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知的障害者とメディア

スウェーデン政府公文書 学校教育庁

項目 内容
発表年月 1976年
備考 学校教育庁出版物「全ての国民のための文化」(kultur at alla)付録

知的障害者とラジオやテレビ

 障害者が内容を理解するために重要な点は、ラジオやテレビの中で使われている言葉が簡単で意味が判りやすく、ゆっくりと明瞭に話されていることです。ところがこのような放送用語は往々にして複雑です。あまり一般的ではない言葉や耳慣れない言葉が使用され、理解しがたい言葉がなんの説明もないまま伝えられています。これらの放送用語を理解するためにはリスナーは相当の前提知識を持っていなければならないでしょう。

スウェーデンラジオ(SR)はラジオやテレビで放送される言葉が判りやすいものとなるためにきちんとした対策を取るべきです。またSRはテレビが映像、コメント、字幕によって提供するような説明や経過、情報などをいかにラジオにも活用できるか可能性を追求することも必要です。

知的障害者の多くは読むことができません。また読むことができても、苦労する人がたくさんいます。しかし多くは意味の判りやすい明瞭な言葉なら理解できるのです。それがシンボルや映像と共に伝えられているならなおさらです。ラジオとテレビはあまり上手く字を読むことができない人々にとってはとても重要です。知的障害者の多くはテレビやラジオなら喜んで利用します。もしラジオやテレビで各番組の簡単な説明が放送されるなら、彼らは喜んで様々なチャンネルを回してみるでしょう。その措置は他の人々にとっても喜ばしいものであるはずです。

図書、新聞、雑誌について

”文字が読めるとということと読書力があるということは別の問題です。”

 読むということは現代文化の中で生きていく為、また過去を知るために大変大事な営みです。図書、新聞、雑誌は文化の範囲だけでなく私達の社会常識全般を知る上で中心的な役割を果たします。出版物を読むことができない人々は文化の大部分から、そして本質的な部分から切り離されてしまいます。その障害物は言語的な、そして技術的な問題であり、また読書に不慣れになるような状況をつくります。

知的障害者と聴覚障害者は本質的に字を読むことが困難です。その多くが挿絵のついた、言葉の簡単な文章を必要としています。視覚障害者にとって読書が困難であるのは、別の観点からみると、利用できる支援機器の技術が進んでいないからともいえます。録音図書化されているか、点訳されていなければ本を読むことができないのですから。同じように手や肩が麻痺している人なども読むことが困難なのは、技術が充分に進歩していないためでもあるでしょう。またそのほとんどの人々が字を読むことに慣れていません。字を読むことに慣れていないということは、今までの身体的な障害の上にたった環境による障害と言えるでしょう。これらの障害者達が他の人々と同等に文学に親しむためには特別な措置が必要なのです。

読みやすい本(Lattlast bok)について

 例えある知的障害者が文字を読むことができたとしても、読書をすることはまれでしょう。一つの言葉の意味が一つだけとは限らない、文節や段落が長い、比喩的表現が難しい、扱っているものが複雑で文章自体が長く、紙面の行間、文字間が詰まっていて文字が小さい、絵がほとんどないなど、本を読むには様々な障害があるからです。

それらを改良した読みやすい本を出版する試みが1968年より学校教育庁によって行われています。その中でも専任の一グループがプロジェクトを立ち上げこの活動を率いています。また出版社、作家、挿絵画家などが活動に協力しています。専任グループは読みやすい本の製作法や余暇の読書の必要性を研究するため読書調査、図書館調査を行っています。

この活動は障害者の文化的活動に対する政府の補助金によって支えられています。

1975-76年の予算案では読みやすい本と文字拡大図書の貸し出しの為425,000クローナが組まれました。この予算が制作費となります。その額は簡略化される本の文書量や装丁によって変わります。1タイトルにつき平均3,000クローナにのぼり、そのおかげで書店での販売価格は15-20クローナにおさえられています。

現在までこの読みやすい本は28タイトル出版されています。そのうち11作が原本から書きなおされ、15作が新たに書かれました。またそのうち2作は詩選集です。最近では規則的に5,000冊づつ印刷され、書店で販売されています。その大部分は図書館、研究機関や各団体が購入しています。読みやすい本の対象者は知的障害者及びその他読書が困難な人々です。

製作の当初の目的は有名な作家の著作を簡略化し、知的障害者及びその他読書が困難な人々が楽しめるようにすることでした。記念すべき最初の本はペール・アンダーシュ・ストレーム作の『モニカの夏』です。

ところが内容を忠実に守りつつ言葉や文章を簡単にする書き直しの作業は大変困難を伴いました。当然出版点数は限られてきます。また多くの作家は著作が書きなおされることをいやがりました。

学校教育庁はそのために、新たに簡単に読める著作を探し出すことにしました。学校教育庁はコンテストを行い、1974年に新たに書かれた6作の読みやすい本を出版したのです。また作家や挿絵画家に、読みやすい本を書くことに興味を持ってもらえるよう働きかけるのも学校教育庁の仕事でした。

この試みによって、対象となる障害者は日常的に簡単に読める挿絵付の物語やノンフィクションを強く求めていることが明らかになりました。また、読者と直接コンタクトを取って本を作ることはとても重要なのだとも教えられました。作家と読者が直接連絡を取り合って作られた本の例として、ベングト・エーリック作の『詩集-共に』が挙げられます。

読みやすい本で扱うものは簡単で、直接的で、筋が首尾一貫していなければなりません。作品内で時代や場所が移動するものは適しません。登場人物が少なく、人物描写がていねいなものが向いています。挿絵と文章が一致していなくてはなりません。ですから挿絵画家と作家とが協力して製作すると効果は一段とあがります。

