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枚方市立図書館(大阪)における視覚障害者と読むことに障害のある人々へのサービス

2009年8月18日
IFLA 印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館サービス分科会(LPD)主催
P3(People:人々 Publishers:出版社 Public Libraries:公共図書館)会議

服部敦司
枚方市立中央図書館

写真
発表する服部敦司氏(左)

1.枚方市立図書館の障害者サービス

枚方市は、大阪と京都の間に位置する町です。この町には約40万人の人が住んでいます。 枚方市立図書館はこの町の公共図書館です。中央図書館の他に七つの分館、10の分室、2台の自動車文庫が27のブックステーションを巡回しています。読書障害者に対するサービスは中央図書館の障害者高齢者サービス担当を中心に行っています。このセクションの5人のスタッフのうち、一人は聴覚障害者で一人は私(視覚障害者)です。当館の読書障害者へのサービスは1973年から始まりました。現在では録音図書の提供や聴覚障害者への映像資料の提供などを中心にサービスを行っています。

このプレゼンテーションでは、地域の公共図書館がどのようにして活発な読書障害者へのサービスを実施しているかについてご紹介します。また、併せて、充実した中身のあるサービスを実現するためには障害当事者の存在が重要であることもご紹介します。

当館では視覚障害を含めた読書障害のある利用者に対して以下のようなサービスを行っています。

1.点字図書・録音図書の提供

当館には2068冊の録音図書(カセットテープとDAISY)と3957冊の点字図書があります。これを約100人の視覚障害者を中心とした利用者に提供しています。おそらく皆さんの図書館でもそうであるように、今、点字図書はあまり利用されることはありません。大部分の利用者が録音図書を好みます。読書意欲の高い利用者には当館の録音図書だけでは不十分です。そこで、国内の公共図書館と点字図書館との協力の下、活発な相互貸借が行われています。 録音図書と点字図書を検索するための二つのインターネット上の主要なツールがあります。一つは「ないーぶネット*1」でもう一つは「NDL-OPAC点字図書・録音図書全国総合目録*2」です。これらのデータベースで全国の録音図書と点字図書を検索することができます。また、当館は近畿視覚障害者情報サービス研究協議会に加盟しています。この組織でも加盟館から録音図書と点字図書の目録情報を集め、更新された情報を加盟館に提供しています。これらのネットワークをフルに活用して、当館では資料提供を行っています。
もし、利用者の希望する図書が他の図書館にも無ければ、当館が製作します*3。当館には数人の音訳者と点訳者が登録しています。障害者用資料は彼らの協力を得て製作します。また、当館では障害者用の録音資料を扱っている専門の出版社からも録音図書を購入しています。これらの資料は当館で製作した録音図書とともに、病床にある人や高齢者など、より多くの人に利用されています。

2.大活字図書の貸出

日本には大活字図書を出版する出版社がいくつかあります。当館ではこれらの出版社から大活字図書を購入しています。現在約2000冊の大活字図書があります。これらの本は弱視者や高齢者に貸出しています。

3.対面朗読サービス

これは音訳者が読書障害のある利用者に対して1対1で行うサービスです。音訳者が利用者の読みたい本を図書館内で読みます。1回の時間は2時間で事前の予約が必要です。利用者は中央図書館を含めた10のサービスポイントでこのサービスを受けることができます。利用者数は18人でその大部分が視覚障害者です。毎年の実施回数は約600回です。彼らは自力で、あるいは、ガイドヘルパー制度を利用して、自宅からもっとも近い図書館に来館し、そこでこのサービスを受けています。

4.ビデオ、DVD等、映像資料の提供

市販されているビデオやDVDといった映像資料の中には聴覚障害者のための字幕、視覚障害者のための音声解説が付いたものがあります。ジャンルとしては海外や国内のエンタテーメント映画、アニメーションなどです。数は多くありませんが、最近少しずつ増えています。当館ではこうした資料を積極的に購入しています。 今年の1月には字幕と音声解説の付いた映画の上映会も行いました。聴覚障害のある人と視覚障害のある人が同じ会場で同じ作品を楽しむことができました。 また、少しずつではありますが、字幕や手話の付いた映像資料の製作にも取り組み始めています。

5.聴覚障害者のためのサービス

当館では字幕付きの映像資料の貸出以外にもいくつかの聴覚障害者のためのサービスを行っています。
一つは子どもを対象とした手話付きのお話会です。これは毎月第4土曜日に行っています。聴覚障害のある職員と聞こえる職員が手話をしながら、絵本の読み聞かせや簡単なゲームなどの遊びをします。聞こえない子も聞こえる子も一緒に楽しめるお話会です。
また、大人向けには手話付きのブックトークも行っています。年に3回行い、昔話や歴史の話、その時々の社会問題や政治などの話題を取り上げ、手話で紹介します。そして、それらのテーマが載っている本を紹介します。これも聴覚障害のある職員と手話のできる職員が行います。

