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図書館等のためのわかりやすい情報・資料ガイドライン普及セミナー

パネル討論 ―図書館等のためのわかりやすい情報・資料ガイドライン作成の視点―

河村宏●間に5分くらい休憩をとりたいと思いますが、4時半まで執筆者を中心としたパネリストと指定討論者、さらに会場の皆さんからもご意見をいただく時間がありそうです。最初に執筆者から。必要があればプロジェクターで、今日お配りしているテキストを映すこともできます。そういったものも含めながら、それぞれ自分が執筆したところを通じてこの「情報・資料ガイドライン」の中で、何を共有してほしいのかということの概要と、実際に執筆している上で問題点もたくさん出てきていると思いますので、それらについてどういったところが問題でこれからの課題なのか。そして会場にいらっしゃる皆さん、他の執筆者のパネリストに対しての問題提起。それらをまとめて最初に10分ずつお話ししていただきます。それが一巡しましたら、指定討論者の佐藤様から10分ぐらいでご意見をいただきます。そこで1回休憩にするか、あるいは時間の進行によっては佐藤さんの前に休憩を入れるか。大体1時間くらいたったところで5分間の休憩を入れて、その後、会場全体で議論するという形で今日の機会を生かしたいと思います。

皆さん既にご存じのようにこの週は、世界中で国連の障害者週間です。いろんなところでいろんな障害に関する催し物が世界中であります。今日のこの催しもその一つと位置づけられると思います。

今回のガイドラインは先ほど野村さんからご紹介がありましたように国際的な流れの中での、これからの日本での「図書館のためのわかりやすい情報・資料ガイドライン」を作っていこうという試みです。そういった文脈の中でじっくり皆さんの議論を期待したいと思います。

では最初にプログラムの順で自己紹介をそれぞれ簡単におっしゃっていただきたいのですが、まず野口さんからお願いいたします。

野口武悟●専修大学の野口と申します。日本図書館協会の障害者サービス委員会でも委員を務めております。お手元のガイドラインのドラフト版でいうと、私が主に担当したところは31~32ページです。「8.関係者(ステークホルダー)と図書館の連携」というところ、それから次の「9.普及に向けて」の「9.2 わかりやすい資料の作成・提供研修」のところを主に執筆しました。

「わかりやすい情報・資料」ということに関しては先ほど野村さんからもスウェーデン語で「LL」という言葉の説明がありましたけれども、日本では「LLブック」という名称で、数は非常に少ないのですけれども十数タイトル、「LLブック」と明示して出ている作品があります。そういったものを図書館でも収集しているところがあるということです。

2010年度、国立国会図書館で実施した「公共図書館における障害者サービスの現状に関する調査」というのがあります。今から6年前になりますが、そのときにはLLブックの普及(所蔵率)は約3%ぐらいでした。今年、うちのゼミの学生の卒業論文で障害者サービスやLLブックの状況について質問し調査した学生がいるのですが、そのデータによると20%くらいということですから、普及そのものに関しては広がってきているかなとは思います。それでも、まだまだこれからの状況にあると思います。

ガイドラインのドラフト版の31~32ページの8と9を中心に中身をご紹介したいと思います。主に公共図書館として、どう普及を進めていくかというときに、どういった関係者と連携を深めていくのかが8の中身になります。

具体的には国立国会図書館、学校図書館や大学図書館、そして施設や当事者の団体、さらには出版社を挙げて、具体的にはどういった形で連携していく必要があるか、また課題は何なのかということを整理しました。

公共図書館の中でも、まだまだわかりやすい情報・資料のそのものの認知度や実際の収集状況に非常に大きな差があるのが現状です。そういった差を埋めていくという観点からも連携ということが非常に重要になってくるのではないかと思います。

まず、国立国会図書館との連携に関してです。国立国会図書館は皆さんもご存じのとおり、日本で唯一の国立図書館ということで、国会に属している図書館ではありますけれども、ある意味、日本の中央図書館の役割を担っています。障害者サービスに関しても様々な取り組みを行っています。例えば視覚障害者等用データ収集及び送信サービスというものを行っています。これはサピエというシステムとも連携を図っています。しかしながら、わかりやすい情報・資料の収集と提供ということについては、そこに明確な位置づけがないというところが課題として言えるのではないかと思います。そういうところを明確に位置づけていく必要があるのではないかということを国会図書館との連携のところで指摘をしています。

二つ目が学校図書館や大学図書館です。学校図書館といっても特別支援学校の図書館だけではなく、支援が必要な児童・生徒、特に知的障害のある児童・生徒は小学校や中学校にもたくさん在籍しているわけです。小学校や中学校の学校図書館と公共図書館が連携していく中でわかりやすい情報・資料の提供を必要とする児童・生徒への提供の可能性が広がる。また、障害のある子だけではなく、外国出身の児童・生徒や帰国子女の児童・生徒など、ベースになる言語や文化が異なる人たちがいますから、そういう人たちにも日本語でのわかりやすい情報・資料の提供が必要となってくるということです。同様のことは大学及び大学図書館においても言えると思います。

学校図書館と公共図書館の連携は、今、キーワードの一つになっていて、さまざま取り組まれてはいますけれども、わかりやすい情報・資料の提供であるとか、あるいは障害者用資料の提供が十分なされているかというと、まだこれからの課題なのかなと思います。

三つ目が施設や当事者団体との連携です。特に、ニーズを把握する、図書館の側で気づかなかったようなニーズをつかむことはまさに当事者との連携が不可欠な要素ではないかと思います。その辺りを強化していくことも必要ではないでしょうか。

4点目として出版社との連携。これは先ほどの野村さんの話の中でもありましたけれども、図書館として作ることももちろんできるわけですが、出版社の側に積極的にLLブックのようなわかりやすい情報・資料を作って出版・流通して広げてもらうことが必要になってくるかと思います。しかしながら日本の場合、出版は民間の出版社が行う民間事業ですから、ニーズがない、あるいはないと思われているものにはなかなか手が出せない。つまり売れないものは作らないという状況もあるわけです。したがって、これだけニーズのある人がいるんだということを図書館の側から出版社に働きかけていくことも必要になってくるのではないでしょうか。

続いて、「9.普及に向けて」の「9.2 わかりやい資料の作成・提供研修」の部分です。ここも課題かなというところです。

障害者サービスそのものについての研修は、取り組んでいる図書館がもちろんあるのですが、わかりやすい情報・資料の作成・提供ということに特化しての研修はまだほとんど行われていないのではないかと思います。

ではどんな研修を行っていったらいいのか。また、それは図書館だけではなくて、例えば関連する類縁機関である博物館とか公民館とか、もっと広くとらえれば市役所や学校、そして出版社も含めた形で、研修を行っていく必要があるのではないかと思います。

その中身については、基本的には先ほどの野村さんの話にありましたが、ガイドラインの目次に沿った形で、テーマを設定して行うことが可能なのではないかと思います。具体的には、わかりやすい情報・資料にはどういった種類や特徴があるのか。また、なぜわかりやすい情報・資料の作成や提供が必要なのか、その背景や理念は何か。それから、どういった人たちに必要となり、またその人たちはどういった特性やニーズを持っているのか。また、著作権の規定はどうなっているのか。実際に図書館などがリライトするにあたっての方法や留意点は何なのか。また、提供する際の方法や留意点は何なのか。さらに、関係者との連携はどうなのか。こういったことが研修する際のテーマとして取り上げることができるのではないかと思っています。

ここまで話してきたような内容は、障害者サービスの担当者だけが知っていればいいのではないかと思う人もいるかもしれませんけれども、そうではなくて、すべての職員がしっかり理解を深めることが大切かと思います。それは、日本図書館協会が昨年(2015年)12月に出した「図書館利用における障害者の差別の解消に関する宣言」の中で、図書館利用における障害者差別の解消、つまりすべての人が利用できる図書館に、図書館自らが変わることを宣言していることとも関係します。この宣言の内容を実践していくためには、特定の職員だけが知っていればいい、やればいいのではなくて、すべての職員がしっかりと取り組んでいく、そのための研修が必要なんだということになると思います。

