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講演「読みやすさ、わかりやすさに向けたスウェーデンの取り組み」

ブロール・トロンバッケ
読みやすい図書基金所長

読みやすい図書に関する概要

スウェーデンにおける読みやすい図書の取り組み

国際協力

読みやすい図書に関する概要

まず、日本にお招きいただきまして感謝しております。以前にも訪れたことがありますけれども、今回数日日本に滞在することができ、嬉しく思います。 今日は、読みやすい本、LLブックについてその概念やスウェーデンの経験、そして国際的な協力関係についてお話したいと思っています。

読みやすい図書とは?

 まず、読みやすい図書とはどういうものでしょうか。その目的は、簡潔で分かりやすい本を書くことですけれども、大人向けの多様な本でなければなりません。そのためには、考慮しなければならないのは内容、言語、絵、そしてレイアウトであります。読みやすさ、理解しやすさと、質の高さ、専門的な仕事を両立させなければなりません。

なぜ読みやすい図書が必要なのか。

しかし、なぜ読みやすい図書が必要なのでしょうか。読書を通じて私たちは考えや経験を分かち合い、人間として成長ができます。情報や文学にアクセスできることは、基本的に民主主義の権利だと考えられています。そして社会生活や職場での議論に参加し、自分の置かれた状況に影響力を行使するためには十分情報を得ていなければなりません。また、これは生活に必要なものでもあります。つまり、読めるということは大きな自信へとつながります。そして、読めるということで知識と視点が得られ、社会を理解し、民主主義の権利を行使できます。幅広い視野と、他者に対するより深い理解は、社会的なスキルにとっては不可欠です。十分読めなければ社会的、経済的に不利になることが多いと言えます。

何が問題なのか。識字に関する現状。

 それでは、識字率についてお話したいと思います。読解力の限られた人たちについてお話しておりますが、識字率の現状はどうなっているでしょうか。ここに国際的な調査があります。成人の識字率に関する国際調査、IALSと呼ばれています。この調査ですが、いくつかき政府、たとえばアメリカ、カナダ、ドイツ、イギリス、スウェーデン、ポーランドなどが調査に参加しました。それから3つの政府間機関、たとえばOECD、EU、ユネスコなどが共同で調査をしています。
その目的ですが、成人の識字率を様々な形で調査、分析、比較をするということです。これは多くのテスト、そしていろいろなアンケートをすることによって、3,000人の個人を調査しました。16歳以上です。そして使われたのは新聞、パンフレット、薬の説明書などを使いました。
 その結果、非常に多くの割合で、どの国におきましても読解力が十分でない成人がいました。たとえば、スウェーデンではそういった人たちの割合が25%ですし、一方ポーランドでは25%そのような人たちがいました。こういった人たちは、一般の新聞を十分理解できなかったり、あるいは仕事に必要な文書が読めなかったり、公の情報や商業的な情報、そういったものが読めない、あるいは限定されている人たちです。ということで彼らは、現代社会において必要とされるような読解力がないということで、先進国において中学卒業程度のレベルの読解力は必要であるにもかかわらずです。PISA(Program for internatilnal Student Assessment)という、学童向けのテストも行われております。

それでは、問題はどういうことがあるのでしょうか。 読解力は、こういった国々で全般的には低下はしていません。むしろ向上していると言えます。しかし、社会そのものが複雑になってきました、この数十年間。そして現代社会は、もっと多くの情報を必要とするようになってきています。となると、あまり読めない人たち、どうやって過ごしていったらいいのでしょうか。現代社会において、ほとんどの仕事は資格が必要となっています。コンピューター化したからといって、必ずしも全ての人たちにとってよい状況だとは限りません。つまり、十分な読解力、書く力がなくてもできるというような仕事はそう多くはありません。そして、このような社会でうまくやっていくためには、多くの情報を取り扱わなければならないし、書くことも必要ですし、指示を読んだり、経営者に対して報告書を書かなければなりません。

読みやすい図書を必要とする人々とは?

