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地域での取り組み1)―アメリカの公共図書館はどのように地域の団体と協力してホームレスの方々に情報を提供するのか?

ナンシー・ボルト(Nancy Bolt)

ナンシー・ボルト・アンド・アソシエイツ
nancybolt@earthlink.net

Copyright©2015 by Nancy Bolt.
本作品は、クリエイティブコモンズAttribution 3.0Unportedライセンス(http://creativecommons.org/licenses/by/3.0/)
の条件の下で提供される。

要約

本稿では以下について論じる。アメリカ合衆国のホームレスの状況。なぜホームレスになるのか。ホームレスの経験とはどのようなものか。ホームレスへのサービス提供における図書館の役割。本稿の末尾に、アメリカ合衆国のホームレスへの公共図書館サービスに関する最近の記事一覧を掲載した。

キーワード:ホームレス、図書館とホームレス、アメリカ合衆国とホームレス


バージニア州リッチモンドのヘッセ・ハウス前館長、ライアン・ダウド(Ryan Dowd)は、ホームレスとはどのようなものかを次のように説明している(Dowd, 2013)。

  • 退屈である。
  • プライバシーがない。
  • トイレがない。
  • 清潔を保つのが困難である―体や服。
  • 安全を保つのが困難である。
  • 食べ物を見つけるのが困難である。
  • 自分で居場所を決められない。
  • 自分だけの物理的空間がない。
  • 1人になれる時間がない。
  • 限られた所持品しか持てず、それらは自分にとってとてつもなく重要である。
  • 所持品を守らなければならない。
  • 眠るのが困難―ほかの人たちがうるさい。
  • 眠るのが困難―誰かが所持品を盗むかもしれない。
  • 疲れる。

ダウドはさらに続けて、ホームレスであることは危険だと語っている。ホームレスの女性はホームレスではない女性よりもレイプされることが多い。また、彼女たちはしばしば売春婦と見なされるため、他者に対して不信感を抱くようになる。ホームレスの経験は、自尊心に悪影響を及ぼす。他者の見下すような態度に、アイコンタクトが取れなくなってしまうのだ。現在ホームレスとして暮らしている人は、多くの場合、ホームレスの原因となった個人的な挫折と、地域や政府の機関による支援の失敗の両方を経験しているため、信頼感が低い。

アメリカ合衆国におけるホームレスの状況

アメリカ合衆国におけるホームレスの状況については、矛盾したデータがある。全般的にホームレスは減少しているように見えるが、一部の州(32)で減っていても他の州(17)では増えつつあり、大都市圏ではさらに増加しているのだ(National Alliance to End Homelessness, 2015)。

どのような人がホームレスかについてはさまざまなデータが存在するが、報告されている割合としては、以下のデータが一般的である(National Student Campaign against Hunger and Homelessness, 2013)。

  • アメリカ合衆国では、毎年350万人以上がホームレスを経験する。
  • ホームレスの63%は単身者である。
  • 37%はホームレス世帯で、これは現在ホームレスとして暮らしている人の中で急増している。
    • これらの世帯の88%は女性が世帯主である。
  • 23%はアメリカ軍の退役軍人である。
  • 8%は孤児である。
  • 30%は家庭内暴力の経験がある。
  • 20~25%は精神疾患に罹患している。

ホームレスの原因

ホームレスの引き金となるおもな要因として、以下の3つがあげられる(National Student Campaign against Hunger and Homelessness, 2013)。

経済的要因
アメリカ合衆国では、手頃な価格の住宅が極度に不足している。スチューデンツ・アゲンスト・ハンガー(Students against Hunger)によれば、「アメリカ合衆国における賃金所得と住宅費の格差が拡大しているため、数百万の家族と単身者が生計を立てられなくなってしまった。」 食費と住宅費の両方をまかなうことが困難な低い賃金が、これに輪をかけている。国民皆保険制度がないために、急病人、慢性疾患のある人、あるいは事故に遭った人は、経済的打撃を受ける。