33ページの上のところで触れていますが、研修をやるといっても誰が引き受けるかが課題になります。その点に関しては日本図書館協会に障害者サービス委員会があります。また、この会の主催をしている日本障害者リハビリテーション協会に情報センターもあります。そういったところにぜひ問い合わせていただければと思います。

以上が私の担当したところの紹介についてでした。

藤澤和子●藤澤と申します。出身は京都なのですが、大学は大阪です。私は「LLブックを届ける」という読書工房から2009年から出した本の編者の一人です。写真だけの本、LLブックを編集したり、それから育成会の方で本人活動委員をしていましてガイドラインを作成したりということをやっています。

私が担当したところは「4.1 わかりやすい情報・資料を常に必要としている人」の中の知的障害、発達障害、聴覚障害のところです。ほかに、「5.わかりやすい情報と資料の作成について」の「5.1 わかりやすくする方法」、「5.3 絵記号によるコミュニケーション」、それから「9.1 わかりやすい資料のマーク」を執筆しました。

どういう方がこういう資料を必要としているかということですが、やはり知的障害の方。これはよく知られています。知的障害の方にどういう支援が要るかということを後ろの方に書いてあります。それは「わかりやすい方法」にもありますので省略させていただきます。

発達障害者については、この言葉は、範囲を広く使われていますので、どういう方が発達障害者に入るかということもありますが、自閉症の方で知的障害のある方には絵や写真やシンボルがいいのではないかということ。読み書き障害の方には、文字に頼らない本やマルチメディアDAISYなど音声で聞けるものがいいのではないか。ADHDの方には、なるべく長い文章や複雑な文章を避けたらいいのではないかということを提案しています。

聴覚障害の方には、聞こえないということで言語の概念が難しい方がいますので、個人差はありますが難しい言葉を避けて、初めての単語には意味の説明を加える、長く複雑な文章を避ける。イラストや絵や写真がいいですよということを書いています。

次に、どういうふうにわかりやすくすればいいのかということです。15ページですが、ここは野村さんと共同で考えました。

まずテキストです。文章をどういうふうに書けばわかりやすくなるか。大阪手をつなぐ育成会が作ったガイドラインをここに持ってきました。これが元になったものです。合理的配慮を考えるという、内閣府に提案したガイドラインです。これを元にしてこのテキストのところを書きました。ですから知的障害の方を対象にしたものなのです。

このガイドラインの難しいところは、いろんな人を対象にしています。外国人の方とか高齢者の方も入っています。そこがとても苦労したところです。読んでいただいてこれはどうなんだろうというところがあったら、ぜひ教えていただきたいと思います。最も必要とするのが知的障害の方だろうと思いますので、ベースとしては決して間違っていないと思いますが、高齢者の方でしたら、主語は省かないとか接続詞はできるだけ使わないとかは要らない可能性もあります。読んでいただいてご意見が欲しいと思っております。

あと、デザイン、レイアウト、フォーマット、写真、イラストのところ、特に写真やイラストはよく使われていますので、文章と一致したものを使うとか、あまり複雑なイラストは使わない、文字はその上に書かないなど細かな定義をしております。

次は、「絵記号によるコミュニケーション」、22ページのところです。

絵記号というのはピクトグラムとも呼ばれますしシンボルとも言います。いろいろな言い方があります。わかりやすさを提供する方法の一つだと考えています。写真やイラストと同等のものだと思います。

文字が読めない人に、シンボルを貼ることで言葉の意味を絵的に知らせる方法の一つです。わかりやすさを必要とする人の中には、文字が読めない方がたくさん含まれると思いますので、シンボルを並べて文章を表記するというのが24ページの例です。「男の人がコーヒーを飲む」とか、このようにシンボルを並べて文章を作ります。

図書館利用案内の例が42ページにあるのですが、これは図書館に来ていただくために知的障害の人にも図書館の様子がわかりやすくという目的で作ったものです。ここにピクトグラムをたくさん使っています。本を返すとか、わからないときはどうするかとか、文章よりもすぐにわかるものということで気をつけています。

写真もたくさん使っています。ダウンロードして各図書館で使っていただけるように考えています。

もう一つの例が、23ページの「災害時のコミュニケーションボード」です。災害のときに、図書館だけに限りませんが公共施設の中で、お話ができない人に、指を指してコミュニケーションをとる例です。これは札幌市の図書館の受付のところで使われているボードです。これもシンボル、ピクトグラムで作ってあります。

今後、こういう文字だけに頼らないものが増えていくと思いますが、それに先駆ける形で例を挙げさせて表記させていただきました。

それとつながりますが、最後に、「わかりやすい図書の資料のマーク」、32ページです。これも作りませんかと提案しています。と言いますのは、今、LLブックが少しずつ普及してきていますが、LLブック、手話付きの本、布の本、DAISYなどいろいろな種類がありますが、図書館によっていろいろなところに分散されている場合があります。ですから必要とする方がどこを探せばいいかわからないという現実があるのではないかと思います。そのときに、いろいろなわかりやすさに配慮したものがここにありますよというマークをつけておくと、困る人が少ないのではないか。図書館員の方も紹介しやすいのではないかと思いますので、そういうマークを提案しています。ただ、どんなものがいいかはこれから考えていくことですし、また、国際標準規格などもできればいいなということも話しております。以上です。

小尾隆一●大阪手をつなぐ育成会の小尾です。本日のセミナーですが、私にとってはまるで謎解きをするようなセミナーです。というのは、メンバーが47ページに載っていますが、このメンバーで会合を重ねてガイドラインを作成してこられましたが、実は私、初回しか参加しておりません。初回もちょっと遅刻して参加したという悲惨な状況で参加させていただいています。先ほど野村さんが基調講演をされて、あ、そういうことだったのかというような思いで、今座っております。

私が最終的に担当したのが33ページの「9.3 制度を生かして」という一番最後のところです。普及に向けての制度を生かしてということです。

この4月に障害者差別解消法が施行されたことは非常に大きなエポックです。これがなかったときとあるときでは、全く環境が違うということですので、それで「制度を生かして」ということで、簡単ですが書かせていただいた次第です。

2006年に国連が採択した障害者の権利条約があるのですが、これをもとに、我が国の今の障害者の状態に合う形で障害者差別解消法というものができたわけです。実は施行までにずいぶん準備期間がありました。法律ができてから2年ほど準備期間があったのです。私ども普段、知的障害者の支援をする全国組織でして、すべての県に手をつなぐ育成会があるのですが、私は大阪の事務局長をしております。同時に全国の組織の理事もさせていただいています。

そこで、法律ができた時点、つまり平成26年度に、障害者差別解消法に基づいて知的障害者にとってどういうことが必要なのかということを取り上げまして、そこで出てきたことが「わかりやすい情報提供」がキーワードだったのです。それで全国の主だった方が集まりまして、わかりやすい情報提供のガイドラインを作ろう、こうすれば世の中の情報は知的障害者にもわかりやすくなるよと。

これまでいくつかの取り組みがありましたが、きちんとまとまったものがなかったので作りました。それが先ほど藤澤さんも紹介したと思いますが、こういうパンフレットにしたんです。これは例えば大阪手をつなぐ育成会のホームページにも載っています。ここにあることが今回のガイドラインにも相当取り上げられています。これをもとに、具体的にこのガイドラインに従って、世の中にいろいろなものが出ていますけれども、それをリライトしてみようという取り組みを実は平成27年度にしました。

その成果物の一つが、例えば障害者総合支援法という法律です。これは障害者サービスの基幹をなす法律です。知的障害者にもわかりやすくしようということでパンフレットを作り、「わかりやすい版 知ろう・使おう・楽しもう 障害者総合支援法のサービスを利用したい人へ」というタイトルのものです。それともう一つ、障害者虐待防止法。これも「わかりやすい版 虐待されたら“やめて”と言おう」というもの。どちらも情報提供のガイドラインに従って、難しい法律ではありますけれども、知的障害者にもわかりやすく見ていただこうということで作ったわけであります。

どちらも現在、厚生労働省の障害者の虐待防止のサイトに載っています。自由にダウンロードでききます。出したのは今年4月ですけれども、あちこちで随分と好評を得ております。こういうものははっきり言いまして、なかったのです。特に障害者虐待防止法の方は、本当に文字ばかり、それも専門用語、法律用語が非常に並んでいる。本当に情報を届けないといけない知的障害の方になかなか届かなかったのです。それを、イラストやわかりやすい言葉、あるいはレイアウトの工夫等をして届けられました。

