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シンプルなテキストの図書

シンプルなテキストの図書は、一般のテキストを読むことには問題があるが、認知上の問題は何もない人に合わせて改変されている。このような人は、読書に慣れていなかったり、言語的少数派に所属していたり、ディスレクシアであったり、AD/HD(注意欠陥・多動性障害)であったり、あるいは注意が散漫になってしまうその他の問題を抱えていたりする。

読むことは、「解読×意欲×理解」という機能である。読むことは、文字と単語を解読でき、読む意欲があり、そして読んでいる内容を理解できることが前提となる。読むのが難しいのは、これらの条件のうち1つか2つ、あるいはすべてに問題があるためかもしれない。

「シンプルなテキスト」は、出版社が「読みやすい」と呼ぶものと一致することが多い。ノルウェーでは1950年代に、シンプルなテキストの図書が初めて出版された。現在、大手出版社のほとんどが、子供向けの読みやすい図書のシリーズを出している。読みやすい図書として分類されるための一般化された基準はない。出版社が本を市場に出すとき、そう表明し、通常その本に特別なロゴを付ける。この分野に関連のあるテーマを研究している学生たちに、このような図書を多数チェックさせた。すると、そのすべてが読みやすいわけではなかった。かなりの数の図書は読みやすいとはいえず、ある特定の年齢の子供たちに適しているというだけであった。私たちはこのようなシリーズの図書を推薦する際、「シンプルなテキスト」という言葉の条件を満たすと思われる作品だけを選んでいる。しかし時には、テーマが特に興味深い場合や、テキストが特に刺激的であるか、あるいは読む意欲をかき立てる作品であると考えた場合、十分に「シンプル」だとはいえない本を含めることもある。

スタヴァンゲル(Stavanger)にある読字研究センター(Centre for reading research)のインゴルヴ・オースタッド(Ingolv Austad)は、読みやすい図書について、次のような考えを(1994年の『読みやすい図書―どれだけ読みやすいのか?(Easy-to-read books - how easy are they to read)』という論文の中で)述べている。

  • 見やすさ-テキストは視覚的にアクセシブルであるか
  • 読みやすさ(読む価値があること)-テキストは読む意欲をかき立て、読者の興味をとらえるか
  • 言葉づかい-単語や文法構造の選択

見やすさ

印刷上のアクセシビリティ

印刷条件の選択は重要である。シンプルなテキストの図書は、比較的大きな活字で、ダブルスペースで印刷されるか、少なくとも通常よりは大きな活字で、行をあまり長くせずに、図を多めにし、スペースを多くとった「広々とした」レイアウトで印刷される。読むのが難しい人は、1つ1つの単語を読むことに集中しすぎて、文章のどこを読んでいるのかわからなくなってしまうため、右マージンを揃えない方法も役に立つであろう。右マージンが揃っていると、読者が文章のどこを読んでいるかを知る手がかりがほとんどなくなるからである。このため、私たちは右マージンを揃えない方法を推奨している。左マージンからのインデントも有効であろう。

行分割

これは意見の分かれる問題である。「狭苦しい地下室の階段を下りる(down the cramped cellar steps)」という節や「会議室(conference room)」のような複合語は、最後まで記してから改行するべきだろうか?

あるいはこんな風に記すべきであろうか?
They went down the cramped
cellar steps.
(彼らは狭苦しい地下室の階段を下りて行った。)

A ll the people went into the conference
room.
(全員が会議室へ入って行った。)

確かではないが、これまでの経験からすると、知的障害者には最初の表現が最も適している。これは、新しい言語を学び始めた少数民族にとっても最適であるといえる。2番目の表現は、ディスレクシアの人にとって最適である。彼らは次の行へと「引き寄せられる」からである。とはいうものの、ターゲットグループが誰であれ、テキストを理解し難くする行分割は決して行ってはならない。