地域の図書館は利用者にとってとても身近な存在です。そんな図書館が障害者サービスを行うことで利用者一人一人にきめの細かなサービスができます。また、サービスポイントが多いので、対面朗読のような来館を前提としたサービスも可能になります。

2.図書館で障害当事者が働く意味

私たちのセクションには視覚障害のある職員と聴覚障害のある職員がいます*4。彼と私は当館のサービスについて、障害当事者の立場から自分の考えや意見を発言できる環境にあります。これが当館の読書障害者へのサービスの最大の強みといえます。
当館には他のセクションも併せて、二人の聴覚障害者が働いています。全国にどのくらいの聴覚障害者が公共図書館で働いているかはわかりません。ただ、日本では公共図書館で働く聴覚障害者の数は残念ながら、まだ多くありません。その意味で当館の二人の聴覚障害者と彼らの仕事、そして、彼らを支える職場のサポート体制は注目されています。
それに対して、公共図書館で働く視覚障害者は22人います。そのうちの一人が私です。彼らはそれぞれの図書館でサービスの中心として活躍しています。この20人は組織を作っていて、共通の課題について研究したり、仕事についての情報交換を行っています*5
障害当事者が働いていると、同じ障害のある人が来館しやすくなります。また、障害者が同僚として働いていると、周囲の障害の無い職員の間にその障害への理解が進みますし、接し方も自然に身に付きます。障害当事者は自分の情報環境と仕事について熱心に情報を集める努力をします。その結果、障害当事者のいる図書館のサービスの質は上がることになります。その意味で公共図書館で読書障害者へのサービスを進めようとする時、障害当事者が一緒に働くことがとても重要であることがおわかりいただけると思います。


注釈:

*1 「ないーぶネット」は会員制のネットワークサービスです。このデータベースは「全国視覚障害者情報提供施設協会」によって運営されています。この団体は日本の約90館の点字図書館で構成されています。「ないーぶネット」には読書障害者へのサービスを行っている公共図書館も参加しています。また、このネットワークには多くの視覚障害者が個人会員として参加していて、自分のパソコンを使って、直接利用しています。この「ないーぶネット」で録音図書(カセットテープとDAISY)260098タイトル、点字図書187841タイトルの目録を検索することができます。また、このネットワークサービスからは目録データだけでなく、102912タイトルの点字図書のデータがダウンロードできます。視覚障害のある利用者は自分の読みたい本の点字データがないーぶネットにあれば、すぐにダウンロードして、自分のパソコンのスクリーンリーダーを使って耳から読んだり、点字ディスプレーを利用して、点字で読んだりすることができます。

  • 会員数(点字図書館):86
  • 会員数(公共図書館):47
  • 会員数(個人):5628

*2 「NDL-OPAC点字図書・録音図書全国総合目録」は会員制のサービスではありません。誰もがインターネットを通じて利用できます。このデータベースは国立国会図書館が運営しています。このサービスでも「ないーぶネット」と同様録音図書と点字図書の目録を検索することができます。録音図書(カセットテープとDAISY)の目録数は284160タイトル、点字図書の目録数は129565タイトルです。

*3 日本の著作権法では点字図書館が視覚障害者のために録音図書を製作する場合は著作権者に許諾を得る必要はありません。しかし、公共図書館が録音図書を製作する際には許諾を得なくてはいけません。当館では視覚障害者とその他の読書障害者に録音図書が提供できるよう著作権者に許諾を得ています。

*4  視覚障害者である私の主な仕事は録音図書の製作に関することです。たとえば、複数の読み方のある漢字のどの読みがもっとも適切であるかを私が最終的に決定します。テキストの中の図表やグラフ、写真・イラストといった視覚表現を耳から聞いてわかるように文章化します。その他、視覚障害のある人へのサービス全般についてコーディネートを行います。
聴覚障害のある職員の主な仕事は映像資料の購入や製作に関することです。当館には数人の字幕挿入のための協力者が登録しています。聴覚障害のある職員が彼らにパソコンやソフトの使い方を指導します。その他、聴覚障害のある人へのサービス全般についてコーディネートを行います。

*5 公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)
http://homepage2.nifty.com/at-htri/nag-index.htm

以上、本文と注の中の数字はすべて2009年4月1日現在のものです


原文はこちらに掲載されている。

P3 IFLA 2009
http://oud.debibliotheken.nl/content.jsp?objectid=21907

Day 2: Public libraries
http://oud.debibliotheken.nl/content.jsp?objectid=21964

Atsushi Hattori
Atrsushi hattori 2 A local public library in Hirakata near Osaka, by Atsushi Hattori (Japan)

The services for the blind and print disabled people in Hirakata City Library (Osaka), paper (pdf)
http://oud.debibliotheken.nl/content.jsp?objectid=24005

Presentation (pdf)
http://oud.debibliotheken.nl/content.jsp?objectid=24140