あるいは障害者総合支援法。これも普段いろいろなサービスを使っているのですが、なかなか中身を紹介するパンフレットがなかった。それで作って好評をいただいています。

育成会は全国組織ですので、こういったわかりやすい情報提供をやろうという取り組みを全国の組織を使ってやっています。「わかりやすい情報提供のガイドライン」を、全国の育成会、市町村の末端まで組織がありますので、全国に1,700ほどある行政、自治体、市町村に届けるという活動を今展開中です。何をしているかというと、市町村が出す広報をぜひわかりやすくしてほしいという取り組みをしています。実際にそれを受けて、幾つかの行政、自治体で、自分のところで出す広報を2種類出すようになりました。いわゆる普通版とわかりやすい版、やさしい版。言い方はいろいろありますけれども。知的障害者にもわかる、それから知的障害者だけではないですね、行政の場合、認知症の方であったり外国人であったり、いろいろな方が対象になります。そういう取り組みをやっています。その一環で今回、図書館についても取り組んでみようかということで参加させていただいたと思います。

ただ、情報提供という観点からいきますと、やはり印刷物、紙媒体の話ですよね。実は知的障害の非常に重い方は紙ではわかりません。それこそ文字でもわかりません。紙は単にペラペラと遊ぶための道具かもしれません。紙の上に情報が載っている認識がない方もおられます。あるいは本も、そこに情報が載っているという認識のない方がおられます。そうすると本は、ただパラパラめくって風がくるおもちゃでしかありません。ですから、わかりやすい情報提供といったときに、紙媒体だけでは随分と限界があるだろうということで今現在、テレビ番組などの映像をわかりやすくするという取り組みをしています。藤澤さんたちと一緒に今、取り組みをしています。とりあえず試作版を一つ、先だって作ったところです。

映像については当然、普通の映像がありますが、それをわかりやすくする補助的な機能として、字幕があったり音声解説があったりします。そこにわかりやすい字幕・わかりやすい音声解説とはどんなものかを取りまとめたわけです。これも私ども大阪手をつなぐ育成会のホームページで報告書を公表させていただいています。

さらに、わかりやすい情報提供を考えた場合にもう一つ、紙媒体、映像プラス実は対話、話をすること、その人自身に合った形での情報提供をするということが最初はあったと思うのですけれども、その対話についてもわかりやすい情報提供というのがあるのだと思います。そうしますと図書館で提供されている例えば対面朗読のサービスにしても今の説明にしても、まだまだそういうたぶん要素があるのではないか。映像をわかりやすくする、あるいは対話をわかりやすくする。そのためのガイドライン作りがこれからの課題ではないかと考えております。以上ございます。

山内薫●墨田区の図書館に勤めておりました。よろしくお願いします。私が執筆したのは9ページの「代替出版のための著作権の制限」の部分と、12ページの利用者の「高齢者」の部分、30ページの「資料と利用者を結びつける対面朗読」の3カ所を書かせていただきました。前回までは3のタイトルが「著作権法37条と43条により許される翻案及び変形について」というものだったのですけれども、今日、ドラフト版をもらったら突然「代替出版のための著作権の制限」に変わっていて、書いた本人がびっくりしています。

野村さんの話にもありましたが、その前のページの、「2つのわかりやすい情報と資料の製作プロセス」の①と②というのがありますけれども、②の「原本があって、それをわかりやすく書き換える」という部分が、図書館が製作して共有していくという意味合いの代替出版という言葉になったと考えていただければと思います。ですから、本来でしたら、日本語を母語としない人のための出版というようなことも含めて考えられます。図書館が製作して提供するということになりますと37条の規定で「視覚障害による表現の認識に障害のある人」に限定されてしまいますが、それを出版社が作るとすれば、すべての人が利用できるという方向にいきますので、そこを目指して「代替出版」という言葉が使われているのだと思います。

著作権についてですが、ご承知のように2010年の改正著作権法で従来の視覚障害者、聴覚障害者に限定した権利制限の対象が、「視覚による表現の認識に障害がある者」「聴覚により表現の認識に障害がある者」というふうに大幅に拡大したわけです。日本図書館協会が中心になって作りました「図書館の障害者サービスにおける著作権法37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」という長い名前のガイドラインがあって、その中に対象者として、視覚障害者のほかに聴覚障害者や知的障害者が挙げられています。また利用するために必要な方法として録音、拡大のほかにピクトグラムやリライトという言葉が挙げられています。

2010年の著作権法改正でとても大事なのは、43条の「翻訳・翻案等による利用」という条項だと思っています。この中で視覚関係の37条第3項については、「翻訳、変形または翻案することができる」と述べられています。それから聴覚関係37条2では、「翻訳または翻案による利用」を認めているわけです。具体的には「翻案」という言葉によって文章をやさしくリライトすることができると考えます。

実際に絵本のリライトの例は石井さんが後で紹介してくださると思いますけれども、ここに、『特別支援学級での読み聞かせ』という、都立多摩図書館が作った実践記録があります。都立多摩図書館が特別支援学校で読み聞かせをする中で実践してきたことを紹介した本です。例えば「どろんこハリー」という絵本があります。その中に、「ハリーは二階へ向かって一目散」ということばが出てくるのですけれど、これをろう学校で読み聞かせをするときに、「普通に耳の聞こえる健聴の子どもは「一目散」の言葉を知らなくても音の響きや前後のつながりで意味を類推して、耳慣れない言葉を新鮮に感じることができるけれども、聴覚障害の子どもは、読み聞かせで知らない言葉に出会っても意味を類推することは難しいでしょう。「一目散」を「大急ぎ」に言い換えるとスムーズに物語を追うことができます」というような例が載っています。

それから、これは特別支援学級で手袋人形の話をしたという豊島区の図書館の方から伺ったものですが、「カラスの親子」という手袋人形のお話をするときに、「5羽の子ガラス」という言葉が出てくるのを著者に了解を得て、「カラスの子どもが5羽」と言い換えたといいます。本当に小さいところからわかりやすくしていくという実践が行われています。

この特別支援学校での読み聞かせには6つの手法というのがあります。1つは寄り添って読む。2番目に一部分を読む。3番目にダイジェストで読む、4番目に読んだことを体験する。5番目にクイズをしながら読む。6番目に繰り返して読む。この3番目に「ダイジェストで読む」ということが言われていて、これがリライト、翻案に当たるのではないかと思います。

聴覚による表現の認識に障害がある方に認められている翻訳と翻案ですけれども、例えば字幕をつける場合、必ずしも発話者の言葉を一言一句そのまま字幕にするのではなくて、目で見て読みやすい一定の文字数に少なくしたり、あるいは言葉を変えて翻案するというようなことが行われており、この条項で許されると思います。

例えば、2010年の改正を解説した文化庁のホームページの中で、こういうことが言われています。「デジタル録音図書の作成、映画や放送番組の字幕の付与、手話翻訳など障害者が必要とする幅広い方式での複製を可能とすること」という文言があります。ここで「手話翻訳」という言葉が使われています。聴覚による表現の認識に障害がある者の中に日本手話を母語とする人も含まれるのではないか。書かれた文字を手話という言語に翻訳することが「手話翻訳」という言葉の中に想定されているのではないかと思います。日本手話への翻訳では、なじみのない言葉をいかにわかりやすく手話で表現するかということが大きな要素になっているようですので、「手話翻訳」という言葉と「わかりやすい言葉による翻案」との間には、とても大きな共通点があると考えます。既に、ろうの方からは、図書館の蔵書を手話で、つまり動画で提供してほしいという要望も出されていますが、これについては現在の公共図書館ではまったく応えられていません。

障害者権利条約の第9条の中に「施設及びサービス等の利用の容易さ」という条項がありますが、その中に、「公衆に開放される建物、その他の施設において点字の表示及び読みやすくかつ理解しやすい形式の表示を提供すること」という文言があります。つまり図書館の例を考えてみましても、図書館で使われている用語が本当に読みやすくかつ理解しやすいものかということを、図書館自身でも再検討する必要があると思っています。