1つの文をあるページから別のページへとつなげる場合、あるいはさらに悪いことには、読者にページをめくらせて文が終わる場合、読むのが難しいすべての人にとって、不必要に複雑な事態となってしまう。これは、テキストを配置する際にきちんと解決しておかなければならない、もっとも重要なことの1つである。

いくつもの節を設けることは、テキストを魅力的にする。しかし、あまりに規則正しく節に分けてはいけない。そうすると、読者に詩や賛美歌の歌詞を連想させる場合があり、またさらに悪いことには、その本が極端に読みやすく見えてしまい、読者が不名誉に感じるからである。

読みやすさ

シンプルなテキストを必要としている人は、他の問題がない限り、シンプルな内容は必要ない。しかし、読むのが遅い読者が挑戦してみたいとは思えないほど厚い本でない方がよい。

読む動機付けは、解読能力と同様に重要である。このため、テーマが非常に面白く、よく書かれている本であることが極めて重要である。読むことが苦手な読者は、興味のない文章に感激することはない。ハリー・ポッターシリーズは、子供たちが「ヒット作」に出会ったとき、何を克服できるかを教えてくれた。

誰もが優れた読者になることはできないが、ほとんどの人は今よりもよい読者になることができる。ディスレクシアの人が、読むことを学ぶ努力を本当に必死に始めるきっかけとなった本について、言語療法士は何よりも驚くべき話を知っている。読者のニーズと興味を満足させる本を見つけられるかどうかが問題なのである。

言葉づかい

シンプルなテキストの図書では、著者は言葉づかいに非常に苦労する。長く、ねじれた文と、難しく、長い言葉や外来語の無用な使用が、著者と読者を隔てる障壁になってはならない。複雑な文法構造も読みにくい。

従属節、特に挿入された従属節を避ける。しかし、このような単純化も行き過ぎてはならない。変化の少ない言葉づかいや、何の柔軟性もない言葉づかいで終わってしまう可能性があるからだ。

短い文は通常好ましいが、誰もがその使用技術をマスターしているわけではない。それは「主語・述語・目的語」、あるいは不完全な文の過剰使用に陥りやすい。読みやすく改変された書物では、多様な、そして生きた言葉づかいが不可欠である。

長い単語

子音(あるいは母音)をつなげた言葉は、多くの読者にとって障害となる。特にスカンジナビアの言語では子音の連続が多数認められるが、これは英語ほどハイフンを使用せず、単語をまとめてしまうからだともいえる。英語の”recurrent figure(主人公)”は、ノルウェー語では"gjennomgangsfigur"という。しかし英語にも、humpbacked(猫背の)、conscious(意識)、 stewardship(管理)など、子音(および母音)がつながった「変わり者」が見つけられるだろう。

長すぎる単語も難しいだろう。単語は7文字以上にならないようにすべきだという者もいる。しかしディスレクシアの人の場合は、決して長い単語が最悪というわけではない。短い単語や、d、b、pという文字の方がはるかに難しいことが非常に多い。

長い単語にはハイフンが使用できる。ただしノルウェー語では、それはあまりよくない。これは読みやすく改変された図書である、と皆に知らせることになるからである。英語ではハイフンははるかに許容されている。ハイフンの使用に関する報告はさまざまで、それがよいという者もいれば、使用しても何ら重要な助けにはならないという者もいる。

読者に長い単語および/または難しい単語に慣れてほしいなら、もう1つ方法がある。文章の少し後の部分で同じ単語を繰り返せば、読者は最初に自分が考えた意味で正しいかどうかわかるであろう。もし正しければ、その単語が頭の中で「概念」となる可能性が高い。単語を説明することによって繰り返してもよいが、読者が馬鹿にされていると感じないように注意する。

短い単語

短い単語は、ディスレクシアの人にとって簡単であると信じがちであるが、それほどではない。先に述べたように、ディスレクシアの人にとっては、ある特定の文字を見分けることが問題なのである。彼らの多くは、短い単語を飛ばすことによってこの問題を解決している。だが、これが新たな問題を引き起こす。目立たない単語は、多くの場合、文章を結び付け、首尾一貫したわかりやすい文章にしてくれる。また目立たない単語は、文章に柔軟性をもたらす単語であることが多い。ディスレクシアの人の場合、練習が重要である。幸運にも、現在学校には、ディスレクシアの人向けの優れた訓練プログラムがある。