政治的要因
アメリカ合衆国の経済の悪化に伴い、地域、州および連邦政府の支援プログラムは大幅に削減された。住宅、雇用、医療、メンタルヘルスなどのサービスはカットされ、地域事務所は閉鎖された。経済が悪化するにつれて、ホームレスになる人の数は増加し、公的支援へのアクセスは減少したのである。また、アメリカ合衆国の政治が保守化したことにより、人々は、貧困と自分が置かれている状況は自分自身の責任であり、それゆえ、政府はサービスを再開する気がないのだと考えるようになった。貧困家庭一時扶助(TANF)などの支援を目的としたプログラムは、法的な認可、就労を前提条件とすること、期限、移民に対するさまざまな制限などの要件を課しており、給付金の受給資格を得ることが難しくなっている。支援なしでは、生き延びるために、食料、交通機関、医療そして住宅の中からいずれかを選ばなければならない。多くの場合、住宅が選ばれることはない。

社会的・医学的要因
経済的要因はホームレスのおもな原因であるが、精神疾患、薬物中毒、アルコール中毒などの長期的な問題が、貧困状況を悪化させ、ホームレスのリスクを高める可能性がある。現在ホームレスとして暮らしている人に関する調査によれば、ホームレス人口の約25%が、何らかの精神疾患に罹患しており、高額な健康保険料のせいで、精神疾患を治療する適切な医療を利用できずにいる。また、薬物およびアルコール中毒はホームレス人口の約20%に影響を与えており、彼らもやはり、これらの疾患を治療する適切で手頃な価格の医療が利用できないことが多い。

なぜ図書館なのか?

おそらく、アメリカ合衆国に無料の公共図書館があったがために、図書館は多くのホームレスの居場所とされてきたのだろう。その理由を理解するのは難しいことではない。ダウド氏があげたホームレスに関する説明(Dowd, 2015)を振り返ってみよう。

  • 退屈である。 図書館は退屈を紛らわしてくれる。
  • プライバシーがない。 図書館にいる人は、通常は静かで、1人にしておいてくれる。
  • トイレがない。 無料のトイレがある。
  • 清潔を保つのが困難である―体や服。 体と服を洗うことができる―捕まらない限り
  • 安全を保つのが困難である。 図書館は安全である。
  • 食べ物を見つけるのが困難である。 確かに、図書館には通常、食べ物はないし、少なくとも無料ではないが、それも変わりつつある(後述)。
  • 自分で居場所を決められない。 自分1人で場所を独占できるわけではないが、ある程度は居場所を決められる。
  • 1人になれる時間がない。 1人で座って、眠ろうとすることができる。
  • 限られた所持品しか持てず、それらは自分にとってとてつもなく重要である。
  • 所持品を守らなければならない。 所持品は、通常、安全である。
  • 眠るのが困難―ほかの人たちがうるさい。 図書館は静かである。
  • 眠るのが困難―誰かが所持品を盗むかもしれない。 図書館は安全である。
  • 疲れる。 図書館では、通常、くつろげる。

図書館は給料や仕事を提供することはできないが、仕事や支援を探す手助けをしたり、教育や娯楽目的のプログラムを提供したりすることはできる。地域や州の機関は、地域事務所の閉鎖に伴い、プログラムの内容をオンラインで公開し、支援を受けたりオンラインでの給付金申請方法を学んだりするために公共図書館に行くよう、人々に伝えた。全国各地の図書館が、地域社会で支援を必要としている、現在ホームレスとして生活している人を含むすべての人のために、この役割を引き受けたのである。

ホームレスに対するサービスに関するアメリカ図書館協会の方針

アメリカ図書館協会(ALA)は、1990年に「貧困者に対する図書館サービス」に関する決議を初めて採択した。その最新版には、次のように記されている(ALA, 1990):