それからもう一つ、「公衆に開放される建物、その他の施設の利用の容易さを促進するために、人または動物による支援及び仲介する者(案内者、及び専門の手話通訳を含む)を提供すること」という条項もあり、例えば対面朗読で資料を読むとか、マルチメディアDAISYの利用の仕方を援助するという人的な援助も今後、不可欠ではないかと思っています。以上です。

石井みどり●盲学校の図書館からろう学校の図書館に5年おりまして、盲学校の図書館に戻ってまいりました。その間、日本図書館協会の障害者サービス委員会にしばらく入っておりました。私の話したいことはほとんど小尾さんと山内さんがお話ししてくださったので、極めて具体的なことをお話します。

皆さんきちんと見えていらっしゃる、聞こえていらっしゃる、あるいはろう、盲の方もいらっしゃると思いますが、利用者がどんな具合なのかということがわかっていないと資料を作ることはできません。今ここに、たまたま私が住んでる長屋の垣根におとといサザンカが咲きました。色を感じる視神経がないと、黒い、お化けが出そうな写真になってしまいます。

4月に法律が施行されました。ところが1980年に既に岡山市立宇野小学校、「図書館の誓い」。これ、今日私どうしても読みたくて持ってきました。

「みんなが読みたい本を読めるように準備します。みんなが調べたいことを本や資料で応援します」。

これ、皆さんの仕事なんですよね。こんな本を読みたい、私はこんな資料でないと読めない。だったら、あなたが準備しなくちゃいけないんですね。今日ステキな言葉をいただきました。「代替出版」。これを私たち一人ひとりがこれを担っていきたいと思います。

ろう学校に5年間いたときに驚いたのは、手話を母語とする高校生たち、本当に書き言葉が苦手です。言葉の意味がわからない。例えば「今日先生、日焼けしてるね」って言われたんですね。「日焼け」って夕日だったんです。お日さまが沈んできて周りが赤くなっている。それを音声で「ひ・や・け」と言いました。これで高校を卒業するんですよね。

母語が何なのか。日本人が日本語の書き言葉、音声日本語をしゃべらないと、わからないと、今の世の中生きていけない。それを保障するのって、言葉を培うのって、本じゃないでしょうか。小さいときからお父さん・お母さんが読み聞かせをする。日常会話だけでは生まれない、自分の思いを伝える言葉、それを身につけていく。それが私たちの基本ではないかと思います。

そのためには一人ひとり違う読みにくさ。どうしたら読書の支援ができるか。小尾さんも藤澤さんも話してくれましたけれども、どんな障害があるのか。弱視といってもいろいろな見え方があります。体調によっても違います。朝と昼でも違う。ちょっと曇ってきたらまた違う。夕日が目に入ると何も見えなくなってしまう。そんなことをわからないと資料を提供できない。

皆さん、ご存じの方もいると思いますが、神山(こうやま)さん。自分の目はこんななんだよと。学校の先生です。私は怒られました。お前早口だからメモをとる時間がないじゃないかって。白兎養護学校に行ったときでした。「ここの角を曲がってたばこ屋さんの看板があるからそこを右へ曲がってちょうだい」と言ったら、「風景の中からその字を見つけることができない。自分にとっては全部絵なんだよ」とおっしゃいました。

実際、私は約何十年間かリライトをやってきました。2009年、著作権法が改正される前までは特に画家さんから、作家さんから、「私の作品に手を加えないでください」と。何度も泣きました。やっと著作権法が通りました。

これもどうしてもご紹介したかったんです。マルチメディアDAISYで小学生の男の子2人、今まで世の中に文字があるなんて思ってなかったんです。それが国語の教科書「黄色いバケツ」をマルチメディアDAISYにしていただきました。そうしたらいきなり言葉と文字がマッチングしたんです。もう担任と私はボロボロと泣きました。小学校4年、5年のときはまだ難しいですね、いきなり文字を覚えたわけですから。でも、高等部に入るときに普通学級に入れました。

これは余計なことですけれども、行を追っていけない、専攻科の学生、40、50の学生に色画用紙を折って定規を当ててあげる。そうしたらそれだけで専門書を読んでいけるんです。はり・きゅうの勉強って歯科医師の国家試験と同じぐらいのレベルなんですね。その視覚障害があって今まで新聞も読んだことがない、雑誌ももちろん、小説も読んだことがない、その人たちが、この紙一枚によって文字を追っていけるんです。これが拡大読書器やマルチメディアDAISYでシンクロしていったら、読めるんですよね。

今まで苦労してきたのが、やさしく書き換えること。

私はただの図書館司書です。作家さんが書いた思いを、意図をくみ取ってそれをリライトするのはめちゃくちゃ大変なんですね。よその国ではちゃんと予算がついて、リライトの作家さんがいます。リライトの出版は保障されています。でも、これだけお金がある日本がなぜリライトの作家にお金が出ないんでしょう。それは、売れないものは作らない、読者が少ないというだけじゃなくて、作ったら買う人はいるんです。ろう学校の子どもたちを地域の図書館につれていきました。誰も手話ができない。なので動き、こちらに小さく「げんしの」と書いたんです。司書さんはスポーツのところに連れて行っちゃったんですね。図書館自身がいろんな読みに困難のある人を受け入れて、その人がどんな要求を持っているのか、どんな読み方しかできないのか、わかってほしいんです。

もう一つ、出版されても、その本を一人で読むことができるのでしょうか。最初に本を与えられたとき、一人で読むことができるでしょうか。読むことの支援はとても大事だと思います。特に大人。恥ずかしくて言えないんです。でも一緒に指先を追っていってあげる。読みにくい? じゃ28ポイントじゃなくて32ポイントにしようか。今、電子書籍だと簡単にできます。まぶしい? じゃあもう少しバックの色を変えようか、文字の色を変えようか。それは私たちの仕事なんです。それって、これから皆さんの課題だと思います。

いくら売られても、いくら代替出版されても、ポンと置かれたって読めるものじゃないです。すみません。でも代替出版ってすばらしい言葉だと思います。今日、日記に書いておきます。

もうひとつうれしいことがあるんです。「おこだでませんように」をワンセット、皆さんにご覧に入れたかったんです。ところが大阪の役所の方が貸してほしいとおっしゃって。なぜ大阪からリクエストがあったかわかりました。大阪が援助金をもらってるんですね。たぶんそれが何となく流れ着いて石井みどりが一式貸してくれるということになって。今皆さんにご覧に入れることができないのができないのですけれども。ガイドラインの資料にたくさん書いてありますのでご覧ください。

皆さんがこれから作家さんになる場合、気をつけてほしいことがあります。

「メガネをかけたら」、ガイドラインの35ページ。

いきなり
「い・や・だ! ぜったいに いや!! メガネなんて かけませんからね!!!」
「そんなこと いわないで、メガネやさんに いってみましょう」
「いや、いや、いやですよ~ だ!」

これが1ページ目なんです。何のことだかさっぱりわからない。2ページ目をめくると、

「メガネを かけたほうが いいですね
きのう おいしゃさんで いわれた。
クラスの だれも メガネなんて かけていないのに。
ひとりだけ メガネを かけていったら ぜったいに わらわれるわ。
とくに ようちな だんしたちに。」

これが逆だったらたぶんすっとわかるんです。皆さんが作家さんになるときに、その辺りを気をつけていただければと思います。

河村●ありがとうございました。私、司会なんですけど、実は私も執筆しておりまして。ここのところをご紹介した上で、次に野村さんも執筆もされていますので、基調報告で触れなかったところを補っていただきます。

まず私から皆さんと共有しておきたい映像があります。これからお見せするのは、中国の北京で9月に出会った50歳くらいと言われている、周りの方は聞こえない、しゃべれない、そして知的にも障害があるとおっしゃっていた方の映像です。実はマルチメディアDAISYの製作講習で中国に行っていたのですが、そのときに私どもが再生していると、横へ寄ってきておもしろそうに見たんですね。もしかしたらと思ってお見せしたら、こういうふうな反応がありました。これからビデオです。

