます。Bluetoothの点字のデバイスもあります。それをタブレットに接続することができます。

もう一つ、先ほど、Siriということが質問の中にありました。これは音声制御のソフトです。人気のある最新のタブレット、スマートフォンに使われています。音声でコントロールしてEPUBを読むという考え方もそんな遠い将来のことではありません。既に今、使えたとしてもそんなに驚くことではありません。タブレットやスマートフォンに話しかけてページをめくってもらうとか、音声合成をしてもらうということも、言葉で言うことができるかもしれません。ですから一部のユーザーにとっては音声制御が指でコントロールする代わりに使える可能性があると思います。

しかしここで大事な点は、音声のコントロールとかいろいろなものがありますけれども、いわゆる伝統的な高齢者向けのDAISYプレーヤーは多くの人がまだ必要だと思います。

これがユニバーサルデザインに関係するところです。常に支援技術と合わせてユニバーサルデザインについて話が出ます。情報社会の世界に生きておりますので、障害者の権利条約について考えるに当たってはユニバーサルデザインと支援技術が両方合わさった形で進まなければなりません。延々とは言いませんけれども、ある程度長い期間、今後も必要となります。

質疑応答の様子

司会●

お答えいただき、ありがとうございました。加えて、ユニバーサルデザインにもブンタンさんに触れていただきました、ありがとうございました。

あと10分しかありませんが、お二人の方に既に質問票を見せております。これだけは答えておきたいということ、宇田川さんと河村さんの方でお答えいただければと思います。宇田川さんからお願いできますか?

宇田川真之●

いただいた質問は、私の方で視覚障害の方向けの話をした中で、相談をする相手を地域の障害者団体の方にしてしまうと、障害者団体は実態として高齢者の方が多いということで、わかりやすく言えばDAISYとかの機器を使っている人が少ない。結果、障害者団体からニーズを聞き取るとDAISYに対する要望が少なくなって、結果的にDAISYの普及が遅れてしまうのではないかというご懸念の質問だと理解しています。そのご懸念は、実態としてごもっともだと思います。

立場として、防災という立場に立った場合には、二つのことを見る必要があります。今まさに津波があったとき、亡くなるおそれがある方、この方に対する対策は絶対必要です。一方で、これから時代が進んでいって地震は30年後に来るかもしれません。それを見据えて今からコツコツと将来のためにやっていく対策も必要です。この両方をきちんとやらなくてはいけないと思います。

先ほどろうの方の話もしました。ろうの方でも若い方であれば携帯のメールを使いますのでファクスのニーズは少ないでしょう。けれどもお年を召した方、逆に言うと、足腰が弱くて理解しにくい方々、こちらの方はリスクが高く、かつファクスを必要としています。ではここで、ファクスはもういい、携帯メールだけにしましょうよとは決して言いませんね。それと同じところがあると思います。

両方やらなくてはいけないのですけれども、その中で、両方とも必要だと。その中で、先ほどユニバーサルデザインの話がありましたが、将来を見据え、かつ今の問題に対応する中で幅広くやっていく必要があると思います。その場合、例えばさっきの話で言うと、視覚障害者向けに地図情報をいかにして伝えるかは根源的な問題であって、それをまず施設に対して何メートルかというデータベース形式にするということ。これを最後に点字で表現するか、録音テープで表現するか、対面朗読にするか、またはDAISYにするか。これは最後の末端の話です。さっきのユーザーインターフェースの部分にかかってくると思います。より本質的な部分でなるべくユニバーサルデザインにして、そういった問題認識を行政とか防災担当者に知ってもらう。これらの本質的な方に力を置くということを考えています。

質疑応答の様子

司会●

では、河村さんお願いします。

河村宏●

私に名指しで質問のあるものについてお答えします。

インターネット上にDAISYコンテンツをウェブページとして作ることができますかということですが、ウェブページそのものとしては作ることはできないんですけれども、インターネットの上に置いておいて、そこにあるDAISYコンテンツを端末でプレーヤーで読むことは十分できます。ですから必ずしも完全にダウンロードしなくても、少しずつ送ってくる情報をDAISYのプレーヤーで再生することもできるし、ダウンロードして再生することもできます。

ですからTwitterとの連携やウェブラジオの開設ができるかということですが、DAISYとウェブラジオ、あるいはワンセグ放送とは非常に相性がいいと私は考えています。細かい理由は省きますが、SMILという共通のベースの上で音とテキストを連携できるので、テキストでラジオを見たい人、それから音でラジオを聞きたい人を同時にサポートできる可能性があるわけです。もしワンセグでやるとそこに動画がつけられるので、ワンセグが可能なところでは動画による手話、あるいは動画による避難路の図示、それに言葉での説明もつけるというふうにすると、いろんな方にわかりやすくなると思います。

こういう形でEPUB3のコンテンツはもう一つの質問も兼ねていますが、フォールバック機能と言いまして、受け取っているデバイス、見る装置が、例えば画面が小さいとか動画が再生できないとか、いくつかの制約があると、それに合わせて限られた機能で見ることができるというフォールバック機能というものがあります。

ですからEPUB3で作っておくと、どんなもので見ているかを自動的に対話をして、見ている人の装置に合わせて最適化された送信をすることが可能なので、一つコンテンツを作って、聞こえない人も見えない人も一緒に使えるようなものを作っておくと、それがそれぞれの環境の中で最適な形で再生できるという優れた機能があるので、それを生かした病院における事前の準備とか、学校の教室での防災にそれを生かして、その子どもが今使えるデバイスを使って見るとか、それぞれその人の条件に合った見方をするというのに合わせられる、非常に優れたフォーマットです。

これは逆を言うと、デバイスに制約されません。いろんなデバイス、携帯でもいいし、iPadでもいいし、PCでもいいし、あるいは家のテレビでもいいのです。今はデジタルテレビになっています。そういう非常に柔軟性に富むのが、EPUB3のコンテンツであるというふうに考えていただければと思います。

司会●

ありがとうございました。機器に依存しないというのはユニバーサルデザインにつながるかと思います。時間がなくなってしまいましたが、今回のキーワードの防災、DAISY、EPUB、ユニバーサルデザイン、その中でお話をいただきました。

河村さん、最後に1分でまとめをお願いします。

河村宏●

ユニバーサルデザインというのは、誰かがデザインしてみんなで使うのではなくて、みんなが参加できるものであることがユニバーサルデザインである絶対条件です。つまり一人ひとり、どんな条件の人も、災害というときに自分の命がかかっていることについて、こういうことが必要だ、これを発言できるし、そのニーズを満たすべく参加ができる。それを実現していくのがユニバーサルデザインの防災なんだと。それをDAISYは推進していきますよということをお伝えしたいと思います。


国際セミナー「防災のユニバーサルデザインとDAISYの役割」 報告書

主催:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会

後援:日本DAISYコンソーシアム

助成:東京都民共済生活協同組合・全国労働者共済生活協同組合連合会

2012年10月 発行


発行 (公財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター

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