アメリカ図書館協会は、すべての人の情報への平等なアクセスを促進し、アメリカにおける貧困児童、成人および家族の増加に緊急に対応する必要性を認める。読み書きができないこと、疾病、社会的孤立、ホームレス、飢餓および差別など、従来の図書館サービスの効果を損なう制約が組み合わさることにより、これらの人々に影響が及んでいる。それゆえ、貧困者が利用可能な幅広いリソースと方略を活用し、民主主義社会に完全に参加できるようにするために、図書館が自らの役割を認識することが極めて重要である。図書館スタッフが貧困者のニーズを明らかにし、関連サービスを提供できるように、これらに敏感に反応し準備するための具体的な研修および開発プログラムが必要である。また、アメリカ図書館協会内で、さまざまな部署、事務所およびユニットにおける貧困者に対応するプログラムと活動を調整する仕組みを強化し、低所得者のためのリエゾン活動の支援を増進しなければならない。

この方針に続けて、以下の「方針の目的」が記されている。

  • 図書館および情報サービスに対するすべての障壁、特に使用料と延滞料の撤廃を促進すること
  • 図書館スタッフが、貧困者とホームレスに影響を与える問題や、貧困者の図書館利用を妨げる態度およびその他の障壁に敏感に反応できるように、研修を促進すること
  • 貧困者に効果的に手を差し伸べるプログラムやサービスを開発するために、図書館およびその他の機関、団体、アドボカシーグループのネットワーク構築と協力を促進すること

これらに加えて、他の「方針の目的」では、貧困者(およびホームレス)に敬意を持って接すること、州および連邦政府による貧困者とホームレス向けのプログラムを求めるロビー活動を行うこと、そして、ホームレスを支援するスタッフとプログラムのために地域で資金調達を増やすことを、強く促している(ALA, 1990)。

ALAは過去5年間に、貧困者やホームレスに対する図書館サービスを特に扱った文献を2件発表している。2011年にALAは『貧困者とホームレスに対するサービスのためのアウトリーチ・リソース(Outreach Resources for Services for Poor and Homeless People)』(ALA, 2011)を発表した。この文書に記載されているデータは今では古くなってしまったが、アメリカ合衆国のホームレス人口に関して最新のデータを提供してくれる国家機関や団体へのリンクが張られている。また、貧困者とホームレスに対するサービスを阻む障壁のリストも掲載されている:

  • 定住所を必要とする図書館カードや利用指針
  • 法外な延滞料、使用料、その他の罰金、もしくはサービスには料金がかかるという認識
  • 貧困者やホームレスに対するサービスに関する研修を受けていないスタッフ、あるいは、貧困者やホームレスに対する偏見から不快感を持っているスタッフ
  • 現在貧困生活あるいはホームレスとしての生活を送っている人にサービスを提供しているコミュニティセンターや地域団体での宣伝不足[実際は、図書館側のネットワーク不足]
  • 交通手段や開館時間が限られているために、建物へのアクセスが制限されていること[さらに、寝ている人を起こすことも追加したい]
  • 貧困者やホームレスの問題や現状に取り組むプログラムやリソースがないこと

2つ目の文献は、『支援の拡大:図書館の関与によるホームレスの削減(Extending Our Reach: Reducing Homelessness through Library Engagement)』(Winkelstein, 2012)である。この文献では、用語の定義、アメリカ合衆国のホームレス人口についての解説、また、図書館がホームレスへのサービス提供をどのように始められるかが示されている。これには、プログラムの策定、レファレンス、若者向けのサービス、地域機関との連携、資料とインターネットの利用など、ホームレスに不可欠なサービスと、個人的な行動〔指針〕が含まれる。

アメリカ合衆国のホームレスに対する図書館サービスの例

デンバー公共図書館、ダラス公共図書館およびソルトレークシティ公共図書館の代表らが、2015年6月にサンフランシスコで開かれたアメリカ図書館協会年次大会において、このテーマについて語った。以下の情報は、著者がこのプログラムに参加したときに取ったメモと、発言者らが快く共有してくれたパワーポイント資料を元にしている。本稿末尾の参考資料のリストは、現在ホームレスとして暮らしている人にサービスを提供している、アメリカ合衆国の他のプログラムに関する情報を提供するものである。