では、どういう人たちが読みやすい図書を必要としているのでしょうか。今は2つのグループがあると言えます。一つは障害者のグループ、そしてもう一つは限られた言語あるいは読解力を持っている人たちです。こういった人たちの中には、もうずっと恒久的に読みやすい図書を必要としている人たちもいれば、一時的に、ある時だけこのような読みやすいものを必要としている人たちがいます。しかし、このような読みやすい本というのは、トレーニングにもなりますし、また読書にも扉を開きます。
ではまず最初のグループとしては、たとえば知的な障害者、それからディスレクシア、失読症の人たち、あるいはADHD、注意欠陥多動性障害の人たち、自閉症の人たち、先天性聴覚障害の人たち、そして聴覚・視覚障害、認知症の人たちが最初のグループに挙げられます。この第一のグループの人たちというのは、全体の人口の7~8%くらいを少なくとも占めていると言えます。
そして次に第二のグループ、言語や読解力が限られている人たちというのは、最近移住してきた移民、機能的に字が読めない人たち、教育を十分に受けていない人たち、そしてある意味では学童もそうです。この2番目のグループというのは、人口のうちのまた7~8%くらいを占めていると言えます。
ですので、これを合わせますと、全体で人口の15%くらいが読みやすい図書、LLブックからの恩恵を受けることになります。しかしこのようなニーズ、この人たちのニーズは、一つのモデルにまとめることができるでしょうか。グループの間にも違いがあるかもしれません。けれども、このグループの間には相違点よりも共通点が多いと言えます。それから同時に、同じグループの中での読解力にも差があるということを認識しなければなりません。ですから、様々な製品を提供することによって多くの人に読み物を提供することができます。あるいは、知的障害やディスレクシアや学童専用の本ということもあると思います。

読みやすくするには?読みやすい図書のコンセプト

それでは、どのようにしたら読みやすい図書となるのでしょうか。そのコンセプトはなんでしょうか。

スウェーデンではこのような活動が試験プロジェクトとして始まったのが1960年代の終わり頃でした。その当時、詳しいガイドラインを作ることが重要だと考えられました。その当時はいろいろ研究も行われていましたので、読みやすい図書を構成する具体的な要素はなにかということを非常に考えました。けれども、そういったアプローチは今では少しやめてしまっています。知識、経験を積むにつれてこのようなアプローチをやめています。つまり、作家の自由をあまり制限しないほうがいいということです。作家やイラストレーターや写真家にあまり多くの制限を加えてはなりません。これは、私たちの40年間の取り組みから学んだ重要な教訓の一つです。また、忘れてはならないのは、このような本を書く、イラストを描くというのはクリエイティブな仕事であるので、あまり干渉してはならないということです。厳しいマニュアルをこのような作品に対して書くことは、無理です。ですので、クリエイターに対してより多くの自由度を残しておかなければなりません。このような経験を経て、私たちは幅広いガイドラインの基準を作りました。読みやすい図書、理解しやすい図書のガイドラインは非常に幅広いものです。これは非常に覚えておくのに有意義だと思います。
それはまず内容、言語、レイアウト、そして絵、この4つの要素です。

 ではまず、内容について見ていきましょう。読者は、読者のニーズというのは異なっています。文章は対象とする読者層のことを考えて編集しなければなりません。読むことの難しさはいろいろな理由から来ています。障害や意欲の欠如、教育の欠如といったことが理由です。あるいはトレーニングを受けていない、あるいはある言語の経験があまりない人たちも、読書の力が限られています。スポーツ好きの人であれば難しいスポーツ用語も理解できるでしょうが、そうでない人たちというものは非常に簡単なスポーツの記事でもなかなか理解しがたいと言えるでしょう。ですので、こういったことを考慮する必要があります。
 幅広いガイドラインが、言語にはそうは言ってもあります。たとえば、具体的に書くということ。抽象的な書き方を避けるということ。そして論理立って書くということ。論理の流れという一本の筋として通っていなければなりません。そして直接的でシンプルな文章。あまり導入部を長くしない、登場人物もあまり多くしないということです。それから象徴的な言葉を避ける。比喩を使う場合は読者に誤解を与える危険があります。また、簡潔になること。複数の出来事を一つのセンテンスに入れないということです。同じようなフレーズを繰り返し使うということもいい考えだと思います。また難解な言葉を避けるということ。その一方で、大人向けの尊厳に満ちた言葉を使う必要があります。もしあまり馴染みのない言葉が使われる場合には、それが文脈から説明できるようにしておかなければなりません。

しかしながら、たとえ複雑な関係であっても、具体的で論理的な方法で提示すれば理解できることがあります。そして自然な時系列の中で示せば理解できることがあります。こういった一般的なルールに従う、つまり具体的で論理的なストーリーを組み立てるということによって、知的障害者にも理解しやすいものが作れます。このようなアクセシビリティを高めるということは、同じような読書の障害を持っている他のグループにとっても対応になるでしょう。シンプルであることが必要です。シンプルな言葉でよく作られた本というものは、誰にとってもプラスの経験となります。
さらに、作家やイラストレーターや、自分たちが対象としている読者層についてより知識を深めなければなりません。読書障害とはどういう意味なのかをよりよく理解するために、読者と出会う経験が必要です。そして、常にその素材を事前に試すことが重要です。その素材がうまくいくかどうかということは、出版する前に対象とする読者層を対象にしてテストをする、試すことが有益です。シンプルに書くということは実は難しいことです。シンプルでありすぎると平板になってしまうという危険があります。しかし、短いストーリーの中では、一つ一つの言葉が非常に重要になります。ですから、よいストーリーを選ぶということが重要です。
また、既に一般の図書として出版されているものを読みやすい図書に変えるというのも難しいと言えます。読みやすい図書に変える時に、元の本の雰囲気や感覚といったものが残っていて、その作者ならではのなにか特徴が残っていなくてはなりません。しかし、そうは言ってもこの読みやすい図書は決して一般の図書の翻訳ではなく、作り替えるということなのです。

