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IFLA/UNESCO多文化図書館宣言
多文化図書館-対話による文化的に多様な社会への懸け橋

翻訳/日本図書館協会多文化サービス委員会

 世界には6,000以上もの異なる言語が存在し、私たちは皆、ますます多様化する社会に生きている。国際的な人口移動率は年毎に上昇し、複合したアイデンティティを持つ人々が増大する結果をもたらすことになった。グローバリゼーション、移住の増加、高速化した通信、簡便な輸送手段などの21世紀のパワーは、多くの国――文化的多様性がこれまで存在しなかった国もあれば、既存の多文化性を増してきている国もある――で文化的多様性を増大させている。
 「文化的多様性」あるいは「多文化主義」は、異なる文化の共生と交流に関わるものである。「文化とは、特定の社会または社会集団に特有の、精神的、物質的、知的、感情的特徴をあわせたものであり、また、文化とは、芸術・文学だけではなく、生活様式、共生の方法、価値観、伝統及び信仰も含むものである。」 1) 文化的多様性あるいは多文化主義は、地域社会およびグローバル社会における総合力の基盤である。
 文化的・言語的多様性は、人類共通の遺産であり、全人類の利益のために大切に保存しなければならない。それは、相互の交流、革新、創造、平和的共存の源である。「国際平和と安全保障実現のための最善策は、相互信頼と理解に基づいた文化的多様性、寛容、対話、協力の尊重である。」 2) 従って、館種に関係なく図書館は、国際レベル、国レベル、地域レベルで、文化的・言語的多様性を反映させ、それを援助し、促進するとともに、クロスカルチュラルな対話と積極的な社会参加のために努めるべきである。  図書館は、さまざまな関心事と多様なコミュニティのために奉仕する機関であり、学習センター、文化センター、情報センターとしての役割を果たしている。文化的・言語的多様性に取り組む際には、文化的アイデンティティと文化の価値を尊重しつつ、基本的自由の原則、すべての人が情報や知識に公平にアクセスできるという原則を守ることが、図書館サービスの基本である。

原則

 グローバル社会では一人一人が、すべての図書館・情報サービスを受ける権利を持っている。文化的・言語的多様性に取り組むにあたって、図書館がすべきことは以下のとおりである。

  • その人が受け継いだ文化や言語よって差別することなく、コミュニティの全構成員にサービスする。
  • 利用者にとって適切な言語と文字で情報を提供する。
  • 全てのコミュニティとあらゆるニーズを反映した、幅広い資料やサービスを利用する手段を提供する。
  • コミュニティの多様性を反映した職員を採用し、協力して多様なコミュニティにサービスできるよう訓練を施す。

 文化的・言語的に多様な状況下での図書館・情報サービスには、あらゆる種類の図書館利用者に対するサービスの提供と、これまで十分なサービスを受けてこなかった文化的・言語的集団を特に対象とした図書館サービスの提供という両面がある。文化的に多様な社会の中で多くの場合取り残される集団、すなわち、マイノリティ、保護を求める人、難民、短期滞在許可資格の住民、移住労働者、先住民コミュニティに対しては特別な配慮が必要である。

多文化サービスの使命

 文化的に多様な社会では、情報・識字・教育・文化に関連した以下の使命に重点を置くものとする。

  • 文化の多様性に価値があるという認識を促し、文化的な対話を育む。
  • 言語の多様性と母語の尊重を奨励する。
  • 幼いころから複数の言語を学習することを含め、複数言語の共生を促進する。
  • 言語的・文化的遺産を守り、それらの言語での表現、創造、普及を援助する。
  • 口承および無形文化遺産の保護を支援する。
  • 多様な文化的背景を持つ人々および集団の包摂と社会参加を支援する。
  • デジタル時代における情報リテラシーと情報通信技術の修得を奨励する。
  • サイバースペースでの言語の多様性を促進する。
  • 誰でもサイバースペースが利用できるユニバーサル・アクセスを奨励する。
  • 文化的多元主義に関する知識と最良の実践例(ベストプラクティス)の情報交換を支援する。

管理と運営

 多文化図書館がすべての館種の図書館に期待するのは、サービス全体の総合的な取り組みである。文化的・言語的に多様なコミュニティのために行う図書館・情報サービス活動は、「別個のもの」とか「付け足し」ではなく中心となるものであり、また、常にその地域のニーズあるいは特定のニーズを満たすように計画を立てるべきである。
 図書館は、文化の多様性に関連した使命・目的・優先順位・サービスを明記した政策および戦略計画を、利用者ニーズの総合的分析と十分な資源に基づいて立案することが求められる。
 図書館は、単独で活動を展開するのではなく、地域レベル、国レベル、国際レベルで、関連する利用者集団および専門家との協力を促進するべきである。