はじめに、用語について一言記しておく。ますます多くの図書館や機関が、ホームレスが皆永久にホームレスであるわけではなく、また、長期にわたりホームレスであるわけでもないことについて認識を高めるために、「現在ホームレスとして暮らしている人」という言葉を使用している。多くの人は、短期間だけホームレスの生活をし、その後は元の生活に戻ることができる。全米ホームレス連合のデヴィッド・パートル(David Pirtle)は、これについて次のように説明している。「ホームレスとは、性格的な欠点ではない。それは1つの状況なのだ」(Pirtle, 2014)。

デンバー公共図書館
ミシェル・ジェスク(Michelle Jeske)館長と、公認ソーシャルワーカーでコミュニティ・リソース・スペシャリストのエリッサ・ハーディ(Elissa Hardy)が、デンバー公共図書館を代表して発表した(Jeske, M. and Hardy, 2015)。 デンバーは、およそ230万人を抱える都市圏にある人口約64万人の都市である。2015年に実施された調査によれば、デンバー都市圏の7つの郡で、現在ホームレスとして生活しているのは6,130人であった。このうち37%が女性で、「ホームレス世帯」の49%が子どものいる家族であった。さらに、調査対象者の25%が新たにホームレスになった人で、これは彼らがホームレスになって1年未満であること、また、彼らにとってこれがはじめてのホームレス経験であることを意味している。ホームレスの多くがデンバー公共図書館を利用していたことから、この問題に協力して取り組むことが、図書館と地域社会に利益をもたらすことになった。

デンバー公共図書館は過去数年間にわたり、現在ホームレスとして生活している人に対するスタッフによる支援と働きかけへの投資を独自に増やしてきた。2012年には、現在ホームレスの図書館利用者に対するよりよいサービスの提供に関心を持つスタッフから成る少人数のグループが、図書館職員を対象としたホームレスに関するフォーラムを企画し、その結果、同図書館にホームレス・サービス行動委員会が設立され、同じくホームレスにサービスを提供している他の地域機関に手を差し伸べるようになった。行動委員会は、現在ホームレスとして暮らしている人に対する図書館サービスを阻む障壁と、他の都市部の図書館がこのサービス分野においてどのような活動をしているかを調査した。

このプログラムの包括的な目標は、以下のとおりである。

  • 現在ホームレスとして暮らしている人とのつながりを持つ
  • 彼らに必要なサービスを紹介する。
  • 図書館内で専門家による介入が必要な出来事を減らす。
  • スタッフの研修を行う。
  • サービスの提供を阻む障壁を撤廃する。
  • できるだけ多くの地域機関と協力する。
  • 図書館をすべての人にとって安全で生産性の高い場所にする。

この結果、デンバー公共図書館に勤務し、プログラムやサービスの開発を行うソーシャルワーカーの雇用が提案された。そして、2015会計年度に資金提供を受け、エリッサ・ハーディが雇用された。ソーシャルワーカーの雇用は、デンバー公共図書館が、デンバーに住むすべての人に、その個人的あるいは経済的状況にかかわらず、図書館サービスへの平等なアクセスを約束したことを強調するものである。スタッフはソーシャルワーカーについて、次のように感じていた。

中央図書館および分館を居場所としているリスクのある図書館利用者のコミュニティと効果的に通じ、彼らに必要と思われるソーシャルサービスへとつなげ、彼らが図書館サービスを受ける際に直面する障壁を撤廃するとともに、図書館スタッフと緊急対応要員が対処しなければならない安全にかかわる緊急事態の件数を効果的に削減し、図書館をすべての人にとってより安全かつ快適な場所にする。