レイアウトについて

また、レイアウトも重要です。ただ単に書かれた言葉だけではありません。たとえば活字や活字のサイズも非常に重要です。そしてレイアウトははっきりと魅力的でなくてはなりません。活字の間に大きなスペースをとることで、より読みやすくなります。また、テキストは短いブロックで書かれていて、ページごとの行数も少なくする必要があります。また、字体ははっきりとしたもので、大きくなくてはなりません。たとえば、セェリフ・タイプというものがあります。タイムス・センチュリー・スクール・ブックといった字体があるのですが、これは非常に読みやすい字体です。こういった字体、活字、そしてそのサイズは11~14ポイントが適当です。活字とその背景の色とのコントラストも大切です。

イラストについて

読みやすい図書という点では、イラストは他の一般の図書よりも大きな役割を果たします。具体的にそのテキストに書かれたことを表すイラストがあれば、メッセージは明らかに、より分かりやすくなります。しかし、あまり現実的でない絵が描いてありますと、それはそのテキストの雰囲気を伝えることにはなりますけれども、あくまでも絵というものはテキストと合っていなくてはなりません。合っていないとかえって混乱してしまいます。

難易度のレベルについて

読みやすい本というのは、ただ単に一つの難易度だけではありません。同じ読書障害を持つ人たちの間でもいろいろな能力の差がありますので、素材は様々な難易度で書かれていることが望ましいと言えます。非常にやさしい、絵が基本のストーリーというものから、ある程度の読解力がある人向けに書かれたものでありながら、一般の本や新聞よりはやさしいというものまで、様々なレベルで書かれている必要があります。

読みやすい図書は印刷されたものだけなのか?-ITとDAISY-

これまで、印刷物について話してきましたけれども、どのような素材が読みやすい形で提供できるでしょうか。民主的な、という視点から考えれば、様々な媒体、印刷媒体だけではなく音声媒体やテレビやインターネットでも読みやすい形で提供されなければなりません。そして将来は、情報向きですが、ますます有効になりますので、読みやすい形で提供されなければなりません。まず文献。フィクション、ノンフィクションの両方があります。特別なニーズのために書かれた素材であるとか、たとえば小説、短編小説、詩、スリル小説などが素材として考えられます。その他、新聞や雑誌も読みやすいものにすることができます。読みやすい新聞、あるいは普通の新聞の中で読みやすい部分を開発していくことも可能です。それから社会に関する情報、たとえば選挙の手順、税金に関する説明、あるいは保険会社からの情報、銀行からの情報というものも読みやすいものでなくてはなりません。これは多くの人にとって、あまり普段は読みやすい方式を必要としない人も、このような社会に関する情報は理解しやすい形で提供してほしいと思うでしょう。 情報の技術もまた重要です。テレビやラジオにおいては、分かりやすい番組を提供すべきです。それからウェブサイトの情報やマルチメディアなども非常に障害者にとっては利用価値があります。特別なニーズを持った人たちがこのようなものを使いやすくしなければなりません。読みやすい素材というものがあれば、音声フォーマット、あるいは録音図書のような形でも提供すべきです。

DAISYの製品は、多くの人たちにとって役に立っています。DAISYはテキストと音声を特別なフォーマットで関わらせて、読書や情報の検索を非常に、障害者にとってもやりやすくしています。また、特別なプレイヤーやコンピューターを使ってDAISYのテキストを読むことになります。
最近新しいソフトウェアのバージョンが提供されました。このソフトウェアのツールを使って、異なったフォーマットを同じレベルのフォーマットに変えることができるということで、障害者にとって非常に使い勝手のいいものになっています。この後、野村さんからDAISYについての発表がありますので、そちらにお任せしたいと思います。 現在スウェーデンでは全ての録音図書、あるいは録音の新聞がDAISYの規格に従って作られています。たとえば、録音図書や点字図書館、TPB(スウェーデン国立録音点字図書館)が、様々な特殊なニーズを持った人たちのための図書を提供しています。DAISYの本をCDのフォーマットの形で借りることもできますし、DAISYの本を自分のコンピューターにダウンロードすることもできます。スウェーデンのTPDは、今DAISYのフォーマットで5万冊以上の録音図書を持っており、そしてそのうちの3,000がコンピューターにダウンロードすることができるようになっています。