中心的活動

 多文化図書館が行うべき活動は以下のとおりである。

  • デジタル資源およびマルチメディア資源を含む、多文化・多言語のコレクションとサービスを提供する。
  • 口承文化遺産、先住民文化遺産、無形文化遺産に特に配慮して、文化的な表現と文化遺産を保存するための資源を配分する。
  • 利用者教育、情報リテラシー、ニューカマーのための情報資源、文化遺産、クロスカルチュラルな対話を支援するプログラムなどを、図書館に不可欠のサービスとして組み込む。
  • 情報の組織化とアクセス・システムを通して、利用者が適切な言語で図書館資源を利用できるように準備する。
  • 多様な集団を図書館に引き付けるために、マーケティングと適切な媒体に適切な言語で書かれたアウトリーチ資料を開発する。

職員

 図書館職員は、利用者と情報資源の積極的な仲介者である。職員に対して、多文化コミュニティへのサービス、クロスカルチュラルなコミュニケーションと文化に対する感受性、反差別、文化と言語を中心に、専門家教育と継続的な訓練を実施することが求められる。
 多文化図書館の職員構成は、コミュニティの文化的・言語的特徴を反映していなければならない。それは、文化を意識させ、図書館がサービスするコミュニティを反映し、コミュニケーションを促進することになる。

財政・法令・ネットワーク

 文化的に多様なコミュニティに図書館・情報サービスを無料で提供するために、政府と他の関係する政策決定機関は、図書館や図書館システムを確立し、十分な財政措置を行うことが求められる。
 多文化図書館のサービスは本質的にグローバルである。この分野の活動に関わるすべての図書館は、政策を展開する際、地域ネットワーク、全国ネットワーク、国際ネットワークに参加しなければならない。十分な情報に基づいてサービス方針を決定し、適切な財源を確保するには、基になるデータを得るための調査が必要である。調査結果および最良の実践例(ベストプラクティス)は、効果的な多文化図書館サービスの指針とするために、広く普及させることが重要である。

宣言の履行

 国際社会は、図書館・情報サービスが、文化的・言語的多様性を促進し、維持する役割を担っていることを認識し、支援するべきである。
 世界中のあらゆるレベルの政策決定者ならびに図書館界は、本宣言を普及し、ここに示された原則と行動を履行することが求められる。
 本宣言は、IFLA/UNESCO公共図書館宣言、IFLA/UNESCO学校図書館宣言、IFLAインターネット宣言を補完するものである。

1) UNESCO Universal Declaration on Cultural Diversity, 2001.(「文化的多様性に関する世界宣言(仮訳)」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/019/04120201/001/008.htm(参照 2012-02-19)

2) 同上

(文責・平田泰子:自由が丘産能短期大学)

[NDC9:015 BSH:多文化サービス]


この記事は、IFLA/UNESCO多文化図書館宣言:多文化図書館-対話による文化的に多様な社会への懸け橋.日本図書館協会多文化サービス委員会訳,平田泰子文責.図書館雑誌.Vol.106,No.3,2012.3,p.178-180.より転載させていただきました。

原文の IFLA/UNESCO Multicultural Library Manifesto : The Multicultural Library -- a gateway to a cultural diverse society in dialogue は、IFLAのサイト(IFLANET)に19言語で掲載されています。

2012年3月29日現在、IFLAのサイトに掲載されている日本語訳は旧版で、『図書館雑誌』に掲載された新しい版が今後正版となります。

"IFLA/UNESCO Multicultural Library Manifesto : The Multicultural Library -- a gateway to a cultural diverse society in dialogue". IFLANET. 2012-03-07.
http://www.ifla.org/publications/iflaunesco-multicultural-library-manifesto (accessed 2012-03-29).

なお、『図書館雑誌』2012年3月号には、平田泰子氏による「IFLA/UNESCO多文化図書館宣言・解説」も掲載されています。

IFLA多文化社会図書館サービス分科会についての情報は、日本図書館協会多文化サービス委員会のサイトに詳しいです。
http://www.jla.or.jp/committees/tabunka/tabid/202/Default.aspx