ジェスク館長は、さらにこう述べている。

常勤のソーシャルワーカーを雇用する目的の1つは、911[警察への緊急通報]を減らすことでした。図書館が911に通報しなければならない事態は、今後も変わらず起こるでしょう。しかし、ソーシャルワーカーがメンタルヘルスの問題を持つ人に介入し、つながりを持ち、その人が楽しい1日を過ごすことができれば、不要な通報を防げるかもしれません。

また、ハーディには、現在ホームレスとして生活しているが、生活を改善し、仕事や住宅を見つけ、給付金を申請し、社会に生産的に参加したいと考えている人を支援する役割もある。デンバー公共図書館のスタッフは、ソーシャルサービスを提供する研修を受けていないにもかかわらず、自分たちがそれをしなければならない立場に置かれていると、しばしば感じている。ハーディの役割の1つは、スタッフに対して、どのような給付金やサービスが利用できるかを教育し、困難な状況を収められるように研修を行うことである。このプログラムは現在2年間のみ資金提供を受けているが、デンバー公共図書館は、ニーズがある限り、これが継続されることを望んでいる。

ハーディの成功の鍵は、現在ホームレスとして生活している人に同じくサービスを提供しているか、あるいは、このような人が大勢いる、他の地域機関との連携である。これには、ホームレスに対するサービスの提供者、メンタルヘルスセンター、デンバー福祉局、復員軍人援護局および市役所が含まれる。デンバー公共図書館は、国の脆弱性指標―サービス優先順位決定支援ツール(VI-SPDAT)も利用している。これは国が開発した、現在ホームレスとして生活している人を評価するために使用されるアセスメントツールで、一般的なカテゴリーではなくそれぞれの人に対して、最善の支援方法を決定するものである(100,000 homes, 2014)。

ハーディは、ホームレス問題の解決と防止に向けた地域社会によるさらなる取り組みにつながる共感と思いやりを深めることを目標に、現在ホームレスとして暮らしている人によりよいサービスを提供するためにどのように協力できるかを話し合うため、これらの機関から成るグループに参加している。

ダラス公共図書館

ダラス公共図書館のジョー・ジュディーチェ(Jo Giudice)館長は、「彼らも図書館利用者だ! ダラス公共図書館のホームレス参加イニシアティブ(They're Our Customers,Too! Dallas Public Library's Homeless Engagement Initiative)」について語った(Giudice, 2015)。

ダラス公共図書館は、現在ホームレスとして暮らしている人と交流し、彼らを個人的に知ることが重要だと信じている。同図書館は、現在ホームレスとして暮らしている人を含むすべての利用者を出迎えるグリーターを入口に配備しており、利用者にどのような支援をしたらよいかをたずねている。初期の頃の図書館側の思い込みの1つに、現在ホームレスとして暮らしている人は、教育と高卒資格を必要としているというものがあった。だが、驚いたことに、ホームレス人口の80%は高校またはカレッジの卒業資格を持っていた。彼らのニーズに対応するために、2013年にダラス公共図書館は、「ホームレス参加イニシアティブ(HEI)」を立ち上げた。

HEIの最初の活動は、「コーヒーと会話(Coffee and Conversation)」と呼ばれるプログラムで、ダラスのホームレスたちが「私たちを分裂させるのではなく、結びつける」話題について語れる場所を提供することを目的としていた。「コーヒーと会話」は、ホームレスを分裂させるのではなく、結びつける話題をめぐる、開かれた対話のためのスペースを提供することを意図しているのだ。その焦点となるのが、ダラスのホームレスたちの参加を得ることである。彼らは現在ホームレスとして暮らしている人の特別なニーズに加えて、文学、識字、芸術と文化、工芸、スポーツ、運動と健康など、数多くのさまざまな話題について話し合う。スタッフは、2ヶ月かけて利用者のことを深く知り、彼らをプログラムの初回セッションに個人的に招待した。このプログラムは図書館の各階に置かれたチラシを通じて宣伝され、スタッフが初回セッションに利用者をじきじきに招待したのである。プログラムの費用は、軽食代として1ヶ月約50ドルである(ALA Programming Librarian, 2015)。