中国語の、目黒区のボランティアグループが作っているマルチメディアDAISYの多言語コレクションの一つで、挨拶など、いくつか次々とおもしろがってご覧になったのです。

【ビデオ上映】

これは野外で、たまたま持っていった私のiPhoneのVoice of DAISYで、中国語のコンテンツがありましたので、それを見せたときですね。

明らかに聞こえるんだと思うんです。それで、しゃべれるんですね。周りの方たちはしゃべれないと言っていたのです。実際に声を聞いたことがないと言っていたんです。その方が、これ、初見です。見てすごくおもしろくなって、自分も合わせて、たぶん正しく復唱しているわけではないと思うんですが、一緒にしゃべろうとしている。こういう形で興味を示して何冊も何冊も読みました。そういう体験です。

実は私は第6章のところ、電子技術を使うとどうなるかという部分を執筆させていだたきました。それぞれ分担されている方が既にいろんなところでマルチメディアDAISYに触れておられますので、私の方からは、短いものであまりダブってもしようがないと思いまして、やや抽象的に書きました。それが今度は抽象的すぎておもしろくないというご批判もいただいたりして、どうしたものかと今考えているところです。できれば、マルチメディアDAISYとかアクセシブルなビデオとか、そういう電子的な技術を活用すると、わかりやすさやアクセシビリティは両方とも非常に向上することができる。そのことについてできるだけわかりやすく触れたいと思っています。

もう一つ重要なのは、一人ひとりいろいろ要求は違うんだということをおっしゃっています。電子化する場合の最大のメリットは、一人ひとりに合わせて調整する幅が広がることだと思います。再生するスピードにしても言葉の速さ、ボイスシンセサイザーを使うとどの声を使うかも変わりますし、それから聞きやすさも、人によって甲高い方が聞きやすいとか低い声が聞きやすいとか、いろいろあると思います。それから行間、フォント、サイズ、タイプ、あらゆるものが最適化できます。標準的なコンテンツをうまくDAISYやEPUBで作っておきますと、プレーヤーの機能で手元で変えることができる、コンテンツを作り直さなくて済むという大きなメリットがあります。ですから、そういう標準化とプレーヤーの機能の向上によって一人ひとりのニーズに合わせた提供の仕方ができます。

もう一つのメリットは、特に流通に当たってオリジナルの出版も図書館などが著作権を制約して作る場合にも、ネットワークを使った流通ができますので、流通コストを非常に下げることができます。

さらに、今、オンデマンド出版が可能になっていますので、電子化しておいて、必要な紙の大きさとかフォントサイズ、行間とか、ある特定の人のニーズに合わせて1冊だけオンデマンド出版しても、それほど大きなコストの差にならないで済む可能性が出てきている。

それらの可能性を最大限に使っていくことが、これからの経済的な問題の解決にもなるし、アクセシブルでさらにわかりやすいというものを追求したときに、例えば視覚障害者の方は全部を言葉にして聞きたい、あるいは点字で読みたいわけです。言葉が必要なわけです。それに対して言葉での説明よりも、テキストではなくて動画で見たい、目で見たいというニーズも当然、わかりやすさとか手話が必要な方にはあるわけです。

その両方を、コンテンツを作るときに、出版社の方である種のデータベースになるわけですけれども、モジュールとしてその両方を含んでおく形にして、最後に提供するときに、紙でのオンデマンド出版がいいのか、あるいはできるだけテキストで読みたいのか、あるいは耳で聞きたいのか、動画があったほうがいいのか。そういったものを合わせて一番最適な形で提供する技術がもう射程距離に入っていると思います。

それらのコンテンツは、先ほど藤澤さんから、シンボルがあったらわかりやすくていいと。それはあるものをどうやって見つけ出して読めるようにするかということになるのですが、電子出版ではメタデータというデータを整備することによって、手に入れる前に、こういうアクセシビリティを備えたものについて検索するという絞り込みができます。そういうメタデータの国際標準も今作っています。

そういった流通まで含めて電子的な技術を最大限生かしていくということが、これからの問題解決の基本なのかなと考えております。

その点でスウェーデンで今までLLブックを出版してきた責任は、MTMというDAISYコンソーシアムのメンバーですけれども、国立の図書館に移ったということで、これからはマルチメディア技術を使ってそれを可能にしていくんだという新しい動きが出ています。それらも視野におきながら、日本でのこれからの、電子的技術を活用したアクセシブルでわかりやすい出版をどういうふうに推進するのか。そして、それがすぐに普及するわけではありませんので、既にあるものを利用者のニーズに合わせて選択的に変換して、ネットワークを通じて配信してできるだけ多くの方に届けるという活動を、この中にもう少し具体的に書き込めたらなと考えているところです。

最後に、この一連の著者による内容の説明の最後に野村さんに、先ほど基調報告では言い足りなかったところがあると思うので、そこを補っていただきたいと思います。

野村●私がこのガイドラインの中で書いたところはかなり多くて、僭越ながらですが、「序文」と、「はじめに」の部分、それから「2.2つのわかりやすい情報と資料の製作プロセス」。これは、「わかりやすい」といったとき二つの場合が考えられるというのは、読みやすい図書IFLA指針の中で話し合ったことでもあったので、入れさせていただきました。

スウェーデンでは、原本があり、すぐにわかりやすい版がLLブックという版にかえられるということが今でも多くなされています。それからオリジナルといった場合には、どちらかというとスウェーデンの中では、今、民間会社5社ぐらいが、わかりやすい、読みやすい図書として出版されています。そういう方向にスウェーデンが変わっていったというか、ちゃんとビジネスになっているというのが私としてはすごい驚きでした。

1冊だけ買ってきたものがあるので、もし見たい方は私のところに来ていただければと思います。

それから「4.対象となる人々とそのニーズ」。先ほど申し上げましたけれども、定義するのは本当に難しかったです。別の形での定義もあったかもしれないのですけれども、特にディスレクシアというのを学習障害の中にかかるのですけれども、どちらかというと国際図書館連盟の中で「ディスレクシア」という言葉をもっと普及させようという動きがありまして、政治的に書いてしまったものです。オランダではディスレクシアのためのわかりやすい図書を作っています。

それから高次機能障害、精神障害のほうも少し書かせていただきました。盲ろう者、認知症、その他の理由で必要とする人ということで、長期の海外生活から帰国した人。というのは、DAISY教科書というのは、ご存じかと思いますが、こちらはそういう人たちのためのものではないと法律では言われています。ただし、そういう人たちにとってとてもニーズがあるものだと思っています。ですので、どちらかというと一時的に読解力が限られていて必要とするということであればDAISY教科書を提供させていただいています。

そして「外国人」の部分に関しては、河村さんと私で書かせていただきました。

それから、「難易度」の方はニーズによってレベル分けをするという方法です。19ページです。これはスウェーデンでこういう形で難易度を3つのレベルに分類し、作成しているということです。河村さんがさっきおっしゃったMTMの中にLL出版というウェブサイトがあります。その中で難易度をレベル1、レベル2、レベル3という形で定義づけているものを訳して事例にしています。ただし、これからレベルに合わせて、DAISYの技術をどう使うかというのがたぶんスウェーデンのMTMの課題になっているかなと思います。

それから、「デザイン、レイアウトとフォーマット」も私が書いております。これはインクルージョン・インターナショナルで使われているガイドラインの中から入れさせていただきました。

それから「活字書体とサイズ」については、皆さんに聞いて見たのですが、行間は通常より広くするとしても、サイズはどのぐらいがいいかというのは、それぞれのニーズが違うかなと思いますが、11~14ポイントとさせていただきました。活字書体は和文でもヒラギノ角ゴやメイリオ、UDフォントというのも意外と使われているので、その辺も書かせていただきました。

それから「写真やイラスト」。

それから、28ページ「7.図書館でわかりやすい情報・資料を提供する」。例えば作成する上での注意点であるとか、図書館における案内表示であるとか。それからわかりやすい資料の配架。こういうふうにわかりやすくしたらいいのではないかというものです。例えば、わかりやすい図書のジャンル分けをして、ジャンルごとにピクトグラム、シンボル、または写真などを使うことで探しやすくするとか。表紙が見えるように配架するとか。わかりやすい資料・本というコーナーを作って、できるだけそこに行ってもらうやり方もあるのではないかと思います。