読みやすい図書を支える原則やガイドライン

読みやすい素材の出版は様々なルールやガイドラインによってサポートされています。
国連の人権宣言や国連の基準・規則によって、読みやすい図書はサポートされています。ルール5番とルール10番によりますと、政府は情報サービスや文書を様々な障害者にとってアクセスできるようにしなければならない、とあります。また政府は、テレビやラジオ、新聞のようなメディアがそういったサービスを多くの人たちが手に届くものにしなければならないとしています。また、文献やフィルムや劇場での演劇といったものも、障害者にとって手に届くもの、アクセスしやすいものにしなければならないとしています。また、ユネスコの公共図書館宣言というものがあり、それによりますと、特別の独特のサービスや素材といったものを定期的なサービスを利用できない人たちのために提供しなければならない。たとえば、言語のマイノリティや障害者、そして病院や刑務所にいる人たちにこのようなサービスを提供しなければならないとしています。
そしてまた、IFLAというガイドラインもあります。IFLAというのは国際図書館連盟のことですが、このIFLAの中に、図書館利用に障害のある人々のサービス分科会というものがあり、そこで勧告を出しています。1997年にガイドラインができました。このガイドラインはスウェーデンの勧告と似たものであります。このガイドラインは、200国に翻訳されていて、異なる国々にも幅広く普及しています。しかしこの10年間、新しい電子的なメディアやDAISYといったものが登場してきました。また、読書障害についても私たちの知識が深まりました。ですので、こうしたガイドラインを改定する必要が出てきています。今この改定の作業、ガイドラインの改定作業が行われていまして、おそらく、来年にはこのガイドラインの改定作業は終了すると思われます。

スウェーデンにおける読みやすい図書の取り組み-背景と歴史-

スウェーデン読みやすい図書センター

 これまで、読みやすい図書のコンセプトについて話をしてきました。そこで、スウェーデンにおける経験についてこれからお話したいと思います。
 スウェーデンの読みやすい図書センターについてお話いたします。読みやすい本やニュースに関する試験的な作業が1960年代に始まりましたけれども、政府は読みやすい素材を扱う特別な機関を設営することになりました。これは基金として設立されまして、1987年に議会の決定において設立されました。そして政府は、こういった組織に関する憲章を作りまして、理事会を催しました。そしてこの政府と基金の間で3年間の契約を結ぶことになります。この読みやすい図書センターというのは主に出版社の役割を果たしていて、読みやすい素材を提供しています。そして読みやすい図書に関するいろいろなリソースや能力を提供します。現在この読みやすい図書センターでは、読みやすい図書を出版したり、8PAGESという読みやすい新聞を発行しています。また、情報提供やマーケティングを行い、いろいろな委託事業をうけたり、コースを提供していますし、また朗読代理人という制度も作っています。また開発をしたり、新しい技術の開発作業を行っています。この作業は売上と、それから国の補助金によって予算を得ています。現在の予算は500万米ドル近くあります。そのうちの50%が国からの補助金、助成金となっています。この読みやすい図書センターの使命というのは、読書障害のある人たち、それから読む訓練を受けていない人たちに読みやすい素材を提供するということです。このセンターの詳細については、ウェブサイトでも情報を提供しております。www.lattlast.se(英語) です。

なぜ読みやすい図書を製作する特別な機関が必要なのか。

では、このような読みやすい図書のための特別な機関がなぜ必要なのでしょうか。このような機関は本当に必要なのでしょうか。それとも、全ての出版社、全ての新聞、全ての当局、企業がこの種の読みやすい図書のニーズを認識し、もっと読みやすいものを必要とする人たちにその種のものを提供すべきなのでしょうか。原則論はそうであります。全てのこの種の企業等は、できるだけこのような材料、アクセスを高める道義的責任があります。 しかしながら、1960年代、1970年代の出版の経験から、単一の企業がこれらの対象についてよく知り、そしてこれらの製品のマーケティングを行うことがいかに困難であるかを、我々に教えてくれています。こういったことをするためにはこの種の読みやすい図書を書くための教育が必要でありますし、特殊なニーズに対する認識も必要です。また、販売に対しても特殊な支援が必要となってきます。従って、そういった中でそれを専門とする特別な機関を設けることは、有利に働くでしょう。たとえば、このように読みやすい図書の分野における特殊な能力を身につけることができます。対象グループ、また言葉、レイアウト、販売、メディアに対する特殊能力を身につけることができます。それからまた、様々な媒体、本、紙、電子媒体、これらを組み合わせそして調整をはかることも可能です。また、マーケティング、これも調整することができるでしょう。そして、なによりもこの種のLL ブック、読みやすい図書のニーズの認識を効率的に高めることができるでしょう。