「コーヒーと会話」は、現在ホームレスの人に同じくサービスを提供している他の団体や機関とのすばらしい連携の場である。一部のプログラムでは、復員軍人病院、ダラス市住宅局、HIV検査機関、ガールスカウトなどの団体によるプレゼンテーションも行われた。これらのプレゼンテーションは短いもので、代表者らは参加者と1対1でかかわるよう促される。

「ホームレス参加イニシアティブ」や「コーヒーと会話」が意図する結果の1つとして、現在ホームレスとして暮らしている人に図書館についてもっとよく知ってもらい、自分自身の行動を規制し、図書館で起きていることやそこでほかの人が何をしているかに注意を払えるようになってもらうことがあげられる。これらを通じて、デンバー公共図書館の例と同様に、ホームレスの行動に影響を与え、警察の介入を得るために通報しなければならない回数を減らすことができる。

「ホームレス参加イニシアティブ」のその他のプログラムには、「ストリート・ビュー・ポッドキャスト(Street View Podcast)」と「芸術と創造性(Art and Creativity)」がある。「ストリート・ビュー・ポッドキャスト」は、番組のメイン司会としてラシャド・ディッカーソン(Rashad Dickerson)を迎え、中央図書館で収録される。彼はホームレスにサービスを提供している人と、現在ホームレスとして暮らしている人の両方にインタビューをする。ラシャド・ディッカーソン自身ホームレスで、「番組とホームレスコミュニティにユニークな考えを提供している。」

「芸術と創造性」は、現在ホームレスとして暮らしている人が図書館で忙しく過ごせるように支援するプログラムである。彼らは映画を見たり、本について話し合ったり、工芸品を作ったりする機会を得る。また、図書館がカメラを提供し、それで撮影した都市環境の写真の展示会を開催した。

「ホームレス参加・リーダーシップ・プログラム(Homeless Engagement and Leadership Program:HELP)」では、アメリコー(AmeriCorps)(国内向け平和部隊の一種)のボランティアを利用し、ソーシャルサービスプログラムを必要とする人を支援している。「HELPデスク」は、1ヶ月間で約140人と面談し、これらの利用者に多数のサービスプログラムを紹介している。

ジュディーチェは、次のように述べて締めくくった。

私たちの最終的な目標は…住宅状況にかかわらず、人々(スタッフと利用者)に共通している点に焦点を絞ることです。私たちは、お互いに開かれた対話を続け、共通点を思い出す機会を提供することに努めています。そうすれば、お互いに対する敬意が、図書館でのかかわり方に波及していきますから。私たちはこれを、自分がホームレスであることを利用者に常に思い出させるために利用することはしません。ですが、サービスの提供に集中しすぎれば、そうなってしまうでしょう。

ソルトレークシティ公共図書館(SLCPL)
ソルトレークシティ公共図書館長のジョン・スペアズ(John Spears)は、「彼らも図書館利用者だ:ホームレスに図書館とかかわりを持ってもらうには(They're Our Customers,Too: Engaging the Homeless at Your Library)」について語った(Spears, 2015)。

スペアズは、プレゼンテーションの冒頭で、ソルトレークシティ公共図書館が、現在ホームレスとして生活している人に図書館に来るのをあきらめさせるかわりに、図書館を24時間開館し、彼らに対するサービスを提供しようと提案したときに、ソルトレークシティの住民から受けた反発を明らかにした。たとえば、彼が受け取った手紙にはこう書かれていた。

私が心配しているのは、納税者のお金のことと、そこで寝ているホームレスのことです。彼らを拒否できないというのはわかりますが、特定のエリアを閉鎖して、そこには彼らが行かれないようにしたら…

ダウンタウンの図書館は、館内の至る所に大勢のホームレスがいるので、子どもを連れて行くのをやめました。今回の提案は、この問題を大きくするだけで、子どもだけでなく私の足も遠のくでしょう。なんてひどいアイディアでしょう。