ディスレクシアの人々

数字はさまざまであるが、一般に人口の約5%はディスレクシアであると推定される。彼らのおもな問題は解読である。下に、ディスレクシアが原因で起こるすべての問題をリストにした。しかし覚えておいてほしい。まず何よりも、ディスレクシアの人の大部分は、ある程度は読めるようになること、そして「ディスレクシアの人すべて」が「これらの問題をすべて抱えている」わけでは決してないということを!

  •  二重子音の問題
  •  文字を混同し、いくつかの文字を見落とす
  •  数字の順番を混同する
  •  bとd、tとd、kとg、oとuなどの違いを見分けられない、聞き分けられない場合がある
  •  読むときも書くときも、語尾や目立たない単語、短い単語を抜かしてしまう
  •  程度の差はあるが、読みにくい筆跡
  •  長子音と短子音の識別が苦手
  •  いくつかの単語の発音を間違える
  •  不明瞭な発話
  •  朗読を嫌う
  •  通常、読むのが遅い
  •  文章の行をたどるのに苦労し、正しい行を見つけるのが難しい
  •  紙面の文字が動いているように感じたり、文字が不鮮明でお互いにまじりあっているように感じたりする
  •  自分で読むときは文章の理解に苦労するが、他の人が朗読してくれるときはそうではない。
  •  読んでいるとき、疲れやすく、目や頭が痛くなることがある。
  •  アルファベットや曜日の順番がわからない
  •  左右を混同する
  •  文字で書かれた短いメッセージの理解や即答が苦手
  •  名前を覚えるのが苦手

(アーレン 1998年)

恐ろしいリスト!これは入門として掲載した。作者はこれらすべてを考慮する必要はないが、このリストはディスレクシアの人が苦労する「可能性がある」困難を示している。bとdとpの混同については、心に留めておくべきであろう。また、すべての語尾や、すべての目立たない単語が本当に必要かどうかをはっきりさせる必要もある。このような細かさが、読者によっては、さらなる困難の原因になるからだ。しかし前述のように、これは一種のバランスの問題である。あまりに多くを排除しすぎると、テキストの一貫性がなくなり、文学性も低下してしまう可能性がある。これは、読みやすく改変された書物の作者の多くが持つ弱点である。

読むことが不慣れな読者

読むことが不慣れな読者は、必ずしも特別な困難を抱えているわけではないが、読みの速度を上げられるほど十分な読書経験がこれまでなく、読むことが非常に骨の折れる、退屈な行為となってしまったのである。読むことに関連する3つの要素のうち、読む意欲という要素がもっとも重要である。私たちは興味を持てる分野を見つける必要がある。また、形態やジャンルも考慮しなければならない。コミックストリップ、短い物語、歴史小説、短編小説および成人向けの絵本などは、一般の小説ほど克服できないようには見えない。

AD/HDの人は、非常に多くの場合、読むことに不慣れな読者である。AD/HDには、実際には以下の3つの診断名が含まれる。

  • AD(D):注意欠陥(障害)-深刻な注意困難
  • HD:多動性障害-深刻な多動および衝動的な行動の問題
  • ADHD:注意、衝動的な行動および多動の重大かつ継続的な問題

出典:ADHD協会(The ADHD-society)

彼らの注意力の持続時間は非常に短いので、ジャンルの選択と動機付けが大変重要となる。AD/HDをディスレクシアと結び付ける傾向があるが、これは一つには刑務所で行われた研究に基づいている。しかし、さらに最近の研究から、AD/HDとディスレクシアよりも、AD/HDと理解力の乏しさの方が、密接に関連していることがわかった。これは、受刑者の場合、解読能力ではなく言語理解力が乏しいためであろう。