また、他の組織、企業でたとえばこういったことをしたいといった場合、その能力をコースを設ける、コンサルティングを提供することによって伝えることができます。また、このような特殊機関を持つことによって、助成金を受けやすくなるということもあるかもしれません。政府としてはこのようなLLブック、読みやすい図書全体としてとらえることのほうが、個々の企業一つ一つに対し助成をするよりも簡単であると言えるでしょう。こういったことがここでは、読みやすい図書の出版社の指針となる部分ではないかと思います。もちろん、重要なのは読者についての理解を深める、そして専門性を高め、そのやり方を身につけ、そして質の高い製品を提供するということが一番大事です。

読みやすい本の紹介

 では、これらのLLブック、読みやすい図書の出版について少しお話したいと思います。こういったLLブックは他の本と比べて分かりやすいものでありますけれども、難易度は本によって違います。LLブックは場合によってはフィクションであることもありますし、ノンフィクション、小説、短編、スリラー、詩、技術的な本など様々です。また一部の本は直接LLブックの形式をとることもあるでしょうし、中にはもともとは古典作品を書き替えたものがあります。毎年この種のLLブックは30冊ほど出版されています。これまでのところおそらく、800冊ほどが出版されたのではないかと思います。1960年代後半からスタートし、今は800冊以上になっているのではないかと思います。私たちはこのようなLLブックを自らの出版社から出版しておりますので、全ての出版プロセスを自らコントロールすることができます。また、いろいろなジャンルのものを扱っています。申し上げた通り、小説もあります。また、探偵物、また料理の本等々、ですから、この種のLLブックは様々な種類のものがあります。

さて、この読みやすい図書は、質の高いものであるべきですが、創造性のある出版作品としても優れたものでなければなりませんが、だからといって、すべてがインテリ向きでもありません。
たとえば恋愛小説、SF、ファンタジーといったものに対するニーズもあります。また、非常に安い文庫本のたぐいのものから、もっと洒落たカラー印刷本まで、そういったバラエティも必要であります。申し上げた通り、こういった読みやすい図書というのは、単一の難易度だけではありません。様々な難易度が必要でしょう。一番やさしい絵を中心とした本、これは主に知的障害者を対象にしたものでありますが、そういったものから、たとえばLLの教科書である程度の読解力の必要なものまで、様々です。我々は今現在、LLブックを3つの難易度を設けて出版しております。

さてそこでいくつか、例を引き合いに出したいと思います。ざっと例をお見せしていきたいと思います。

この本ですが、これはデザインに関する本です。何ページかここで抜粋したものをお見せしています。読みやすい本、デザインの本です。

デザインの本の写真

デザインの本の写真

これは料理の本です。パンなどを焼く、またケーキを焼くという内容です。これもまた抜粋です。

料理の本の写真

料理の本の写真

これは、障害者が農園、庭を経営しているという内容の本です。

農園・庭の本の写真

農園・庭の本の写真

これは、フィンランドのフェリーに関する本です。これはかなり難易度の低い、やさしい内容です。

フェリーに関する本の写真

フェリーに関する本の写真

この本は発明に関するものです。人類が何世紀にわたって行ってきた発明に関するものです。

発明に関する本の写真

発明に関する本の写真

これは、様々な国、世界中の子どもたちのシリーズです。これは中国の女の子です。短い説明、そして写真が載っています。

世界の子どもたちシリーズの本の写真

世界の子どもたちシリーズの本の写真

これも、ソープオペラといったような、病院での恋愛であります。

ソープオペラの本の写真

ソープオペラの本の写真

これは古典ですが、ホメロスの話をご存知だと思います。

ホメロスの本の写真

ホメロスの本の写真

これはスウェーデンではよく知られている作家の作品、 August Strindberg という作家、これは文章が多いということで、多少の読解力を要する内容となっております。 これも別のページの抜粋です。

作家August Strindberg氏 の本の写真

作家August Strindberg氏 の本の写真

作家August Strindberg氏 の本の写真

また、最近英語でいくつかLLブックを出しています。もしこういったものを英語で出したらどういったものになるかという例です。これはネルソン・マンデラ氏に関する本です。