それはオランダで見たものですが、イージーリーディングプラザという言葉で、オランダのNLPだとそういう場所を作ることで、読者をたくさん増やした事例がありましたので、そちらを書かせていただきました。

それから、「わかりやすい資料と利用者を結びつける」。そういった意味で対面朗読もとても重要であるので山内さんに書いていただいたところがあります。

わかりやすい情報や資料の普及というのは、私が前に関わったIFLA指針の中での一番の違いというのは、アクセシブルなマルチメディア技術と電子技術を活用するというのが、紙以外の方が意外と有効であるということで、そこで少しだけの工夫をとどなたかがおっしゃいましたけれども、やはりニーズは何かというところ、そこに図書館員の工夫があるのではないかと思います。

【休憩】

河村●それでは、ディスカッションの皮切りに、指定討論者で日本図書館協会障害者サービス委員会の委員長、佐藤さんにコメントをお願いしたいと思います。

佐藤聖一●日本図書館協会障害者サービス委員会、委員長の佐藤聖一と申します。実はこの話をいただいたときに、指定討論者とは何だろうと思っておりまして。今日も何だろうと思いながら実はやってきております。私はこの分野を全然わかっていない人の一人です。今日は皆さんと一緒にお話を聞いて勉強しようかなと思っています。なぜ私が指定討論者になったかというと、日本図書館協会として、この本を図書館に普及するということが求められているのだと理解してまいりました。

中身に入る前に、何人かの方から発表がありましたけれども、障害者差別解消法がこの4月から施行になって図書館では非常に関心を持ってこの問題を考えております。

全国各地の多くの研修会に呼ばれてお話をしに行ったりしています。そういうのをやりながらだんだんわかってきたことは、従来の福祉的なサービスとこの差別解消法は、全く違う理論でできているということです。

従来の福祉サービスというのは障害者を特定して、制度さえも特定して、その人に対してどんな支援や補助、助成などができるかということです。ですので、特定するために障害者手帳が必要だったのです。福祉サービスを受けるための手形みたいなものだったんです。それが従来の福祉サービスで、それを行う人は福祉関係職員や専門的な業者であったりボランティアであったりと、特定の人たちがサービスや助成を行うというのが従来の福祉サービスでした。だからそれに該当しない人は、何も受けられないのです。

それに対して障害者差別解消法は何らかの社会的障壁のある人たちに対して社会のすべての場所においてそれを行っている人自らが、この「自ら」が大事なところですけれども、障害者へのでき得る配慮を行う。それが障害者差別解消法で社会全体に求められているということ。しかも誰がやるかというと、図書館なら図書館職員が行うということを差別解消法は述べているのですよね。

いろんなところでお話をしながらそういうことが最近わかってきたことですけれども、私なりにここが非常にポイントだと思っているのでお話をさせていただきました。

今日のテーマの中で私なりに思ったのは、まず、わかりやすい資料・情報と言っていますが大きく二つに分かれるのだろうなと思います。一つは出版されているもの。LLブックとかそういうものの収集を図書館はどう考えているかということです。野口さんが20%まで増えましたと言っていましたが、出版されているものを知っているかということだと思うのです。ただ本当に少ないんですよ。だから出版されているものをどうやって増やすかということが一つの大きな課題ではないかと思っています。

もう一つの柱は、37条3項で図書館は実は作ることができるんですと。山内さんの話で、翻案をして作ってもよろしいということだと思うのです。そのときに図書館の職員なり協力者なりが図書の翻案をできるのかと、すごく疑問に思いました。そうしたらプロというか、専門家がいればいいのではないか。なるほどと。翻案の専門家がいて、その人に翻案をやっていただきながら、それを図書館の名前で製作・提供すれば、そしてネットに載せていくことができれば、広く普及する。そうするとその専門家はどこにいるのかというのが私なりの二つ目の課題というか疑問です。

それからもう一つ、実は図書館が本を翻案して作るほかに、図書館自体が製作している利用案内や目録、サイトもそうでしょうし、図書館内の掲示、看板などいろいろありますが、そういうものをいかにわかりやすいものにするかという視点もあるだろうと。こちらは図書館としてすぐにでもできると思いました。多分このガイドラインには、そういうこともちゃんと書いてあるだろうと思います。

そういう大きく二つの視点と、その中で、作るということの中にも二つのことがあるのではないかと私なりに思った次第です。とりあえず以上です。

河村●ありがとうございました。それではここでパネリストや会場の皆さんも含めての議論になります。最初に、言っている意味がわからなかったという質問に限って受け付けてしまいたいと思います。質問ありますでしょうか? 意見ではなく質問です。

会場●発表内容への質問ではないのですけれども、ガイドラインの29ページ、わかりやすい案内マップという事例が出ています。わかりやすい案内マップの条件というのが私、この絵からは理解できませんでしたのでご説明いただけると助かります。

野村●確かにこれで見えないですよね。URL、ウェブサイトアドレスをつければよかったかなと思ったのですけれども。これ自体は自閉症フレンドリー図書館プロジェクトというものが米国にあるそうです。その中でフロアについてのわかりやすいマップがあったらいいのではないかということです。例えば入り口からどこに行けばどういった内容のものが、例えばクライムブックスとかスリラーブックスとか書いてあるんですが、小さいですよね。それから、センサリーエリアと書いてあって、実は自閉症というのはすごく静かなところが好きなくせに、突然大声を出す。自分の意見はいっぱい言いたい。そういうのを配慮したフロアだということで、ちょっとおもしろいかなと思うものを撮ってきました。これ、日本語にすればよかったんですが、英語だったのでよけいにわからなくてすみません。

会場●私が図書館に行ったときに、これに似たようなマップは目にするような気がしたのですけれども、一般的に図書館に掲示してあるマップと、このマップの違いが、私の中ではどんなものか気づけなかったので、その辺を教えていただけるといいなと思ったのですが。

さっきおっしゃったセンサリーエリアというのはすごく新しいというか、私は全然知らなかったのですけれども。

野村●やさしく、わかりやすく書かれていれば、日本におけるマップでもいいと思います。パッと見た瞬間にこれがどこにあるかがわかれば、いい案内マップではないかと思います。それが色彩的にもっときれいなんです。残念ながら白黒の予算しかないので。実際にはいろいろな色を使っているので、もうちょっとわかりやすくなっていると思ったのですが、あまりいい事例ではなくて申し訳ありません。

会場●何かポイントがあるのならお伺いしたいと思ったのです。

野村●自閉症の方のフレンドリー図書館というのは日本ではあり得ないので、ちょっとおもしろいなと思って入れてしまいました。

河村●ほかに質問はありますか?

会場●ガイドラインの対象となっているのはどなたなのかをお聞きしたいと思います。つまり、障害者が対象となっているのか、その範囲についてです。障害者の範囲といっても今は考え方がいろいろありますよね。障害者権利条約で言われている障害者というのは、例えばケガ人などの一時的な障害者も含まれることになっていますが、このガイドラインではどのように考えてらっしゃるのか。権利条約と同じなのか、それとも別の考え方があるのかをお聞きしたいと思います。

河村●これはどなたからお答えいただいたらいいですか。執筆者の中で障害がある人以外も対象として執筆しましたという方、手を挙げていただけますか? …石井さんは障害者のある方のみを対象として書かれたということですね。それ以外の全員は、障害のある方以外の、例えば外国人や読むことが難しい方々も考慮に入れて書きましたということです。それが質問に対する素直な回答です。その是非はこれから議論していただければいいかなと思います。ありがとうございます。

それでは意見交換に入りましょう。

今必要な、わかりやすい情報・資料ガイドラインの対象者、このガイドラインがこれから図書館を中心に配られるわけですが、どういう対象者が望ましいのかについてのご意見がありましたらお伺いしたいと思います。ご意見ありますでしょうか。どなたからでも結構です。

会場●まず私は、わかりやすいということだったので、自分が関わっている視覚障害の人たちがこの中に入っていないことにまず驚きました。

今の情報化時代の中で言語による理解だけではなくて、視覚的な情報がすごく多い中で、わからないことが増えてきている視覚障害者を対象にしていないことが一瞬理解できなかったということがあります。

あと、成人とかヤングアダルト対象ということで、ヤングアダルト自体も私的には理解しにくいというか。知的障害とかいろいろな子どもたち、精神年齢的に言えばそういう感じで考えていけるのかもしれないのですが、ヤングアダルトの表現がわかりにくかったので、ガイドラインの対象について説明していただきたいと思います。

河村●視覚障害者にも対応していることがまず必須であるというご意見ですね。なぜないかがわからないという。

実際問題としてないでしょうか? 私は触れているように思うんですけれども。項目がないということですね?