文章は簡単で判りやすいことが大事です。文章の一つ一つが短く、日常的な言葉を使うべきです。印刷技術が高く、紙は上質であることが求められます。また印刷が読みやすいようにきれいであること、また文章が通常よりも大きい活字であることも必要です。好ましいのは余暇にのんびりと読めるようなものです。学習書はその意味で不適当と言わざるをえません。もしその本の対象が大人であるなら、貸し出しや販売の際、大人向けの図書として取り扱われなくてはなりません。

(私達はこの報告書のスウェーデン語による要約をできるだけ簡略化して書き、この報告書で使用されるような官庁用言語と簡単に読める言語とを比較してみました。)

読みやすい本は読者対象を明記しているわけではありませんが、それぞれの本に "『読みやすい』マーク"がついています。本の背面には、このシリーズは簡単な文体で本に親しみ、知識を得たい人々を対象とすると書かれています。このような本の需要は大きいのに、供給はわずかです。それは、これらの本を必要としている人々がどのようにしたら読むことができるか、読むことによってどれほどのメリットがあるのか研究が不充分であるためであり、そして制作会社にとってそれがどれほどの社会的な意義があるのかを、理解してもらう方法がまだ確立されていないためでもあります。ですからこのシリーズについて広報していくのはとても重要なことです。

私達は、知的障害者やその他読書が困難である人々にぜひ読む価値のある文学にもっと親しんでほしいと思っています。 また、子ども達や青年たちが良い文学に親しむようにしむけることも大変重要です。(今回の調査活動は彼らを対象とはしていませんが)。子ども達や青年達の読書を促す活動は、後に読書に障害を覚える大人の数を減らすことにもなります。

学校教育庁が述べるように、読みやすい本が新たに創作されることは大変重要ですし、古典文学のような純文学が読みやすい本にされることも必要です。

文学委員会は、報告書『図書』の中で読みやすい本と拡大図書の出版は年間40点が妥当であると提案しています。私達は拡大図書を使用する目的は例えば活字を改良したり、読書を支援する機器を使用することによって達成できると見なしています。ですから、この文学調査委員会が提案している年間出版点数の40点は読みやすい本に割り当てるべきだと思います。言うまでもなく、読みやすい本の需要の方が大きいのですから。しかし実際的な前提条件が整わないため、今以上読みやすい本の点数を増やすのは難しいと考えています。この活動の中で起こりうる様々な問題を解決していくためには、更なるはたらきかけが必要です。その仕事には多くの作家に新しい読みやすい本を書いてもらうように、また現在ある文学を読みやすくしてもらうように、また自分の作品が読みやすくされることを許可するように働きかけることも含まれます。

読みやすい本の出版に関する様々な問題を解決するためには文学委員会が提案するように、研究を進め、文学に関する研修会を行うことが大変重要です。

読みやすい本の出版を学校教育庁が継続していくことには大きな意味があります。 文学調査委員会の提案に関するアンケートへの回答でも指摘したのですが、彼らが算出した費用は出版費としても研修会開催費としても低すぎます。

読みやすい本の出版が進められ、出版点数も増えて、現在試行段階のこの計画が安定した事業になるのはまだ先の話です。それでも尚、私達はこの計画を年間出版数40点のまま止めるべきではないと主張したいのです。子ども達、青年達、大人達の大きな需要に応えるためには、ここ数年のうちに出版点数を増やさなければなりません。

全国知的障害児(者)協会(FUB)は、簡単かつ詳細な辞典を出版するべきだと提案しています。また大人向けに『古典文学漫画』のシリーズの出版をも呼びかけています。私達の考えでは、この二つの提案事項も資金援助を受けるべきです。

ですから学校教育庁はこれらの問題について研究するという更なる課題を抱えていますし、これらを実行できるように予算案をたて、提出しなくてはなりません。

読みやすい新聞(Lattlast tidning)

 学校教育庁の要請により読みやすい新聞の発行に関して調査をしたのはイェーテボリィのジャーナリストカレッジの学校長ラーシュ・アルフヴェーグレンです。私達もこの学校長と協力体制をとっています。

この調査についてアルフヴェーグレンは1975年の夏、『読書が困難である成人向けの読みやすい新聞記事』という報告書中で発表しています。

彼は報告書中で、一般の新聞に読書が困難な人々を対象とした欄を作り、予備調査をするように提案しました。アルフヴェーグレンはその後、さらにこの予備調査も担当するように要請を受けました。予備調査の経過は1975年12月の報告書に書かれています。

この調査により明らかになったのは、一般の新聞に読書が困難な人々を対象とした読みやすい記事の欄を作ることが、言語的なトレーニングを充分に受けていない人々から大好評を得ること、しかしそのような欄をもうけることはかなり難しい課題であることでした。

私達は、一般の新聞で更に実地調査を行うことが必要だという彼の主張に賛同しています。なにより大切なのは、まずどのようなニュースを選択するか、またいかに他の記事との調和を持たせるかだと考えられます。もちろん文章、編集、活字の形にも注意しなくてはなりません。

アルフヴェーグレンは、学校教育庁と社会広報委員会が運営責任をおって、実地調査を一刻も早く始めるべきだと提案しています。私達はこの提案を全面的に支持します。上記の調査活動はスウェーデン視聴覚重複障害者協会(FSDB)、全国知的障害児(者)協会(FUB)、全国聴覚障害者協会(SDR)との協力によって行われることが最良の方法だと確信しています。

障害者政策委員会の報告書「全ての国民のための文化」政府の公式報告書(SOU)1976-20