英語のLLブックの写真

8ページと読みやすい図書の出版

さて、次にニュース、報道に関するものをご紹介したいと思います。私たちは読みやすい新聞ということで、8 ページ(スウェーデン語で8 SIDOR)というものを出しております。この新聞は普通の新聞と全く同じ形式をとっています。そして、ニュースの価値というのは全く同じ視点からはかられていますけれども、記事がもっと短く、かつ平易な表現をとっています。従って、ニュースの中にはスウェーデンをはじめ他の国のニュース、またスポーツ、文化に関するものがあります。ごく普通の新聞と同じです。ただ、週に1回出版されています。そしてまた、いくつかのテーマに関しては新聞を補足するような形で背景情報、説明文章を付け加える、そういった折り込みのようなものも入れております。

8 ページの写真

また同時に、この新聞は毎日ホームページでも掲載され、合成音声も合わせて載せています。一方活字のほうですが、こちらのほうは1万4,000人ほどの購読者がいます。そして実際の読者は12万人ほどいます。既に申しましたように、ホームページでもこれを見ることができます。 10年以上、この新聞がホームページ上で掲載されてきています。その狙いというのは、こういったマルチメディアのツールを使って、もっと読者に優しい形で様々な対象にこの種の報道を伝えるということであります。

さて、ホームページの中には、最も重要なニュースの記事がありますし、そしてまた過去何年にもわたる新聞記事などを見る場所もありますし、そしてまた購読者に対してはボーナスとして背景情報、その他もっと詳しい事実関係などを提供しています。読者はもちろん、音声で中身を聞く、そして内容を聞きながら同時に文字を読むことも可能です。また、読むスピード、文字の大きさなども設定することができます。また、このホームページ上では動画もあります。主だったニュース、社会に関する基礎情報など、絵で、動画で見ることができます。議会、政府に関する情報などです。また、ニュースをウェブテレビという形で近い将来、定期的に伝えられればと期待しております。 では、次にこの読みやすい図書と電子メディアについてお話したいと思います。

電子メディア-DAISY、ウェブサイト、ストリーミング-

DAISYについては既に申しました通り、このDAISYのフォーマットをとった音声を使った図書というのはずいぶん多くあると思います。今現在のところ、670のLLブックがDAISYの形態をとっています。おそらく全てのLLブックに近いのではないかと思います。また、かなりのLLブックはMPファイルで用

またこの種の読みやすいものはあらゆる媒体で提供されるニーズがあります。ということで、最近2つ、DVDで出しているものがあります。一つは、幼い子ども、女の子の動画混じりの日記であります。それからもう一つは、DVDのホラー・ストーリーであります。これは主に若い人たちを対象にしています。私たちはもっとこの先、学童を対象にしたもの、特に読む能力においていろいろな問題を抱えている子どもたちのためのものを用意したいと思っております。

ホームページもますます重要性が増してきています。ほとんど全ての政府機関、企業は自分たちの基本的な情報をウェブ、ホームページで掲載しております。また、一般の人々とのやりとり、また顧客とのコミュニケーション、やり取り、これもまたホームページ上で行われることが多いと思います。従って、民主的なやり方として、万人にこの種の情報をホームページで提供することが重要になってきていると思います。また、このような読みやすい形態で基礎情報をもっと提供することが可能になってくるでしょう。また、難易度に応じた情報提供も可能になってきます。もう一つ、ホームページを通じて簡単に検索できるということも必要であります。

さて、過去において私たちはいくつか、ホームページ向けにやってきたものがあります。そして今は、この読みやすい、使いやすい気候変動に関するホームページ、ウェブサイトを予定しています。これは若い人たち、特に学童を対象にしたものであり、最新の情報を盛り込む予定であります。気候変動についてもっと知りたい、自分で何ができるかを知りたいという人たちのためのものです。また、その時々である特定の問題を特集することもあると思います。いずれにしても、こういったホームページは双方向であり、またインタビュー、ブログ、質疑応答、パズル、ゲームなど、全てできる限り駆使したいと思っております。

もう一つ、ストリーミングプロジェクトについてお話したいと思います。我々はストリーミングのプロジェクトにも参加しております。私たちは2年にわたる、スウェーデンのイーセンターと呼ばれる組織のプロジェクトに参加しました。それはいろいろな企業、組織、当局から構成される組織でありますけれども、このプロジェクトは読書障害のある人たちにブロードバンドのテレビ、携帯電話を通じてストリーミングをするということであります。失読症、失語症、知的障害、またスウェーデン語が母国語ではない人たちを対象にしたプロジェクトでした。このプロジェクトの原則、これはユニバーサルデザインでありました。つまり、様々なグループの人たちをニーズを全て考慮するというものであります。全ての人たちがこういった情報を対等に、技術的な設備を使って、機器を使って使えるようにするというのが狙いです。そこでDAISYフォーマットを使うことになります。これはDAISY基準、これをフォーマット化し、そしてウェブリーダー、パソコンなどのメディアプレイヤー、または携帯電話で見られるようにするということであります。どこにいたとしても、いつでも必要な時に見られるということであります。しかも、そのチャンネルはその人がちゃんと管理できる、理解できる形で提供されるというものであります。狙いとしては、テレビ画面に情報を送り、そして双方向のブロードバンドテレビを通じて分かりやすい形式で伝えるということでした。また新聞、8PAGESもまた一つのそういった例でありました。その利用者は読む、音で聞く、または手話を求めることも可能です。この実験段階、第一段階は終わりました。ということで、ここではアイディアを試すというのが狙いでした。イーセンターはこの概念をもっと、次のステップへ発展させていくことを我々は期待しています。