会場●項目がないってことは、逆に受け取られるということだと思います。あと言語に対する説明はすごく書かれていますが、視覚的なものを逆に言語で補うとか、図版を増やせばいいというのは逆ですよね。その辺りが加えられていてもいいのではないかと思いました。

河村●全体としてはあちこちに触れられているようには思うんですが、その辺り、今のご意見に対してパネリストの方、どなたかご意見はないでしょうか?

石井●つたない事例ですけれども、37ページ。文中には対面朗読とありましたが、出版と同時に対面朗読というのは、特に医学雑誌などでよくやっていました。

37ページに、「おこだでませんように」というところに絵が2つあります。それに文章を起こして書いてみました。「ぼくは がっこうでも よく おこられる」。これしかないのです。見えない子はどうしていいかわからない。これを文章に起こしてDAISY化してもらいました。こんな作業をしています。ほんの一例ですけれども。

河村●ほかのパネリストの方どうですか?

石井●著作権法が改正される前から点字にすることは自由だったんですね。手打ちでぽちぽち打っていた。それは日本文化としてフランスから引き継いできたわけですが、極めて清書に偏りがありながらも、かなり潤沢に、特に大人の世界では読むことができていると思います。

人の声による音声訳も、サピエ図書館で西と東で管理していますので、視覚に障害があるということであれば、ディスレクシアの方も含めて、地域の図書館なり、ライトセンターのようなところに登録すれば自由に借りることができる。そういったことは特に触れなくてもいいのではないかと思ったのでした。「わかりやすいガイドライン」ということでは。

河村●他のパネリストの方、いかがですか? ご意見あれば。

野村●障害の定義の中に視覚障害者を入れるか入れないかという部分はあったのですけれども、弱視の部分も同じようなことが書いてあるので必要ないかなということと、それから読んで理解することが困難な人たちの中に視覚障害者がどこまで入るかという。たまたまディスレクシアといったときには入るかと思うんですけれども、ここで、わかりやすくするということが、どこまでの部分にしたらいいかの議論があったんですね。その中で、私が「特徴的な障害」という言い方で、それから障害には視覚障害もあって知的障害者もいるだろうし、視覚障害者でディスレクシアという人もいるだろうし、「読んで理解すること」と部分に強調する場合ということで書かせていただきました。その辺は視覚障害者の方、いかがですか?

佐藤●視覚障害者として。私は、すみ分けていいと思っています。まったく個人的な意見ですが、視覚障害者の世界で、例えば録音や点字については、長い歴史と、多くのマニュアルとか基準とか、かなりの論議とある程度、煮詰まってきたものというか、でき上がってきたものがある程度あると思うんです。それから石井さんが言われたように提供システムも全国レベルできちんとしたものが構築されている。それに対して今日論議されているテーマは、まだまだこれから手をつけなきゃいけない新しい…と言ったらされている方には申し訳ないですけれども、まだまだ出版も少ないし製作も少ない中での話だと思います。だから私、個人的には、すみ分けていただいて絞っていただいた方がわかりやすいのではないかと思いました。

河村●ほかのご意見はいかがですか? ガイドラインが誰を対象として書かれるべきなのかということで非常に重要なことです。最初の方に「基礎となる理念」、8ページのところですが、「アクセシブルでわかりやすい情報と資料の提供」と、これが必要なんだと言っているんですね。この「アクセシブル」というのは、障害者権利条約で言う「アクセシビリティ」ですので、当然、障害により対等なアクセスができていない人たちのすべてのニーズが含まれる。それが「アクセシビリティ」であるということです。ただ、佐藤さんがおっしゃったように、「わかりやすい」ことについては、これまで蓄積が非常に少ないんです。国際的にも実践と蓄積と理論化が少ない。ガイドラインも、ウェブのアクセシビリティガイドラインはありますけれども、コンテンツアクセシビリティのガイドラインも、わかりやすさに関する部分は非常に弱いと、これまでも国際的に認識されています。そこの部分を重点的に補おうという意図で編集されたという背景があると思います。

もう一つの点は、ほかの執筆者とは意見が違うかもしれませんが、個別に何々障害者と書いていくこと自体、方法に無理があると私は思っております。むしろ、わかりやすい出版や情報提供によって障壁が解消できる、こういうケース、ああいうケース。例えば弱視の方でさらに認知の障害を持っている人は、いっぱいいるんですよね。精神の障害のある方で知的の障害のある方もいっぱいいるし、さらに自閉症の傾向を持っている方もいるわけですよね。つまり何々障害者のレッテルを私はあまり貼りたくない。こういうところに難しさを持っているという個別のニーズを複数持っている人たちもいる。そういう個別のニーズにちゃんと対応できる情報提供と出版というふうに、ここは何々障害というよりは、整理した方がいいのではないかと思っています。

他のご意見もあると思います。いかがでしょう? 対象について。

もう一度、どうぞ。

会場●河村先生のご意見、すごく納得いきました。私が出会っている子ども達は、重ねての障害を持つ子がすごく多くて。見えないだけではなくて見えにくくて自閉を持っている子が多いので、取り残され感がすごく厳しいのです。そういう条件を言っていただく方がいろんな方に理解してもらいやすいように思いますので、考えていただきたいと思います。

河村●ご意見ありがとうございました。ほかにも論点があると思います。今日出された中で、出版社の方がここにもおられると思いますが、出版社がやるべきことと図書館がやるべきこと、それぞれがやるべきことをやって、対象となる方がちゃんと社会に参加できるような、そういう情報と資料の提供がなされることが望ましいわけです。このガイドラインの範囲でそういうことがちゃんと触れられているかどうか、カバーできているかどうかという点についていかがでしょうか? 出版社の方がもしいらして、これじゃダメだよという率直なご意見がありましたら、むしろいただいて議論させていただいたらいいと思います。いかがでしょうか? 特にありませんか?

もう一つの論点として、例えば今でも対面朗読サービスが全部の図書館でできているか。視覚障害者の対応には歴史があり確立されているといっても、たぶんまだまだだと思います。そこにさらにこういう新しいサービスを持ち込もうといって大丈夫なのか。そういう疑問はないでしょうか。こうだから大丈夫なんだよという説得力ある説明があればいいなと思うんですが、いかがでしょうか?

会場●差別解消法がスタートして今、それぞれの図書館でも取り組みが進んでいると思うんですね。今までは障害を持っている方々、例えば聞こえない方々が図書館に行って、これこれこういうところが不便なので改善してほしいとお願いしても、従来だったら、予算がないからできないとか、物理的にできないからとかいって門前払いされることが多かったと思います。現在は法律が施行されて、さまざまな差別的な事例がわかってきて、図書館でもこういう問題が起きたとか、要望があったらば、門前払いしてはいけないというふうになりました。こういう要望や意見が出てきたら合理的配慮としてやらないといけなくなっています。

今後については私自身まだまだ見えていませんけれども、差別的な事例なのかどうかわかりにくい部分もありますが、要望が出てきたときに対応できるかどうかというのは、予算的な面もありますよね。障害を持った方々からこういうニーズが出てきて対応してほしいと言われたときに、従来だったら職員の人手が足りないからできなかったという場合でも、職員の対応が増えてくることが予想されると思うんですが、将来的な予算をつけて職員の数も増やして、そういうふうに変わっていくことを期待しています。従来ならできなかった。でも今は法律ができたのだから対応しなければならないんだよと。これを根拠にして実際に要望していけば、データが積み上がっていけば、改善しなければならないのではないかと思っています。その根拠となるものが差別解消法だと思います。そういう使い方ができるようになればいいなと思っています。私自身まだ見通しできていませんが、こういうふうにつながっていけばいいと思っています。つたない意見で申し訳ありません、こんなことを思いました。