スペアズは、ソルトレークシティ公共図書館がこのプログラムの開発に当たって掲げた7つの原則を明らかにした。

  • ホームレスは、1つの状況であって、性格的なものではない。
  • ホームレスは図書館の構成員である。
  • 図書館は、ホームレスを支援できる地域のサービスをすべて知っていなければならない。
  • 図書館スタッフは、ホームレスへのサービス提供に関する教育と研修を受けなければならない。
  • ホームレスに対する地域の対応において、指導的役割を引き受ける。
  • サービス提供者を図書館に受け入れる。
  • 図書館に来るすべての人に対して、同水準のサービスを提供する。

これらの原則を実施するに当たり、ソルトレークシティ公共図書館は最前線に立っている、とスペアズは述べた。現在ホームレスとして生活している人にとって、図書館は重要なコンタクト先であり、同時に、重要なサービス窓口となりうる。ソルトレークシティ公共図書館が指導的な役割を果たす中で、スタッフは他の地域機関と協力し、地域によるホームレスへのサービス提供のアプローチに関する目標を設定した。

  • 住宅を建設する。
  • ホームレスが家に住めるようにすることを最優先する。
  • ホームレスを支援するデイサービスを創設する(図書館の重要な役割)。
  • これらのサービスを、ホームレスがいる所で提供する(図書館のもう1つの重要な役割)
  • すべての人にとって安全な環境を重視する。
  • 現在ホームレスとして生活している人へのサービス提供において、全国の先駆けとなる。

ソルトレークシティ公共図書館には、ホームレスを支援する3人のソーシャルワーカーがおり、4人目の雇用も予定されている。彼らは、ボランティアズ・オブ・アメリカ(Volunteers of America)(別の国内向け平和部隊事業)の受け入れ先としての役割を果たしている。大きな成功を収めているプログラムの1つが、「プロジェクト・アップリフト(Project Uplift)」と呼ばれる、可能な限り多くの地域機関とサービスの代表が参加するコミュニティ・フェアで、食事の提供、物資の支給、散髪、写真撮影、1対1のカウンセリングなどが行われる。

スペアズは、ソルトレークシティ公共図書館が3,527時間のケア・コーディネーションと、197時間のスタッフ協議/研修を実施し、921人にサービスを提供したと述べて締めくくった。

結論

本稿では、ホームレスの定義、アメリカ合衆国におけるホームレスの状況、ホームレスの原因、ホームレスに対するサービスに関するアメリカ図書館協会の方針と、なぜ図書館がホームレスに人気なのかを示した。最後に、ホームレスにサービスを提供している都市部の主要な図書館の例を3件紹介した。

『支援の拡大:図書館の関与によるホームレスの削減』から引用した2人の言葉は、ホームレスが図書館についてどのように考えているかを明らかにするものである。

図書館がホームレスのためにできる最善のことは、ホームレスをほかのすべての図書館利用者と同じ立場の者として扱うことです…図書館は、私のホームレス生活の中で、これまでずっと最も大切な場所でした。(ホームレスの男性)

くつろいで、ただ本を開き、その言葉に身をゆだねられる安全な場所があるのは、いつだってすばらしいことです。それを嫌がらせや攻撃などを受けることなく安全にできる場所があるということは極めて理想的で、読者とほぼすべての関係者に、大いに利益をもたらします。(ホームレスの若者)

参考文献

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バージニア州リッチモンドのヘッセ・ハウス館長が、ホームレスが直面する問題と図書館の役割について説明した25分間の動画

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アメリカ合衆国におけるホームレスに対する図書館サービス
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バージニア州リッチモンドのヘッセ・ハウス館長が、ホームレスが直面する問題と図書館の役割について説明した25分間の動画

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掲載者注

1)原文:It Takes a village - How Public Libraries Collaborate with Community Agencies to Service People Who Are Homeless in the United Stations

原文はこちら(英語)