製作受注と講習会の開催

次に少し、委託事業、そしてコースについてお話したいと思います。読みやすい図書センターでは、たとえばこういった読みやすい図書版を作る、そういった委託事業もおこなっています。報告書、出版物、パンフレット、また政府当局などの様々な資料のLL化をしております。たとえば行政に関する情報、保険会社などの会社情報などもあります。ここ10年間、多くの当局、企業がこのような平易な言葉で、分かりやすい形で情報を提供するニーズの認識が高まっていると思います。スウェーデン議会はスウェーデンは全ての人たちにこの種の情報を2010年までに提供すべきであると言っております。あと2年であります。従って、これは全ての当局、全ての自治体がたとえばこのような読みやすい形で情報提供しなくてはいけない、またはDAISYで情報提供しなくてはいけないということを意味します。また、企業、銀行、保険会社ですとか、ハイテク機器のメーカーなどからもこの種の読みやすい情報提供が必要になってきます。これまでは重要な情報をこの読みやすいフォーマットに置き換えたケースが、1,000件以上あると思います。我々のこれは委託事業として受託したものであります。これは私たちはコンサルタントとして、一つの事業として行っております。

既に申し上げた通り、このような読みやすい情報、これは民主主義に関わることであります。情報は全ての人たちに提供されるべきであります。条約、宣言等も読みやすい形態でアクセス可能にされなくてはなりません。たとえば「障害者の機会均等化に関する基準規則」、これもまた読みやすいバージョンがあります。これはスウェーデン語のものですが、英語版もあります。

「障害者の機会均等化に関する 基準規則」のLL版の写真

そしてまた私たちは国連の児童権利条約、これもまた読みやすいフォーマットに作り替えております。

「国連の児童権利条約」のLL版の写真

「国連の児童権利条約」のLL版の写真

また、国連の人権宣言、これもまた、読みやすいスウェーデン語バージョンを用意しております。できれば同時に英語版もお見せしたかったのですが、まだ完成しておりません。しかし、間もなく英語版もできあがる予定であります。

申し上げた通り、私は同時に短いコースを提供し、このようにたとえば、読みやすい文書をいかに書くかですとか、ホームページをいかに作るか等の指導を行っております。こういった委託事業、コースはビジネスとして行っております。全ての経費は売上所得、収入によってカバーされなくてはなりません。

読みやすい図書を必要な人々に提供するための働きかけ

ではどうやって普及を図るかということですが、情報とマーケティング、これが重要です。出版する行為、これは作業の半分にすぎません。いかに優れた製品であったとしても、販売、営業が必要であります。特にこの種の読みやすい図書の販売となりますと、特殊なニーズがあります。特にこのようなものを読むことに慣れていない、あるいは図書館、本屋にほとんど行かない人たちに対し、書いた文章でどうやって売り込むことができるでしょう。従来のマーケティングといいますと、新聞などの広告、テレビコマーシャルなどが使われますけれども、少なくとも最初のステップとしてはこれは十分ではありません。これはマーケティングだけの問題ではありません。一歩ずつ、仲介人を使ってやる必要があるでしょう。教師ですとか、親族、友人、また職場の同僚などを介してこれらの人々に伝える必要がありますし、彼らの態度を変えさせなくてはなりません。なぜこの種の読みやすい図書が必要なのかのニーズを話、民主主義、アクセス制の話などをしなくてはなりません。この種のLLブック、また新聞など、彼らにとっても関心のあるものである、面白いものであるということを示す必要があります。知的障害者への働きかけ、これもまた特殊な、様々な側面があるでしょう。