河村●ありがとうございました。ほかのご意見ありませんでしょうか。

会場●今の図書館でこういう要望がきたらというところで、先ほど佐藤さんがおっしゃったように、図書館の掲示は結構対応しやすいだろうと考えています。

この中で具体的に言われて一番やりにくいというか、どうやってやろうかと思うのがリライトの問題です。実はリライトと似ているかどうかですが、視覚障害者の点訳・音訳について各自治体で取り組みできてない点があります。点訳者や音訳者を養成する部分でやはりハードルを感じる公共図書館が多いと私は今まで感じてきました。

どこかが作ったものを借用して提供することは、今、視覚障害に対するサービスの中ではできてきているのですけれども、今後、読みにくさを抱えた人のサービスの中で、この冊子の中で一番取り組みにくいなと思っているのがリライトの点です。

先ほどおっしゃったように、個々の図書館が対応せざるを得ないところもあるけれども、ある程度国でこういったところに対して、河村さんが書いていましたけれども、国立国会図書館や出版社を巻き込むような動きで、そういった大きな流れを作ることができるのかどうか、その辺の見込みを。これが本当に始まりだと思うんですけれども、何かそういったことへのお考えをお持ちかどうかお伺いしたいというのが一つ。

それから、もう一つ。読みやすさの中には対立する面があると思うんです。誰々にはこの方法がいいけど、別の人にはこのやり方では見えにくいという。そういった対立点がこの本の中にはないので、本当にこれだけでやっていいのかなとちょっと思いました。

河村●ありがとうございました。パネリストのどなたか、今のご意見に対してコメントありますか?

石井●すみません書いてあるのです。今、山内さんが探しています。19ページをご覧ください。

一つは外国でできることがなぜ日本でできないのか。皆さん方全国の図書館が、出版されて買ってくれたら何冊になりますか? 養護学校や特別支援学校が買ってくれたらウン千冊になります。そうしたら出版会社は喜んで出版してくれると思うんです。喜んでリライトしてくれると思うんです。

今、一人ひとり見え方、読み方のレベルが違う。石井みどりは1冊の本を手に入れたら、一人ひとりに合ったようにリライトしています。とても大変で寝る時間がないんです。それをどうにか、この場で「うん」と言ってください。図書館で買ってください。

子どもたちや大人たち、特に大人たちは自分が読める本が図書館にもない、本屋で売っていない。もう読むことをあきらめているんです。その人たちに、あなたはどうしたら読めるようになるの? 図書館に目を向けてください。それをどうしたら目を向けてもらえるようになるか。ずっと悩んでいます。私のたぶん一生の仕事です。このメンバーを頼りにしています。

小尾●育成会で、実はLLブックをいくつか出版しています。ただ売れなくて、在庫をいっぱい抱えています。PRの力が足りないと思いますけれども。個人で買う方は買われるんですが、なかなか、冒頭に野口さんがLLブックを図書館にとおっしゃいましたが、ここを何とかクリアしてほしいと思います。

野村●リライトですが、参考になるかどうかわかりませんが、39ページに、「リライト版マルチメディアDAISY図書の作成」ということで、日本障害者リハビリテーション協会が行った試みですが今、日本語学習のために小説や昔話、ノンフィクションなどをやさしく書く集団、NPO多言語多読という団体があります。そういうところに依頼する、連携してやるのも1つの方法かなと。私たちはこれを見つけてすごくうれしかったんです。自分たちができないことを一緒にやってもらえるということでお願いしたのがこういった内容で、実際こういうふうにしていただきました。

彼女たちがやっていることはレベルに合わせて何文字以内ということです。原本があって、例えば本当に簡単にするという場合、1,000文字で全部書き上げると。すごい能力だと思います。そういう方たちに研修を受けるとか、あるいは連携するというのも一つの方法としてあるのではないかと思います。

会場●当館にはたまたま非常勤の手話通訳もいるので、聴覚障害の立場での館内案内についてはいろいろと今までも考えてきていますが、いわゆるわかりやすいという視点ではさらに改善して、そういう人たちにもわかるようにというのは、当然すぐにでもできることだと思います。

LLブックに関してですけれども、当館でも基本的にいわゆる購入や寄贈できるものについては、こちらで知り得るものに関してはすべて購入含めて収集しているつもりです。今60タイトル弱、当館のホームページにも掲載させていただいています。そういった形で図書館は、売っているか寄贈しているということがわかれば利用するということなので、製作しているところはそういったPRも含めて図書館に対して取り組んでもらいたいと思います。

それと、今後、出版は少しずつ出てくると思うんですけど、そういったときにも、図書館が買わないのではなく、図書館に情報がいってないということも多いと思うので、そういうことも考えてきっちり売ってほしいと思います。図書館は予算があれば買うと思います。資料は基本的に買うと思います。その辺はきっちりしてほしいと思います。

製作については、協力者の養成に部分では点訳、音訳だけでもかなり遅れているところも多いです。どうにか入手できればどうにかなると思っているので、そういうところから広げていって、それこそ国会図書館にデータを登録できるようなものは登録するとか、そういったことも含めて全国的な取り組みとして、これを機に普及していくような方向で取り組んでいくことが重要だと思っています。

小尾●PRを。今、LLブックがどこで売っているかという話がありました。実は日本発達障害連盟という法人で売っています。発行は育成会なんですが、育成会で売っていなくて、売っているのは日本発達障害連盟というところです。それから、育成会を退職した職員が出版社を立ち上げまして、鈴木さんの頭文字を使ってエス・プランニングというところで売っています。ぜひ全国の図書館にLLブックを入れていただければと思います。

野口●LLブックというか、わかりやすい資料をどう普及していくかということで、国会図書館の話を私、先ほどしました。学術文献の録音図書の製作を国会図書館でやっています。同じような学術文献ではありませんが、やはり国会図書館がLLブックの製作をやってくれるといいなと思っているのですが。今日、国会図書館の方はいらっしゃらない?

(拍手)

河村●まとめないといけませんが、1分でまとめるとすれば、どういうふうに普及できるかというときに、やはり予算の問題や人材養成の問題など山ほど課題は抱えているんですけれども、とりあえずガイドラインの形で今まで不足していた部分を補う形で。今までいろんな知見があるわけですよね。その知見をまず普及させる。

紙の出版の上でずっと蓄積された知見が非常に多様なものがあり、あるいはそれを布の絵本にしたり、さらにこれまでDAISY、EPUB等での新しい分野での試みも始まってきたと思います。

最終的にはアクセシブルでわかりやすいという、両方の要件を満たすということになると、どうしてもオンデマンドの個別の紙による印刷も含めて、ベースが電子技術を活用したものにならざるを得ないと思います。ですからそこに本格的に焦点を当てるとなれば、今度は国立国会図書館の役割が非常に大きなものになってくるわけです。

電子納本というものが当然ありますし、オンラインのネットワークによって著作権を制限して作られたものであれば、一定の制限の範囲内で全国の公共図書館、点字図書館、学校図書館等を通じてどこか1カ所で作ればすぐに提供するという、本来の国会図書館の役割が大きくクローズアップされるだろうと思います。

また、市販されるものについても、紙あるいは電子、両方含めて先ほど申し上げましたメタデータというものが、いわゆる書誌情報をより細かくして、どういうふうにアクセシビリティを確保しているのか。そこまでをちゃんと記述してあるものが絞り込み検索できるようになります。そうしますと選書の際にも、わかりやすく作っている本を今回は選書の焦点にしたいというものもサポートされます。

そういう意味でも、出版界も含めて、国立国会図書館と各図書館さんが協力して利用者とともに進めていくことになろうかと思います。

実は私自身の時間の制約もあって、6時25分の飛行機に乗らなければいけなくてこれ以上いられないので本当に申し訳ないのですが、一応私のモデレーターとしての役割は閉じさせていただきまして、総合司会の村上さんにお渡ししたいと思います。皆さんのパネルディスカッションへの参加、本当にありがとうございました。パネリストの皆さんに拍手をお願いしたいと思います。

(拍手)