言語的少数派 

トリル・ストーヴェストレ(Toril Storvestre)は、少数民族を指導するノルウェーの教師である。「すべての人のための図書」財団のために作成した報告書(ストーヴェストレ、2006年)の中で、彼女は特にこう記している。

「『少数民族』は非常に多様な集団である!これは、彼らのニーズを定義し、この集団のための書物を検討する際に覚えておくべきもっとも重要な要素である。その国の言語を学ぼうとしているすべての人の「要求を満たしている」か否かが問題となる。それが第一言語である者もいれば、学び始める前に数ヶ国語を習得している者もいる。ほとんどアルファベットを書けない者もいれば、大学を卒業し、学習のテクニックと多くの学習経験を持ち、2、3カ月で新しい言語を学べる者もいる。」

言語、そして学歴の違いに加えて、この学生グループの文化的経験も多様である。これは内容とコンテクストの選択を難しくする。さまざまなテーマのテキストによって、道徳的・説教的にならないようにしながら、有用な情報を提供しなければならないからだ。新しい国の文化と「環境」について読むのは興味深いとはいえ、文学のテキストは、比較的普遍的に妥当なコンテクストでなければならない。「読みやすいとはどういうことか?」とストーヴェストレは問いかけ、オスロ大学のピア・ヴィステンダール(Pia Hvistendal)による調査結果の一部を発表している。

読みやすい:

  •  理解できるコンテクスト
  •  ジャンルの明確な表示
  •  物語性のあるテキスト
  •  直接話法の多用
  •  具体的な言葉
  •  繰り返し

読みにくい:

  •  明確でないコンテクスト
  •  暗黙の了解が必要な知識
  •  論理的で理屈っぽいテキスト
  •  抽象的な言葉
  •  比喩
  •  隠喩の多用
  •  反語

ストーヴェストレはまた、少数民族向けの本の作者が、語学研修コースのカリキュラムと進度に関する確かな知識を持っていると都合がよいと記している。そしてもっとも重要なのは、語彙を知っていることである。知らない単語が詰め込まれていれば、どんなテキストでも読みやすくはなくなる。また、テキストに関係のある適切なイラストを入れることも重要である。このような本は幼稚であってはならない。それは人を見下しているようで、人を傷つける可能性がある。読みやすい図書の多くは、まさにそのような子供向けの図書なのである。

本は、学生にとっての言語モデルとなる。このため、シンプルな文構造と文法的な正確さを備えていなければならない。不完全な文の使用は制限されるべきである。また、連続する複数の文を、人称代名詞などの同じ品詞からはじめるのは、よい言葉づかいとはみなされない。

少数民族の間での言語と読みのスキルの大きな違いを考慮し、電子図書、あるいはさまざまなレベルの人が読むことができる図書など、多様化の可能性を探るべきである。

自閉症の人々

自閉症の人のための、適切な改変形態を見つけることは難しいであろう。自閉症の人は、重度の知的障害者から知能の高い人までさまざまだからである。その多くは際立った特徴を持っている。心理学的に不安にさせる内容でない限り、一般の図書を読むことができる人もいれば、シンプルなテキストの図書が必要な人もおり、またシンプルなテキストとシンプルな内容の図書を必要としている人もいる。自閉症の読者の中には、体の一部だけを示した図で動揺してしまう人もいる。体の残りの部分がなくなってしまったと考えることがあるからだ。

ノルウェーのオムニパックス(Omnipax)は、自閉症児とその親向けに製作された3冊の小さな本を出版した。残念ながらこれらの本は翻訳されていないが、下記の作品は特に、翻訳されれば興味深いであろう。

ミー・モーリンおよびマグネ・メドゥス(Mie Mohlin and Magne Medhus)『高機能自閉症とアスペルガ-症候群-成人のための入門書(High-functioning autism and Aspberger syndrome - an introduction for grown-ups)』 オスロ オムニパックス(Omnipax)2005年
ISBN 82 530 2847 4