このような読書障害を持つ人たちに働きかける際には、個人的な知り合いであること、これが大切であります。そして、知的障害者の場合はなおそうであります。その場合は保護者、また障害者団体、また研究機関、職業訓練学校など、また我々の言う朗読代理人などが果たす役割は非常に大きいと思います。知的障害者、またその他重度の読書障害を持つ人たちは特別な支援が必要であります。そういった中で、朗読代理人というのはこの種の人たちに刺激を与えるうえで大きなお手本となれると思います。たとえば、読むことに対する姿勢を変えさせる。そして日常、前にしているスタッフ、保護者もその中に取り込むことが必要でしょう。この朗読代理人というのは、読みやすい図書センターと、スウェーデンの知的障害者協会が共同でスタートした活動であります。この種の朗読代理人はたとえばグループホーム、デイケアセンターのスタッフから採用し、そして読みやすい図書基金が短い研修コースを提供しました。これらの代理人の役割は、まず読書に関心を持たせる、そして図書館などに行かせるというものです。今現在、4,500人ほどがこの組織に関わっています。そのうち3,500人が朗読代理人となっております。現役であります。

朗読代理人の活動の写真

研究と質

こういった読みやすい図書、これがうまくいくのか、それを裏付ける証拠はあるのか、ということでありますが、この読みやすい図書の概念、そして知識、これは日常的な読者における一つの重要な要素となっておりますし、そしてまた私たちの作業の能力、質、これも考えなくてはなりません。そのために私たちは科学的な研究もしなくてはならないと思っております。このような読みやすい図書に科学的な根拠を求め、そして我々の研究から新たな発見を求めることが必要であります。また読みやすい図書の品質管理の評価も必要です。これはたとえば、品質のチェックというようなシステムを使うこともできますが、同時にまた様々な学問分野、たとえば言語学、また識字・教育学からいろいろな研究をすることも必要でしょう。障害、グラフィック・デザインといったところからも学ぶことは多いと思います。また数年前、私たちは研究者の科学者ネットワークなるものを作り、そういった中で識字、読みやすい図書に関する取り組みをしております。このネットワークというのは学際的な集まりであり、そして様々な国の研究者が集まる場となっております。このネットワークは2006年に会議を開催しました。そして別な会議を今年予定しております。

国際協力

国際協力

最後になりますけれども、国際協力について少しお話をしたいと思います。 果たして、各国はこの読みやすい図書をめぐって協力ができるのでしょうか。この種の活動というのはスウェーデン、日本に限ったことではありません。たとえばフィンランド、ノルウェー、デンマーク、ベルギーなどでも行われております。したがっていくつかの国々がこの種の読みやすい図書の出版で協力ができるはずであります。たとえ文化的な違いがあったとしても、これを配慮しながら協力することは可能と思います。 様々な文書、また絵をいくつかの国々で共通して使うことが可能です。単に翻訳だけをすればいいというものは、いろいろな例として挙げられると思います。たとえば古典的な作品、たとえば「モンテ・クリスト伯」などが一つ例として挙げられると思います。それからまた、国連に関する情報、またその他の国際機関の情報などもそうであります。ハンドブックなど、また医学的なアドバイスを含んだような本、マニュアル、趣味に関する本等々、これもまた協力対象として考えられると思います。いくつかの国が一緒になってできるものだと思います。 さて、このような連携を図ることが非常に大切と思われるのは、たとえば電子媒体へのアクセスを図るための方法、また基準を作るという作業でありますし、またユニバーサルデザインを考える場合、これは共同プロジェクトという形をとることが可能でしょう。

読みやすい図書のネットワーク

数年前、私たちは国際的な読みやすい図書のネットワークを作りました。このネットワークは全ての人たちに開かれています。この読みやすい、こういった問題に対して関心のある専門家は誰でも歓迎されます。今現在、28か国の方々、65~70人が参加していると思います。このネットワークはまず、この読みやすい図書に関する知識を広め、そして意識を高め、そういったニーズがあるとの認識を高めることにあります。また、こういった問題に関しての連絡先の機能も果たしますし、また情報交換、アイディア交換を可能にする場となっております。また同時に、様々なこういった異なる国におられる人々、組織の協力を促進するという機能もあります。また、ネットワークを通じて共同プロジェクトをスタートし、共同プロジェクトのための資金調達を行うという目的もあります。またさらに、読みやすい図書に関する研究をスタートするということもあるでしょうし、コースを提供することもあります。また、新しい国において、新たにこの読みやすい図書のための制度作りをするということも、一つの目的です。

このネットワークは独自のホームページを持っています。このネットワークに関する詳細は、www.easy-to-read-network.orgで見ることができます。このネットワークは、バルセロナで数年前、2005年に会議を開催しました。そしてもう1回、来年、おそらくミラノで会議を行うのではないかと思います。IFLAの会議と併せて、同時開催で会議を開催することになると思います。

easy-to-read-networkのウェブサイトの写真

皆さんご清聴ありがとうございました。